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国務大臣(
小坂善太郎君) 非常に根本的な重要な点にお触れに
なつていらつしやるので、私としてできる限りの、知
つておりますことを申上げて御参考になればと思
つております。
大体終戦以来、労働問題というものは
労使間だけで解決されればいいのだというような気分もございました。
労働者が憲法にある健康で文化的な生活を営む権利がある。それをやるには
賃金をこれだけ寄越せというような要求をいたしまして、
経営者側はそれに力関係で応じて、会社の
支払能力というものも、インフレ時代でございますと、非常に
資本の食いつぶしをや
つても或る程度払う。そのうちに
労働者の要求が理論生計費、マーケット・バスケツト方式というようなことを言
つております。その、妥結点を見ますと、組合側の要求というものとほど遠い結果と
なつております。
経営者側も全然払えないと言
つているが相当
払つているというようなことで、労賃はもう少しやはり日本経済と密著したものとして、日本経済の根本的な問題として
賃金問題を、
労使間なければならんという考え方で、私どもは
国民経済自立との関連において
賃金のあり方、労働問題のあり方を見ようということを申している次第であります。
その点から申しまして、先ず
国民所得との割合で見てみますと、戦前基準年次におきまして三八%程度のものを勤労所得というものの中で占めておつたのであります。昨年の幕には四八・二%ということに
なつておりまして、非常に殖えております。これを米英その他の国に比較いたしますと、イギリスが六七、アメリカが六五程度でございますが、イギリスの場合は勤労所得によりまして生計を営みます者が九二%かと思います。アメリカの場合は八一%、日本の場合は農業或いは中小企業というものは個人業種所得というように分類されておりますが、雇用所得、即ち勤労所得で生計を営む者が三六%程度あります。三六%というと
国民所得の半分を占めておるということでございます。大体勤労所得の府
国民総数に占める割合というものはそう変
つておらないので、非常に経済構造そのものから見まして、雇用所得に占める割合というものは大きく
なつて来ている。これが限界ではないかという感じがいたしておるわけであります。ただここに議論がありまして、税金の面が相当殖えておるのではないか、或いは社会保障による割戻しが英米その他と違うのではないか、だから名目的に
賃金だけを取
つてみて、直ちにそういう結論を出すのは早計であるというような御議論があるのであります。
そこで念のために税金の面で見てみますと、これは大蔵省の調査でございまするが、国税、地方税総計いたしまして、
国民所得の中におきまする税負担の割合というものをみてみますと、日本の場合二一・九%でございます。アメリカが二九・二%、イギリスでは三九・三%でございます。フランス等はこれは国税だけを見ましても、地方税のほうはよくつかまえられませんので、国税だけ見てみますと、フランスで二二・七%、ドイツで二二・五%ということに
なつております。フランス、ドイツの国税だけでも、日本の国税、地方税を足したものよりもその割合は大きく
なつております。そこでイギリスは非常に社会保障が盛んである、だから割戻しがあるということでありますけれども、税負担においてもイギリスはよほど日本よりも多いのでございますから、利税負担を引き、社会保障で割戻されるものを勘案いたしてみましても、やはりそう大した狂いが出て来ない。従
つて相当に日本の
賃金というものは割高に
なつておる。これを名目
賃金を殖すということは、今後に行きますと月本経済に対して非常に大きな障害になるのではないか。やはり
賃金の実質的なものを殖す、物価を上げない、輸出を増強して雇用量の拡大を図り、そうして
実態的な
賃金というものの打つ意義を高めるというように、今後の労働問題というものは向わなければいかんというように考えておるのであります。
現在日本の
賃金というものが非常に低いということも費えます。それはそういうことが出ますのでありますが、食糧別
賃金で見てみますると、一時間当り
賃金で買える食糧などはどういうことになるかというと、
給与額の食糧品購買力を指数化したもので見てみますと、日本の場合二八ということに
なつております。この二八という数字はイタリーよりはいいのでありますが、フランス、西ドイツよりは悪い、西ドイツあたりは四三に
なつております。そこでアメリカなどはこれはずつと多くて、日本が二八とすると一〇〇であるというような数字が出ておるわけであります。こういうような日本の三倍をアメリカあたりは取
つておるということに
なつておりますので、この面においては確かに日本の
賃金はアメリカには劣るということが買い得るのでありますが、国力、又アメリカに比較にならんほど劣るのでありまして、結局この
賃金だけを免ずに、国力全体を高める、労働で申しますれば、労働の生産性を高めるという
方向を指向しなければいかんというふうに私どもは考えておりますのであります、現に労働の生産性で見てみますると、やはり大体銑鉄等の生産性で見ましても、七分の一程度でございまして、まだまだ日本の労働力の生産性を高めるという
方向においては残されておる面が非常に多いと考えております。これを要するに名目的な
賃金増加ということで
労使が争うということよりは、やはり今後の問題としては、如何にすれば生産性を上げ得るか、そうしてその基盤として
労使協力をして行くにはどうしたらいいかという
方向を考えなければならんというふうに考えておる次第であります。