○伊能芳雄君 私は自由党を代表いたしまして、
只今議題とな
つております
警察法案並びに
警察法の
施行に伴う
関係法令の
整理に関する
法律案に関し、
衆議院送付案に
賛成の
意見を表明したいと存じます。
現在の
警察法は、周知のごとく、占領下の初期において連合国の日本占領政策の一環として制定されたものであります。これら一連の占領政策は、日本における民主主義の育成と強化に最大の重点をおいて行われたものであり、それは我が国の戦前におけるフアツシヨと全体主義に対する当然の反省であり、又その再現を防ぐ
趣旨でもあ
つて、我々
国民といたしましても、誤ま
つた戦争を遂行した
経過を顧みて、深く自己批判をしてお
つた場合であ
つたのであります。我々は占領政策に盛られたこの民主主義の
精神を更に育成強化しなければならないことは言うを待ちません。およそ民主主義は、その原理においてこそ不動のものでありますが、これが諸
制度として具体化されるとき、その国の歴史的、文化的、社会的、経済的の諸条件と、又、多分に
国民性を
基盤とすることは言うまでもない
ところでありまして、それぞれの国にそれぞれ特有の民主主義的な
制度が育
つていることは、民主主義の諸先進国に見る
通りであります。この歴史的、文化的、社会的、経済的諸条件乃至
国民性を無視した観念的な民主主審
制度は到底あり得ないのであります。即ち我が国情に即し我が
国民性に適した特有な民主主義の
制度が樹立さるべきであり、それは、我が国における過去の民主主義発展の過程、我が国の文化的、経済的、社会的諸条件を別にしては、到底考えることができないのであります。然るに占領政策においては、曾
つて育
つたことのある我が国の民主主義の歴史を忘れたのか、或いは故意にか、極めてプリミティブな民主主義が、更には又富裕国にのみ適用し得るような極めてエキスペンシブな民主主義が、我が国情と我が
国民性を無視して強行されて来た事実は、これを我々は見逃すことができないのであります。
ここに我々は、占領政策によ
つて強行された日本民主化の諸
制度について真剣に検討を加え、過去における我が国の民主主義の歴史を深く批判し、フアッシヨに至
つた跡を反省し、真に我が国情に合致する民主主義を自分のものとして身につけ、育てなければならん
段階に到達していることを痛感するものであります。我が自由党が夙に占領行政の是正を力強く叫び、実行に移そうとしているゆえんは、全くここにあるのでありまして、私はこの見地に立
つて本
法案を検討してみたいと思うのであります。
戦前の我が国の
警察制度は、徳川時代の封建
制度を脱却して、統一国家への移行と共に、あらゆる他の
制度と共に、統一国家への傾向の強い先進国、仏、独の
制度を模範として取入れた国家
警察であ
つたのであります。而してその統一性と能率主義の点から見れば万国無比な
警察を樹立したことは、万人のひとしく認める
ところであります。併しながら余りにも能率主義に偏したために、極端なる独善に陥り、フアツシヨの傾向が抬頭するに及んで、遂に軍閥に利用さるるに至り、
国民をして窒息せしむるに至
つたのであります。現在の民主主義
警察制度は、これに対する大きな反省と共に、連合軍の指導によ
つて作られたものであります。即ちこの
制度は、我が国に、先ほど申しましたように、曾
つて民主主義の行われたことを強いて忘れて、民主主義のイロハから手ほどきをやるつもりであ
つたか、或いは故意に
警察力を分散してこれを弱化するつもりであ
つたか、アメリカの開拓地に個々ばらばらに育
つた自主的な
警察制度、或いはイギリスの自由市に自然発生的に生れた
警察制度、——これらはすでに両国共に、近代的統一国家の完成と共に、これに即応した有機的
警察制度にとつくの昔に改編されておるのでありますが——、この程度の極端なプリミティブな民主主義
警察を、我が国情を全く無視して強行したものであり、近代的統一国家の
制度としては、すでに極めて陳腐化した、時代もの化したものでありまして、見方によ
つては最も封建的なものともいうことができるのであります。即ち、現在の
警察法においては、今日の統一国家になければならぬ
警察の有機性、統一性、国家性を全く無視しており、
制度的に見れば、個々ばらばらの
警察であり、今日の時代における有機的な事象、特に
全国的な治安問題等には到底対応できない時代遅れの
制度であり、そこに大きな欠陥が見出されて来たのは当然の帰結であります。事実、その
運営の点より見ましても幾多の欠陥を包蔵しておりまして、その弊害は、近来漸次濃化する傾向にありますことは、
国民のひとしく認むる
ところでありまして、
警察制度の改正は、すでに
国民の世論とな
つて来たのであります。この
段階に至
つて、なお現
制度を固守せんとする人々の愚はむしろ滑稽ともいうべきであります。
世論は
警察制度の改正を求めております。そうして現在求められておる
警察制度は、国家的有機性と能率主義の長所を復活すると共に、戦後我が
警察に取入れ、育てて来た民主主義的美点を十分に活かし、併せて、我が国の貧弱な国力、殊に経済財政の実情に応じた
経費のかからない
警察制度でなければなりません。およそ
警察は、十分に能率的で、
国民の生命、財産、身体の保護、犯罪の鎮圧、捜査その他社会の
秩序の維持に十分に役立つものでなければなりません。観念的にして素朴な民主主義の理論に
従つて警察を分権化して、
警察力を徒らに分散し弱化して
警察の民主化成れりとするがごときは、
警察本来の使命を忘れたものと言わなければなりません。(
拍手)
警察は絶対に民主主義の飾りものではありません。又近代的統一国家における
警察においては、国内治安維持こそ最高の
国家的要請であり、その
責任が
政府にあることは極めて自明のことに属し、これを
明確化しておくことは絶対に必要であります。(
拍手)このことは、近代的民主主義国家において要請せられているかの
責任内閣制の原則から考えて、極めて当然のことであり、これこそ
警察制度の一大眼目と言
つても過言ではありません。(
拍手)併しながら一面過去における我が
警察の
運営の跡を顧みるとき、
警察の民主的
運営が十分に
保障されるような
組織でなければならんことも又当然で、六年に亘り
運営されて来た現在の
警察制度におけるこの面における
運営の仕方は極力保持しなければならん
ところであります。即ち
警察が時の
政府や一部勢力者のために利用されるような
組織であ
つてはならず、又その
運営が独善的に行われるようなことなく、住民に親しまれ、且つ愛される
警察でなければならないのであります。
警察の仕事が常に中正に
国民監視の下に
運営される
保障がなければならず、往年の
政党警察、権力
警察の弊を繰返す愚は、厳にこれを戒めなければならん
ところであります。
なお我が
警察制度については、他の民主主義諸
制度と同様に、できるだけ
経費のかからない
制度とすることが、我が国の貧弱な
国民経済の要請でもあることを特に附加えなければなりません。我が国の
国民経済の現状において、富裕国に育
つた民主主義
警察のあり方をそのまま我が国に植え付けて、能率の上らない無駄の多い
警察をや
つて行くほどの余裕はあるはずがありません。併しながら我が国の
警察制度についての以上の要請、なかなか両立しにくい要素を内蔵していることも又事実であります。即ち能率的なことと民主的なこと、又
警察責任の
明確化と
警察の
中立性の維持というこれらの要素は、これを
警察の
組織として見るならば、前者に重きを置くと、後者の
保障が薄くなり、後者を重視すると、前者が軽くなる結果となるのであ
つて、これらの相反撥する要素を最も適当な
ところにおいて調和点を見出そうとする努力が続けられて来たと思うのであります。
今回
衆議院より送付された
警察法案は、これを如上の諸点より見るとき、以上の要請を比較的よく満たし、これを適当なる
ところに調和し得た
制度と言うべきであると信ずるものであります。即ち今回の
警察法案が、
国家地方警察と
全国四百有余の
市町村自治体警察とを廃止して、これを
都道府県警察に一元化し、簡素化したことによ
つて、
警察事務が
能率化すると共に、
経費の節減に大なる効果をもたらすことについては、これ、何人といえ
ども疑いを差挾む
余地はございません。又
警察行政の要請である
治安責任が
明確化されるものでなければならんことについては、これ又言うを要しませんが、このことについて、
国家公安委員長は
国務大臣を以て充てることによ
つて、これを十分に果たしており、又
警察の
中立性維持については、国及び
都道府県における
公安委員会制度の
運営によ
つてこれを果たそうとしておるのであります。
今回の
法案に対する非難の一つは、この
法案において
警察の民主性が侵される虞れがないかという点でありまするが、前述の
通り、民主性と能率性、
中立性と
責任の
明確化と、それぞれ相対立する要素を
制度の上において如何に調和すべきかは極めて困難な問題であり、又
意見の分るる
ところでありますので、我々はこの
法案に対する批判につきましても、輿論に聞いて検討したのでありますが、その多くは十分なる
理由に乏しく、或いは誤解であり、又ためにする議論であると言わざるを得ないのでありまして、要は、今後の
公安委員会制度の
運営如何にかか
つておると申すべきであります。非難の
二つは、
国家公安委員長を
国務大臣にしたことによ
つて中立性を害するというのでありますが、前に述べたように、国の行政全般に
責任を持つ
政府の意図を治安行政の面に反映し、一般の行政と
警察行政との連絡のとれた、調整のとれた
制度として
運営されることを目途としたもので、この
委員会制により
警察の
中立性を維持しつつ、治安についての国の
責任を明確にすることが可能とされておるのであります。即ち国の治安についての
政府の
責任と
警察行政についての
中立性の確保という
二つの要請を満たして巧みにこれを調和し得たものというべきであります。現行
制度のごとく、
内閣と
公安委員会とを分断しなければ、
警察の
中立性を維持し得ないと論ずる者は、
政党政治の原則に基き
責任内閣制をと
つている今日、その人みずからが
政党内閣制、
責任内閣政治についての主張を否認したものというべきであります。(
拍手)又
地方自治の観点からいうならば、近代的統一国家においては、
中央を無視して
地方なく、
地方を無視して
中央なく、
中央集権と
地方分権を適度に調整した
制度こそ理想的な民主主義の
制度というべきであります。極端な分権制は往昔の領主
政治、封建制に通ずるものであり、特にその
事務自体において、国家的
性格と
地方的
性格とを兼ね具えた
警察事務の
性格、そして狭小な国土に多数の人口を擁する我が国の実情から見て、本案における
府県警察は、自治体たる
府県を単位としたもので、
警察の広域性から見て極めて適切であり、又これに自治体としての自主性を認めつつ、適度の国家性、有機性を与え、近代国家における
警察としての有機性を保たしめようとするものであり、この上より見るも、
民主警察の理念は十分維持されており、
府県の自治は十分尊重せられていることを看取できるのであります。
以上述べるごとく、この
法案は、
警察の要請する数々の相反撥する要請を誠に巧みに調和し、近代民主主義国家における
警察として、特に我が国の歴史と社会情勢に適応した
警察の
組織を作るものであり、本
法案に対する非難のごときはことごとくいわれないものと言うべきであります。
我々は、我が国における治安を維持し、
国民を暴力より守り、民主主義の繁栄を期待するが故に、本
法案の成立を切に希望するものであります。
以上を以て私の
賛成討論を終りたいと存じます。(
拍手)
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