○東隆君 私は
日本社会党左右両派を
代表して、上程されている
協同組合による
金融事業に関する
法律等の一部を改正する
法律案に対する
只今の
委員長報告に反対の意を表すると共に、
衆議院より回付の原案に賛成をするものであります。
半生を
協同組合関係の仕事に携わ
つて来た私は、本法案の運命について至大の関心を持つものであります。事案は極めて簡単なものであります。即ち、
中小企業者等の
協同組合法で設立されている信用組合或いは信用
協同組合が、員外の預貯金の受入れができるようにするための法律改正案なのであります。同僚議員各位に、先ず聞いて頂きたいことがあります。それは
昭和二十六年六月十五日に信用金庫法が公布になるまでは、信用
協同組合は員外の預貯金の受入れは認められていたことであります。それが羽が生え、信用金庫という蝶々に
なつたとき、毛虫に相当する信用
協同組合は、みずからの成長のために食糧をとる口を封ぜられたのであります。羽化登仙して蝶々になるために、大蔵省の銀行局長は、脱皮して蝶々になればいいではないかと申します。併し蝶々になるには、東京都や人口五十万以上の都市では出資額一千万円以上、その他の場合は五百万円以上の出資を持たねば信用金庫にはなれないのであります。豪華な蝶々になるためには、その前身である毛虫は、折角食糧を口に入れなければならんことは、小学校の生徒でも知
つておることであります。その小学校の生徒ですら知
つていなければならんことを無視して、法律の改正をあえてして
協同組合拡充のための口を封じた理由は一体どこにあるか。これ金融の総本山とも言うべき大蔵省の、特に銀行局の諸君が、
協同組合という協同組織に対する理解がないからであります。株式会社組織の銀行、営利を目的にしている株式会社の銀行と、協同組織である信用
協同組合、営利を目的としない協同組織の信用
協同組合とを、同じカテゴリーの
金融機関と見る大蔵省約偏見が、かくのごとき片手落の
措置を講じたものであると断ぜざるを得ません。私は信用金庫が協同組織であることを疑うものではありません。併し今日の信用金庫と曾
つての信用組合の間には、協同組織が当然かもし出すところの雰囲気に大きな相違があります。
中小企業者等の
協同組合法、市街地信用組合法、更に
産業組合法と歴史を遡るにつれて、その感を深くするでありましよう。信用金庫が協同組織に無理解な大蔵省の専管になるに及んで、
協同組合というよりも銀行という感じを深くしておることは、私のみではなく、信用金庫直接の当事者も同感の意を表するところであります。私は協同組織としての今日の信用金庫の隆々たる発展に意を強くするものでありますが、この銀行色を次第に濃化して行く蝶々の羽色には、協同社会主義者として一抹の不安を感ずるものであります。
同僚議員各位、私のこの一抹の不安は、私を駆
つて今日の中小商工業者に思いを馳せさせます。全国の都市、工場、鉱山に生業を励んでおるおびただしい
人々を思い出させます。今日のこれらの
人々が望んでいるものは、資本と言わんよりはささやかな金融であります。併しその金融は銀行が与えるでありましようか。相互銀行が手を伸べるでありましようか。大蔵省専管の協同組織の信用金庫が口をきくでありましようか。私はここに思いを馳せたとき、
協同組合による組織のみがこれらのおびただしい
人々に活路を与えるものであると確信をするものであります。
同僚議員各位、諸君も御
承知のように、我が国に
協同組合関係の法律が布かれてから、半世紀を超えています。農山漁村における協同組織は、或る程度見るべきものがあります。併しこの農山漁村を除いた地帯、即ち都市、工場、鉱山等における協同組織は、極めて微々たるものがあります。
中小企業者等の
協同組合は、全国といたしますと万を以て数えるでありましよう。併しこれらの組織は、お座なりのものが多いし、歴史も極めて浅いのであります。金融の面における協同組織は、古い歴史を持
つていた信用組合が、信用金庫にな
つてしま
つたのでありますから、まさに蝉の脱けがら同然であります。従
つて信用
協同組合は、協同組織としては信用金庫になり得ない職域を中心とするもの、或いは小地域のもののみが残
つているのであります。而もての地域は多年協同組織とはおよそ逆の方向に進んでいた、いわゆる反産運動のお先棒を担いだところであります。協同組織をはぐくむための土地としては、大掛かりの土地改良や肥料を施さねばならんところなのであります。
中小企業者等の
協同組合法によ
つてたくさんの
協同組合ができている。併しこれらの
協同組合を
金融面からする協同組織によるバツク・アツプの途は、何ら講ぜられていないのであります。貨幣
経済の行われている時代に、金融の面を分離した協同組織のなし得る分野は、おのずから限定されるものがあることは明らかであります。従
つて今日の
中小企業者の唯一の活路が協同組織にあるとするならば、その組織を
金融面において裏打ちする信用
協同組合の組織を強化する以外に方途はないはずであります。都市、工場、鉱山の地帯は、協同組織をはぐくむための土地としては荒野である。砂漠である。そこに協同組織の種を蒔くものは、よほどの困難と闘わなければならないのであります。
或る市街地に、ささやかな信用
協同組合が同志の手によ
つて生れた。その組合区域の人は信用
協同組合の何たるかを解しない。それのみではない。協同組織ならざる
金融機関の廻し者は逆宣伝をする。このような環境にあ
つて、信用
協同組合の組織を発展せしむるの方途は如何。その区域内の逆宣伝をする者は別として、何たるかを解しない
人々の信用
協同組合に対する理解を進めるよりほかに手はないはずであります。この理解を進める最も恰好な
方法手段は、組合が先ずその人の預金を預かることである。そして協同組織のうま味をこのことを通して知らしめることである。協同組織のうま味を感じた者が出資を持ち、正式の組合員となるという段階が、最も自然な
協同組合という、強制加入でない任意加入の協同組織を強化する唯一とも言うべき方途なのであります。信用
協同組合という種が、余りよくない土地に播かれたときに、意地の悪い烏のやつが来て、種をついばんで飛んで行
つてしま
つたのであります。この際、烏が何者であるかは、賢明なる議員各位の御了解のつくことと思います。
本法案は、昨年の七月三十日、第十六国会において
衆議院大蔵
委員会において可決され、八月四日には
衆議院本
会議において可決、同日我が参議院に回付され、大蔵
委員会に付議されたのであります。八月七日、本法案はこの議場で継続審議と決定いたしました。爾来第十七、第十八両国会とも継続と決定され、第十九国会の会期末の今日に至るまで放置されたのがこの法案なのであります。我が大蔵
委員会における与党たる自由党の諸君と、是々非々の緑風会の諸賢は、本法案の審議に熱意を持たず、
衆議院の意思を川に流そうと
考えられたようであります。我々社会党両派の委員は本法案の審議を進めることを要請し、審議を遂げました。併し
委員長報告のごとく、法案は
委員会では否決の運命に立ち至りました。ここに私はあえてこの段階に立
つて、諸君に、特に自由党、緑風会の諸君に物申すものであります。諸君よ、まじめな
中小企業者の蒔いた協同組織の種を、意地悪な鳥にな
つてほじくることなかれ。即ち
委員長報告に反対せられることによ
つて、原案支持の表明をせられんことを期待いたして、討論を終ります。(
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