○小林亦治君
只今上程せられました懲戒処分の適正励行に関する
決議案の
提案理由を説明いたします。
先ず最初に案文を
朗読いたします。
懲戒処分の適正励行に関する決議
内閣提出の決算検査
報告によれば、公務員による不当
行為は累年激増し、官紀の弛緩これより甚しきはなく、
国家のため憂慮に耐えない。
然るに他面これらの不当
行為者に対する処分は緩慢にして、却
つて成規の処罰を回避している観が強い。即ち特に刑事
事件に関しない限り、その制裁は単に「注意」又は「訓告」の程度に留まるのを常とし、
法律上の懲戒処分は殆んど行われず、
国家公務員法第八十二条は空文化している現状である。
かくの如き微温的
態度は、不当
行為の防止上何等の効果なく、却
つて法律軽視の気風を醸成するに過ぎず、懲戒制度の目的を甚しく滅却するものといわなければならない。
内閣は、かくの如き弊風を一掃するため、懲戒処分を厳正に励行し一罰百戒の実を挙げ、も
つて吏道の刷新に努むべきである。
右決議する。
次に、
決議案の
趣旨弁明をいたします。
毎年、
内閣から
国会に
提出する決算
報告には、会計検査院の検査
報告を添付することにな
つておりますが、その中に指摘されておる不当事項は、左の
通り年々甚だしい増加を示しております。即ち
昭和二十二年度三百八十六件、二十三年度六百二十三件、二十四年度七百五十件、二十五年度千百十三件、二十六年度千百九十八件、二十七年度には千八百十三件という実に驚くべき状況にあります。而もこれらの中には、形式上は一件でありましても、「何々外何カ所」というがごとき記載方法のとられている場合も少くありませんから、実際の件数は、これよりも遙かに多いと見るのが、殆んど疑いを容れないところであります。又、会計検査院が実際に検査を行います個所は、中央官庁ならば毎年検査しますが、地方の出先機関であれば、三年に一回程度であり、土木工事の現場などは、ほんの何分の一という程度の、僅かな個所を実地検査するに過ぎないのでございます。検査院の俎上に上らない隠れたる不当
行為が、このほかなお多数に及ぶであろうことは、これは又容易に見通さるるところであります。
尤も、これらの案件がことごとく本質的に悪事という
意味ではありません。例えば一度に多量の品物を買入れたが、次の年度には、それが適当に使用されておるというがごときは、計画上の不注意とか、事務処理の不適正とかいう点では批難はせられましようが、本質的に悪事を働いたわけではありません。併しながらこのような案件も、用度経理の上から、或いは受注納入先との
関係から、往々にして弊害の起りやすい事柄に鑑みまして、大いに
反省の要ありと痛感せられるのは当然であります。
なお、会計検査院の検査能力が、量的にも、質的にも近年次第に強化されて来たがために、摘発されるところの不当事実も
従つて多くな
つて来たということも疑いなきところであります。併しながら、これらすべての点を考慮に入れましても、とにかく会計事務に
関係する公務員の不当
行為が余りにも多い、摘発される件数が年々増加しておるというこの点は、客観的に統計数字の上に明瞭な事実であります。この悲しむべき
事態を改革するためには、即ち、かかる不当
行為に対する防止対策としては、公務員の行政上の
責任の追及、即ち懲戒処分の厳正なる励行が、この際最も必要であると思うのであります。
当委員会は、
昭和二十一年度の決算
審査報告以来、連年に亘
つて繰返してこれを
政府に警告して参
つたが、いつも
政府は馬耳東風、糠に釘、(笑声、
拍手)いささかも改善の実が現れておりません。仏の顔も三度という言葉があります。すでにそれが五回に亘
つて警告を発しているのに何の反響もない。これはこの問題は申さば、最も古き問題であると同時に、又最も新らしい問題であります。当委員会にとりましては、超党派的に何としてもこれだけは貫徹しなければならないところの、全員、党派を超えた強い
要求であるということを、この際、今度だけは、必ず
政府は銘記して頂かなければならんのであります。
以て
政府全体に官紀の弛緩を大いに引き締めなければならない。即ち成規の処分である
国家公務員法第八十二条の解釈を厳にし、その処罰を励行しなければなりません。現在のように下僚に対する処分を、成規の
法律によることなく、法の認めざるところの単なる「注意」、或いは「訓告」などのごとき、平素の監督上当然の
処置を以て、一個の処分であるがごとく見せしむるがごときは、もはや今日の
国民の納得しあたわざるところであります。およそ、行政官の懲戒処分については、右の
国家公務員法があり、特に会計職員に対しては、会計検査院法及び予算執行職員等の
責任に関する
法律にも規定がありますが、いずれもこれは今日空文に等しいところの存在となり、殆んど励行せられておらないというのが、今日の実情であります。
その実情を申上げますと、決算検査
報告に掲げられている多数の不当
行為の中には、その
事態の随分重いものがありますが、それに対する制裁は、よほど重いときに「訓告」、相当重いときに「厳重注意」という、およそ法に認めないところの私生児的なる言葉を以て、ごまかしているのが今日の現状なんです。(
拍手)「訓告」或いは「厳重注意」などというものは、
法律上の懲戒処分でないということは、前言の
通りであります。懲戒処分に値しない程度の過失があ
つた者に対して、上官がその部下を叱り置くというだけのことであります。「免職」、「停職」、「減給」、「戒告」、これらの四つこそ、
法律上の懲戒であります。然るに我々の常識から判断しまして、「免職」にも値すると思われるような者、即ちその
処置当を得ざりしため、
国家に何千万円或いは何億という損害をこうむらしめたというがごとき、免職でもなお足りないと思われるような者が、ただ単に上官から注意を受けたとか、叱られたというだけで済むということは、それ自体が綱紀の紊乱と申して憚りないと存ずるのであります。(
拍手)なぜに懲戒処分がかくのごとく有名無実のものに
なつたのでありましようか。「懲戒処分は、任命権者が、これを行う」ことにな
つております。上司が部下を裁くのであります。だが実際は、同じ同僚が裁くのであります。そこにはおのずから人情が加わるのが自然かも知れませんが、部下の不当
行為については、監督者たる上司にもその
責任があるのが当然です。部下を制裁すれば、(「問題はそれだ」と呼ぶ者あり)自分も制裁を受けるわけであるから、いわゆる臭い物に蓋の諺
通りになりやすい。つまり部下を庇うと同時に、上司自身の保身のためにお茶を濁して免れるという結果にな
つているのであります。又不当
行為者の
責任を問うに当
つて、その
実行者たる末端の職員の
責任追及に重きをおいて、その上級職員たる監督者及び決定者、これらの
責任追及が軽視されている傾向の強いことも否定し得ない事実であります。(
拍手)その
行為が、実際には上司の
指揮又は
承認の下に行われたものと認められる場合において、換言すれば、上司の
指揮又は
承認なくしては到底行われ得ないはずである場合においても、その上司たる者の
責任追及が不当に軽視されているがごときは本末顛倒であります。断を下す者、決意をなした者が、刑事上ではそれが主犯者です。その決意をなした者が主犯者である。
従つてその決意に
従つて、その命を受けて働いたところの
実行者は、共同正犯か、然らざれば単なる幇助犯に過ぎない。ところが行政上においては、驚くではありませんか。この幇助者であるところの従犯に対する処分が遙かに重く、その決意をなさしめ、その行動を命じたるところの主犯者の罪が軽い、或いは論ぜられずに済んでいる。こういうことが強く指摘せられなければならんのでありまして、時としては一人の犠牲者にすべての
責任を負わせて、その同輩又は上司が
責任を免れ、恬として恥じざるがごとき場合もあると言われております。甚だしきに
至つては、不当
行為者が却
つていい職に栄転の光栄に浴しているというがごとき場合さえも随分あります。免れて恥なさに
至つては、又何をか言わんやであります。更にその者を昇進せしめ、栄転せしむるがごときは、誠に不穏当な百葉かも知れませんが、泥棒に勲章をえたと同じようなものではないか。(
拍手)懲戒処分の程度が各省各庁においても均衡を失
つておるという場合も見出されます。具体的にその一例を挙げますれば、内容が全く同程度のもの、甲乙の差殆んどなきような二つの失態に対して、その監督者が、一方では月給一割一カ月間だけの減俸で済んでおる、このものは。ほかのものは、同じ分量、程度の失態があ
つたにもかかわらず、月給一割の減給が十カ月というような、十倍の差のある事例すらあ
つたのでありまして、これは公平を失するなどという言葉じやない。でたらめも甚だしいと思うのでありまして、なお、月給一割の一カ月間だけの減給などというものは、およそ懲戒ではないので、懲戒と言わんがためには、懲戒をせらるる者が、
精神上或いは財産上少くとも苦痛を感ずるものでなければ懲戒ではない。それをなお制裁と称して名目を以て、これらは実情を糊塗するの実例としては誠に顕著なものと言うべきであります。
法律の上では、法令又は予算違反の場合並びに重大な国損を生じた場合に、会計検査院は「当該職員の任命権者」に対して、その者の懲戒処分を「
要求することができる」、かように規定してありますが、検査院からの
要求は、その実例が殆んどない。いたずらにこの規定が伝家の宝刀として飾られてあるに過ぎない現状に対しても、この際強い
反省が
要求せられるのであります。訓告や厳重注意などの処分は、かかる処分を以てお茶を濁しておる現状に対しては、この際
政府は、抜本的対策を立てなければなりません。言い古されている
通り、国の財政は悉く
国民の血税になるものであることに鑑み、ここに
内閣の猛省を促し、行政各部に対し速かなる訓令を与え、以て綱紀の刷新を図られたい。本件決算
承認に当
つて、各党各派の委員六名がそれぞれ立
つて討論をいたしました。その
賛成であると反対であるとにかかわらず、この六名の決算委員の全く一致しておる点は、懲戒処分をもつと厳正にやれ、
法律が与えておる
通りの懲戒権を
行使せよという、この一点にあ
つたことを考えてみましても、
政府はこの際、本
決議案を尊重し、綱紀粛正のためにも抜本的なる施策を断行せらるるように要望したいのであります。私
ども二十名は、全く超党派を以てここに一丸となり、決議の貫徹を決して、本
昭和二十六年度決算の
審議終了を機会に、本
決議案を
提案した次第であります。
何とぞ満場一致を以て御
賛成あらんことを希望いたします。以上終ります。(
拍手)