○大山郁夫君
議長並びに議場の
皆さん、私は無所属クラブからここに送られて参りまして、我々の審議に委ねられた
決議案に対する
賛成意見を述べようとしているものであります。
只今参議院に議席を持
つておられる各
政党政派の代表者が、皆あの
決議案に
賛成された。あの
決議案に示されていること、即ち
原子兵器の
禁止並びに
原子力の
平和的利用ということを出発点として、
原子力というものを
国際管理に委ねようとしているこの
提案というものが、如何に
日本の
国民の大多数者の意見を反映しているものであるかということを証明しているものと思うのであります。そうして多くの
政党政派の代表
たちが、この
決議案に対して述べられたことには私は皆
賛成しております。すべての論点が言い尽されたようでありますが、併し私はこの
決議案は、如何に今日の
日本の
国民が
原爆の問題、
水爆の問題に関して持
つているその意思というものを、非常にはつきりと代表したものであるかという点に、一言だけ触れさせて頂きたいと思うのであります。私
たちは多年平和運動において大衆に接している。殊に
ビキニのあの
水爆の
実験がありましてからこのかた、殆んど日々のように各種の大衆と接してこの大衆の意思をしつかりと知ることができたのでありますが、今日大衆は、平和問題に対してさまざまの
要求を掲げているが、それらのさまざまの
要求のうちにおいて殊に二つの
要求が非常に顕著に目立
つているということを私は見ます。その
一つの
要求というのは何であるかと言えば、国際間の紛争というものは、
戦争によ
つて解決するのではなくて、平和的な話合いによ
つて解決すべきであるという、こういう考えに基いた
要求であります。他の
一つの
要求は、これはやはりあの
原子兵器の
禁止ということ、即ち
原爆、
水爆、
細菌爆弾であるとかナパーム弾とい
つたような、こういう非常に悪質な、非
人道的な大量殺人
兵器というものの
使用を
禁止しなければならないというこういう
要求、この二つの
要求が大きな響きを以て叫ばれているのでありますが、これらの
要求が、いわゆる
世界平和運動を指導している先覚者
たちの頭の中から割出されたのではなくて、そういうことではなくて諸
国民の
実験の中から生み出された、殊に第一次
世界大戦、格段の、第二次
世界大戦に捲き込まれた諸
国民の非常に悲痛な経験の中から生まれて来た
要求であります。殊に国際紛争というものは、これは話合いによ
つて解決されなければならないという原則が打出されたことに対しては、お隣りの朝鮮の民衆が非常に大きな貢献をした。一九五〇年の六月から七月にかけてあの
国連軍の名を帯びた侵略軍が朝鮮へ行き、そうして朝鮮の民衆をもう一週間、二週間のうちに屈伏せしめるというような意気込を以て、あの朝鮮
戦争は開始せられた。その後無数の朝鮮の民衆が
殺戮されてそうして朝鮮の山河は鮮血に彩られた。併し朝鮮の民策は屈伏しなか
つたのであります。三年間の英雄的な闘争によ
つて彼らは朝鮮というものは決して亡ぼされるものではないということを
世界に教えた。即ち今日のような
世界情勢の下において、一体民族の独立ということに目ざめて闘
つているような
国民というものは、
世界の最大の帝国主義国が用い得るあらゆる武力と軍事力と
兵器を以てしても、これを屈伏せしめることができないということを朝鮮の民衆が教えたのであります。それであのブダペストの
世界平和協議会の総会はこの問題をとり上げて、あの平和を愛する
世界の大衆の
要求として掲げた。それから又
原子兵器の
禁止ということに関係しては、
世界において唯一の
原爆の犠牲者であるところの
日本国民の経験から割出されて、丁度五年前のあの
世界平和協議会のイニシアチーブの下に、ストックホルムのアッピールが出されました。将来の
戦争においてこの
大量殺戮兵器というものを用いることを
禁止しようという案が出されてから、全
世界がこれに呼応している、今日
世界の
要求とな
つている二つの
要求でありますが、併しあの
ビキニの
水爆の
実験がありましてからこのかた、この二つの
要求が
日本国民の頭の中には
一つの
要求にな
つて、つまり合体して
一つのものとな
つて現われるような傾向が、今まざまざと現われているのであります。即ちあの
水爆というものの
破壊力の如何に大きいかということは、ほかの諸君が十分に申し述べた。私
たちが読んだところによると、今日の
水爆の
破壊力というものは、
広島、
長崎で用いられた
原爆の二千六百倍ほどもあるということを聞かされている。或いは又四発あれは
日本の国土を粉砕する力を持
つていると教えられた。最近
アメリカから来た報道を見ると、それどころではない。
原爆というものの
破壊力というものは幾らでも増加することができるものであ
つて、今日の
状態の下においても、二発の
水爆があれば、
日本の国土全体を粉砕することができるというようなことが言われておるので、非常に恐ろしい話がたくさん伝わ
つて来ておるのであります。
これまで再
軍備の議論がこの国会において闘わされた。そうして或る
人たちは再
軍備をすることによ
つていわゆる自衛隊を作ることによ
つて、
日本の民族の生存と独立が守られるというようなことを言われてお
つたのでありますが、併し今日において、ただ四発或いは二発の
水爆によ
つて、その大きな軍事機構を持
つておる
日本を、軍事機構を込めて
日本全体が忽ち粉砕されるというようなことがはつきりされるように
なつたなら、再
軍備なんという問題は全然その姿を変えなければならない。あの再
軍備が
日本の独立を救うものであるというふうに考えてお
つた再
軍備論者の見解というものが、如何に近視眼的であ
つたかということも、(
拍手)あの
ビキニの一発の爆発によ
つて証明されたのであります。
それから
日本の
国民は、さつきここでも盛んに叫ばれた
国際法上の問題から、あの
アメリカが
水爆を
実験するということ、そのことさえすらも
禁止しなければならないということを主張するようにな
つて来ております。我々のあの
公海の自由に関する観念の中には、
水爆を使
つてはいけないとか、
原爆を使
つてはいけないとかいうことが書かれておらないように思うけれども、併しながらそういうような観念ができたのは、まだ
水爆、
原爆以前であ
つたのでありますが、併しそういうような兇悪な
武器は
禁止されなければならないという精神は、すでに
国際法上に認められてお
つた。ダムダム弾を使
つてはならないとか、或いは
毒ガスを使
つてはならないとかいうようなことは、もう
世界の国際人の常識とな
つておるので、この精神を拡張すれば、それ以上の大きな
災害を全
世界に与え、全
世界に測るべからざる不安を与えるような
水爆の
使用どころか、
水爆の
実験をまでも、これを
禁止しなければならないということを、
日本の大衆はだんだんと
要求するようにな
つて来ているのであります。(
拍手)
それからもう
一つ、もつと重大なことは、我々は今大衆と共にこういうことを問題にしております。あの
水爆の
実験というようなことは、
国際連合憲章の中にある信託統治の精神にすつかり違反しておるものである。(
拍手)この見解から、大衆はこの問題を見ようとしております。あの
国連憲章の第十二条に信託統治の規定がある。そうして信託統治の基本目的というのは、第七十六条、そこにはこういうことが書いてある。この信託統治というものは、
信託統治区域の人民の社会的、経済的、政治的、それから教育上の
進歩を促進するということを眼目としなければならない。住民の幸福、これが至上命令である。そうして又信託統治を行う国は、その
信託統治区域の特殊事情とか、或いはその区域上の住民が明らかに示した願望によ
つてそういう住民がだんだんと自治を獲得し、独立を獲得することができるように、これを輔導し、これを助成しなければならないということも書いてある。又その次には、それどころではない。こういうことが書いてある。この信託統治というものは、これは例の性別とか或いは人種、言語、宗教、こういうような差別を超越して
人道的に行わなければならないし、殊に各人の基本的の自由と基本的の
権利を、これを保障する、尊重する、その精神の上から行われなければならないということが、輝かしい文字で書いてあるのだが、今度のあの
アメリカの
水爆の
実験というものは、すべてこの信託統治の基本的目的というものをすつかり蹂躪しておるものであります。勿論
ビキニは、戦略区域であろうが、戦略区域の場合でも、あの七十六条に書かれておるところの信託統治の基本的目的に背反してはならないということが明文を以て示されておるのであります。併しこの
水爆実験のために、あの
ビキニの島民とか或いはマーシャル群島の島民が、どれほどのえらい
損害を受けたか。
日本の
漁夫どころの騒ぎではないのでありますが、そうして
一つの島さえも飛んだと言われておるが、こういうことを考えるときに、あの
水爆の
実験というものが、
国際連合の信託統治の規定というものを脚下に蹂躙しておるということは極めて明白でありますが、こういう
国際連合の憲章に対する違反ということが許されるならば、あの
国際連合はもはや
世界の平和を維持する機関となることはできません。……