○藤原道子君 私は日本
社会党を代表いたしまして、
只今上程されました
厚生年金保険法案に対しまして、数点に対しての御質問を申上げたいと存じます。
先ほど来自由党の
谷口議員、緑風会の常岡議員の御質問に対しましても、私は心から賛同の意を表し、
拍手を以て御声援申上げたわけでございますが、(
拍手)
只今上程になりました本
法案は、当初勤労力の
増強の国家的要請に基きまして、当時
審議会ができまして、而もその委員といたしましては吉田
内閣総理大臣、
緒方副総理らが委員として参画され、種々
審議されまして、
昭和十七年六月一日に発足したはずだと私は記憶いたしております。ところがこの当時には、
一般労働者の資格
期間が二十年、
坑内夫、女子労働者は十五年、而も
国庫負担は五分の一ということで発足したのでございますが、いよいよとなりますると、これが一割に切下げられて来ておる。ここに問題があると同時に、
坑内夫につきましては特に特例
期間がありましたために、すでに十一年七カ月で効力が発生し、
昭和二十八年十一月から
坑内夫約三千二百名が受給者とな
つておるのでございます。ところが
標準報酬八千円の場合におきまして毎月百二十円納入しておりながら、
年額千二百円、月額にいたしましては僅か百円というような余りにも馬鹿げた状態に放置されて参
つておるのでございます。労働者の強い希望と
社会の輿論に応えまして、私たちは厚生委員会におきましてしばしば本法の
改正を迫つたのでございます。その都度
政府は、他の
制度と総合的な
検討をして、抜本的な
改正をすると。かく言明して置きながら、何ら積極的な
検討も加えられないで、応急
措置でごまかして、今日までその
改正がなされなかつたということは、
政府の怠慢であり、又重大なる責任だと存じまするので、先ずその点を追及いたすものでございます。(
拍手)
幾多の矛盾を内包いたしますところの本法はいよいよ
改正せざるを得ない段階に相成りまして、これが
社会保険制度審議会に諮問されたのでございますが、その
期間が余りにも短
期間であり、なお且つ資料不足のために十分なる
検討ができないで非常に遺憾であるが、その結果
労使、意見は対立のまま答申されたのでございます。一方又
社会保障制度審議会におきましても、
政府原案の修正を強く要望する旨の答申がなされたのでございます。然るに
政府は若干申訳的な修正を加えられましたのみで
只今上程を見たのでありますが、その
政府原案は、前言に背く誠に不満足極まるものでございます。私は飢えたる人が清水を求めておるのに対しまして泥水を投げ与えるが
ごときものであると言わざるを得ないのでございます。(
拍手)従いましてかかる
措置に出ました、長い間
研究する、
検討して根本的な
改正をすると言いながら、このような不満足なものが上程されるに至りましたことについての、その責任を先ず総理初め各
関係大臣に対して御質問を申上げたいと存じます。
そこで先ず第一に、
社会保障制度に対して
政府の根本的な理念を伺いたいと存じます。バターか大砲かということを質問いたしましたときに、
政府は口を揃えて、バターも大砲も必要である、決して大砲のためにバターを食うようなことはしないとしばしば言明されて来たのでございます。或いは又
国家財政が云々というようなことで、再次に亘りまする
社会保障制度審議会の
勧告案に対しましても、今日なおこれが
国会に上程さえ見ざる状態に置かれておりまするが、この
社会保障制度は今こそ直ちに総合的なものが確立されねばならないと、かように
考えまするか、
政府はこの
法案の提出をいつ頃と予定されておるか。そうして又
社会保障制度のその
内容を如何なるものに総合されんとしておるかを私はお伺いをいたしたいのでございます。と同時に、先ほど来
谷口議員からもしばしば御質問がございましたように、
各種社会保険との調整、又
国民年金制度の確立等々に対して
政府の御
所信を伺いたいと存じます。
重ねて申上げるまでもなく、現在十に近い
制度がばらばらにな
つておるのでございますが、これらからなお漏れておりますところの五人未満の
事業場に働く人、或いは一定の
自営業者をも加え
総合的年金制度を作り上げ、必ず
生活ができるという
方向に、私は一日も早く確立すべきものだと存じまするが、こうすることによりまして経理をよくし、能率的な
運営によりまして、事務費も節約ができる。以て
国民の福祉増進を図らなければならないのでありまするが、これらに対しての御努力が何らこの
法案には見出すことができない。これらについて、
政府のその御
所見を私はお伺いいたしたいのでございます。
次に
厚生年金保険は、申上げるまでもなく、労働者がその労働力によ
つて得た賃金の一部を長年に
亘つて醵出いたした金でございます。憲法の第二十五条の精神から申しましても、各
年金の
給付額は、
社会保障制度審議会の
勧告及びILOの
社会保障の
最低基準に関する条約を尊重いたしまして、如何なる場合におきましても、
生活保護法の扶助額を下廻
つてはいけないのでございます。これに対する
政府の御見解が伺いたい。今
厚生大臣は、
生活保護法を下廻
つてはいないという御見解でございましたが、そのようなことは断じてごまかしであ
つて、
法案の
内容を見るときに、明らかに
生活保護法を下廻
つておる点が多々あるのでございます。これらに対する
政府の御見解が伺いたい。
今や労働者は、
政府のアメリカ一辺倒の政治の犠牲となりまして、急速なる再軍備予算に苦しめられ、又その
生活はあたかも餓えたる者が水を求めるような状態に追い込まれております。なおその苦しい
生活の中から、苦しい汗のにじんだお金を醵金しておるんだということを絶対に頭におしまいにな
つて、御答弁が願いたいのでございます。
更に、本法の
改正原案の
内容につきまして、具体的にお伺いをいたしたい。先ず第一に
標準報酬についてでございますが、
健康保険は
最低三千円から最高三万六千円、
船員保険は四千円から三万六千円とな
つておるのでございますが、一
厚生年金保険に限りまして、なぜに三千円から一万八千円という
低額にしたのであるか、その根拠を伺いたいと存じます。第二点は、
老齢年金でございますが、
一般男子が五十五歳、これを六十歳に
引上げた。
坑内夫を、五十歳のものを五千五歳に
引上げた。これは
改正ではなくて改悪ではないでしようか。なぜにかかる年齢の
引上げをなしたのか。
只今厚生大臣は、寿命が延びたからというようなことを申されましたが、
坑内夫や熱処理の特殊労働に従事しておる者は、労働寿命が非常に短いのでございます。時に
坑内夫につきましてはけい肺という特殊な疾病があります。目下労働委員会におきましても独立立法を議員
提案でなされておる状態でございますが、これが公聴会における公述人の
説明を聞きましても、入社後十数年にして死去する者もあるようでございます。仮に二十歳で入社した者があるといたしますならば、三十五、六歳にして死去することになるのでございますが、これを五十五歳にしたその根拠は、何と言いましても私には納得が行かないのでございます。これらの法の
改正に当りまして、その責任担当大臣であります労働大臣に御相談なさつたのかどうか。又労働大臣はかようなことで労働行政が、労働者の福祉が守れるとお
考えにな
つておるのでございましようか、この点につきましても私はお伺いをいたさなければなりません。現在
坑内夫は非常に疲れ、その肉体が消耗されまするが故に、
一般労務者に転換しておる実情もあるのでございます。従いまして給与の面にいたしましても低下し、
一般的に不利であり、六十歳では事実上極めて短
期間しか
給付が受けられない。筋肉労働者は頭脳労働者と異なりまして、六十歳まで働くことは絶対にできないのでございます。
各種の統計を見ても明らかな
ごとく、平均寿命と労働寿命とは絶対に一致しない。更に又先ほど谷口さんも触れられましたように、日本の停年制は或いは五十歳、五十五歳等でございますが、この
年金の
支給が六十歳と
引上げられましたならば、五十歳で停年になりました者は十年間、五十五歳の人はその五年間の
生活は何によ
つて得たならよろしいでございましようか。これらに対する思いやりが余りにもないということを私は指摘せざるを得ないのでございます。その労働生産性、労働能力、これらの急速な低下に従いまして、労働賃金はますます安くなる。これらについても、かような年齢の
引上げは、私絶対に了承できないのでございます。又
老齢年金の
定額一万八千円は
生活保護法と併せ
考えてみましても、今の大臣の
説明では納得ができない。
社会保険審議会並びに
社会保障制度審議会におきましても、被
保険者側の強い要望も、せめて
生活保護法の基準を下廻らないようにという切実な要望が繰返しなされておるのでございます。又報酬比例の加算は認めないが、
定額二万四千円を若干
引上げることは、
事業主の代表委員ですらも認めておるところでございます。今後
社会保険統合の場合を
考えてみましても、
恩給法及び
国家公務員退職金、
地方公務員、
船員保険法との振り合いを
考えて
改正しておかないと、保険
財政である以上は、直ちに
引上げる場合
負担の面で非常に突き当ると思われまするが、
政府はこの際どのようにいたそうとされておるのか、如何なる方法で調整がなされるのか、これを私は労相と厚相に併せお答えが願いたいのでございます。
第三は扶養加算についてでございまするが、子供の年齢が十六歳未満とな
つているのでありますが、児童福祉法を初め、その他法律におきまして十八歳は
一般通念であり、
恩給法においても、十八歳未満とな
つておるのでございます。
政府は何が故に本法に限
つて十六歳未満と規定されたのか、これも又お伺いをいたさなければなりません。
第四といたしましては、
障害年金についてでございますが、
政府は今回の
改正によりまして
障害年金の等級を三段階にいたしまして、
癈疾の範囲を拡大したと称しておりまするが、別表によりますると
癈疾の等級が切下げられておる、実質的には改悪にな
つておるのでございます。
現行一級の者が二級に、或いは二級の者が三級に切下げられ、労働力不能の
癈疾者までが三級に落されておる。而もこの
癈疾の基準の中に別表として出されておりますが、
社会保険審議会にも諮つたことも聞いていないし、広く専門家の意見をも聴取したとも私は聞いていないのでございます。如何なる
理由で
政府はかかる態度をとり、
審議会をも無視して行われたのか、その
理由を私はお伺いを申上げます。
又
障害年金の額は、
老齢年金の相当額の百分の百四十とな
つておるのでございますが、これは八万円までもらえる
現行法よりも大幅な切下でございます。この点も大きな改悪ではございませんか。厚生
当局は既得権、期待権は尊重すると言明しでおきながら、なぜこのようなことをしたのでございましようか。
恩給法による傷害、疾病との関連はどう
考えるか。具体的にお伺いをいたしたいと思います。
障害年金は、
一般老齢者よりも身体機能に
障害を受けております
理由で受給される
年金故に、老齢
年金受給者よりも増額
給付されなければならないが、二級が
老齢年金と同額とな
つておりますが、二級受給者と老齢
年金受給者の振り合いはどのように
考えておいでになるか。この点詳しくお伺いを申上げます。
次に、
内容の細部に
亘つて二、三お伺いいたしたいのでございますが、
遺族年金の額を
老齢年金の二分の一にいたしましたが、
老齢年金の額そのものが余りにも
低額過ぎますることから問題であると思うのでございます。少くとも
生活保護法との関連において
遺族年金の五分の三
程度が
最低と
考えられまするが、
政府は如何ようにお
考えでございましようか。その二は、
保険料率は
現行通りとな
つておりまするが、任意加盟の場合、
現行千分の二十六と承知しておりますが、その
通りでよろしうございましようか。その三といたしまして、船員
保険制度との調整についてでございますが、被
保険者期間の通算は誠に結構でございますが、必要な調整ということで
船員保険をレベル・ダウンしてはならないのでございます。
船員保険法改正に当
つては、この点十分に
審議はいたしまするが、
政府はどのような
考えに基いて出したかを私はお伺いを申上げます。
第三は、脱退金に対してでございますが、著しく改悪されているのでございます。特に女子労働者の場合におきましては、結婚、分娩で退社のとき
最低十五日以上五百十日間の掛金を年数によ
つて配当金として
支給されていたのでございますが、本法におきましては、これが削除と相成りまして、掛金に三分の利子という結果にな
つておるのでございます。而も新法は、
昭和二十九年四月一日以降の資格者よりこれが
適用になる。従いまして、従来の有資格者は、旧法において僅か一日の差で、このような既得権が削除される。労働者におきましては本質的には何ら変らないのに、このようなことをとられましたこと、ここでも又期待権、既得権が踏みにじられておるということを指摘せざるを得ないのでございます。而も今日女子の職場は次第に狭められております。優先的に整理の
対象とされておるのでございます。それのみか、或るところでは二十五歳を女子の停年とし、或るところでは三十歳の停年
制度をと
つておるのでございます。かようなことを
考えまするとき、なおこの労働者の福祉法であり、保険法である本法からさえ、この既得権がむしりとられるといたしましたならば、婦人労働者は、将来如何ように相成るでございましようか。これらに対しまして、私は御答弁を要求するものでございます。
最後に、現在すでに八百億になんなんとする
積立金のことでございます。先ほど来、常岡委員から再三御質問がございましたが、この点絶対に納得のできないところでございます。
大蔵大臣に申上げます。是非これは
国民全体が知らんとしておるものでございますから、ただ木で鼻をくくつたような素気ない御答弁でなく、具体的になぜそうしなければならないかということを私は伺わなければならないのでございます。(
拍手)大臣からお伺いするまでもなく、長期計画による
年金法であることは私も承知いたしております。ところが長期準備が必要であるからと言
つて、ピーク時になりますると二兆になるという計画の下に出発されておるこの
積立金を、僅かな国家補助をするからという名の下に、全部大蔵省に握られておるということは納得が参りません。而もその中から僅かに労働者に対しましては、
住宅建設資金或いは
病院の
建設資金として雀の涙にも及ばない
金額が出されておるだけで、その絶対多数が、いわゆる資本家側、これに流用されておる。而もその利子さえ国家の
一般会計に繰入れられておる。こんなばかげたことは私たちはどうしても納得ができないのでございます。若しこういうことを強行されるならば、この
厚生年金不要論さえ起
つて来るのではないでございましようか。一生懸命積立てた金が、それが資本家側に利用され、国家が勝手にこれを処理して、そうして自分たちの受ける権利は
生活保護法を下廻る、こういうことでは結局このような声が起
つて来ることは当然ではなかろうかと思うのでございます。従いまして、この際私はこの
積立金は、厚生省の所管にして、併せてこれの
運営制度を十分に確立いたしまして、その中には受益者代表を入れることによりまして、誤まりなき
運営を期すべきだと思うのでございます。そうしてこの
積立金は飽くまでも労働者の福利厚生のために使うべき性質のものであるということを重ねて附書申上げます。最近労働者の中におきましては、
積立金奪還闘争を展開するというような声も起りつつあるやに聞くのでございます。これ又今のような
政府の態度でございますならば、こうしたことも止むを得ないと言わざるを得ないのではないでございましようか。従いまして、この際
政府は、速かに
国民の納得の行く根本的な本法の
改正をいたしますると共に、一日も早く
国民年金制度の
統合を図り、
生活の不安困憊から全
国民を守り抜くことを強く強く要望いたすものでございます。
私は残余の時間を再質問といたしまして留保いたします。
政府の責任ある御答弁を要求するものでございます。(
拍手)
〔
国務大臣緒方竹虎君
登壇、
拍手〕