○荒木正三郎君 私は
日本社会党を代表いたしまして、
政府の
施政方針に対しまして若干の質問を申上げたいと思うのでございます。
先ず第一の問題は平和への見通しでございます。三年有余に及びました朝鮮戦争も、休戦が成立いたしまして
政治会議へと進みつつあります。これは、両陣営がその対立を武力によ
つて解決することは徒らに破壊と荒廃を招くのみであ
つて、何らの成果も収め得ないのみならず、若し飽くまでも武力によ
つて解決を強行しようとすれば第三次大戦に発展する危険がある、これは世界の勤労大衆や有
識者の堪え得ないところであ
つて、ここに平和的手段による以外には解決の道がないということが明らかに
なつたからであります。この朝鮮休戦を契機といたしまして国際外交正常化の希望と
努力は、冷たい戦争の継続の中にあ
つて、これに逆らう大きな底流とな
つておるのであります。この平和への方向は今後次第に強ま
つて来るものと
考えるのでございます。一月二十五日からベルリンにおいて開かれておりまする四カ国外相
会議はその第一歩であり、アイゼンハワー
米国大統領が原子力の管理を提唱し、ソ連も又これに応じたことは、全面的な軍縮に進む端緒となるものとして我々は大いに歓迎するところであります。我々は平和への方向を一段と強めるために、
日本の平和建設の根本
方針を今こそ打ち出すべきときであると固く信ずるものでございます。(
拍手)すでにアメリカにおいてもアイゼンハワー
米国大統領は、年頭の教書におきまして「現在我々は戦時経済から平和経済への過渡期にある」と述べて、平和経済に移行しつつあることを示すと共に、
予算の規模を縮小し、社会保障の充実に乗出さんとしているのであります。そのために防衛費の大幅削減は必至の運命にあると言わなければなりません。(「軍事費は削減しているのじやないか」と呼ぶ者あり)ソ連においてもマレンコフ新政権は、従来の重工業偏重の
政策を緩和いたしまして、消費財や食糧の増産、住宅や教育施設の充実、民生安定、福祉の増進を力説いたしているのであります。ヨーロッパ諸国においては、この傾向は一層顕著であ
つて、平和時に処する諸準備を進めておるのであります。東西貿易の再開について積極的な
方針をと
つているのは、この現われであると思うのであります。然るに吉田
内閣は、本年度の
予算において示すごとく、民生安定、経済自立の諸費用を削減し、ひとり防衛費のみが王者の、ごとく君臨しておるのであります。(「怪しからんぞ」と呼ぶ者あり)まさに軍事
予算の性格を露骨に現わしておるのであります。世界の国々がそれぞれ平和経済建設の
方針を明らかにしつつある際、吉田
内閣はMSA再軍備を打ち出しておるのであります。
かくては労使の対立はますます激化し、中小企業は崩壊し、失業者の増大とな
つて現われて来ることは必至であります。
かくては「
日本はどこへ行く」と言いたいのであります。
そこで、私は
首相に
お尋ねいたしたい第一点は、MSA再軍備
政策は、ソ連、中国との国交回復を不可能にするものではないかということであります。周恩来中国
首相は、平和中立
政策を肯定し、
日本との正常
関係の回復、不可侵
条約の締結の
可能性を述べておるのであります。又ソ連においてもマレンコフ新政権は、
日本が独立と平和の方向に沿
つて措置する限り、ソ連との友好
関係の回復ができると提唱いたしておるのであります。我々は、MSA再軍備を望むか、或いは全面
講和を図り、アジアの平和と繁栄を望むか、その岐路に立
つているものと判断しなければならないのであります。我々は断じてMSA再軍備に反対するものであります。
第二は、東南アジア諸国、特にフィリピン、インドネシア、ビルマ等との賠償問題の解決を困難にするのではないかということであります。延いてはこれらの国々との国交回復にも重大なる障害を来たすのではないかということであります。イギリス労働党のヘヴアン氏はかように申しております。「
米国が共産世界の軍事的封鎖戦略の一環に
日本を引き入れようとしていることは明らかな事実である。
日本がこの
政策に加担した場合、その結果は、はつきりしている。極東における白人の支配の手先と目されるであろう。」(
拍手)「白人の支配ということが事実かどうかは問題にならない。
米国にはそんな
意思がないなどと
言つてみても始まらない。その結果はアジアにおける民族主義の多くのものを共産主義の側に追いやるであろう」。かように申しておるのであります。(「よく聞け」と呼ぶ者あり)アジアの諸地域は、久しい間、欧米諸国の植民地としてその支配下に呻吟をして来たのであります。その多くは第二次大戦によ
つて独立を回復したのでありますが、このアジアには、今や欧米の支配から完全に独立しようとする民族運動が熾烈に行われておるのであります。アジアの多くの人人は、
日本が欧米の手先にな
つて、再びアジアに現われて来るのではないかという心配を持
つておるのであります。(
拍手)MSA再軍備は、まさにそれを裏書きしておるのであります。(「アジアの孤児になるぞ」と呼ぶ者あり)
第三は、沖縄は永久に
日本に還らないのではないかということであります。アイゼンハワー
米国大統領は、年頭の教書において、「沖繩は永久にこれを保持する」と
言つております。これはMSA、
日本を最も恐れているものはアジアであります。このアジアの恐怖に応える言葉として、沖縄は
日本に還さないと
米国大統領をして言わしめたものであると、私は判断するのであります。真に
日本がアジアの平和と繁栄のために尽すことにおいてのみ、沖縄は我々の手に還るものと信ずるのであります。(
拍手)
政府は、アメリカ一辺倒の外交
政策を是正して中国を含めたアジアの平和と繁栄を基礎とする外交を確立すべきであると思うのでありまするが、
首相の見解を伺いたいのであります。今日アジアを
考える場合、中国を除外して、その平和についても繁栄についても
考えられないからであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)
次に、第二の問題といたしましてMSAと安全保障の問題でございます。アメリカはその世界
政策といたしまして、武力によ
つて共産圏と対決する
方針をとり、経済的、軍事的
援助によ
つて自己の陣営の拡大強化を図
つて参りました。
日本に対しても、この
政策の一環として、安保
条約、
行政協定によ
つて日本を軍事基地化すると共に、MSAによる軍事
援助によ
つて日本の再武装を強化し、以て太平洋の防衛態勢を整えようといたしておるのであります。吉田
内閣はこの要請に協力する態度を決定して、防衛
予算の
増額を図ると共に、
保安隊を
自衛隊に改め、その性格を一変しつつあります。更にMSA受入れの国内態勢を強化するために、警察法の
改正、教員の
政治活動禁止等の反動立法を企図いたしておるのであります。
かくては、
憲法改正、徴兵制への発展は吉田
内閣の予定のコースと言わなければなりません。(「その
通り」と呼ぶ者あり)民主的平和
日本の建設を目指す我々の断じて容認できがたいところであります。(
拍手)我々はMSA受諾に強く反対するものでありますが、以下数点について
首相に
お尋ねをいたしたいと思います。
第一は、先ほども御質問がございましたが、
吉田首相は
防衛力を
漸増する上と申しております。併しその
防衛計画については今日まで発表いたしたことが、ございません。併しながら今回MSA
援助を受けるに当りましては、
日本の
防衛計画はアメリカに提示されてあると存ずるものであります。(
拍手、「その
通り」と呼ぶ者あり)私どもはこの際、その吉田
内閣の或いはアメリカの要請しておる
日本の
防衛計画について明らかにせられることを要請するものでございます。その
防衛計画に基いて行われるアメリカの武器
援助の中には原子兵器が含まれているかどうかという問題であります。我々は世界において原子爆弾の洗礼を受けたただ一つの
国民で、ございましての問題については重大な関心を持つものであります。又これに対する
政府の態度についてもお伺いしておきたいのであります。これに関連いたしまして、
日本の
防衛計画の中には原子兵器を持つ
計画があるかどうかということであります。これは、本年度の
予算の中において原子核の研究に対する
予算が盛られていることを見まして、私はその
計画があるのではないかという疑念を持
つているのであります。その
意味において
お尋ねをいたしておきます。第三は、
憲法との
関係についてであります。相互安全保障法第五百十一条によりますと、軍事経済技術
援助を受けるための資格として受入国が六項目の約束をなすことを必要とし、その中には、二国間又は多数国間の
条約又は協定に基く軍事的義務の履行と、自国と自由世界の
防衛力維持増進のために可能な最大限度までの人的資源及び施設を提供することにな
つております。これに伴う諸義務は当然
日本国憲法に抵触すると我々は判断するものでありますが、
政府は如何ように処理しようと
考えておられるか。
第四は、私どもの最も考慮している問題でありますが、MSAに繋がる国国がそれぞれ軍備を増強して共産圏と武力による対立を強化して行けば、一体、国際
関係は如何ようにな
つて来るかということであります。これは、今日の国際情勢が示すごとく、又我々の歴史が教える、ごとく対立、ますます激化し、国際的緊張は一段と深刻化するものと
考えるのであります。私ども冷たい戦争に悩まされて参りましたものにと
つて、今日東西の対立が緩和される、このことが世界平和に繋がる一番重要な問題であると
考えているのでございます。(
拍手)ここに
吉田首相の見解をお伺いしておきたいと思うのであります。
次に、安全保障の方式の問題でございます。MSA再軍備は地域的集団安全保障形式でありますが、この形式は実質的には特定
国家群を対象とする軍事同盟にほかならないことは明らかであります。この方式は現在重大な困難に当面し、世界にはこれに代る別個の安全保障方式をとろうとする
考えの人も少くないのであります。即ちヨーロツパの安全保障の方式として、イギリス
首相チャーチルは新ロカルノ
構想を提唱し、西欧とソ連との間に不
侵略条約を結び、平和の基礎を固める方式を示唆いたしております。又アメリカでもこの
考えは広まりつつあるのであります。アメリカ民主党の大統領候補であつたステイヴンソン氏は、六カ月の世界一周旅行を終えて帰国の後、アメリカ圏の世界と共産圏の世界のほかに第三の世界のあるということを
認識し、国際紛争を辛抱強い話合いによ
つて解決すべきことを説き、対ソ不
侵略保障体制を提唱いたしたのでございます。
政府は
日本の安全保障を、安保
条約、
行政協定、MSA再軍備の線で進めて行こうとしておられるのでありますが、これは東西の対立を激化し、極東の平和と安定を阻害することになるのであることは勿論であります。
日本が再軍備によ
つてアメリカの軍事戦略体制の一翼となることは、
日本の安全を保障するどころか、求めて仮想敵国を作り、アジアにおける両陣営の対立を激化し、
日本を戦争の渦中に巻き込む危険があると我々は
考えるのでございます。(
拍手)
我が国の当面する国際的国内的諸条件の下におきましては、中立と不
侵略体制こそ最も有力な安全保障方式であると我々は信ずるのであります。(
拍手)そこで
首相にお伺いしたいのは、対ソ不
侵略による安全保障方式については如何ようなる見解を持
つておられるかということであります。
第三の問題は、経済自立と東西貿易についてであります。
日本経済が危機に直面していることは、
政府みずからも認めているところでありますが、これは吉田
内閣が特需に依存して放漫
政策を続けて参つた結果にほかならないのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)現在、世界経済は後退の兆を示しつつあります。延いては、国際間における貿易戦は、今後ますます激しくなると予想されるのであります。この間にあ
つて日本が輸出を振興し、正常な経済体制を打ち立てるためには、吉田
内閣は
政策を変更して出直す必要があると思うのであります。昨日の外務、大蔵、通産、各
大臣の
演説においては、いずれも輸出振興方策として市場の開拓を力説しておられるのでありますが、共産圏との貿易の問題につきましては極めて消極的であります。我々は
日本経済自立の要件といたしまして共産圏との貿易を重視いたしておるのであります。米英においても不況対策について真剣な
検討が行われているようでありますが、殊にイギリスにおいては、昨日も述べられましたように、英連邦
会議で非ドル地域即ち共産圏との貿易を打開すると決定いたしておるのであります。(「イギリスの独立宣言だよ」と呼ぶ者あり)ア大統領も記者会見で、東西貿易のあり方については目下全面的な
検討が加えられていると述べられているのであります。今や東西貿易は、アメリカの好むと好まざるとにかかわらず、必至の情勢にあると言わなければなりません。(
拍手)この際、
日本が徒らに欧米の後塵を拝する態度をやめて自主性を回復し、積極的な
方針を樹てるべきであると信ずるものであります。これに関しまして外相にお伺いいたしたいと思うのであります。なお、貿易に関連をして、共産圏に対する渡航制限を直ちに緩和する
意思が
政府にないかということであります。これも併せてお伺いしておきます。
次に、教育の
政治的中立性の問題でございます。
政府は教員の
政治活動を規正するために、近く法案を
国会に出すということは、昨日の吉田
総理の
演説によ
つても明らかであります。教員の
政治活動につきましては、教育
基本法、
地方公務員法及び公職選挙法によりまして規正されているところであ
つて、
政府が今回更に特別立法をなす意図について我々は了解するに苦しむと共に、誠に遺憾に堪えないと
考えておる次第であります。(
拍手)第一に指摘しなければならない点は、今回の
措置は、
吉田首相の言う占領
政策の是正に名をかりて占領中の諸
制度を一挙に反動化しようとする現われの一環であ
つて(「ノーノ一」)と呼ぶ者あり)警察法の
改正、知事官選論とその性格を一にするものであると思うのであります。(
拍手)教育と警察と知事を一手に掌握することは、独裁者の好むところであるかも知れませんが、
民主主義は一挙にして崩壊するのでございます。
更に、今回の
措置はMSA再軍備と深い関連性があるということであります。(「その
通りだ」「池田とロバートソンが話した」と呼ぶ者あり)先般池田特使がワシントンにおきましてアメリカ側と会談をいたしました際、次のような了解に達したことが議事録として公表されているのであります。「
日本政府は教育及び広報によ
つて日本に愛国心と
自衛のための自発的精神が成長するような空気を助長することに第一の
責任を持つものである」というのであります。このことはMSAに関する会談の際行われたものでありまして、MSA再軍備を推進するために、日米双方において
責任を以て愛国心を養成すると共に、自発的に再軍備に協力をさせようというものであります。これを実施に移そうとすれば、
政府に忠誠を尽す教員でなければならないということに相成るわけであります。これは誠に重大と言わなければなりません。文相にお伺いいたしますが、池田・ロバートソン会談の内容について
政府は了解しておられるかということであります。
吉田首相は曾て「
日本歴史は万国に冠たり、
日本の国土が世界で最も美しいということを青少年に徹底して教育してこそ、愛国精神が養われる」と
言つておられる。
日本の歴史が世界に冠たるかどうかは主観によることであ
つて、これを他人に押付けることはできません。成るほど
日本の山河は美しい。私の少い経験でも私はそう感じております。併し
政治が悪いために山は裸になり、河は氾濫してだんだん汚くな
つて行くのが今日の
事情であります。(
拍手)吉田
内閣が十年も続くならば、
日本中の山は禿山にな
つてしまうかも知れないのであります。禿山になれば愛国教育はできなくなります。私はこの際、
首相の愛国心について伺
つておきたいのであります。
第三は、大達文部
大臣は、平和教育は困つたものである、何とか今のうちに禁止しなければならないと
言つております。(「
憲法を知らんのだ」と呼ぶ者あり)平和教育とは何のことか。何を指しておられるか。
日本国憲法は平和
憲法と言われております。戦争を永久に放棄して恒久の平和を理想とする
憲法だからであります。この
憲法に基いて教育基一本法第一条に教育の理想を掲げ、「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期す」とあります。平和を愛する人間を作ることが教育の理想として
規定されているのであります。(
拍手)
日本の教育は平和教育だと名付けても一向おかしいことはないのであります。私は、なぜいけないのか、御説明を伺いたいと思うのであります。
第四は、教育の中立性が現に犯されているという事実があるかどうかという問題であります。大連文相はよく山口県日記を取上げて、あたかもこれが中立性を犯しているかの、ごとき発言をせられております。私は問題にな
つている一文をここに紹介します。「再軍備反対の声が強いのはなぜか」という題で、再軍備について議論の代表的なものを六つばかりあげてみます。どれが正しいか
考えてみましよう。
一、
日本にしつかりした
軍隊がなければ、いつソ連や中共がせめてくるかもしれない。
二、強い
軍隊があれば
外国からせめてこない。
三、いまの世界のありさまからみて、ソ連や中共は
日本へせめてくるはずがない。だから
軍隊をつくる必要はない。
四、いま
軍隊をつくればアメリカに利用される。アメリカについて戦争をすれば、
日本はまためちやめちやにやられてしまう。だから
軍隊はないほうがよい。
五、
軍隊をつくるには多くの費用がかかる。
軍隊をつくる金があれば、貧乏で困
つている
国民の生活をよくするのにまわした方がよい。
六、国と国との間の問題は戦争で解決しようとせずに、どこまでも話しあいで解決できるはずだ。
などですが、あなたはどれに賛成をしますか。
これが日記帳における一つの問題に
なつた文章であります。これを以て直ちに教育の
政治的中立性が犯されているということは、これは軽卒な判断であります。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)ただ、私の言い得ることは、これが果して小学の六年、中学一年程度の児童に十分理解できるかどうかという教育的な判断だけであると思うのであります。この山口県日記を唯一のよりどころとして全国七十万に近い教職員に対しまして、
憲法違反の虞れのある、而も明らかに教育
基本法の第八条に違反すると思われるような
政治活動の禁止を全面的に行おうという吉田
内閣の態度に対しましては、我々は応じて承服できないのでございます。(「教育を冒浸するものだ」と呼ぶ者あり)
政府が今回企図しておる教員の
政治活動禁止の
措置は、全く教育の
政治的中立性に名をかりて教員の基本的人権を剥奪し、
日本の教育を逆コースに追いやろうとする極めて悪質なものであると信ずるのであります。(
拍手)我々は
政府がこの企図を放棄することを強く要請いたしまして、私の質問を終りたいと思います。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕