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公述人(
水野東太郎君) この
法律の制定することが必要かどうか、又そして制定されることができるかどうかと、こういう
ようなことを最初に暫く申上げてみたいと思います。
日米相互防衛援助
協定の第三条で、我が
政府が米
政府の供与する
秘密の物件、労務、
情報についての
秘密の漏泄又はその危険を防止するため、両
政府の間で合意する
秘密保持の
措置をとることと、まあか
ようなことが
協定では義務付けられておるのでありまして、そうして附属書のBにおいては、その
秘密保持は、米国において定められておる
秘密保護の等級と何等のものを確保すると、か
ような工合に定められており、且つこれに対するところの、
我が国として、適当な
措置をとるということに相成
つておるわけであります。ところで又一方、第九条の二項で、
「各
政府がそれぞれ自国の憲法上の
規定に
従つて実施するものとする。」と、か
ようなことが定められておるのであります。そうして、これは申上げるまでもなく、
我が国では憲法において、一戦争放棄を宣言して、軍備はしないということに相成
つておるのであります。そこで最初に申上げました相互防衛援助
協定によりまするならば、か
ような
協定に基いて、この
秘密防衛のためにか
ような
法律を作るということの必要もあり、国際信義的な義務もあるのではないかと、か
ように
考えられるのであります。
ところが、後に申上げました自国の憲法上の
規定に
従つて実施するという、か
ような
趣旨、
我が国における戦争放棄、軍備しないというこの憲法、こうしたこの特異の観点から見まするならば、この
立法は
我が国の憲法上は違反ではないかと、か
ような議論が取上げられる
ように相成ると思われるのでありますが、で、この
立法は、この
協定に表われておりまする、最初に申上げました点と後に申上げました点との間に、丁度はさま
つている
ような存在ではないか、か
ように
考えられるのであります。そこで、この
法律提案の理由として、
政府当局の
説明せられるところでは、こうした援助法によりましての諸外国においては、現在ある法令で、か
ような
秘密保持ということは維持せられておるので、格別の
措置をする必要はないが、
我が国では
刑事特別法だけであり、殊に、御承知の
通りアメリカの
秘密のことのみでありまするので、
我が国には当然この
法律で行われない関係上、この
刑事特別法だけでは、か
ような
秘密保持の問題は今後は
保護できない。か
ような
事柄から、どうしてもこの
立法が必要なんだと、か
ように
説明せられておるのであります。ところが、か
ような
考え方には、先ほど後段の
意味において申上げました、我が憲法における戦争放棄と、軍備をしないという、か
ような極めて特殊な性格を、
我が国が憲法上持たなければならないということに対する
考え方が足らないのじやないかというふうな私は
感じがするのであります。
協定の義務の面から申しまするならば、何らか
秘密防衛のための
措置を講じなければならないのではありますが、これは飽くまでも援助されるいろいろのもの、或いはその
情報に対してのみ、
秘密保護という
ようなものを
考えることはともかくも、更にこの
秘密防衛の問題を、
我が国のまあ安全という
ようなところへ結び付けて、そうして
秘密防衛という
立法をするという
考え方には、相当考慮しなければならんものが残されているのではなかろうか、か
ように
考えてみたいと思うのであります。
そこで今少しこの
法律が求めておりますることについて申上げたいのは、この
立法のうちで使われておりまする
言葉、は、「
防衛秘密」という
言葉を使
つているのであります。ところがこの
内容を検討いたしてみますると、その実質的の
事柄は
軍事秘密ということに相成るのではなかろうか。
言葉の使い方はともあれ、実質は
軍事の
秘密ということに相成るのではないか。か
ような
軍事という
言葉を使うことにつきましては、いろいろな面で盛んに論じられていることでありまするし、まあ予備隊或いは保安庁等についての相当盛んな論議が行われておりまするので、さ
ようなことについてくだくとは申上げませんが、さ
ように
考えられるのではないか。と申されますことは、一九四八年相互防衛援助法の第四百十一条を一応ずつと見てみますると、おしまいのほうには商船を含まんとか
ような言い方をいたしているところなどから見まするときに、やはりこれは
軍事的なものだと、か
ようなことがそこらあたりからも言われるのではないかと、か
ようなことが
考えさせられるのでありまして、そこでこういうまあ
軍事という
ようなことから、憲法論を強調いたして参りますことになりますと、憲法違反論というものが、この
立法については相当強く論じられるし、又仮にこの
法律が制定されたといたしましても、この
法律から生じまするところのいろいろの
法律上の問題といたしましては、違憲論ということが相当強く論じられる、か
ようなことに相成るのではなかろうか。か
ようなことに
考えられますので、この
法律を作ることのまあ必要ということの
考え方は、最初に申上げました防衛
協定からどうも出て来ることは止むを得んのではなかろうかと、か
ように
考えられますが、併しながらこの
立法の
内容については、相当考慮して行かなければならないことがいろいろあるのではなかろうかと、か
ように
考えられるのであります。そういう
ような
意味におきまして、憲法違反の問題が論じられ、且つ将来も続けられるであろうということは
考えられながら、この
立法というものは、現実の問題といたしましては、現在アメリカの占領から離れて、現在のアメリカの援助を受けつつある、そうして防衛援助
協定がすでに定められた今日においてのこの現実から申すならば、これは止むを得ない
措置だということだけは、この際感ぜざるを得ん
ように
考えるのであります。
そこで
政府のほうで
説明せられている
ようでもありまするが、仮にこういう
秘密防衛に対する制裁法規をきめるにしても、十分
国民の権利ということを
考えて、
最小限度にこの制裁ということは
考えるべきだという工合には述べておられるのでありまするけれども、併し
内容に入りますると、必ずしもさ
ように言うておられることが、完全にこの
法律に現われているかどうか、相当疑問があると私は
考えます。
内容に入りましてその点はそれぞれ申上げて見たいと思います。殊にこの
法律について
考えて頂かなければならないことは、我が憲法では御承知の
通り十一条から四十条に及びまする大量な
国民の人権に関しまするところの
規定があるのでありまして、
我が国の憲法が
如何に人権尊重ということを強く要求しておるかということが十分看取されるのでありまして、か
ような
意味から人権尊重に反する
ような
立法というものは、この
法律には限りません、常に極力か
ような人権侵害を及ぼすことの憂いの多い
立法ということは、
立法当時これをできるだけ抑制しなければならない、か
ように
考えるのでありまして、こうしたこの
法律に類しまする
ような曾て様々なたくさんな
法律があ
つたのでありまするが、か
ような
法律があるために、
如何に数多く、実に目を蔽ひ、耳を塞ぐ
ような人権侵害が行われた事実があつたかということは、今更申上げなくても十分おわかりのことと思うのでありまして、こうした
法律は常に例えて双刃の刃だとか
ように言われております
ように、か
ようなことは
立法をされるときに十分に慎重な研究をされて、そうして
立法ということを行われなければならないことでありまして、よく
立法当時に、この
法律ができても、その
取扱いなり
解釈については、決して軽々にこれを行わしめない、殊に人権侵害等のない
ように十分な
措置と
趣旨の徹底という
ようなことは必ずするのだ、か
ようには
立法当時大いに
立法当局者は常に言うのでありますが、さて実際はさ
ように参
つておらないというのが実情なのでありまするから、さ
ような点もこの
立法に際しましては十分御考慮頂くべき
事柄の大きな
一つだと
考えるのであります。
さて、そこで只今まで私が申上げました
ような
意味から、私といたしましては第一条をか
ように変えられるものならばお変えを頂きたい、か
ように
考えるのであります。それは第一条を
目的、定義といたしまして、その第一条の第一項にこういう
文字を入れて頂きたいのであります。「この
法律は、日米相互防衛援助
協定及び船舶貸借
協定により米合衆国から供与される
秘密の
装備品等及び
情報についてその
秘密を守るためにとるべき
措置を
規定したものであり、その適用については、これを厳格に
解釈し、人権をいささかも侵害する
解釈適用をしてはならない。」
これはなぜこの
法律ができるかという
目的を先ず第一に掲げまして、はつきりこの
法律の
成立せしむるゆえんを先ず書きまして、さてその
解釈については、人権を侵害するという
ようなことにならない
ような格段な注意を行な
つておく。こういう
ようなことで、この
立法というものに対して、せめて我々が懸念されまする心配のない
ような
方法をと
つて行く
ようにいたしたい。
従つて原案の一条一項が二項に相成るわけであります。こういう
ような工合に先ず一応いたしまして、さてそこで第一条の三項でございまするが、ここに書かれてありまする
言葉のうちで、「公にな
つていないもの」、か
ような
言葉が使われておるのでありまするが、どうも公にな
つていないという
ようなこの記載法は、甚だあいまいではないかと思われまして、何か適切な
言葉ないか思
つていろいろ
考えたのでありますが、余り時間の余裕もありませず、適切な
言葉が見付かりません。そこで私はただこれだけでは足りないのではないか。更にもう
一つ附加えて頂くならばいいのではなかろうかとか
ように
考えまして、か
ようにお加えを頂きたいと思うのであります。「公にな
つていないもの」の次に「又は公になることが
秘密保護の
目的に反するもの、」もうすでに公にな
つているものはこれはまあ、一応問題の取上げ方にはいろいろありまし
ようけれども、一応公にな
つているものは問題にならん、こういうことなんですが、と同時に公にされることが一向
内容的に差支えないのじやないかという
ようなことは、
解釈土いや、さ
ようなことは書かんでもいいと言われれば、言われることでありまし
ようけれども、か
ようにはつきりしておいたほうがむしろよくはないか、か
ように
考えまするので、只今の
字句を挿入することによ
つて、当初私が申上げましたいろいろの問題の解決になるのではなかろうかと、か
ように
考えたのであります。
それから三項の一号なんでありまするが、この一号のうちにイ、ロ、ハ、ニ、とこういろいろ書いてありまするが、これでありますが、これもいろいろ問題があ
つて、こういう
書き方をせざるを得ないことでし
ようが、さてか
ような
程度に書かれておりますると、この
法律を適用いたしまする場合、
解釈する場合には、この
解釈のし方で相当広くもなり、又相当面倒なところへ問題が持
つて行かれるという虞れがありまするので、最初申上げました
ようにこの
立法は全く必要な
最小限度というこの線を確保する
意味から申しまするならば、これももう少しもつと具体的に、何かこれらのことに対して、非常に重要だと
考えられる多くの問題を書き出し得る
ような
方法があれば、それに越したことはないのでありまするが、これもなかなか困難なことかも知れません。そこで重要な問題の取扱方に対して
一つの絞りをかけて、そういう
ような
考え方から一号のしまいに、「
アメリカ合衆国政府から供与される
装備品等について左に掲げる
事項」とあります。左に掲げる
事項の次に、これだけの
字句を御挿入下さつたらばどうかと思うのでありまするが、「左に掲げる
事項のうち重要なる部分」これだけの、重要なる部分という
言葉によ
つて、この
法律の
取扱いがいよいよますます絞られて参らざるを得ないことには相成りまするが、と同時にこうした
措置によりましてこの
法律の適用、
運用につきましては、非常に慎重に取扱わなければならないという面が多分点から見まするときはか
ような
字句を是非お入れを頂きたいという
ように
考えます。
それから第二条でありまするが、この第二条、そもそもこの第二条によ
つて第一条にきめられておる「
防衛秘密」なるものがきめられるものかどうか。ただ、これはこの
秘密を
保護するのに、いろいろ周知徹底させることのために、か
ような制裁をしないで、
防衛秘密の何ものなりやをはつきりするためにとらるべきものだという
意味の
法律なのか、やや疑問があるのでありまするが、この
書き方を見ますると、「
防衛秘密の
保護上必要な
措置」という
言葉がありまするところから
考えますると、
あとに私が申上げた
ような
意味の
立法ではないかと、か
ように
感じておるのでありまするが、併しながら実際に
法律の適用、
運用の問題に相成りますと、こうした
防衛秘密についての一のの
標記が附されますれば、一応
解釈上、この
標記の附されておるものは
防衛秘密の
範囲に入るのだという
解釈が容易に行われるのではなかろうか、か
ように
考えられます。
従つてこの
法律自体が、この
法律の制裁法規の限界とならないものであるといたしましても、さ
ような
意味においては、非常に重要な
立法的な
意味があると思うのでありまして、こういうことの
取扱いにも当然慎重な態度をとるべきである、か
ように
考えられるのであります。
そこでこれも又少し
字句をお入れ頂いたほうがいいのではないかと、か
ように
感じるのであります。それは第二条の「政令で定めるところにより」とありまする、その次に「政令で定めるに出て参りまするので、人権尊重の観ところにより前条
規定の
範囲内において
防衛秘密について」という、「前条
規定の
範囲内において」という
字句、即ち少くとも、この
措置をとるのには、この前条に
規定されておる
範囲内、殊に私が先ほど三項の一号のしまいのほうに、「重要なる部分」という
字句をお入れ頂きたいということと、これは関連して参る
取扱い方でございます。そういう
ようなことにいたしますれば、この
行政機関の長の
防衛秘密に対しまする
標記の附し方について、極めて慎重な処置がとられるであろうと
考えるのであります。
次に第三条でございますが、この制裁は、これは
刑事特別法がそのままここへ持
つて来られておる
ようですが、これは
刑事特別法と、これとがどれだけの差があるかということに相成りますると、格別差異を
云々ということにも相成らんと思われまするので、一応そのままここへ持
つて来られたのはこれでいいのではないかと、か
ように
考えます。ただ、ここでもやはり一応
考えさせられますることは、
言葉の使い方として、「不当な
方法」という
言葉、これは
刑事特別法でも使
つておる
言葉をそのままここへ持
つて来ているのであります。ただ、
刑事特別法の
規定は、まあ大体三条が第一条という
ようなことにな
つておるのでありますが、この「不当な
方法」ということが、どの
程度のことをいうか、非常に
解釈、
運用の問題につきまして、問題になろうと思われます。例えて申しますると、まあ弁護人が弁護権を行使するために、か
ような、探知或いは収集することについてどういうものかという
ようなことを弁護人が判断をするために、これを法廷においてその問題を取上げて論じます。或いは又これを論ずるために、みずからさ
ようなことをしてみ
ようという
ような場合、どういう工合のことにこのことが取扱われる
ようになるか。さ
ようなことなども一、将来弁護権行使の観点から
考えさせられる問題ではないかと、か
ように
考えるのであります。
それから第四条でございますが、これは
刑事特別法にはなかつた条文で、新らしくここに作られた条文の
ようであります。まあ
過失によりまする場合の
責任ということもどうかと思います。勿論行政的な処分は当然出て参ることでありますから、或いはそのほうだけでいいのではないかというふうな
考え方もあるのでありますが、若し
刑罰制裁ということを
考えまするならば、この「二年以下」ということはまあ重いのではないか。これは罰金だけでよいのではないか。か
つて軍機保護法がありまする時代に、ほかにはこの「
過失ニ因リ
云々」という制裁法規はない
ようでありまするが、
軍機保護法にはあります。その第七条は「千円以下ノ罰金」と、か
ように相成
つております。まあか
ようなところから
考えまして、これは「二年以下の禁こ」は重過ぎはせんか、全体から
考えまして、ただ罰金五万円以下でよいのではないか、か
ように
考えられるのであります。
さてそこで、この
立法が
成立いたしまして、問題が発生いたしましたときにまあこうした大体
秘密を取扱う
事柄でありまするから、当然捜査段階では、文句なしに接見禁止という
ようなことがまあ行われ
ようと思います。更に法廷におきまする攻撃防禦も、これもまあ
秘密に関するという
ような
意味合いから非公開という
ようなことが当然というほどに予想されるのであります。ということが非常に憲法において保障されておりまするいろいろな
国民の権利の面について侵害という
ようなことに強く論じられる余地が残りはしないか、こういう
ようなことはやはり
立法をされるときには、十分御考慮を願わなければならない
事柄だろうと思うのでありまして、か
ような
事柄から、将来こうした刑事
事件についての弁護権の行使というものは相当に制圧されやしないか、こういう
ようなことが
考えられるのであります。更に申しまするならば、民間でたまたまか
ような装備品に対しまするところの研究が進んでおつた。或いは進め
ようとするときに、一体どういう
取扱いが、これが出て来るか、正しい
取扱いをされるならば、或いは問題はないということかも知れませんが、これは
取扱い側の
考え方で、この
法律に当てはめられて、思わざる人権を侵害されるのみならず、さ
ようなものの研究の
発達が阻害される。か
ようなことがあるのではないか。こういう
ようなことも心配の
一つということに相成りまするので、この
立法につきましては、さ
ような点から前後十分慎重な研究と、この制定に対しまするところの心がまえを必要とするものだと、か
ように信じます。一応私の申上げたいことはこれだけであります。
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