○
政府委員(
村上朝一君)
改正案におきまして、
簡易裁判所の
事物管轄の
範囲を三万円から二十万円にいたしますと、
民事の第一審の
訴訟事件の大半が
簡易裁判所に移るであろうからという点でございますが、これは
昭和二十八年度の件数を基礎といたしまして、これを二十万円とすれば、
地方裁判所、
簡易裁判所の第一審を扱う割合がどういう割合になりますか、十万円とすればどういう割合になるかということについて一応申上げたいと思います。
昭和二十八月中の
民事の第一審の
訴訟事件は、全国を通じまして十万五百五十六件でありました。このうち現在三万円以下とされておりまする
現行法の下におきまして、
地方裁判所が第一審としてや
つております
事件が七万三千三百九十二件、約七三%、
簡易裁判所が第一番としてや
つております
事件が二万七千百六十四件、約二七%にな
つております。戦前の
地方裁判所と区
裁判所との割合はどうかと申しますと、
昭和七年から十六年まで、十ヵ年の平均で申上げますと、
地方裁判所が第一審として取扱いました
事件が全体の一五%、区
裁判所が第一審として取扱いました
事件は八五%、戦前におきましては大半が区
裁判所を第一審とする
事件であ
つたし、現在の
地方裁判所、
簡易裁判所の比率はまさに逆にな
つてお
つたのであります、そこで訴訟物の価額十万円までに引上げました場合の見通しでございますが、その場合におきましては、
地方裁判所が第一審として取扱う
事件が全体の約四三%、
簡易裁判所が第一審として取扱います
事件が約五七%というふうに見通しております。つまり
地方裁判所で現在や
つております
事件のうち
簡易裁判所へ移行する件数の割合が約四一%、四一%が
簡易裁判所に移行します結果、全体のパーセンテージから申しますと
簡易裁判所が五七%、
地方裁判所が四三%という計算になると思います。それから訴訟物の価額を二十万円までに引上げたと仮定いたしました場合どうなりますかと申しますと、
地方裁判所を第一審とする
事件が約三〇%、
簡易裁判所を第一審とする
事件が約七〇%、こういうふうに見ておる。つまりこの場合におきましては、現在
地方裁判所の管轄とな
つております
民事事件の約五九%が
簡易裁判所に移行する。五九%が移行した結果、全体申の割合からしますと
簡易裁判所が七〇%、
地方裁判所が三〇%になる。二十万円といたしました場合にも先ほど申上げました戦前の
地方裁判所と
刑事裁判所との比率一五%対八五という比率に比べますと三〇対七〇でありまして、戦前の区
裁判所には及ばないわけであります。
第一審
事件の
地方裁判所と
簡易裁判所における配分々かように見ておるわけでありますが、それが
上告審でどういうふうに
影響して来るかと申しますと、この
簡易裁判所の
事物管轄の引上げが
上告審へ
影響して参りますのは、二、三年あとになる。第一審の
判決があり、第二審の
判決を経て
上告されるから二、三年先になるわけでありまして、
昭和二十八年中に
最高裁判所で受付けました
上告事件のうち、
上告事件が総数十四百六十七件ありましたが、このうち十万円までが五七%、二十万円までといたしますと七二%がこれに該当するわけであります。これは
昭和二十八年中に
最高裁判所が受理いたしました
事件の割合でありまして、これは二、三年前の第一審
事件が
昭和二十八年中に
最高裁判所に現われておるわけであります。もとより訴訟物の価額の大きいものほど上訴率が大きいということは考えております。で、これらの点を総合して今後二、三年先に
上告裁判所に
事件が現われます場合に、どの程度に
最高裁判所の
事件が減
つて高等裁判所へ移るかという見通しをいたしますと、大体十万円まででございますと、三〇%前後ではないか、二十万円までとしまして、五〇%前後ではないか。もとより正確な数字ではございませんけれ
ども、いろいろな要素を総合いたしまして、こういうふうに見通しをいたしております。
そこで今度の
簡易裁判所の
事物管轄の引上げが、
簡易裁判所を全国に多数設けまして比較的軽微な
事件を簡易迅速に処理させるという趣旨の下に設立されました趣旨を没却することになるのではないかという点でございます。
簡易裁判所という
制度が考えられました当初の構想は、できるだけ多く全国にたくさん作りまして、軽微な
事件を早く
解決するということが狙いであ
つたのであります。そういう秘湯迅速に
民事の争いを
解決するという
簡易裁判所の機能が、主として調停によ
つて発揮されている現在であります。訴訟手続につきましてはそういう特別な簡易な手続というものが設けられていないのであります。この
意味におきまして、訴訟になりました
事件の取扱い方は旧法時代の区
裁判所と殆んど変りがないのであります。これは訴訟についての簡易手続というものを考える場合に、おのずから限度があるわけでありまして、たとえ如何に軽微であろうといえ、第一審の訴訟であります以上は、余りに簡略にしてしまうわけにも行かない。相手方の言い分も十分聞き、証拠も調べて
裁判しなけりやならんということになりますと、簡易化の限度というものがそうむやみに簡易化し得るものではない。そこで
現状は旧区
裁判所と幾らか程度の差があるという程度でありまして、訴訟につきまして特別な差異は生じていないということが一点あるわけであります。それから全国各地にたくさん設けるという点でありますが、これは
簡易裁判所の数がたくさんあればあるほど訴訟を起す人にと
つては便利なことは申すまでもないのであります。併し一面におきまして相手方のあることであり、又弁護士に依頼して訴訟しなけりやならんという人が多数あるわけであります。
現状におきましてすら余りにも
簡易裁判所が分散し過ぎておる。殊に弁護士さんをお願いしようと思
つても、なかなかそういう或る
地方の
簡易裁判所には行
つて頂けないというようなこともございます。又一面におきまして現在のように多数分散されておりますと、
簡易裁判所の
裁判官として経歴その他から見て必ずしも
理想に近い人ばかりが得られるわけではない。殊に非常に技術的な訴訟でございまして、
専門的な訓練を経た
裁判官として必ずしも適任と言えない人が配置される虞れもあるというようなこともございます。
簡易裁判所というものを将来どういうものにすべきか、もつと集中的に配置すべきか、又
簡易裁判所で取扱う
事件の
範囲をどうするかということは、これは
裁判所の
機構全体の問題の一環といたしまして今後も検討して行かなければならないことでありまして、この
法案におきましては二十万円まで引上げることといたす半面、
民事の
訴訟事件を取扱う
簡易裁判所を或る程度限定するということを考えたわけでございます。