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高田なほ子君 それでは
大臣に、北九州の炭鉱地帯が最近非常に困窮状態に陥つたために、家庭の困窮度の限界底をつき、それによ
つて及ぼす
教育上の諸影響について、緊急の
措置をとらなければならないと考える諸問題について、お尋ねをしたいと思います。
先ずお尋ねする前に、御
承知のように全炭鉱数の九制を占める中小炭鉱の、その五割を占める北九州の炭鉱地帯は、昨年の六月の大
水害が
復旧しない。それに加えて最近の金融引締に伴
つて、賃金の不払い、それから首切り、或いは山を全然休んでしまうというような悲惨な状態に陥らされておりまして、北九州一帯の炭鉱業関係者の家庭生活の困窮の度というものはお話にならないという状態を呈しているということは、最近の各新聞又いろいろな報道によ
つて知ることができるわけであります。具体的に生活が苦しく
なつたために労災保険を目当てにする。そのために指を切
つて労災保険を生活に当てなければならないというような、とても想像の及ばない困窮状態が来ている。又炭鉱地帯における家庭の主婦達は、
附近の山の「わらび」とか「ふき」というような野草を採
つて漸く生活の足しにしているというような状態でありますが、新目尾の炭鉱では、約三千五百万という賃金の未払いを残したままで全員炭鉱坑夫が解雇にな
つてしまつた。この中で失業保険をもらう者もあればもらえない者もある。何故もらえないかというと、失業保険に入
つておらない者、それから失業保険費をもらうために町まで行くバス代四十円というものを持合せがないために、わざわざここでは職安が新目尾の炭鉱地に
出張して失業保険費を払
つているという状態、勿論家庭の主婦
たちは
附近の山の山菜を採
つて生活に当てなければならないというような、実に傷ましい状態であるし、筑紫炭鉱でも半年間に約坑夫の収入が現金で一万円ぐらい、現金の支払いができないために金券支払いをしているので、長い行列を作
つて味噌とか醤油とかいうようなものを漸くと
つている。従
つて家庭では、炭鉱の長屋を覗いて見ると、殆んど長屋の中には箪笥のようなものも、茶箪笥のようなものも影をひそめて、漸く二、三枚の煎餅布団がここにおいてある。
附近の質屋ではこれらの品物を三分の一ぐらいに安く買いあさ
つて、誠に悲惨な品物が質屋の店頭に並んでいるという状態であります。今日突然この
文部委員会にお見えに
なつた佐賀県の岩屋炭鉱の状態を伺
つて見ましても、やはり非常に悲惨な状態が繰返されているようでありますが、労働組合が失業者をどういうふうにしたら生活を得させることができるかというので、土方などに
斡旋をしているそうでありますが、とてもそれでは間に合わない。それで家庭の主婦が川の葦を切
つて葦簾を作
つて一枚の作り賃が五円くらい、幾ら働いても大体一日二十枚か三十枚というような状態であ
つて、誠にお話にならない状態である。ここに傍聴にお見えに
なつた佐賀県の
高等学校の
書記長の先生が、先ほ
ども、お母さん方をお慰めしようと思
つてお話をしていても涙ばかりでお話さえもできないような状態であるということを言われましたし、質屋に行
つて見ると、
子供の長靴のようなものまでも鍋、釜と共に質屋に入
つているというような誠に気の毒な訴えをされているわけであります。私
どもは文部
委員という
立場に立
つて、家庭の生活環境が
子供の上に及ぼす諸問題については、とても見遁すことのできない問題でありますし、なかんずく婦人新聞の報道によると、この影響は、遂に
子供が級友の弁当を盗むというような、想像もつかないような
教育危機に見舞われることが実は報道されているわけであります。この報道は、長崎県の岩松炭田を中心にしたところの長崎県
教育長が、岩松地区の小
学校十九校を
対象にして
調査をした例でありますが、この例は、長期欠席或いは短期欠席或いは欠食児童、栄養不良というような具体的な数字が上
つております。
参考のために私はこれを取上げて読んで見ますが、岩松炭田の児童の
状況は、長崎県
教育長を中心にしてこれが調べられたのでありますが、
調査町村は佐志町ほか八町村、
調査学校数は、小
学校十九校、中
学校十四校、うち炭鉱児童は、小
学校一万三千六百八人、中
学校四千四百六人という数字でありますが、殆んどがこれらの小
学校は炭鉱に働くところの家庭から通学している
子供によ
つて占められているのでありますが、こういう数字の中で、長期欠席者が小
学校で四百九十三人、中
学校で三百五十二人、その
理由は、欠食のため。教科書が買えないため。貧困で親類に寄食中である、居候に行
つている。それから炭鉱が休んでいるために生活が困難である。父が失業している、休職のために家出をしてしま
つて、父親が行方不明である。両親が出稼ぎで留守番のためにという六つの
理由がこの長期欠席児童の上にかけられている重要な原因にな
つているわけであります。続いて短期欠席者は、小
学校は三千二百五十人、中
学校が千二百二十三人。その
理由は、衣類がない。食事がない。
教育費が納められない。これ又重要な
理由がここに三項上
つております。更に欠食児童の
調査をしたのを見ますと、朝食事を食べて来ない
子供、小
学校で五百一名、中
学校で二百九名、昼食事をすることのできない者、小
学校八百五十一人、中
学校四百二人、夜食事をすることのできない者、小
学校二百五十六人、中
学校百六十三人。その
理由は、金券で米が買えない、つまり現金がないために米が買えない。それから休校、賃金の不払い、失業のため。三番は代用食で弁当を持
つて行けない。おかずが全くない。こういう傷ましい
理由によ
つて、朝、昼、晩の欠食児童の数が極めて大きな数字を示しております。更に栄養不良の
子供たちは、大体小
学校で三百九十七名、中
学校が三百八十四名、その状態はどういう状態にな
つているか。顔色が悪い。体重が減
つている。居眠りばかりしている。こういう状態です。私
どもは戦時中
子供子供のあの食糧が不測のときに、居眠りをする児童があつたことをつきとめたときに、これが栄養不良だということを知
つて非常に私
どもみずからも驚いた経験を思い出しまして、胸が詰まるような状態であります。それからいろいろな経費を納入することができないという児童の数でありますが、
PTAの会費を払うことができないという者が、小
学校千二百十六名、中
学校は七百四十人。
学級費を払えないという者が、小
学校千二百五十八名、中
学校が六百六十一名。その
理由は、父が失業している。食生活に追われている。金券のために現金が一文もない。それから給料不払いのためにこれ又現金がない。続いて学用品の、或いは又服装が非常に困
つている状態ですが、小
学校千八百六人、中
学校六百五十人。その状態は、シャツがない、ノ—ト一冊を教科書代りに使
つている。四季を通じて一着しか着るものがない。教科書がない。これ又誠に哀れな状態です。それから最後が問題にな
つて来ると思う。最後はこういうような生活環境の中で、
子供たちが悪意を持たないところの非行をあえてしている。この数は、小
学校五十二人、中
学校四十九人。その状態はひもじいので人の弁当を盗んだ。学友の金品を盗んだ。万引をした。古鉄を盗んだ。こういう状態です。昼の食事のためにザリガニをと
つている
子供が非常に多く、又生活を補うために古鉄のようなものをほじ
つて学校を休む
子供も多いと私は具体的に聞いておる。北九州の炭鉱の生活苦というものはこれはいろいろな条件が重な
つておるので、私
どもは今その原因をここで追及しようとは思いません。ただ
文部大臣にこの際どうしても善処願わなければならないのは、これらの欠食児童に対してどういう手を一体私
たちは伸べて行かなければならないのか。又学用品も買えない
子供たちが盗みにまで入
つて行く現在の
状況というものをどういう方法で一体救
つて行くのか。これはいろいろな
法律や手続もあるでしよう。けれ
ども私
どもはこうしたデ—タを挙げての、僅か十九校のデ—タではあるけれ
ども、これは北九州の炭鉱地帯における中堅炭鉱の
状況でありますから、もつと下の貧困な炭鉱地帯に行けば恐らくこれ以上の悲惨な状態が出て来るのではないだろうかと想像されるのです。私は
教育庁のこうした愛情の上に、ここに作り上げられたデ—タを新聞報道をこのままこの数字を信じまするときに、どうしても緊急な
措置をと
つてもらわなければならないと思いますが、文部省としましてはいろいろの新聞報道でこういう
実情も或いは御
調査にな
つているのではないかと思いますが、先ず
実情の
調査がされておるのかどうか、長期欠席者、或いは短期欠席者に対して文部省当局としてはどういうような手を打とうとするのか、或いはこれらの学童給食が行詰
つている
子供たちに対して何らか緊急な
措置はとられないものか。私は本当にヒユ—マニズムという
立場の上に立
つて大臣からこの点についての具体的なお考えをお伺いしたいと思います。