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岡田宗司君 私は社会党第四
控室を代表いたしまして、
防衛庁
法案並びに
自衛隊法案に対しまして反対をいたすものでございます。
第一に、この
自衛隊法案に基いて作られますところの
自衛隊なるものは、明らかに
日本国憲法第九条に違反するものであると断定せざるを得ないのでございます。
自衛隊法案の第三条に、「
自衛隊は、わが国の平和と
独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を
防衛することを主たる
任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当るものとする。」、こうありまして、これは
保安庁時代におけそいわゆる保安隊の
任務とは非常に違つたものにな
つておるのであります。即ち
保安庁法におきましては、この点について「
保安庁は、わが国の平和と秩序を維持し、人命及び財産を保護するため、特別の必要がある場合において行動する部隊を
管理し、運営し、及びこれに関する事務を行い、あわせて
海上における警備救難の事務を行うことを
任務とする。」、かようにな
つておるのであります。かように保安隊から
自衛隊へと変化いたしますと共に、公然とこの
自衛隊は直接侵略並び、に間接侵略に対抗する武力としての存在になるわけであります。従いまして、これは私
どもの常識からいたしますならば、明らかに軍隊と言わなければなりません。これに対しまして
政府側は、
総理大臣或いは
木村保安庁長官も
緒方副
総理も、そのほかすべての大臣たちは、たとえ保安隊が
自衛隊に切り換えられてもこれは軍隊ではない、こう言
つておるのであります。併しながら
木村保安庁長官は、若し直接侵略並びに間接侵略に対抗する武力が軍隊と呼ばれるならば軍隊と呼ぶのもよろしかろう、こういうふうに言
つておる。併し自分は軍隊だとは思わぬ、軍隊というものの定義如何によるのだと、こういうことを言
つておるのでありますが、
木村保安庁長官の言う軍隊なるものの定義は示されておらないのであります。併し、世間において直接侵略並びに間接侵略に対抗する武力が軍隊であると呼んでおるならば、保安隊或いは
自衛隊を軍隊と呼ぶもよろしかろう、こういうことは、明らかにこの
自衛隊が実質において軍隊であるということを認めたものにほかならない、こういうふうに私
どもは感ぜざるを得ないのであります。ところで、この
自衛隊なるものの内容を検討してみますならば、明らかに軍隊であることに間違いはない。殊に今次の
増強計画によりまして、
自衛隊は三年の組織を持つことになるのであります。陸軍に当りますところの
陸上自衛隊、海軍に当りますところの
海上自衛隊、空軍に当りますところの
航空自衛隊、こういうふうに、これはもう明らかに軍隊たる実質を備えて来ておる。この事実に対しましては、さすがに
政府もこれを
はつきりと軍隊でないと言い切ることはできなくな
つて参りました。そこで、この軍隊なるものの定義がだんだん変
つて参りまして、戦力なき軍隊などというとんでもない定義をお作りにな
つて、そしてこれが憲法に言うところの戦力ではない、こういうふうに断定されておるのであります。先ほど私
どもは
保安庁の当局者から、この
自衛隊が持つところのいわゆる戦力の程度について聞いたのでございます。勿論旧帝国陸軍時代から見ますならば、成るほど火力もその当時の三倍くらいのものを持つようであるし、或いは機動力も持
つておるようであります。併し、全体として見ますならば、或いはいわゆる近代戦に堪え得ざるところの極めてちやちな軍隊である。
従つて、そういう
意味ではまさしく戦力なき軍隊と呼ばれるかも知れません。恐らくこれはいわゆる強固の軍隊と開戦をいたした場合には戦力なきことを証明するものでありましよう。併しながら、そうだからと言
つて、これが軍隊でない、そうして又憲法に規定する戦力でないとは言えないのであります。これは今後立派に戦力になり、そうして軍隊になる素質を持
つておる。本格的な軍隊になる素質をこの
自衛隊法によ
つて備えるに至
つておるのであります。従いまして、これが憲法に違反するものであることは誤まりもないことであります。憲法の第九条におきましては、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」こういう言葉が出ております。この
陸上自衛隊、
海上自衛隊、
航空自衛隊は陸海空軍でな、いというのは名だけであります。実質は軍隊であることは間違いない。陸海空軍であることは聞違いない。仮に一歩譲りましてこれが陸海空軍でないといたします。そういたしますならば、これは何になるか。こここに含まれるところのその他の戦力になることは明瞭であります。近代戦を遂行する能力、攻撃をする能力を持
つておらないにしても、これは戦力の卵であることは明瞭であります。従いまして、仮に陸海空軍でないと一歩を譲りましても、このその他の戦力のうちにも入るべきものと、こう言わざるを得ない。そういたしますと、これは明らかに又憲法違反の実質を備えたものである、こう断定せざるを得ないのであります。
政府は最初に警察予備隊を作りまして、その際におきましては、これは警察の
任務を帯びるものである。普通の警察を補うところの力であ
つて、専ら国内の治安の維持に当るものである。こう
説明をして参りました。併し、その後漸次
増強されて保安隊になり、今日
自衛隊に発展して参
つておるのであります。だんだんに、おたまじやくしの足が取れ、しつぽが取れて、一人前の蛙になりつつある、こうな
つて参りますならば、これは憲法に合わない存在にな
つて参ります。そこで、この
自衛隊が憲法に合わなくな
つて参りますというと、
政府といたしましてはいずれ憲法を改正せざるを得ないことになるでありましよう。それを企てざるを得なくなるでありましよう。
吉田首相初め現
政府の人々は、現在の段階では憲法を改正する必要はない、こう言
つております。併しながら、すでに子供は成長いたしまして、もはや三つになりました。子供は産衣を来ておるわけには参らなく
なつた。こういうような段階に達した。そうして、
首相も又
国会等におきましては憲法改正をするということを断定はしておりませんけれ
ども、すでに自由党におきましては憲法改正を調査する
機関ができ、憲法改正の準備を着々と整えつつある状況にあるのであります。従いまして、かような憲法違反になるところの
自衛隊を設け、これを漸次
増強して本格的軍隊にいたしますと共に、この憲法を改正して行こうということを企図していることは明らかであります。私
どもは、現在の憲法がいろいろな点におきまして不備もあるかも知れません。又その成立の過程におきまして、これは
アメリカ側から草案を押付けられたものであるというようなことから、これを改正しなければならんという
意見があるかも知れません。併しながら私
どもといたしましては、平和を守るためこまこの憲法を守
つていかなければならんと
考えております。
自衛隊が今日憲法違反であり、更にこれを発展さして
行つてこの憲法を脱ぎ捨ててしまう、弊履のごとく捨て去ろうということに対しましては、飽くまでも社会党といたしましては反対せざるを得ないのであります。そういう
意味におきましては、この
防衛庁法、
自衛隊法に対しては、飽くまでも憲法違反の立場から反対せざるを得ないのであります。
第二に、この
自衛隊なるものは、一体本当に
日本の
防衛の必要から生まれ、そして、その目的のために組織され、これが
増強されているのだろうか。断じてそうではないのであります。
政府当局者は、これは
日本の
防衛のためである、こう言
つております。併しながら、この
自衛隊の前身である保安隊、その又前身である警察予備隊が置かれました状況から断じますならば、先ず警察予備隊が置かれましたのは、朝鮮事変が起りますと同時に、マツカーサ一元帥の一片の命令によりまして、何ら
国会の
承認を経ることなく放置されて参りました。その予算も又
国会の
承認を経ずして支出されてできたのであります。更に警察予備隊が保安隊になりました。七万五千は絶対に殖やしませんと言
つておりましたものか、
ダレス氏が
日本に参りまして、そして警察予備隊の拡充を
日本政府に要求いたしますや、
日本政府はこれを容れまして、警察予備隊七万五千を十一万に増加し、又
アメリカから武器を受けて、これを一属本格的軍隊にし、更には
アメリカから十八隻のフリゲート艦或いは又五十隻の上陸支援艇を貸与されまして、そして海軍を作るに至つたのであります。警察予備隊が保安隊に
増強されました事情を見ましても、当時の
日本の置かれました情勢から、
日本が殖やすべきものであると判断してやつたのではなくて、
ダレス氏によ
つて押付けられたものである。即ち
アメリカが
増強を必要として
日本に押付けて参
つてこれが殖えたということは当時の事態から明らかであります。又、最近これが
自衛隊にな
つて、いよいよ本格的軍隊化して参りました。これが更に十三万に
増強され、海軍、空軍が置かれることにな
つて参りました。このいきさつを見ましても、
アメリカからの要求であることは明瞭であります。即ち昨秋池田勇人氏が
首相の特使として向うに渡りまして、ロバートソン国務次官補といろいろと
日本の軍備並びに
アメリカからの援助という問題について協議をしたのであります。その内容は
発表されておりません。新聞等に
発表されたところを追及いたしましても、
政府は言を左右に托してその内容を言わないのであります。併しながら池田・ロバートソン会談、その後東京に移されました
岡崎・アリソン会談、そういうようなものから推して参りまして、又その後成立いたしました、今
国会において
承認されましたMSAの援助協定、こういうものから見ますならば、明らかに
自衛隊も又
アメリカの要求によ
つて増加されておることは明らかであります。更にこの増加の
計画につきましても、
日本側において五カ年
計画とか或いは三カ年
計画ができておるのかということを私
どもは追及しておりますが、
木村保安庁長官その他はこれについては何ら
答弁を与えません。勿論細かい具体的
計画は或いはできておらんかも知れませんけれ
ども、
アメリカとの話合いによりまして、そうしてこれを漸次
増強して行くという一種の枠が成立しておることは、いろいろな点から推断して誤りはないと思うのであります。来年度におきましても
自衛隊は更に
増強され、更に三十一年度におきましても
増強されるでありましよう。その後において更にそのテンポは早くなるものと、私
どもには推測されるのであります。
然らば
アメリカは何故に
日本に対しまして警察予備隊を設けさせ、又これを
増強さして保安隊とし、これを
自衛隊に発展さしたのであるか。これは
アメリカの
世界政策、
アメリカの戦略から来ておるものと断定せざるを得ないのであります。
アメリカはソ連と対峙しております。
アメリカは相対立する二大陣営の一方の旗頭である。そうして
世界においてソ連と対抗する軍備
計画を進めておる。これは単に
アメリカが各地に基地を持ち、
アメリカの軍隊をそこに配置しておるだけではない。
軍事同盟国を求め、その国々にいわゆるMSA援助を与えて軍備を強化させ、いざという場合に
アメリカの戦略に
従つて、而も
アメリカの将軍の指揮下にこれを置いて使う、こういうような方法で
各国における軍備を促進しておるのであります。
日本と同じように戦いに敗れ、軍備をことごとく禁じられました西ドイツにおきましても、今日
アメリカは再軍備を促進しておるのであります。それと同様な立場において
日本における再軍備を推し進めておるのであります。即ち
アメリカは、東洋におきましては、中国が共産党の治下に入り、更に朝鮮におきましてああいうような事件が起りましてから、東洋における
アメリカの戦略地点を固め、又東洋における人的資源に目を付け、
工業力を動員して、それを
アメリカの
世界政策と戦略目的のために使わんとしておるのであります。
アメリカは
日本の
位置に目を付けております。そしてこの
日本にたくさんの
軍事基地を占領以来引続き保有し、多くの
アメリカの軍隊を駐屯さしておる。而も地上軍につきましてはこれを漸次現地軍に置換えようという基本的な
方針を持
つておりますが、海軍、空軍はいつまでもこれを駐屯さして、そして
アメリカの戦略目的のために役立たしめようとしておる。又それぞれの国の原料なり
工業力をそれに利用せんとしておるのでありますが、同時にマン・パワーに眼を着けておるのであります。
アメリカは自分たちの生産いたしました、そして朝鮮事変において余つた武器を
日本に押付け、そして
日本の青年を武装いたしまして、
アメリカ軍を引揚げた代りに現地軍としてネーテイヴ・アーミーズとして使おうとしておるのであります。このことは露骨には成るほど言
つておりません。若し
アメリカが
日本の国内におきまして露骨にこのことを明示して、
政府に再軍備を押付けて参りますならば、
国民から猛烈な反対が起るのでありましよう。そして
国民の反米態度というものは非常に強くな
つて参るでありましたう。
従つてアメリカはさようなことはいたさないのであります。そして
日本政府に圧力を加え、
日本政府が自発的に再軍備の方向をとるという形をとらえ、この
自衛隊を
増強せしめておるのであります。自由党
政府はこの
アメリカの政策に協力をいたしまして、今日
アメリカの戦略目的によ
つて動かされるところの
自衛隊を作りつつあるのであります。私
どもにとりましては迷惑も甚だしいものと言わなければなりません。我々はこの
自衛隊が、
アメリカから見ましてネーテイヴ・アーミーズとして、そしてこれが動員されるということに対しましては心から憤激を感ぜざるを得ないのであります。この点を
考えまして、私
どもはこの
自衛隊の本質であると断じ、そしてこれに反対せざるを得ないのであります。更にこの
自衛隊の
増強について、私
どもは怪訝に堪えないのは今次十一万の保安隊が
増強されて十三万になる。或いは
海上自衛隊、
航空自衛隊が
増強されて行きますが、若し本当に
日本の国を守るというのでありましたならば、当然やはり一定の
国防計画がなければなりません。行き当りばつたりに
アメリカからの要求によ
つて殖やすというようなことはないはずです。ところが
増強計画は、三年
計画とか、或いは五年
計画というものがないと、こう言
つておるのであります。私
どもはこれは信ずることができない。恐らくすでに一定の基準があ
つて、これをや
つておるのだろうと思うのでありますが、
政府はこれを
国会において明らかにしないのであります。我々が如何にこの点につきまして
政府に問い質しましても明らかにしておらんのであります。如何なる国におきましても
国防に一定の
計画がないなどということはも
つてのほかであります。勿論、
防衛庁法におきまして今度
国防会議が設けられることになります。そしてこの
国防会議におきまして、
国防の基本
計画等が論ぜられることになる。そうしてそれが作られることになるのでありましよう。併しながらその以前におきましても、今日
増強が行われるには一定の大体の
計画によ
つておるものと言わざるを得ないのでありますが、これに示されていない。
従つて今後これはどういうふうに殖えて行くのか、又これが
日本の経済力との
関係においてどういうふうな
位置を占めるのか、そういうことが明らかでないのであります。そういうような点から見ましても、私
どもはこの
自衛隊計画が全く行き当りばつたりである、こういうふうに断定いたしまして反対せざるを得ないのであります。而も本年は
日本の経済を見ますというとよくない。
日本の経済は輸出入のバランスがとれておらんのであります。特需によ
つて支えられておる。或いは
アメリカから若干の外資導入或いは海外からの援助というようなことで支えられて参
つておりますが、それでもなお且つ多くのドルを失いつつある現状であります。
政府はこの状況に驚きまして、そうして本年の予算はいわゆる緊縮予算といたしましていろいろな費目をぶつた切
つておるのであります。その結果、
日本は今日一種の不況の状態に立
つておる。毎日の新聞を見ますならば、中小企業どんどんと倒産をしておる。又多くの失業者が出て来ておるのであります。単に中小企業や或いは労働者が苦しんでおるだけではない。
相当大きな企業にも波及して参
つておりまして、不況は漸次深刻化しておるのであります。恐らく昨年から見まするならば、
国民所得が殖える、そうして
増強計画に対して何ら経済的負担にならないなどということはあり得ない事態にな
つておるのであります。然るにもかかわりませず、こういう中において、
自衛隊を
増強するためにのみ、その項目のみ多くの予算を殖やして来ておる。即ちバターか大砲かというような問題、これが私
どもの眼の前に迫
つておるのであります。我々は、
国民経済を圧迫し、
国民の生活を塗炭に陥れてまで、
アメリカから要求され、
アメリカの戦力の戦略目的によ
つて動かされるがごときネーテイブ・アーミイを作ることには断乎として反対せざるを得ないのであります。而もこの軍隊は、単なる国内において、
日米安全保障条約によ
つてアメリカ軍と協力をして
日本を
防衛するというだけのものではないようであります。行政協定の二十四条等から疑われますことは、海外派兵の問題であります。若し長官或いは
総理の言明のように、海外派兵が憲法上の建前から行えないものである、又行わないというならば、
国民は安心するはずでありますけれ
ども、今日この
委員会において海外
自衛隊の
海外出動をなさざるの
決議案が出るような事態は、海外派兵の危険があるということを物語
つておると言わざるを得ません。
アメリカはそのために
自衛隊を育てておる。又、私
どもは、インドシナにおける擾乱から結果いたしますところの東洋における
形勢の変化、特にジユネーヴ
会議等が決裂いたしました後に起るであろうところの事態、即ち
ダレス長官が言う太平洋における
防衛同盟、或いはSEATO、こういう
軍事同盟を作りまして、
日本が若しこれに参加することを強要されるといたしまするならば、そのときには、憲法があろうが、何があろうが、
アメリカの実力によ
つて海外派兵を厭でも応でもなさざるを得ない状況に追込まれることも又予想せざるを得ないのであります。私
どもはかようなことから見ましても、今日
アメリカの要求に
従つて易々諾として
自衛隊を作るがごときことには断乎として反対せざるを得ないのであります。なお多くの点におきまして、私はこの
自衛隊並びに
防衛庁法に反対せざるを得ない理由があるのでございますが、すでに時間でございますので、これを以ちまして私の反対討論を終りたいと存じます。