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公述人(芹澤
彪衞君) 武蔵大学の芹沢
彪衞と申します。いろいろ資料を読み上げるので、誠に恐縮でございますが、座
つたまま
公述さして頂きます。
私のほうは大体、学校でも経済のほうの政策学を担当しております。今回提案されております二つの
法案の
法律上の問題或いはいわゆる
軍事専門的な問題にはお答えいたすほどの力を持
つておりません。むしろその背後にある経済問題について私の
考えました限りのことを簡単に御報告さして頂きたいと思います。
先に結論を申上げますならば、大体現在の
日本の経済の実情から見て、これも条件でございますが、大きな規模の
軍備がなされれば、
日本の経済は非常な危機に入るのではないだろうかと、こういう感じがいたします。私どものほうの学問では
法律の解釈のようにばちつと割切れませんので、感じがいたしますという
程度でお許し願いたい。従いまして仮定と、それの仮定の上に立つわけでございますから、当然経済上の問題が今回の
法案にどういう
関係があるかということを少し
考えてみたいと存じまして、頂きました資料その他、新聞その他で再
軍備論と、それからその
反対論でございますが、どういう種類があるかをいろいろ見てみますると、どうもこれは学問的に分けるというわけにも行かない。と申しますのは、一般の
政治的論議というものは非常に
言葉が物を言うものですから、まあ非常に非科学的な分け方でございますが、通俗的に申しますと、いろいろの
議論があるようであります。
再
軍備の論拠のほうを見ますと、一番多く言われておるのは、独立国であるから
軍備がなくてはならないという
議論がございます。これは私よくわかりませんが、独立国であるから
軍備がなく
ちやいかんということは、実は
考えてみたら私もついひつかか
つたのですが、一般の世論なり、或いは
議会で論議されておるのは、独立国に
軍備が要るか要らないかということが
議論されておると思います。独立国に
軍備が要るか要らないかということが
議論されておるときに、独立国は
軍備がなくちやならないというて出発したのじや、これは結論が出発点にな
つておりますので、これは理論的に論理学と申しますか、非常におかしいことではないだろうかと思います。これは衆議院の賛成討論などにも出て参りました。その他にもありますが、これは恐らく
言葉の綾だろうかと思います。それでそれ以上よく掘下げて
考えますると、どういうことかというと、私の感じからいたしますと、
一つは大体今までそうだ
つた、世界中どこを見ても独立国は
軍備があ
つたから、
日本も独立国なら
軍備が必要だ。これが一応出発点になるのじやないかと思います。少しこれは脱線するかも知れませんが、例えばマックス・ウエーバーなんかの、つまり
政治的な正当性、何が正しいかといういわゆるエヴイヒ・ゲストリゲ、永遠に昨日のもの、今まであ
つたものはこれからも正しいという
考え方、人間の心を非常によく支配する、恐らくそういう
考え方が、これは社会学と申しますか、或いは倫理学で問題になるかと思います。これが
一つであります。もう
一つは衆議院の辻さんが
発言された中に、動物でも植物でも、つまり生きるためには守らなければならないのじやないか、即ち守ることは生きる手段である、だから国も生きるためには守らなければならん、こういう
一つの
議論があ
つたと思います。私はこれについて一々
専門外でございますから結論は御遠慮申上げます。
皆様方がお
考え頂きたいと思います。
それから第二の
議論としましては、これはこの分け方に入るかどうかわかりませんが、大戦不可避論とでも申しますか、第三次大戦は避けられないということが論理のいつも出発点にな
つておるようでございます。これも
一つの問題だろうと思います。
それからその次には侵略
防衛論と申しますか、
外国から侵略をされる。この
議論が非常に一般にも
議論され、
議会内でも
議論されておるようでございます。これは恐らくはもう暗々裡のうちに中ソの侵略という
立場じやないかと思います。衆議院の賛成討論の中にも
はつきりおつしや
つたかたもあるように読まして頂きました。
それからその次は、玩具
軍隊必要論とでも言いますか、衆議院の中でしきりと玩具の
軍隊ということが出て来ました。これも恐らくは一の独立再
軍備論と結び付き、或いは侵略
防衛と結び付いて補助的な論理でむしろ消極的な
意味かと思います。
それからもう
一つよく出て参りますのは、小国との紛争防止に役立つ、これは具体的に申しますと、つままり韓国との紛争で
日本が
軍備がないから、
日本に
軍備が必要だという
議論の論拠にな
つております。これは念のため申上げますが、私は別にこれに積極的反論を挙げるわけじやありませんが、大体主流は侵略国に対して
日本を
防衛するという論議から再
軍備論が出ておるように存じます。そうしまして、論議の都合上今度は韓国が出て来るようでありますが、一体その場合にその再
軍備は韓国から侵略されるための再
軍備であるか、或いは中ソから侵略される再
軍備であるということは、これは十分国会において御検討頂きたい点だと思います。
それからその次に、これも滑稽ですが、止むを得ないから再
軍備をするというような分類ができると思います。これは一は既成の事実、すでに例えば予備隊であるとか
保安隊というものは実質上
軍隊ではないか。だからこれはもう育てるよりしようがないという
考え方。それからもう
一つはアメリカから
要求されて、どつちにしてもアメリカに
反対できないじやないか。長いものには巻かれろと申しますか、そういう
意味で止むを得ない、この没法子の
考え方に二
通りあるように感ぜられました。
それからその次には失業対策論、これは別に積極的に再
軍備論を主張されるかたの表向きの
議論ではないと存じますが、これも衆議院の
反対討論の田中さんの中に、失業対策、恐らくは再
軍備については、この不景気のときに、そういう
保安隊、或いは更にこれが大きくな
つて、
相当の
予算で人員が、そこで何と言いますか、使われるならば、失業対策になるのじやないかという、これはかなり根強く一般の大衆に影響する問題かと思います。
それから
最後に、産業救済と申しますか、
日本の経済を立てて行くには再
軍備が必要である。もつとこれを細かく絞
つて参りますれば、特に
兵器工場或いは
兵器に
関係するいわゆるパワー・ポテンシヤル、潜在的な兵力に亘る産業、特に重工業を維持するためには再
軍備が必要です。これはこういうふうに分けられるのじやないかと思います。私は素人でございますから、そのうちの主に
最後の経済問題はどうであろうかというところに問題を絞らして頂きたいと思います。
そこでこれは私自身が実は申上げるのはもう――ここにお偉い方々のお書きに
なつたものを持
つて参
つておりますが、それを一々引用さして頂きますが、例えば有澤辰巳――東大の経済部の講義をや
つていらつしやる――という先生が、今年の四月「世界」にお書きにな
つている、これに前説があります。恐らくはこれは進歩的な
要素から、前にお書きに
なつた論文がだらしがないじやないかということに対する弁明だと思いますが、経済の論理という
言葉を
使つておられます。経済の論理というものは、あれがいいとか、これが悪いとか
議論する、その基礎に、つまり経済というものが、或る
意味じや自然法則に近いものがございまして、どうしてもそうなるよりしかないというものがありはしないか、それを拘束して来たらこうなるのじやないか。経済学というものはその線を押して行くのが本来だから、やはり経済の論理を追究しているのだ。その結果がどうなるかということは、それぞれの位置にある方々に考究と申しますか、それぞれにおいて
考えて、その判断の上に
行動をきめてもらいたいという
立場かと存じます。私も大体同じような
考え方をと
つております。
そこで非常に面白い例を捉えておりますが、それは
日本の現在の事情というものが、普通には二つの問題が与えられている。その
一つはつまり「せねばならない」ものが二つある。それは
一つは「再
軍備をせねばならない」、それからもう
一つは「
日本の経済を健全化せねばならない」、この二つの「せねばならない」がどうなるかというのが、いわば
日本の経済にと
つて一番重大な問題である。
ところがこれをよく
考えてみると、今の段階はもう一歩先へ進んでいるじやないか。少くとも去年の夏以来でございますか、つまりMSAの問題が出て来る。戦後にな
つての
日本経済の問題としましては、その二つが並んでせねばならないではないので、相互に結び付きが出て来たのだろう、つまり再
軍備のためには経済を健全化せねばならない、経済を健全化せねばならないというのは、去年の秋からのいわゆる金融引締め、或いは膨脹財政、放漫財政を締めて、まあデフレ政策と申しますか、少くとも今のようなインフレ的な政策をとめなければならない、とめなければ
日本の経済は破壊する、こういう
考え方、それで再
軍備のために
日本の経済を健全化せねばならない。或いは噂によりますと、噂によりますというのは、私ども直接存じませんが、新聞記事その他で読むわけでございますが、アメリカ側から、再
軍備の援助をするには、
日本の経済を健全化しなければ援助ができない、こう言われておる。従
つてアメリカの
要求に従
つて、急激に
日本のいわゆる一兆円
予算というものが、思いもよらないときに出たというのが通説のようでございます。嘘か
本当か私は存じませんが、経済学としてはそれは予想できる。別にアメリカから
要求されなくても、私どもの
言葉で、
言葉でというのは少し悪いのですが、資本主義と申しますが、
日本の現在の社会は資本主義だと私どもは
考えておりますが、資本主義の社会では通貨を安定しなければ経済は保
つて行かない。通貨を安定させるためには当然に財政を締めなければならない。今のような状態を抑えなければならない。これがデフレであるか、或いは横這いであるか、デイス・インフレと申しますが、であるか私は存じませんが、いずれにしても、アメリカから要請しなくても、
日本の現在の社会
制度を保持される方々は、それを
努力しなければならないものかと思います。ですからいずれにしても差支えないわけで、再
軍備ということが行われる条件としては、健全化が必要であるという命題が当然
考えられる。ところが今年にな
つて考えてみると、今やその余裕もないんだ。つまり現在は健全化せねばならないために再
軍備せねばならないという引つくり返
つた形にな
つて来た。つまり
日本は非常に窮地に入
つて来た。経済的に窮地に入
つて来て、これを生かして行くためには何か。つまりむずかしく申しますと、購買力、
日本の資本主義に対する一定の購買力が附加えられなければ輸出は駄目であるし、何かそうしなければ駄目だ。これは御承知のように特需がだんだんと減
つて参りまして、全体として
日本の外貨手取りもない。外貨手取りがないということは、同時に
日本の原材料の輸入、或いは食糧の輸入が困難になり、八千万の生活にすぐ響くという、非常に切羽詰
つた問題にな
つて来たわけでございまして、それが特需のなく
なつた今日において、これをどうするかということになれば、何かそこに方法はないか。そこでその唯一の方法として再
軍備が
考えられたんじやないか。つまり健全化せねばならないために再
軍備をせねばならない。で、この場合にこれは不可避的にアメリカの援助というものが出て参ります。このMSAによる援助、これを有澤先生はかなり皮肉な表現を
使つております。私が申すのでありませんが、再
軍備落下傘論、いよいよ
日本の経済が切羽詰
つて飛行機から飛び下りなければならないが、落下傘を持たなければそのまま墜落死する。それで落下傘を持
つて飛び下りなければならない。つまりMSAはその落下傘に当る。ですから通俗に申せば、この落下傘を持
つて飛び下りるのに、落下傘が果して開くか開かないか、或いはその落下傘が
人命を、つまり飛び下りた人の生命を、
日本経済を保たせるだけの大きさを持
つておるかおらないかということが経済上の大きな問題になると思います。
これが現実の問題でございますが、当面、去年から今年の問題にな
つておるのは、二十七年度は
外国貿易でともかくも一億ドル足らず受取り超過にな
つておる。これはかなり厖大な特需があ
つた上で、僅かに一億ドル足らずの受取り超過にな
つておりますが、二十八年度になりますと、結局
相当な特需もありながら、なお三億一千三百万ドルの赤字に外貨がな
つております。でありますから、当然二十七年度末、つまり二十八年、昨年の三月末の手持ち外貨が十億六千万ドルある。それが今日では計算上七億四千七百万ドルしかないということになります。而も御承知のようにその中にはインドネシアに対する輸出の焦げ付きが約一億二千万ドルある。これは引かなければならない。それから韓国に対して三千万ドル、これは話合いがつけば戻
つて来るかも知れないという、新聞紙面ではまだ未確定らしゆうございます。併し一応危険なものを帳面から落すとすれば、残
つたものは六億ドル足らずにな
つておるんじやないか。一体今後の
日本の貿易をどうしてや
つて行くか。八千万の生活をどつから押して行くかという問題が当面の問題にな
つております。今年の外貨
予算では大体一億ドルくらいの赤字は止むを得ないだろう。そのうちに何とか
日本の貿易も立ち直るだろうというので、外貨
予算か上期だけには立てられておるようであります。細かい数字をここに持
つて参りませんでしたが、大体は大きいところで御了承願いたい。
でありますから、当面の問題としては外貨貿易のバランス、つまり外貨貿易が中心にな
つておりますが、外貨収支のバランスを何とか安定させなければ、
日本の国が潰れるという
立場にな
つておる。でありますから当然これに対してインフレの結果、或いは物価騰貴の結果、つまり
日本の商品がコスト高になり、そのためにジリ貧状態にな
つて、いつか破産をしなければならん。近い将来に破産をしなければならないという条件にな
つておるならば、これを食いとめる
根本の対策というものは何かということが問題になるわけでございます。これは実は昭和二十四年にドツジさんが
日本に見えまして、
日本のインフレを食いとめたときに、食いとめると同時に、
日本は産業合理化をして、そうしてコストを切下げなければならない。
外国から見て非常に遅れておるから、これを
政治家も主張し、財界の有力者或いは金融界の方々も主張されたのでありますが、残念ながら、これは一向できなか
つた。そうして現在まで来たとすれば、やはりもう
最後の何と申しますか、危機に対する応急の手段、注射薬みたいなものですね。これはデフレ政策よりほかにないのじやないかということで、恐らく一兆円
予算がとられたんだと思います。これはデフレ政策であるかないか。細かい問題その他それに触れると大変時間をとりますからこれは省略いたします。これを押切らなければならない。一応資本主義を守るとすれば押切らなければならない。これは有澤先生もうラジオでも大分強調されておりますが、資産の再評価を強制するということ、
日本では戦後インフレの結果、会社の資産勘定が殆んどゼロに近い。ゼロじやありませんが、非常に低くな
つておる。従
つてそのままの状態では、厖大な収益が上るという見せかけの状態で、償却が行われずして、どんどんそれが消費されておる。従
つてこれを建直すためには資産の再評価をする、この二つの政策をとらなければ、
日本の資本主義が建直らんじやないか。有澤先生は少くとも資本家の
立場としてやるならば、この二つのことを押切らないようならば、
日本の
制度は維持できないという
考え方を持
つておられるのです。
で、現実の今年の
予算としてどう現われているのか、
一つの問題でありますが、この今のデフレ政策自体が大まかに申しまして、大きな矛盾が出ておるというのは、さつき申上げました有澤先生の言われたような再
軍備をしなければならない。それから経済を安定させなければならない。この二つの命題は当然財政に出て来るわけでありますが、
予算の
内容として経済を安定させなければならないならば、
予算を緊縮しなければならない。
予算を緊縮しなければならないならば、あらゆる全体の支出を締めて行かなければならない。ところがこのことは再
軍備をしなければならないということと当然に矛盾を生じて来るのでありますから、この矛盾を解決する方法として、これは大内先生が同じ「世界」の四月号に書いてございますが、この何という題でしたか、「
軍備か社会保障か」という題で書いておられますが、二十八年度から二十九年度当初政府から出された
予算では大体
防衛費が約二百八十億ですか、三百億くらいの増加を示し、その埋合せとしまして社会保障
関係が
相当節約されてお
つた。これは全体といたしますというと僅かでありますが、狭義の社会保障、つまり社会保険乃至は失業保険でありますが、これは三十六億円ぐらい減
つた。これ以上減らしようがないからこれでとま
つた。併し例えば住宅建築であるとか、育英資金から、その他の広い
意味の社会保障と申しますか、これを合計しまして約百五十億ぐらい、そこで
予算が切
つてあります。そうしてどうにかバランス化されたのであります。ところが
議会におきまして直されまして通過した
予算というものは、これが再び復活しております。復活するだけでなしに、つまり或る
程度殖えております。例えば広い
意味の社会保障、但しこれは旧
軍人恩給と文官恩給を除きまして計算いたしましたのですが、百五十億減らして今度逆に百八十四億ぐらい復活されておりますから、差引三十億円ぐらい殖えております。つまりこれは二つの要請、再
軍備と健全化と両方を図る政策としての財政が遂に失敗に終
つたということを、大内先生は言
つておられるわけでありまして、こういう表現をされております。「資本主義の現段階においては、その必然の結果たる失業や貧困や疫病やを無視しては社会は存立し得ないのが事実であ
つて、この事実がある限り国家は社会保障
制度によ
つて社会主義、共産主義その他暴力革命的な一切の運動を阻止しなければならぬのであり、社会保障制はこの
意味で、
軍隊に劣らぬ国家の必要事項なのである」、これは先ず論議を進める出発点にお書きにな
つておられます。私のほうではむしろ結論に頂きまして、そういう事態で財政上の措置として非常に難関にすでに立
つておられるのじやないだろうかということでございます。
それからもつと一般論といたしまして、
日本が今後再
軍備をして行く場合に、
日本の国民経済はどの
程度これに堪え得るかということは絶えず
議論されております。これは私結論から先に申上げますると、
外国との比較においては、現在
日本は数字的には非常に少い。でありますから、その数字から見る限りは、
日本はまだ再
軍備のための負担ができるんじやないかという結論も一応
考えられると思います。この点についてどちらかと割切
つた結論を出すことは私も自信を持
つておりません。例えばこれは一九五一年でございますか、有澤さんの本に引用された数字でございます。五一年の数字ですが、アメリカは
国防費が
予算中の六六%を占め、社会保障費は九%、イギリスは
国防費が三二%で社会保障費は一七%、スウェーデンはわりかた平和な国ですが、スウェーデンは
国防費が二〇%で、それから社会保障費が二七%、社会保障費のほうが多いのでございます。ソ連はどうかというと、ソ連のほうは社会保障という数字がわかりませんので、私は当
つてみましたが……。
日本銀行の「銀行月報」の去年の十月の数字を見ますと、一九五三年につきましては、
国防費が二〇・八%という数字にな
つております。それから国民経済費というのがありますが、これが三六・三%、社会文化費というのが或いは何に当りますものか、二四・五%、分類比が、比較ができませんが、
国防費が二〇・八%、前年度が二三・九%で次第に低くな
つております。これがそのままほかの国と比較できるかどうか、これは問題でございます。その数字の出し方が非常に違いますから、極くあらつぽいことになります。
日本はどうかと申しますと、
戦争の前、昭和九、十、十一年がいつも基準になりますが、経済安定本部、現在の経済
審議庁の数字によりますと、大体この総財政支出に対する
軍事費、当時は
軍事費、この
国防費でございますが、これは三年間にかなり変
つておりまして、昭和九年には、
予算の総支出に対する、一般会計支出に対する
軍事費が四四・二%、それから昭和十年が四八・四%、十一年が急増しまして七一・六%、これは準戦時体制と申しますところに入
つて来た段階かと思います。国民所得に対する割合は昭和九年が七・三%、わりかた少なうございます。それから十年が六・七%、十一年になりまして、
予算全体が膨脹しまして、特に
軍事費が殖えまして一九・三%、約二〇%で、それ以前の財政全体よりか殖えております。こういうような状態で、これと比較しますと、昭和二十五年、これ
はつまり終戦処理費等を加えたものでございますが、警察予備隊を入れまして、国民所得に対する割合は四・三%と、戦前よりか減
つております。その後いわゆる
防衛関係のもの全部を合計いたしましても、二十九年が二・九%、これは計算される方法によ
つて違うかと思いますが、大体この辺のところ、三%前後、それから財政支出に対しましては、二十五年はむしろ多くて二〇・七%で、二十九年度
予算によりますると十六%くらいかと存じます。これは私が計算したから或いは誤算があるかも知れませんが、こういう事情で国際
関係から、或いは戦前と較べましても、現在のいわゆる予備隊或いは
保安隊等の
予算を仮に
軍事費と仮定したといたしましても、その経費はまだ少ない。だからこれから又一人当りの
国防費の負担割合でも、まあ一ドル三百六十円くらいで計算しましても、
日本の昭和二十七年の数字でありますと、アメリカはそれの、
日本の四十三倍くらい、それからイギリスが十二倍くらい、フランスが十一倍くらい、西独が五倍くらい、イタリアが二・五倍くらいという数字が、金融財政事情研究会というところから出ております。それから見ると非常に
日本は軽いじやないかという
議論が
一つ出るかと思います。
ただ念のために申上げますが、これも有澤先生の本から引用したのですが、一九五一年と思いますが、大部古くなりますが、イギリスでありますと、月収三万五千円
程度で
子供二人の家族では、所得税が無税にな
つております。これは所得が高いということが当然出て参ります。それ以上のかたが所得税を負担している。
日本の計算では、ちよつと比較できませんが、大体その辺のところが、恐らくは、暗算でやりましたが、月八千円くらいの所得税がかか
つているのじやないかと思います。年収二十万円、月一万六千六百円でございますと、月当り五百八十円の所得税がかか
つております。つまり有澤先生も大体昭和二十七年くらいで見て、二十万円くらいのところに一番大きな税負担がかか
つて来るのじやないかと思います。戦前との比較で、純消費、税金であるとか或いは貯蓄であるとか、全部差つ引いたものであります。戦前では平均一人当り百四十四円
使つている。これを現在の物価指数、つまり物価が非常に上
つておりますが、これで割り掛けて、デフレートすると申しますか、減らして、昭和二十六年百三円、そのあと計算したいと思いましたが、時間がございませんのでや
つておりません。それよりか幾らか上
つていると思います。或いは戦前の水準になるかも知れませんが、大体そのくらいのところにな
つておりますので、数字上になりますとどちらとも言えない、これは正直な感じでございます。
数字上はそうでございますが、今度は飜
つて日本の実情を見ると、非常に違うので、私ども非常にその点が割切れない感じを持
つております。と申しますのは、大体去年あたりから金融引締めが行われて、かなりシヨツクが激しく来ている。昨日も私の知合のまあ既成服の問屋なんかや
つている神田のほうで働いている人が来て、どうにも困
つた、このままや
つているのでは、夏前には自分たちは、殆んど手形取引もしてないで、現金決済をや
つてるんだから、全然売れなく
なつた、それでこういう状態なら、秋まで自分たちも商売をやれるかやれないかわからん。新聞紙面の問題も申すまでもないような状態で、今のような数字上わりかたらくなように見える。ところが現実にはかなり今
日本の生活が逼迫して来ているという感じであります。ですから、この
責任か勢い金剛上今追及されているようでありますが、私の感じといたしましては、やはり経済
審議庁あたりで言
つておられますように、去年までは、昭和二十六年以来、特需というと、まあ大体八億ドル前後、八億ドルから九億ドルぐらいの貿易外の外貨受取の上に
日本の経済構造ができ上
つておりまして、その特需というものは、これは学問的に申しますと、一般の国際物価と無
関係に発注される。そのために
日本の物価が下ることが妨害されておる。それが急に襲
つて来る段階、これが一番問題である。こういうところから、こういう
議論が出て来ると思います。従いまして、今後の問題といたしましては、恐らくは特需に代るものとしての対策が講じられる。
大分私長くしやべり過ぎたので結論を急がせて頂きますが、このMSAがどうかという問題を詳細述べる時間がありませんし、私も
内容を詳しくは存じませんが、ただ経済的に
考えて、
内容、その
一つは、小麦その他アメリカの物資の供与、そのうちの一千万ドル、三十六億円、これが給与として
日本で使える、この問題はどうなるかという問題は
一つ。これは
日本の一般の農業全体の将来にどういう問題を残すかという問題がありますが、これはかなり、つまり今までの計画外に輸入が要請されておるとしますと、
日本の農業恐慌を来たしますと申しますか、それにもう
一つ問題が出て来る。食料のダブつきが起
つて来やせんかという問題が当然起
つて参ります。それから域外買付が一億ドルぐらいプラスとして、軍需産業の問題でありますが、これがさつき
最初に申しました
日本の独立再
軍備の形なら財政上の需要となり、
日本の産業に直接注文が出る。この場合に、それがインフレーシヨンを起すかどうかの重大な問題がありますが、少くとも国内産業に対する購買力とはなり得る。併し、アメリカの古い武器を貸与された場合には
日本のむしろ軍需産業が非常に危機に押込まれるのじやないかというのが現実の問題ではないかと思います。これは、あとでその方面の業界のかたが、
郷古さんがおみえにな
つておりますから、そのほうで御説明があるかと思いますが、それで、結局結論を申しますと、どうもMSAの協定から来るのは、
日本にアメリカのストック、これは農産物その他のストックの滯貨品、それから武器のストック、このストックを
一つの協約によ
つて、その他の条件によりまして強制的に売りつけられる形をとられる、少くともこれがみえておる。これは一般的な
言葉で言うと、いわば、丁度
曾つて西原借款で
日本が当時の支那に金を貸しまして、
日本が日露
戦争の武器を売り付けた。そして第一次
戦争に参加さした。連合国に参加さしたのと非常に以た形でありまして、半植民地的な形をと
つておる。これをどういうふうに
日本側の政府が切替えられますかという問題が大きな問題ではないかと思います。従いまして、これは
日本が独立再
軍備をしたか否かという問題が
一つありますが、これは節約いたしまして、そういう
意味のMSAが、先刻申上げました最悪の場合の
一つの落下傘として役に立つかどうかという問題がありますが、これはどうも落下傘として開かないとは申しませんが、非常に小さ過ぎやしないか。落つこちるところの落つこち方が甚だ衝撃が非常にひどいので、殊に
日本側は経済上猛烈な危機に入るんじやないか。現実の問題として、有澤先生なんかは、先だ
つて或る会合で聞いたのですが、今年の秋あたりは今のデフレ政策が行き詰
つて、為替レート切下げの止むなきに至るのではないか。そうしてそのあとに
最後にインフレがや
つて来はせんかという非常な悲観論であります。私は理屈じやなく、感じとして、それほどにな
つておりますから、そのほうで御逼迫していないと思いますけれども、遅かれ早かれそういう条件が来るので、その場合に、財政上の膨脹という圧迫が加われば、
日本の通貨安定がより早く崩れて来る。その場合に、最終的なインフレ段階に入
つて、これは如何なる政府といえどもこれを食止めることはできないじやないか。それからどうなるかということは、我々として皆目見当がつかないと申し上げるよりほか仕方がない。
現在の二
法案とじかに
関係はございませんが、そういう経済的なバツクを見通しておるということを一応お
考えおき下さいまして、今後御
審議を頂きますれば、私としてここで申上げさして頂いただけの何らかのお役に立つことと存じます。誠に舌足らずで申訳ありません。
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