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衆議院議員(松前重義君)
只今の御
質問は最近私
どもの耳にも伝わ
つておりますることであります。即ち技術院の復元である、技術院というのは戦争中に当時の戦争技術の向上に対して努力をした役所であります。而も余り効果を現わさないで
終戦後解散に
なつた役所であります。これらの復元ではないかという
一つの懸念に対しては尤もな懸念であると思われます。
従つて只今の二つの疑問の第二の問題、再軍備のためにこれが利用される虞れはないか。この二つの問題は大体同じ
ような
意味を持
つているものであると思われるのであります。何となれば技術院が戦争遂行に必要なる技術向上の役所であうたのでありますから、当然その
ような疑問を持たれると思うのであります。そもそもここに科学技術庁を提案いたしましたゆえんのものは、この提案の
法律案の第三条の一に書いてあります
ように「科学技術に関する総合的且つ基本的な施策を企画立案する」ということであります。抽象的な文句でちりますけれ
ども二の科学技術に関する総合的且つ基本的な施策の企画立案は、曾
つてのこの技術院にはございませんでした。曾
つての技術院の向
つておりました方向は航空技術の発達を中心といたしておりましたので、航空だけについてこの技術院が所掌して行くという形にな
つておりまして、一般の科学技術に関してはこの技術院はタッチすることを許されなかつた役所であります。
従つて当時たち遅れておつた航空技術を重点的に進めるという
意味において航空に関する技術に集約されて技術院ができたのでございました。勿論航空と申しましても
一つの総合技術でありまするので、或いはエンジンの技術も必要だし、或いは材料の問題もありますし、或いは流体力学もその他のもろくの問題が多少その中に含まれて参
つてお
つたのでありまするが、とにかく航空という目標に向
つて集約されてお
つたのが技術院の性格でありました。
今回提案いたしました科学技術に関する総合的な基本的な施策の企画立案は科学技術の全般に亘る問題でございます。ここに
政府からこの前矢鳴
委員の御要求によ
つて国立研究機関の一覧表が参
つておりますが、御覧の
ようにこの
ようなたくさんの研究所が現在存在いたしております。而もその
予算その他を見ましてもそれぞれ僅かの
予算でほそぞれとや
つておる
ような
状態であり、そうして又これらの全体の研究所が殆んど連絡なく研究をや
つておる
ような
状態でありまして、この
ようなことでは能率は当然上らないのであります。例えば補助金を出すにいたしましても、微生物の研究などは厚生省の厚生医学研究所、通産省の発酵研究所、農林省の食糧研究所、大蔵省の醸造試験所、こういうふうなそれぞれの研究所において同じものをそれぞれ研究いたしておる。而もどれもこれも五十歩百歩で帯に短したすきに長しでや
つておりますので、世界的なレベルにはなかなかこれが到達しにくい、こういう
ような
状態は単なる一例に過ぎません。例えばガスタービンの研究などでも運輸省通産省からそれぞれ補助金を出しておる。同じガスタービンでありながらそんなに二つもダブ
つてやる必要はないので、やはりこれも五十歩百歩のところで帯に短したすきた長しのところで技術のレベルは終
つている。こういうものが非常に多いのでありまして相互の連絡調整がないためにこの
ような欠陥を生じておるのであります。
御承知の
ように現在
我が国の輸出工業は殆んど頭打の形でありまして、
外国に出そうといたしましても殆んど出て行けない。なぜであるかといえば物が悪くて値段が高いという最も悪い条件の下に
日本の工業や生産体制がな
つているからであります。この
ようなものを打開いたしますのには、どうしても品物がよくて安い物を生産能率よく造るということが必要であります。これがために科学技術の少くとも総合的な研究をやりまして世界
水準に近ずけ、或いはこれを突破する努力が重点的に行われなければならないと思うのであります。現在
我が国の特にアメリカから技術を使わしてもら
つて日本で生産をするための特許料は大体五十億以上に達しているのであります。而もその特許を使いまして
我が国で大会社がそれを製造いたします。例えばビニールの特許を持
つて来て製造いたしますればその製品であるビニールを東南アジアや或いは中共その他の地域に売出そうといたしましても、それは特許を
我が国に輸入いたしますときの契約の中においてその海外への輸出を禁ぜられておるのであります。即ち
我が国だけの販売を許しましてそうして海外べの輸出を禁じている。この重要なる産業がこの
ような
状態にある現状というものを私
どもは見まして、どうしても
日本自体の技術を持たなければ、そうして
日本自体の技術が世界
水準に近ずき、或いはそれを凌駕いたしまして初めて
日本の
経済的な発展、海外市場の開拓、この
ようなことが可能になるのでございます。今のままに放置いたしますれば永遠にアメリカの隷属的な
日本の
経済体制に甘んじなければならないと思うのであります。御承知の
ように
我が国の一流のいわゆる大手筋と申しまするかメーカーは殆んどアメリカとの隷属の
関係にあります。造つた製品は東南アジアや中共やその他世界の市場に輸出することができないという条件の下に特許を輸入しておるのであります。この
ような
状態に放置しては幾ら海外発展とか或いは貿易の振興とかいう
ような美字麗句を使いましても、その本質がこの
ような
基礎の上に立
つている
日本の工業をこのまま放置いたしましてはこれを打破することはできない。こういうことになるのでございまして、科学技術庁を各省に設置いたさんとするゆえんのものは、各省にまたが
つておりますこのもろもろの無数の研究所の総合調整をいたしまして、重点的な科学技術の向上を図り、而も今まで隷属的な
立場にある
日本の工業のみらずいろいろの産業というものを少くとも世界
水準に持
つて行くところのその基本的な施策を企画立案し、これを遂行するための
行政をつかさどるところの役所としなければならない。そういうふうな
意味におきまして
お話の技術院とはまるで違つた性格でありますし、勿論再軍備の目的でなくして
日本を本当の産業の独立の姿に持
つて来るためのその
基礎的な
行政であると思うのでございます。
只今原子力の問題について、この間の
予算の衆議院における決定が非常な問題を起しておりますものは、即ち原子炉を作れと幾ら
政治家が申しましても、原子力に関する学者たちの
立場から見ればまだ一階もできてないのに二階を作れという、その
ような砂上楼閣はできないという議論がなされておることは当然のことであります。私
どもはあの
ようなことがなされるならば、少くともこの科学技術庁の
ようなものがありまして、そして
政策の裏付けをここでやりまして、そしてここで総合調整されたるいわゆる民間の
意見もここに一応盛込まれてそうしてあの
ようないわゆる
予算の修正等が行われまするならば、これこそ地についた一階のある所に二階を作る
ような
やり方になると思うのでありまして、この
ような
意味におきましても一日も早く科学技術庁の設置を必要とすると痛感いたしておる次第でございます。技術院の復元では勿論ございませんし、勿論再軍備のためでなくして
日本の
経済の独立のための準備であるということを御了承願いたいと思います。