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政府委員(横田正俊君) 今年のたしか二月十七日と記憶いたしますが、この
委員会におきまして、下請代金の不当な支払遅延が
独占禁止法の
違反になる、その
基準を一応きめたらどうか、これは昨年の当
委員会ですでにそういう御希望がございましたが、それを受けまして二月の十七日に同じようなお話がございまして、これは我々といたしましても執務上何らかの
基準が欲しいと思
つておりましたし、又この
基準に基きまして実際の取引をする実業界のかたがたにつきましても一応の
基準がございますことが公正な取引
方法を促進するゆえんでもございますので、その御
趣旨には誠に同感でございまして、その際に一月或いは多少遅れるかも知らんが、そのくらいの
期間の間に一応
基準を立てまして御報告を申上げるということを申したのでございますが、その後鋭意検討はいたしておりましたが、諸般の事情からいたしまして大変遅れまして申訳なく思
つておる次第でございます。なお本日申上げまする一応の結論につきましては、なお
法律的に、或いはいろいろな面におきまして検討を加える余地はあろうと思いまするが、併し余り完全なものをというようなことを考えまして、いつまでも考えておりましても切りのないことでございますので、お示しもございましたので、この辺で一応の
基準を申上げたいというふうに考えまして、本日罷り出たわけでございます。この
基準を作りますにつきましては、その節も申上げましたように、
公正取引委員会に
法律の
規定によ
つて与えられておりまする公正な取引
方法のうちの特殊な取引
方法の指定という
制度を通じまして、これをややはつきりした形に、且つ相当権威のあるような形に作り上げるということが最も望ましいのでございまするが、この点につきましては、なおもう少し検討いたしたい点もございますので、本日申上げまするのは、いわば今後
公正取引委員会が事務を処理して参ります上のいわば
一つの内規的な取扱方針とでも申すようなものでございまして、なおこの方針に従いまして一応や
つて見まして確信が持てましたならば、これを更に一歩進めまして特殊指定というような方向に持
つて行きたいと考えております。そういうような
趣旨のものであるというふうに御了承願いたいと存じます。そこで
内容でございますが、こういう
基準を作ります際には、やはりそこに下請とは何であるか、親
企業とは何であるか、こういうような定義を挙げて参らなければなりませんので、一応の定義をいたしましたが、これも実はまだ未熟でございまして、而も
独占禁止法のいわゆる第十号に当りまする不当な
経済力の濫用と申しまするか、取引上の地位の優越たることを利用して他の
事業者に不当な不利益な条件を押付けるという問題は下請だけには限りませんので、その意味におきましてこの定義を作るにつきましてもいろいろ苦心をいたしたのでございますが、先ず当面の問題、多少限局はされますが、当面の一番問題にな
つておるものを一応取上げまして、更にこれを他の同様な
関係に推し及ぼすという方針をとりたいと存じまして、本日申上げまする
基準には多少幅が狭過ぎはしないかという御批判もあろうかと存じますが、そういう方針を以ちまして一応の
基準な作成いたした次第でございます。
内容を簡単に御
説明いたします。一応お手許に書き物にいたしまして、下請代金の不当な支払遅延に関する
認定基準という標題を掲げまして書いてございますが、先ず第一に
機械器具又は武器の製造、修理を行う
事業者、これをまあ一応親
企業というふうに定義をいたしまして、がその製品、これは製品自体ではなく、修理をいたす問題も含む意味において修理品を含めました意味の製品の一部又は全部について製作、加工、組立、工事、修理等を下請業者に行わしめる場合においてというふうに一応限定をいたしたわけでございます。このうちの
機械器具又は武器の製造、修理を行う
事業者、いわゆる親
企業の
内容につきましては、二頁目の註のところに業種といたしまして、差当り下請依存度の高い業種である
機械器具及び武器の製造、修理業を対象とする。そしてこの
機械器具云々の
内容といたしましては、大体ここにいろいろ詳しく掲げてございまするが、この分類につきましては日本標準
産業分類の
昭和二十六年
政令百二十七号に基きまする告示に挙げられておりまするものを一応の参考にいたしたいというふうに考えまして、ここに一応の業種を掲げてあるわけでございます。こういうものの製造、修理をいたす親
企業、而もそのここに掲げておりまするものを専業にいたす必要はないので、上記の業種を専業としている場合に限らず兼業をしている場合を含めまして、そういう親
企業が下請をいたさせるわけでございます。この下請
企業につきましてはやはり註の(3)へ参りまして、下請業者は次の三つの要素によ
つて判定する、これは大体
法律の不公正、取引
方法の十号の
趣旨を斟酌いたしましてこの下請業者の
範囲を一応分析いたしたわけでございますが、イといたしまして、小規模の
事業者であること。これは下請と申しましても下請業者に非常に大きなものもあり得るわけでございますので、そういうものにつきましては特にその相手方の
経済力の濫用というようなことも考えられまするので、小規模の
事業者というふうに考えてよいのではないか。尤もこれは
中小企業等協同組合法或いは
独占禁止法にございまする小規模
事業者と必ずしも限定する必要はないと思いますので、社会通念上小規模の
事業者と認められるものであれば足りるという
趣旨でございます。それから親
企業の製品の下請を行な
つていること。これは親
企業の注文に応じましてその製品、これは修理も含むわけでございますが、製品の一部又は全部について製作、加工、組立、工事、修理等を、こういうことを注文に応じてやる小規模の
企業者である。而も親
企業に依存しておること、つまりそれ自体が特定の市場を持たないで親
企業に依存することによりまして
事業を行な
つていることがその
企業の主たる
事業であるというようなもの、特定少数の親
企業の製品の下請を行うことを主たる
事業といたしておるという
関係において親
企業に依存しておる、こういうような三つの要件が一応考えられるわけでございます。そんな
関係から、従いまして親
企業の地位の濫用ということが生じやすい一種の業態というふうに考えるわけでございます。これが下請業者の定義でございます。
それから更に下請も入りますので、その(4)といたしまして、下請業者が再下請業者に発注する場合において、当該下請業者が上記の業種に属しいるときは、その再下請取引は取締の対象となるというふうにしたわけでございます。
次に一頁に返りまして、然らば支払遅延の
基準のことでございます。これにつきましては実はいろいろ考えましたが、なかなかむずかしい問題でございまして、この
基準の作成には非常に困難をいたしたわけであります。政府支払の遅延防止に関する
法律等も勿論参酌いたしましたし、現実に取引が行われておりますこれらの
機械器具及び武器の製造に関します取引の実情をも参酌いたしまして正常な商慣習というものを把握しようということで大分苦労いたしましたが、結局できましたのは非常に簡単なものに
なつたわけでございまして、これを申上げますと、親
企業が下請業者から納品等給付を受けたものについて検査を完了した日を一応の支払を開始しまする
基準の日といたしまして、検査を完了した日から三十日以内に親
企業の経営の状況その他の事情より見て支払能力があるにかかわらず、下請業者に対し、下請代金を現金又はこれに準ずる確実な支払手段で支払わないことということを以まして不当な支払遅延というふうに認めたわけでございます。この検査につきましては一応括弧に入れまして、検査をずるずる延ばしますると、この
基準の
期間三十日はいつまでも延びるわけでございますから、これを抑えますために納品等給付を受けた日から原則として十日以内に検査を完了するものとする、ということにいたしました。これは当初大体普通の取引につきましては十日ぐらいで済んでおるようでございますが、ものによりましてはこれはややきつめな期限でございますので、つきましては註の(5)に持
つて行きまして、納入等から検査完了までの
期間に関しましては、原則としては十日以内とするが、製品の
性質上長期の検査を要するもの等についてはその通常必要とする
期間を斟酌して決定する。これは御承知のように精密な検査を必要としますもの、いわゆる悉皆検査を要するものにつきましては、或いはこの十日というのは実情に副わない短い
期間であるかも知れませんので、そういうような特殊の場合におきましては、この十日を多少延びてもいたし方ないということで、註におきまして多少ゆとりを設けたわけでございます。こういたしまして検査を完了し、その日を
基準にいたしましてそれから三十日以内に現金で支払をいたしますればこれは最も結構な状態でござまして、これはこの前の
委員会でたしか御配付を受けました、
中小企業の全日本中小工業協議会のお調べの調書を頂きましたのでございますが、これを拝見いたしましても現金の支払というものは相当多い。これがむしろ原則であるということがこれでわかるわけでございまして、我々といたしましても成るたけこういう現金支払ということを本則にいたしたいという気持でおるわけでござまいして、その現金で支払う、これがむしろ原則、併しこれに限定しますることは、これは政府支払の場合と違いまして現金支払に限定するわけには参りませんので、これに準ずる確実な支払手段で支払わなくてはいけないということはいたしたわけでございます。ここに金銭支払に準ずる確実な支払手段というものはまあいろいろ考えられるでございましようが、一番現実の取引におきまして問題になりますのは、いわゆる手形による支払でございます。これにつきましては少し順序が飛びましたが、二枚目の裏に(7)といたしまして現金に準ずる確実の支払手段というものにつきましては手形については受領後直ちに銀行、商工組合中央金庫等のいわゆる正規の金融機関で割引のできる手形というふうに我我は解釈をいたしておるわけでございます。これは何も親
企業自身が振出した手形の必要はないと思いますが、それが多いと思いますが、いずれにいたしましてもこれらの金融機関で正規に割引のできる性格を持つた手形ということを現金に準ずる確実な支払手段というふうに考えておるわけでございます。この点につきましては、先般の
委員会でも同じようなことを申上げたわけでございますが、あの際には括弧をいたしまして九十日というようなことをちよつと入れておいたわけでございますが、これは我々の考えといたしましては実際のこういう金融機関の現実の慣習に任していいではないかというふうに考えたわけでございます。現在は大体私の聞いておりますところでは、九十日以上のものは割引はなかなかむずかしい。勿論九十日以下のもの、而も九十日以下でも必ずしも割引ができるとは限らないという状況でございますので、ここに九十日というようなことを掲げますよりも、そういう点はむしろ
一般の金融界におきまする実情に任せていいことだと思います。例えばこれからだんだん金融の引締というようなことが行われて参りますれば、或いは九十日というような
期間はもう少しこれを引締めて行くというような線が出るかも知れないと思いますが、そういうような際にはその線に沿うて割引のできるものでなければ困るというふうに一応考えたわけでございます。こういたしますと、三十日以内で、現金で払う、或いはそれに準ずる確実な支払手段で以て払わなければ一応いけないということになりますので、この点はこれだけを見ますると非常に厳しい、かなり厳しい
規制になるわけでございますが、個々にはやはり先ほども申しましたような支払者が注文をいたしましたものが国家、政府というようなものと違いまする
一般の
企業でございまするから、その点にはやはりそれ相応の斟酌がされてよいと思いますので、その点が、遡りますが、親
企業の経営の状況その他の事情よの見た支払能力があるにかかわらず、という点を考慮いたす必要があろうと考えたわけでございます。この言葉は必ずしも適切ではございませんが、考えておりますることは註の(6)にございますように「親
企業の経営の状況、その他の
事業より見た支払能力は主として」、必ずしもこれだけに限られませんのでございますが、「次の諸事情を総合勘案して判断する。」、これはこの前の
委員会で申上げたことを要約いたしまして書いたのでございますが、生産、販売、在庫の状況、販売代金の回収状況、最も重要なのは三番目の運転資金の銀行等がらの調達能力、四番目といたしまして下請業者以外の他
企業に対する支払能力、五番目といたしまして、株主配当、
役員賞与、従業員俸給、賃金等の状況、それから六番目といたしまして非生産的冗費の支出の状況というような、要するにその
企業の諸般の経営の状況を考えまして、そうして常識的に考えましても如何にもしわを小規模の下請業者に寄せておる、如何にも不当であると思われますものは、この三十日以内に支払いません場合はこれは一応独禁法の第十号の不公正な取引
行為に該当するものというふうに見てよいのではないかと考えた次第でございます。一応一カ月余り考えまして、一応こういう線を出しました。先ほども申しましたように一応この線で運営をいたして見まして、これに対してはいろいろな御批判もございましようし、我我の思い至らない点もあると思いますので、この点は今後の運用の状況を見まして、更にもつと詳細な具体的な又実情に即しました正常な商慣習の線がつかめましたらば、先ほど申しましたようにそれを取入れて線に乗せてもつとはつきりした姿にいたしたいと考えておる次第であります。甚だ簡単でございますが、一応私どもが考えました
認定基準を……。
それから重要なものを落しましたが、
只今のは支払遅延の問題だけを申しましたが、そのほかに
独占禁止法の点の
只今の十号の
関係で二つのことがやはりこの支払遅延に
関連いたしまして考えられるのでございますが、それが一頁の二点として挙げてあることであります。2は「親
企業が下請取引にかかわる納品等給付をうけた後において、親
企業が、下請代金の速かな支払を条件として、下請業者に対し既定の単価の値引きを強要すること。」、これはよくあることでございまして、早く正規に支払をしてやる代りに、もう少しまけろ、或いはは逆に申しますれば、もう少しまければ早く払
つてやるというようなことが相当ございますので、これはやはりどうしても取締
つてもらいたいということ、3といたしまして下請業者が下請代金の速かな支払を要求しました場合に、なまいきな奴だというようなわけで、それに報復をいたす、親
企業が当該要求を
理由として下請取引にかかる納品を返品いたしましたり、或いは爾後の下請取引を停止する、その他下請業者に対して著しく不利益な取扱いをする、或いは他の者に対して差別的な取扱をするというようなことが、これもありがちなことでございますので、これもやはり抑えてしまう必要があるわけであります。殊に、3は御承知のようにしいたげられたこれらの人々は、例えば心の中で不平満々でございましても、これを訴えるすべがない。幸いに
独占禁止法というものがございましても、なかなかこの線に沿いまして自分たちの地位を守るということができかねる実情でございますので、そういう点についてのいろいろな懸念をあらかじめ払拭しておきますことが、適当ではないかと存じましたので、特に3を掲げまして1、2、3、この三つの線を合せまして下請業者の利益を擁護いたしたいと考えておるわけでございます。