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公述人(
高橋雄豺君) 今回この
委員会に
公述人として出ておりまする表を拝見いたしますと、実は肩書のないのは私一人で、これは何でもないことのようでございますが、
衆議院で長い間
議論のありましたあとを辿
つてみますると、私は大体新聞だけのことでございまするけれ
ども、
警察法案に関する論議が政治的なと申しまするか、或る種のいろいろな団体の利害を中心にして
議論を強く展開せられておる点が目につくのでございます。中正な、普通の冷静な判断で
警察がどうあるべきかということについての
議論よりも、何か別に目途があ
つて議論をせられておるような
感じがいたすのであります。私がどういう
理由でこの
公述人に御選定を受けましたかは私は存じません。想像いたしますれば、私は昔役人としておりました当時、比較的に長く
警察の仕事をやりました。もう役人をやめてから二十五年でございますけれ
ども、その後も直接間接に
警察に関心を持
つておりますので、多分そういう
意味で御選定を受けたかと思うのでございます。私はそういう
関係でございますので、どういう団体にも、どういう
方面にも何の関連も持ちません。私の持
つておりまする乏しい知識と経験によりまして、今出ておりまする
警察法案にどういう
考えを持
つておるかということを申述べて、御
参考に供したいのでございます。
先ず第一に、現在の
警察制度、
国家地方警察と
自治体警察との二本雄の
制度をこのままで存置したがよろしいか、或いは根本的な
改正をすべきかという点に問題がございます。この論も一部分には行われておりますが、これは大した問題は今日ないようであります。大勢は現在の
制度ではいけない、何か改革をしなければならないということは、恐らく世間の輿論ではないかと思うのです。私も又この点につきましては死んど疑いか持ちません。現在の
制度を以てしては、
日本の今日の
治安秩序を維持する上から
考えましても、又不必要な
経費を浪費をしておりますることを防ぎとめる
趣旨から
考えましても、
警察の
能率を上げる点から
考えましても、
改正をしなければならん急務に迫られておると私は信じて疑わんのでございます。然らばこれを
改正するとすれば、一体どうする、今日は
国家地方警察と
自治体警察との一本建でございまして、やはり二本建はいけないということも恐らく輿論の一致しておる点ではないかと思うのです。私もさように
考えております。これを一本にするとすれば、先ず第一に
考えられることは、これを
国家警察に統一するということでございます。これも一つの
意見として決して軽視すべきものではございません。
日本は
昭和二十三年の
警察制度ができまするまでは、明治以来約八十年の間、
国家警察を以て一貫して進んで参
つたのでございます。この
時代の
警察に対する
考え方、その
時代の経験、その時分の業績、その時分の欠点等は、
国民の意識の上に今日明らかでございますから、この是非の判断は割合に楽にできると思いますが、ともかくもこれを
国家警察に建直すということは、一つの
意見として私は尊重しなければならないと
考えておるのでございます。
第二には、
国家警察には欠点が多いから、これを一つ
自治体警察だけにしようという
意見がある。この
自治体警察だけにするというのはいろいろ
意見がございます。
府県自治体に統一せよという
意見がある。一方市町村を中心にした
自治体警察にして、その残りの分について
府県の
自治体警察にせよという
意見もある。いろいろございますが、ともかくも
自治体警察のほうにして、
国家警察はやめたらよろしいという
意見もあるのでございます。そういたしますると、今日の国内の諸情勢から
考えまして、どういう
制度にすることが最も適当かということを少し理窟の上から
考えてみる必要が起
つて来ると思うのです。理窟張
つたことを申上げて恐縮でございますが、私は
警察制度を建直します上には、幾つかの
考えてみなければならん条件があると思います。その第一は、
警察は勿論行政部門でございますから、その国の政治の大きな方針に適応するものでなければならんと
考えます。具体的に申せば、そのときの憲法が
期待しております政治の進み方に逆行するような
制度にしてはならん、憲法の精神に適合したものでなければならん、これが第一の原則であると
考えるのでございます。この点は
明治時代の憲法と今日の憲法とは申すまでもなく憲法の精神が変
つております。これによ
つて行われます政治の運用も違
つておるのでございますから、
明治時代の憲法に適合した
警察制度が今日の憲法政治の下において適合したものとは私は言えないであろうと
考えるのでございます。これを具体的に申しますならば、
明治時代の憲法の下において最も立派な
警察であ
つた国家警察は、今日の憲法の下においては適当でないという結論が出ると
考えるのでございます。
第二に
警察は勿論行政作用でございまするけれ
ども、
警察の働きのうちには普通の行政作用のほかに司法
警察の仕事がございまして、昔と違いまして、今日においてはいわゆる行政
警察の部門が少くなりましたために、司法
警察の
警察部内における重点の置き方は変
つて参りました。司法
警察の重さが非常に殖えて参りました。
犯罪捜査、即ち司法権の発効の前提になります仕事は、私が申上げまするまでもなくこれは公正なものでなければなりません。強い中立性を持
つたものでなければなりません。
警察が一党一派に偏し、与党のものならばこれは
犯罪があ
つても見逃してやる、反対党のものならばこれは爬羅剔抉して練り上げる、そういうことは裁判所において許されないと同様に、その前提になりまする司法
警察の作用においても深く注意をしなければならんと思うのであります。言葉を換えて申しますならば、
警察制度は行政作用ではあるけれ
ども、中立性を保持し得るものでなければならんという原則があると思うのでございます。この点につきましては、
日本の
警察は遺憾ながら甚だ悲しむべき歴史を持
つておるのでございます。これは皆様の古い方は御承知の
通り、大正の末から
昭和の初めにかけましての政党
内閣の華やかな
時代におきまして、当時の政局担当者が
警察を政治のために利用し、選挙干渉に使
つたこともまぎれのない事実でございます。
従つてこの点から見ますると、
制度としては
警察がさような時の
政府の意図によ
つて左右せられやすい組織になることは困る。
警察の組織の原則に反するということになるだろうと思うのでございまして、この点が先に申しました、
国家警察の色彩の強いものはこの憲法政治の下においてはいけないであろうということを
考えるのでございます。この問題につきましては、私
どもの先輩の次田大三郎さんが過般新
警察法案に対する所見という
意見書をお出しにな
つております。皆様のうちには多分これを御覧になられたかたがおありだろうと思います。私の今申述べました点につきましては、次田さんが詳細に、次田さんはその当時警保局長を御自身でなす
つたのであります。その当時の体験から如何に今日の
国家警察をやることが危険であるかということを詳細にお述べにな
つておられるのでございますから、若しも御覧になられてない方がございましたら、是非一つお読みを願いたいと思うのでございます。
第三には、行政
制度でございますから、これは申すまでもなく
能率の高い、又
経費のかからないものにならなければなりません。今日の国家の財政の状態から
考えましても、できることなら行政費は一厘でも一銭でも切り詰めたいのが
国民全体の
希望でございます。現在の
警察制度においては実は非常に大きな浪費が行われておる。人間においても
経費においてもこれは予想以上の不必要な金が消えておるのであります。これをもう少し適当な
制度に変えまするならば、思い切
つた人間の
整理もできます。
経費の節減も私はできると信じております。この
能率とか経済とかいうことはとかく閑却せられ勝ちなのでございまするけれ
ども、私は新しく
警察制度を改革するという以上は、この点につきましても決してこれを閑却してはならんと
考えております。
私が
警察制度を
考える根底の条件は以上申述べましたようなことでございまして、これから帰納いたしました結論は、極めて簡単に申上げますれば、
府県の
自治体警察に統一する以外に道がないということでございます。
国家地方警察を廃し、現在の市町村の
自治体警察を廃し、その代り
府県の
地方自治体警察にする以外に
日本の理想的
警察制度はない、かように私は信じておるのでございます。一体今日の
都道府県は四十六ございますから、私が申しますような
都道府県一単位の
警察にいたしまするならば、
全国四十六の
警察ができるのでございまして、その間に現在の市町村
警察と
国家地方警察の分立いたしておりまする設備、人間、殊に幹部の数が非常に多い、これは皆様にはお気付にならん方があるかも知れませんが、
世界中どこの国に参りましても、
警察官の数が
日本より多い国はございますけれ
ども、比率において
日本ほど
警察の幹部の多い国は私は絶対にないとは申しませんが、私の承知しておる範囲においては
世界にありません。比率から申せば恐らく幹部の数が普通の立派な例えは安定しております
警察の倍おる、幹部の数が倍ある。それだけ兵隊が半分にな
つておるということであります。こういうことは
能率に非常に
影響するのであります。
経費にも非常に
影響するのであります。これが今申しますような例えば四十六単位の
警察に組替えまするならば、或る和度直ちにこれを減少することができるのでございます。のみならず
都道府県になりますと範囲が広くなり、
警察官の数も多くなりますから、今
自治体警察においてよく言われまする
人事の行詰りを或る
程度打開して行くこともできまするし、そのほか例えば現在の法制の上におきましては、有事の場合に保安隊の出動を要求しまする権限は
都道府県の
知事が持
つておるのでございますから、
治安維持の機関として
警察と
府県知事との関連を無視するわけにも参らんのでございまして、これを
都道府県一本の
警察にすることはその点からも非常に有利であるのでございます。但し今私の申しております都道
府県自治体警察は、
警察法のあの原案に出て参りましたような
都道府県警察ではないのでございます。私の判断するところによりますれば、あの修正を受けまする前の
警察法案は疑いもなく極めて強力な
国家警察一本の
制度であります。あれは大臣の説明などでは
自治体警察などと言
つておられますが、一体どこを押したらあれが
自治体警察だと言えるのか、私は実に了解に苦しむのであります。あれが
自治体警察と言うなら、内務省の下にありました
昭和二十二年前の
日本の
警察も又立派な
自治体警察というほかはないのであります。私の申しておりますのは純然たる
自治体警察、即ち
都道府県の
警察本部長も又
都道府県の
公安委員会に任命権を持たさなければいけない、任命権を持たした
自治体警察でなければならん。こう申上げるのでございます。但し
警察の仕事の内容には自治体的なもの、即ち
住民の生命、財産の安全を保護する、或いは公衆の安全を守る、青少年を守るというものがありますと共に、国の
治安に関する仕事を持
つていることは疑いないところであります。その分量は、分量から行けばそれほど多くございませんけれ
ども、その国家の
治安に関する
警察の仕事の重さは、
重要性はこれは決して無視するわけに参りません。
都道府県の
自治体警察だからとい
つて、国の
治安に関することを無視してよいというはずは勿論ないのでございます。
従つて例えば
警察本部長の任免につきましても、これが国の
治安に両立しないような人間が本部長になることは、私はお困りだろうと思う。それでございますから、
府県自治体警察において
警察本部長を任免しようとするときには
中央政府の承認を得るという形にしたらよろしい。現在の
修正案にな
つておりますものの逆でございます。
従つてそれ以下の
人事は、これは勿論
府県の本部長の任免に委されればよろしいのであります。で併し、更に
中央政府の承認を受けた
警察本部長でありましても、その後にな
つてや
つていることが例えば一党一派に偏する、国の
治安に関することについて働かない、或いは能力がひどく下が
つているにもかかわらず、
地方の事情からこれを罷免をしないというような場合には、
中央政府において
自治体警察の本部長を罷免する権限を持
つてもこれは私はよろしいだろうと思う。こういうことは外国においても例のないことではございませんので、現にニユーヨークの市の
警察は勿論
市長の下の
自治体警察でございますけれ
ども、市の
警察本部長を公益上必要があると認めました場合には、ニユーヨーク州
知事が随時にこれを罷免することができるのであります。又戦時中の臨時立法でございますけれ
ども、イギリスにおいても過般の戦時中においては内務大臣が自治体の
警察長を随意罷免する権限を持
つてお
つたのであります。これは私が申しますような強い
府県に
自治体警察を置くならば、
中央政府にそういう権限を与えることはこれはよかろうと思うのでありますが、併しそういう制限以外においては
府県の
警察の仕事は
府県の自治体に委す。ただ事務上
治安に関することを国家が指示権を持つならば、それで差支えなかろうと私は
考えております。
で、
府県を今申上げましたような形で四十六の単位の
警察にいたしますると、じや
中央をどうするか、
中央には
公安委員会の下に
警察庁を置くという現在の案で私は大体いいだろうと思います。でこの点について私はよく承りませんが、
衆議院の
公聴会でどなたか
委員のかたから、
中央においては
公安委員の
制度はやめるほうがいいじやないか、そういうものは外国にないじやないかという御質問があ
つたということを承わ
つております。これは私はその
委員の御
意見に一つ傾聴すべきものがあると私は
考えております。若しも私が申述べましたような
意味で
府県の
自治体警察ができますれば、或いは
中央においては国家
公安委員というような
制度は要らないのかも知れません。これは丁度
府県、市町村の自治体に関する事務を
中央において司
つております自治庁の長官が大臣であり、それ以外のものは行政
委員会と何らの
関係ない行政官庁であるのと同じであります。ただそうも
考えますけれ
ども、一方から見ますと、先ほど申述べました
日本においては曾
つて政党
内閣が選挙干渉を行いました。これが
日本の
警察に一つの汚点を印しておるのでございますから、その危険を防止するためには、或いは当分の間
中央にも
公安委員会を置いてこれに
警察の仕事を担任させることは止むを得ないかとも今は
考えております。この
警察事務を担当いたしまする大臣、現在の
法案から参りますれば
公安委員長になるベき国務大臣でございますが、私はこの国務大臣については法務大臣又は保安庁長官との兼任を
法律において禁止すべきものだと
考えております。これは別に皆さんの前で御説明を申上げるまでもなかろうと思う。
全国に亘
つての
警察の仕事を担任させるものが一方において
警察権を持
つており、又一方において兵隊を動かしておる、そういう権限を一人の大臣に集中せしめることは、私は民主政治の憲法の下においてはいけないことであると思う。これは
法律を以て禁止するまでもないことなので、こんなものは一体政治の常識だと思うのです。この
内閣では数年来法務大臣に
警察事務を担当させておるのであります。こういうことは私は政治の理想の上から言
つて許すべからざることであると
考えておるのであります。で、
公安委員会の下に置かれます
警察庁は私の申しますような
都道府県の
自治体警察中心でありまする場合には大きな組織を必要としないと思います。
警察に関する仕事、各
地方警察の連絡調整に関する仕事、或いは国会との連絡に関する仕事、
法律の制定に関する仕事、或いは外国その他の
警察の調査に関する仕事、これらの事務的なもの、警備に関するものはそういう事務的なものでございますから、割合に小さな組織でよろしかろうと思います。又いわゆる管区
警察局のごときは必要がなかろうと思います。
いま一つ、これらの
警察庁の長官以下は
警察官でないほうがよろしい、或いは
警察官にはすべきものでないと私は
考えております。と申しますのは、以前内務省が
警察を持
つておりました
時代においても、警保局長以下の局員はこれは
警察官ではなか
つた。それで
全国の
警察事務を担任するに少しも支障がなか
つたのであります。現に皆さんが現在の
国家地方警察本部においでにな
つて御覧になればわかる。
国家地方警察本部の
かたがたは大部分は
警察官でございますけれ
ども、あの中には
制服を着た人は絶無とは申しませんけれ
ども、殆んどおりません。そんな必要はない、それが私は本当の姿だと思う。この点は世間はどなたも問題にせんようでございますが、これに私がこだわ
つておりまするのは、実はほかに一つの
理由があるのでございます。と申しますのは、今日までの
日本の
警察において最も残念に思いますることは、一つは
警察が選挙干渉に使われたということであり、いま一つは戦前から戦時にかけての特高
警察の乱暴至極な働きでございます。私は極めて素直に申しまするならば、持高
警察の作用、特高
警察が全然不必要だということには私は賛成しないのです。国の
治安を維持しまするために、国内におけるいろいろな
運動についての情報を集め、これを
政府がとるということは当然のことです。これなくして国の
治安を保てんのでございますから、特高
警察そのものを否定するわけに参らんと思いますが、戦前から戦時にかけての特高
警察のやり方は、私はどうも実に不快に
思つておる、実に残念なことだと思うのであります。何が故に一体ああいう特高
警察が問題を起したか。本来
警察作用の一部としてはあ
つてもよろしいものが、どうして
国民の敵のように言われる特高
警察ができたのか。これは一つ皆様が御研究を願いたいのであります。私の乏しい研究によりますと、これに一つの基因がある。特高
警察はそう新らしいものではございませんが、これは非常に妙な形になりまして、
全国的に特高中心の
警察になりかけたのは、
昭和三年田中
内閣の
時代に警保局の中に事務官を五人、属十五人、合せて二十人の臨時職員を置きまして、これを
警察官、警務官補というものにいたしまして、これは
全国に亘
つて特高
警察の仕事ができる、司法
警察権が行われるという
制度を作
つたのでございます。内務部内臨時職員の設置制という一年限りの臨時職員でありますから、枢密院にはかけない。悪く申せば一種の私生児みたいなものでございます。これが
昭和三年からずつとできまして、これは
全国に亘
つて権限を持
つておるのでございますから、
全国の特高をこれが指揮監督するようにな
つて参りました。特高
警察が行き途を誤ま
つたのはその後のことでございます。私自身は、それまで
警察局というものは執行権は持
つていなか
つたにかかわらず、執行権を持つ、僅か二十人の人間を置いて、特高
警察においては
全国に指揮、命令、監督をやらすように
なつたことが、あの特高
警察を起した一つの有力な原因だと
考えておるのでございます。こういう点から、私は只今申しまする
警察庁の職員は
警察官でないほうがよろしいということを申すのであります。この
法律によりますと、
警察庁の長官が
全国の
警察官の最高の地位に就きます。昔の軍隊の階級で申せば、
警察庁長官が
警察大将であります。そうして警視総監と多分管区
警察局長が
警察中将でありましよう。
府県の
警察本部長が
警察少将というような形になるだろうと思います。
警察官は階級によ
つて任免をせられておりますから、こういう階級の差別ができますならば、
自治体警察と言おうと言うまいと、これはもう
警察長の思うように働くように自然になるのであります。こういう
制度は私は外国にも絶無がどうか存じませんが、私の知
つている範囲ではこれはない。
日本の八十年の
警察の歴史において四年間だけございます。明治十年の一月、西南戦争まさに起らんといたしまして、今日の言葉で申せば国家非常事帳になりましたために、そのとぎの警保局と警視庁とを両方ともやめまして、大警視川路利良を警視局長というものに任用をいたしまして、
全国の
警察の指揮命令々させました。これは西南戦争対策として行われたことでございます。このときにただ一回だけ
中央の役人が
制服を着て
全国の
警察を指揮、命令するという
制度が行われたのであります。戦争が明治十三年に終りまして、明治十四年から警保局に再び戻りまして、
制服を着けない
警察官に変りました、
警察の事務だけをとるようにな
つたのであります。私はさような点からいろいろ
考えまして、
警察庁が
中央において事務をとり、
地方においていろいろな仕事をすることは必要であるけれ
ども、これには
警察官を置かないほうがよろしい。普通の事務官でやるほうが
自治体警察の理想を達成する上において必要なり、こういう判断をいたしておるのでございます。その他の例えば非常事態に関しますること、或いは公安に関しまするものについて、
府県に対して指示をするというがごときは、これは当然あ
つて然るべきことだろうと思うのであります。私の申述べたいと思いまする
警察制度の根幹は以上のごときものでございまして、割合に簡単なことでございます。
これに対して起りまする第一の反対論は、さような四十六の
自治体警察にしてしま
つたならば、
日本の今日の
治安を維持する上において駄目じやないか、そんなものでやれるような
治安状態ではないぞという反対論が私は必ず出るだろうと思います。私は当局者ではございませんから、実は国内の
治安について
余り細かい情報等は全然存じません。併し私も全くのしろうとではございませんから、多少の勘は働くのでございますが、私の知識経験を以ていたしますならば、今頃述べました組織を以てして、今日の国内の
治安を維持するに決して私は困難じやないと判断をいたしております。これは皆様の賢明な判断に持つ以外に途はないのであります。
私の実に申述べたいと思いまする点は、ほぼ以上で尽きるものでございますが、なお一言付加えさして頂きたいことがございます。それは先ほ
ども申上げましたように、初め
衆議院に提案をせられました
政府の原案は、
国家警察にこれに統一しようという案でございます。これは私は甚だ不適当なものであると
考えておるのであります。
衆議院において或る
程度の修正が加えられましたけれ
ども、私が申述べましたような
自治体警察の理想とは去ること極めて遠いのでございます。私個人としてはあの
程度の
修正案を以て立派な
警察制度になるとは私は
考えてはおりません。
警察はほかの
制度と違いまして、
国民の生活に直結いたします。
国民の自由、権利を守り、非常に
国民に大きな
影響力を与えるものでございますから、本来ならばこの
制度の根本的改革をするというならば、私は
政府としては大きな調査会でもお作りにな
つて、各
方面の
意見を慎重丁寧にお聞きに
なつた上で決定すべきものであ
つたと思うのであります。そういう
措置がとられないで、卒然としてあのような
法案ができましたことにつきましては、私は実は
政府の
措置について
国民の一人として非常に不満であります。のみならず一昨年から昨年にかけまして
地方制度調査会が開かれております。私もその調査会の一
委員でございます。
警察制度についても極めて大掴みでございますけれ
ども、
審議いたしまして答申をいたしました。併しこの答申案はあの
政府の原案には全然盛られておらんのでございます。全く無視された形でございまして、私は調査会の
委員であ
つたからここで不平を申すのではございませんが、
警察のごとき
国民にこれほど大きなものを、ただ卒爾としてああいう極端な
国家警察に統一しようという
法案を出したということには、町民として実に不満に堪えんのでございます。それでございますから、
参議院において御
審議になります際には、それらの点について特に御
審議願いたいのでございますが、ただ
衆議院において
審議をせられました途中においては、一つの見逃しがたい変
つた現象が起
つておるのでございます。これはその間において
国家地方警察と
市町村自治体警察との間において、悪い言葉で言えば泥試合に近いようなやりとりがあ
つたように私は承わ
つております。これは
警察制度を
考えますならば、或いは
警察が正しく
運営せられることを願
つております
国民の一人としては、実に私は残念に堪えんものでございます。すでに初めに申上げましたように、
警察制度がどうしても改革をしなければならんという以上は、若しもこの国会においてこの案が成立せず、来年度に持越されることになりましたならば、又先ほどの
衆議院において起りましたような現象が、年間続くのであります。又来年の国会においても繰返されるのでありましよう。そうなりますと、連絡とか協調とかという大切なことが
国家地方警察と
自治体警察の間は到底従来のようへ形では行くまいと思います。このままで行きますれば、
全国の
警察官に対しては非常に大きな不安、動揺を与え、又不満を与よえ、
国警と
自治警との間に感情的な対立を引起す懸念なしとは私は言えないと
考えます。その点も
考えますると、今参
つておりまする
法案につきましては、私は先ほど来申上げましたような点から甚だ不満を持
つておるのでございますが、
警察制度を理想的に改めることについては、或いはこれを将来において確保する途を講ぜられまして、何とかこの国会において
警察法案が通過をいたしまして、曲りなりにも
警察を安定せしめることが現在の事態においてはより必要ではないかと、私はかように
考えておる次第でございます。
非常に雑駁なことを長く申上げまして甚だ恐縮でございます。
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