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政府委員(
佐藤一郎君)
只今御
提案に接しました点は、
財政制度の観点から見ますると、非常なる大改革でございまして、
政府としては勿論重大な関心を持
つておるところでございます。勿論
只今お話がございましたように、
積雪寒冷地帯における
公共事業等の
事業の
執行がいわゆる気候的の制限に災いされまして、とかく円滑を欠いているという
実情は、私
ども誠に御同感申上げておるところであります。従来これについては、いろいろな考え方が種種なされて参つたわけであります。それで、そういうような
弊害を、できるだけ一面において除きたいという気持を又我々も持
つておるのでございます。ただその調整の仕方が余り
制度の根本的な
改正に亘りますと、種々他の方面にも影響を来たして参る虞れがございますので、私
どもといたしましては、
只今の御
提案は、一面において
積雪寒冷地の
事業を円滑に
執行する上において、極めて適切であるとは思うのでございますが、他の面についての多少問題が生ずる虞れもございますので、できるものでございますならば、もう少し他の
方法によ
つて御考慮をお願いできたらと、こう思うのでございます。その
理由を申しますと、御
承知のように我が
会計制度におきましては、いわゆる
会計年度を一年間といたしておるわけでございます。それで、
会計年度を一年間とするという大
原則は、何と申しましても長い間の確立した
原則でございます。これに対しては、
会計法上、
財政法上、それでは相済ない場合も考慮いたしまして、或る
程度の
例外は認めてございます。
継続費、
国庫債務負担制度その他の
制度を初めといたしまして、
繰越の
制度も又その
例外の
一つに
なつておるわけでございます。特に
繰越明許の
制度は或る
意味におきまして
会計年度が二カ
年度に
なつておるという性質を多分に持
つておるのでございます。それの既存の
制度によ
つて、できるだけ円滑に運営いたして参りたいと思
つておるのであります。御
承知のように、
繰越をいたします際に
大蔵大臣の
承認を得ることに従来
なつておりますが、これについては、一体なぜ
大蔵大臣の
承認が必要であるかという問題があるわけでございます。御
承知のように、毎
年度繰越をいたします際には、その
財源と共に次の
年度に合せて
繰越すことになるのであります。一体、
繰越ということは
制度の上から認められてはおりますけれ
ども、本来或る一
年度に
経費を使えと、こういうことをやはり
前提にして
予算が全体として認められておる。であるからして、できる限り
努力をして、一年間に使うようにやはり
努力をしなければならない、こういうことが
前提に
なつておるわけであります。勿論必ずしも
行政上の怠慢であるとかそういうことによらないものも、止むを得ない
事情のものもあるのでありますが、中にはやはり
行政上の
措置が必ずしも適切に進められなかつたということのために、一年間に使い切れないで、どうしても
繰越しなければならないという場合もあります。それで、そういうふうに
余り濫に流れては
大蔵大臣としては甚だ困る、やはり飽くまで
会計年度の
原則というものは
原則として守
つて欲しい、真に止むを得ないものだけを
繰越を認めたい、そのためにはやはり或る
程度個々の
事態について
承認をすべきか否かということを
決定せざるを得ないと、こういうことになるわけであります。殊に、全然この
繰越が必要ない、即ちそのままで
年度に使い切れなければ不用に立ててしまうというものか、それとも
繰越して更に翌
年度に亘
つて使わせるかということの判断は、なかなか微妙でございます。御
承知のように、
政府には毎年
剰余金というものが出るのでございますが、これらはいずれも、いわゆる
予算に一応積算いたしましたけれ
ども、
実行の結果不用と
なつたものであります。ところが全然、
承認、不
承認をいたしませんと、当然不用となる、即ち
剰余金と
なつて出て来るべきはずの
経費が、とかく
繰越と
なつてそのまま使われるという虞れが出て参ります。即ち、こうした広い
制度を認めます場合には、結局極めて便乗されるという虞れが一面に出て参るのであります。
政府といたしましては、必ずしも
繰越すところまで行かなくともよろしい、不用に立ててよろしいというものもないわけではございません。
それから又非常に特殊な場合でございますが、これは景気不景気によ
つて非常に違うのでありますが、
経済界が非常に不況に
なつて参りましたような場合には、しばしばいわゆる
歳入欠陥の問題が起
つて参るのであります。そういう
歳入欠陥を生ずるというような場合には、先ず
繰越すべき
財源を削
つてもその
歳入欠陥に充てなければならない。
租税収入その他の何らかの国の
収入というものが
予定通りに入
つて参らないという場合には、その
欠陥を先ず
補つて、而も
財源に余裕がある場合においてのみ、翌
年度に
財源を
繰越して
事業を
繰越すことを認めると、こういうことであります。これは勿論そう常にあることではございません。できるだけ
財政の運営を適切にいたして、そういう
事態を避けなければならないのでありますが、併しながら絶対にないということも保証できないのであります。できるだけ
費用を
繰越すのに、いわゆる便乗を排するとか、或いは
只今申上げたような
事態にも対処すると、そうして本来の
目的であるところの
年度内にできるだけ
予算を有効に使うという
趣旨を貫徹するためには、どうしても
大蔵大臣の
承認を得ると、こういう
建前だけは私
どもとしましては崩したくない。殊に
積雪寒冷地の
範囲というものは、これは、ものにもよるのでありますが、甚だ相対的なものでございまして、実は
予算の
実行につきましては、必ずしもいわゆる
積雪寒冷地帯の
事業だけでなく、その他にも種々問題がございますし、これを
積雪寒冷地帯に限りましても、現に
寒冷地手当等においても相当そういう例がございますが、だんだん拡がる
傾向がございます。そのほかの
事業で、やはり
執行を円滑にするという面だけを強調されて、そうしてできるだけこうした
例外を拡大して行くという
傾向に
なつて参る虞れがないとは保しがたいと思うのであります。万一そういうことになりますと、いわゆる
会計年度の
原則というものは根本から崩れがちになる、こういう虞れもございます。で、私
どもといたしましては、そういう重大な
内容を持
つておりまする御
提案でありまするから、できましたら
大蔵大臣の
承認を省略するというこの点だけは
一つ御勘弁を願いたいと、こう思うのであります。尤も先ほ
ども申上げましたように、然らば現状を放
つておいてよいかということについては、勿論私
どももできるだけその対策を考えたいと、こう思
つております。それで今回まだ
提案に
なつておりません、極く最近に御
提案いたす
予定に
なつておりますが、
財政法、
会計法の一部を
改正いたしたいと、こう思
つております。その
内容の中心はこの
繰越制度でございます。従来、
繰越制度について非常に非難のあつた
一つの
理由は、大体において
承認が、
年度が
終つてから、即ち三月三十一日が過ぎてからその
承認がなされるということであります。併しながら、なぜその
承認がそういう
事態になるかと申しますると、結局要求する側におかれても
年度を過ぎてから出されるのであります。これは即ち
金額の
実績が確定いたしませんと、幾らの
金額を確定的に
繰越すかということがわからないわけであります。その結果として、結局三月三十一日の
実績の数字というものを確実に把握いたしまして、然る後に
大蔵大臣に
繰越の
承認を得るために、
大蔵大臣がそれを
承認するために
暫らくの
日数を要する
関係で、更にそれが遅れる。そこで例えば三月三十一日から四月或いは五月の半ばまで、一カ月、一カ月半の空白がそこに出て来て、御迷惑を相かけておると、こういうことになるのであります。その
弊害を除くには、いわゆる
繰越の
承認を
事前にやると、
年度のうち、即ち二月とか、早い場合には一月の末とか、そういうときに
繰越の
承認をしておきますれば、三月三十一日から四月一日に
年度が変る際にも何ら
支障なく
事業を続行することができるのであります。今回の
改正におきましては、結局できるだけ
年度のうちに、即ち十分
事前のうちに
承認ができるようにいたしたいと、こう思うのであります。それで、そのためには、結局
繰越した額は、
繰越した以上は無条件で以て翌
年度の
予算といたしたい。併しながらその
承認は
事前に行うと、こういうふうに二つに分けたいと思うのであります。
ちよつとおわかりにくいかと思いますが、三月三十一日に確定した
金額を
繰越すと、こういう従来の制定がございます。この
繰越した
金額は、翌
年度の、例えば二十九
年度の
予算の
配賦があつたものとみなすと、こういう
財政法の
規定がございます。その
関係で、翌
年度の
予算の
配賦があつたと同様にみなすためには、はつきりと
金額が確定していなけれならないという従来の解釈でありました。それを変えまして、例えば一千万円を二月の中旬に
繰越の
承認をいたします。一千万円の
承認をいたしましたところが、実際問題といたしまてはそのうちで八百五十万円だけ三月から四月に
繰越せば足りると、そうすると前の一千万円の
範囲内において八百五十万円の
承認を与えました場合におきましては、八百五十万円が二十九
年度の
予算とみなされると、こういうふうに
規定を書きたい。従来といたしますと、
承認した一千万円そのままが即ち翌
年度の
予算になる、こういう仕組に
なつてお
つたのであります。
従つて一千万円というものは三月三十一日までにはなかなか確定できない。いはば
制度そのものに甚だ無理がございまして、この
繰越制度の無理を改めたい、こう思うのであります。なお従来の
繰越制度におきましては
只今の例で申しまして、一千万円の
繰越をいたそうとします場合に、その
年度内に行われる、更に元の一千万円があつたといたしますと、別々の
契約をいたさなけければならなか
つたのであります。それを今回は
年度内において、即ち二十八
年度のうちにおいて二十九度に
繰越すべき
金額を併せて
契約することができる、即ち
契約を一本で以てできるようにしたい、こういうふうに考えております。これはいわゆる
国庫債務負担行為にやや類する
制度でありまして、非常に大きな
例外的な
制度を認めることになるのでありますが、併し
繰越制度を円滑にするためにはこの
程度の大きな
例外を認めざるを得まいという肚をきめまして、今回実は御
提案を申上げたい、こう思
つておるのであります。従来は折角
繰越の
承認を得ましたものの、二十九
年度に亘る分については二十九
年度に別に
契約をし、二十八
年度の分と別々の
契約で行
なつておる。これは甚だ不便でありましたから、これらを併せて一括して一本の
契約にすることにしたい、こういう
提案を考えておるのであります。
それから又従来の
財政法、
会計法の
建前から申しますと、いわゆる
大蔵大臣が直接に
承認するという
建前に
なつておりました。従いましてそれらの
承認の受理というものは必ず
中央まで
参つたのでありますが、これについても勿論ものによるのでありますが、
原則として一番
現場の
事情を
承知している各
財務局その他の支局にこの
権限を委任したい、
法律にそういう
規定を設けたい。そう思
つております。従来から
繰越承認がとかく
書面審査になり勝ちの
弊害がございましたので
財務局の
意見を徴して、
中央では実際上の
審査をいたして参りましたが、更に一歩進めまして、
地方において直接に相手方の
地方の
部局と相談をいたしまして、そうして
繰越承認をその
現場においてできるようにいたしたい、こういうように考えております。以上の先ず
繰越承認を、三月三十一日になる前に以前に
承認をするような基礎を作る。それから今度はその
承認を得たのちにおいて
契約をする。翌
年度の分も併せて一本で
契約し得るようにする。そうして
繰越承認は、
承認の
行為を各
地方の
部局において、
中央まで持
つて来ないで直接に
許可し得る。こういうような大きな
意味の三点について
改正をいたしたい。こういうふうに考えております。
なお
承認について、
積雪寒冷地の
経費につきましては、
原則として
繰越明許をするという
予算措置をいたしまして、それからなおものによりましては、いわゆる
包括承認という
制度がございます
一つ一つの
承認を一々するということでなく、或る
程度まとめまして
権限を認めてしまうという、いわゆる
承認制度のやり方によりましては、細かいものを一々個々的に
承認するという
方法を避ける途もないわけではございません。これらの
財政法、
会計法の
改正並びにその
運用の工夫によりまして、
只今の
提案の
目的とする
趣旨に副うようにいたしたい、こう
政府としては十分考えておる次第であります。従いまして、
只今申上げましたように、いわゆる
大蔵大臣の
承認をやめるという問題は、他にも甚だ波及する虞れがあり、若しそれが一般化する場合においては、非常に困難な
状況に相成りますので、できるだけその
趣旨を御了解お願いしたい、こう思
つておるわけでございます。