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政府委員(
岡田修一君)
海運会社が非常に経理的に苦しいから船を造らす必要はないじやないかという点に対する私
どもの意見でございますが、まあ
海運会社が今日のように非常に経理的に苦しく
なつた一番大きい原因は、これは海運業者が口癖のように言
つておりますように、戦争中に失ないました船に対しまして国家からもらいました補償金、これは終戦時二十五億ありましたが、これが全部打切に
なつた。若しこれを今日の貨幣価値に換算しますと何千億になりますか、四千億か五千億、若しこういうものがありますれば、今の借入金というものは全部なくて済んだ。それが全部打切られたということが
一つの大きな原因です。それからもう
一つ海運会社が非常に苦しいのは、御
承知のように海運
収入というのは、外貨、若しくは円で受取る運賃でも外貨建ての運賃でございます。
従つて受取る運賃は三百六十円レートの外貨を受取る。そして払うべきものが殆んどすべてが国内の円で払う。そこに端的に言いますと、三百六十五円レートが維持されている、そのしわが海運のほうに寄
つて来る。ほかの産業でございますと、例えば紡績にしても鉄鋼にしても、その原料は外国から買うわけです。
従つて三百六十円で維持されている、その恩恵を受けている。而もその原料を使
つてできた製品が国内で相当売捌かれる、これは鉄鋼にしても紡績にしても同じである、海外に出ない。ところが海運の場合はすべてが外に出なければならない。すべてが外貨で獲得する。外貨払いをするのは僅かに燃料費だけであるという点が海運として非常に辛い。ほかに海運と同様に、財政
資金を使います電力、これは若し採算が取れなければ、一割配当ができるように一般消費者の負担において、
国民の負担において料金の値上等でカヴアーされる、一割配当をされる。海運におきましては、この七割の財政
資金で船を造る、市中
融資については六分の
利子補給、そういうふうに非常に手厚い恩恵を受けましても、なお金利がやつと払えるかどうか。特定の
会社だけが苦しいなら別ですが、すべての
海運会社がそういう苦しい経理
状況に置かれるのはなぜか、こういう点が
一つ。それからもう
一つ、なるほど
船会社は経理的に苦しいのですが、これはいろいろ乱暴な議論だという駁論もありましよう。日本の
船会社が非常に経済的に苦しいというのは、それだけ安い運賃で日本に入る原料を運んでおる。それから出るべき輸出品を安く運んでおる。日本経済にそれだけの貢献をしているのだ。ほかの恩恵を受ける産業がちつともそれをお感じにならないけれ
ども、鉄鋼にしても紡績にしても、入るもの出るものすべて安い運賃でやる。そういう産業はほかでカヴアーできる。然るに海運はほかでカヴアーする途がどこにもないという点から考えますと、単に
船会社の経理
状況が悪いのだ、
船会社が経理のやり方が乱暴なのだということで、一概に
船会社を非難され、延いては船の建造まで抑制すべきであるというふうなところに結論を持
つて行かれるのでは困る。それから更に外貨の獲得或いは節約という面におきましても、これはほかの面に財政投資をされますと、それは必ずしも外貨の節約或いは獲得に行かない、極く一部だけであります。ところが船の場合は完全に外に出て外貨の獲得なり節約に貢献するわけです。そういう点をお考え願うと、
船舶建造というものも、相当進めなければならんじやないか。日本だけがこういう手厚い保護をしておるのならなんですが、ところが財政的に非常に苦しいフランスあたりも、一九五〇年までに千六百億フランの金を投じまして、二百五十万総トンの船腹を回復しております。現在では戦前以上の、戦前当時と殆んど変らない。イタリアにしても、終戦当時殆んど全部の船を失
なつたのが、戦争前に近いのです。その他の諸外国はすべて戦争前よりも多くな
つておりまして、いずれも、英国を除いては、手厚い保護を受けておる。英国についてすら戦時補償の金として二億六千万ポンドの補償金を出しておる。更に特別償却その他の国家的恩恵を受ける。殊に英国海運におきましては、戦後二回のブームにおきまして国家助成を必要としないほど莫大な利益を挙げておる。莫大な蓄積をしております。日本は先ほどから言いましたように、裸で立上
つて、これに対しまして、日本の最近の海運の復興
状況に対しまして、英国を初めとする諸外国は非常な関心を持
つておる。非常な脅威を以て見ておる。英国とドイツが、ドイツは三年ほど前になりますか、外航船の建造を許されまして、毎年五十万総トンずつの回復率を示しております。もう二百万総トン近くになるのじやないかと思いますが、ドイツと日本の海運の復興に対しましてまあ非常な関心と警戒の目を持
つている。で、日本の海運が今後どういう方法をとるか、どういう助長策によ
つて発展して行くか、で、まああらゆる機会において、これの発展を阻止しようという動きかあるわけです。具体的に申上げることを避けますが、これは非常な関心とあらゆる方法で、そういうことが講ぜられておると言いますか、動きがあるわけです。それは
政府筋においてもそうです。それから一般の海運の業者におきましても、先ほど言いましたように、海運競争において、経済的基礎の弱い日本の海運業者を今のうちに抑えつけようという動きが露骨に出ておるわけです。私
どもこれを今日非常に恐れておるわけでございまして、今日のこの事態が日本の海運の今後の発展なり再建に如何に影響するかということに対しまして、非常な危惧を持
つております。大変長くなりましたが……。