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国務大臣(
岡崎勝男君) この原爆
事件のような例は
国際法上は今度が初めてですからして、全く新らしい例であります。
従つてこれについての
国際法上の見解というのはまだ確定しておりませんが、従来の
考え方によりますと、公海という所は世界中の国が自由に使える所である。併しながら自由に使えると
言つても、或る国がそれを使
つているときによその国が同じ所を通れば邪魔になるからして、お互いに
協力して、成るべくいずれの国も迷惑をこうむらないように使い合おうじやないかというような
考え方で来ております。ですから従来の例だと、例えば大艦隊が公海にお
つて実弾演習をやる、これはかなりの速力で、例えば十五ノツト、十八ノツトとかいう速力で公海をず
つて一日中走りまして、その間に実弾演習をやる、それが何日間続くという例はあ
つたわけです。そうするとその弾の落ちる
区域は
危険区域になる。そういう場合には普通そのや
つておる国が通告をするわけです。そこに入らないようにというと、ほかの国も特に支障がなければできるだけそこに入らないで、勿論危険もありますから入りませんが……、それに対して抗議をするというようなことは従来はなか
つた。それでできるだけ国内にも告示して、そこのところは避けるようにするということで来ておるのが従来の例であります。それをおれのほうも公海の自由だから勝手に通るぞと
言つてがんば
つて通るということは、これは喧嘩になればどうかわかりませんが、今までは
協力してや
つてお
つたというような
立場、
関係で来ておりまして、ただ今度の場合にはそれが長い期間であり、又艦隊がずつと行くのもかなり大きな
区域を
通りますが、それ以上に大きな
区域であるということにな
つて、新例になるわけでありまして、これも今までの原則から言えば、お互いに差支えない範囲で
協力すべきであるということは言えましようが、それに対する長い期間であるというところから又
補償というような問題も出て来るのは当然だろうと思います。
補償で済むか済まないか、こういう点はつまり
国民の非常な心理的な
影響も実弾演習なんかと違
つてありますからして、これは
一つの研究課題であり、又これは実際
国際法学者の研究しておるところであります。恐らく国連等の
国際法規の
委員会等でも取上げておると思いますが、まだこの点は確立はしておりません。
それから第二の点でありますが、
間接の
補償という問題の中にはいろいろのものがあります。それで例えば
福龍丸が帰
つて来てからは
一般に国内にこういう
事件が拡が
つて、魚の
値段が下
つておる。その魚の
値段が下
つておるのを承知しながら取りに
行つて戻
つて来たというものについては、これはやはり魚価の下りによる
損害はあります。併しそれに比べると、何も知らないで
行つて取
つて見たところが
福龍丸の
事件が起
つて魚の
値段が下
つたというのとは大分性質が違う。
間接ではあろうが大分違う。そういう区別をしておるわけであります。我々も当然これは
考えなければならんじやないかと思われるふしのあるものについては、これは
賠償要求額に入れておるわけであります。
間接のものを全部入れているとは申しませんが、一部は入れておるわけです。併し現実においては向う側の
考え方は今申した
通り、一々中味を余り詮索せんで、
日本側が直接
被害だと言うならばできるだけそれは見ようということになりますから、
配分も
日本側に任せようということになりますから、
計算の
基礎と
配分とは違う場合があり得るわけです。そこで結論から言うと額のことになる場合がある。額がどうなるかということがあり得るわけです。
第三点は、私の
考えはむしろ、事務当局がどういうことを言いましたか知りませんが、楠見君の受けておる印象とはむしろ逆でありまして、国内でいろいろな
措置をと
つたということになれば口で言
つたのじやなくて実際にこれだけ
被害があ
つたからこれだけの
措置をとるということになればむしろ
被害の額が具体的にわかるのであ
つて、対米
交渉の役に立とうとも邪魔になることはない、こう
思つております。