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参考人(
神崎三益君) その数と規模におきましては、世界に冠たる発達を見たることは大変喜ばしいことでありますが、併し
保険者、被
保険者にもまだ若干の不満があるようでございますが、
医療担当者側の不満は、今日各地に起きておりますいろいろの出来事から十分お察しがつくと存じます。
点数切下げについての
意見という
お話でございましたが、我々総合
病院で、
原価計算上今回の
点数切下げが如何なる比重を以て収入減を来すかということを
計算いたしてみますると、三%乃至三・五%の収入減になるということが
計算上出て参るのでございます。結核を主として扱う結核
病院におきましては、遥かに大きい比率で収入減を来すということは、もういろいろなものに
発表にな
つておりまするから御
承知だと思います。この
点数の切下げが十分満足しておる
診療報酬即ち
単価の下に行われたものでありまするならば、それは三%乃至三・五%の数にしかならないのでありまするが、御
承知のごとく、昭和二十六年の暫定
単価取極め以来、
医療関係者は絶えず
診療報酬の適正化を叫んで来てお
つたのであります。その矢先にいろいろ
会議の経緯や事情もあるでございましようが、我々といたしましては、雛鳥が餌を求めて口をあけておる、その中に石ころをほうり込まれたような感じがした、これは私の率直なる
考えでございます。で、この低い
単価のしわ寄せばどこに参るかと申しますると、我々は飽くまでも良心的な
医療は守らなくてはならない。そういたしまするというと、先ず第一に
医療従業員の人件費の圧縮というところに参ります。その
数字をグラフその他表でお示ししたものが「日本赤十字社の給与の実際と
政府給与ベースとの比較」というグラフを御覧頂くとその間の事情がよくわかります。全日赤
関係の
病院職員一万九百二十八人の平均が一万二千五百円でございます。まだほかの
資料を早く集めなくてはならないのでございますが、こういうグラフに
なつたものとしては日赤のものだけでございます。済生会の現在の給与ぺースは一万二千二百七十一円で、日赤の
病院職員の給与ペースよりも下廻
つております。このグラフを御覧になると、日赤のカーブは二十四年の十月から始
つておりますので、この以前はわかりませんが、この際には少くとも公務員のベースと同一であ
つたわけであります。その後だんだん
両者のカーブが離れて参りまして、今日では大体二千九百八十円ほど下廻
つております。その間に、二十六年の暫定
単価の
改正、二十八年の暮の
入院料の
点数改正がありましたが、一向人件費の改善には役立
つていない。即ち、我々の
団体においては公務員の給与ベースにも追つ付けない。而も
病院というものは、その構成の六割は
医師、薬剤師、看護婦、
医療技術員という専門学校以上の教育を経て、而も国家の検定を受けて初めて職務に従事する特定の人員が六割、その他事務職員等の学歴を調べてみましても、七割乃至八割が高等学校以上の教育を受けておる。かような高度の質を持
つた事業場は余り他に見られないのじやないか。まあ大学の
研究室は別でありますが、一般産業界におけるよりは、我々の調べた範囲では非常に高度な質を持
つております。それがかような状態に追込まれておる。それから第二枚目の表を御覧頂きたい。これは調べ得まする東京都内及び全国に組織を持つ
病院の
数字でございますが、二つの
団体と七つの
病院の現在職員の給与ベースでありますが、その一番上の欄が
医師でありますが、
原価計算を以てこのデフレ下でも
値上げの認められておる電力会社の従業員の給与ベース二万四千八百二十三円に比較いたしますると、
医師のみの給与ベースで、それが二つの
病院団体及び七つの
病院の中で、六つだけ僅かに電力会社の給与ベースを上廻
つておるのであります。
医師にして、三つの
病院においては、電力会社全職員の給与べース二万四千八百三十三円に及ばないというこの実情が私は人件費にしわ寄せされておるという立派な事実であると思います。
なお今度は稼働で、いわゆる第二は、人員の縮小即稼働過重にこの低
単価はしわ寄せして参ります。それを一、二表でお目にかけますると、日赤武蔵野
病院及び済生会中央
病院でございますが、先ほど
今井先生から全国
医師の稼働量がわからないという
お話がございましたが、これは私もいろいろ尋ねてみましたが、正確に一人当り幾らの働きをしておるかということは、まだ不幸にして的確な
数字はつかんでおりません。併しながら、大体一人当りの
医師が健康保険において月平均七千点の稼働があるという
久下局長さんの
お話をラジオで伺いました。又そういう
数字も出ておりましたが、それを補正いたしまして、補正ということは、まだ自由診療が二割はありますので、これ以外に二割の自由診療があると、こう仮定いたしまして、一月の全国
医師の平均が八千七百五十点、これは各
府県とか、或いは東京都についてはわか
つております。秋田県においては
医師稼働量が健康保険で四千点ということを秋田県の
医師会長から聞いております。黒沢
会長に承わ
つたときには大体平均四千点だ、開業医の平均はこういうことでございまして、勿論我々のようないろいろ機能的な設備を持
つております大きい
病院においては、平均を上廻ることは当然でございますが、それが武蔵野日赤
病院におきましては、一万九千三百二十点、丁度平均の二・三倍にな
つております。済生会中央
病院は二万九百二十一点、二・四倍にな
つております。かような稼働をやりまして、そうして人件費を圧縮してどうやらまあや
つて行
つておるというわけであります。
医療費が安いというけれ
ども、お前はそういういい栄養をしておるじやないかとおつしやられるかも知れませんが、併し、私は先ほど来申しましたように、
医師であるならば又従業員であるならば、それなみの給与は要求しても一向差支えないじやないか、こういうことを
考えまして、そうして、一点
単価はかくあらねばならんという三
通りの
資料を作
つてみました。なお先ほど
原価計算と申しましたが、実はこれが
病院協会で作りました
原価計算要綱なのでございますが、もう皆
手許になくなりまして、これしかありませんので済みませんが、回覧を
一つお願いしたいと思います。この
原価計算につきましてちよつと脇道に入りますが申上げますが、私
ども病院協会におきましては、昨年来どうしても立派な
資料を作
つてそして万人を納得せしむる
数字を出すのでなくては、我々は
合理的な
医療報酬を頂くわけに行かない、なお各診療技術の
点数をきめるに当りましても、
原価計算が基礎になるのでなくては適正なものは得られない、こういう
考えの下に有志が選ばれまして五つの
病院について五月に行いました。今その製表中でありまして、お目にかけられないことを残念に思うのでございますが、出来上りましたならば是非御一覧願いたい、かように存じております。つい一週間ばかり前に全国の
病院に呼びかけまして
原価計算普及講習会というのを我々の
団体が催しましたところ、我々当初五十
病院を予想しておりましたにもかかわらず、その倍の百
病院、百七十数名の受講者が集
つて参りました。この事実は如何に全国の
病院が不
合理なる
診療報酬に悩んでおるかということを如実に示すいい例だと存じております。近く我々はそれらの
病院を中心に全国に呼びかけまして、そして正確な多数の
データーを集めたい、かように存じております。これは今後
単価診療報酬の適正化のためにも、又
病院の経営の上にも、又先ほど
宮尾先生から
お話のありました
合理的なる
点数の取りきめにも、又それを
狙つてや
つたわけではございませんが、医薬分業の今現在施行し得るか否かの決定にも
相当お役立ちするのではないかと、かように
考えております。さようなことが人件費及び人員の縮小即稼働過重というところにしわ寄せして来ております。
なお、我々はこれは調べて見ないでもわかることでございますが、診療設備の整備にも又多分なしわ寄せが来ているということを私は推測いたします。本日も午前中それらのことを
調査する
意味で
病院サービスの
基準化ということの
研究委員会をやりまして、
相当詳細なる
調査表の最終決定をいたしました。これを全国二千数百の
病院にお願いしてその
資料を集めたい、かように存じておりますので、それらの
数字がまとまりますと、
医療報酬の適正を欠くがために日本の
医療機関が如何なる状態にあるか、という
データが現れると、かように自信しております。
以上、
医師の給与ベースにして電力会社の電線工夫その他の平均給与に劣り、又質において非常に高度のものである
病院という
団体の給与ベースが一般公務員の給与ベースを遥かに下廻
つておる、そうしてこれは調べて見た上でなければわかりませんが、今やはり
病院サービスの
調査の
基準化ができましたならば、どういう事実が現れるかということはおよそ想像がつくと思います。そこでかようなことで遷延して参りますならば、私は日本の
医療は破滅すると、こう直言申上げるのであります。
そこで先ほど来いろいろな御
意見もございましたが、私は十全なる案、十全なる策、これを望むものであります。我々のほうでも逐次
資料を作
つておりまするから……、併し今は轍鮒の急でありまして、これ以上私は遷延を許さない。で、非常に見方によ
つては乏しい
資料かも知れませんが、一定の
原価計算方式によ
つて算出したものを補正いたしまするというと、
相当違いのない
数字が出て参るという観点から、あえて武蔵野日赤、及び済生会中央
病院、この二つの
病院の現状を基礎にいたしましてそうして一点
単価はかくあらねばならんというのを出しましたのがこの数表でございます。我々、これはまあ私の
考えが多分に入
つておりますので、又一般の
医師会の各位或いは
病院協会の総会にかけましたら、どういう
意見が出ますか知れませんが、
原価計算委員会の
意見としましては我々は電力会社の従業員以上の給与を
病院従業員は要求する、これは要求して憚りないところであります。それはその
説明の中にも又先ほど来申上げますように構成の質が違うということと、又非常な責任を感ぜられておるという点から、二万四千八百三十三円の給与ベースを上廻るものを要求して当然でありますが、一応その電力会社並みのベースにいたしまして、そうして二倍半も働くということはこれはいずれ機械が壊れて参ります。英国の
医療制度を承わりましても、登録制ではあるけれ
ども、いくら評判のいい
医者でも三千人以上は登録を認めない、こういうことをつい先達
つて聞きました。誠にむべなるかなでありまして、や
つて行かなければならんからという火事場のような努力はそう長続きするものではありません。それはひとり
医療従業員の上にかかる不幸のみでなく、それらの
医療を受ける
国民の不幸を招くからであります。そこで二倍半働いておるのでございますから、全国平均
医師一人当り八千七百五十点に切下げてもいいのでありますが、それは先ほど申しましたような能率ある機関を持
つておるものでは許されないので、一応四分の三に切下げる、一万五千点にしてみます。これがまあ全国平均の一・七倍でございますが、こういたしまして初めは患者の数を減らすという
計算をしたのであります。それが一番しまいの、一点半価はかくあらねばならんという
数字なんですが、併しこれは実際には行われないであろう、来る人を拒むわけには行かない。
従つて医療従業員の今まで縮小した人数を四分の三の稼働量になるように三分の四倍いたしまして増員いたしました。増員いたしまして、そして電力会社並みの糾与ベースにいたしますと十九円八十八銭、約二十円であります。それから公務員、最低の公務員と申しますと公務員の方に申訳ないのでありますが、先ほど来縷々
説明申上げたように、違うというゆえを以
つて公務員並みに補正いたしますると、武蔵野日赤で十五円六十八銭、済生会中央
病院で十五円八十七銭、殆んど同じような
数字が出て参ります。併しこれでは我々は満足できないのでありまして、併し電力会社を上廻る要求も、これはまだ予算の措置のないときに到底無理だろう、こう
考えまして、その中間をと
つて五割の増、五割だけベースを増額いたします。それで
計算いたしてみますと、武蔵野日赤十七円五十八銭、済生会中央
病院で十七円八十四銭、こういう
数字が出て参るのでございます。なお表には健康保険の予算の大きい
数字も挙げて、どの辺からこれらの……、これは約三割の増になりますが、御捻出願えるか、国庫の負担をどういうふうにしたら最少で抑えられるかということと、お隣りに
連合会の
会長さんがおいでになりますが、私は
厚生省当局及び健保
連合会の考慮を促すという、まだそれぞれには差上げてありませんですが、その文の中に書きましたように単一組合の収支の状況の表を拝見いたしまして、又これは
相当事業内容のいい所だろうとは思いますが、我々の調べられる範囲で二十八年度の単一組合の決算を拝見いたしますると、私の見るところでは
医療給付に三割の増額をいたしても、まだまだ組合の
運営に一向支障はない、こういうことを私は
考えるのでございます。成るほど海の家、山の家、リクリエーシヨン運動場の建設費に千何百万円お使いになることも結構でございましようが、窮乏をお救いした
医師が轍鮒の急を叫んでおる際には暫く海の家、山の家その他リクリエーシヨン施設の建設をお控え願えないだろうか。私はそれが悪いと申すのではございません、暫くそれらのことをお控え願い。家族に全額給付その他
政府管掌を上廻るいろいろな特別給付を一応
政府並みにお控え願えるならば、私は、私の
計算では
医療給付に三割の増額はあえて保険料を増額なさらないでも可能なりと私は信じております。
最後に、
委員長から思うことは腹蔵なく言えというお
言葉でございますから、或いは差障りがある向きもあるかも知れませんが、私の思
つておることを率直に申上げますならば、健康保険というものはそもそも相互扶助の
精神でできたものであるということはどなたも御
承知の
通りであります。然るに保険料が裕福で納入が確実であるところの事業所は競
つて単一組合を結成し、又
政府もそれを奨励しております。かくして
政府管掌として残るものは保険料の貧弱で而も納入の不確実なもののみと申しては語弊があるかも知れませんが、それらが多数
政府の管掌の下に残る、監督者にして
保険者たる二重人格を持
つておられる
厚生省は、健康診療の完全を期する前に、その貧弱な
政府管掌の保険経済の黒字を確保するに汲々たるというのが現状であろうと思います。
保険医の不満が起り、別紙の
資料のごとく単一組合が君大な余剰が出るのも理の当然で、これを個人に例えますならば、貧乏人の払い得る診療
医療費で以て金持をも診療せよということでございます。
次に朝日新聞が去る二十六年十二月に載せました「医は仁術」という論説の一部を摘録して載せましたから御覧頂きたいと存じます。『「医は仁術」という
言葉は、
医師攻撃の常用武器である(中略)しかし仁術たることは、
医師自身の誇持であり道徳的理想であ
つても個々の患者が個々の開業医に
請求出来る債権である筈はない。昔から仁術たり得たのは社会が
医師に仁術を施す余力を与えていた結果であり、富者の負担で貧者の治療もする社会保障を、
医師の生計の中で遣り得たからに外ならぬ、即ち仁術もタダでできた訳ではないのである。所がその仁術の根源は枯渇して来た。事業税がかかり健保診療の収入は少い。……世情の変に合した
医師の側から、生活の叫びが起るも不思議はあるまい。』これはすでに二十六年の朝日新聞の論説として載
つておるのでございます。私の妄誕、当を得ない点があるかも知れませんが、私は重ねて申上げます。
政府管掌というところの貧乏人が払い得る
診療報酬で以てそうして金持の単一組合
連合会の診療をやるということに我々
医療担当者が苦しめられ、又我々の目から見れば厖大な余剰が出る。私の
病院でも私事を申上げては失礼でございますが、非常に忙がしい仕事をや
つておるので、毎年どこか海の家へや
つてくれという願いが連続出て参りまして、本年漸く若干の臍繰りを出しまして葉山に本当に陋屋の二階を二間借りて、そうして二百何人の従業員及びその家族が嬉々として夏の一日を遊んでおります。私も一日それを参観に参りまして、何々健保海の家という、実に我々の
病院の海の家から見れば、金殿玉楼とまでは言いませんが、裏長屋と山手の住宅の違いがあるのがずらつと並んでおるのを見て、成るほど私の想像がこういうところに端的に現われておる、かように
考えた次第であります。併しながら私はあえて単一組合の成長に反対するものではございません。なぜならばこの最後に書いておきましたように「単一組合は従来
政府がその結成を奨励した筋合もあり」、次のような利点がある。「保険料の徴収が正確である。」「自分達の
団体の組合だから保険経済の上からも亦統制の上からも健康管理がよく行われて、予防措置が行届き罹病率が低下する。此事は大局から見て大いに望ましい。」ことでありまして、我々
医師は、決して病人の殖えるのを喜こんでいるのではなくして、どうも日本
国民全体が一日も早くすべてが健康であるようにという念願を持
つております。その
意味から申しまして、単一組合の発達はそのことを助長する大きなプラスがある、かように
考えますので、これの発達は私は奨励して頂きたい、かように存じます。
大変長い時間を頂きまして恐縮でございます。