○
政府委員(
久下勝次君)
厚生年金保険法の詳細を
説明を申上げるのでございますが、
御覧を頂いておりまするように、この
法律は本則は百五条、附則三十九条、
合計百四十四条という厖大な案に
なつております。これを逐一御
説明を申上げますると、徒らに時間のみを要すると
考えまして、
便宜厚生年金保険の大要につきましてお
手許に私が御
説明を申上げるためのメモ的なものをお配りいたしました次第でございます。主な
条文は
関係の
項目のところにそれぞれ引用をいたしまして、皆さんが後刻精細に
御覧を頂きまする御
便宜のためと思いまして、勿論早急に作成をいたしましたために、必ずしも正確を期し得られない点かあろうかと存じますけれ
ども、私なりに
考えまして、この
程度の各条を
御覧頂きますれば大体御了承を頂けるのではないかというふうに
考えまして、一応の
分類をして見ましたものでございます。本日は時間も余りたくさん頂けないようでございまするので、このお
手許に差上げましたメモに基きまして、概略の御
説明を申上げて、
逐条説明に代えさして頂きたいと思う次第であります。
先ず
法律の
内容に入りまする前に、第一に
厚生年金保険制度の
現況というのが差上げてあります。
御覧を頂きたいと思いまするが、この
数字は最初に
昭和二十八年十二月末現在の
現状が書いてございます。
適用事業所の数が二十三万一千三百四十三
事業所ございまして、そこに働いております
強制適用被
保険者、その他の被
保険者が七百六十七万六千百三十四人ございまして、この被
保険者によ
つて扶養されておりまする被
扶養者は
健康保険法の例にならいまして、
計算をいたしまして千二百二十万五千五十三人ということでございまするので、この
制度に、昨年十二月末現在で
関係を持
つております被
保険者及びその被
扶養者は、
合計約二千万に近い
数字になるわけでございます。
次に
保険給付の
件数及び
金額が書いてございまするが、御
案内のように
現行の
制度は
昭和十七年に
制定をされたものでございまするので、昨年十二月末現在におきましては、
養老年金の
受給者はまだ出ておりません。それ以外の
保険給付か行われているわけでございますが、
障害年金受給者は全部で四万三千四百五十一件でございまして、一件
当りの
金額は二万七千二百九十九円、その総額は十一億八千五百二十八万五千百九十一円というわけでございます。
寡婦(
かん夫)
年金はこれは被
保険者が被
保険者期間甲にまだ
養老年金をもらう前に死亡いたしました場合のその
遺族に対して
給付をする
遺族である
寡婦、
かん夫に対して
給付する
年金でございますが、
件数が五万六千七百三十七件でございまして、
金額総合計十億三千五百万円余に
なつているわけでございます。即ち一件
当り一万八千百四十四円という年額に相成
つております。
遺児年金はやはり同様のものでございまして、被
保険者が死亡した場合の
遺児に
給付いたしているのでありますが、三千七百六十九件でございまして、総
金額五千二百二十六万四千円でございます。一件
当りの
金額は一万三千八百六十七円ということに相成
つております。
それから
旧法遺族年金という
言葉がここに書いてございますが、これは
遺族年金と申しますのは、
障害年金受給者が死亡した場合及び
老齢年金、
現行法では
養老年金、
養老年金の
受給者が死亡いたしました場合に出しますその
遺族に対して出す
年金でございます。現在
養老年金受給者がこの時期にはございませんので、各
障害年金受給者に出しておるものでございます。これが一万五百九十八件でございまして、その
金額は一億三百四万四千円、一件
当り金額が九千七百二十三円というふうに
なつております。
それから
障害手当金、
障害の
程度の低いものに対して一時金で出しますものが、これが
昭和二十八年度の
月平均件数で出しまして一千件でございます。一人
当り金額が七万千六百円であります。
それから
脱退手当金が九千四百件、これも
月平均支給をいたしておる
現状でございまして、一人
平均の
金額が一万七千九百円ということに
なつております。その他
遺族一時
金等の一時金が
月平均六十件出ておりまして、一件
当りの
金額が三万二千円、こういう
現況でございます。
次に
積立金の現在高、これはできるだけ最近のをと思いまして、
昭和二十九年三月末現在をとりましたが、八百五億二千四百三万二千円、殆んどこの大
部分は五年以上の、
資金運用部資金に
長期預託をいたしておりまして、その利率は
法律で定めるところによりまして五分五厘に相成
つておりまするが、極く少額約十億
程度のものに過ぎませんが、これは
短期預託に
なつております。
短期と申しまするのは五年
未満のもの、主として
運用上の
関係もございまして一番
最低の利廻りになります一年
未満の
期間で預けるというものが多いのでございます。その分が極く少額あるわけでございます。
それからなお
厚生年金保険をや
つておりますのには、どういう
職員がおるかという
意味で
職員と機構とをここに書いておるのでございますが、勿論申すまでもなく
厚生省保険局におきまして全体の
事務の統一をいたしておりますが、各府県に
保険課を置きまして、但し東京都だけは
保険部に
なつておりまして、その下に三課ございます。一応
便宜これを含めまして各県に
一つ、それから
大都市等被
保険者の多いところにおきましては、
都道府県庁の中の
保険課だけでは手が廻りませんので、そういう地域に対しまして六十八の
保険出張所を置いております。これで現場の仕事を
担当さしておるわけでございまするが、そこに配置しております
職員は先ず
中央の
関係ではここにございまするように内訳は省略いたしますが、二百三十人、
地方の
保険課及び
保険出張所の
職員が
合計五千六百五十五人配置しておるわけでございます。但しこれは
政府管掌健康保険の
事務と一緒にした
数字でございまするので、予算上
厚生年金保険関係の
職員を引出してみますると
中央に二百四人、それから
地方に二千三百二十六人というふうに
なつておるわけでございます。但し実際の
事務は、
政府管掌健康保険の
適用の
事業所と
厚生年金の
適用事業所は御
案内のように殆んど同一でございまするので、この
職員は一括して配置いたしまして、
事務の上ではこの
厚生年金関係の
職員がこれだけや
つているというような運営をいたしておらないわけでございます。私
どもの所管の
船員保険、
健康保険を含めまして全体として有無相通ずるような
事務の
担当をいたさしておるわけでございます。
これが
厚生年金保険の
現況でございますが、次に
厚生年金保険法をなぜ
改正いたさなければならんかということにつきまして極く簡単に申上げておきたいと思います。この点につきましては、大綱は
提案理由の
説明で御
案内でございましようと思いまするが、少しく細かく申上げてみたいと思うのでございます。
厚生大臣の
提案理由の
説明でも申上げましたように、今回この
法律の
改正をいたさなければなりません一番大きな
理由は、この
法律が
昭和十六年に
制定をされまして、その後終戦後の御
承知の激しい
インフレの時期を通
つて参りました。この
インフレの対策として、極めて一時的な
便宜的な
措置が講ぜられたままに
なつておるというところが、一口に申しますると、
改正を必要とする一番大きな
理由でございます。なぜかと申しますると、当時
インフレが進行いたします
関係上、
貨幣価値がどんどん下落をいたしまして、従いまして、御
案内のように、次次とベース・アツプが
物価の後を追つかけて上昇して行くというような
状況で、
勤労者の生活は非常に窮屈であ
つたわけでございます。そこで、こういうような先々の
長期の
保険に対して、
保険料を支払うというようなことにつきまして、被
保険者の中に
相当不満の声が起
つたわけでございます。甚しい場合には、
厚生年金保険の
不要論さえ当時出たわけでございます。そこで、当時の為政者といたしましては、この
制度を何とか被
保者に喜ばれるような
制度にいたしたい、同時に又
インフレの進行に対応する便利な
措置も講じて行きたい、こういうような
両面の、見ようによりましては、相反する要求を解決しようとして、一時的な
措置を
とつたわけでございます。その
一つの現われは、当時まだございませんでした被
保険者の
期間中に死亡しました
遺族に対して、
寡婦、
遺児、及び
かん夫年金という
制度を作りましたわけでございます。もともとその当時では
老齢年金又は
障害年金の
受給者が死亡した場合に、一応その
遺族に対してのみ
遺族年金という
制度がありました。新たにそういう
資格を持たないものが死亡いたしました場合にも、その
遺族に対して、
遺族である
寡婦、
かん夫、
遺児に対しまして
年金を出すというような新らしい
制度を
作つて、いわゆる喜ばれる
制度という現われの
一つにいたしたわけでございます。それからもう
一つは、
脱退手当金という
制度が、これは
制度創設当時からあ
つたのでありますが、これは途中で被
保険者をやめて而も再び被
保険者にならないような人に対しまして、
本人のかけた
保険料程度のものは還付して、いわゆる
掛け損にならないようなことにしておくことが必要であるという
考え方の上から、
創設当初から行われてお
つたのでございます。ところで
制度創設当初におきましては、
一般男子千分の九十四、
坑内夫は千分の百二十三という非常な高率な掛金を取
つておりました。被
保険者本人の
負担分はその半額に相当しておるわけでございますから、
一般男子としては千分の四十七、千分の四十七を毎月の
給与の中から
支払つてお
つたわけでございます。その
給与に対しまして、若干の利息をつけたものを
脱退手当として返す、還付するというような
制度が
昭和二十三年度からあ
つたわけでございます。
昭和二十三年には、あとで申上げますように、
保険料率を引下げましたので、当然
脱退手当金の額も下げるべきであ
つたのでございますが、
給付の額を下げると喜ばれない
制度になるというので、実はそのときに下げるべきものを下げずに、
脱退手当金としては、利子を含めまして千分の五十五
程度に相当するものを
支給をするという旧
制度のままに据置きましたわけでございます。そこで今日におきましては、
脱退手当金という
制度は被
保険者本人にとりましては貯金をしておくよりも数倍有利であるというような、
保険としてはちよつと
考えられないような
制度がそのまま残
つておりまする
現状でございます。こういうふうにいたしまして、できるだけ
給付の面を下げないようにいたそうというようなことから、なおそのほかには
平均標準報酬という
制度を最終三カ月の
標準報酬に直すとか、いろいろな手段が講ぜられて参
つたわけでございます。一方におきまして、
負担率を急激に下げなければならないじやないかということから、そこで今申上げたような面におきましては、
給付の
内容をよくいたしましたけれ
ども、当時としても当分発生の見込みのない
養老年金につきましては、この
支給額を極度に低額なものに押付けてしまいました。そうして、そうすることによ
つて保険料率を下げ得るようにしたわけでございます。これは申上げるまでもなく、
厚生年金といたしましては、少くとも長い将来をずつと見渡しての
計算をいたしますると、
養老年金というのか一番
財政的には多くを占めるものでございます。年と
つた者に対する
年金支給というものが一番多くの
部分を占めるものでございまして、御参考に少し余談になりまするが、五十年後の私
ども今見通しておりまする
受給者の比率を見ますると、
年金受給者総数が五百二十一万人ぐらいに見込んでおります。その半数以上の二百八十万人が
老齢年金の
受給者になるわけでございまして、
遺族年金は百七十六万人、
障害年金に至りましては、六十五万人
程度でとどまるものと見ておるわけでございます。結局
老令者に対する
年金給付というものが一番
保険の
財政の面から、
年金保険財政の面から見ますと、大きな
部分を占めるわけでございます。そこで、この
給付を極度に制限をいたしますと、
財源的にも多くのものを要しないという
計算になりまするので、つまり
保険料率が引下げられたわけでございます。さような観点から、
昭和二十三年の
改正の際に、
老齢年金はそれまでの
制度では
平均標準報酬の四カ月分、こういう
制度に
なつておりましたが、この
平均標準報酬を
基礎にとる
標準報酬を当時としては
最低の
報酬である三百円に押えまして、三百円の四カ月分きり出さない、こういう
制度を当時作
つたわけでございます。そこでそういうようなことをいたすことによりまして、先ほど申上げました千分の九十四という高率の
保険料率を一挙に千分の三十に引下げてしま
つた。これは一応そういう見方をすれば
長期計算として成立ちます。
老齢年金を月に百円きり出さないという
制度を作ることによりまして料率を下げ得られますが、一応
数理計算もした上で、さような、見ようによ
つては無理な
制度を
とつたわけでございます。このことは裏を返して申上げますれば、
老齢年金の
支給が始まりまする際には、当然これは
内容を
改正すべきものであるということは当時から予期してお
つたというように私は
考えておりまするし、又事実そうでございます。
さような
関係がございまして、昨年の十二月以降
坑内夫の
養老年金支給が開始をされますような現段階になりましたので、それは
一つには経済の立直りも大体順当に
なつておるというふうに見てよろしい現在におきましては、どうしても
制度全般に目を付けまして、そうして将来に向
つての
年金の
給付を合理的なものにし、更にその裏付けとなる
財政計画につきましても、安心のできる見通しを立てたいというのが、今回の
改正を必要とする
理由のように
考えておる次第でございます。
時間がございませんので先を急がして頂きまするが、そこでお
手許に着上げました資料の第三から入りたいと思いまするが、
法案の
内容について
項目を
分類してみたのでございます。
内容は第一を
総説といたしまして、二を
保険給付、三を
財源、この
三つに
分類をしてみたわけでございます。第一の
総説につきましてその(一)は被
保険者に関する
規定、いろいろ細かいことが書いてございまするが、その基本的なものは
適用範囲、及び
適用事業所の問題でございます。ここに
関係の
条文第六条、第九条、第十二条というものが書いてございまするが、現在の
法律の建前はこの
改正案でも同様でございまするが、先ず
適用すべき
事業所を
業種別に
分類をいたしまして、そのうち五人以上の
被傭者を使
つております場所をいわゆる
適用事業所といたしまして、ここに挙げている
被傭者は全部
強制適用被
保険者といたしておるわけであります。併しながらこの
分類に挙げられておりません
事業所でありましても、これは五人以上使
つておるが
業務分類に挙
つていない
事業所と、五人
未満のものということになるわけであります。若しそこに働いている
被傭者の過半数の同意を得た場合におきましては、
事業主の申請によりましてこの
法律の
適用ができるように
なつております。これを私
どもは
任意包括適用というような
言葉で呼んでおります。更に又
一定の条件に当てはまりますものは、
本人が個人的に
希望をすればこの
保険の被
保険者となり得る
制度でございます。これは
一つは
任意単独被
保険者、
一つは
任意継続被
保険者、
本人の
希望によりましては、細かいことは重複いたしますから省略いたしますが、
本人の
希望によりまして被
保険者となり得る
制度を設けておるわけでございます。
その他の点でこの被
保険者に関する
規定で御注意を願いたいと思います点は、従来は
保険給付につきましても、若し被
保険者に不服がありますれば不服の
申立機関をこしらえまして、そこで公正に
行政庁の
処分等を判断して再検討をするというような
制度に
なつてお
つたのでありますが、被
保険者の
資格があるかどうかという問題につきましては、不服がありましても、疑問がありましても、これを
不服申立をする
制度がなか
つたのでありますが、今回の
改正におきましては被
保険者が実際の
業務につきまして、自分は確かに
雇傭関係が発生し、被
保険者であると思いましても、
事業主が認めない、
事業主が認めても
行政官庁がこれを認めないというような場合がありますので、そういう被
保険者に不服がありますときは、別の
規定によりまして
審査請求ができるというような
制度を新たに設けた次第でございます。従いまして被
保険者の
資格に関しましては(ホ)に書いてある
審査請求というものは今度新しく入りました
規定でございます。なお、
資格の得喪につきましては、今度も従来と同様でございますが、
制度の
関係上被
保険者一人々々から
届出を取るということは不可能でございますので、
事業主が一括して
届出をするという
制度に
なつております。今回の
改正案でもそれを続けて行く
考えでございます。そうなりますると、
事業主の勝手な怠慢によ
つて届けなか
つたり何かする場合がありまして、被
保険者に不利益になる場合が予想されますので、そういうことも予期いたしまして、被
保険者に対して必ず
届出た場合には
通知する、又決定の
通知があ
つた場合には
通知するということにいたして、被
保険者に対して常に連絡がとれるようにいたしたのであります。なお、被
保険者が
事業主の怠慢のために、或いはずるくかまえてや
つてくれなか
つたような場合には、被
保険者本人から
行政官庁に申立てることができるというようにいたしたのであります。いろいろな面から新らしい
規定を加えまして、被
保険者保護に遺憾のないようにいたしたつもりであります。
その次は、
標準報酬でございます。
標準報酬につきましては大きな点は
現行三千円から八千円まで、最高八千円で頭打ちをいたしておるのであります。そこで
標準報酬というものは、御
承知の
通り事務上の便利のために、そこに謳
つております
報酬を
一定の
等級に当てはめておるのであります。即ち
現行法では三千円から八千円まで六
等級にわけております。今回の
改正はこれを三千円から一万八千円まで十二
等級にわけましたのでございます。これによりまして一方におきましてはこの
標準報酬願に
保険料率をかけまして、
保険料の調整をいたします。一方におきましてはこの
標準報酬額を
基準にいたしまして、
年金その他の
保険給付が行われるわけでございます。従いまして
標準報酬をどういう枠で押えるかということは、一方におきましては
保険料に
関係を持ち、他面におきましては
保険給付に重大なる
関係を持つわけでございます。現在
船員保険と同じような
制度でございます。
船員保険は三万六千円が最高額に
なつておりますが、私
どもとしてはこの点をどういうふうにするかということをいろいろ検討したのであります。今申上げたように
標準報酬の枠を一挙に
引上げるということは、
事業主或いは被
保険者に対して相当大巾な
負担をかけることにもなります。それが
一つと、それから今度の
改正におきましては、後に申上げますように
定額制を相当大巾に取入れまして、
標準報酬のみでやるという従来の
考え方を変えまして、
定額制の性格を大巾に取入れましたので、
標準報酬というものは必ずしもそう高く
引上げなくてもいいのではないかという
考え方も若干加味いたしまして、主たるものは
負担の激増を避けたいという
意味から取りあえずの
改正は一万八千円ということで御審議をお願いしておるわけであります。
標準報酬の決定なり、或いは
届出、記録、
通知、
審査の
請求等は、細部について申上げる点もございますが、ここに引用しております
条文を
御覧を頂くことで御了承頂きまして、先に進みたいと存じます。
なお最後に、この
標準報酬の点で特につけ加えたいと思いますのは、(ホ)の過去の
標準報酬に関する
経過規定というのがございます。これは特に御留意頂きたい点でございますが、先ほど申上げましたように、
昭和十七年以降最近までの
状況は、
給与べースがどんどん上
つておりますので、一体過去の
報酬をどういうふうに扱うかということが、この
年金制度の大きな問題になるわけでございます。もともとの当時の
給与に
保険料率を掛けた
保険料を取
つて、金として積立てておるわけでございますから、
本人がかけた本来の
保険料だけを
給付してやるということでいいわけでございます。併しそれは実際問題としては
意味のない
金額を
給付するということになりますので、過去の低い
標準報酬を取
つているものをそのまま
保険給付の
基礎として取るのは如何であろうかと
考えまして、これにはいろいろ
方法があるわけでございますが、いろいろ検討いたしました結果、私
どもとしては過去に三千円
未満の
報酬を取
つていた時期がありましたならば、それはずつと三千円取
つていたものとして
計算をする、こういうふうにいたしたのでございます。いろいろ
物価の変動に応じてスライドしたらどうかというお話もございましたが、これは
一つには
保険財源、
保険の
財政上の大きな問題でございますので、いろいろな点、そうした積極、
消極両面から検討いたしまして、又実際の被
保険者の
出入等を考慮に入れまして、こういう過去の
報酬が三千円
未満の場合は三千円に
引上げるということが最も実際的であるというふうに
考えまして、そういう
措置をとりましたわけでございます。
それから次に、
保険給付に入りたいと思いますが、
保険給付の
考え方で、ここで
通則として書いてございます点を
一つ申上げてみたいと思います。今回の
厚生年金保険法におきましては、
各種年金即ち
老齢年金、
障害年金及び
遺族年金のこの
三つの
年金でありますが、この
三つの
年金を通じまして、
基準年金というものの
考えをと
つているわけでございまして、
基準年金額と
加給年金額、こういうものを二つとりました。この
基準年金額と
加給年金を加えたものを
年金額とする、こういうような
考え方をと
つておりまして、
通則におきまして
基準年金額という
制度をとりまして、
各種年金について
基準年金を
基礎として
年金額を定めるというような行き方をいたしまして、全体の
一つの何と言いますか、
考え方の筋を通すと申しますか、そういうふうなことを
とつたつもりでございます。
基準年金額と申しまするのは、先ほど言いました、先ず第一の定額の
報酬比例を加味して
計算をする。こういうふうにいたしてございます。原案では
基準年金額が月千五百円、年一万八千円ということにしてあります。これに月割にいたしまして、千分の五の月一万円をと
つておりますれば五十円、これが月割の額でございまして、これに被
保険者であ
つた期間の月数を剰じましたものが
報酬比例として出て来るわけであります。比列
部分として出まして両方加え合せましたものがここに言う
基準年金額でございます。
それからなお、老令
年金、
障害年金及び
遺族年金を通じまして
一定の条件に当てはまります被
扶養者には
加給年金を出すことにしてございます。これは
現行法では月一人について二百円でありまするのを倍額の四百円に上げました。これは公務員の一般の家族の家族手当と同額にいたしましたのでございます。一人四百円、年間四千八百円というのを加算をいたしました。従いまして今子供が二人あるという場合には三人おるわけでございますから三倍、月額にして千二百円の
加給年金がつくというわけでございます。
加給年金と
基準年金とを
合計いたしましたものを
年金額として表示いたしまして、これを当該被
保険者の、
本人の証書の中に書き込むというようなやり方をとることにいたしたのでございます。それから次に調整という表現がございますが、これはこの
制度の中で老令
年金と
障害年金を両方もらう
資格の出る場合がございます。そうした場合に、二重になりますのでどれをやるかという調整でございますが、結局これは高いものをやるという
考え方をと
つております。従来からそういう
考え方でや
つております。
それからその次に、
保険給付の制限という表現の
条文が引用してございます。これは自分が、被
保険者が死んだ場合にも、故意で死んだというようなもの、或いは
遺族年金を受ける
資格のある者が、例えば主人を細君が殺したというような場合には、その細君には
遺族年金を出さないというような種類の制限でございます。
審査の請求は、従来からある
制度そのままでございます。
次に、老令
年金でございます。ここにもいろいろなことが
条文を引用してございまするが、先ず第一に申上げたいのは、
資格期間と私
ども申しておりますが、老令
年金をもらいまするために、一般被
保険者は二十年間被
保険者として
保険料を納める必要があるということでございます。これは
現行法と同様でございます。但し
坑内夫につきましては、実
期間十五年で
年金がつくことにしてございます。
なお、その次の高令者につきまして特例を新らしく設けました。と申しまするのは、二十年としておきますと、四十二、三才で被
保険者に
なつた人は、多くの場合六十ぐらいで勤めることをやめるだろうと思います。そうしますと
年金が実際もらえないということになりますから、高令者につきまして五年という特例を設けました。それからもう
一つは逆でございまするが、
坑内夫につきましては、一般の人が二十年であるのに十五年という特例は従来からあ
つた制度でございますが、そのほかに従来は継続した、今申上げた十五年間に更に十二年間被
保険者でございますと
年金がつく。こういう二重の特例が
坑内夫にはございます。これは
制度の
考え方から或いは経緯から申しましても、この際やめたほうがいいんじやないかと
考えまして、継続を十五年間に十二年という条件は一応原則としては廃止することにいたしました。ただ、この
法律施行の際に、被
保険者であります人たちにつきましては、その期待権を尊重して、そのものがずつと続いて十二年やればもらえるようにしたわけでございます。なお、念のために申上げますが、
昭和十七年にできてまだまる十二年は経
つていないのが
現状でございますが、それが
坑内夫に
年金が出るようになります
意味は、そのほかに更に
坑内夫につきましては、戦時加算というものがあ
つたわけでございます。約一年八カ月ほど戦争中に、その間に
坑内夫で働いておりましたものは、更に加算がありまして、三分の四の
計算をしてやるというようなことに
なつておりましたために、そこで十二年で出る人が十一年三カ月で受給開始があるということのために、その人たちが昨年十二月以降受給
資格を得るように
なつたわけでございます。これらの期待権は、それぞれ今後とも尊重するという建前をとりましたわけでございます。
年金額は先ほど申上げた
基準年金額に
加給年金額を加えたものでございまして、特に申上げることはありません。
失権及び
支給停止は、
御覧頂けばわかりまするように、死んだ場合とか、或いは又被
保険者になりますと
年金はやらないという二つのものでございます。
ここで
経過規定をちよつと申上げておきます。
経過規定の第一は、
支給開始年令でございます。この点最初に申上げませんで恐縮でございますが、一応老令
年金は、幾つに
なつたら受給を開始するかということが問題でございます。
現行法では
一般男子が五十五才、女子それから
坑内夫は五十才で開始をするということに
なつております。併し
平均六十才に、最近の
平均年令が順次延びておりまする
現状から、又
保険財政への影響も
考え、諸外国の
制度も
考え合せまして、それぞれ五年ずつ
引上げることにいたしたわけでございます。従いまして、結局
一般男子は六十才、女子及び
坑内夫は五十五才で開始するように本案は修正をいたしたのでございます。併しながらこれに関連をして、一般的には停年制が行われております。五十五才停年というのが非常に多うございますので、急激的にこれを実施いたしますことは、一般社会に対する影響が大きいと思いまして、計画的に附則第九条の
規定を設けまして、二十年間に漸次
引上げて行くような
措置をと
つているのでございます。具体的に申しますと、この
法律施行のときに五十二才に達しているものは、
現行法通り五十五才で開始する。四十九才から五十一才までの人は五十六才で開始するというような工合に漸次延ばして行
つて、二十年でこの規則が全面的に行われるようにされております。
それからもう
一つ、既得権の尊重ということでございます。これはこの
法律施行のときにすでに受給権を発生しておりますものは、勿論
給付をいたします。同時に、例えば具体的には、十二月以降でありますから、一月、二月、三月、四月までのものと見ていいわけであります。その間に受給権の発生いたしました人は、現在の
法律では月百円の
年金ということでございます。そこでこれは新らしい
制度による
年金を遡
つて差額
支給をする
制度を設けたのでございます。これが附則第十一条に書いてございます。従いまして、
坑内夫の老令
年金受給者は、この
法律が出れば当然遡
つて、新らしいこの
法律による高額の
年金、少くとも過去に比較して高額の
年金が
支給されることになります。
もう
一つは期待権の尊重ということを書いてあります。それは特に
坑内夫につきまして先ほど申上げましたような従来継続した十五年間或いは十二年間という
制度を今度はとりました。現在被
保険者であります人は将来とも期待権を尊重して行こうというようなことを考慮いたしたつもりでございます。
それから
障害年金につきましては、次にいろいろ
支給要件その他の要件が書いてありまするが、先ず第一に申上げたいことは、現在の
障害年金は廃疾の
程度を一級、二級と分けまして、それより一級二級に該当しないものは手当金、一時金を
支給してお
つたのであります。今度はその
内容の
分類が必ずしも合理的でないと
考えまして、他の諸
制度を検討いたしまして廃疾の
程度を三級に分けました。そのほかに、それに達しない
程度のものに一時金としての手当金を出すという従来の
制度は残したわけであります。
そこで一級、二級、三級の廃疾の
程度に対しましてどういう
考え方で
支給するかということでございますが、先ず二級
年金受給者と申しますか、二級に該当する
程度の廃疾のものは、大体
老齢年金受給者と同様に廃疾の
程度が一〇〇%と申しますか、そういうものと見まして、
老齢年金と同額の
支給をする、一級のものは常時看護を要するものも一級に格付をいたしまして月千円、年一万二千円の
金額を一級の人には加給をするというような額にいたしてございます。それから三級のものは二級の廃疾の
程度のものに比較して大体五〇%から七〇%
程度の
障害程度のものを三級にランキングいたしました。これに対しましては二級
年金の七割相当額を出す。こういうふうに
考えたわけであります。それに及ばない五〇%
未満三〇%
程度の廃疾の労働能力喪失
程度のものは手当金を
支給し、三〇%以下のものは何にも出さない、こういうような
考え方をいたしておるわけでございます。
なお次に、経過規程のことも触れて申上げておきたいと思いますが、その他の点は時間がかかりますので省略いたしますが、過去の低額
年金の引上、これは先ほど申上げたように相当たくさんの
障害年金は四万三千人の
受給者がございます。その中には月額千円にも満たないような
受給者がたくさんございます。そういうような人たちに対しまして、今度
引上げました
最低額だけは出すように、大体月二千円近いものは出せるようになるわけでございます。それからもう
一つは
法律が
改正に
なつたために
年金額の減る人が出て来る恐れがございます。これは
現行法と比較いたしまして
現行法よりも低くなるような人がありましたならば、
現行法の高いほうを出してやるというようなことも
年金額の低下防止ということで附則第二十条に
規定いたしたのでございます。こうすることによりまして
障害年金につきましては現在よりも低くならないようにということも十分考慮いたしたつもりでございます。
それから次の
遺族年金につきましてこれも大筋だけ申上げることにいたしますが、
遺族年金と今度は一口に申すようにいたしましたが、最初に申上げましたように、
現行法では
寡婦(
かん夫)、
遺児年金というやはり
遺族に該当するものでありますが、これについては別の
寡婦(
かん夫)、
遺児年金という別の
制度がございます。そのほかに
遺族年金という
制度があ
つたわけでございます。而もその
給付の
内容が必ずしも合理的でない
現状でありまするので、新らしく今度の御提案を申上げております案では、それらのすべてを
遺族年金として一本にいたしたのであります。先ほど申上げましたように従来の
寡婦(
かん夫)一時金というのは、
老齢年金をもらう、つまり被
保険者期間が二十年以上であるものが死んだ場合に対して、その
遺族である
寡婦(
かん夫)、
遺児に対して、出しておりましたが、今度はそういうことを全部一本にいたした趣旨であります。それで問題は
遺族の範囲ということをどこで調整するかということが問題に
なつたわけであります。今回はその点を、両者を調整をいたしたつもりであります。くどいようでありますが、
現行法で申しますと、
寡婦(
かん夫)、
遺児年金は文字
通り配偶者と子供に出る
年金でございます。この
年金は二十年経たないもの、三年経
つても、五年経
つても、死んだ人には、その
遺族に対して
年金が出る。その代り今度は一方の
現行法の
遺族年金というのは、
老齢年金受給
資格者が死んだ場合に出す
年金でございますが、これは配偶者、子のみならず父母、祖父母、孫まで及ぶように
なつているわけでございます。そこでそういうような見方によ
つては矛盾もありましたので、今回の
制度の
改正に
当りましては、
遺族の範囲は一応広いほうの祖父母、孫まで入れるようにいたしたわけでございます。被
保険者が即ち三年経
つて死亡いたしましても、その
遺族に対しては祖父母、孫まで受け得るようにいたしました。ただ、それには若干制限を付けまして、被
保険者が死亡したときに、或いは
年金受給者が死亡いたしましたときに、その者によ
つて扶養されております妻子はこれはもういつでももらえます。妻子のない場合は父がもらえる、父がない場合は孫がもらえる、孫もない場合は祖父母がもらえるというような段階的にと申しますか、こういうことにいたしたのでございます。この点を基本的に一方において制約し、一方において拡げたというようなことにいたした次第でございます。
年金額は一般原則
通り老齢年金の二分の一で、なお
経過規定は
障害年金、
老齢年金で申上げましたと同様に、期待権、既得権を尊重するという建前をと
つております。
脱退手当金でありますが、これは先ほど
改正を必要とする
理由で申上げましたように、
現行の
脱退手当金の
支給額は余りにも不合理な高いものに
なつております。これを本来の精神に戻しまして、
本人のかけた
保険料に利子を加えた
程度のものを返すようにいたした。但し女子につきましては、全体の
年金を出す
計算の中で別
計算をいたしまして、
老齢年金等に必要な
財源を除きましたものは全部
脱退手当金で戻してやるというようなことから、料率に換算いたしますと、千分の二十
程度のものは女子には
脱退手当金として
給付できる見込でございます。
最後にこうした
給付をいたしますための
財源について書いてございますが、先ず第一は
保険料でございまして、何としてもこの
保険料は
保険給付の
財源の一番重要なものでございます。当分五年間ぐらいは
現行料率の千分の三十を維持いたしますが、その後は
積立金の利廻りによりまして若干の料率の
引上げを考慮をいたしております。仮に
積立金の利廻りが
現行通り五分五厘で行きますれば、政府原案では五年後は
一般男子の千分の三十を千分の四だけ
引上げることで将来や
つて行けるつもりであります。
それから国庫
負担は、御
案内のごとく従来は
一般男子一割、
坑内夫二割という
負担でありまして、これは年々
給付に必要な額に対してそういう比率の国庫
負担が出ておりましたが、今回は
一般男子分だけ一割を一割五分に
引上げてもらうように話合いがついて、その予定で
法案を提出いたしたのであります。
その次に、
保険給付の
財源は申すまでもなく、
積立金の
運用収入であります。年々当分の間は
積立金がどんどん殖えて参りまして、将来四、五十年経ちまして恒常的なピークになりました時期以後は、
積立金から生ずる
運用収入と国庫
負担と
保険料と、この三者で
保険経済が賄えるような建前で
計算がしてあるのでございます。
甚だ簡単で恐縮でございましたけれ
ども、本会議も始りましたようでございますので、私の
説明はこれで終りたいと思いますが、なお、これは私から申上げる必要はないのでございますけれ
ども、衆議院におきまして一部修正を受け、これは後ほど別途又衆議院のほうから御
説明を申上げる所存でございます。