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参考人(水越
玄郷君) 水越でございます。新
医療費体系について
日本医師会を代表して
意見を申上げたいと思います。去る十月九日衆議院厚生
委員会におきましても、この新
医療費体系に関して
日本医師会の
意見を極く抽象的に申上げておきましたが、本日は少し具体的にその
反対意見を申上げてみたいと
考えます。
この
体系は
昭和二十六年一月二十四日の臨時
診療報酬調査会の答申に基いて作成せられたものだと、かように解釈しておりまするが、この
内容は同答申と全く異な
つたものであることを指摘いたしたいのであります。
医療の向上ということは、
国民の経済的
負担力と共に、
調査会に
諮問された主題であ
つたにもかかわらず、
赤字経営に喘いでいた
医療機関の一部を
昭和二十七年三月と十月の二回に亘
つて調査し、これから類推して
医療費の総額を出し、これを
技術料と物の
対価に分析して再びこれを集計したものであ
つて、
医療の向上を指向すると解せられる向は全然どこを探しても見当らない、かような
観点を申すものであります。この答申の中に謳われておりまするG=(1+α)gtの
技術指数であるアルフアーを全然我々は探し出すことができないという見方をしておるのであります。この問題につきましては、去る十一月五日の本院におきましても榊原
委員の御
質問に対して曾田局長はアルフアーは必ずしもプラスばかりではない、やさしいものは
マイナスの場合もあるというようなことからして、プラス・
マイナス・ゼロにしたというような答弁がなされておりまするが、この答弁は
日本医師会の
意見と全く相容れない
考え方でありまして、このアルフアーの研究とこの探求というものこそ、我々が従来最も強く、主張してお
つたものであります。このことは
調査会の決定事項ではなか
つたとはいいますものの、答申の中には明記されておる事項でありまして、本
体系を
発表するまでは、
厚生省も先ほど申上げましたようにG=(1+α)gtという
方式を大体において認めて、そのような形で従来は
医療費のデイスカツシヨンをしてお
つたのでありますが、今回
新体系を
発表するに及んで突如として、このプラス・
マイナスがゼロであるというような
意見を出されたことに対しては絶対に承服いたしかねるところであります。
更に本
体系は
分業のために作成したものであると
発表されておりまするが、
技術料と物の
対価を分離するということは
医療費支払
方式における非常に大きな革命でありますので、この作成に当
つては、医学、医術が驚異的に進歩発達しつつある
現状を十分勘案して、
医療担当者の学問、
技術の向上と
医療施設の改善、拡充に努力するような細心の注意が払わるべきであるにもかかわらず、これら
医療の本質については全く目を覆
つておることは、
国民福祉のためにも慨嘆に堪えない、かように
考えておるわけであります。
次に、本
体系は医薬を
分業することによ
つて、
国民の
医療費負担に増減を来たすか否か不明であるにもかかわらず、増嵩は来たさせないという
前提を以て作られたものでありまするが仮定に基く作文というものは非常に我々は恐れておるのであります。若しこの仮定が崩れたときには、一体誰がその帳尻をぬぐ
つてくれるのか、こういうようなことも明記していないのでありまして、非常に不安であるわけであります。先ほ
ども申上げましたように、本
体系の
基礎をなす
調査が行われました
昭和二十七年という年は、現在の
単価、甲地が十二円五十銭、乙地が十一円五十銭というこの
単価が、
医療担当者の要求したものを遙かに下廻
つておるので、これはこの低
単価では
赤字経営が克服できないという
理由で大騒ぎをしたその翌年であります。官
公立病院を初めとして
病院協会が入院料の値上げを非常に大きく騒いだ、更に
一般診療所におきましても、応急策として
保険収入の三〇%を所得税の課税対象とするというようなことで、辛うじて
保険行政の危機というものを乗切
つた年であるのであります。でありまするので将来或いは新たな計画を立てるための
調査を行うことに不適当な年であ
つたと
考えられるのでありますが、この二十七年の
国民総
医療費の
調査及び純粋に
医療機関に支払われた
医療費の
調査をして、更に
赤字経営、出血経営の中から経営費を
調査分析して、そうして再びこれを組立をして、これで
医療が健全に実施されるかのごとく作文をし、そうして
赤字を追求された場合には、これはその原因を十分検討してそうして別途
考慮すべきであるというような
責任のない御答弁に対しては非常に憤懣をさえ覚ゆるような気持がするのであります。而もこの二十七年以来病床数は一割五分も現在
増加しておりまするし、これに伴
つて長期
診療やそれからマイシン類の抗生物質、非常に高価につくわけでありますが、こういう抗生物質の使用、更に胸郭外科手術、大きな手術を伴う結核
患者の入院が激増していることは御
承知の
通りであります。更に一般の内科、小児科、或いは耳鼻科、眼科すべての科におきましてやはり高価な抗生物質の使用が行われている。で、精神
病院においても入院
患者に従来と違
つた高価な手術を施すようなことも行われた。更に医学の発達に伴
つていろいろとむずかしい精密検査も殖えて来ている。又そのほかにも
社会保険及びこれと軌を一にしている
保険患者と、それから自由
診療患者との比率が
昭和二十七年は七対三であ
つたものが、二十八年には七・五対二・五ということにな
つており、この傾向はだんだんに顕著になるであろうという
現状からして、
昭和三十年度にはどのような姿になるかということも十分把握しておらんにもかかわらず、
昭和二十七年と三十年とが
医療行為の種類別
頻度に
変化のないものとすれば、新
医療費体系実施後も
国民の
医療費負担には先ず
変化のないものと
考えられるというような
結論が出されているのですが、これは非常にでたらめと言いまするか、とにかく
納得の行かない表現である、かように
考えて絶対にこの言葉には賛意を表し得ない、かように
考えているのであります。で、この
結論、
只今申上げましたようなその種類別
頻度に
変化がなければ、先ずまあ二十七年のこの状態で行けるであろうというようなこの
結論に対して、我我が一番憂えることは、若しこのような仮定に基いた作文というものが崩れましたときには、それはまあ
保険医の濫診、濫療であるというような、従来
厚生省が常套語のごとく使
つておりまするこの言葉ですべてが葬むられはせんか。要するに、挙げて
責任を
保険医に転稼して、そうして甚だ芳ばしくない結果が社会的にも起りやしないかということが憂えられるのであります。
次に、現行
体系では
病院、
診療所ともに診察等最も医業の
中心となり、
医師が多くの時間をかけている
行為が
薬治料、
注射料のごとき物の物価の中に含めて支払われているが、これは妥当でないから、物の
対価の中から抜き出して支払うこととしたというふうに調
つているわけでありますが、四点以下の
処置料、而も四点以下のものならば何カ所処置をしてもすべて四点の診察料の中に含めてしまうということは、どうしても我々には理解できないのであります。これを裏返して
考えて見ますると、四点の処置をすれば、四点の診察料は払わないということになるのではないかと、かように解釈されるわけであります。
従つてとにかく今まで物の
対価の中に尊い
技術料という、診察料のようなものが盛り込んでお
つたということを今回は抜き出したぞというようなことを謳
つておりながら、やはり
同一矛盾といいまするか、
同一形態の、
医療費体系にな
つておるのじやないかというようなことを指摘いたしたいのであります。
次に、
昭和二十七年の
医療費の実情を
調査したところ、初診費は六・二〇三点、まあこれを金に換算しますると、七十三円八十八銭、再診費は四・五九五点、金にしまして五十四円七十三銭、これだけ支払われるべきであるということが記載されておるにもかかわらず、
保険にこれを適用する場合には、
端数整理をしてまるめたものにするということでありまするが、これをだんだんとその後聞き及んでみますると、その
端数整理という場合は、初診の場合には〇・二〇三点を切り落す、再診の場合には〇・五九五点を切り落すというようなことでありますが、現在の
医療費が如何に苛酷であるかということは、官公立並びにこれに準ずる日赤
病院或いは済生会等にお聞き願
つても、十分理解して頂けると
考えておりまするが、
医療費が低過ぎて、経営に困難を来たしているという
理由で、去る七月一日より実施された抗生物質の
点数引下げの告示以来、全国の
保険医が大騒ぎをしたことは御
承知の
通りであります。而もあの当時、六月の二十一日でありましたか、あの
厚生省の前に座り込みまでした一部の人たちもあ
つたようなあの状態、こういうような
不満を抱いておる
現状の中から、更に
端数整理という名目で以て実質
医療費の切り下げをするという今度の
体系に対しては、我々といたしましては、言葉は妥当でないかも知れませんが、まさに侵略
体系であるというようなことを申上げても差支えないではないかと、かように
考えておるわけであります。
次に、
処方箋について
ちよつと一言申上げたいと思いまするが、
処方箋の交付というものは、我々の解釈といたしましては、
患者を次回に診察するまでの
責任を持つ
行為である、こういうように我々は
考えておるのであります。この意味での
診療行為として、従来五点とな
つてお
つたわけであります。このことにつきましては、去る五日の本院におきましても、山下先生の御
質問に対して、
処方箋料を認めれば、
処方箋発行を奨励することを恐れるから、即ち
処方箋の濫発を防止するためにはこれは零にしたのだというようなことを、久下局長が答弁しておられるようでありますが、
日本医師会では、この
意見には全く与し得ないのでありまして、罰則までつけて義務付けたこの
処方箋発行の費用を全く認めぬということは、これは筋が通らんではないかと
考えておるのであります。僅かの紙代、或いは印刷代もこれはかかるのでありますが、更に
処方箋作成に当
つては、非常に我々は神経を使う、これは
責任を持つという意味合いで、如何なる間違いがあ
つてもいかんということで、非常な神経を使う、そういうような
処方箋を出しても出さなくても、とにかく金は
同一である、出さん場合も出した場合も同じ金きり払わんぞというようなことが、一体ほかの社会の経済
行為の中であり得るでありましようかということを疑問に思
つておるわけであります。更に、本
体系の
基礎をなす統計数値の集計処理方法というものは、我々にはどうも明確につかみ得ない。二十七年の三月
調査と十月
調査との異な
つた調査方法及び対象から適当に選り抜いて、そして
都合のいい形で再組織をした、組立てをしたというようなことに解釈されまするので、信憑性に欠けておるということを特に主張いたしたいのであります。
従つて技術料と物の
対価とを切り離した場合、本
体系によ
つてこれを行うとき、
国民医療費の
負担に増減を来たすか否かの判定をするには非常に不適当なものでありまするので、科学
技術を尊重し、
医療内容を向上し、よ
つて以て
国民生活の
福祉を増進せんと念願しておりまする
日本医師会といたしましては、本
体系に絶対に
反対するということを
日本医師会を代表してここに意思を表明する次第であります。
なお、別紙に御
諮問頂きました
医薬分業が明年の一月一日より実施されるということにつきましては、あらゆる機会におきまして、
日本医師会はこれに妥当でないという
意思表示をしておりまするので、これでこの問題についての答弁に代えさせて頂きたいと思います。
以上簡単でありまするが、
日本医師会の
意見を述べさせて頂きました。