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法制局長(
奧野健一君) 先ず
国会議員の不
逮捕特権の
憲法上の意義といいます、
理由といいますかについてお答えいたします。
御
承知のようにこの点につきましては、大体二説ありまして、沿革的に申しますと、
政府党から
反対虎の
議員に対する圧迫というようなことのないようにというような
観点から、言い換えれば、
行政権及び
司法権の
濫用に対して、
国会議員の地位を保障することが、沿革的にそうであるということでありますし、現にそういう説をなすものもあるのであります。が併し、
司法権の
濫用というようなことは、殆んど現在考えられないと思うのでありますが、これは更にもう少し広い
意味で、
国会が最高の
国権機関としての十分なる
立法機能その他の
国会活動の十分なる
機能発揮を保障するという
意味、この点は、丁度各
議員の
議院内における言論について院外において絶対に免責があるというのと同じように、
国会議員の職能の遂行を保障するという点がよほど加味されて考えられなければならないと考えます。
そこで、勿論不法な、或いは
職権濫用といいますか、
司法権の
濫用的な不当な
逮捕というようなものに対しては、これは
許諾を与えないということは勿論のことでありますが、たとえ形式的には正当な
逮捕要求であ
つても、
国会の
活動ということと及び
司法権の
必要性というものとを調和して、更に国家的な大きな見地から、
国会としてはその
許諾を与えるかどうかを判断し得るのではないか。即ち
逮捕を求められておる犯罪の重大性、これは御
承知のように旧
憲法におきましては、現行犯以外は、内乱罪、外患罪というようなものについては、
許諾を得ることなくして
逮捕ができたのでありますが、こういつた犯罪の重大性というようなもの、或いは
国会の
活動というようなものを両方勘案して、更に国家的な広い視野において、
国会が
許諾を与えるかどうかを判断し得るのではないかというふうに私は考えておりますが、或る説では、不当ないわゆる
司法権の
濫用と思うようなもの以外は、
許諾を拒否するということができないという説もあるようでありますが、両説あるということを申上げたいと思います。
それから
刑事訴訟法の
逮捕の関係の問題でありますが、一般的に申しまして検察官が
逮捕を行うという場合には、
刑事訴訟法第百九十九条によりまして、検察官等が「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な
理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する
逮捕状により、これを
逮捕することができる。」ということにな
つており、この第百九十九条の二項に、「裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な
理由があると認めるときは、検察官云々の
請求により、前項の
逮捕状を発する。但し、明らかに
逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない」というのが
逮捕状発付の
手続であります。この
逮捕状を発せられましたならば、これによ
つて逮捕をいたしまして、その後一応取調べをして七十二時間、検事の手に入
つてから四十八時間でありますが、
逮捕のときから七十二時間以内に勾留状の発付を求めない以上は釈放しなければならない。そうして釈放できない場合には、そこで検察官から
裁判所に対して勾留状の
請求を求めるのであります。この
手続は、
刑事訴訟法第二百七条によりまして、裁判官に対して勾留状を求めますその場合に、「裁判官は、前項の勾留の
請求を受けたときは、速かに勾留状を発しなければならない。」但し、勾留の
理由がないと認めるとき、及び云々とあ
つて、「勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。」というので、勾留状の
請求がありました場合は、裁判官としては速かに勾留状を発しなければならないのでありますが、勾留の
理由がないと認めるときは、直ちに釈放を命じなければならない。而して勾留の
理由というものはどういうものであるかといいますと、これは
刑事訴訟法の六十条に
規定がありまして、「
裁判所は、被告人が」これは「被疑者」と読替えるわけでありますが、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な
理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。」即ちその第一として「被告人が定まつた住居を有しないとき。」住所不定というわけであります。第二は「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な
理由があるとき。」即ち証拠隠滅の虞れがあるとき。第三は、「被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な
理由があるとき。」言い換えれば、逃亡の虞れがあるとき。この三つの場合が勾留をする
理由になる。即ちこういう勾留の
理由がないときは、勾留状の
請求に際して、勾留状を発しないで釈放しなければならないというのが、先ほど申しました二百七条であります。
憲法上
逮捕の
許諾を求めて来るという
憲法第五十条の
規定は、単に
逮捕だけを要求するだけか、或いてそれに引続く勾留状の要求までも含んだものであるか、やや不明でありますが、恐らく今までの慣例で見ますと、勾留まで含む
逮捕を言
つておると思いますが、
只今この
内閣からの要求書を見ますと、
裁判所に対し
逮捕状の
請求があつたので令状発付につき
憲法第五十条云々により
許諾を求めることを要求するというふうにな
つておるので、この点
逮捕状の要求であれば、先ほど言いましたように犯罪が、罪を犯したことを疑うに足りる相当な
理由があるだけで以て、
裁判所は
逮捕状を出し、更に勾留状を出すという場合においては、先ほど言つた
刑事訴訟法第六十条の三つの要件がないときは、勾留状を出さないということにな
つて恐らく私は、両方含めた
意味かと思われますが、その点は、やや明白でないのであります。そこで、
逮捕勾留の
手続については
只今申上げた
通りであります。
次に、
国会法三十七条の問題と三十四条の二の問題であります。これは
国会議員を
逮捕するために
国会に対して
逮捕の
許諾を求めるのは、どの機関から求めるべきであるか、或いはその勾留状或いは
逮捕状を出そうとする
裁判所又は裁判官から、直接
国会に求めるべきであるか、或いは検察官から求めるべきであるか、或いは
内閣から求めるべきであるかという点は、立法の際、いろいろ問題に
なつたようでありますが、従来
国会というものは、一応国務大臣、
政府委員といつたような
内閣と交渉を持つということが、旧
憲法時代からの建前のようであつたので、そういう趣旨を尊重して、
内閣から
国会に
許諾の要求をする。そうして
裁判所から
内閣に対して要求書を出して、
内閣から、
国会に対して
裁判所から出た要求書の写を添えて、これを求めなければならないというので、直接検察官或いは裁判官と
国会と交渉しないで、
内閣を通じてやるという建前で三十四条の二というのができたと心得ております。でありますから、立法の経過から申しますと、むしろこれは、
内閣を通じてやる、ややトンネル式な考えが多分にあつたと考えます。ただ三十四条の二のでき上つた姿を見てみますると、
内閣は、写を添えてこれを求めなければならないというので、
内閣が
許諾を求めるという行動をやるのでありますから、これは
内閣の行動は、
閣議に基いてやるということでありますので、
閣議決定を経てこれを求めるということになるだろうと思います。即ちそのためには、
許諾を求めるのは、
内閣の
責任において
許諾を求めて来るという建前にな
つておるので、その点、単なる
内閣を通じて提出するというだけの、トンネルよりは、やや実質的な
解釈が入れられる
余地があるように見えますけれども、これは従来の慣行上
内閣で以て
司法権、検察権の発動をチエツクするというようなことは望ましくないのではないかというので、今度の
国会法の改正等においても、速かにこれを求めなければならんというような改正をしようという意見も出ておるくらいで、慣例的に考えれば、
内閣はこれを通す機関というふうに考えております。