○市川
参考人 全駐留軍
労働組合の執行
委員長の市川であります。私は
参考人といたしまして、十一月六日に斎藤
警察庁長官から極東軍の司令部のテンプル少将に対して発せられました「駐留軍
労働者のストに伴う
ピケツトに対する
警察措置」この
通牒に関して、若干の
意見を陳述いたしたいと存じます。
今月の十九日ごろから最近までに、宮城県、群馬、東京、埼玉、神奈川、福岡と、ほとんど全国的な規模におきまして、各基地におきまして、この斎藤
警察庁長官がテンプル参謀次長に出しました文書が、英文と和文に印刷されて、全部の
労働者に配付されております。その文書の
内容につきまして申し上げますと、「
ピケットの限界及び
ピケットに対する
警察措置」というような見出しで、大体八項目ほどにわかれて書かれております。
第一点は、駐留軍の
労働者がストライキをした場合に、駐留軍の軍人、軍属及びその家族、これらを施設の中に入れるために、
警察官が必要な警戒を行い、あるいは妨害
行為の発生せんとするときには、未然に防ぐための
措置をと
つて、場合によ
つては実力行使を行う等、機を失せず適切な
措置をとる、こういうようなことが書かれてあります。また
日本人と間違われやすい二世等の軍人、軍属につきましては、身分証明等を提示させまして、
警察官はやはりこれらが
ピケの出入について妨害されることのないよう適当な
措置をとる、こういうように書かれてあります。
第二点としては、外交官その他の
政府職員につきまして、第一項と同様に、
警察官はこれらの人たちが
ピケによ
つて通行を妨害されることがないよう十分な注意を払わなければならない、こういうように書かれてあります。
第三点としては、駐留軍の緊急要員たる身分証明書を
警察官に提示した労務者は、
ピケツト・ラインの通行を許され、軍人、軍属の場合と同様に、
ピケットの妨害を受けないよう
警察官の保護を受けるものとする、このように書かれております。
第四点は、第三者につきまして、民間の契約者、出入商人、これらの使用人及び家事使用人に対する説得
行為、これらについて、本人が了承しない場合におきまして、
警察官がもしそのような申出を受けた場合には、
ピケ隊員に
警告を発して、必要があれば実力行使によ
つても
ピケの通行を援助する。
警察官はまたこれら第三者が米軍施設より自由に出ることを保護する、そのように書かれてあります。
第五項には、ストライキ中の
組合の
組合員以外の労務者について書かれてありますが、これまた
警察官といたしましては、
ピケ・ライン通行を妨げられることのないよう
措置をとる、このように書かれてあります。本人から申出を受けた
警察官は、
ピケ隊員に
警告を発して、そうしてもし
ピケ隊員がこの
警告に従わない場合には、
警察官は実力を
もつつてピケを排除して通行せしむるものとする、このように書かれてあります。
第六項としては、ストライキ中の
組合の
組合員について書かれておるのであります。
警察官は入場を希望するところのストライキ中の
組合員の権利を保護して、
組合員自身またはその家族が暴行または暴行を加えるとの脅迫を受けないよう
措置する。そうして
ピケに対しましては、やはり
警告を発し、必要ならば実力を用いて
組合員の入場を援助するものとする、このように書かれてあります。
第七番目には、
ピケの付近に
警察の指揮所を設ける。そうして
ピケ隊員及び友誼団体等の人たちが集合している地域の秩序の維持に当る。また
ピケツトによ
つて阻止されることのない車両が自由に通れるように、車両用の通路及び門がふさがれないようにする。三点としては、説得を受けるべき者の乗
つている車両の
行動を規制する。歩いて入る入口がふさがれないよう適当な
措置をとる。
ピケによ
つて阻止されない者の身分証明の点検を行うとともに、それらの者が施設に入
つたり出たりすることに対して適当な保護を与える。暴行または脅迫、威迫を未然に防止するために、
ピケ隊員の平和的説得の
行為を監視する。七番目は、
組合活動の行過ぎを監視するために、その地域のパトロールを行うこと。八番目には、違法
行為に出る者がある場合にはただちに
逮捕すること、このように
警察指揮所の任務を書いてあります。
最後の項には、暴行または脅迫をも
つて警察官に抵抗する者は、公務執行妨害として
逮捕する。また就労を希望し、職場に入場しつつある者に対して暴行を加える者はただちに
逮捕する、このような
内容が書かれた文書であります。
〔日野
委員長代理退席、
委員長着席〕
私
どもは、このような
通牒がどうして出されたのかという点については、ある方面からの情報によりますれば、これはアメリカ側からの申入れによ
つて、
日本政府側とアメリカ側で
協議をされた結果出されておる、主としてアメリカの要請に基いて出されておるということを、ほぼ
承知をしておるのであります。十月の中旬から十一月の初旬にかけて、大体三回ほどの
会議が持たれてお
つたようであります。その一番の基礎にな
つたのは、十月の中旬ごろハル大将が緒方副総理に申し入れたことが根拠のように了承しておるのであります。駐留軍の労務者の
ピケ・ラインに対する
警察措置を申し入れて来られたので、それらについて
会議が持たれた結果、当初は
日本政府側、あるいは外務省、労働省、法務省、調達庁等も出てお
つたのですが、
日本政府側でも、アメリカ側の要求に対して、かなり強い
態度をも
つて会議に臨んでお
つたかに聞いてお
つたのでありますが、最終的には向う側の要求をいれて、このような回答がなされた。そうして軍側としては、この
通牒を全文印刷いたしまして、先ほど申し上げたように、全部の
労働者に配付されたのであります。そういう
措置を私
どもが見てみますと、明らかにこの文書を配付することによ
つて、
組合員に対して、ストライキを行う場合に
警察官の
介入によるところの一つの恐怖感を抱かしめて、
組合の組織から脱落せしむるところのねらいをも
つて配付されたのではないか、かように考えられるのであります。
もちろん、この
通牒文書自体については、いろいろと問題点があるようであります。私
どもが若干考えてみましても、たとえば
ピケツトに対する
警察措置が、どういう
考え方によるものか。こういうような点についても、われわれの場合には、一点としては、行政協定に基く義務によ
つて日本政府が行わなければならぬのかどうか、あるいは単なる交通整理等の行政
措置であるのか、あるいはまた労働争議を
犯罪ないし
犯罪の発生源と見て事前の警戒
措置をとるというのであるか、これらについても、われわれとしては、この
通牒が納得できないいろいろな問題点として考えられるのであります。このような
警察措置の実施によりまして、事実上の争議関係を支配することになるおそれがあると思うのであります。そういうような
措置をとる権限あるいは法的根拠というものはどこにあるのか、われわれとしては疑わざるを得ないのであります。
特に
ピケツトについての見解と
警察力の行使の問題につきまして少しく申し上げてみますと、
ピケツトについての見解は、すでに問題にな
つております
労働次官の
通牒にもいろいろ書かれておりますが、この斎藤
警察庁長官の文書によりましても、大体同様な表現、字句等が使われております。それ自体についても、
労働次官通牒自体についても大きな問題があるわけです。判例とか学説の上でも、大きな論争点にな
つている。そうしてその
正当性とかあるいは不当性は確立していないものである、かように考えております。その
正当性あるいは不当性が確立していない
行為について、ただちに
警察力の
発動、あるいは
警察力を行使するということは、国家権力によるところの争議干渉の著しいものである、かように見られるのであります。特に
労働次官の
通牒でも、単に正当な
行為とは解されないとか、解しがたいとか、こういう表現で表わされておる
行為が、
現場に配置されたところの一
警察官の判断によ
つて、ただちに現行犯として
逮捕されるようにな
つていることは、まさに権力の濫用ではないかと、かように考えられるのであります。
ピケツトごとに
警察指揮所を設けるということに至りましては、
ピケ隊の
行動や
組合活動の行き過ぎを監視するため、
警察官の配置やパトロールを行うとか、あるいは
ピケ・ラインの通行者の識別、点検に当るとか、さらに車両や通行者保護の誘導を行うとか、違法な
行為を
行つたと判断される者はただちに
逮捕する等の
警察措置の
発動は、
日本の場合について考えてみますと、非常な争議手段とな
つておるところの
ピケツト活動というものを、国家権力によ
つて無力化しよう、そうして事実上労働争議を
弾圧して行こう、そういう一つの指揮所にな
つておるのではないか、こういうようにも考えられます。
以上申し上げてみますと、この斎藤
警察庁長官の文書は、いろいろな問題点を含んでおると考えるのであります。私
どもが
労使の一方の
当事者としてこれを見た場合に、先ほ
ども言及したのでありますが、明らかに私
どもが今当面する問題として、陸軍関係の一万九千の首切りなり、あるいは北海道の陸軍部隊撤退によるところの首切りに対しまして、特別退職
手当の要求なり、
失業対策を掲げて、ゼネスト態勢をも
つて闘
つておるこの態勢の切りくずしを策しておる、そうして組織の破壊工作をこれらの文書によ
つてねら
つておる、かように見られるのであります。
私
どもは本年ゼネストを行い、また昨年もゼネストを
行つたのでありますが、これらのゼネストを決行する場合におきましては、
法律上の雇用主でありますところの
日本政府の代表である調達庁と、争議に関するところの協定を結んでおるのであります。争議に関する協定といたしましては、たとえば保安要員の問題にいたしましても、われわれの
立場から見まして、労調法の三十六条の関係については、消防とか病院関係とか、上水道とか変電所、ボイラーとか、その他所要の要員を差出すことをきめておるのであります。また
ピケツトの
紛争防止に関しましても、いろいろときめておるわけです。そうして
ピケツトにおける
紛争を防止するために、管理者側がどういうことを守らなければならないか、
組合側がどういうことを守らなければならないかというようなこともきめておるのであります。
幾つかの事例を申し上げまするならば、
ピケツトの
紛争防止につきましては、管理者側といたしましては、非
組合員と、ストに同調しないで入門就業しようとする者を、軍側が護衛して
ピケツト・ラインを通過せしめないこと、労務者を軍の車両に乗せたりして
ピケツトを通過せしめないようにする。一切の車両は
ピケ・ラインのおおむね五十メートル前から時速五マイル以下に下げて徐行して、また軍側は挑発的な
行為を行
つてはならない。軍側は
ピケツト・ラインにおける
日本人同士の間の
紛争には干渉しない、こういうようなことをきめたのであります。
また
労働組合側として守る事項につきましては、たとえば軍人、軍属またはそれらの者が運転する車両の
ピケツト・ライン通過を阻止しない。さらにまた、外交使節団の
職員が運転する車両の
ピケ・ライン通過を阻止しない。
ピケツトにおいては、平和的な説得を行い、凶器その他の威嚇的な用具を所持して入門を拒否しない、こういうような事柄をきめているわけです。こういうような争議協定が
日本政府側と
労働組合の間では合意されておるのでありますが、これが実施に移されない点は、極東軍司令部がその争議協定を拒否した点にあるのであります。
ただいま申し上げました中でも、今回斎藤
警察庁長官が軍人、軍属、家族等の
ピケ・ライン通過について所要の
措置をとる、あるいはまた外交使節等の通過について所要の
措置をとるということは、すでに過去二回のゼネストに対しまして、私
ども労働組合側が自主的に
ピケ・ラインを通過できるように
措置しておることであります。
労使間において問題のない事柄に対して
警察がどのような必要があ
つて、それに
介入する必要があるのか、ま
つたく了解に苦しまざるを得ないのであります。
こういうように、われわれといたしましては、過去の争議に際しましても、特に駐留軍労働の国際的な慣行等、日米間におけるところの
労働法あるいは労働慣行の相違等から来るところの
本質的問題以外から起る
紛争を防止するために、かなり
組合側としては、ストライキ決行にあた
つて不利な条件が出て来ることも覚悟の上で、
本質的な問題以外の
紛争を防止するための
措置をと
つて参
つたのであります。
そういう経緯から見ましたときに、今回の
警察庁長官の通達については、あまりにも駐留軍労働の
実態というものをよく認識していない、その上に立
つてなされたものである。そういう点についてきわめて大きな不満を表明せざるを得ないのであります。
私
どもは、特にこの際、軍側の
態度についても一言触れたいのでありますが、われわれが要求している
本質的な問題の交渉には、すでに八月以来四箇月にもなるのに、一回の交渉にも応ぜずして、ストライキに対する
ピケツト・ラインの対策のみを
政府側に要求して、
政府もまた
本質的な問題の
解決についての交渉をたな上げしておいて、
ピケ・ラインに対するところの軍との交渉を行い、それに対する
措置だけをと
つておる、ここにかなり重要な問題があるのではないかと考えるのです。
ピケ・ラインの問題について交渉をする時間があるならば、なぜに問題の
本質的な
解決をはかる交渉をしないのか、私
どもは、このような
措置をとる以前に、問題にな
つている事項についても、
解決交渉を、
政府が
もつと積極的に強い
態度をも
つて対軍交渉を行うべきであろう。また軍もそのような
措置をとるならば、ストライキというようなことは回避できるということを十分
承知して、そして交渉に応ずべきであろう、かように指摘したいのであります。
特に
警察官の
行動につきましては、私
ども駐留軍
労働者の
立場から見ますと、独立直後におきましては、比較的中立的な
態度をと
つてくれてお
つたと私
ども認識をいたしておりました。これが占領下におけるところのアメリカ軍の憲兵と、アメリカ軍の圧迫等に対するところの
警察官としての反感もあるいはあ
つたかもしれませんが、駐留軍
労働者のストライキについては、比較的中立的な
態度をと
つてくれてお
つたと認識してお
つたのであります。しかし、昨年あるいは本年とゼネストあるいは地域的なストライキ等を行う
段階に至りまして、
警察官の
態度がかなりわか
つて来ておるように思われるのであります。過般国会でも問題になりました、朝霞におきましてアメリカ軍のMPにこん棒でなぐられて負傷しておるその事実を、
日本の国民が面子に危害を受けておることを目前に見ながら、
警察官は拱手傍観をしてお
つた、こういうような事実もあるのであります。また本年のゼネストの際、横浜の万国橋においては、
ピケツト・ラインを突破しようとする他の特需系の
労働者について、
ピケツト・ラインの
責任者それらの人たちの代表の間で話合いがついて、そして一名ずつ逐次入れようという話合いがついたその直前に、装甲車をも
つてピケツト・ラインを突破して、警官が護衛して六十名ほどの特需
労働者を入れた、こういうような事例もあるのであります。
そういう事例を見てみますと、今回この
通牒が出されて、私
どもがゼネストを
行つた場合の状態を一応仮想してみますと、私
どもの組織は全国二十都道府県にまたが
つております。基地としては百数十が数えられるのであります。一つの基地の
ピケ・ラインを張るところのゲートは、多いところでは七、八箇所もあります。そういうようなゲートにおいて、全部
警察官が指揮所を設けて一々出て来るという場合に、どこに
紛争が起
つて来るかま
つたく予想することが困難であります。
本質的な問題以外に、派生的な多くの問題が出て来る。あるいは
警察官としてはその
紛争が起
つて来ることを望んでおるのかもしれない。その中において
逮捕し検挙し拘留して、そして
組合を破壊して行くという意図が、この
通牒の中にないというふうに保証される要綱はないのであります。そういうような点を考えてみますと、私
どもの
立場におきましては、この
通牒はアメリカ軍の要求によ
つて日本政府側がアメリカ側に屈伏して出され、またその
通牒を利用しようとする軍は、明らかに
組合の組織を破壊し、
組合を
弾圧する意図を持
つておる、このように指摘せざるを得ないのであります。そういう姿を見てみますと、私
どもは
警察フアツシヨの再現というものを恐れざるを得ないのであります。こういう点から、私
どもといたしましては、この斎藤
警察庁長官が、十一月六日付で極東軍のテンプル参謀次長に出したこの
通牒の撤回取消し
措置を行われるよう、国会等においても十分に御
検討の上御配慮願いたいと思うのであります。
さらにまた、私
どもは、この
警察庁長官の
通牒というものは、
警察法の第一条の
趣旨違反ではないかというふうに考えております。
警察法の第一条には、
日本の
憲法で保障されているところの国民の自由とか、あるいは権利の干渉にわたる等の権能の濫用は、
警察法としてもや
つてはならないというように書かれておると思います。しかしあの斎藤長官の
通牒通り、もし
ピケツト・ラインにおいて
警察行動がとられた場合においては、多くの
紛争が出て来る。そういう中には、
労働組合運動を
弾圧して、
日本の民主的勢力としての
組合を破壊して行く恐るべき一つの根源が、あの
通牒の中にひそんでいるのではないかとかように危惧せざるを得ないのであります。
以上、先ほどの
警察庁長官の
通牒に関するところの若干の
意見を申し上げまして、十分労働
委員会においても御審議の上、適正なる御
措置をおとりいただくよう
お願いしておく次第であります。