○今村
参考人 特に昨年の暮れあたりから炭鉱が非常に不況に見舞われまして、中小炭鉱は相当数すでに倒産をや
つております。私は昨日の当
委員会に参りまして、
近江絹糸の問題、それから本日の帝旧酸素の問題等お聞きしておりましたが、私
ども岩屋炭鉱を主体として本
委員会に申し述べますことは、それらの問題とは非常に異な
つておりますので、
委員の皆様方には奇異の感をお抱きになる点があるだろうと考えておりますが、現在私
どもが皆様方にお訴え申し上げたいことは、高倉鉱業という炭鉱の
企業の中で、
労使で処分をしようといたしましても、どうにもならない問題にな
つて参
つております。
従つて、
近江絹糸や
帝国酸素のような
団体交渉の持
つて行き方がどうであるか、あるいは勤労管理の方式がどうであるかというような問題、こういつたいわゆる基本的な人権問題も、もちろん非常に深刻であり、重大な問題だとは考えますが、私
どもの問題はそれ以前の、ただちに死か生かという問題につなが
つておるわけであります。そこでその問題を処理いたしますのには、これは
経営者が
企業努力をいかにいたしたといたしましても、現在の状態ではどうにもならない。そこで
資本家を責め上げまして、最後の血の一滴まで
資本家から吐き出させたといたしましても、それでも
解決がつかない、こういつた
企業努力ではどうにもならないという問題に直面しておるわけであります。
従つて私の申し上げますことは、反面
経営者、
資本家を代表したような意見を勢い申し上げざるを得ない。この問題を
解決しますためには、やはり
企業をどうして存続するかということが先決になるような状態でございますので、そういう
事情をまず基礎的にお考えにな
つてお聞きとりをお願いしたいと思うわけでございます。抜本的にこれを
解決するということになりますと、問題は石炭が売れないから炭鉱が不景気なんでございますから、石炭が売れるようにならなければ救えない、こういうことになるわけです。そこでそれではどうして石炭が売れな’かという問題にな
つて来ないと、本質的な問題の
解決にはならない。結局問題がそういうふうにな
つて参りますと、私
どもの立場から考えました政治のあり方、現在なされております政治のあり方、そのものに根本的な問題があろうかと考えるわけであります。しかしながら当面明日の生活をどうするかというような
労働者を抱えておりまして、直接その
組合の責任者として何とか打開の
方法を講じたい、こういうふうに考えて参
つておりますので、そういう問題ととり組みましていろいろと皆様方の御意見も承り、私
どもの申し分も申し上げる、こういうことではとても間に合わない。そこでそういう問題につきましては、これは
労働組合が直接やるべき問題でもございませんし、
委員の皆様方がそれぞれ
会議において検討され、論議されまして方策を立てていただく、それに本筋としてはお訴え申し上げる以外にない、そういうふうに考えますから、私は当面しております高倉鉱業の状態をどういうふうにやつたら失業者を出さずに、それから山を廃山しなくてや
つて行けるかということについて申し上げまして、皆様方の御協力をお願いしたい、こういうふうに考えるわけでございます。
ただいま
組合の生活の実態につきましては、炭鉱婦人会の副会長であります秋好さんとそれから
組合の
書記長であります古賀氏から申し上げました通りでございます。七月に入りまして現金千五百円とそれから米をもら
つておるだけであります。なるほど炭鉱は家賃はいりませんし、光熱費も都会のそれに比べますと非常に少い。しかしいかに、どういう条件にありましようとも、家族を持つた
人間が一箇月千五百円、これだけの現金と米だけで生活ができるかどうか。しかもこれは私
どもが身びいきで申し上げるわけではございませんが、地下数千尺で働いております。
従つてその労働も決して軽い労働ではございません。農村なんかの労働よりは、もつと重労働であります。そういう人
たちが梅ぼしでおかゆをすす
つて坑内で重労働ができるかどうか、これは常識上お考えを願
つてもわかることだと考えます。
従つて主人を働かせるためには、その金のほとんどすべてがタバコ銭と主人の副食費にな
つてしまう。そこで子供の小使い銭はもちろんのこと、今は夏場だから、いいわけでありますけれ
ども、冬場ですと子供を外にも出せない。外に出すにははだか同様で出さなければなりません。辛いに炭鉱にあります燃料で、かんてきといいます、炭鉱では七輪といいますが、それをたいてごろくさせておる、そういう実態であります。そういう実態も過去に賃金をもら
つておりました余力のある間は、どうやらこうやらや
つて参
つたのでありますが、もはや現在ではどうにもならない段階まで来ております。
詳しくは御
質問等がございますれば直接生活を担当しております秋好さんから皆様方に御説明を申し上げると考えますが、そういう実態で、ただいま岩屋の
組合といたしましては、もはや今月一ぱい
——私
どもか
組合員の諸君をなだめまして、とにかく
会社も金をつくるために一生懸命にな
つておる、だから今月一ぱい待
つてくれと
会社も言
つておるから、しかも
会社が努力しておる有様もわかるので、今月一ぱいはがまんをしてくれ、こういうことでやつとなだめております。それから
先ほど秋好君が
発言いたしましたように、福岡と佐賀県で現在すわり込みをや
つております。すわり込みをしたからとい
つて、大した効果があるとは私
ども考えておりません。しかしながら死の影に追い詰められて憤激の頂点に達しております
組合員の秩序を保つためには、こういう
方法も必要です。すわり込みの主たる目的はそこにあるわけであります。山元ではそういう実態にまでな
つて参
つております。
従つて今月末に何らかの方途が見出されない限り、おそらく私
ども労働組合として秩序を保
つて行動することはできないような事態が発生するのではないか。
会社がうんと持
つておりますところの生産設備にいたしましても、あるいは在庫品にいたしましても、坑木その他機械諸工具、あるいはゴム製品であるとか、どうしても生活ができない、命がつないで行けないというようなことになると、その所有権が
会社にあろうがどうであろうが、命をつなぐためには、これをたたき売
つて金にして生活をしようという事態から発端をいたしまして、暴動的な状態が起るのではないかということが、非常に懸念をされるのであります。もちろんこれは失業、それから生活苦という問題につなが
つておりますので、労働問題の本質であるには違いありませんが、考えられる労働問題の域をはるかに脱しておる。このことを十分に御認識をいただきたいと思うわけでございます。
そこで私
ども考えると、今日までこういう事態の
解決のために、いろいろと折衝をや
つて参りました。その結果、山を再建して行くためには、どうしても現在協定をいたしております賃金を支払
つたのではや
つて行けない。石炭の値段が一カロリー当りについて六十銭くらいで売れますとや
つて行けるわけでありますが、現在のところは平均いたしましてカロリー当り四十二、三銭にしか売れない。その石炭の値段に生産コ
ストをあわせて参りますために、いろいろなものを削減いたしましたし、
会社の機構も重役陣の縮小等まで行つたといたしましても、さらにやはり労働条件の中に食い込んで行かないとどうしてもや
つて行けない、こういうことが明らかにな
つて参りましたので、二〇%賃金切下げということを
労使で認め
合つたわけであります。そして再建に乗り出したわけであります。そこで
会社が計画をいたしましたことは、そのために過去にありましたところの未払い賃金であるとか、あるいは非常に差迫
つております電力料金であるとか、あるいは労災保険の給付制限を受けないための掛金であるとか、こういつた最低限度の支払い計画、こういうものを一括いたしまして、さらに一箇月間くらい賃金が払える状態、そうして
労働者の生活が安定いたして参りますと、二箇月日くらいから正常な
営業に立ち直る、こういう計画を組みますと、どうしてもそこに一億くらいの金がいることが明らかにな
つて参
つたのであります。内訳を申し上げますと未払い賃金が約三千五百万円ございます。それから運転資金と申しますか、一箇月分の賃金を保障し、その他の労働安定のための金が約二千万円、これだけは見ておかなければなりません。そういたしますと、五千五百万円、それから月々に決済する手形、これが二千万円ばかりございます。それからぜひとも買い入れなければならぬ坑木であるとか、火薬であるとか、あるいは主食であるとか、こういつたものの買入れの予備金を見ますと、どうしても一億円の金がいるということで、では一億円の金をつくれということで、盛んに一億円の金をつくる努力を
会社はいたしたのであります。最大限度の努力をしたという私
どもも
会社の努力は一応認めております。
そこで
会社はその金をつくる手段として行いましたことは、福岡市内の目抜きの場所に四百七十五坪の鉱業財団名義の土地を持
つております。これは開発銀行の八千万円の設備資金の融資の担保に鉱業財団で一括して入
つておりますが、これは開発銀行の担保を抜いてもらいたいということを言
つておりますので、これを売るという努力をしております。その売先が農林中金でございまして、農林中金の福岡支店を建設する用地として売
つてもらいたい。この評価が坪約十六万円といたしまして、税引七千万円の金はこれでできるという計画を
会社は立てました。事前に農林中金との
話合いもできておりまして、農林中金の福岡支店としては買おうということにな
つておつたそうであります。そこで一応七千万円の金が、売れるとすればできる。
そこで、さらに不足分といたしましては、平田山という炭鉱を長崎の方に持
つておりますが、そこに粘結炭を現在一万四千五百トン持
つております。これは高倉の
経営が幼稚であつたということは現在はつきりしております。一昨年炭労の六十日の
ストライキで、石炭がたくさん売れたので、昨年も炭労がああいう
ストライキをやるだろうという想定のもとに貯炭を抱き込んで、しかもそれが売れなかつた。こういうことも一応高倉の
経営を圧迫いたしておる
事情でございますが、そういう点が失敗があつたといたしましても、これはいまさら取返しのつかない事態でございますので、そういう失敗の余りとして一万四千五百トンの貯炭がございます。これを全部ただちに売
つてしまいますと、たとえば二千二百円で投売りいたしましても三千三、四百万円の金はできるわけであります。大体七千カロリーの粘結炭でございます。
従つて現在市価といたしましては四千円近い市価だと考えますが、ただ灰分が少し多いので一割
程度引きましても三千五、六百円で売れる石炭であります。そこでこれを千円でも千五百円でもいいからたたき売れということで、
会社も売る気持に
なつたわけであります。これによ
つて月内に未払い賃金を払
つてしま
つて将来の安定した計画を立てる、こういう約束で七月の初めから、七月の十一日であつたと記憶いたしますが、私
どもの方の社長が上京いたしまして、開発銀行、農林中金、それから佐賀興業銀行、これが親銀行になるわけでありますが、そこの神原という重役もともに上京いたしまして、土地を売る作業、それから並行的に平田山の貯炭を売る作業をや
つたのであります。しかしながら、その結果といたしましては、現在政府の
方針として緊急やむを得ざるものを除いては高層建築物は築造をしない、こういう
方針だ。
従つて農林中金の場合にいたしましても、土地を買
つて新しい農林中金ビルを福岡に建設する必要はない、こういうような
方針で土地が売れなく
なつた、農林中金へは少くとも売れないようであるということであります。
従つてこれが
一つ最初から失敗した。それから貯炭の問題でありますが、これも現在盛んに折衝を続けておりますけれ
ども、まだ売先がはつきりしない。こういうことで、今月の当初
会社と契約をいたしまして、
会社もその間二十日間ばかり最大限度の努力はいたしたようであります。これは毎月社長と電話連絡をいたしまして、その行動は私
どももキヤツチいたしておりますので、努力をしたということは一応認められるわけでありますが、その約束をいたしました計画そのものが全部おじやんにな
つてしまつた。そこで
組合の実態は、ただいま申しましたようにこれが蹉跌をいたしますと、今月一千五百円の現金しかもら
つておりませんし、生活ももうぎりぎりのところまで参
つておりますので、
組合としての統制上、これ以上は
組合として本責任が持てない。こういう段階と並行的にお考えを願いますと、事態がいかに窮迫しておるかということはおわかりを願えるというふうに考えるわけであります。
そこで当面お願いをいたしたいことは、もちろん抜本的に申し上げますならば、私は五月上京いたしまして通産省、労働省その他いろいろ折衝申し上げたのでございますが、問題はやはり重油の輸入
——重油そのものが石炭を非常に圧迫しておるようであります。これは全部が全部というわけには参りませんし、低品位炭の炭鉱には、重油の輸入はいいということが言われておりますが、これは部分的な問題であります。そこで重油の輸入を大幅に削減してもらう以外に、炭鉱は立ち直る
方法はない、こういうことでいろいろ通産省
関係の方々の御意見も承りましたし、通権省としても、そういうふうにやりたいというお約束をいただきましたが、しかし実際はそのお約束通りには
行つておらない。削減はされていなくてそのまま来ておる、こういう状態だというふうに聞いております。そこでそういう抜本的な問題が
解決しないと、根本的に
解決というものは成り立たないと考えますけれ
ども、当面私
どもの近隣の炭鉱をながめてみますと、それぞれ同じような苦悩をやはりなめております。しかしながら、現在非常に安い賃金でみんなががまんをしておりますが、それはそれなりにどうやら小康を保
つております。現在ごく小さい炭鉱は別といたしまして、今月末にどうなるかという炭鉱は、結局私
どもの炭鉱だけだというふうに私
どもの
調査の
範囲では見ております。そこでその炭鉱も、ただいま申し上げました土地が売れる、それから貯炭が売れる、こういうことになれば、
労働者も失業しなくて、炭鉱は立ち直
つて参ります。高倉鉱業で月二万トン生産の計画を立てておりますが、その二万トンは全部販売できることにな
つておる。その販売いたします平均価格はカロリー当り四十三、四銭、これで現在の再建計画に十分乗
つて行くわけであります。
ただ問題は、
労働者が腹を減らしてお
つて労働ができない。この事態を何とか
解決しなければならぬ、こういう状態にあるわけでございますから、できますならば、総合的な施策については労働省
関係、政府側あるいは
労働委員会だけで
どうこうというような問題ではありません、そういう問題はあらためて本
会議で御審議をお願いしたいと考えるわけでありますが、本
委員会としては、できますならただいま申しておりました土地を農林中金が買
つてくれるか、そうしてさらに平田山にあります一万四千五百トンの貯炭を売るあつせんをしていただくことが可能であるか、それをや
つていただくことと、土地の売買のあつせんをや
つていただくことが可能であるということでありますならば、一応小康を保つことができる、こういうふうに私
どもは考えておるわけであります。私
どもといたしましては、県知事にもすがりましたし、それから県会等も動員いたしまして最大限度の活動をいたしましたが、どうにも
解決がつかない事態でございます。
従つて本
委員会で以上の
事情を御検討くださいまして、そういうことができるかどうか、できますなら御検討をいただきたい。そうしてまたその後の御検討の結果、あるいはそれかできないといたしますならば、さらにあらためて
——私
ども失業者を出さない、賃金を下げてまで職場を維持して行きたい。今の状態で失業するということは、六箇月間の生活は現在働いておるよりも安定をいたします。しかしその後の就職ということは大よそ望めない、そういうふうに考えますので、できるだけはしたくないというふうに考えておりますから、その問題についての御討議の結果、さらにそれではほかの問題についての
解決策はないかどうかということについても、時間をとりまして恐縮でございますが、できますならば、いろいろと私
どもの申し上げることも聞いていただきたいし、皆さん方の御意見も承らせていただきたい、こういうふうに考えておるわけでございます。どうぞよろしくお願いいたします。