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1954-05-19 第19回国会 衆議院 労働委員会 第24号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年五月十九日(水曜日)     午前十一時三分開議  出席委員    委員長 赤松  勇君    理事 池田  清君 理事 丹羽喬四郎君    理事 持永 義夫君 理事 多賀谷真稔君    理事 井堀 繁雄君       木村 文男君    黒澤 幸一君       島上善五郎君    大西 正道君       日野 吉夫君    矢尾喜三郎君       中原 健次君  出席政府委員         労働政務次官  安井  謙君         労働基準監督官         (労働基準局         長)      龜井  光君  委員外出席者         参  考  人         (松竹労働組合         大船分会委員         長)      河野 貞壽君         参  考  人         (松竹労働組合         大船分会書記         長)      今井健太郎君         参  考  人         (東京職員労         働組合清掃支部         長)      菅原 正松君         専  門  員 濱口金一郎君     ――――――――――――― 五月十八日  委員佐藤芳男君辞任につき、その補欠として本  名武君が議長の指名で委員に選任された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  参考人招致に関する件  最低賃金法案井堀繁雄君外六十三名提出、衆  法第一六号)  最低賃金保障金融公庫法案井堀繁雄君外六十  三名提出衆法一七号)  最低賃金法案和田博雄君外四名提出衆法第  一八号)  最低賃金保障金融公庫法案和田博雄君外四名  提出衆法第一九号)  労働基準法諸規則に関する件     ―――――――――――――
  2. 赤松勇

    赤松委員長 これより会議を開きます。  最低賃金法案井堀繁雄君外六十三名提出衆法第一六号)、最低賃金保障金融公庫法案井堀繁雄君外六十三名提出衆法第一七号)、最低賃金法案和田博雄君外四名提出衆法第一八号)、最低賃金保障金融公庫法案和田博雄君外四名提出衆法第一九号)を一括議題とし、その審査を進めます。  まず提案者より順次提案理由説明を聴取いたします。多賀谷真稔君。
  3. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 ただいま議題となりました最低賃金法案及び最低賃金保障金融公庫法案につきまして、その提案理由及び内容概要について御説明を申し上げます。  最低賃金制は、前世紀の末ニユージーランドに実施されて以来、イギリスフランス、オランダ、ベルギー、カナダ等々に行われ、第二次大戦後の今日においては、インド、ビルマ、フイリピンのアジア後進国及び中南米諸国に至るまで、ほとんど法の制定を見ているのであります。ILO総会においても、一九二八年、すでに最低賃金制度に関する条約並びに勧告が採択され、わが国労働基準法にも最低賃金に関する条項があるにもかかわらず、いまだ実施の運びに至つていないことは遺憾のきわみであります。  賃金労働時間は、労働条件における天井と床の関係にあり、いかに労働時間の規制が行われても、賃金について何らかの最低保障がないならば、労働条件向上は期し得られないのであります。最近特に封建的低賃金よりの脱却及び実質賃金低下防止のため、最低賃金法制定の要望が高まりつつある点並びに国際貿易上、ソーシヤル・ダンピングの復活の危惧のある点等も考慮し、提案した次第であります。  以下その内容概要について説明いたします。  第一に、最低賃金法目的は、申すまでもなく、労働者健康能率等の必須の最低水準を維持せしめない劣悪な労働条件を排除するにあるのであり、全国的な最低線を画し、その線まで賃金保障し、労働者生活安定と労働能率向上をはかり、経済興隆に寄与せんとするものであります。  第二に、本最低賃金法は、附則において労働基準法最低賃金条項を一部改正し、その改正した労働基準法規定に基いて定めたものといたしたのであります。そこで本法適用労働者からは、労働基準法適用を受けない船員労働者家事使用人家族労働者及び公共企業体等労働関係法地方公営企業体等労働関係法規定する職員以外の国家公務員並びに地方公務員は除外いたしたのであります。これらの船員国家公務員及び地方公務員は、別個に法律制定または改正し、生活最低保障を確保する所存であります。  第三に、最低賃金の額は一箇月八千円といたしたのであります。最低賃金額決定基準は、各国においても種々でありますが、われわれは主として厚生省社会局委託による労働科学研究所最低生活費の研究の結果によつたのであります。これによれば、一九五二年調査で、住生活及び税金、社会保険料を除いて、家族共同生活をしている軽作業従事成年男子の再生産最低限度消費単位が七千円でありますので、これに独身者たる条件を加え、さらにその後のCPIの上昇率地域差等により修正し、八千円といたしたのであります。最低限度の世帯を夫婦子供一人、三歳とみれば、消費単位は二・二となり、純生活費のみでも一万六千円程度となり、約五〇%にすぎないのであります。なお基本たる賃金が月、週、日、時間によつて定められている場合を区別し、月八千円、週一千九百二十円、日三百二十円、時間の場合は、三百二十円を所定労働時間数で除した金額最低賃金額といたしたのであります。  第四に、右の金額に達しなくても使用できる除外例を設けたのであります。それは技能者養成者精神または身体の障害により著しく労働能力の低位な者、労働者の都合により所定労働時間に満たない時間の労働をした場合、所定労働時間の特に短かい者労働者が満十八歳に満たないものであります。  第五に、中央賃金審議会物価変動その他により、金額の増減を行う必要がある場合において、労働大臣勧告しなければならぬ規定を設けたのであります。  第六に、最低賃金支払いのために必要な資金を融通するため、最低賃金保障金融公庫を設けることにいたし、最低賃金保障金融公庫法案提出いたしたのであります。資本金は全額政府出資することといたし、初年度資本金六百億円をもつて出発し、年々主務大臣認可を得て増資することといたしました。事務所は主たる事務所東京都に、従たる事務所を都道府県の区域ごとに置き、役員は総裁一人、理事若干人、監事二人を置き、従たる事務所支所長を置き、その運営については運営審議会中央地方に設け、学識経験者使用者労働者の三者構成とし、これが当ることにいたしたのであります。貸付の限度、利率及び期限、担保、元利の回収については、中央審議会の議を経て業務方法書を作成し、主務大臣認可を受けて決定し、これにより行うことにいたしました。  以上がこれらの法案概要でありますが、何とぞ慎重御審議くださらんことを希望する次第であります。
  4. 赤松勇

  5. 井堀繁雄

    井堀委員 ただいま議題となりました最低賃金法案及び最低賃金保障金融公庫法案について、その提案理由を御説明申し上げます。  最低賃金制度目的といたしますところは、労働者生活を安定し、それによつて労働資質向上をはかり、もつて製品の高度化と量産の発展に寄与せしめんとするものであります。  労働保護に関しましては、すでに労働基準法がありまして、長期間労働の禁止、災害の防止並びにその補償、女子年少労働者保護等の措置が講ぜられておりますことは御案内の通りであります。しかし、これらの保護がいかに万全が期せられましても、低賃金が強要せられて労働者生活不安にさらされておりましては、せつかく保護立法も無意義となり、労働資質向上も、それによる労働生産性高揚も、確保できないことは申すまでもありません。労働基準法実施されてすでに七年、この法律の眼目である最低賃金制度が日の目を見ていないということは、まさに画龍点睛を欠くといわなければなりません。本法案は、かかる労働基準法跛行性を改めまして、保護立法として、本来の使命を達成せしめんといたすものであります。  次に、ここで強調いたしたいことは、中小企業労働強化であり、その被害より労働力保護の急務なることであります。朝鮮動乱以降、労働賃金は、規模別に、また時間賃金較差拡大等はますますはなはだしくなり、これを放置するときは、わが国産業経済は、ここから救いがたい危機を招来することは、火を見るより明らかなことであります。わが国中小企業は、全事業所中、その九九・八%を占め、就業人口また八一・五%に達しております。終戦以来、中小企業の再建が叫ばれて来たのでありますが、その実態は、企業者雇用労働者の悪戦苦闘によつて辛うじて維持され、しかもこの悪戦苦闘もすでに限界に達し、今日では破局の一歩手前にあるのであります。その原因は、保守政党吉田内閣中小企業対策の貧困と無能のしからしむるところであります。政府は、倒産破滅危機に当面している中小企業に対して、僅少な融資によつてこれを糊塗して来たにすぎません。これではほんとうに焼け石に水でありまして、中小企業の再建はおろか、危機はますます深刻化の一途をたどる以外にないのであります。当面している経済危機は、基本的には中小企業対策の貧困が累積されたものであります。国際的物価高による貿易の不振は、中小企業封建的自由放任主義のもとに、低賃金と長時間労働の低質なる労働力に依存して、不当な競争を余儀なくされて来た結果にほかならぬのであります。世界先進国産業は、労働資質の改善によつて精密、高度化されつつある今日、日本だけが往年のソーシアル・ダンピングを夢みて、中小企業の維持をはからんとすることは、いたずらに世界市場から締め出され、没落を待つのみであります。言うまでもなく、近代生産は組織の生産であります。労働資質向上と旺盛なる生産意欲を組織化し、労働効率を確保する以外に道はありません。製品の質的高度化と量産を推進する労働体制を確立することが最も緊要であります。そのためには労働者最低生活保障されなければならないことは申すまでもありません。とりわけ中小企業再建の方途は、生産の原動力である労働対策を無視しては絶対にあり得ません。本法案は、右に述べたように労働者、特に青少年労働者を完全に保護し、それによつて産業組織近代化を推進せんとするものであります。かくすることによつて民主的労使関係は確立され、産業平和が維持される結果となることを確信するものであります。  次に最低賃金制度国際性について、簡単に御説明申し上げます。すでに諸外国では古くからこの制度実施いたしまして、経営民主化生産向上が実現され、産業の基礎は安定し、強化されております。一部反対論者は、この制度実施すれば、企業が倒れたり、失業者がふえると申しますが、それは机上の空論でありまして、前にも述べました通り、それは封建的資本主義者か、しからざれば第二次産業革命ともいうべき近代的な経済進化を否定する者であります。特にわが国のような企業欲の旺盛な国民性にありましては、むしろ本制度によつて不当競争を防止いたしますことにより、かえつて堅実な企業欲を刺激いたしまして、産業国際的発展を促す結果を招来するものと確信いたします。一九二八年の国際労働会議十一回総会で、最低賃金決定制度の創設に関する条約及び最低賃金決定制度実施に関する勧告を採択いたしましたことは御案内の通りであります。この制度を法制化いたしております国は、すでに三十箇国に達するのであります。この会議で、日本政府代表は棄権、資本家代表は反対、労働者代表のみが賛成いたしましたことは、今なお国際社会の記憶するところであります。その反対理由は、わが国産業特殊事情ということにあつたのであります。その特殊性とは、日本産業の中枢が、中小企業によつて占められていること、家内工業的企業がなお多数存在しているという点にあつたのであります。しかし、実際には低賃金と、長時間労働日本産業の身上であつたことは、偽ることのできない事実でありまして、最低賃金制度は、産業革命的性格なくしては実施し得ざるものであるからであります。当時わが国産業革命を回避いたしまして、満州事変から支那事変に入り、逐に太平洋戦争に突入したのでありますが、この間におきまする復古思想により、ますます封建的鎖国経済態勢を濃化いたしましたことは、これまた否定することのできない事実であります。しかるに戦後の民主化運動によつて労働体制は新たにされ、近代的産業平和への方途も試みられたのでありましたが、唇歯輔車の関係にあるはずの経済民主化は、最低賃金制度を拒否した特殊事情と同様の理由によつて阻止されたのであります。これが今日の経済危機に当面するに至らしめた要因でありまして、資本家政府の猛省を促さなければならないところであります。日本民主国家として、経済自立を達成しようとすれば、国際的責任を完全に果さなければならないことは申すまでもありません。国際経済は、民主主義的共通性に立脚して、国内的社会正義国際的社会正義が、表裏一体となることを必要としているのであります。この体制を整えないで国際市場に臨むことは許されません。しかも依然二十五年前の特殊事情を口実にして、最低賃金制度実施を遷延せんか、それは国際市場から孤立化し、貿易の道を遮断し、日本経済を破局に追い込む結果となるのであります。従つて、まず最低賃金制度実施して、労働資質において、労働生産性においても、国際水準に到達せしめることが、何よりも急務であります。日本産業当面の危機克服のため、はたまた将来の発展のためにも、最低賃金制度実施は刻下の緊急の課題であることは、以上申し上げた通りであります。昨年七月発表されました昭和二十八年度年次経済報告――一般には経済白書といわれているが、その結語において、「今や世界各国にほうはいとしてみなぎつている産業構造再編成の動向は、これを第二次産業革命とも名づけられるであろう。この機運に乗ることに失敗したならば、日本経済発展ひいては国民経済向上は停滞し、経済的のみならず社会的、政治的に深刻な苦悶に直面しなければならないであろう。」と警告しているのであります。ここに産業構造の再編成、あるいは第二次産業革命といつているのは、経営民主化労働生産組織化をさすものと解することができるのであります。白書はさらに続けて、「われわれは終戦以来八年、ひたすら生産量の回復に努めてきた間に、欧米においては復興の主眼を生産性向上に置いていた。米国ではその民間投資の四割を、古い設備の取かえと近代化に置いている。英国は産業の若返りに必死である。フランスのモネ・ブランは実は近代化の計画である。」と述べておるのであります。さらに「今やアジアの諸国は軽工業化によつて日本が過去にたどつて来た道を歩き初めた」と述べ、続けて「欧米、日本アジア雁行形態において、わが国は次第に中央から後の位置にずり下つている」と、重ねて日本産業危機がきわめて深刻であることを警告しておるのであります。産業近代化するためには、機械設備の改善を等閑視するわけには参りません。さりながら、日本経済事情は、欧米のごとくただちに多額の投資によつて機械設備を一新するなどは、望み得ないことは御案内の通りであります。しかし、眼前の危機は一刻たりとも看過することは許されません。今日ほど、産業政策労働政策の重要なるを痛感することはありません。  日本労働者の天性ともいうべき勤勉と才能を最大限に発揮させ、労働自主的創意発展せしめることによつて、わが足らざるを補い、当面するわが国経済危機を打開する以外に方途はありません。そのためにこそ、最低賃金制度は、基本的産業労働政策として実施しなければならないとかたく信ずるものであります。  以上簡単に、両法案を提案いたしました趣旨の御説明を申し上げましたが、次にこの法律案内容の概略について簡単に御説明いたしたいと存じます。  第一、この法律案は、前にも申しましたように、労働基準法に基いて、最低賃金の額その他これに関係いたします事項を規定することといたしているのであります。  第二は、最低賃金の額についてでありますが、その額を二十歳以上の者に月額八千円、十八歳以上同七千円、十五歳以上同六千円の三本建といたしました。これは、それぞれの年齢別労働能力に応じて、生活の基礎を確保せしめるためのものであります。  わが国現在の状態におきましては、十八歳とか二十歳などと最低賃金額を一本に規定いたしますと、その基準年齢以下の年少労働に混乱を惹起するおそれがあるからであります。たとえば、十八歳を基準といたしまして最低賃金額を定めますと、雇用が偏重したり、一定年齢の期間、賃金すえ置きの状態を現出したりいたしまして、その結果は、年少労働者に犠牲を転嫁することとなるのであります。本来この法案は、年少労働者保護資質向上に重点を置くものでありますから、これらの事態を重視いたしまして、それに生計費労働能力一般賃金水準企業支払い能力等を考慮いたしまして、三段階の年齢別最低賃金額を定めることとしたのであります。  次に、満二十歳を月額八千円と規定しました根拠でありますが、満二十歳といえば、すでに独立した生計を営む適齢期でありまして、精神的にも経済的にも、父兄の扶養を離れまして、独立しなければならない時期であります。また職場におきましても、一応独立した人格を認められ、生産に従事し、その労働能力も相当高度に達しているのであります。二十歳八千円の額は、労働生産性に対応した賃金水準でありまして、企業支払い能力をも十分に考慮された妥当なものであります。  ここに一例を、労働省昭和二十五年五月、学歴別初任給調査結果報告によつて、当時の年齢別初給賃金額を求め、これに昭和二十八年末の賃金指数をもつて計算すれば、二十歳が一万五百五十三円、十八歳が八千七百二十六円、十五歳が四千二百二十七円となります。なお十八歳七千円、十五歳六千円といたしましたのは、二十歳を基準とした労働力と比較してのものでありまして、次の時代の生産者として、その労働力保護育成することを考慮いたした次第であります。  第三は、賃金支払い方法についてでありますが、基本賃金が、月給、週給、日給または時給によつて定められている場合を勘案いたしまして、月額八千円に対し、一週千九百二十円、一日三百二十円とし、一時間につきましては四十円とする算定法式従つて、以下それぞれの額を定めることといたしました。  第四は、審議会についてでございますが、現行労働基準法中央賃金審議会を設けて、毎年少くとも一回、最低賃金額が適当であるかどうか、またその金額の変更を必要とするかいなか等について、労働大臣に報告及び勧告をする義務を負わせることにいたしました。  第五は、適用範囲でありますが、全国全産業の全労働者に及ぶことにしました。但し、国家及び地方公務員並びに公共企業及び地方公営企業労働者を、一応本法の適用から除外しましたが、右の労働者に対しましては、別に公務員法公企労法等の法規のうちに、本法の精神に基き、これと同一の最低賃金制実施せしめんとするものであります。  次に最低賃金保障金融公庫法案について、ごく簡単に内容の御説明をいたします。  本法案は、労働生産性高揚によつて企業支払い能力を確保し、労資の共存共栄目的としたものでありますことは、先ほど来たびたび申し述べた通りでありますから御理解いただけると思うのであります。しかし本制度が完全に、その機能を発揮いたしますまでには、過渡的措置を必要とするのであります。すなわち、これまで低賃金に依存し、労働生産性を無視して企業経営を続けて来た中小企業、その他の女子労働を主体とする企業等におきましては、過渡的に賃金支払い源の確保に困窮を来すものがあることは、当然想像されますので、このために最低賃金保障金融公庫法案を考えまして、最低賃金法案とあわせて提出した次第であります。  最低賃金保障金融公庫法案目的といたしまするところは、最低賃金支払いを確保するところにあるのであります。このために最低賃金保障金融公庫を設置することといたしたのでありますが、公庫の性格は法人とすることとし、その設立の手続等は、すべてそれに準ずることといたしました。公庫資本金は三百億円とし、昭和三十年度より三箇年にわたりまして、その全額を政府が出資することといたしたのであります。このほかに、労働者に毎月支払われる賃金の額に千分の四を乗じて得た額を、毎月労働者賃金から控除して積み立て、さらに使用者もそれと同額を積み立てて、これを運用資金に充てることとしたのであります。この積立金は、公庫がその使命を果したあかつきには、労働者及び使用者に返済することになつております。積立金制度を採用いたしましたゆえんのものは、労使ともに本制度確立の責任の一端を負担することによりまして、一日も早く完全なものにいたしたいからであります。すなわち、政府資金のみに依存して本制度が発足いたしますと、労使ともにこれに頼り過ぎて、本制度の眼目であります労働生産性高揚が急速に期待できなくなるからであります。最低賃金制度実施に対する政府の責任もさることながら、労働生産性高揚に対しては、労使自主的努力なくしては、これが達成は不可能であります。ゆえに、ここに両者の犠牲の負担と協力にまつこととしたのであります。なお、公庫存続期間を短期間といたしましたのは、この制度保障により、労働生産性高揚されまして、企業支払い能力が確保され、公庫がその使命を果すものと確信いたしているからであります。さらに、労使が平等の負担によつて制度の確立に協力いたしますことは、その反面におきまして、産業平和の思想が涵養されることになるのであります。このことは、決して過小評価してはならないことと思うのであります。  最近、資本家経営者、あるいは識者と称せられる人々が、西独、イギリス等労働事情を視察されて、日本のような苛烈な労働争議がない、労働者愛国心がみなぎり、産業興隆発達がすべてに優先していると報告されております。しかし、日本労働者もまた、愛国心において西独、イギリス等労働者に遅れをとるものとは断じて思いません。ただ遺憾なことは、日本労働者の多くは、生産における人格が認められず、雇い主に屈従を強要されておるために、せつかく愛国心生産に反映させることができない状態に置かれているのであります。言いかえれば、労使関係主従関係と考えるところの封建的観念が根強く、労働者生産の道具以下にしか評価されておりません。かかる体制のもとでは、旺盛な愛国心生産の上に発揮することはできないのであります。労働者生産性高揚は、まず労働者人格を暢達いたしまして、これを生産へ組織化するところに近代産業出発点がなければならないのであります。そのためにも、最低賃金制度を確立いたしまして、労働者最低限度生活保障し、社会的にはもちろん、生産におきましても、独立した人格者として処遇することを必要とするのであります。  以上、最低賃金法案及び最低賃金保障金融公庫法案の概略を御説明申し上げた次第でありますが、何とぞ産業国家的興隆という見地よりいたしまして、慎重御審議の上、本法案の成立に御協力賜わらんことを切に御願い申し上げる次第でございます。
  6. 赤松勇

    赤松委員長 持永委員から発言の通告がありますから、これを許します。持永君。
  7. 持永義夫

    持永委員 私は、ちよつと政府の方にお尋ねしたいと思います。ただいま提案されました最低賃金法案についてでありますが、中央賃金審議会において、ある職種については最低賃金制度を設けたらどうかというような意見があつたとか、あるいは結論が出たというようなことを新聞で拝見いたしましたが、事実その通りであるかどうか。それから、もし事実であるとするならば、その内容についてひとつ御説明願いたい。  それからもう一つは、ただいま提案になりました全般的の最低賃金制度自体に対して、政府の方ではどういうお考えを持つておられますか、それをお伺いいたします。
  8. 龜井光

    龜井政府委員 最低賃金につきましては、御承知のように、中央賃金審議会におきまして、昭和二十五年十一月以来三箇年余を経まして、慎重に審議をいたして参りましたところ、最近に至りまして一応の結論を得まして、近く二十一日に最終的な答申がなされる段取りになつておるわけであります。この答申の内容は、まだ最終的な決定になつておりませんので、私からここで詳しく申し上げることはいかがかと存じますが、一応従来の審議の経過におきまして、御意見のありました点を申し上げたいと考えます。  第十回中央賃金審議会におきまして、わが国におきまする最低賃金としましては、全産業を通じまする一本の最低賃金制実施することと、低賃金産業を主体としまする最低賃金制実施すること、この二本建で最低賃金制を考えて行くべきである、しかし現在のわが国経済の実情その他から見まして、今ただちに全産業を通じまする一本の最低賃金制制定しますことは時期が尚早であるので、とりあえず低賃金産業についての最低賃金制を考慮すべきであるという決定がなされたのであります。この決定に基きまして、中央賃金審議会におきまして、低賃金産業というものの種類をいかに把握するかということの御調査がありまして、その結果、絹人絹織物製造業、玉系座繰生糸製造業、家具建具製造業、手すき和紙製造業、この四業種につきまして最低賃金制をしく前提のもとに調査をすべきであるという結論に達しまして、この四業種についてそれぞれ専門審議会を設置しました。専門審議会委員が現地につきまして種々調査をいたしました結果、これらの四業種につきましての調査がまとまりましたので、そのまとまりました調査の結果をもちまして中央賃金審議会の答申の骨子といたしたのであります。  答申の内容としましては、とりあえずこの四つの業種につきまして最低賃金実施することが適当であると考えられる、しかし今後これらの業種は逐次拡大されるべき性格のものであるということが第一点。  第二点は、これらの四業種について最低賃金額を決定するにつきましては、もちろん労働者生活の水準を考慮しなければならぬが、一方また支払い能力というものも十分考慮して、その間に調整のある金額を決定すべきであるということと、さらにまた、その金額を決定するにあたりましては、地域別に、また業種別に、あるいは年齢別にそれぞれ各グループにおいてごく低賃金と認められる賃金を排除するような方策を樹立すべきであるということが第二点でございます。  第三点としましては、四つの業種について、それぞれ専門審議会調査をいたしましたが、その調査は、まだ地域的に見まして全国のすみずみにわたりましての調査がなされていない。従つて、さらにこれらの業種について全国的に漏れなく実態の調査をして、その実施の問題を取上げるべきであるという趣旨からいたしまして、地方賃金協議会、これは労使公益の三者構成の機関でございますが、この地方賃金協議会を設置いたしまして、それぞれ四業種についてさらに調査をいたす、そこにおいて最低賃金額というものの算出、並びにその算出されました最低賃金額のその地方産業に及ぼす影響、あるいは経営に及ぼす影響等を十分調査をすべきであるというのが第三点でございます。  第四点としましては、これらの四業種について最低賃金実施するについては、いろいろ企業支払い能力の面からいたしまして、政府としてなすべき施策がなさるべきである。それはいろいろこまかい問題はございまするが、大体金融的な措置、あるいは税制上の措置、あるいは中小企業の合理化の措置、いろいろな面におきまする政府の施策が要望として掲げられておるのでございます。  この四つの点からいたしまして、政府は、これらの四つの点を十分勘案して、すみやかに実行性のある最低賃金をこれら四業種について実施すべきであつて、それらの実現については、中央賃金審議会の議を聴取すべきであるという大体の筋書きになろうかと思うのであります。  これをもう少しわかりやすく御説明いたしますと、専門審議会では、まだ全国的な十分な調査がなされていないので、地方賃金協議会におきまして、それらの四業種についての実態の調査、あるいはどの程度の賃金額が最低賃金として適当であるかというふうなこと、並びにその影響等を十分調査をしまして、その調査労働大臣報告され、労働大臣がそれらの調査に基きましてその額を決定する場合に、中央賃金審議会にさらに諮つて額を決定して行くという大体の構想で答申がなされようとしておるところだと思うのであります。  なお、第二段で御質問のございました、ただいま御提案になつておりまする最低賃金法案、すなわち、全産業を通じまして一つの最低賃金制度実施しようということに対して、政府はどう考えるかという御質問でございますが、先ほど御説明申し上げました中央賃金審議会の第十回の議決の中にございますように、とりあえず低賃金産業最低賃金というものを考える。全産業を通じての一本の最低賃金は、その後において日本経済の実勢とにらみ合せながら考えて行こうという中央賃金審議会の御意向でございます。政府としましても、この御意向を尊重いたしまして最低賃金制を考えて参りたいというふうに考えております。     ―――――――――――――
  9. 赤松勇

    赤松委員長 次に労働基準法諸規則に関する件について調査を進めます。  本件につきまして、松竹労働組合大船分会委員長河野貞壽君、松竹労働組合大船分会書記今井健太郎君、以上二名の方が参考人として御出席になつておりますから御了承願います。  それでは参考人各位より順次御意見を聴取したしまして、後に質疑に入りたいと存じますから、御了承願います。まず河野貞壽君。
  10. 河野貞壽

    ○河野参考人 過般の改正の中に、女優、結髪、スクリプターというものの夜間作業の制限は撤廃したいというようなことが出ておりましたが、この点につきまして、組合側といたしましては、なぜそういうことをしなくちやいけないかという必然性が認められないという点で反対であります。と申しますのは、終戦前、映画産業というものは、時間的に非常にルーズでありまして、徹夜とか、そういうことを非常にやつておつたわけであります。ところが、基準法ができまして、ようやく普通の産業労働者のように正規に働けるということになつたわけです。これがはずされますと、また再び元のように夜間作業というものの連続で、何日間も徹夜で映画をつくつて行くというようなことになるのではないかという心配のために、反対いたすものでございます。たまたまこれに出されている理由に、駅とか公共の建物で、夜でなければ使えないということがあるので不便であるということが出ております。しかしこれは、やり方によつては昼間の駅でも夜のようにとることもできます。アメリカでは、駅とか建物とか、そういうものはすべて撮影所の中でやつてつて、表に出るなどというようなことはほとんどないということでございますが、現在の日本の撮影所の機構では、そういうことまで一気にできませんので、そういう点については、組合としても、映画をつくる者の芸術心といいますか、そういう面で多少悩みはあるわけでございます。ですから、組合側といたしましては、そういうものを一歩譲るといたしましても、ロケーシヨンとか、特にそういう夜間でなければ借りられないものに限つては、何か許可法があるということぐらいは一応考える余裕がございますけれども、全般的に女優、結髪スクリプターというものの深夜作業を撤廃するということについては全然反対でございます。
  11. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 これに関連して政府にちよつとお尋ねいたします。実は、本日の審議の中にも出て来ると思いますけれども、一応この機会に聞いておきたいのでありますが、この答申案で意見が出ております。諮問に賛成、但し、いろいろ留意して行うよう、こういうことになつておりますが、これは原則的に初めから賛成というような趣旨で答申をしたのですか、その点の経緯がわかりましたら、お知らせ願いたいと思います。
  12. 龜井光

    龜井政府委員 この問題につきましては、中央労働基準審議会におきましても、慎重な討議がなされたのでございますが、結論的には、現在の日本の撮影所の機構、構造、技術等から見まして、深夜業もやむを得ない実態にあるのではないか。但し、十二歳未満の年少者をいわゆる子役として使う場合におきましては、児童に対する健康福祉の問題からいたしまして、これには相当注意をいたさなければならぬのではないか。しかし、それかといつて、十二歳未満の児童を子役として深夜業に使うことを禁止することは、撮影全体のスケジュールの上から申しまして適切ではないので、十二歳未満の年少者の使用許可を与える際におきまして、それらのことを十分念頭に入れて、その許可を与えるか与えないかということを考慮すべきである。こういう希望条件がつきまして全員賛成をいたした次第であります。
  13. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 駅で深夜にとるという場合には、事実問題として現在どういう扱いをされているか、お尋ねいたしたいと思います。
  14. 龜井光

    龜井政府委員 現在も、女優、スクリプターあるいは結髪等の業務に従事しまする女子が深夜業をいたしまする実例は、承知をいたしておりますが、ただ、これを監督の作用で禁じますることが、映画の製作あるいは文化水準の向上というような面から、はたしてただちによいかどうかという問題がございます。内容調査いたしまするところ、深夜におきまして労働いたしましても、その実労働時間はごく短かいのでございまして、出待ち時間が長いというような現実もございまして、われわれとしては、違反であるが、しかし、これをただちに摘発しますることは、いろいろな点でさしさわりがあるりで、実は大目に見ておると申しまするか、率直に申し上げれば、そういう現状にあるのでございます。
  15. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 その大目に見ておるということには、いろいろ問題がありますが、要するに、その運営においては、ある限界があると思うのですが、その基準は現在どういうようになつておりますか。
  16. 龜井光

    龜井政府委員 特別の基準というのを監督の方針の中に織り込んではいないのでございまして、結局その現場におきまする実労働時間等を監督官が十分検討いたした後におきまして、先ほど申し上げましたような処置をいたしておるのでございます。画一的な特別な基準は、まだ設定をいたしておりません。
  17. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 これを諮問に出されて、しかも十二歳以下の年少者を使う場合の使用許可に留意をするように、こういう以外は、大体全面的に賛成のようですが、この条項がはずれて来ますと、今参考人からも御意見がありましたように、全面的にくずれて来る、かように考えられるわけです。ことに、映画は深夜業もできる、こういうことの根拠は、どういうところから出ているのか、お尋ねいたしたい。
  18. 龜井光

    龜井政府委員 法律上の根拠は、法律の六十二条第四項にございまして、中央労働基準審議会が議決をして、省令で規定をいたしますれば、法律的な根拠は出て来るわけであります。そのほかの根拠と申しますると、どういう根拠をお尋ねしておられますか、ちよとわかりにくいと思います。
  19. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 現在でも二本立とか三本立とかのたびに、早どりをやつておる現状であります。しかも割合にわがままのきく大幹部というのは、雇用契約でないわけであります。女優でも全部自由契約になつておる。ですから、ここに女子の深夜業という場合において、普通の女優を考えるわけにはいかない。むしろ下つば、と言つては語弊がありますが、下つぱの女優さんであり、低賃金の女優さんなんです。こういう人たちが対象になると思う。ですから、その前に留意しなければならないことは、もしもこれを原則的に認めるということになりますと、ますます深夜業が行われる、こういうことになるわけです。これに対して、労働省の方では、この答申案が出ておりますが、何かここに基準を設けて、その分だけを許可する、こういうような考え方はないのかどうか、これをお尋ねいたしたいと思います。
  20. 龜井光

    龜井政府委員 われわれといたしましては、そういう問題もあわせて今検討いたしておるところでございまして、まだそれに対する結論が出ていないのでございまして、その点についてのお答えを適切に申し上げるまでには、まだ至つていない次第でございます
  21. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 どうしても夜でなければとれないような場合、これはわれわれといたしましても、確かにわかるわけです。もつとも、アメリカの例をお話になりましたが、これは経済事情関係がありますので、一概には言えませんけれども、どうしても深夜業でなくてはとり得ない場合、これはわかると思います。これを全面的に撤廃する、こういうことは、どうもほかとの関連においても考えられないのじやないか、私はかように考えるわけです。何もその日にしなくても、次の日でもできるわけですから、そういう線がぐずれるということになりますと、私は非常に困つたものだと思うのです。その点で、従来の取扱いを施行規則において明記する、こういうことがいいのじやないか、かように思うのですが、どうですか。
  22. 龜井光

    龜井政府委員 お話の御趣旨は、ロケーシヨンの場合とセツトの中で撮影する場合の両方――特にロケーシヨンはやむを得ないが、セツトの場合は少し行き過ぎじやないかというような御意見だと私も思うのですが、この問題も、先ほど申し上げましたように、いろいろ実情を調査いたし、検討しておる段階でございまして、まだ結論は得ていません。適切なお答えができませんことをお許し願います。
  23. 島上善五郎

    ○島上委員 参考人にちよつと伺いたいのですが、ロケーシヨン等で、深夜でなければ絶対できないという場合が、非常に多いものかどうか。きわめてまれで、その他は深夜でなくてもやれるものかどうかを承りたい。
  24. 河野貞壽

    ○河野参考人 お答えいたします。松竹で大体年間六十本余をつくつております。その中で、夜の駅とかということで特にやつたのは二、三本のように思います。それから公共建物というようなもので、夜でなければ明かない、劇場なんかの場合がございますけれども、これは金さえ出せば昼間でもできるわけですが、その費用のために、夜、はねてからやるということもございますけれども、そういう場合も映画全体の六十本を通じて、ほんの数本であるというのが実情でございます。
  25. 島上善五郎

    ○島上委員 それから、もしこのように改正をいたしますと、各映画会社は、早くつくり上げようと競争がはげしくなる。今日でもはげしいと思いますが、その結果、今まで夜でなくとも撮影できた仕事を、無理をして夜にどんどんやるようになる。そういう弊害が非常に多くなつて来るのじやないかと私ども想像するのです。ロケーシヨンに限らず、セツトの場合でも、そういうような弊害が非常に多くなつて来るのではないか、こう心配するのですが、その点はどのようにお考えになりますか。
  26. 河野貞壽

    ○河野参考人 その点を私は一番心配しているわけです。特にロケーシヨンなり公共建物のことが出ましたけれども、これが撤廃されますと、今まで四十日くらいでやつておりましたものが、おそらく三十日あるいは二十何日と、昔のように徹夜々々の連続でやつて行くということになるのは、火を見るよりも明らかではないかと思つて、組合では一番心配しているところであります。
  27. 赤松勇

    赤松委員長 他に御質疑はありませんか。――なおこの際参考人の方から、先般各委員諸君にいろいろ陳情いただきましたような諸点について御意見がありましたら、どうぞ。
  28. 河野貞壽

    ○河野参考人 まとまつたことは申されませんけれども、映画に働く労働者といたしまして、これが撤廃されますと、女優から結髪、スクリプターというものは、先ほどもくどく申し上げましたように、どんどん深夜作業になつて行くといいうことは必至でございます。今までそういうことがありますために、ロケーシヨンに限つては一応黙認していただいてやつている、また撮影の仕方も、そういうために映画のストーリーなんか考えてやる。徹夜ということになりますと、一応女優はやめて、男子の場合だけ許された時間だけやるということでつくつておりましたけれども、これが撤廃されることになりますと、全部徹夜を続けて、短かい時間で本数を上げて行くということに必至的になることを非常に心配しますので、そういう点を十分考慮していただいて、審議していただきたいと思います。
  29. 赤松勇

    赤松委員長 今井参考人から何か御意見はございませんか。
  30. 今井健太郎

    ○今井参考人 一言言わせていただきます。私職業が俳優の端くれなんで、俳優の事情というものをよく承知しておりますので、そういう面から説明したいと思います。  俳優と申しましても、ピンからキリまでございまして、最低は五千円から最高は何百万円の俳優がおるわけです。そのうち女優に関しましても、これは男子より以上の価値があると会社からも認められて、相当な出演料をもらつている方もありますが、今申し上げたように五千円くらいな賃金でやつている人もおるわけです。ところが、たくさんもらつている女優というのは、やはり会社がたいへん重く見ているので、わがままがきくわけです。たとえば駅などで徹夜をやつた、疲れたから明日休ませろと言うと、大体自由がきくわけです。そういうわがままというものと、会社のずさんなスケジユールというものが重なつて、いわゆる下つぱの女優さんたちがたいへん苦労しておる、こういう事情がある。それから、たとえば一つの作品に女優として役がついて出演しておりますと、その間、たとえば生理的現象を来す、生理休暇をとりたいと思つても、その人が休むために作品がストツプするから、とにかくやつてくれということで、作品ができ上つてから寝込んでしまうというようなことがあるわけです。  それから、もう全面的に女子の深夜業ができるようになりまして、女優さんがフルに働かされるということになりますと、現在普通作品で約三十日から四十日という日数を、徹夜その他を行わせることによつて二十五、六日に短縮できるのではないか、こういうふうに考えます。そうしますと、有給休暇はもちろんくれないし、基準局の方が言われましたように、何かあいまいに現在の会社の労務担当の方と基準局の方とが黙認みたいな形で何かなされているということを、われわれはうすうす感じているし、それに不満を感ずるわけです。そういうやみ取引が日常茶飯事のごとく行われるのではないか、こういうふうにも考えているわけです。  それから、女優というものが一人おりますと、必ず主任の結髪が一人ついているわけです。これはむしろスターというもの、役持ちを中心にしておりますが、この結髪は下つぱの女優さんの方もやらなければならない。従つて、女優のあるところ必ず結髪がついているわけです。そして撮影現場というものは、休憩ができるところばかりときまつておりませんので、たとえば駅などというところは、たいへん限られておるところで、プラツトホームのところに長時間立つて労働している。特にこれがしげく及んだ場合には、男子についてもそうでありますが、女子の場合には、たいへん疲労があることは常識であると考えるわけです。  それから現在松竹にはスクリプターというものの中に、女子はおりませんけれども、これは他社のシステムと違うので、実際には俳優とそれから結髪というふうになつているわけです。もう少し詳しく申し上げますと、こういう実例があるわけです。もしこれが完全に摘発されるということになりますと、われわれの方にも責任があると思いますが、十時以降は、賃金は支払つておるけれども、やみで落している。従つて組合と会社とが締結している労働協定というものが、女子の場合には全然違反がない。これは全部やみでやられているので違反がないのであつて、実際にはやつているのが現状なんです。  もう一つは、会社のスケジユールという点で、たとえば男子の場合には引続き十九時間やるというふうに協定がなされているわけですが、これも、一人の人が引続いてやつているということが多いので、人間の配置という点を会社がもう少し慎重にやつたならば、そういう協定のオーバーその他も防げると思うので、当然女子の場合にもそういうことが適用できるのではないかと思います。  こういう席には初めてですから、たいへんずさんな説明ですが、何かそちらの方から引出していただけば、適切な御説明ができるのではないかと思います。その点を一つ御理解くださつて、何か引出していただけば御説明いたします。
  31. 赤松勇

    赤松委員長 何か引出してください。――この間撮影所の方の調査にも参りましたから、委員諸君も大分よく知つておられると思います。基準局長も、いろいろな参考人の意見等も十分参考にされまして、御考慮願いたいと思いますが、何か御発言ございましたらひとつ……。
  32. 龜井光

    龜井政府委員 先ほど申し上げましたように、慎重に研究いたします。
  33. 赤松勇

    赤松委員長 それではできる限りその陳情の趣旨に沿うように御努力をお願いしたいと思います。どうも御苦労さまでした。     ―――――――――――――
  34. 赤松勇

    赤松委員長 この際お諮りいたします。ただいま調査中の労働基準法諸規則に関する件について、東京都職労清掃支部長菅原正松君より参考人として意見を聴取したいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  35. 赤松勇

    赤松委員長 御異議なしと認め、さよう決します。菅原君。
  36. 菅原正松

    ○菅原参考人 東京都職労の菅原でございます。  今回女子年少者労働基準規則の第十三条第五十三号の改正によつて、従前女子年少者を就業させてはならないという項の中に「焼却、清掃又は屠殺の業務」というのがあつたわけでございますが、これの改正が企図されておるということを聞きましたので、要請を申し上げたわけでございます。  これに対しましては、清掃事業に携わる従事員としては反対をしなければならない。その理由としては、大体清掃という言葉あるいは字句から起る連想としては、ぞうきんを持つたり、あるいはほうきを持つたり、その他部屋の掃除、庭先の掃除といつたようなことが連想されまして、これは年少者であつても就業できるのではないかということが考えられたのではないかと思います。ところで、実態を申し上げますと、そういうことも一部にはありましようけれども、大きな都市なんかにおいては特にそうでありますが、決して清掃という仕事は、そのような軽労働ではなくて、まず汚物の定義としていわれておりますものは糞尿、灰燼、塵芥、あるいは犬とか、ねことか、ねずみ等の死体、こういうものが定義されております。これらを処理いたしますために、どのようなことがなされておるかと申しますと、まず塵芥の場合におきましては、おおむね手車に積みまして、これを一定の場所で自動車あるいは船舶に積み込む、こういうことでその手車の目方が九十貫、夏場になりまして非常に排出量が多くなつて参るということになりますと百貫以上の荷物になる。それを坂路あるいは悪路、また距離にいたしましても相当遠い距離を扱い場に運搬するということ。それらの糞尿にいたしますと、まずおけでもつてくみとりをいたすわけでございますが、このおけの目方が、二本で一荷といわれておりまして、一荷の目方が二十五貫ほどございます。そういうものを一日中かついで歩きまわるわけでございますから、これは完全なほんとうに頑健な成人した人であつてもなかなか容易じやない、しろうとが飛び込んで仕事をやろうとして、先般――一つの例を申し上げまするが、大田のある出張所の方で、臨時に採用されました方が――もちろん十八歳以上でございますけれども、ふなれなために坂路でもつて荷を積んだ車で押されまして、そうして死亡したというようなこともございます。そういうような観点に立ちますと、とうていこの仕事は十八歳以下の年少者であつてはできる仕事ではなかろうということから、組合側としてはこれを反対しなければならぬ。それからまた、この軽労働にみなされました――賃金関係その他加配米というものは、従前重労働であるという建前に立つて認められて来ましたものが、この業務を年少者もやれるんだということになりますと、そういう面にまで大きく影響して、事業の推進にたいへんな悪影響をもたらして来るのではないかということによりまして反対をしなければならぬということで、御要請申し上げるわけでございます。
  37. 赤松勇

    赤松委員長 参考人に何か質疑はございませんか。
  38. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 参考人にお尋ねいたしますが、都の方に清掃部というものがあると思うのですが、その中で糞尿なら糞尿をやる人は固定しているのですか、それともきようは糞尿をやつて、あすは塵芥と、こういうような作業につく場合もあるかどうか、これをお尋ねいたしたいと思います。
  39. 菅原正松

    ○菅原参考人 その点は大体そのような場合も多少ありますけれども、作業の実態からしまして、糞尿あるいは塵芥というものは固定してわかれております。わかれまして、毎日同じ業務に従事しておる、こういうのが実態でございます。
  40. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 清掃の中には、何と何があるのでしようか、あなたの方で知つておられる範囲でですね。
  41. 菅原正松

    ○菅原参考人 清掃としましては、塵芥を処理いたしまするところの作業がまずございます。各戸から収集して、それを手車に積んで自動車に納めてこれを一定の処理場に運搬する。また焼却作業といつて、この塵芥を焼却炉に入れまして、そうして焼却しておるというその担当もあるわけでございます。それから湿地の穴埋めですね。なま埋めといつて、くぼ地を獲得しまして、そこへ運搬してこれを処理するという埋立て作業もございますし、これをまた敷きならしておるところの従事員もございます。それから糞尿の処理につきましては、これを各戸からひしやく、おけでもつてくみとりまして、これをタンク自動車に積みかえまして、そうして船舶、自動車で農村に直送しておる面もありまするし、また扱い場に出しまして大きな船舶に積みかえて海洋投棄をいたしておる面もございます。また砂町の方には消化槽といつて、屎尿を消化しまして腐敗醗酵させてこれを処理するということをしておるところもございます。そういつたようなことでございまして、またあとは灰燼でございますが、もえがらを処理すること、これは灰の処理ですが、こういうものもあるわけでございます。それから船舶の修理、自動車の修理というものもございますし、これらの機材をつくるところの工場等もあります。こういうのが大体の概要でございます。
  42. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 基準局長にお尋ねいたしますが、この清掃というのは、正確にいうと業種の種類としては、どういう仕事が入るわけですか。
  43. 龜井光

    龜井政府委員 この清掃の範囲としましては、ただいま参考人から御説明のございました地方公共団体の行いまする清掃事業、これは全部入ります。そのほかに会社、工場等において行いまするいわゆる清掃の業務――これは工場の清掃をする。その他あるいはデパートあるいはビルの窓ふき、こういうものが大体典型的なものでございます。
  44. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 今参考人からもお話がありましたように、二十五貫もあるものをさげて行くのだ、こういうことでしたが、そういうものを削除したいという諮問を出されておるわけですが、そういう場合はどこで規制するのですか。重量運搬の規制ですか。
  45. 龜井光

    龜井政府委員 重量物を取扱います場合におきましては、女子年少者労働基準規則のうちの重量物制限によりまして、当然制限を受けるわけでございます。従いまして、ここで清掃をかりにはずすといたしまして、年少労働者が従事し得ますものは、その重量物の制限の範囲内におきまして補助的な業務というふうなことになろうかと考えております。
  46. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 今の塵芥とか糞尿とかの処理は、やはり焼却と同じような衛生的な考慮、この要素は含んでおると思いますが、その点をどういうふうにお考えですか。
  47. 龜井光

    龜井政府委員 もちろん衛生的な部面もございます。ただ清掃という業務の範囲は非常に広汎でございまして、ただいま参考人のお話のように重量物を取扱いますものについては、われわれとしても十分研究をいたしたい、かように思うのでございますが、そのほかにも純軽労働の清掃業務もあるわけでございまして、そういうふうなものまで十八歳未満の年少者の職場を狭めることがいいかどうかということについては、審議会でも十分検討されたのでございまして、その結果は、焼却は人体焼却を含んでおるので、これはいろいろ福祉の面からいつで適当でないので、これを削除することには反対であるが、清掃はその業務の範囲が非常に広い。先ほど申し上げましたように、純軽労働的なものもこの中に相当含まれておるので、これを一括して現行のままにすることは、多少適当でないのではなかろうかという意見でございます。
  48. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 そうしますと、この諮問に対する答申の意見としても、清掃については範囲が広いので、そのある部分だけはやはり現行のままにしなければならぬ、こういう含みがあるわけですか。
  49. 龜井光

    龜井政府委員 答申そのものの中には、そういう含みはございません。清掃は全部はずしてよろしい、しかしそこにはおのずから重量物制限の制約を受けますので、その範囲内においてならは認めてもさしつかえないのではないかという意見でございます。
  50. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 重量物制限の方はわかるわけですが、やはり焼却を除いたという、焼却を、要するに現行のままにしたということは、この中には福祉的な面があるからというのですが、今お話のありました塵芥とか糞尿の処理ということになりますと、やはり単に重量物の関係だけでなくて福祉的な、衛生的な面があると思うのですが、この点についてはどういうようにお考えですか。
  51. 龜井光

    龜井政府委員 審議会の御議論の中におきましては、焼却は先ほども申し上げましたように人体焼却を含みまするために、明らかに福祉の問題に直結するのではないか。しかし、清掃については、いわゆる人体焼却に比べれば衛生、福祉という問題から見まして、それほどウエートを置かなければならぬものでもないのではないかという御議論のように私は聞いております。
  52. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 局長はどうなのですか。
  53. 龜井光

    龜井政府委員 ただいま参考人の御意見もございまして、われわれとして十分検討さしていただきたいと思います。
  54. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 参考人の方は、主として重量物の点を非常に強調されておりましたが、むしろ重量物の方は重量運搬の方で当然禁止されるのだ、こういう答弁をされると思うのです。そこで、これは衛生的な面の要素が相当入つておる。重量物だけであれば、初め書くときに、重量物だからというので清掃は除いたはずだが、清掃をわざわざ有害業務の中に入れたという趣旨は、これは焼却と同じように、非常に非衛生的な面があるから入れた――どうもその辺の議論は、あまりされていないようですが、やはりこの点を十分考慮する必要があるのではなかろうか。やはり年少者に糞尿あるいは塵芥の処理をやらすということ自体に、非常に問題があると思うのです。ですから、清掃についても、糞尿、塵芥についてはどの過程で取扱うかという問題もありましよう、しかし非衛生的な面をやはり考慮される必要はないだろうか、かように考えるわけですが、その点について御意見を伺いたい。
  55. 龜井光

    龜井政府委員 御意見のありまするところは、十分参考といたしまして検討させていただきます。
  56. 赤松勇

    赤松委員長 他に御質疑はありませんか。
  57. 井堀繁雄

    井堀委員 参考人にちよつとお尋ねいたします。現在東京都公営のくみとり作業に、もし青少年を雇用するようなことが許されるようになりますと、一体どういうところへ使われるようになるでしようか、ひとつ御説明を願いたいと思います。
  58. 菅原正松

    ○菅原参考人 ただいまの御質問でございますが、これは十八歳未満でも採用してやらせることができるということになりますと、公共団体であつて、会社その他と違つて、利潤を追求するような営利会社ではないといいながら、今財政難を言われておりますので、やはり安く使おうということから、これを採用して来るのではないかというようなことが考えられるのです。そこで、どのような面に採用して来るかと考えますと、やはり清掃の中で多少重量関係の重いところにでなく、そうでない面にあるいは入れて来るのではないか。  それから先ほどお話がございましたが、私の先ほど来申し上げましたことに多少附加しておきたいと思いますことは、衛生的な面が非常に大きいのでございます。成人した者であつても、かなり伝染病の危険にさらされながら、あるいは病院であつても、どのような危険な伝染病の発生された家庭の塵芥あるいは糞尿にいたしましても、どうしてもこれを片づけに行かなければならない、こういうことが言われます。これは普通の人であれば、最初なんかは御飯も何も食べられないというほどの状態にあるわけです。ことに病院あるいは伝染病の発生の家庭なんかに行つた場合におきましては、これを忌みきらつてやらないわけに行きません、それを必ずやらなければならない。そういう場合に、成人した人でさえも容易でないのに、年少者にこれをやらせることになると大きな影響があるのではないかということが考えられるわけであります。それから先ほどの御質問のように、どのようなところに採用して来るかわかりませんけれども、財政難ということがしばしば言われておりますので、何としても年少者を入れて財政支出を防ごうという関係から、そういうような採用をして来るのではないか。そうしますと、年少者に対しても、これは人道上の問題からしても、組合としては捨てておけないということが考えられるわけであります。
  59. 井堀繁雄

    井堀委員 基準局長にちよつとお尋ねいたします。今参考人のお話にもありましたようにこの諮問事項がもし実施に入ることになりますと、清掃事業に青少年労働者雇用されるということになるわけです。元来東京都でも、まだ水洗便所になつているところはきわめて狭い範囲のことで、くみとりによる清掃は将来相当続くものと見なければならぬ。予算の関係からできるだけ低賃金の者を雇用するという傾向はわかりますが、それよりももつと問題になるのは、今のように住宅を間に合せ的な、しかも狭い場所にどんどん建築しておる、便所の設置場所なんというものは、くみとりを考慮する余裕のないような事情がどんどん起つて来ておることであります。そういう場合に、実際上の問題としては、少年労働者に、重労働ではなくて、ああいうものに関係させると、くみとりのような狭い所をくぐらせてくみ出しなどに雇用しがちになるということは、今までの例にたくさんあるわけであります。これはいろいろな意味で重要なことで、先ほど伝染病の例が出ておりますけれども、そういう問題だけでなくて、今日厚生省の何か食糧検査の際にも大腸菌の問題がたくさん出て来る。これはもう今日のくみとりにまつわる下肥に関係する広い範囲で、いろいろ問題を起しておるわけであります。伝染病に限らぬでも、当然大腸菌と少年の場合を考えても、できだけ少年労働保護するという立場から、そういう危険な場所へ雇用させなくても、労働者の場合、たくさん労働人口がふえておるわけでありますから、それでなければできないというような仕事ではなくて、それをやらせると非常に便利だということはあるかもしれない、こういうような関係を考慮されておいでかどうか、この点についてひとつ局長に伺つておきたいと思います。
  60. 龜井光

    龜井政府委員 先ほども多賀谷委員の御質問にお答えいたしましたように、この清掃の事業は十八歳未満の者でなければできないという事業ではございませんし、それによりまして多少なりとも年少労働者の衛生あるいは福祉に有害であるというふうなことになりますれば、われわれとしましても、十分慎重にこの問題は取扱わなければならぬというふうに考えておる次第でございます。ただ問題は、職場の範囲を拡大するという一つの雇用政策上の要請と、それから年少者の今の福祉の問題と両方の調和をどこで見合せるかというところに、問題があろうと思うのであります。御意見のありまするところを十分に考慮いたしまして、研究させていただきたいと思います。
  61. 井堀繁雄

    井堀委員 今の御答弁で了解できますが、念のために希望申し上げるのであります。少年労働者雇用を拡大するということは、二面には切実な要求になつて来ておる。しかし全体の労働政策の上から判断すると、特に保護行政の上からいたしますると、少年労働者でなければやれない、あるいは少年労働者を通じて、将来生産者として、その期間をそういう作業を通じて経験あるいは技術を修得させるといつたような場合を除く以外は、なるべく成年労働によつて雇用面を拡大して行くという行き方の方が実際的ではないかとわれわれは判断しておるわけです。そういう事情からいたしまして、この種の規則の改正はできるだけ範囲を縮めて行くという行き方が望ましいのじやないかと思う。そういう意味で、今まで御答弁を伺つておりますと、雇用の問題に相当気を配つておいでのようでございますが、そういう点はむしろ逆に、もつと徹底した年少労働保護の方が優先され、雇用の窓口は成年労働に割愛するという行き方の方が、日本の現状から判断して、特に保護行政の必要な現状から判断して、そう行くべきではないかと思うのですが、年少労働者及び女子労働者の保護の立場にある監督局長としてのこういうものに対する見解を、この際はつきり伺つておきたい。
  62. 龜井光

    龜井政府委員 職場拡大という雇用政策の問題と、年少者の保護という問題との調和点をどこに見出すかという点が、われわれとして考慮の対象になつておるのだというふうに先ほど御説明申し上げましたが、言うまでもなく、労働基準行政の目的は、雇用政策ではございません、あくまでも労働者保護でございますから、その調和点を見出すと申しましても、その保護が優先いたしますことは、当然なことではないかというふうに私は考えております。
  63. 島上善五郎

    ○島上委員 菅原参考人に一、二お伺いしたいと思います。都の清掃をやつておる仕事を私ども外部から見ておりますと、非常に非衛生的な面が多い。そういう意味においても、年少労働者には不適当だ、こう考えておりますが、現にあの清掃の非衛生的な業務をしておるために起つたと思われるような労働者の衛生上の問題、たとえば伝染病にかかるとか、胸部疾患の者が多いとか、あるいは入梅中の長雨のときなども、普通の労働者ならば、雨が降れば休むというときに、かえつて仕事をしなければならぬ。夏季の非常に暑い炎天下にあつてもやはり同様、よけい仕事の量がふえて労働しなければならぬというようなことが原因して、他の労働者に比べて病気が多いというようなことが想像されるのですが、直接携わつているあなた方が、具体的に説明できるような事実がございましたら、ひとつ承りたいと思います。
  64. 菅原正松

    ○菅原参考人 清掃の業務は、何といいましても、特殊業務といわれております。そこで、これが行政面からいいましても、各都市とも共通の悩みといわれておるほど、清掃行政というものはむずかしいといわれております。というのは、御承知の通り、業務内容というものが、人様から非常に嫌悪されるような状態にあるし、それから不健康な仕事である、また屋外労働である。どのような暑い日でも、アスフアルトが溶けて流れるような日であつても、毎日出なければならぬ。それから冬場になりまして、あるいは入梅の時期になつて、毎日のように雨が降つて、その中でもカツパを着て、そうしてあの重い荷を引くというようなことであります。それをやりませんと、やはり毎日々々同じように生活した残滓が残つて排出されるものですから、これを一日たりとも怠つたのでは、屎尿、塵芥がどこにも行かない、必ず自分の肩にかかるということから、休めば休むほど荷がたまつて難儀をするということから、非常に疲れるわけです。そこで、交通機関のような例を申しますと、交通機関が事故を起して、きようとまつた。あすまでそのきようのお客さんは残つておらないで、きれいさつぱりとあすは新しいお客さんです。ところが清掃の場合は、きよう休みますと、きようの分の荷があすにたまる。そこで二倍の難儀をしなければならぬ、こういうのが実態であります。そういう関係で、非常に激労働であるというので、疲れが出て来て病気になる。欠勤いたしますと、上司の方から迎えに行つたり、どうしたのだといつて、なまけものくらいに見られるというおそれもある。また伝染病の関係、これとても、まず淘汰されたというか、弱い者は全然勤まりませんから、非常に丈夫な者だけが今残つているということでもありましようが、それでさえも、その激労働と非衛生から来る死亡率が非常に高い。これははつきりここで統計的に申し上げられませんけれども、結核の関係も多くありますし、また死亡率も相当高いのでございます。そういうふうなことで、なまやさしい仕事ではないということは、はつきりと実証することができるだろうと思います。
  65. 島上善五郎

    ○島上委員 たしか深川の枝川だと思いましたが、塵芥を焼却するところがあります。あそこへ焼却の塵芥を積んだトラツクが出入りするときに、消毒しているようですが、あの消毒が完全に行われておれば、従業員に不健康なこともなかろうと思いますけれども、私どもしろうとが考えますと、あのことのために病気にかかる率が普通の労働者より高いのではないかということが心配されるわけです。ああいう塵芥焼却場に働くことによつて、伝染病にかかつた、あるいは伝染病とまで行かぬでも、病気にかかる率が多くて、病気欠勤の率が多いというような事実がございましようか。
  66. 菅原正松

    ○菅原参考人 東京都から排出された塵芥の量は、一日約六十七万貫くらい出ております。そのうち焼却あるいは穴埋め、いろいろやつておりますが、深川の枝川作業場は、その排出される量の大半をあそこで処理しているというのが現状でございます。焼却炉の設備があまりありませんので、露天焼きをやつているという実態、それから焼かないものは流し、炭カラを運んでそこに覆土している。そこで住民の方からのいろいろな反対要請もありますし、作業員もまた衛生的な関係もありますので、これを消毒しておりますが、十分完全とは言えない。一日何十万貫もあそこに入りますので、それを完全に消毒ということはとうていおぼつかないのでありまして、都内では相当伝染病も全体的は発生いたしましようと思うのですが、それから発生するはえとか、いろいろありまして、作業員としても、そういうことを恐れておつたのでは、仕事にも何にもなりませんので、どのような事態が起りましても、一日も欠かすことはできないというので、そういう伝染病の罹患の危険がありましても、それを顧みる余裕がないということがまず実態ではないかということでございます。
  67. 赤松勇

    赤松委員長 他に御質疑ございませんか。――菅原君、何かほかに御発言ございませんか。
  68. 菅原正松

    ○菅原参考人 陳述申し上げましたのですが、希望といたしましては、各都市の方も同様だと思いますが、年少者で清掃ができるというのは、まずほんとうの部屋の掃除とか、あるいは工場等の庭の掃除とかぞうきんだとか、ちりたたきとか、あるいはほうき等でやれる仕事ならいざ知らず、東京都の場合におきましては、年少者でてきるところの清掃という仕事は、まず私どもとしては見当らないのでございます。そういう意味合いにおきまして、事務的な補助の方は別といたしまして、現実に現場に携わる現業員の場合におきましては、とうてい十八歳以下の年少者であつては勤まるような仕事は見当らないということでございますので、これを一律に――十八歳以下の職場を拡大するということはよくわかりますけれども、清掃事業にこれを採用して来るというおそれが多分にありますので、この面について十分なる考慮を払われまして、そういうことの弊害の起らないように、ぜひともこの際していただきたい、かように考えております。
  69. 赤松勇

    赤松委員長 それではこの点につきましても、なお後ほどいろいろ審議するといたしまして、どうでございましようか、もう一時近くになりましたから、休憩しまして、この次札幌市電の問題と、それからやはりきようの規則の問題を続行いたしますが、規則改正といいますか、とにかくこの規則の問題の審議につきまして、労・使・公益の一致した意見の箇所だけは、この前基準局長から御説明願つたわけです。あとまだ残つておると思いますが、審議の能率を上げる意味におきまして、ひとつ各委員の方々から特に重要だと思うところを委員長の手元まで出していただきまして、この次の委員会ではそれを重点的にやつて行きたい、こういうように考えます。もう会期もあと幾らもございませんから、さようとりはからいたいと思いますが、よろしゆうございますか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  70. 赤松勇

    赤松委員長 それでは暫時休憩いたします。     午後零時四十三分休憩      ――――◇―――――     〔休憩後は開会に至らなかつた〕