○松田参考人 女の記者にも深夜業をさせるようにという
改正の要望書を、前に婦人記者会から出したのでございますけれ
ども、これは全婦人記者の総意ではなか
つたという意味で、私
どもそれを取消したいと思いまして、今方々にお願いに上
つておるのでございます。
この要望書を出してときは——婦人記者会というものの性格を少しお話しないとわかりませんけれ
ども、非常に懇談的な会であ
つたものですから、そこで突然こういう話が出ましたら、みんなが男女同権という言葉の魔術にかか
つてしまいまして、大いに賛成したわけでございますけれ
ども、よく考えてみましたら、男女同権という言葉は、ほんとうはそういうところから来るのではなくて、私たちがまず何よりも女であるという立場に立
つたならば、これは大きな問題だというので、みんなの
意見を聴取してみましたところが、日本婦人記者会の会員というのが東京中に八十名ほどございます、そのうち回答を寄せましたもの全部を集計してみますと、深夜業につきたくない、深夜業のわくをはずすことに反対するという
意見を五十二名が寄せました。そして
あとの十四人だけが、深夜業のわくをはずしてほしいという要望でございました。
あとの四人は棄権をしております。
考えてみますと、この十四人の
人たちは、ある意味からいいますと非常なパイオニアで、私たちの分野を切り開いていらした非常に優秀な方なんですけれ
ども、すでにお母さんになる資格をなくしていらつしやる方なものですから、ほんとうに女の体というものを考えてくださらないことから出て来た結果だ
つたのでございます。ところが今うしろに続いております大勢の、五十二名の若い女性の
人たちは、将来母にもなる人ですし、また今奥さんである人もございますので、もしそういうふうに深夜業が許可されることになりますと、たいへんな問題になるというわけなんであります。御
承知のように頭も使いますし、からだも使いますし、そういう場合に、一日おきとか二日おきにもし深夜業をさせられるようなことがありますと、とても男の人のからだにはかないませんから、徐々に女の人をできないところに追い詰めて行くのではないかという危惧があるのでございます。現に英文タイプライターをや
つております婦人記者などは、三日に一度ずつ交代に深夜業をしておりますけれ
ども、その場合でも、非常にからだが疲れる。そうなると、男の人がかわ
つてやらなければならない。すると、男の人にも
労働過重になるし、また資本家の方では、そんなくたびれる女だ
つたら、同じ
条件ならば若い男を使おうというふうに、やはり男にかえられるという危険が非常にあるのであります。私は、そういう意味の深夜業ですと、ほんとうに女の人の職場を広めることには決してならないと思いまして、きようお願いに上
つたわけなのでございます。
それからもう一つは、婦人記者の仕事というのは、御
承知のように、決して女でなければできないという仕事ではないのです、男の人だ
つて十分にできます。ことに家庭記事なんかですと、男の人は非常に興味があるようで、私
どもがなれて、少しも珍しくないような記事でも、男の人は興味を持ちますから、かえて男の人の方がいいくらいなんでございます。その狭いところを、私
どもとにかく深夜業をしてでも——私もずいぶん深夜業をして参りましたけれ
ども、特別の手当ももらわないで、ただ仕事の情熱だけで仕事をして参りまして、せつかく狭い道を男の間をわけて開いて通
つて来たのでございますから、なお
あとから若い人が続いて来るのでなければ、ほんとうに日本の女の進歩を妨げるものだと思いますので、この際ぜひ婦人記者は、婦人記者であるよりもまず女であるということをお考えに入れてくださいまして、やはり
現行法のままこれを実現していただきたい。
規則を私
どものわくからとるというような残酷なことをなさらないようにお願いに上
つた次第でございます。