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1954-02-17 第19回国会 衆議院 労働委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年二月十七日(水曜日)     午前十一時五分開議  出席委員    委員長 赤松  勇君    理事 丹羽喬四郎君 理事 持永 義夫君    理事 高橋 禎一君 理事 多賀谷真稔君    理事 井堀 繁雄君       大橋 武夫君    木村 文男君       篠田 弘作君    黒澤 幸一君       大西 正道君    日野 吉夫君       中原 健次君  出席国務大臣         労 働 大 臣 小坂善太郎君  出席政府委員         労働政務次官  安井  謙君         労働事務官         (労政局長)  中西  実君         労働基準監督官         (労働基準局         長)      亀井  光君         労働事務官         (婦人少年局         長)      藤田 たき君         労働事務官         (職業安定局         長)      江下  孝君  委員外出席者         専  門  員 浜口金一郎君     ————————————— 二月十七日  理事山村治郎君の補欠として池田清君が理事  に当選した。     ————————————— 本日の会議に付した事件  理事の互選  労働行政に関する件     —————————————
  2. 赤松勇

    赤松委員長 これより会議を開きます。  まず理事補欠選任の件についてお諮りいたします。去る十二月五日に理事山村治郎君が一旦委員を辞任去れましたので、理事が一名欠員となつております。その補欠を、この際前例によりまして委員長より指名いたしたいと思いますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 赤松勇

    赤松委員長 御異議なければ、池田溝君を理事に指名いたします。     —————————————
  4. 赤松勇

    赤松委員長 これより労働行政に関する件を議題とし、調査を進めます。まず本件に関しまして、労働大臣より発言を求められておりますので、これを許します。小坂労働大臣
  5. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この機会におきまして、労働行政について、私の所信一端を申し述べたいと存じます。  わが国経済が、現在一つの転機に直面いたしておりますことは、皆様よく御承知通りであります。昨年、すなわち昭和二十八年のわが国国際収支は、特需等臨時収入が減少していないにもかかわらず、輸出の不振と輸入の増大のために、なお全体として二億ドルに上る赤字を示し、他方わが国物価の趨勢を見ますると、世界各国物価は次第に下りつつあるのに反し、漸騰を続けておるのでありまして、現状のままこれを野放しに放置すれば、おそらくわが国経済の破綻を来し、真の自立達成はとうてい望み得ないことになると考えます。  政府は、このような現状に対処して、現在のインフレ的経済の様相を是正し、健全な国際収支の上に立つた経済規模の拡大と、国民生活向上のための基盤を確立すべく、各般の施策構ずる決意でありまして、今回提出いたしました昭和二十九年度予算の編成にあたりまして、あらゆる困難を克服して一兆円のわくを堅持いたしましたのも、その一つの現われにほかならないのであります。  私は常々申し上げておりまするように、労働問題は、単に労使間の問題としてでなく、広く国民経済全体との関連においてこれを取上げ、国民経済的視野に立つて適正に処理されなければならないと考えるのであります。  このような見地に立つてわが国労使関係現状を顧みるとき、この際ぜひとも解決を必要とする重要な問題が存在するのであります。その解決にあたつては、いたずらに従来からの惰性に流れることなく、新しい角度から合理的に事態を処理しなければならないと信ずるのであります。今後わが国経済自立を達成し、産業の興隆をはかるためには、労使関係の安定を期することが肝要であります。しかるに、労使関係中心的課題である賃金の問題をとつてみますと、従来ややもすれば年中行事的に、名目賃金の引上げを目ざすいわゆるベースアップ闘争が繰返され、これがやがては物価上昇を引起し、再びベース・アツプを余儀なくせしめるといつた、いわば賃金物価の悪循環が招来されて来ているのであります。  ちなみに、わが国経済における賃金地位を見ると、昭和二十八年度において、賃金所得は、国民所得の総額に対し四八・二%の比率を占め、現在のままでは、これ以上賃金上昇を望めないというような極限にまで達した観があり、諸外国に比べても相当高い実情にあるのであります。従つて今後は、賃金については、従来のような惰性的な名目的ベースアップを排し、労使協力して労働生産性を高め、経済規模を拡大し、それによつて実質賃金向上をはかるという方向に進まなければならないと信ずるのであります。  このように、労使関係を合理的に調整するためには、労使双方わが国経済実情と世論に対する良識をもつて事態を処理することが必要でありまして、私は一方において、経営者が資産再評価の断行等により、企業経営の刷新と合理化近代化に努めるとともに、労働者諸君が、一部組合指導者の政治的に偏した指導方針を批判し、建設的立場から経済再建協力されることを強く期待するものであります。  労働省といたしましては、今後さらに統計調査機能を強化し、わが国労働経済実情に関する資料を積極的に公表し、労使協力に資したい考えでありまして、私は、最近標準賃金という言葉を使つたのでありますが、これは今夜の賃金のあり方についての以上のような考え方に基き、賃金実態についての各種統計資料整備し公表することにほかならないのであります。  御承知のように労働省においては、現在すでに毎月勤労統計を作成して賃金等に関する実態調査を行つておりますが、今回これが欠点を補い、産業別地域別規模別男女別等のほか、職種別年齢別経験年数別勤続年数別学歴別等を織り込んで賃金実態、いわば賃金相場をより正確詳細に把握して、労使関係者はもとより、国民一般に公表したいと思つているのであります。  これによつて合理的な賃金相場経済法則上から見た一つ賃金相場というもの、これをよく勘案することによつて賃金をめぐる労使間の紛争の平和的合理的解決のための最も客観的かつ現実的な基礎資料整備されるとともに、先ほど申し述べた国民経済賃金との関係についての有力な示唆が得られることになろうかと存じます。  私はこの資料をもととしていわゆる官僚的な賃金統制を行うというがごとき考えは全然持つておりません。ただ賃金のありのままの姿を調査し、公表りることにより、労使当事者及び労働委員会等関係者がこれを活用尊重されることを期待し、従来のごとく賃金ベース力関係によつてとめどもなく動く弊を排したいと考えるものであります。  なお、公共企業体等労働関係法改正に関する問題につきましては、御承知のごとくこの法律占領下に制定されました立法でありまして、わが国実情に沿わない点が多々ありますことは、各方面からしばしば指摘されているところであります。私は、労働省事務当局をして、これらの御意見を伺いつつ、仲裁制度合理的改善をはかるため、目下公労法改正について慎重に研究いたさせている次第でありますが、公労法そのものについても問題がありますが、公企体そのものについても種々意見があるのでありまして、改正法案を今国会に提出するかいなかについてまた改正法案をいかように扱うかということにつきましては、今後さらに諸般の事情を勘案の上考慮いたしたい考えであります。労使協力の実を上げ、経済を伸張するためには、まずその裏づけとして労働者福祉労働生産性向上をはかることが肝要であることは申すまでもありません。私は、本年も労働省各局行政の重点をこの面に置き、さらに格段の努力をいたす所存でありますが、この際特に申し上げたいことは、昭和二十九年度において失業者福祉増進とその就職の促進をはかるため、既設の各種福祉施設整備拡充に加え、失業保険積立金四億円の活用により、職業補導簡易宿泊等福利施設新設をはかることとしたことであります。  また労働者災害補償保険特別会計においては、既存施設整備に加え、十一億円の予算をもつて労災病院新設を行うほか、職業病等の研究を中心とする労働衛生研究所を創設する予定であります。  さらに労働者住宅につきましては、産業労働者住宅資金融通法に基き、一般融資住宅のほか、昭和二十九年度には三十七億円、一万戸分を別わくとして確保しているのであります。これを本年度の失業保険施設新営費一億四千万円、労災病院施設新営費四億四千万円、労働者住宅資金二十億円に比較いたしますとき、財政上多くの困難な事情が存するにもかかわらず、労働者福祉増進をはかるためには、相当思い切つた予算措置を講ずることといたした政府熱意一端を了解願えると存じます。婦人少年福祉地位向上につきましても、私は婦人少年局啓蒙調査活動をさらに活溌化してこれに対処する所存でありまして、川崎、八幡に「働く婦人の家」を現在建設中でありますが、明年度はかかる局地的な施策でなく、全国に婦人少年局行政を積極的に協力援助する画期的制度として婦人少年室協助員を八百八十名新たに置くこととし、婦人少年問題に理解と熱意を持つ民間有識者を委嘱すべく目下人選中であります。なお労働者福祉対策に関する重要事項を審議するため、労・使・公益その他各方面関係者をもつて構成する労働者福祉対策協議会を近く労働省に設置する予定であることを申し上げておきます。  次に雇用及び失業の状況につきましては、昨年は完全失業者数は三月六十一万、八月四十三万、十一月三十七万のごとく、むしろ減少の傾向をたどつているのでありますが、明年度は超均衡予算実施等に伴い、必ずしも楽観を許さない実情にありますので、公共職業安定所機能を一層強化してこれが能率的運営をはかるとともに、失業対策事業及び失業保険制度の円滑な運用により失業者生活の安定を期することがきわめて肝要であると考え失業対策事業費として百十一億円を計上いたしました。これは昨年度における同経費が、補正予算を加え百億八千万円であるのに比べて相当の増額となつており、その効率的運用をはかる所存であります。また失業保険給付金についても、昨年の一割増を見込んで予算を編成し、万遺憾なきを期しているのであります。     〔赤松委員長退席持永委員長代理着席〕  最後に労働基準法関係諾規則改正について申し上げます。  労働基準法については、わが国実情に合わないから改正すべきであるという意見が各方面にありますが、私といたしましては、労働基準法施行については、労働省令として厖大な、関係規則がありまして、これが複雑に過ぎるため関係者に迷惑を与えているという声が極めて多いのであります。従つて労働省といたしましては、これらの諸規則を全面的に再検討し、法律根拠簿弱と認められる規定はこれを廃止するとともに、許可認可等の手続き初め、わが国経済社会実情に沿わない点は努めてこれを簡素化整理し、特に中小企業等については積極的に負担の軽減をはかる方針のもとに目下準備中でありまして、近く逐次その改正を実施いたしたい所存であります。但し、労働者の生命に直接の危害を及ぼし、あるいは国際的水準を下まわるがごとき改正はいたさない考えであります。  以上労働行政全般に関しまして、私の所信を率直に申し述べたのでありますが、意の存するところを御了察の上御協力を賜わらんことをお願いする次第であります。
  6. 持永義夫

    持永委員長代理 質疑を許します。多賀谷真稔君。
  7. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 今回中央労働基準審議会に諮問になつております基準法施行規則改正の要綱について、逐条的に基準局長から御説明願いたいと思います。
  8. 亀井光

    亀井政府委員 ただいま中央労働基準審議会におきまして検討いたしておりまする基準法施行規則並びに女子年少者労働基準規則、これにつきまして、御質問がございますので、この内容につきまして、簡単に改正趣旨を御説明をいたしたいと思います。  第一の改正は、規則の第五条でございます。現行法におきましては、法律の第十五条を受けまして、労働条件を明示すべき原則法律で掲げられておりますが、その明示をすべき労働条件内容につきまして、規則の第五条が規定をいたしておるわけであります。法律の第十五条におきましては、労働条件といたしまして、賃金労働時間その他の労働条件を明示しなければならないという規定でございますが、その他の労働条件とはどういう内容のものを含むかということについて、規則の第五条が規定されておるのでございます。その中におきまして、労働条件罰則をもつて明示すべき範囲として不適当と思われまするものにつきまして改正をしたいというのが五条の改正でございます。  次は規則の十二条関係でございますが、規則十二条では、常時十人に満たない労働者を使用する使用者が、変形四十八時間の定めをした場合、あるいは四週間について四回の休日の定めをいたした場合につきまして、それらのことを労働者の周知させなければならないというのが現行法規定であります。常時十人以上を使用しております使用者は、就業規則を制定する義務があり、就業規則はまた労働者にこれを周知させなければならない義務法律定められておりますから問題ないのでありますが、十人未満については、そういう手段がないので、こういう規定が設けられたと思うのでありますか、ただいま大臣の御説明の中にもございましたように、全然これは法律根拠のない新しい義務使用者に課しておる関係がございまして、削除をいたしたいという趣旨が十二条の改正でございます。  それから訊は第十六条の改正でございますが、第二項で、現行法におきましては三十六条の時間外協定有効期間と申しますか、それにつきまして、三箇月を超えてこれを定めてはならない。但し、労働協約による場合は、一箇年を超えない範囲内の定をするここができる。」という規定でございますが、この規定も、法律の第三十六条におきまして、期間制限をいたしますことについて何ら規定をいたされていないのでございます。従つてこの十六条の第二項の規定は、法律根拠のない規定であるわけでございます。しかもまた、協約による場合と、よらない場合と、期間に差をつけることも立法的にいかがかと存ずるわけでございまして、この規定を削除して、今後は労拠間の協定によつて、時間外協定をする際に、あわせてその協定有効期間定めるようにしてはいかがかという意味の改正でございます。  第十八条の改正でございますが、第十八条におきましては、三十六条の時間外協定によつて時間の制限なく協定が許されるのでございますが、ただ坑内労働衛生上有害な業務につきましては、一日二時間以内の定めでなければその協定が認められないのでございます。そこでその衛生上有害である業務とはいかなるものであるかということを規定いたしたのが規則の十八条でございます。この規定の中には、たとえば一号にございます「多量の高熱物体を取扱う業務及び著るしく暑熱な」というような表現のあいまいな、すなわち最低基準が明確に示されていないものがたくさんある。そういたしますと、実際に罰則を科しまして監督をいたします際に、監督官の個人的な判断等によつて左右されますことは適当でございませんので、この基準を明確にしたいというのが十八条の改正でございます。  それから次は二十四条でございます。これは坑内労働の時間計算規定でございまして、現行法におきましては一団として入坑及び出坑する労働者に関しましては、入坑開始から入坑終了までの時間につきまして監督署長許可を受けた場合には、それらの団の入坑終了から出坑終了までの時間をそれらの団に属する労働時間とするというのがこの規定でございます。ところが、法律規定から申しますと、監督署長許可ということは、何ら法律は要求をいたしていないのでございます。従いまして、この許可制を廃止するというのが一つと、それからそれに伴いまして、その実体を規定するにつきましては、国際労働条約規定をそのままここに当てはめたいというのでございます。その規定は、一団となつて入りまする労働者最初労働者が入りまして、その最初労働者が坑を出ます、それをもつてその団に属しまする全体の労働者労働時間とする。それが国際労働条約定めでございますが、そういうふうに改正をしたいというのが二十四条の改正でございます。  それから二十五条の改正は、現行法におきましては、年次有給休暇につきまして、継続一年間の期間が満了しました後、ただちに労働者が請求すべき時期を聞かなければならぬという規定でございます。ところが法律の第三十九条をごらんいただきますとわかります通りに、有給休暇は、労働者の請求があつて初めて発動し、効果が発生して参るのでございますが、この規則で、その前に労働者に請求すべき時期を聞かなければならぬという規定をいたしておりますことは、法律根拠のない新しい義務使用者に課しておることでありますので廃止をしたい。また但書におきましては「使用者は、期間満了前においても、年次有給休暇を与えることができる。」とありますが、これは当然なことでありまして、労働基準法は、言うまでもなく労働条件最低基準規定いたしておりますので、それを上まわることは、使用者は自由にできるわけでありまして、規則の制定をまたずとも当然できることでありますので、この規定は削除したいという趣旨であります。  第二十五条の二、これは有給休暇に支払われます賃金算定方法規定いたしておるのでありますが、技術的に多少不明確な——特に出来高払制、その他請負制によつて定められた賃金につきまして、多少明確を欠きますので、技術的な改正をいたして、この間の計算方法を明確にしたいというのが一点であります。  それから第二点は、第二項におきまして、有給休暇に支払われる賃金は、「有給休暇を与える前に、又は与えた直後の賃金支払日に支払わなければならない。」と規定をされておるのでございますが、有給休暇を与える前にということは、何ら法律根拠がございません。そういう拘束を根拠なくしていたしますることは適当でございませんりで、その点は削除いたしたいと思います。また後段の「直後の賃金支払日に支払わなければならない。」このことは、労働基準法の第二十四条の賃金支払い日原則から申しまして当然なことでありますので、あわせましてこの第二項を削除したいという趣旨でございます。  次は第二十六条関係でございますが、第二十六条は、法律の四十条の規化に基きまして、公衆の不便を避けるために、いろいろ八時間労働制に対する例外規定いたしております、その一つでございます。運送事業と貨物積卸しの事業につきまして、特殊日勤または一昼夜交代勤務につく者についての時間の例外定めておるのでございます。この規定からいたしまして列車電車自動車乗務員につきましては、当然一昼夜交代によりまして、日十時間という労働が認められておるわけでございます。ところが列車電車乗務員につきましては、実態調査いたしました結果、一昼夜交代制を現実にはとつていないのでございます。またとることが非常にむずかしい面がございます。ところが自動車運転手、特にタクシー関係運転手におきましては、大部分が一昼夜交代制をとつて来ております。  その結果、午後十一時から午前二時の間というのが、警視庁の統計によりましても、一番事故の多い時間でございますが、これは結局一昼夜交代という勤務態様からします結果ではないか。すなわち、昼間働きました疲れが、そのころになつて出て来るということから、こういう交通事故も起つて、都民あるいは国民にも迷惑をかけておる事実が、調査の結果明白になつて来ておるわけでございます。そこで列車電車自動車乗務員につきましては、この一昼夜交代制勤務を除外いたしまして、この適用からはずしたいというのが第一点の考え方であります。  第二点は、二項にございますように「一昼夜交替の勤務に就く者については、夜間継続四時間以上の睡眠時間を与えなければならない。」という規定がございます。ところが、これも実験をいたしました結果によりますと、睡眠に入りましてから一時間目が、一番睡眼が深くなるのでございます。それからだんだん下降いたしまして、三時間過ぎますと、その度合いが著しく下つて参るという実態調査をいたしました。その調査に基きまして継続三時間、しかし睡眠時間としては五時間という規定にこれを改めたいというのが第二番目の改正趣旨でございます。  二十六条関係で第三番目は、列車予備乗務員という制度がございますが、これは御承知のように列車ダイヤによつて、それぞれの列車に乗り組みます乗務員の氏名が、具体的にきまつておるわけでございます。ところが、それらの乗務員が病気その他の事故によつて乗務できない、あるいは衝突事故その他によつてダイヤの変更が来るという場合に、それらの事故を防ぎまして通常りダイヤを動かすための予備乗務員というものが置かれておるわけでございますが、この乗務員につきまして、法三十二条二項の変形四十八時間制を適用する場合——現行法の三十二条の二項は、特定の日において八時間を越え、または特定の週において四十八時間を越えて労働させることができるという規定でございます。すなわち何月何日とか、あるいは何曜日、あるいは第何週というふうな特定の日を定めなければならない規定になつております。ところが予備事務員につきましては、この変形四十八時間制を適用するにつきまして、そういう特定をすることのできない特殊性、これは予備乗務員の本質から来ます当然のことでありまして、従つてこの予備乗務員につきまして、特定の日あるいは特定の週の特定の仕方について、もう少し実際に合うように改正したいというのが、第二十六条関係の第三点り改正でございます。  次は二十七条関係でございますが、これも先ほど申しました法律の第四十条の規定に基きまして、商店その他につきましての時間の例外規定をいたしております。現行法におきましては、物品の販売配給等業務につきまして、十人以上の労働者を使用する事業におきましては、八時間労働制適用されるのでございますが、十人未満労働者を使用する販売配給事業につきましては、一日九時間制の労働時間に限定されております。これはわれわれ東京都内商店等調査したのでありますが、十人未満を使用する商店等事業と、三十人未満を使用します事業では、おのおの九時間という時間が、最も通例に行われておる労働でございます。三十人を越えますと、九時間労働が少くなり、ほとんど八時間労働、五十人を越えますと、ほとんど全部八時間労働という実態であります。そこで実態から申しますと、十人で切るのと三十人で切るのと、差異がないのでございます。また実情から申しますと、その限度の商店におきましてこの九時間労働制をとらせることも、また実情に合うのではないかという実態調査の結果から、この括弧の中の十人以上というのを三十人以上に改正をしたいという趣旨でございます。     〔持永委員長代理退席委員長着席)  次は第三十条の規定でございますが、第三十条の規定は、ただいま申しました輸送あるいは貨物積卸しの事業、あるいは時間の例外として認められておりまする三十人未満郵便局における郵便、電信、電話の事業、あるいは警察、消防等事業、これらにつきましては、女子も同じくこの法規の適用を受けるのでございますが、それらの女子については法律の第三十六条の時間外協定をすることを禁止いたしたのが現行法規定でございます。法律の第三十六条は、御承知のように男女のいかんを問わず時間外協定をなし得ることを認めておるのに、規則についてだけ時間外労働を禁止しておりますことは、これは法律根拠がございません、法律の第三十六条の予定せざるところでございますので、削除いたしたいという趣旨でございます。  第三十二条は、輸送の事業または郵便事業に従事する労働者でございまして、長距離輸送の列車または船舶に乗務する車掌、荷扱手その他の者につきましては、監督署長許可を受けた場合は休憩時間を与えないでよろしいという規定でございます。しかし、この監督署長許可というものは、何ら法律根拠がないわけでございます。従つてこの許可制を廃止をしたい。それと同時に、これらの対象となる職種の範囲が不明確でございます。「車掌、荷扱手その他これに準ずる者」となつておりますので、これをもう少し具体的に明確化し、その範囲を限定して、この許可を廃止したいというのが第三十二条の改正でございます。  次は四十三条の改正でございます。これは遺族補償を受けます者の順位について、四十二条、四十三条に規定をされておるのでありますが、四十三条におきましては、現行法では四十二条で定められております配偶者あるいは扶養を受けております労働者の子、父母、孫、祖父母等がない場合におきましては、第三順位者としてその労働者の死亡当時その収入によつて生計を維持されていた者ということになつておりまして、その対象になる労働者の死亡当時、その収入によつて生計を維持されていない子、父母、孫、祖父母あるいは兄弟というのが第四順位者でございます。これは生活実態を主体として現行法考えられたと思うのでありますが、現実の家庭の状況から申しますと、居候——何ら親族関係のない者が、ただ本人がその労働者の死亡当時その者によつて生計を維持されていたというだけの事実で第三順位にされますことは、適当でございませんので、この順位をかえて扶養を受けてない子、父母、孫、祖父母を先にし、最後の順位者としてそういう居候等本人の死亡当時その者によつて生計を維持されていた者を持つて行きたいという趣旨改正でございます。  次に四十九条の改正、これは就業規則を作成いたしまして届出をいたすわけでございますが、その際に「労働協約がある場合にはこれを添付して、」という規定がございます。これは法律根拠がございません。労働協約を添付させるということもございませんし、命令にこういう手続を譲つてもございませんので、その点は法律根拠がないという趣旨をもちまして、「労働協約がある場合にはこれを添付して」という文字を消しまして、届出させることだけに改正をしたい。
  9. 赤松勇

    赤松委員長 今の問題については、多賀谷さんの方から、議題にしてもらいたいという申出がありますので、理事会に諮つて理事会の御承認を得て議題にしたいと思います。ただいまは労働大臣に対する御質疑を主としてやつていただきたいと思います。
  10. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 ついでに施行規則だけやつてください。年少者の方はあとで聞きましよう。
  11. 亀井光

    亀井政府委員 次は五十三条でございますが、これは労働者名簿の様式を簡素化するということです。  五十六条はございません。  五十七条、五十八条、これは報告事項の簡素化でございます。  以上が大体おもなところでございます。そのほか様式等につきましても、できるだけ簡素化して、負担の軽減をはかつて行きたいという改正でございます。
  12. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 基準法施行規則につきましては、いずれ議題になるそうでありますので、その際逐条質問をいたしたいと思いますが、労働大臣が本日見えておりますので、この基準法施行規則に対して、一般的な質問をしたいと思うわけであります。  この今度の施行規則改正要綱を見ますと、実質上労働基準法を改悪されておる、こういうように感ずるわけであります。ことに行改整理その他がありまして、現在でもあるいは三年に一度とか五年に一度しか工場をまわり得ない、こういうような監督官の手不足な状態の中に、書類を出さずしてどうして審査ができるか、われわれは非常に疑問を持つものであります。たとえば、今お話の中にありましたが、就業規則の届出の場合には、労働協約の添付はいらない、何も法律義務づけていないのだ、こういうことですけれども、基準法九十二条におきましては、当然労働協約違反の分につきましては無効であるし、さらに監督署は変更を命令することができる、こういうことになつておるわけであります。それを書類を持たずして、労働協約を見ずして、どうして変更命令ができるか、こういう疑問にもわれわれは到着するのであります。さらに三十条関係改正にいたしましても、実質上婦人その他の年少者を十二時間も働かし得る状態になり得るわけです。これは当然労働基準法の精神から行きましても、また規定の点から行きましても、私は改悪になつておる、かように考えるわけでありますが、一体今度の改正を見ますと、手続その他を簡素化するという面において、実際労働基準行政をサボつておるのじやなかろうか、サボろうとしておるのじやなかろうか、私は疑問を感ずるので、これに対して労働大臣はどういう御所見であるか、お伺いしたい。
  13. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 お答えを申し上げます。この基準法施行規則改正につきましては、そういう誤解があるといけないので、特に申し上げた次第でございますが、前提といたしまして一番大きくお考え願いたいのは、国際労働条約に違背するようなことはない、こういうことをはつきりうたつておりますから、その点をよくお考えおき願いたいのであります。  いずれにいたしましても、この基準法施行規則というものは、占領下において非常に強制的に、日本の国情もわからぬ当時に、言葉はいかがかとも思いますが反対意見もほとんど聞かないで押しつけられたような面もあるというふうに、私どもは思つておるのであります。その結果といたしまして、ここにございますように、法律根拠りない、あるいは非常に薄弱と認められる諸規則がある、あるいは認可、許可等が非常に複雑な手続になつておりまして、そのために民衆がいたずらなる手数をかけさせられる。ことに中小企業等においては、そうした経営の帳簿組織あるいはその届出等の事務に習熟していない点もございまして、そのために非常に本来の業務を届出のために食われてしまつておる。こういうようなことをいろいろ聞きますものでございますから、わが国にはわが国の国情にふさわしい基準法施行規則というものを考えたらよかろう、こういうのが私どもの考えでございます。国民のためにする、こういう気持でございます。今御指摘がございましたこの労働協約をたとえば添付しなければならぬというのを削つてしまうと、それじや基準局として労働協約に違反しているか、していないかわからぬではないか、こういう御質問もありましたけれども、そういう問題のありそうなところには請求し得るのでありますし、また組合側が問題があれば基準局に労働協約をお持ちくださればよいので、頭から規則で書いてしまうということでは、いかにも煩雑に過ぎはしないか、こういう気持でございまして、今サボるという言葉をお使いになりましたが、そういう意図は全然ないのでございます。要するに今申し上げたように、基準行政国民に親しまれ愛されるものとして円滑に運用されるようにと、こういう観点で考えておる次第であります。
  14. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 施行規則というのは、たとえば変更命令権があるという場合に、手続としてやはり添付しなければならぬということを書くのが、私は施行規則であると思う、法律の実体から言いまして、施行規則というのは、当然それを監督するためにはどうしても必要である。こういう場合に、施行規則というのに様式とかあるいは届出をする義務がある。しかしこれは義務違反の場合でも、何も罰則はないのです。罰則があれば、私は問題があろうと思う。しかし別に罰則がないのです。ですから、私は罰則のないような点につきましては、やはりこれは施行規則において届け出なければならぬと書いても何らさしつかえない、また書くことが施行規則として当然であると考えるのであります。そういう状態の中に、何かおかしかつたらそのときは組合が持つて来るだろう、こういうようなことは、おかしいということが第一わかるはずがない。こういう点について、再度お尋ねいたしたい。
  15. 亀井光

    亀井政府委員 施行規則は、私から御説明申すまでもなく、御承知のように、法律の委任を受けまして規定いたします。実体的なものは、法律の委任かなければ規定できないのは当然のことであります。あとは法律施行するために必要な命令を出すということもありますが、それも新たな義務を課するというようなことはできるだけ避くべきであるということが、法律の精神だと私は思います。ただいま具体的な例が出ましたので、御答弁いたしたいと思いますが、労働協約の問題は、これは手続規定ですから、お話のように規則規定してもいいではないか。これは一つ考え方ではありましよう。罰則がないからという御意見もございました。ところが、そういう新たな義務を課するということが、現実の場合において適当であるかどうかということを考えてみなければなりませんし、また法律の第百十条によりまして、報告の義務使用者に課されておるのでございます。この規定には、罰則が伴うわけでございます。従いまして、監督署で必要がある場合におきましては、この百十条の規定に基いて労働協約の提出を命じ、それに違反する場合は、ただちに罰則をもつてそれを強行することができる非常に強硬な手段をとり得るわけであります。御心配の趣旨は、労働協約の提出を削除いたしましても何ら起らないと私は考えております。
  16. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 基準法の本法に義務づけがないから、あるいは法的根拠が薄い、こういうことを理由にされておるようですが、法的根拠の薄いものはこれだけじやないです。日直、宿直というようなものは、法律には全然根拠はない。施行規則だけにたよつておる。法律の条文の体裁を見られるとわかるように、四十一条に根拠を求めておられます条文の体裁からいつて、とんでもないところに書いてある、こういうのは、明らかに根拠がないからです。三十七条と三十八条の間に書いてある。法律からいいますならば、こういう面は当然改廃されてしかるべきだと思う。しかるに全然基準法の精神に違反するような改正が行われんとしておることは、非常に遺憾に考えるのであります。しかしこの点につきましては、いずれ詳細に質問をいたしたいと思いますので、本日は申し上げませんが、労働大臣に対しまして、昨日参議院の労働委員会において、炭労の今次のストライキに対しまして賃金の問題について、意見の表明があつたようでありますので、これについてお伺いいたしたいと思います。  内容は、私は日本経済新聞に書かれておる範囲しか承知いたさないのでありますけれども、この賃金カットの問題は、私は純然たる民事的問題であろうと思う。労使間の民事的な問題について、どうして労働大臣がこういう意見を表明しなければならなかつたか、この点についてお伺いいたしたいと思います。
  17. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 御指摘のように、昨日参議院の労働委員会におきまして、田村参議院議員よりの質疑がございまして、その中で、今御指摘のようなことについての答弁を要求されましたので、私といたしまして、いわゆる炭労の部分ストについての賃金差引の問題をお答えいたしたのでございます。新聞をあげての御質問でございますから、内容は御承知かと思いますが、あらためて一応申し上げておきたいと思います。  私の見解といたしましては、この炭労の争議自体について、われわれとして、役所としての介入とか、あるいは特別の意見をさしはさむという気持はないのでありまするが、やはり政府として望ましいと考えますことは、当事者双方が世論の動向を察知して、良識をもつて事件の処理に当られんことを期待いたしておるのであります。また現在各新聞の社説等を見ましても、新聞の論調は、すべて部分ストというものは好ましくない争議方法であると論じておると思います。そこで、こうした部分ストを行つた場合において、その部分ストに参加した労働者賃金を差引くことは当然であると思いまするが、なおその当該部分ストが——たとえば運搬部門ストが、炭鉱の他の部門の機能を麻痺させ、あるいは停滞させるものでありまして、部分スト以外の労働者で、形式的に出勤いたしまして労務の提供をしておるごとくでありましても、労働組合のかかる効果をもたらす争議行為の一翼をになうために、形式上出勤しつつ予定の行動として労務の全部または一部の不遂行を来しておる場合には、部分スト以外でも、これに関連ある全労働者に対して、ノー・ワーク・ノー・ペイの原則によつて賃金を差引くことは当然であり、労働基準法ないし労働組合法違反の問題は生じない。この場合、使用者はロック・アウトをしなくても、ノー・ワーク・ノー・ペイの原則によつて賃金を差引くことができると考えるのであります。なおこの場合、賃金差引は、当該部分ストにより、これに関係ある全労働者について労働契約の本旨にかなつ労働がなされなかつた限度において差引かれるべきものであつて、具体的な差引額は、結局個々の場合の認定によるのであるけれども、出炭量を賃金差引の基準とすることは当然であると考えられる、こういう見解であります。  民事的なものであると思うのだが、なぜ口を出すかというお話でございますが、私ども労働基準関係の問題は、これは解釈法規である、政府の解釈によつて運営されるべきものである、こういうふうに考えておる次第であります。
  18. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 労働大臣は、いつ裁判所に、あるいは労働委員会の公益委員になられたか、お尋ねいたしたい。
  19. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私はそういうものになつておりません。
  20. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 私は不届きだと思う。なぜかといいますと、これは純然たる民事的な問題で、あるいはロック・了ソトその他が刑事的な問題にひつかかるとか、そういう問題ではない。私はこういう答弁ならば一応了承できる。二十四条関係の場合に、これが債権債務として確定するかどうかという問題は、非常に困難であると思う。裁判所の方でこれは賃金差引が妥当であるという判決があつた場合には二十四条違反になる、こういう御答弁ならば私は了承できるのである。しかるに純然たる民事的な問題を自分で判定して、二十四条の権限によつて発言されるということはもつてのほかであると思う。二十四条というのは、すなわち国家権力が刑事罰として発動し得る状態を書いておるのであります。要するに、債権債務について行政官庁が解釈すべきでない。二十四条の場合、債権債務が確定して、客観的確定の上に立つて払わない場合には国家権力が介入するというのが基準法である。しかるに裁判所の考えを飛び越えて、そうして今度はかつてに国家権力の介入を言われ、発動を言われる。こういう見解を下すのは、これは裁判所の仕事である。そうして行政官庁が解釈すべきでない、かように考えるわけであります。
  21. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 こういう解釈につきましては、労働省としまして、すでに昭和二十四年以来とつておるのであります。なお、賃金というものはいかなるものかということは、十一条に「この法律賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者労働者に支払うすべてのものをいう。」とこうあります。すなわち労働の対償、契約の本旨にかなう労働の対償としての賃金、こういうことになるのであろうと思います。そこでこの炭労の部分ストの場合でございまするが、私どもとしましては、多賀谷さんのような見解をとらないのでありまして、組合の指令によつて全体の機能を麻痺停滞せしめるという意図のもとに行われておるのでありますから、たとい出勤している人があつても、これは契約の本旨に沿わないものである。従つて、それに対する賃金は支払う必要がない、賃金の本質から考えましてさような解釈をいたす次第であります。
  22. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 私は解釈論を言つているのではないのです、その取扱いについて言つておるわけです。債権債務が確定しておるかどうかということが今問題になつており、非常に不明確で、むずかしい問題である。そういう問題に監督署の関係庁、国家が意思表示をすべきでないと私は考える。裁判所ならば別です。(「行政解釈だ」と呼ぶ者あり)行政解釈も、刑事的な問題とかあるいは国家権力が発動される、こういう場合ならば別です。ところが、これは純然たる民事的な問題である。しかも、労働者あるいは使用者からこの見解を求めていない。こういう時期において発言されるというのは、きわめて軽率である。しかも、政府はそういう行政解釈を下す権限はないと私は思う。その点について、再度質問したい。
  23. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 政府委員会におきまして議員の御質問を受けまする際には、いかなる場合におきましても、誠心誠意その信ずるところを御答弁申し上げることは、国会法の規則通りであると存じます。田村委員の御質問に答えまして政府の解釈を申し上げた次第でございまして、何ら越権等のそしりはない、かように考えております。
  24. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 それが、たとえば与えることが不当労働行為になるとか、賃金をやることが不当労働行為になるといつた、労働組合法違反のような状態になるならば、また話は別です。これは私は純然たる民事的の問題だと思う。その民事的な問題に解釈を出されるというその考え方が、私はどうもふに落ちないわけです。再度お答え願いたい。
  25. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 政府が解釈を下すということは、これは当然のことで、行政解釈を政府がするということは、何ら民事的な問題に介入するということにはならないと思うのであります。要するに政府としましては、現在行われておりまする部分ストでありましても、さつき申し上げたような金銭債権が発生する場合は、その契約の本旨に沿つた労務を提供なされておるそのことについての金銭債権が発生するのでありまするから、そういう債務が発生して、そういう債務の本旨に沿つた労働の提供がなされておらない場合には、そうした金銭債務は発生しない。二十四条も、全額ということであるのでありまして、この契約の本旨に沿うているものかどうか、こういう判定がなさるべきものであろうと思う。現在の搬送ストの場合は、契約の本旨に沿うていない、こういうことは、私どもとして当然考えられるべきことであろうと、こう思つております。
  26. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 二十四条の全額というのは、賃金まるまるという意味ではありません。これは債権債務の確定した貸金が全部だという意味です。それで私は、今の二十四条関係政府が発言をするならば、今度の問題は非常に困難なので、支払わないからといつて、すぐ二十四条違反で訴える、こういう意味はないのだという答弁なら了承できる。ところが、あなたが裁判所のような顔をして、そうして法律解釈を下すということはもつてのほかである、かように考える。国家権力として、このような場合に差引いたときには発動しないのだ、こう言うなら、私はそれは政府が見解を表明されることもあり得ると思う。しかし民事的な問題を、債権債務が確定してこういうようになるのだ、こういう解釈の権利は、いかに行政府であろうとも、ないと考えるのですが、その点について再度お答え願いたい。
  27. 亀井光

    亀井政府委員 債権債務が確定していないから、基準法上の解釈をすべきでないという御意見でありますが、私はそういうふうに考えていないのであります。基準法第二十四条で「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」という規定がされているその場合におきまして、この第三章のすべての賃金保護の原則というものは、ただいま大臣からの御説明がございましたように、あくまでも契約の本旨に従つた正常な労務の提供があつた場合においてその保護がなされるわけであります。そこでこの「全額を支払わなければならない。」という二十四条に、今の賃金減額ということがはたして違反にならないかなるかという問題は、われわれとしましても絶えず検討をして来ておつたわけでございます。昭和二十四年にも、炭鉱ではございませんが、同じような事例がございまして、今回の趣旨と同じ趣旨の解釈通牒を出した次第でございます。従つて今回の場合におきましても、従来からわれわれが研究しておりまする結果を、大臣が御質問によつて御答弁なさつたというのが経過でございます。
  28. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 ではお尋ねしますが、裁判所でこれは支払うべきだという判決が下つたら、どうしますか。当然二十四条違反でしよう。
  29. 亀井光

    亀井政府委員 最終的に、具体的に一体何割賃金を切り下げるのが妥当であるかということは、これはあるいは裁判所かもしれません。その見解につきましては、その場合としまして、監督署が現地においてするこの山はどの程度、この山はどの程度という事実認定の問題は残されております。ただ、今申し上げておりますのは、理論的な解釈を私らとして立てておるというわけであります。具体的な問題でありますれば、おそらくお話のように、裁判所の問題にもなるだろうと思います。
  30. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 具体的というけれども、ケースはあまり違わない。ですから、理論的一般的に話をしてもわかると思うのですが、裁判所の最終的な判決で、何割支払えとか、そんなことは別として、賃金を支払わなければならないという判決が出て、業者が支払わなかつたら、二十四条違反になるでしよう、こう聞いておるわけです。
  31. 亀井光

    亀井政府委員 多くの場合、そういう結果になろうかと思います。但し、行政解釈と裁判所の解釈と対立する場合はあり得ると思います。それはまたそれで救済の上級裁判所というものがございまして、訴訟の道もあります。しかし一応普通の場合におきましては、そういう見解も成り立つのではないかと申し上げたのであります。
  32. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 ぼくは最終的な判決ということを言つたのですから、当然訴えれば、最高裁判所まで行くでしよう。ですから、その場合に、もしも業者が払わなかつたら、二十四条違反になるでしようと聞いておるわけです。
  33. 亀井光

    亀井政府委員 私は判決というふうに誤解したものでありますから——もちろん最高裁の最終判決でございますれば、そういうことでございます。
  34. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 だから政府考え方というのは、非常に困難な問題だから、今ただちに払わなくても、二十四条違反として告発しない、こういう解釈ではなかろうかと思う。それを、払わなくともいいという見解を出すとは、私は不届きであると思う。
  35. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 全然前例がないかというと、実はあるのでございます。政府ではございませんが、北海道の地労委で、井華鉱業の場合、昭和二十三年四月七日から五月九日の間におきまして、保安闘争の名のもとに行われまして、これに対して会社側は、全員に出炭量により賃金を差引くということにいたしました。組合側は労調法違反として提訴したのでありますが、昭和二十四年の二月七日、会社側の方に理由ありということになつております。それから北海道炭鉱汽船の場合でありますが、昭和二十三年九月十四日から十七日の間行われました争議、これも同様な結果が出ております。今申し上げましたように、政府としまして、賃金というものの本質にかんがみまして、契約の本旨に沿うた労務の提供がなされない場合には、その賃金債務というものは発生しない、こういう解釈を下すことは当然と考えております。
  36. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 どうもわかりにくいのですが、この二十四条関係、ことに国家が労働基準法を扱う場合には、これは国家権力の発動、監督、こういう面において国家が入つて来ることは当然であると思う。ですから、普通の場合で行きますと、二十四条違反とか、こういう場合、普通の見解あるいは最高裁の見解でもおそらくそうなるであろう。こういう場合に、二十四条違反でない、こういうような見解が出されるので、あまり問題が起らない。ところが法律解釈が非常に国難になりますと、これは問題になる。私は行政解釈としても、それは行き過ぎであると思うのですが、行政解釈がなされた場合に、裁判所が違つた見解を出した場合、これはたいへんなことになると思う。その場合の責任はどういうことになりますか。
  37. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 二十四条は説明するまでもありませんが、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。但し、」云々ということでございまして、但しの項は、「通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合」云々というのがありまして、二十四条だけの問題でないと思つております。多賀谷さんは、二十四条でもつて最高裁で政府行政解釈と反対の判決を出したらどうするかということでございますが、私どもは、そういうことはまつたくの仮定であつて、それについてどうするかということを聞かれても、実は御答弁を申し上げかねるかと思います。  なお一部には、組合がこういうスト指令を出して、日にちをきめて部分ストをやる、その間は出勤をする。出勤をする場合も、これは正常な労務契約が行われていないのだから、その間は全額賃金を払わないでよろしい。そうして出た場合、今度はその出炭量に応じて不当利得の返還請求によつて賃金が支払わるべきものである、こういうような説もあるようでございます。私どもはこれは傾聴いたしまするが、早急にこれがいいとも悪いとも判断はいたしておりません。ただそういう説すらもあるということを御紹介申し上げておきます。
  38. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 私は内容について言つているのではない。内容はいろいろ見解があることは知つております。また私は、大臣と違う見解を持つておりますが、これはこの席で表明する限りでないと思う。しかし扱い方として純然たる民事的な問題、しかも解釈上困難な問題を行政官庁が解釈する、こういうことが私は非常におかしいと思う。これは二十四条その他の基準法違反として発動するには、研究する必要があるから、今ただちに違反とはならない、こういう考え方なら私はわかると思う。ところが、まだ見解もはつきりしていないような問題を行政官庁で解釈を下すということが、私は間違つていると思う。これが刑事的な問題ならば、私は別と思う。純然たる民事的な問題、労使間の問題、それを解釈を下すというのが非常におかしい、かように考える。民事的な問題なら裁判所じやないのだから……。
  39. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 基準法の十一条に賃金の定義があります。そこで私はこの十一条の関係からして、政府はこの賃金不払いの問題について行政解釈を下すということを申しているわけであります。そこでその行政解釈を下してはいかぬとおつしやいますが、基準法というのは、解釈士の問題です。しかも議員の質問があるということであれば、政府としては当然答えるべきものだと思います。またこういうことを答えないことによつて、さらに誤解を深めて不測の事態を招くことがあれば、これはかえつて政府の懈怠にすらなる、こういうふうに考えております。
  40. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 私は基準法の解釈じやないと思う、民法の解釈であると思うのです。基準法の解釈で払うのでなくて、民法の解釈で、そして債権債務これは純然たる民法の解釈ですよ、どこが基準法の解釈ですか、民法の解釈です、かように考えます。
  41. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 基準法の第十一条に賃金の定義がございます。そこで賃金の定義をこういう場合にどういうふうに解釈するかということですから、解釈を下しているわけであります。
  42. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 今この問題をめぐつて、争議にきわめて重要な影響があるわけです。ところが一方だけを利するような発言をすべきでない。私は労働者に有利な発言をしてくれということを言つているのではない。しかしこういう問題は、今争議の問題として非常に重大な微妙な段階に来ており、重要な要素を持つている。こういう件について、私は労働者側に有利な発言をしてくれとは言つていません。しかしながら、経営者側に一方的に有利に味方するような発言をしてもらうことは非常に困る。これは基準法の問題でなくて、純然たる民法の問題であります。それを裁判所でもない行政官庁がするというのはけしからぬと思う。もう一度御答弁を願いたい。
  43. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この解釈を下すということが、現在行われている労働紛議について、どちらか一方に味方するものであるというお話がありましたが、政府はそういう意図は少しも持つていない。要するに法規の解釈について政府基準法の解釈上こういうことであるということを言いますことは、政府として当然のことである。何も経営者の方の味方をするわけでもない、労働者の味方をするわけでもない。要するに法規というものはあるのであります。その法規の解決がこうであると言うことは、政府としては当然のことであると思います。
  44. 木村文男

    ○木村(文)委員 先ほどから御意見を私よく拝聴しておりましたが、よほどお調べにもなつているようでありますが、私もまた長い間この仕事の職に携わつた者といたしましての見解から、多賀谷君の質問に対して無意味であるということを申し上げるとともに、大臣に対しては、私の立場からはこういうふうに思うというはつきりした答弁を願いたい、それに私は持つて行きたいと思つております。それはどういうことかというと、今までのお話は、一応ごもつとものようにも聞えますけれども、それは非常に曲げた解釈をして、大臣に何かここに意図のあるところの含みを持つた答弁をさせようとする。(「それは逆ですよと」呼ぶ者あり)私はそういうふうにしかとれない。なぜかというと、それでは法的に申し上げますが、第十一条のところ見ますと、これは明らかにわかる。たとえばこの法律の第十一条で「この法律賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者労働者に支払うすべてのものをいう。」これと第二十四条の両方を読んでみますと、よくうなずかるれと思うのです。「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。但し、法令若しくは労働協約に別段の定がある場合においては、通貨以外のもので支払い、また法令に別段の定がある場合若しくは当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合おいにては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。但し、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので命令で定め賃金については、この限りでない。」こういうこの二条を照らし合せますと、要するに労働省行政を行う場合に、この法規によつて賃金の問題に対する見解を明らかにするということは、民法の次にこの法律があるということではない。行政の衝に当る者は、この法律によつて行政を行うのでありますから、裁判所の判決があるとかないという問題を、私は少しも考える必要はないと思う。こういう考えのもとに労働大臣が今の御答弁をなさつているのであろうとは思いますが、その点を明らかにしてもらいたいと思います。
  45. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 お答えを申し上げます。賃金を支払うという際においてこれだけ払え、こう言うことは、この基準法に反するということですが、払えと言うことは、務働省の基準監督署においてし得るのであります。従つてこの場合には、そういう争いが起るということであれば、この基準法の解釈を、今お述べになりましたように、十一条なり二十四条なりについていろいろ考えがあるかもしれませんが、労働省としての解釈を明らかにする、これは非常に必要なことである、こういうように考えます。
  46. 持永義夫

    持永委員 ちよつとこの際労働省当局にお伺いしておきたいと思いますが、ただいまの賃金の問題ですけれども、これは賃金の支払い方法が違う場合にも、ひとつ考えにならなくちやならないと思います。たとえば請負制の場合に、定額賃金といいますか、一日何ぼという場合、請負制の場合にはこれははつきりしていますが、要するに出炭量がなければ、もちろん賃金を払う必要はない。しかし、一日何ぼというような者がかりにいる場合においては、その人が全然組合の方との連絡なしに、すなわち意識なしに出て来てやむを得ず働かなかつた。いわゆる自分の意思によらずして仕事ができずして帰つたという場合においては、これは本人には責任がないのですから、それに責任を負わせるということは、これは法律上はどうか知りませんが、少くとも社会常識からいつたらおかしい。そこでその点の法律上の解釈も御検討願いたい。もちろん今度の場合におきましては、私が集めた資料では、石炭連盟から出炭量に応じ賃金を支払うということを組合に通告しておりますから、おそらく全組合関係者がこのことを知つておられたと思います。従つて、働かなければ、いわゆる労働大臣の言われたノー・ワーク・ノー・ペイということは本人も知つておると思いますから、おそらく労働省とされてはそういう解釈が正しいのだと私は思うのでありますが、しかし先ほど申し上げましたように、賃金支払い方法のいかんによつて多少かわつて来るのではないかということを御検討願いたいと思いますが、その点について……。
  47. 亀井光

    亀井政府委員 今の御質問は、今度の場合と多少事情が違う御質問だと思うのです。今度の場合は、全員が組合の意思決定に参加しているので、今の御質問の要点は、その意思決定に参加しない場合のお話だと思うのですが、意思決定に参加しない者は、契約の本旨に従つて労働を提供した限度において、賃金は支払わなければならないということは当然の措置だろうと思います。
  48. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 今の問題に関連して、大臣にちよつとお尋ねいたしますが、労働省において労働基準法の解釈をされるということは、これは私は当然だろうと思うし、むしろこれを解釈して適正に実施する義務があると思うのです。ところが、先ほど来多賀谷委員等から質問された要点は、労働賃金の支払いの義務があるかどうかという実質的な問題について両当事者で争いのある場合に、労働省としては労働基準法の解釈という立場に立つてすべてを解決して行かれる方針であるかどうか——これには非常な重大な問題があるわけです。たとえばその日に出勤したとかしないとか、労働に従事したとかしないとか、あるいはその他面当事者の契約上の労働賃金の支払い義務発生に関しての実質的な、民事的な争いが起る場合が非常に多いと思うのです。そうして裁判所においても、その決定が容易でない場合が多いと思うのです。そういう場合に、両当事者の主張なりあるいは証拠なりを十分検討しないで、簡単に一方の当事者に権利があるとかないとかいうことをすべてを決定して行かれるという態度は、これはいろいろの問題を起し、ことに労働争議の渦中に労働省が入つて、それこそ抜き差しならぬ立場になり、また労働問題解決のために非常に悪い弊害を残すということも考えられるのですが、そういうふうにどんな実質的な争いでも解決をつけて行かれるという方針であるかどうか、そこのところをお伺いいたしたいのであります。
  49. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 労働紛議の中に政府が入るということは避ける方針であるということは、しばしば申し上げておる通りでありまして、実際の紛議の解決につきましては、中労委を調停者として始終考究してもらうように制度的にもなつておりますし、私どもその考えでおるわけであります。そこで、近代産業におきましては、すべての労働というものは有機的に組み合わされて、一つの生産上の目的を持つて労働が行われておるのでございますから、そうしたものをこわす意図をもつて、すなわちそういう意思の決定が組合において行われ、その一環としての労働というものは、形式的には労働であつても、契約の本旨に沿わざるものであろう、こういう私どもの考え方を、この際明らかにした次第であります。これは一方から言いますと、争議の渦中に入つて行くのじやないかという御疑念もあるいはあるかもしれませんが、政府考えはそうではないのでありまして、争議自体は、あくまで中労委によつて解決を促進して行く、こういう考えを持つております。この解釈が不明確でありまするために、賃金はとれるのだという考えで非常に長くこういう状態を続けて参りまして、あとでそれこそ抜き差しならぬ状態になるということになりまする場合も考えられまするから、こういう解釈はもうすでに二十四年以来とつておることでありまするので、これを明らかにするということは、全体から見ても私はいいことではないかと思つておるのであります。
  50. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 私の質問いたしましたのは、労働省今後のこういう問題に関する根本方針に関連するわけでありますから、重ねてお尋ねをいたします。が、労働争議は、その中心は何といつて賃金問題だ。これは大臣も御説明なつたことを聞いておるのでありまして、私も同感であります。そこで賃金の問題の中には、賃金の額の問題もありますが、支払う義務があるかないかという。もつと根本的な問題に関する場合もあると思いまして、それに対する政府の態度というものは、私はよほど慎重でなればならないと思うわけなのです。先ほど来の質問では、一つの例をあげて、すなわち部分ストの場合の問題に関連してのお話でありましたが、その場合に、一体賃金支払いの義務があるかいなかというようなことは、私どもは法律的あるいは事実的に、そう簡単に解決がつかないと実は考えておるわけであります。そういうふうな権利の有無について、両当事者に非常に争いがあり、また一般客観的に見ても容易に決定がされないというときに、労働省としては、軽率にとはおつしやらないでしようけれども、少くとも民事裁判所が事実の判断をしてその権利の存否を判定したときほどの慎重な態度をとらないで結論を出されて、そこに権利があるとかないとかいう方針でもつて監督事務等を行われるということは、知らず知らずその労働争議の渦中に入つて行く危険がある、こういうふうに私は考えるわけです。ですから、私は、労働省においては、そういう賃金支払いの有無について両当事者の争いのある場合に、右か左か、すべての問題をはつきりときめて行かれる方針であるかどうか、その点をお伺いいたしたいわけであります。
  51. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私どもといたしましては、客観的な考え方で法規解釈というものを明らかにすることは、私どもの義務であろうと思つておりますが、先ほども申し上げましたように、たとえば炭鉱の部分ストを例にとりますると、これに関係のある全労働者について、労働契約の本旨にかなつ労働がなされなかつた限度において差引かれるものであろう、これが考え方の筋であります。なお具体的な差引額につきましては、結局個々の場合の認定によるものであるというふうに思つておるのであります。しかし、出炭量を賃金差引の基準にするということはこれは当然だろう、こういう考え方を言つておるので、ただ具体的な個々の場合については、その認定にまかすということになろうかと思つております。
  52. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 労働大臣のお考えはわかるのです。ところがそこに大きな問題がありますのは、賃金だから労務に対する報酬だということは、これは先ほど来どなたかが二つの法条を対照すればわかるとおつしやつた通り、労務の対象として賃金を払うということは、これは明瞭なんです。ただ労務を提供したのであるかどうか、その実質的な問題については、これは法律の上からは出て来ないのです。事実問題なんですから、そこのところを軽々に、この場合には権利があるのだとかないのだとかいうことは、多賀谷君が心配しておつたような、民事裁判を下すというようなことになるわけであります。だから法律解決でなくして事実を決定して行つた態度なんですから、そこのところが非常な問題なんです。だから、こういう事実であればこの法律はどう解釈するのかと、こう尋ねられたときに知らないとも言えないでしよう。けれども、そういうときに、こういう事実ならばというその事実が、はたして真実であるかどうかということが、これが重大なんです。それが両当事者の争いの焦点になつておるわけですから、それを軽々に解決して行くということは、これはたいへんな問題を起す危険がある、こう考えますから、それについての労働省の態度というものは、よほどしつかりしておられなければならぬ、慎重でなければならぬ。もし軽率にやつておつたらたいへんなことになるのだ、争働争議の渦中に身を投ずることになるのだ、こう私は思うのですが、労働大臣はどういうふうにお考えになるのですか、お尋ねするわけです。
  53. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私どもは、何も事実認定をいたしておるのではございませんで、組合の意思の決定があつて、そうして一部分のストであつても全体の機能を麻痺停滞せしめるものである、そういう場合にはこうなるであろう、賃金債権というものは発生しないであろう、こういう見解を述べておるわけであります。ただ政府といたしまして、行政解釈を下す義務もありますけれども、一方において国政全般というものに対して思いをいたす必要があろうと思うのであります。これは政府の重大な責任とも関連する問題であろうと思うのであります。御承知のように、現在炭鉱に従事する人は三十一万程度ございますが、今回のような搬送部門のストということになりますると、そのストに加わる者は大体数百名程度、そうして一日の出炭量九万トンというものはゼロになる。そういうことで、なるほど個々の場合は民事的な問題はありましよう。しかし全体といたしまして、相当国家の財政なり国家の経済界全体、国民生活なりというものに非常に大きな関連を持つということは、これは否定し得ない事実であろうと思います。そういう場合、私どもはあくまでも慎重にいたします、決して軽々にはいたしませんが、しかしそうした考え方一方においてとりつつ、法規の解釈というものはやはり厳として、下すべきときには下して行く、これは政府の責任であろうと考えております。
  54. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 この問題は非常に重大ですから、本日はこの程度にして保留いたしまして、次の機会にお伺いしたいと思います。
  55. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 ちよつと関連して。今労働大臣が最後にお話になりましたことは、きわめて重大であろうと思う。すなわち、単に解釈でなくして、今度の炭労ストライキというものが、一部分の労働者によつて出炭ができない、こういうような問題から、国政全般の見地からこの解釈をしたのだと言われる。この点につきましては、きわめて重大な発言であると思う。これは速記録を見ればわかりますから、私はこの態度が国家権力の介入だ、かように考えているので速記録を見て再度質問をいたします。
  56. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 十分速記録をごらんになつて御質問願いたいと思いますが、お互いに国会議員といたしまして、現在の国情を憂え、日本国の今後の行き方を考えますときに、現情でいいのかどうか、これは労働紛議というものが、敗戦直後からかわつた形でないというこの形を、何とかもう少し労使協力して日本全体の生産をあげて、生産性を高揚し日本経済をゆたかにして行くという、その国家の危急に臨んでの話合いとか、もう少し協調する精神とか、そういうものは何かほしいものだ、こういうことを考えることは、政府党であろうと野党であろうと、私は共通するものがあろうと思う。そういう際に、この私どもが行政解釈を下すということが非常に慎重を欠くというようなお話がございますれば、そうではないので、行政解釈というものは常に政府としては研究し持つているものであります。それを発表することが早いとか遅いとかいうことでありまするが、一方においてそういう事態をにらみつつ、私どもとしてはこの国家の現情を憂えるものである、こういうことでありますから、行政解釈は行政解釈として常にある。ただ国家の現情というものはまことに憂いにたえないのだ、その点についてはお互いに大いに研究して行かなければならぬ問題だ、こういうことなんです。
  57. 赤松勇

    赤松委員長 黒澤君から関連質問の要求がございますが、十二時半を過ぎましたので、これで休憩し、二時に再開しまして、劈頭黒澤君の関連質問を許可、続いて井堀繁雄君の御質問に移りたいと思います。  暫時休憩いたします。     午後零時三十六分休憩      ————◇—————     午後二時五十四分開議
  58. 赤松勇

    赤松委員長 休憩前に引続いて会議を開きます。黒澤君。
  59. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 先ほどの多賀谷委員の質問に補足いたしまして、労働行政一般について、労働大臣にお尋ねしたいと思います。先ほど労働行政一般に対する諸種の説明をされたのでありますが、労働大臣は、二十九年度の予算の編成にあたりまして非常に御苦心をされて、労働者福祉増進をはかるために、相当思い切つた予算措置を講じたということを強調せられたのであります。しかしながらこの程度の予算ではたして二十九年度の労働行政一般に対する運営が支障なくできるかどうか、そういうことについて、私は若干疑義を持つものであります。労働大臣がおつしやられましたように、二十八年度の労働省関係予算は二百四十二億一千二百八十五万五千円でありまして、二十九年度の予算はこれより十二億七千四百二十五万五千円の増額にはなつております心これだけを見ると、労働行政が前年度よりは非常に拡充されたように思われるのであります。しかしながら、そのほかの必要な労働省予算につきましては、昨年度より相当に減額されておるのであります。労働大臣よりこの減額の方面につきましては何ら御説明がなかつたのでありますが、私が労働省関係予算をちよつと見ましても、たくさんの項目の予算が昨年度よりは減額されているやに見えるのであります。たとえば労働関係施行に必要な経費、労働情報蒐集に必要な経費、労働教育及び労働関係の安定に必要な経費、監督行政に必要な経費、安全行政に必要な経費、労働衛生行政に必要な経費、給与行政に必要な経費、技能行政に必要な経費、年少労働者の保護福祉に必要な経費、婦人地位向上に必要な経費、職業紹介に必要な経費、失対事業の指導監督に必要な経費、職業補導の指導監督に必要な経費、その他今申し上げましたような項目の予算が、二十八年度よりは減額されておるのであります。こういうことを見ますると、これら前年度の予算それ自体が、非常に貧弱な予算とわれわれには考えられるのでありますが、その上二十九年度におきまして、今申し上げました項目の予算が減額されているということになりますならば、労働行政全般に対して、この範囲予算におきまして、はたして支障のない運営ができるかどうか、私は危ぶむものでありますが、その点について、労働大臣のお考え最初にお聞きしたいと思います。
  60. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 お答え申し上げます。二十九年度予算の編成にあたりましては、御承知のように、政府としましては一兆円のわく内にとどめるという方針をもちまして、二十八年度予算よりも約三百億余円を減額いたしたのでございます。全体に緊縮、均衡予算という線で予算を編成いたしたのでございますが、ただいま御指摘のように、労働行政というのは非常に重要な行政でございますので、特にこの点につきましては、大蔵省当局とも交渉を重ねまして、ごく概括的に申し上げますならば、一般会計におきましては、昭和二十八年は二百五億余万円でございます。これが二十九年度におきましては二百十五億円となつております。労災関係の特別会計におきましては、二百十一億円でございましたものを二百四十億円、失業保険特別会計におきましては、二百九十五億円でございましたのを三百二十一億円と増額いたしまして、二十八年度には七百十二億円でございましたものを、二十九年度には七百七十七億六千万円というぐあいに増しましたのでございます。他の省では、緊縮予算関係もございまして減額いたしておるのもございまするが、今申し上げましたように、労働省関係におきましては、あるいは事務費におきましても、また労災や失業特別会計におきましても、この緊縮予算の建前から申しますれば、相当増額について大蔵省の協力を得たのでございます。一般的に一千万円以下の補助金は打切るというような方針もございまして、何か補助金を出して諸施設をつくるというような方針には、やはり私どもの方といたしましても協力をいたしのたでございます。しかし考えて見ますれば、非常に国家財政困難な折から、全国で一箇所ないし二箇所という程度の施設をいたすよりは、もつと総合的な行政を全国的に行うという方が、この際としては筋ではなかろうかと考えまして、たとえば婦人少年局関係でも、ここで数字を見ますると、前年度が六千五百万円でありましたものが、本年度は六千万円になつておる。すなわち五百万円ばかり減額されておるのでございますが、このうち「働く婦人の家」というのが九百万円程度ございます。しかしそうした事業費をとりましたかわりに、婦人少年室協助員というようなものの予算をふやしまして新たに設けまして、全国的に婦人少年行政の推進をはかる、あるいは婦人少年福祉対策協議会というようなものを全国的に設置するような予算をとるというふうに、この予算の組みかえをいたしまして、補助金をとりますと若干減つておりますが、たとえば婦人少年局関係を見ますれば、今申し上げたように、予算の平面的な観察からすれば減つておるが、実際補助金をとつた額で比較してみると、逆に六百万円からふえておる。そとしたいろいろな配意もいたしておるのでございまして、大きく望めば際限がないのでございますが、この際の政府全体の予算編成方針からいたしますれば、そのわく内においては努力の跡を認めていただけることと、かように考えておる次第でございます。
  61. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 ただいま、予算が減額されましても、労働大臣といたしましては、これらの減額された各項目につきましても、支障のない運営をされて行くというふうに伺つたのでありますか、私はこれを承知いたしまして、今後一年間これら減額されました予算の回におきまして、万全の処置をされることをお願いいたしまして、次の質問に移りたいと思うのであります。  政府におきましては、行政機構の改革並びに公務員の人員整理の問題を、今日具体的に取上げているようでありますが、過ぐる一月十五日の閣議におきまして、六万余名の人員整理が決定されたようであります。そこで私はこの点について伺いたいのであります。先ほど、労働大臣の御説明の中にはなかつたのでありますが、労働省関係におきまして機構の改革をおやりになるのかどうか、またおやりになるならば、どういう面の機構の改革をされるのか、また人員整理につきましては、どういうふうな整理がされるのかお聞きしたいと思います。なお都道府県の出先機関の整理ということが流布されておるのであります。われわれはもちろんそうした整理には賛成するわけには参らないのでありますが、出先機関の整理等について、いかようなお考えを持つておられるのか、この機会にお伺いしたいと思います。
  62. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 労働省の総人員は職安、基準関係を含めまして二万二千三百六十二人となつております。今回の整理数は九百六十五人でございまして、四・五%程度になつております。私ども今年の経済状況の推移を予想いたしてみまして、やはりこの際、職業の配置転換あるいは夫業者の就職あつせんというようなことが、非常に行政面でも重要であろうかと思いますので、その点も非常に強調いたしまして、ことに第一線の職安関係において働く方々の整理というものについては、できるだけ管理庁においても実情を認識してもらうように話をいたしまして、その結果といたしまして、全体を総合して四・五%という程度の人員にいたした次第でございます。自然に退職して行く人もありまするし、退職を希望する人のほかにも、特殊の待命制度等もございまするので、そうした面の活用をはかり、また退職後の転職のあつせん等についても、政府に配置転換の協議会もつくりまして、できるだけその間を円滑に行いたい、かように思つておる次第であります。  なお機構関係につきましては、本省関係では変更しないということにいたしております。  なお地方の出先につきましては、種種御意見もあるのでありまするが、私といたしましては、婦人少年あるいは労働基準監督関係のものも、これは出先にまかすべき性質のものではなくして、やはり国家機関の一環として運用さるべきものである、こういうような考え方でおる次第でございます。
  63. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 労働大臣といたしましては、出先機関の整理等はしないように承りまして、私たち出先機関整理に反対をしておる立場といたしまして、安心をしたわけであります。  次に公労法の改正の問題につきましてお伺いしたいと思うのでありますが、この点につきましては、先ほどの所信の御説明の中に、労働大臣といたしましては相当熱意をもつて強調されていたようにお聞きしたのであります。われわれは十六国会以来、政府におきまして公労法の改正をなさる御意向があるのじやないかということを心配いたしまして、その都度本委員会におきましても労働大臣の御意見を伺つて来たのでありますが、労働大臣からそのたびに、公労法の改正は現在考えていないというお答えを得て来たのであります。ところが第十六国会が自然休会に入りまして間もなく、公労法改正の問題が新聞紙等におきまして具体的に掲げられ、また労働大臣のお考え等も新聞には載つて来たのであります。しかも労働省におきましては、公労法改正の要綱案というものがきまつたということも、私たちは承知したのであります。なお一月二十七日には三公社五現業の労働組合代表者を労働省は招致いたしまして、この公労法改正の要綱案の御説明をやつたというようなことも聞いております。こうなりますと、公労法改正の問題は必至の状態になつて来たとわれわれは承知して来たのでありますが、ことに本日労働大臣から、公労法改正の御意思のあることが発表されました。ただ労働大臣といたしましては、その時期、方法等については、なお考慮するというようなことをお聞きしたのでございますが、今国会に公労法改正の法案をお出しになるお考えであるかどうか。しかも今国会は五月八日までの長期間の国会でありまして、なお相当の日時があるのでありますが、この国会中に政府におきましては公労法改正の法案をお出しになるかどうか、そこのところを私ははつきりお聞きしたいと思います。
  64. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 公労法の問題につきましては、先ほども申し上げたのでございますが、種々意見が各方面からありまするので、私といたしましてもこれを研究いたしておるのであります。今お話のように、改正するとすればこうした線でどうかということを事務的につくりまして、各方面意見を実は聞いております。そこでこの労働関係のものは、なかなかりくつ通りばかりにも行かぬ面もありまして、やはりそこに運用の、労働慣行の習熟ということが、非常に大きな問題ではなかろうかと思つております。事務的な試案を持ちまして、各方面意見を聞いている次第でございますので、私としましては、一方的にこういうものをきめたんだから、何でもこれでやれということでなくて、できるだけ関係者の御意向を盛り込んで、さらに研究を進めたい、こういうふうに思つておる次第でございます。  なお公企体そのものについての意見もいろいろあるのでありまして、御存じと存じまするが、公企体の合理化委員会というものもできておるような次第でございますので公労法運用の客体であるところの公企体そのものについての合理化、その研究というものが十分成果を見ますることも一方において勘案せねばならぬ、こういうふうに思つております。従いまして今国会に改正案を出すか、また出すとすれば、その原案はどういうものかということにつきましては、私は今何とも申し上げる段階でない、かように思つておるような次第であります。
  65. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 公労法改正の要綱案が労働省におできになつておるようでありますが、おさしつかえありませんでしたら、本委員会にそれを御配付願いたいと思うのであります。さしつかえありませんでしたら、委員長において御配付できるようにおとりはからいを願いたいと思うのでありますが、さしつかえがあるかどうか、労働大臣からお伺いしたいのであります。
  66. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 ただいま申し上げましたような事務的な試案は持つておりますので、御要求でございますから、差上げまして、十分御研究を願いたいと思つております。
  67. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 次に標準賃金の設定についてお伺いしたいと思うのであります。この点につきましても、先ほど労働大臣から非常な御抱負と御熱心さを持つて特に強調されたのでありますが、これは非常に重大な問題だと私は存じております。しかも今年度の予算を見まするならば、これは何といいましても再軍備関係に重点を置いた予算である。われわれの立場から見まするならば、これは一つの軍事予算の性格を持つて来ておるものと考えるのでありますが、こういう片寄つた予算の編成下におきまして、政府賃金相場をきめる、それを一般に示すというようなことになりますと、この片寄つた予算のしわ寄せが労働階級の賃金の上に押しかぶさつて来るのではないか、そういうことが心配されるのであります。しかもこういう形になりますと、憲法で保障せられておりまする労働者の争議権の自由、いわゆるベースアップの闘争というようなことの自由が、抑制される傾向が現われて来るのではないか。そういうことになりますならば、この標準賃金制というものは、戦時中の賃金の統制の形をとつて来るのではないか。労働大臣は、先ほどそういうことは絶対にないのだと言つておりますけれども、政府がそうした意図のもとに標準賃金というものを示されまするならば、やはり私はそういうことにならざるを得ない状態が来るのではないかということが心配されるのであります。労働大臣は、先ほどもおつしやつたように、ベースアップが年中行事のごとく行われているということを心配されておりますが、なるほど今日ベースアップが年中行事のように行われておることは事実であります。しかしながら、その前に考えなければならないことは、日本の労働者賃金がはたして妥当な賃金であるかどうか。労働大臣は先ほど国民所得賃金関係を数字をもつて述べられたのでありますが、そういう形になつておりましても、日本の労働者賃金がはたして妥当であるかどうか、いわゆる生活の最低が保障せられる賃金であるかどうかということは、私は一応考えてもらわなければならぬ問題であると思うのであります。しかも労働大臣は、このベースアップのために物価上昇するというようなことを述べられましたが、私は逆ではないかと思つております。いわんやベースアップは、物価上昇するから、労働階級が生活の不安のためにベースアップを要求するのである、私はそういうふうに考えております。いわゆる物価賃金があとを追いかけて行く傾向が、日本の労働者賃金ではないかと考えております。ことにこういう問題は、人事院の勧告にいたしましても、あるいは仲裁裁定にいたしましても、そのベースアップの基礎をなしているものは物価上昇であります。物価がどれだけ上昇したからどれだけ賃金を上げなければならないというのが、人事院の勧告あるいは仲裁裁定の基本的な事由ではないかと私は考えておるのでありまして、そういう点につきましては、労働大臣と私は見解を異にするのでありますが、いずれにいたしましても、そうしたお考えのもとに、この標準賃金制がつくられるということは、以上のような点から、私は考慮を要する問題ではないかと考えるのであります。もし標準賃金というようなものをつくろうとしまするならば、その前に政府は総合的な経済政策というものを樹立いたしまして、労働者賃金の安定、その賃金によつて労働者生活の安定を保持できるという形が私はなされなければならないと考えております。われわれの立場からいたしまするならば、標準賃金をつくる前に、労働者の最低生活を保障するところの最低賃金制の確立が先決問題ではないかと私は考えておるのでありますが、こういう点に対する労働大臣のお考えをお聞きしたいと思います。
  68. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 御意見はよく承りましたが、毎年このベースアップが繰返されるということは、確かに物価が上るということにも関連があろうかと思います。しかしインフレーシヨンが非常に高進いたしまして物価が上つた、賃金がそれを追いかける、こういうことは、インフレが戦後の場合のように高進しておるときならば、それはそれでいいのでありまするが、今のように大体非常に大きな物価変動がない、物価が大点において横ばいであるという際に、賃金が上るということは、それだけ消費購買力がふえるということを、また次の物価を引上げる、この事実も否定できないことだろうと思うのであります。やはり終戦以来やつて参りましたことを、独立とともにほんとうに振り返つてみて、日本の民族と国家という立場から、やはり全体の日本をどう持つて行くかということで、日本全体が考え直さなければならぬ時が来ておるのであるというふうな気が、実は私としてはしておるのであります。今度の政府予算というものも、いろいろの御批判はございましようけれども、物価を安定する、五%ないし一〇%下げるというところにこの予算のねらいがあるのでございまして、そういうように物価を下げて、労働者諸君賃金内容を、実質的なものを向上して行くという考えでおるのでございます。そこで応能賃金といいますか、生産性の拡大に比例しての賃金の拡大ということが望ましいと思つて、できるだけ画一的な、いわゆるべースという名のもとに呼びならされている賃金を引上げるということは、この際はひとつ考え直してもらいたいという気分を持つておるのでございます。  なぜこういうことを申すかと申しますと、今国民所得全般を見まして、賃金の占めておる割合は、諸外国と比較しまして決して低くない、むしろ高いのであります。しかし今仰せのように、労働者諸君生活内容が非常にゆたかであるかといえば、そうはいわれないと思います。しかし終戦後のような食えぬという状態からは、非常にかわつて来ておりますが、現実にゆたかでないということは、何が悪いかというと、結局国全体の所得が少いのであります。ですから、機械的に分配国民所得で、その中における賃金の分配がふえたということだけでは、私は根本的な問題の解決にはならないというふうに思つておつたのでございます。ことに賃金について、応能賃金と申しますけれども、企業によつて非常に賃金の較差があるのであります。たとえば大企業の賃金と地方的な地方産業のみによるところの企業の賃金というものを比較してみますと、非常な差がある。しかも働いている時間というものは大企業よりも、そうしたところに働いている人の労働時間が長いし、また労働の量においても大きい、こういうことが非常にあるわけでございます。しかも大企業というのは非常に国家の恩恵を受けている、こういうことが非常にある。国の産業の出先の地方の産業賃金というものは高くて、地方自体の産業賃金は安い、そういうような状態があるのであります。そこで、物価が上れば上るほど、また実質的な賃金所得内容というものはかわつて行くわけで、むしろ中小企業はそれだけ苦しくなる、こういうふうに考えざるを得ないのであります。戦前の国民所得の構成と戦後とは、相当所得階層がかわつてはおりますけれども、非常に差ができておるのです。賃金国民所得において占める比重というものは一〇%ばかり上つておるのでありまして、これ以上ふくらんで行くということは、結局国民全体の経済構造をこわしてしまう。国民経済の構造をこわすということは、国民経済を破滅させるということになるのでございますから、そうした観点に立つて一応見直してみる必要があろうかと思うのであります。それには、やはり基本的な統計整備して、賃金のあり場所というか、経済賃金法則から出て来ておる相場というものを見て——私は相場を出してすぐ統制する、こういうことはやつていないのでございますが、その相場というものを見て、お互いが国を思う良識からして、これをどう判断して行くか、こういうことをもつて新しい労働問題の中の賃金問題の合理的解決の出発点にしたい、こういう考え方を持つておる次第でございます。最低賃金ということは、まことに望ましいことだと思いますけれどもこの問題は、御承知のように、絹人絹織物、座繰り製糸、家具、手すきの和紙、この四業種について中央賃金審議会の議を経ておりますから、その結論を待つて善処したいと思いまするが、私どもの考え方から行きますと、最低賃金を中小企業において行うということになれば、その企業自身をやはり国家で保証しないと——企業の責任というものは国家は企業自身にまかしておる、しかし賃金はこれだけ払えということを国家が強制するということになると、どうしてもその間に無理が出て来るのではないかというような見解を持つておる次第でございます。
  69. 赤松勇

    赤松委員長 黒澤君、井堀君の質問もありますし、関連質問でございますから、井堀君の質問が終り、中原君の質問が終つて、それからまたゆつくりやつてもらおうと思つておりますけれども、まだ何点くらい関連質問が残つておりますか。
  70. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 私は失業問題と珪肺問題につきましてお尋ねしたい点があるのですが、これは次の機会に譲りまして、一点だけなお質問させていただきたいと思うのであります。それは国鉄の解雇の問題であります。御承知のように、昨年末の仲裁裁定の問題につきまして、三公社五現業の労働組合の諸君が、これが完全実施の闘争をなさつたわけであります。これに対して、国鉄当局では十八名の懲戒解雇をしたという問題であります。私はかような闘争が起つた原因は、何といいましても政府が公労法の精神を無視いたしまして、仲裁裁定の完全実施をしなかつたことに帰着すると思うのであります。こういういきさつの中に、労働組合の一方的な責任だけを追究する、しかも懲戒解雇という極刑を科して行く、このやり方は、不当苛酷な処置であると私は痛感しております。それで労働大臣は、昨年の十二月十一日の本委員会におきまして、仲裁裁定完全履行の三公社五現業の闘争に対して、公労法違反で責任者を処分するかどうかということは、公共企業体当局にまかせるという御答弁をなさつておるのであります。それで私は労働大臣にお伺いしたいのでありますが、この国鉄の十八名の解雇につきまして、労働大臣は何か御指示をなさつたか、また国鉄当局と御相談なさつたようなことがあるかどうか、その点を一点お聞きしたいと思います。  なお、私はかようなへんぱな首切りに対しましては、これは当然撤回すべきものであると考えております。しかも一面国鉄の長崎総裁、また幹部の鉄道会館の問題、あるいはかような不当な国鉄労働組合の解雇の問題等に対して、私はその責任を追究すべきであると思うが、労働大臣はかような国鉄総裁始め幹部に対しまして、これを罷免するお考えがあるかどうか、また今申し上げましたように、十八名の解雇を撤回させる御意向があるかどうか、その二点だけお伺いしたいと思います。
  71. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 昨年末の国鉄の紛議に関連いたしまして、公労法十七条、十八条によつて国鉄当局が処分をされたのでありますが、私どもは公労法の解釈上からして、今申し上げたような、政府が完全実施をしなかつたから労組は何をやつてもいいというふうな解釈はしておりません。要するに予算上資金上不可能なるいかなる裁定も政府を拘束しないというのが十六条にございます。三十五条に、裁定は当事者双方を拘束する云々とありますから、その範囲内において、成規の手続によつて国会の御審議を経て、そうしてあの仲裁裁定の実施を行つたのでありまして、その際について政府においては全然瑕疵はないと考えております。むしろ当然の措置をとつたのである、こう考えているのであります。これについての処分でございますが、今おあげになりましたように、処分は国鉄当局においてなすべきものと考えております。それについて、処分をすることにきめたという御相談は受けました。私は、それはそのような措置が公労法を守る立場からいえば当然であろう、こう考えて同意いたしている次第でございますが、内容について、私は国鉄の内部のことは知りません。これは国鉄当局にまかすべきものである、こう考えておる次第であります。  さらに、国鉄の当局者に対してどうこうする権限は私にございませんから、従つてそういう意思は持つておりません。
  72. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 国鉄の十八名の解雇の具体的な理由を私は知らないのですが、しかしながら今申し上げましたように、昨年暮れの闘争に対する責任上の解雇であるということになりますならば昨年末の闘争は三公社五現業各労働組合においてやつております。しかも賜暇一斉休暇も、各組合においてやられております。あるいは超勤拒否の闘争もやられております。そういう中に国鉄だけを取上げて十八名からの大量の解雇をするということは、どうしても私は納得できないのでありますが、その点につきまして労働大臣はどういうふうにお考えになつておりますか。
  73. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 なるほどお話のように公労協という建前で行われた年末闘争であつたのでありますが、指令を実施したその実施の仕方、あるいはそれが社会に及ぼした影響は、それぞれ違うものがあると私どもは判断しております。その判断に従いまして国鉄の措置がなされたものである、こういうふうに了解しております。
  74. 赤松勇

    赤松委員長 井堀繁雄君。
  75. 井堀繁雄

    ○井堀委員 小坂労働大臣から、昭和二十九年度の吉田政府労働政策について所信の発表がございましたが、その中で私どもの非常に心配にたえない事柄は、今年の吉田政府の全般にわたる政策の中で、いずれを見ましても、労働問題に深い関係を持たない事項はないといつていいほどに、今年の労働行政は、いろいろな意味におい非常な困難に遭遇するのではないかと想像されるのであります。にもかかわらず、ただいま小坂労働大臣所信を伺いますのに、かなり楽観的な立場に立つておるのではないかと懸念されるのであります。たとえば、労働省の重大な予算のそれぞれの項におきましても、かなり大幅の削減ないし現状維持である。そこでただいまお尋ねをいたそうと思いますおもなる項目についてでありますが、たとえば労働大臣の、労働行政方針として日本の産業自立達成のために労働問題を取上げようとする考え方につきましては、まつたく同感であります。そうでなければならぬと思います。狭い労使関係に限定されることは、現状からいつてとうてい許されなくなつて来るであろうと思う。そういう観点からいたしまして、たとえば私との最も関心の高い賃金政策について、かなり多く論じられております。ここにも述べられておりますように、労使紛争の最も重要な課題をなしておりますのが賃金であることは、申すまでもないのであります。この賃金問題の紛争を未然に防止しようとする意図は、よくわかるのでありますが、それを防止するための政策というものは具体的でなけらねばなりません。ただそういう紛争を避けたいという欲求だけでは、政策にも対策にもならぬわけであります。     〔赤松委員長退席持永委員長代理着席〕  そこでお尋ねをするのでありますが、労働大臣考え方は、本日も述べられ、また過日の労使懇談会の席においても態度を明らかにされておりますが、標準賃金を設けて、それによつて賃金問題を中心にする紛争が避けられるのではないかという淡い観測の上に立つておるように思われる。このことは、これから伺うことによつてはつきりすると思うのであります。私どもはそういうふうに簡単には考えていないのです。たとえば、今指摘されておりますように、物価賃金の悪循環をどこで断ち切るかという問題が大きな問題であることも申すまでもないのであります。その悪循環を断ち切るのに、一体標準賃金がどれだけ役に立つか。これは申すまでもなく党派の相違や政策の根拠を異にすることによつてかわるものではないと思う。今、日本の産業復興のためには、何といいましても労働者の旺盛な生産意欲と高い技術と能率が要求されて来ることは、疑いをいれぬところであります。日本はあらゆる条件が悪いのでありますから、その悪い条件を克服する一番適当な、しかも効果的な道は、労働者の高い能率と努力にまつ以外にないのではないか。こういう場合に、何を優先して政策を推し進めるかということになれば、こういう問題を先に取上げなければならなくなると思う。こういう点に対して、多少触れておいでになりましたが、しかしきわめて抽象的であります。そこで、その問題を解明いたしますためには、今日の生産のにない手である労働者生活が、その生産をになうに足る状態であるかどうかということが、事実問題として指摘されなければならぬ。ここにあげられている数字を見ますと、先ほども黒澤委員から指摘されましたように、ただ単に国民所得の割合が大きいからという数字だけを出して、いかにも今日の賃金が一定の段階に達しておるかのごとき見解を主張されますが、これはまじめに考えておるとすれば、たいへんな誤りであるし、承知の上でやつておるとすれば、きわめてずるいものの表現だと思います。もしまじめに賃金実態を数字に取上げるならば、先ほども黒澤君の質問にお答えになつておりましたように、最近の労働賃金の較差のはなはだしい事実、これは、実際問題として即急の解決を急がれている問題でありますから、この点について正確な御答弁をお願いしたいと思うのです。私どもの承知しております数字で、労働省の発行されております統計資料、総理府の統計等によりまして明らかにされますのは、たとえば労働賃金の較差であります。最も新しい統計でありますが、昭和二十八年八月現在の給与の実態は、三十人以下、百人から五百人、五百人以上という三つの段階をとつてみますと、五百人以上の平均賃金が、製造業だけに限つてみましても一万七千七百六十七円、それが五百人以下百人までになりますと一万四千二百円、さらに三十人以下になりますと八千六百八十一円という較差が表わされておる。さらに三十人未満のものについて見ると、統計の時期が多少ずれておりますが、二十七年五月現在を見ますと、二十人から十人の間においては七千二百九円、九人以下になりますと六千九百五十四円という統計が出ておるのであります。これはかなり実際に近いものであるとわれわれ捨用いたしておるのでありますが、そこで、こういう賃金がどういう割合を占めておるかということをお尋ねいたそうと思うのであります。私どもの承知いたしております総理府の事業統計調査をもつて見ますと、常時雇用されている労働者の数が二百人未満のものを中小企業と規定してそのわくに入れておるようでありますが、その数は、全体の労働者の数から見て、製造業だけの統計で六八・二%になつておるでありますから、百人のうち六十八人までが、さつきあげた一万二千円から九千円前後七、八千円程度の所得になるという想定が許されるわけであります。そうすると、日本の労働人口の半ばが、働きながら満足に生活のできないような、賃金がこんなに低い状態である。それを、たとえば最近の失対事業の場合に引直してみましても、今年の予算では失対事業については多少引上げられて私の伺つております数字が誤つておれば、あとで御訂正を願いますが、たしか二百八十二円という基礎になつてお売るようであります。一日二百八十二円の失対事業に雇用されておりまする日雇い労働者が、二十五日働くと仮定しますならば、七千五十円になるわけであります。これは失対事業法の精神にも明らかなように、その労働を期待するのではなくて、仕事のない者に仕事を与えるという、いわばその労働の質や量に期待をかけない賃金の目安であります。さらに、もう一つの例を生活保護法に求めてみましても、政府の出されております資料の中におきましても、今年増額をされまして、六大都市における生活扶助費の最高を見ますると、月額八千六百円、その他の都市におきましても、七千五百二十二円。それから生活保護法の取扱い実例が報告されておりますが、それを見ましても、四人世帯で、出産扶助を一部受けておりますが、七千八百十円、それから地方のいわゆる二級地、三級地の例も出ておりますが、四人世帯で、一部教官扶助を受けておりましても、八千四日五十四円、こういうように今日——何も憲法の二十五条を持つて来なくても、労働を提供しながら、その生活が土活保護法以下である、日雇い労働者の給与以下であるという、こういう実態、りくつを抜きにして解決せなければ、私は賃金政策などというようなものはまつたく問題にならぬと思う。こういう数字について、もし私のあげました数字が間違つておれば御訂正を願うわけでありますが、こういうごく大ざつぱな統計を見ましても、今日の中小企業と目される日本の重要な企業のにない手である労働者賃金、給与の実態は低いのであります。これは一つには、労働者の組織がきわめて弱いということ——これから統計行政に対して力を入れる十言つておられますから、こういう数字をどんどん出してわれわれに勉強させてくれることと思うのでありますが、こういう当面しております切実な問題をどうして解決なさるか。それを労働大臣がお考えになつておるように、標準賃金というようなもので解決されるというなら、一体どういうぐあいにして解決なされるか、まずこのことについてお答えを願つて、さらに続けて参りたいと思います。
  76. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 非常に御勉強になつて数字をあげられて御質問でございますが、数字そのものについては、私ども何も申すことはありません、その通りであります。  そこで、御指摘のように、わが国産業構造というものは、事業所においては小規模の事業所が非常に多く、一人から四人までの事業所が全体の八二彩を占めている。三十人以下が一五%、三十人以上の事業所はわずか二%である。しかし人員の面におきましては、三十人以上の事業所に従事するものが四一・八%、わが国労働者の組織率は大体四一%でありますので、大体そんなところは組織されている、こういうふうに観察してよろしいかと思うのでありますが、さてその間の賃金というものは、今お話のように非常に較差が大きいのです。昭和二十八年五月の統計で見ましても、五百人以上雇用されている事業所に働く人たちの賃金が一万五千九百九十四円でございまして、これを一〇〇といたしますと、三十人以下のものが九千四百四十五円、すなわち五九・一%、そういう状況になつて来ております。しかしこの較差というものは、むしろ縮まりつつあるのでございまして、たとえば昭和二十六年五月のものをとつて見ますと、三十人以下のものが五六・六%で、大企業に対してはさらにその割合は低いのであります。しかしこの較差は少しずつ縮まつているのでございます。先ほどもちよつと触れましたように、大企業というのは非常に国家の保護を受けている面が多い。そうすると、その大企業と中小企業との間に非常に較差があるということは、それだけ国家の保護を大企業に働く労働者は多く受けている、こういうこともいえるのではないかと私は思うのであります。やはり日本全体の生産力というものは、今の場合条件があるのであります。その条件をいろいろ克服して生産力全体を拡大いたしませんと、この賃金そのものをとるという、とり分のもとが限定されているのであります。その間で、国民所得の中における賃金分配を競つて、そのため年中争議をやつてつてみても、これは自分自身の破滅を来し、日本経済全体を破滅させる、どうしてもこういうことになつてしまうのではないかということを、私は実は非常に心配をしておりまして、標準賃金というようなものを公表いたします際には、もつとこれは規模別、業種別、年齢別、性別、経験別というように、いろいろな賃金相場を出して参りますから、その統計を縦横に良識ある方々が駆使していただくことによりまして、日本の経済実態賃金のあり方について正確な認識を持つていただくということが期待できるのではないかというふうに考えているのであります。戦後は、とにかく物価が上つて食えぬということで、組合側は要求する。経営者の方も、それじやこれくらいのところは払つて妥協しようということで妥協に妥協を重ねてやつて来ている。しかし、その言い方については、今日といえどもあまらかわつていない。先ほど問題になつておりました炭労についても、炭鉱労働者は食えぬという御意見でありますが、毎勤の統計を見て参りますと、二十八年の一月から六月までは、石炭鉱業は一万六千五百九十八円、全産業の平均が一万五千二百三十三円、製造工業の平均が一万三千八百七十一円というぐあいでありまして、他の金属鉱業を見ますと、一万六千三百十円ということで、石炭鉱業というのはやや高位にあるわけです。そこで石炭の場合を例にとつて見ると、とにかく部分ストでも何でもやつて、会社側に徹底的な打撃を与える。しかしそうやつておりますうちに、やはり全体の石炭の需要というものは減つて来る。一昨々年の炭労の長い争議の結果、御承知のように非常に重油に転換してしまつた。なぜかと言うと、供給が不安定である。そこで工業が全部重油を使うようになつた。石炭が売れなくなり、ますます石炭鉱業は苦しくなる。今度私どもは、何とかひとつ石災の方に再転換して石炭の需要を安定せしめ、そうして石炭鉱業を安定せしめ、そこに働く労働者諸君賃金を安定せしめるという方向に向おうと思つて努力いたしておるのでありますが、今のように第何波々々々ということで、しかも非常にわずかの人がストをやる、実質的に仕事を放棄するということによつて全体の企業が麻痺してしまう。毎日々々九万トンも石炭がゼロになつてしまうというような状況を続けておりますと、ほんとうに日本の経済というものはどうにもならぬところに持つて行かれてしまうのではないか、あるいは政策の相違とか、吉田政府かよくないとか、そういうことはいろいろあるでありましよう。反米、反吉田、再軍備反対というようなことで組合側がやつておられることは、私ども聞いておりますが、そういうことを言つておりますうちに、結局自分自身の職場を食つてしまうということになるのではないかということを非常におそれている。どうかそういう階級的な立場ということよりも、日本民族と日本国家をどうするかということを考えて、このあたりで労働問題は大転換をしないと、悔いを千載に残すというようなことを心から私は憂えているのであります。政府といたしましても、もちろんできる限り、また至らざる点については三省したいというふうには考えておりますが、とにかく全体の基盤を破壊するということになつては、これはどうもならぬ。そういうことを強く考え、その線で政策を遂行して行きたい、こういうふうに思つておるわけであります。
  77. 井堀繁雄

    ○井堀委員 今の私のお尋ねしたことで、賃金の較差が非常にはなはだしくなつているという事例に対しては、数字をお認めになつておるわけであります。このように懸隔がはなはだしくなつておるのを、どうして縮めるかということについては、お答えをいただかなかつたのです。それでだんだんと較差が縮みつつあるという御説明がありましたが、統計は必ずしもそうなつていないと私は見ております。また今年は私はもつと較差がはなはだしくなるのではないかという心配をすらしておるわけであります。それは、たとえば吉田政府産業経済金融政策を見てみましても、あるいは財政政策の上から見てみましても、中小企業がもつとひどいあおりを食うであろう。あなたがどう御解釈なさるか別として、尋常一様にものを見る者なら、中小企業は相当大きな企業の縮小なり、あるいは事業を中止するような運命に追い込まれる部分が相当増大するであろうという見方は、間違いないのではないかと私は思う。それから中小企業の部類にありましたものが、家庭工業もしくは一般にいわれる零細企業に転落する傾向も、もう露骨に出て来ております。こういう日本の事業場からいえば九八%を占める事業場、労働者の数からいつても六〇%以上を占める人々の運命は、決して楽観できないと思う。もしこれが楽観できるという資料がおありありますならば、ひとつ具体的に御提示願いたいと思う。遺憾ながらこの点は、よも労働大臣も否定はされないと思う。中小企業、すなわち労働の基礎である中小企業それ自身が動揺を来して来るところに、給与の引上げや、めるいは賃金ベースが増大するなどということはどても考えられることではないのです。こういう中小企業に対する対策というものは、もちろん労働問題としてのみ処理できないであろうこともよくわかつております。しかし、労働行政の中からこの問題を強く取上げて行かなければならない。たとえば、私どもの考えるところからいたしまするならば、こういうときにこそ、中小企業の保護策というようなものが強く叫ばれるべきではないかと思う。ところが、きようの御説明の中に異なものを感じましたのは、中小企業を圧迫するからという理由で、基準法関係法規を大幅に改正されようとすることは、まさにこれは逆コースである。組織率が非常に低くて、労働者の抵抗力のないところにこそ、労働保護法の使命があるはずである。大手筋のもとに働いている労働者にとつては、労働協約、団体交渉等の実力によつてある程度労働条件を守り得ることと思う。ところがそういう組織を持たない、団体交渉力を持たない零細企業にあつて、十分な労働者の発言がなく、労働条件を守ることができないような実情にあるところにこそ、労働基準法の強い発動がなければならぬと思う。これを改悪することは、どうしても理解ができません。一体この改正が、基準法の発動を活発にすることができるとお考えですか。そういう意味で、ひとつあちこちに話をそらさないように——先ほど労働組合の行き方についてお話がありましたが、このことについてはまたあとでお尋ねをいたしたいと思います。でありますけれども、一番切実な当面の問題になつております賃金の較差がはなはだしくなつておるものを、上を下げて下にくつつけるというなら、これは労働大臣考えが通るかもしれませんが、上のものを下げるどころではなく、この苦しい状態のものを、どうなりこうなり生活できる賃金水準に近づけるという方向であつてこそ賃金政策である。あなたのお考え標準賃金というものがそういうものであるならば、御説明を伺いたいということをさつきお尋ねしたわけですから、話をほかに持つて行かないで、直接ひとつ御答弁を願いたいと思います。
  78. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 較差を認めてそれをどうするかということですが、端的に申しますれば、較差を少くするということは、下を上にやるか、上を下にやるかしかない、私は上がどんどん伸びて行けば、それだけ物価は上つて行くのでありますから、物価上昇の誘引になる。ですから、物価を押え、上もできるだけ賃金内容を充実するということにして、そして低いところも実質賃金の実体がふえるということにして切り抜けて行かないと——これは私は恒久策として言つているのじやない、理想を言つているのじやない、現実の問題としてこの急場を切り抜けるには、どうしても物価を押えて行く、物価が下つて行くということにする以外に方法がない。物価を下げれば、それだけ賃金の実体がゆたかになるのでありますから、この急場を切り抜けるためには、それ以外に方法がないのではないかというふうに考えるのであります。  中小企業と基準法関係でありますが、なるほどお話のように、中小企業に働く方々については、できるだけの保護を与えなければならぬと私も思つております。しかし中小企業自身をつぶしてしまえば、そこに働く方はどうにもならぬのであります。従つて、中小企業の活動が円滑に行くように、できる限り配慮するということは必要であろうと私は思うのであります。なお、その中小企業内部における労働関係については、できるだけ政府も注意いたしますし、中小企業に従事される雇用主自身においても、できるだけの配慮をされることと私は期待しておるのであります。何も法律によつて役所に書類をたくさん出させる、そのことで労働者生活が安定するとは思わない。できるだけそういうものを簡素化して、そして中小企業の方々にもよけいなところに労力とか金を使わないようにしてあげ、そして余分はそこに働く方々に上げたい、こういう方針で実は考えておるのであります。基準法施行規則改正等も、まさにそこをねらつておるのであります。  なお、特に井堀さんはよく御承知のことで、蛇足を申し上げて、あるいはおしかりをこうむるかもしれませんが、日本の将来をほんとに考え直してみろ、デンマークを見ろ、スエーデンを見ろというような話がよくあるのであります。しかし、実に条件が違うのであります。デンマークは、御承知のように九州に四国の半分くらいを足した場所で、そこには四百万人しか人がいない。スエーデンにしましても、日本全体の本土に、もう一つ北海道を加えたくらいの土地で、そこに人口が約七百万、すなわち東京都と同じくらいしか人はいないのであります。日本はそうでなくて、毎年百三十五万人から人口がふえている。労働問題に関して見ましても、毎年労働力人口が九十万人からふえておるのであります。この九十万人からふえている労働力人口を吸収していることは、これは世界的に私は驚異に近いと思うのです。そこでその吸収する地盤をつちかわないことには、個々の問題だけを扱つておつたのでは、どうしても解決の根本策にならない。やはり日本の経済全体の拡大ということを考えるほかに、根本的な労働問題の解決はないというように信じておる次第であります。
  79. 井堀繁雄

    ○井堀委員 賃金の較差を標準賃金で埋め合せるという点についての十分な御回答をいただけないことは非常に遺憾に思いますが、私の想像しておりましたことは、上をストップして下も自然それにならえという標準賃金であるなら、これは戦時中の賃金統制令よりももつと悪質なものになる。戦時中の賃金統制令は、最高はストップいたしましたけれども、完全雇用の状態の中にある賃金問題ですから、その危険はなかつたのですが、今日もしあの思想をここへひつぱつて来て、最高賃金をある程度行政的あるいは法律的に定めるということになりますと、これは非宿な労働に対する干渉になるわけであります。これはとんでもないことになるわけでありますから、そういうことをお考えになつておらぬと思つてお尋ねしたのであります。今のお答えでは、最高を押えることについては、はつきりした意見が出ております。しかし下り方を上げるということについては、何も御用意がないようでありますので、いずれこの問題については別の機会にお尋ねをいたそうと思います。  それから、基百準法の問題については、何か手続上の簡素化をはかつて、中小企業者の便宜をはかるという趣旨のように御説明がありました。もしそうであれば、私どもは議論のないところであります。ところが、必ずしも先ほどの基準局長の御説明はそうではありません。しかし、その問題はあらためて議題に供されますので、具体的条章についてはつきりした答弁をいただき、われわれの見解も述べようと思います。  そこで、次にお尋ねいたしたいのは、大臣も言及されておりました人口の問題と雇用の関係であります。これはまつたく日本の人口問題、ことに労働人口が年々増大しつつあります。ここ最近の統計を見ますと、毎年百万に近い労働人口の増加率が統計の上に現われております。そういうふうに、一方には労働人口がどんどん増大するのに、今日の経済なりあるいは財政政策その他の政府の諸政策を総合してみますると、事業の拡大する可能性はどこにも発見しがたいのであります。あるこするならば、MSAの援助による問題だけであります。こういう問題は、まだ今日論ずるときではないと思うのあります。そういたしますと、大体日本の二十九年度における産業経済界は頭打ちで、これからだんだん先細りにはる傾向はあつても、楽観的なものは今日ないとわれわれは見ておる。一方労働人口だけは容赦なく増大するわけであります。こういう一方には労働人口が増大するということは、それが失業人口になつて現われて来ることは申までもないのであります。労働大臣は前回も、完全失業者統計だけを出して、失業者が漸減しつつあるかのごとき見解をおとりのようでありますが、これは先ほど申し上げたきわめて雑駁な議論でありますけれども、決して失業人口はふえても、減つていない。しかもその増大の傾向は加速度的になつて来た。それがある場合は、統計上のケースからいいまして完全失業者というものが増大しないとするならば、統計の中に言つております不完全労働、わずかの労働をするということで失業者ではないということで、統計上のケースから漏れるだけの話であつて、いわゆる潜在失業者というものは増大の一途をたどることは必定だと思う。この失業対策でございますが、今年の労働省方針を見ますると、予算の上から観察いたしましても、今の所信の発表の中に現われておるものから判断いたしましても、たとえば日雇い労働失業対策にしても、わずかに百万か百万足らずの増額を見ておるだけでありまして、これは日雇い労働の自然増に対しても見合わない数字である。それのみではなく、今お尋ねしようと思つております昨年の二百四十九円を二百八十二円に平均日額を予定しておるような資料をいただいたのであります。この増額だけと、失業者の従来就労させました人員とを計算いたしましても、労働省の失対事業費にははるかに及ばない数字になつておるのでありますが、この辺の関係はどうなつておるか。数字的にわかれば、今でなくてもけつこうですからお知らせ願いたい。  こういう点から考えましても、日雇い労働の費用についても、大体削減をして行くという傾向に実際なるわけであります。ましてや新しい失業者をどうして救済するかというようなことは、どこにも出て来ていない。この失業対策は、吉田内閣の全体の経済政策の上からすれば、こには積極的な対策が盛られてこそ、あの縮小政策というものが意味をなすのです。労働政策が、もしあなたの御説明のように、単なる労使の問題に限定しないで、日本経済全体の中に労働行政を求めようというならば、こういうところにこそ特徴が出て来てしかるべきだと思う。何も大蔵省に調子を合せて、緊縮々々といつて引締める必要がどこにあるか。そういうときにこそ失業対策費であるとか、あるいは中小企業のごとき脆弱な基盤にある労働者のために救いの手を差伸べる政策があつてこそ、健全な保守政策として承認されると思う。こういう点から行きましても、反動と呼ばれても一言半句もないと思う。私は今日ほど失業対策に対する積極的政策の要請される時期はないと思う。こういうものに対する何らの具体的なものを見ることができません。何かありまするならば、この点について、もつと詳しく所信を述べていただきたい。
  80. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 失業対策費の高をもつて大体失業対策というふうに仰せられますが、失業対策というものは、実はやむにやまれぬものを吸収するための費用、こういうことでございます。全体の公共事業活動なり、あるいは私企業の活動なり、あるいはそういうようなあつせんへの職安活動なり、こういうものが有機的に運営されるということの方が、失業対策事業として実は望ましいのであります。しかし、それはともかくといたしまして、わが国の人口が、今もお話申し上げたように年々九十万から膨脹しておる。その間にあつての人口動態と、職業のあつせんということは、非常な困難な仕事であることは言をまたないと思います。ただ全般的に見ますると、人口の出生率というものは、最近においては減つて来ておるようでございます。ただ死亡率もまた同様に減つて来ておりますので、この間の自然増加率というものについては、大した動きは見られませんけれども、しかしこの傾向というものは、順次ノーマルなところを目ざして行くのではないかと期待をいたしております。これは私自身の所管というよりも、他に所管がございまするので、私は期待をいたしておるというにとどめておきたいと存じます。  さてその失業者でございまするが、これは最近しばしばの機会に申し上げておりまするように減つて来ておりまして、昨年の十二月には三十一万人というように、昨年の三月に比べますと、三十万人から減少しておるのでございます。しかしお話のように、その間に転職を希望する者、いわゆる潜在失業者というものもあるのでございまするが、私ども労働省の推計によりますれば、大体二百五十万ないし三百万程度ではなかろうかというふうに見ておるのであります。もつとも転職希望というものは、君は転職したいか、それは転職したいと言えば、それは不完全失業者だ、こういう認定をするのでありまして、そのとり方がむずかしいという点はございまするが、そのように見ておるのであります。しかし全体の失業対策なり失業保険費の繰入れというものについては、今お話がありましたが、私どもとしては非常に努力はいたしてみたつもりでございます。失業対策事業の補助というものは、御承知のように昭和二十七年度におきましては八十億円でございます。それが昭和二十八年度では九十七億円になり、それが風水害の費用を入れて百億三千万円になつたのでございまするが、それを今回百十一億にしております。私どもとしては、これは最終的な、どうにもならぬものの対策費の補助でございまするから、これくらいの程度で大体行くのではないかと見ておるのであります。失業保険費の繰入れの方におきましても、九十一億五千万円ということで、見ておりまするが、これは昨年は月二十億円程度であります。これを一割増しの二十二億円組んでおりまして、今申し上げたように、使い方の方はそれほどふえていないのであります。おそらく今年度の予算では不用額が出るものと考えております。例の風水害がありましたときに、予算を緊縮して補正予算を組んだ際にも、若干不用額を計上しておるのであります。そういうような状態でございますが、失業保険費の方については、私は絶対に心配はないと見ております。ただ失業対策の補助費でございますが、これは突発的なことでも起りますればどういうふうに動くか、それはそのときの事情による点もございますが、大体失業対策費の補助を非常にたくさん組むという予算の組み方自体にそういうことを考えるとすれば問題があろうが、これはやはりそのときの事情によつて組むべきものでございまして、現況においては、他の事情に特別な変更のなき限りこの程度で、今までの実態的な経願から割出して、よかろう、こういうように思つておる次第でございます。そうした金をただあげるということよりも、むしろ職業補導というような面でできるだけ政府の施設を活用していただく、こういう方針に重点を置くべきではなかろうかと存じまして、この失業保険費の中から、前年度は一億円程度でありましたものを本年度は四億円とりまして、各地に職業補導の断設をつくり、また簡易宿泊その他の施設もつくるというようなことを考えておる次第であります。
  81. 井堀繁雄

    ○井堀委員 失業問題というものは、どのようにお考えになるかということで処理することのできない現実の問題で、どんなに大臣が希望的観測を下して失業者を少く見積ろうとしても、完全失業者については統計の上でどうなさつてもけつこうでございますが、労働人口がふえて来て仕事が減るのでありますから、移民でもさせれば別ですが、そういうことはあり得ぬことで、どうしても潜在失業者がふえるのです。それに対する対策がないということは、まつたく労働政策がないといつてもいいくらいで、この点は真剣に考え直してください。何か突発的な事故に対して特別といつたようなことを言つておりますが、今年は一兆を絶対割らぬと言つてがんばつておりますから、どんな事情があつて補正予算をやらぬかもしれませんし、そういう点は、ただ言うだけになるでしよう。  そこで、私がもう一つ伺いたいことは、今大臣が触れられたのですが、過剰労働人口をどういうぐあいに吸収して行くかという雇用増大の対策も、もちろんやらなければなりません重要な問題であります。効率的な労働力をつくるということについては、先ほど職業補導の問題を取上げられましたが、最近職安法によつて徒弟制度の問題がだんだん解消して来たことはいいことでありますが、この反面に熟練労働者を養成する道が断たれて来た。ことに中小企業の部面においては、まつたくとざされたといつてもいいくらいで、この問題はどうしても職安法の裏打ちとして職業補導というか、熟練労働者の養成機関というものが考えられなければならぬ。ところが今年の予算で、民間あるいは業者の間の技能者養成に対する補助金が打切られてしまつた。これもコースとしてはまつたくあべこべだと思うのです。そういうものに対してしかるべく手をお打ちになる用意があるのか。予算で切られても他の方法で——職業補導費は増額したとおつしやつておりましたが、そういうものを一体従来の技能者養成等に対する補助金の形に使いかえることができるかどうか。こういう問題は小さな問題のようでありますが、あなたが重要な失業対策の質問に対する答弁にあげられましたから、お尋ねするのであります。そういうものも実は削つております。こういうことは非常に重大な事柄だと思うのであります。ああ言えばこう言うというふうに逃げるものではありません。ですから、どうしても失業対策に対しては補正予算を組む用意をなされる必要があると思うのであります。こういうような点について、必要上というお言葉をお使いになりましたが、もつとそれを平たく解釈して、労働行政についてはもつと真剣に考えて、ことに失業対策について準備をなされる用意があるかどうか承つておきたい。  次に、もう一つ具体的なことをお尋ねしておきたいと思います。予算の中を見ますと、出先、ことに基準監督署の予算は、前回もちよつとお尋ねしたのでありますが、基準協会とか何々協会という基準監督署を中心とするいろいろな協会や団体が、民間ことに業者によつてつくられて、そういうものの寄付金が、出張旅費をまかなつたり、あるいは基準監督署の備品や什器を購入する費用に充てられたりしておるのです。このことは、そうでなくても監督者と監督を受ける業者との間にとかくの疑惑を生む事柄で、この前質問した際、局長はそういうものはやめたいというお話でありました。しかしそういうものに足りない費用を求めて、ようやく非常な不如意な活動が行われているのであります。今年は基準監督行政については、そういうものを廃止するかわりの予算をとるだろうと思つて見ておりましたが、まだ私の検討が足りないのでわからないのですが、そういう予算をおとりになつておるかどうか。  もう一つ、それに関連してでありますが、聞くところによりますと、行政の簡素化というような名義に基いて、出先の基準監督署あるいは安定所というようなものを地方に移管してしまう、あるいは半ば移管のものを完全に移管してしまうというような計画があるやに聞いておりますが、むしろ今日の監督行政あるいは職業補導もしくは職業の紹介指導というものは、国が統一的に中央に強力なる指導力を持つてこそ、初めて万全を期すことができるものである。これをばらばらにしておくということは、必要でない警察行政の中央集権化をやろう、教育の中央集権化をやろうという考え方と、ちようどうらはらであります。まさかそういう一方の関係で出て来たものではないと思うのでありますが、これは単なるうわさかどうかを伺つておきたい。また労働大臣は、そういうものに対してどういう御所信を持つて望まれるか、決意のほどもこの際明らかにしていただきたいと思います。
  82. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 失業の問題については、先ほどから繰返し申し上げておりますように、とにかくこれだけの小さい国でこれだけの労働力が出ている。しかも完全失業者は減つておるのでございますから、転職希望者あるいは潜在失業者があるということは当然なのであります。それを特に強調されても、解決策は結局産業の拡大以外にはないと私は思う。また国家が財政投資を活発にいたしますことも必要でありますが、これは一部においてインフレの原因になるので、やはり貿易の振興以外にはない。それには物価を下げなければならない。それにはやはり一兆円予算を堅持して、どうにかしてこの苦境を乗り切らなければならない、こういう方針で私どもは大きく考えておるのであります。  なお、失業対策費を補正予算で組むかどうかというお尋ねでございましたが、私は今申し上げたように、これでやつて行けると考えておりますけれども、天変地異が起ればこれはまた別問題であります。しかし、そういうことはないと考えております。  なお、技能者養成の補助費が削られたということについての御意見でございました。これは一千万円以下の補助金が全部整理されましたことは、さつき御報告いたしました通りでありますが、技能者養成のための費用というものは、井堀さんよく御承知のように、全国に総体にしてわずかな金額をまわしておりまして、一事業所について二万円とか、多くても三、四万円というようなところが多いのであります。そこでこれだけの補助をもらつても、一体技能者養成の実をあげ得るかどうかというと、これはきわめて記念品程度のものになつてしまいますので、それよりはそういう金をまとめて、国家が一つそういう技能者養成施設をつくる方が、あとにも残るし、私は本筋ではなかろうかと思うのであります。ただ労働大臣としまして、そうした技能者養成について熱意を示し、これに大いに関心を持つて事業所において技能者養成をせられたいということを表明する手だてとしては、三万円なり二万円なりあげるかわりに、またほかの方法もあろうというふうに私は考えまして、技能者養成を鼓舞激励する方法につきましては、十分考えるつもりでおります。  なお、基準監督行政の費用がふえているか減ついるかということでございますが、これはふやしました。なおこれはこまかい点でございますから、基準局長から中正な立場で答えてもらいたいと思います。
  83. 亀井光

    亀井政府委員 先般当委員会において、井堀先生からも、基準予算の獲得につきまして非常に御激励をいただきまして、折衝したのでありますが、一兆円という超均衡予算わく内で相当の制約を受けたのでありますが、基本となりまする維持管理費の面を見ますると、基準局におきましては昨年が一庁当り五十一万四千、それが二十九年度におきましては六十一万二千に増加しております。また監督署におきましては一庁当り十二万九千が十三万七千というふうに増額されておりまするし、さらに維持管理費におきましては、これは一般会計のほかに特別会計がございまして、特別会計全体の業務取扱費、その中のいわゆる維持管理費に該当するものにつきましては、約六千万円ほどの増額を見ておるのでございまして、こういう面から申しますと、二十八年度に比べまして、二十九年度におきましては相当これらの予算を合理的に使用することによりまして、基準局なり監督署の運営に支障を来さないものと思います。
  84. 井堀繁雄

    ○井堀委員 失業対策の問題につきましては、非常に私は重大な社会的な要素を含んで出て来るであろうという懸念をいたしておりますから、非常に雑駁なものではありましたけれども、一応政府労働政策の中においても、失業対策については、何も緊急突発の事項が起る起らないということではなしに、必然的に起つて来まする労働人口の増大と、事業場の縮小との矛盾は、かわすことのできない事実でありますから、しかるべき対策を私は望みたいと思います。  そこで賃金の問題に関連いたしまして、失業の増大が労働条件をやはり引下げて来ることも必至でありまして、むしろこういう時期にこそ最低賃金を設けて、これを守るという行き方、すなわち労働基準法の精神に基いて、行政官庁は最低賃金考えるべきであると私は思うのであります。先ほど黒澤君の質問に対してお答えでありましたが、こういう点についても、せつかく御検討を願つて、最も近い機会に基準法の明文が名実ともに生きるように、行政官庁においてこの最低賃金の問題をお考え願いたい。最低賃金の問題について熱心に主張されておりますので、われわれ大いに期待をいたしております。どうぞ物価を引下げることのために、国務大臣としての努力を要請いたしたいと思います。しかし努力のいかんにかかわらず、物価はじりじり上つて行くであろうことだけはいなめないと私は思つております。これに対して労働賃金引上げの要求が同時に起つて来ることも、これはいかんともしがたい遡勢だと思うのであります。  そこで次にお尋ねいたしたいのは、大臣も言及しておりましたが、労働組合の健全な成長を期待しておるかのごとき発言がありました。これは私は基本的なものだと思うのであります。今日産業平和を期待し、もしくは日本の自立経済達成のためには、経営者側が一切の犠牲を背負つて、日本経済復興のために努力しななければならぬこと、あるいは大臣も指摘されておりまするように、事業近代化をはかり、ことに中小企業の事業形態というものについては積極的な改善を要すべきものがたくさんあると思うのであります。こういうものとも関連させて行かなければ、賃金問題の解決失業対策も成り立たぬと思うのでありまして、そういう意味で労働行政を取扱おうという考え方に対しては、われわれは強い関心を持つております。それが具体的になつていないことが、今までお尋ねをして明らかになつたようで、非常に悲観的な感じを強ういたしましたが、一段と積極性を見せて、具体策を近いうちに発表していただくことを希望しておきます。  そこで、労働組合に対する問題であります。とかく小坂労働大臣の従来一貫しておりまする方針のように伺つておりまするが、どうも吉田政府の性格であるかもしれませんが、労働組合を敵対視する立場に立つておる。階級闘争と労働組合は言いますけれども、吉田政府は、労働組合に対する限りにおいては、私は敵対視する立場に立つて物を判断しておるのじやないかという疑いすら持たれるのであります。もつと労働者の人格や組織を尊重するという建前に立つて労働行政というものが、労働組合対策の上に現われて来なければならぬと思うのであります。そういう問題に対しまして、今まではつきりした見解は、とかく反対の態度のように理解されて参りました。たしえば公労法の問題についても、新聞の伝えるところ、またきようもちよつと漏らされておりますが、もつと労働組合の健全な成長を希望しようとするならば、ごく少数の例外的な失敗や、あるいは指導者の欠点だけを取上げて、それが日本の労働運動の趨勢であるかのごとき言い方は、改めらるべきではないかと思う。日本の労働運動は、私はだんだん成長して来ておるということは明らかな事実になつておると思うのであります。そういう健全な労働和合の成長をはばむような政策というものは、厳に慎まなければならぬのじやないか。口に健全な労働組合の育成を、言いながら、事実においてはまじめな労働運動までがゆがめられるような政策の出し方というものは、厳重に注意しなければならぬと思うのであります。こういう問題について公労法を——新聞の伝えるところによりますると、自分の責任を他に求めるがごとき改正であつたと思つておりましたが、それを出される御意思がないようなお話でございましたので、おのずから問題は解消したようでございますけれども、そういう考え方がどこかにひそんでおりますると、私は健全な労働組合の成長に対してサービスする役所としては、欠くることになると思うのでありまして、こういう問題について、もし具体的に今後労働組合主義の完全な成長を期待するというならば——まあ、これはいわゆる労政局の仕事だと思いますけれども、具体的にこういう方針ならこういう指導、どういう協力をするといつたようなものがなければならぬと思うのでありますが、労使懇談会における労働大臣の発言だけをわれわれ間接的に見ておりますと、どうも大臣個人の意思じやなく、吉田政府の意思かもしれませんけれども、そういうものに対する行き方は適当でないと思われる節々がたくさんあるのであります。時間の関係もございますので、この問題については、他日労使懇談会における大臣のいろいろ主張されたこと、希望されておりますること等に対する報告書を委員会にひとつ御提示願いまして、そういうものについてもわれわれは十分関心を持つておりまするので、資料として伺つて、それからまたお尋ねをいたそうと思つております。もし労働組合の健全化について何か計画がおありなら、この際明らかにしていただきたいと思います。
  85. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 最初にお断り申し上げておきますが、公労法の問題につきましては、この委員会でも御要求がございましたから、試案をお目にかけまして、どうか十分御検討願いたいということを申し上げておるのであります。また公企体そのものについて種々研究したいということで、公企体の合理化委員会もできますので、その方の研究も進めて参りたいということで、この国会には出すか出さないか、あるいは提出の時期はいつかということについては何も申し上げられない、こういうことを言つておるのでございますから、誤解のないようにお願いしたいと存じます。  なおわが国における労働運動というものは、御承知のように、終戦後非常に急速に多彩な発展をいたしたのでございまするが、まだ何と申しましても、時期も年数も十分に経過いたしておりませんので、その貴重な経験を通して、あるいは失敗を通して改善されるという経験も少いので、まだこれから幾多研究し、発展されるように、私どももいろいろ考えて参りたいと思つておるのであります。イギリスのTUCなどにおきましても、労働党内閣から保守党内閣になりましても、政府が、政党がかわつたからといつて、いきなりこれを敵とするという考え方はないようで、自分らの方針としては、やはりイギリスの産業を守り、そしてわれわれの生活を守るというような方針で進むんだということを言つておるようでございまして、わが国労働運動も、政党ではない、政治運動ではない、あくまでそうした健全な労働者自身の生活を守る運動として、健全に発展されて行くように私は期待しておりまするし、またその面でも、機会あるごとにひざを交えてお話をするように心がけておるつもりであります。  なお労働問題協議会というものは、労使の問題をさらに第三者がどう見ておるかということで、懇談の機会を持つということで続けておりまするが、非常に労使双方とも有益な示唆を招くということで、喜んでいただいておるように考えております。なお主催は、私どもも出てはおりまするけれども、やはり私の諮問にこたえるというよりも、自由に討議していただく、こういう方針で臨んでおりますので、非常に各種の活発な意見が開陳されておりますから、折を見まして、その事情等も申し上げるようにしてよろしいと考えております。
  86. 井堀繁雄

    ○井堀委員 時間もございませんので、最後に希望を申し上げておきたいと思います。労働者福祉対策関係いたしまする点で、言及されました。この点につきし止しては、いずれ予算の裏打ちがなくてはできないことばかりでありますが、また労働省予算を見ますると、特別な数字を見ることができませんけれども、できないなりにも、私はこういう時代においては、一方には労働者の健全な組織活動を期待し、一方には労働者生活が安定されまするためには、先ほど来いろいろ賃金の問題で論議されましたが、実質賃金を引上げて行くということは、物価を引下げると同時に、労働者福祉活動に対する積極的な労働政策というものが、出て来なければ意味をなしませんので、こういうものに対しまして、もつと具体的な、実際に即し実践できるような政策というものを、ぜひ提示するように御用意を願いたいと思つております。  以上いろいろお尋ねいたしましたが、これをもちまして、私の質問を終りたいと思います。
  87. 持永義夫

    持永委員長代理 本日はこの程度にとどめまして、次会は明後十九日午前十時から開会いたすことにいたします。  それでは本日はこれにて散会いたします。     午後四時三十五分散会