○井堀
委員 小坂労働大臣から、
昭和二十九年度の吉田
政府の
労働政策について
所信の発表がございましたが、その中で私どもの非常に心配にたえない事柄は、今年の吉田
政府の全般にわたる政策の中で、いずれを見ましても、
労働問題に深い
関係を持たない事項はないとい
つていいほどに、今年の
労働行政は、いろいろな意味におい非常な困難に遭遇するのではないかと想像されるのであります。にもかかわらず、ただいま
小坂労働大臣の
所信を伺いますのに、かなり楽観的な立場に立
つておるのではないかと懸念されるのであります。たとえば、
労働省の重大な
予算のそれぞれの項におきましても、かなり大幅の削減ないし
現状維持である。そこでただいまお尋ねをいたそうと思いますおもなる項目についてでありますが、たとえば
労働大臣の、
労働行政の
方針として日本の
産業自立達成のために
労働問題を取上げようとする
考え方につきましては、まつたく同感であります。そうでなければならぬと思います。狭い
労使関係に限定されることは、
現状からい
つてとうてい許されなくな
つて来るであろうと思う。そういう観点からいたしまして、たとえば私との最も関心の高い
賃金政策について、かなり多く論じられております。ここにも述べられておりますように、
労使紛争の最も重要な課題をなしておりますのが
賃金であることは、申すまでもないのであります。この
賃金問題の紛争を未然に防止しようとする意図は、よくわかるのでありますが、それを防止するための政策というものは具体的でなけらねばなりません。ただそういう紛争を避けたいという欲求だけでは、政策にも対策にもならぬわけであります。
〔
赤松委員長退席、
持永委員長代理着席〕
そこでお尋ねをするのでありますが、
労働大臣の
考え方は、本日も述べられ、また過日の
労使懇談会の席においても態度を明らかにされておりますが、
標準賃金を設けて、それによ
つて賃金問題を
中心にする紛争が避けられるのではないかという淡い観測の上に立
つておるように思われる。このことは、これから伺うことによ
つてはつきりすると思うのであります。私どもはそういうふうに簡単には
考えていないのです。たとえば、今指摘されておりますように、
物価と
賃金の悪循環をどこで断ち切るかという問題が大きな問題であることも申すまでもないのであります。その悪循環を断ち切るのに、一体
標準賃金がどれだけ役に立つか。これは申すまでもなく党派の相違や政策の
根拠を異にすることによ
つてかわるものではないと思う。今、日本の
産業復興のためには、何といいましても
労働者の旺盛な生産意欲と高い技術と能率が要求されて来ることは、疑いをいれぬところであります。日本はあらゆる条件が悪いのでありますから、その悪い条件を克服する一番適当な、しかも効果的な道は、
労働者の高い能率と努力にまつ以外にないのではないか。こういう場合に、何を優先して政策を推し進めるかということになれば、こういう問題を先に取上げなければならなくなると思う。こういう点に対して、多少触れておいでになりましたが、しかしきわめて抽象的であります。そこで、その問題を解明いたしますためには、今日の生産のにない手である
労働者の
生活が、その生産をになうに足る状態であるかどうかということが、事実問題として指摘されなければならぬ。ここにあげられている数字を見ますと、先ほども黒澤
委員から指摘されましたように、ただ単に
国民所得の割合が大きいからという数字だけを出して、いかにも今日の
賃金が一定の段階に達しておるかのごとき見解を主張されますが、これはまじめに
考えておるとすれば、たいへんな誤りであるし、
承知の上でや
つておるとすれば、きわめてずるいものの表現だと思います。もしまじめに
賃金の
実態を数字に取上げるならば、先ほども黒澤君の質問にお答えにな
つておりましたように、最近の
労働賃金の較差のはなはだしい事実、これは、実際問題として即急の
解決を急がれている問題でありますから、この点について正確な御答弁をお願いしたいと思うのです。私どもの
承知しております数字で、
労働省の発行されております
統計資料、総理府の
統計等によりまして明らかにされますのは、たとえば
労働賃金の較差であります。最も新しい
統計でありますが、
昭和二十八年八月現在の給与の
実態は、三十人以下、百人から五百人、五百人以上という三つの段階をと
つてみますと、五百人以上の平均
賃金が、製造業だけに限
つてみましても一万七千七百六十七円、それが五百人以下百人までになりますと一万四千二百円、さらに三十人以下になりますと八千六百八十一円という較差が表わされておる。さらに三十人
未満のものについて見ると、
統計の時期が多少ずれておりますが、二十七年五月現在を見ますと、二十人から十人の間においては七千二百九円、九人以下になりますと六千九百五十四円という
統計が出ておるのであります。これはかなり実際に近いものであるとわれわれ捨用いたしておるのでありますが、そこで、こういう
賃金がどういう割合を占めておるかということをお尋ねいたそうと思うのであります。私どもの
承知いたしております総理府の
事業所
統計調査をも
つて見ますと、常時雇用されている
労働者の数が二百人
未満のものを中小企業と
規定してその
わくに入れておるようでありますが、その数は、全体の
労働者の数から見て、製造業だけの
統計で六八・二%にな
つておるでありますから、百人のうち六十八人までが、さつきあげた一万二千円から九千円前後七、八千円程度の所得になるという想定が許されるわけであります。そうすると、日本の
労働人口の半ばが、働きながら満足に
生活のできないような、
賃金がこんなに低い状態である。それを、たとえば最近の失対
事業の場合に引直してみましても、今年の
予算では失対
事業については多少引上げられて私の伺
つております数字が誤
つておれば、あとで御訂正を願いますが、たしか二百八十二円という基礎にな
つてお売るようであります。一日二百八十二円の失対
事業に雇用されておりまする日雇い
労働者が、二十五日働くと仮定しますならば、七千五十円になるわけであります。これは失対
事業法の精神にも明らかなように、その
労働を期待するのではなくて、仕事のない者に仕事を与えるという、いわばその
労働の質や量に期待をかけない
賃金の目安であります。さらに、もう
一つの例を
生活保護法に求めてみましても、
政府の出されております
資料の中におきましても、今年増額をされまして、六大都市における
生活扶助費の最高を見ますると、月額八千六百円、その他の都市におきましても、七千五百二十二円。それから
生活保護法の取扱い実例が報告されておりますが、それを見ましても、四人世帯で、出産扶助を一部受けておりますが、七千八百十円、それから地方のいわゆる二級地、三級地の例も出ておりますが、四人世帯で、一部教官扶助を受けておりましても、八千四日五十四円、こういうように今日
——何も憲法の二十五条を持
つて来なくても、
労働を提供しながら、その
生活が土活保護法以下である、日雇い
労働者の給与以下であるという、こういう
実態、りくつを抜きにして
解決せなければ、私は
賃金政策などというようなものはまつたく問題にならぬと思う。こういう数字について、もし私のあげました数字が間違
つておれば御訂正を願うわけでありますが、こういうごく大ざつぱな
統計を見ましても、今日の中小企業と目される日本の重要な企業のにない手である
労働者の
賃金、給与の
実態は低いのであります。これは
一つには、
労働者の組織がきわめて弱いということ
——これから
統計行政に対して力を入れる十言
つておられますから、こういう数字をどんどん出してわれわれに勉強させてくれることと思うのでありますが、こういう当面しております切実な問題をどうして
解決なさるか。それを
労働大臣がお
考えにな
つておるように、
標準賃金というようなもので
解決されるというなら、一体どういうぐあいにして
解決なされるか、まずこのことについてお答えを願
つて、さらに続けて参りたいと思います。