○草葉国務大臣 ただいま議題となりました
昭和二十九
年度厚生省所管予定
経費要求額の概要について御
説明を申し上げます。
昭和二十九
年度厚生省所管
一般会計予算の
要求額は七百五十三億六千百九十四万七千円でありまして、これを
昭和二十八
年度予算額七百三十二億八千七百三十二万三千円に比較いたしますと二十億七千四百六十二万四千円の
増加と相なります。またこれを
一般会計の
予算総額に対比いたしますとその七・五%と相なり前
年度の七・一%に比べまして〇・四%増しているのであります。
今右
予算のうち特に重要なる
事項につきまして、その概要を申し上げますと、まず第一に社会保険の
充実強化の施策に伴う
経費であります。社会保険は社会保障
制度の重要なる施策といたしまして、逐年その
整備、強化、
充実に特段の努力をいたして参
つたのでありますが、
昭和二十九
年度におきましては引続きその
充実に力を注ぐことといたしたのであります。すなわち、まず勤労者の年金
制度であります。厚生年金保険につきましては、その中核ともいうべき養老年金の給付が本年一月より開始されることと相
なつておりますが、その年金額は年額千二百円の少額にすぎず、現在の経済事情とはあまりにも乖離しておる感がありますので、今回これが大幅の
引上げを行うとともに、新たにこれに扶養加算を支給することといたしましたほか、在来の障害年金等の扶養加算につきましては倍額の
増額及び低額年金の
一定額の
引上げ等を行うことにいたしますことによりまして、その所要財源の補充のために、従前
一般分一割の国庫
負担を一割五分に
引上げることといたしたのであります。なお坑内夫に対する分につきましては、従来に引続き二割の国庫
負担を行うことといたし、厚生年金保険の給付財源に対する国庫
負担に必要な
経費八億八千八百万円を計上いたした次第であります。
次に日雇労働者健康保険
制度は本年一月より
実施されたばかりでありますので、その成果につきましてはまだ把握され得るところまでは参
つておらないのでありますが、いずれにいたしましても現行
制度では、この給付期間はわずか三箇月にすぎないので、これを六箇月に延長いたしますとともに、新たに給付金の一割を国庫において
負担することといたし、これに必要な
経費として二億九千万余円を計上したのであります。なお健康保険等の、他の社会保険と同様その保険
事業運営のため必要な
事務費を
全額国庫
負担といたしますほか、保健
施設費及び福祉
施設費につきましても、その
全額を国庫において
負担することといたしておりますことは、前
年度と同様であります。
さらに同民健康保険につきまして、前
年度に引続いてその健全な運営を
助成するため、療養
給付費の二割に相当する金額を、各保険者に対して療養給付額、財政力及び保険料の収納成績等考慮いたしまして、算定交付することといたし、これに必要な
経費四十一億余円を計上いたしましたほか、赤字保険者に対し、前
年度に引続きましてその再建
整備をはかりますための
貸付金といたしまして、一億円を計上いたしております。
次に第二は、国民医療の
整備改善のために必要な
経費であります。最近におきまする国民保健は、死亡率低下、平均寿命の顕著なる向上等によりましても明らかでありますように、その改善は目ざましいものがあるのであります。もとよりこれは医学の進歩と優れた薬品の発見等に負うところが大きいのでありまするが、一面また医療機関の
整備、疾病予防に対する積年の施策の成果によるものでありますることは申すまでもないところでございます。政府といたしましてはこれに満足いたすことなく、さらに国力の根底をなします国民保健の向上に不断の努力を払
つて参る所存でございます。
まず結核対策につきまして病床がいまだ不足を告げておりまする現状にかんがみまして、引続き
公立三千六百床、法人立一千八百床、社会保険立三千六百床、以上合せまして九千床と大幅の
整備を行うことといたしました。これに必要な
経費十五億一千五百余万円を計上いたしますとともに、結核回復者に対する後保護
施設二箇所を新設する予定でありまして、このための
経費二千四百余万円を計上いたします。また医療費に対する公費
負担のための
経費十六億八千百余万円、
国立を主とした結核療養所の経営のための
経費九十七億四千余万円、さらに予防施策といたしまして、健康診断及び予防接種等のほか、患者家族の保健指導に重点を置いて、それぞれ所要の
経費を計上いたした次第であります。以上結核対策のための
経費合せまして百三十三億五千八百万円を計上したのであります。
次に癩対策のための
経費でございます。癩対策の要諦は申すまでもなく患者を一人も残さず療養所に収容し、他に伝染する
機会を根絶することでございます。このためには患者をして療養所に安んじて入所せしめて療養に専念せしめる必要があるのでございます。この施策といたしまして入所患者の家族で生活に困難する者に対しましては、
全額国家でその生活を援護することとし、秘密の保持を考慮して府県の衛生部をして直接
実施せしむる予定でありまして、これに必要な
経費四千四百余万円を、新たに計上いたした次第でございます。また癩患者に対する医療の総合的研究機関といたしまして、いまだ何ら見るべき
施設がありませんので、今回新たに
国立の癩研究所を設立することとし、これに必要な
経費約三千三百万円を計上いたしますとともに、
学校、保育所及び作業所等療養所の
施設整備のための
経費二億二千百余万円のほか、入所患者の処遇改善のための
経費等、療養所の経営に必要な
経費十四億三千二百余万円を計上いたした次第であります。
次に精神衛生対策のために必要な
経費であります。社会生活の複雑高度化に伴いまして精神障害者が漸次多発する傾向がありますのにかんがみまして、精神衛生対策を強化することといたしたのであります。すなわち病床
整備のための
国立三百床、
公立、法人立一千八百床、合せて二千百床を
整備することいたし、そのための
経費二億四千六百余万円を計上いたしました。また
国立療養所の経営費及び都道府県知事が本人の保護と公安上の必要に基きまして命令する
措置入院に要する
経費に対する
補助のための
経費八億六千九百余万円のほか、新たに精神障害者の実態調査のための
経費百七十三万余円を計上いたした次第であります。
次に
国立病院等、医療機関の
整備に必要な
経費であります。医療機関の
整備につきましては、医療体系
整備の一環といたしまして
国立病院の
地方移譲を
実施いたして参
つたのでありまするが、本
年度におきましてもその一部を予定し、これに必要な
経費一億一千万円を計上いたしますとともに、残置病院に対しましては、名実ともに医療体系の中枢機関としての指導的役割と効率的運営をなし得るようは
整備改善を施す一面におきまして、移譲予定病院についても、その移譲促進のため所要の
整備を行うための
経費等十一億三千万円を計上いたした次第であります。
また
公立一般病院につきましても、その
整備のために必要な
経費といたしまして五千万円、農山村における国民医療に重要な役割を果しまする国民健康保険の直営診療所の
整備のために必要な
経費といたしまして一億五千万円、伝染病隔離病床二千百六十床
整備のために必要な
経費一億八千三百余万円を計上いたしましたほか、前
年度と同様
公立以外の
一般病院及び診療所の
施設整備充実のために、長期にして低利な
資金の融通をはかりまするため、中小企業金融公庫及び国民金融公庫を通じて融資することといたした次第であります。
以上のほか国民保健行政の第一線機関でありまする保健所につきましても、引続きその
整備に力をいたしますることとし、C級保健所の新設及びC級よりA級保健所への格上げ各十箇所を予定し、その
整備充実のために必要な
経費九千百余万円を計上いたしますとともに、国民保健の重要なる基盤であり、また伝染病予防上の基本対策をなす上下水道及び清掃
施設の
整備のために必要な
経費十二億五千八百余万円を計上いたしたのであります。
次に、第三は生活保護に必要な
経費であります。生活に困窮する者に対し、その最低限度の生活を保障し、その自立を助長いたしますために必要な
経費でありまして、扶助の種類は従来と同様であり、その保護
基準につきましても、今後の経済情勢の動向を考慮いたしまして、
教育扶助において
教科書の
無償配付の打切りに伴う若干の改訂を行いましたほかは、従前同様といたしたのであります。各扶助に要する
経費は、最近六箇月の実績人員に人口
増加推計率をも
つて補正したものに、最近六箇月ないし一箇年間の実績単価を
基礎といたしまして、それぞれ所要額を算定いたしまして、その所要額は二百七十七億一千四百余万円と相なるのであります。しかし旧軍人恩給の復活、日雇い健康保険の
実施に伴い、二十八億七千万円の
減少を予想されまするので、差引二十九
年度におきまして必要とされる扶助費は二百四十八億四千四百余万円と相なるのであります。
なお最近におきまする医療扶助費の増嵩と、その支払い事務を社会保険支払い基金に委託いたしましたことに伴いまして、従来繰延べされておりました支払いの促進によりまして、二十八
年度において約三十二億円の不足を生ずる見込みでありますから、過般、とりあえず予備費より十二億の支出を行い、残余の二十億円は二十九
年度早々支払うことといたしまして、前
年度不足分としてこれを右に合せて計上いたした次第であります。
右のほか保護
施設の
整備充実とその経営に必要な
経費九億五千三百余万円、保護法施行のための
事務費三億八千八百余万円、以上生活保護に要する
経費合して二百八十一億八千六百余万円を計上いたした次第であります。
次に、第四は児童保護に心要な
経費といたしましては、児童福祉
施設に収容しておる児童の生活を保障する児童
措置費に四十八億一千余万円を計上いたしますとともに、引続き児童福祉
施設の
整備拡充を行うこととして、その所要
経費五億円を計上いたしました。なお育児、肢体不自由児等身体に障害のありまする児童を援護し、その福祉の増進をはかりますため、これに義肢等の介護用具を支給して参
つたのでありますが、本
年度よりさらにその機能障害を除去いたします医療給付を
実施することとして、これに必要な
経費三千百余万円を加え、身体障害児援護のための
経費といたしまして五千六百余万円を計上いたしたのであります。この
措置によりまして、これまで貧困のため放置されておりました幾多の不幸なる児童が救われることとなり、その福祉の増進が期待され得ることと相なりましたことは、まことに喜ばしいことといわねばならないのであります。右のほか児童相談所及び一時保護所の運営に対する
補助等、児童保護のための所要
経費、合せて五十一億六千九百余万円を計上いたしました。
次に第五は、戦傷病者戦没者遺族及び留守家族援護のための
経費でございます。戦傷病者戦没者遺族等援護法に基く障害年金及び遺族年金の支給に必要な
経費といたしましては三十二億五千五百万円、また未帰還者留守家族等援護法に基く留守家族手当、障害一時金及び療養費等に必要な
経費といたしまして十七億六千八百余万円を計上いたしました。
なお遺族年金及び弔慰金の裁定状況は、二十八年末現在におきまして、受付百九十四万二千余件でありまして、そのうち裁定済みのものは百八十七万一千余件で、処理未済のものは七万余件でございます。未裁定の大部分のものは、身分、死因等の調査判定がきわめて困難なものでありますが、できるだけすみやかにこれを処理して、遺族の方々の期待に沿いたいと存じておる次第でございます。ちなみに旧軍人遺族恩給の処理は、職権改訂される
増加恩給該当者を除きましては、今回あらためて請求書を提出することと相
なつておりますので、その処理手続の打合せ及び
関係者に対します周知徹底に、思わざる日時を要しましたため、現実に申請書の提出を見ましたのは十一月に入
つてからでありますが、今後一層
関係方面を督励いたしまして、極力その処理を促進して参りたいと存じております。
次に第六は、引揚者の援護のために心要な
経費でございます。昨二十八年中の引揚げ人員は、第一次より第七次までのものを合せまして二万六千百二十七人が中共地区より、帰還しておるのでありますが、同地区にはなお相当数の未帰還者が帰国を切望しつつ、いまだに残留を余儀なくされておるものがあると考えられますのみならず、ソ連地区につきましても、先般一千二百六十四人の未帰還者の残留発表があり、このうち八百十一人が客年末帰還を見たのでございます。従いまして本
年度におきましても、これらのものの中の相当数が帰還できるものと期待されますので、一応帰還者五千人を見込み、その援護に心要な
経費八千三百余万円を計上いたした次第であります。
以上のほか社会福祉
事業振興会法に基いて、同会の資本金に充てますための
政府出資金として、三千万円を、また身体障害者に対しては、従来とも身体障害者福祉法に基きまして、補装具の給付等諸種の援護
措置を
実施いたして参
つたのでございまするが、さらにその更生を援護するため、新たに更生医療を
実施するに必要な
経費一千九百余万円、また母子の福祉増進のため、前
年度に引続きまして、母子福祉
貸付金六億円のほか、新たに孤児の修学及び修業のための
貸付金二千万円を、また食生活改善のため、粉食の普及指導に必要な
経費百九十万円を新たに計上いたしたのでございます。
以上、
昭和二十九
年度厚生省所管
一般会計予算のうち重要な施策の若干につきまして申し述べたのでございまするが、このほか保健衛生、社会福祉の各費目につきましても、前
年度に引続きまして所要の
経費を計上いたしておるのでございます。
次に
厚生省所管の特別会計の
大要について申し上げます。まず第一は、厚生保険特別会計でございまして、本年におきましては、前に申し述べましたように、養老年金の給付開始をめぐりまして、厚生年金保険の
整備充実と、日雇い健康保険の期間延長の
実施を行うことといたしました。右に要する
経費といたしまして、健康勘定におきましては、歳入歳出とも四百七十二億六千七百二十一万六千円、日雇い健康勘定におきまして、歳入歳出とも二十三億七千六百十八万二千円、年金勘定におきましては、歳入三百九十五億七千七百二十万八千円、歳出六十九億七千百九十二万四千円、業務勘定におきましては、歳入歳出とも三十二億六千七百五十二万六千円と相
なつております。
次に船員保険特別会計でございまするが、本
年度におきましては、分娩、哺育及び船舶内における療養等の給付を新たに
実施することといたしたのでありまして、これに必要な
経費は歳入三十六億七千九百五十三万七千円、歳出三十億九千三百七十八万四千円と相
なつております。
次は
国立病院特別会計でございますが、前述いたしました
施設整備のほか、血液銀行五箇所、高血圧診療部三箇所、がん診療部二箇所の
創設と、全病床の三分の一に対しまして完全寝具
実施のため所要の
設備整備を行うことといたし、これに必要な
経費等を新たに計上いたしたのでございます。従いまして
経費全体では歳入歳出とも七十五億四千百六十一万円と相
なつております。
以上、
昭和二十九
年度厚生省所管
一般会計及び特別会計の
予算につきまして概略御
説明申し上げたのでございまするが、何とぞ本
予算の成立につきましては格段のお力添えをお願い申し上げる次第であります。