○中島
公述人 私、ただいま御指名いただきました
全日本中小工業協議会中央副
委員長の中島でございます。
私は
中小企業の立場から、この二十九年度の
予算についての所見を述べたいと思います。もつとも
予算についてそれぞれの立場から非常に我田引水的な、あるいは独善的な
意見ばかりを述べていたのでは、これは納まりがつかぬと思うのでありますが、われわれは一応
中小企業の立場とともに、
日本の
経済の健全なあり方という問題についてもやはり考慮をして、その観点も十分に取入れて考えて行きたいということを根本には考えております。
最初に今度の
予算につきまして、この
予算の編成の
方針とか、それと
関連しております、その基礎にな
つておる
経済政策に関するわれわれの持
つておる疑問なり
意見を簡単に申し上げて、それからこの
予算の
内容に関する考えを申し述べたい、かように思います。
二十九年度の
予算を拝見して第一番に感ずる点は、緊縮
予算をと
つておられるということであります。しかし
ほんとうの意味で緊縮されるということが徹底した
方針であるとするならば、むしろそれはある意味では緊縮の仕方が足りないということになるのかもしれません。またそうでなしに、たとえばこれが補正
予算でくずれるとかその他のことによ
つて、さらに新しい
支出を必要とする、あるいは来年度からまた元へもどるということであるならば、おそらく一時的な対策によ
つてできたものはすぐまた元へもどるに違いないと思う。そういう点から、もしも緊縮
政策をとられるということならば、これはある程度継続してやられなければならぬということになると思うのであります。そうな
つて来ますと、この
予算の裏づけは相当長期にわたる
経済の
見通しなり
計画がなければならぬことになるわけでありますが、そういう点についてはどうも
はつきりしないような感じがするわけであります。
新聞などで見ておりますと、総理大臣は長期
計画などは必要ない、そんなものはないという答弁をされたようであります。それはあるいは答弁のあやだ
つたかもしれませんけれ
ども、そういう点についてわれわれ
中小企業あるいは産業
関係者として、どういう
見通しの上にこの
政策を進めて行かれようとするかという点について、若干の不安を持たざるを得ないのであります。もしもそういうものが
はつきりなければ、この
予算の立て方については根本的にまず検討する必要があるような感じがするわけであります。
それから第二点は、緊縮を標榜されておられますが、しかし
予算の
内容を見ますと、かなり不生産的な
支出が出ておるようであります。そういう消費的な
支出が、一方において非常に増大しておるということは、やはりこの緊縮
予算としては非常に大きな矛盾を含んでおるのではないかという感じがするわけであります。
それから第三番目に感じますことは、今度の
予算が、一方において膨張しつつある
国民所得を押える。それを通じて購買力を押え、消費の増大を抑える。それによ
つて物価の引下げをして、輸出の増進をはかるということが根本のねらいにな
つておるようであります。
〔
西村(久)
委員長代理退席、
委員長着席〕
それで、おそらく
経済白書などでせも言
つておりますが、
日本の現在の消費水準なり生活水準が非常に高くな
つて来ておるということを一応前提に考えられてお
つて、ある程度下げられてもいいという考え方の上に立
つておられるのであります。しかしこれらの点につきましても若干疑問を持
つておるのでありまして、もちろん私らは一方において非常なぜいたくが行われておるということを見ないわけには行かないのでありますから、こういう点において不当な、あるいは必要以上のぜいたくというものは、これは当然批制して行くべきものだろうと思います。しかしながら一方、地力の農村におきましても、あるいは都市の
中小企業におきましても、相当に
経済状況的には窮迫しておる者が少くないのであります。こういう点では生活水準を引下げるどころか、あるいは高めなければならない立場に立
つておる者が相当に多いのであります。ことに
中小企業とい
つても非常に範囲が広いために、一番底にある零細
企業ということになりますと、これは労働者の生活と大してかわらない生活をしておる者ももちろん多いのでありまして、ことに大
企業における
組織労働者等に比べるならば、むしろその生活の状況が低い者もあるのであります。こういう面において、この生活水準あるいは消費水準を引下げるということは、実際にはまだなかなかできがたいことであります。
従つて私は、その生活水準の引下げということよりも、むしろ生活水準をある意味で平均化することの力が、現在の
日本にと
つて必要ではないかというふうに考えておるのであります。つまり非常に高過ぎるところは抑える必要がある。しかし低過ぎるところはむしろ若干上げなければならぬ状況にあると考えておるわけであります。そういう意味で現在の
予算の方向は、むしろその間の開きますます大めくして行こうとする傾きが見られるのでありまして、これは逆に、やはりもう少しこの差を縮めて行くことが必要であろうと考えます。現在大
企業と
中小企業の賃金の較差を見ましても、大
企業の賃金に対して
中小企業の賃金というものは約半分ぐらいにな
つております。こういうふうに賃金水準の差があるということは、小
企業者がもうけてお
つて、給料いわゆる賃金を払わないというのではなく、やはり
中小企業の収益が少いということを現わしているわけであります。極端な場合には、工員に給料を払うと今度は事業生の自分の
生活費がないというような実例が非常に多いのであります。そういう点から見て、こういう賃金の較差を縮めて行く必要があります。あるいは
企業の収益において較差を縮めることが非常に必要である。これをます開いて行くような方向は、私は逆な方向ではないかというふうに考えるわけであります。
もう一つは物価引下げをねら
つておられるようでありますが、この物価引下げの
方法として
国民所得を下げ、購買力を押えるような方向をと
つておられるようであります。しかし購買力というのはそう簡単には押えられないものでありますが、これに対していろいろな
財政投融資の削減とかその他の
方法をと
つておられますが、こうい
つたような方向から購買力を引下げて行こうという
方針がどういう結果を生ずるだろうかということを考えてみますと、これはかなり危険な状況をつくり上げるのではないかと思います。また今日の物価、
中小企業関係の製品の値段というのは、ある程度需要供給の
関係によ
つて規整される点がございますが、大
企業関係の特に独占的な価格といわれているのは、そう簡単には下らないのであります。ことに大
企業関係の製品の価格は、どちらかというと、原則として費用決定価格、コストによ
つて決定される価格である場合が多いのであります。こういうものは多少需要が減退したからとい
つて下るものではないのであります。そういう点から見ますと、大
企業の面においては相当に高い価格で製品を売
つて行
つて、
中小企業の製品は下げられて行くということにな
つて来ると、先ほど申し上げました差がますます開いて来て、
中小企業はやはり原料高で製品安というところへ追い込まれる危険性が非常に多いというふうに考えるわけであります。なおこうい
つた方向で、一方で需要が減退して来ますと、現在でさえ苦しんでいる
中小企業には、やはり
倒産その他の者を生じて来る。
失業者も生じて来る。こうい
つた面から社会不安というものを考えなければならぬと思うのであります。また一方におきましては、大
企業は確かにある程度の打撃を受けると思いますけれ
ども、最も主要な産業における大
企業というものは、必ずしもそう痛烈な打撃を受けるとは考えられないのでありまして、これを契機として
企業の系列化というものがおそらくことしだんだんと進んで行くと考えられるわけであります。こういう居合に
中小企業としましては、
企業の一系列の中に入
つて行くものは、ある意味では安定をして来るものがあります。しかし一方は価格をたたかれるとい
つた点について、やはり難点を持
つておるのであります。なおこの系列の中に入ることのできない
中小企業は、相当に困難な状況に立たざるを得ないことになります。かりに、系列の中に入りましても、もしもこの
予算で示される
政策の方向が実現されて来ることになりますと、おそらく大
企業も、やや金詰まりに困
つて来る。かつ財政の引締めと同時に金融の引締めも行われるわけでありますから、このしわは当然
中小企業に寄
つて来ると思うのであります。これにはおそらく二つの形で寄
つて来ると考えられます。一つは大
企業の下請
企業に対する代金の支払いの状況が、まずく悪くな
つて来るのであります。今日においては、極端の例を上げますと、去年の十月に品物を納めて検収してもら
つて、七十六万円くらいの代金をもらうことにな
つておる。これを十一月も十二月も払わない。一月にな
つて初めて六万円払
つた。この六万円も百五十日の手形で払
つた。こういうような極端な例もあるわけであります。こういう下請
関係の問題については、各方面で調査をしておりますので、御承知の方もおありと思います。現在でさえもこういう状況がますますひどくな
つて来るということは当然予想されるのであります。さらに普通の金融機関の引締めを強化して行くということになりますと、これが軒並にまた
中小企業の方にしわが寄
つて来ます。現在におきましても、この
予算の心理的な
影響というものが若干現われておるのでありますが、従来よりも銀行へ行
つて金を借りる場合の
わくというものは、二割、三制くらいは引下げられて来ておるという状況であります。こうい
つた面からの困難というものは、ますます増して来るというふうに考えられるのであります。これは
中小企業に最も強くしわが寄
つて来るわけでありますので、全体的にやはり
日本の
経済に不況の
傾向が出て来ざるを得ないと考えます。少し前に、
経済安定
政策を
とつた場合に、あれによ
つて日本の
経済は幾らかインフレがとまりましたが、
経済的な不況に追い込まれて、非常に困難な状況に立
つておるときに、朝鮮事変が起
つた。朝鮮事変が起
つたことによ
つてほつとしたというのが、
日本経済のそのころの
実情であ
つたと思うのであります。おそらく今度またこれに近い状況の方へ入
つて行く。そのときに都合よくまた朝鮮事変のようなものが起れば、またそこで局面がかわるかもしれませんけれ
ども、そういうものは簡単に期待はできない。そうすると、そうい
つたものでも起して片づけるということになると、非常に物騒な話になるわけでありまして、こうい
つた点においても、私はそういう方向をと
つてでなければ解決できないかどうかということについて、若干疑問を打たざるを得ないのであります。要するにその方向が
中小企業その他多くの犠牲を伴い過ぎる。この犠牲に対する
手当というものは、この
政策の中に盛り込まれてないという感じがいたします。もしも物価を下げるということでありますならば、やはり本格的にこの生産性を高めて行くということ、そうしてコスト引下げという基本的な方向をやはりわれわれとしては考えなければならぬじやないかと思うわけであります。もちろんこの生産性の引上げのために、大
企業方面においては設備その他の
合理化の問題が出て来ます。この点について、私はやはりある程度この線を進める必要があると考えております。ただそういう方面に対する投融資にしましても、従来の実績から見て若干
条件は必要であると思われます。というのは、今日までその方面の
合理化の
資金というのが相当出ておりますけれ
ども、しかし価格は実際においては下
つていない。そうして一方では高率の配当をしておる、労働者には高い賃金を払
つておる、社用族というのが盛んに浪費をしておる、こういうような状況であ
つて、
中小企業に対する代金は支払いをしていないという状況であります。
従つてその方面に対して投融資をする場合には、当然これは
条件付でなければならぬ、なるべくコストを引下げて、価格を引下げるというようなことの
条件をつけて行うべきだと思うのであります。一方そういう大
企業だけに偏することなく、やはり
中小企業の
合理化あるいは近代化という面に対して、当然に相当の顧慮が払わるべきであると考えるわけであります。
中小企業が現在
国民経済の中に占めておる地位というものは、あらためて数字的に申し上げるまでもなく、皆様のよく御承知のことであると思いますので、そういうものは略しますけれ
ども、この重要性というものを十分に考慮に入れなければならぬと考えるわけであります。こういう点で今度の
予算につきましてこまかい例をあげますと、たとえば中小工業に対する技能者養成の補助費というものは、前年度一千万円出ておりますが、今度はこれが削られておる、これは小さな例でありますけれ
ども、
日本の中小工業を今後
育成して行く場合の一つのポイントは、やはり技能水準を引上げて行くということであります。これによ
つて中小工業における生産性を高めて行くのであります。同時に、生産性を高めて行くということは、輸出の大半をにな
つておる中小工業を輸出の方向に向けて行くということに当然私はなると思うのであります。この前の
アメリカのランドール
委員会の報告を見ましても、あれによると、原価構成の面から
アメリカの産業を三つにわけておる、その第二、第三のものは原価構成における労働賃金の高いものである、こういうものに対してはある程度の保護関税
政策が行われる
傾向もうかがわれるのであります。こういう場合に
中小企業の製品が大部分を占めておる
日本の輸出を増進して行く場合には、当然にこの部面における生産性を高め、かつコストを引下げて行くということは当然必要であります。こういう場合に、中小工業の技能水準の引上げのために考えられる技能者養成に対するわずか一千万円の費用も今年度は削
つてある。単にそういう点を考えた場合には、削るべきものはほかに幾らでもあるのではないか一と私は思うのであります。こういう点からい
つて、
中小企業に対する
政策というものはほとんど考えられていないとい
つたような感じを持つわけであります。要するに物価引下げに対してとられておる方向というものは、
経済を
ほんとうの意味で自立をさせる方向に対しては、若干これを停滞させる、あるいは逆行させる
傾向を持
つておると考えられるのであります。つまりコストを引下げるためにも、あくまで生産経営の
合理化を行うということ、それから一方国内的に自給度を高めて行くということがやはり基本のあり方であると思うのでありますが、そういう点を考えずに、ただ物価の引下げを通じて国際的な帳じりを合せるということにばかりとらわれているという感じがいたすのであります。われわれとしてももつと真剣にコスト引下げを考え、品質の向上を考え、さらに新しい市場を開拓して行くために努力をしなければならぬと考えておるわけでありますけれ
ども、そういう面に対する施設の費用というものは、ほとんど十分に見られない状況であると考えるわけであります。
もう一つ、輸出の増進ということが、物価の引下げを通じて考えられておりますけれ
ども、今日のように二重価格が一般的にな
つている場合には、国内の価格が若干下
つても、直接的には輸出の価格に響かない。こういう点からは、輸出の増進に役立つということは非常に少いと考えられておるのであります。こういう点にも一つの難点があるように思われます。
第四点といたしまして、
国際収支と
日本の
経済自立の
関係についても現在の方向でいいかどうかということについて、幾らかの疑問を私は持
つておるわけであります。これは
法人にいたしましても、個人の経営にしましてもそうでありますけれ
ども、今月黒字であ
つても、来月以降赤字になるということであれば、これは意味がないのであります。しかし今月赤字であ
つても、来月以降黒字になるというならば、むしろこの方が健全な経営である。だから、
国際収支のバランスというものは非常に重要でありますけれ
ども、自立
経済ということを単にその面からだけとらえるということについては、場合によ
つては非常な危険性を生ずると思うのでありますが、これはやはり相当長期にわた
つて国際収支のバランスを考えなければならぬ。ことに金の面からだけものを見るときには非常に危険があると思う。ぜいたく品の輸入は別として、工業原料その他が輸入されて来ることは、一面において
日本の
経済を非常に充実して行くことになる。また輸出が幾らか伸びても、これがいわゆる飢餓輸出のようなものであるならば、これはたけのこ生活を意味するわけであ
つて、輸出は伸びて行くけれ
ども、実際には
国民経済というものはむしろ窮乏化して行くことを意味すると思うのであります。
従つて今日のような状況において、世界
経済に対応するような
日本の
経済を立てて行く場合、むしろ第一にはやはり国内における
経済をもつと健全にするという方が第一義であると考える。もしもこういう方向をとれば、それに対する
条件としては、当然外資の導入のような問題が出て来ると思うのでありますが、それが現状で非常に困難であるということが、この
予算を生んだ一つの原因であるかもしれませんけれ
ども、この点について
日本はもつと対外的な政治力を持たなければならぬというように私は考えるわけであります。外国のある
新聞紙
——たしかクリスチャン・サイエンス・モニターであ
つたと思いますが、今度の
日本の緊縮
予算を批評して、
アメリカのアジアにおける大きな外交的勝利であるということを言
つております。結局
アメリカの外交的勝利ということは、一面において
日本の外交的敗北を意味するかもしれませんけれ
ども、そういう面においてはやはり自主的にもう少し強い対外的な力が必要じやないかと考える。しかしかりに現在の
日本の状況においてそうい
つた新たなる外部からの
経済援助あるいは外資の導入は考えられないとするならば、この
国際収支の問題から来るところの難点は、他の方によ
つて当然考えなければならぬということになると思います。これは貿易の面におけるバーター制その他の面を活用することによ
つて一定の期間を切り抜けることは、なお可能ではないかというふうに考えるわけです。
要するに私
どもの申し上げたいことは、あまり
中小企業にしわの寄らない、結局あまり多くの犠牲者を出さない形をも
つて経済を維持し伸ばして行くという対策をとられないものであろうかということでございます。つまりだれにも犠牲の生じないような生産の維持と拡大、だれも犠牲にしないような
経済の安定と繁栄、インフレーシヨンを伴わないところの
経済の安定ということが、ま
つたく不可能であるかどうかということであります。この点についてはわれわれは
政府その他の方面においてももつと深く検討をしていただく必要があるというふうに考えるわけです。要するに、今日
耐乏する、そうすれば明日こういう希望があるということであるならば、それは
耐乏もできると思うのでありますが、
耐乏のし放しということであ
つては、これはとうてい収まりがつかないのであります。つまり今度の
予算を見て感ずることは、明日への建設的な希望というものが少しもわれわれに与えられていない、そうしてただいきなり
耐乏だけをしている、しかも
耐乏できるところに対しての
耐乏はいいのでありますが、もはや
耐乏のできる余地のない層に
耐乏をしいるということは、実際不可能に近いことであると考えるのであります。
大体私はそういうような見解からこの
予算を見まして、それではどういう点について具体的に今度の
予算に対して希望を持
つているかということを次に申し上げたいと思います。
第一は財政の規模の問題でありますが、われわれはやはり原則的には財政の規模はできるだけ、収縮して行くべきであるというふうには考えております。しかしこの理由は、この
予算編成の
方針に現われているのとは少し別な理由であります。というのは、われわれ
中小企業者はもちろん、一般にやはり担税力の限度に立
つているというふうに考えるわけです。こういうふうな状況において財政の規模をふやして行くということは非常に困難な話である。そういう御点から、私は結論としてはやはり財政の規模を拡大しないということが必要であると考えております。しかしその理由は、この
予算編成の理由にな
つているような、
国民所得を引下げ、購買力を引下げて行くということとは別な理由であります。つまり
予算の
関係においては、その基礎にある
方針は、
予算の規模がたとえば一千億ふえれば、
国民所得は三千億ふえるとか、そうすれば輸入は二億五千万円ふえて行くとい
つたような、そうい
つた面から見ての話ではないのでありまして、あくまでも私らの方は
国民の持
つているところの担税力という面から見て、今後財政の規模というものはできるだけ縮減して行くべきであろうというふうに考えるのであります。それから歳入の
関係でありますが、これは先般の税制調査会で出した答申案によるような減税というようなことは、今度の
予算では行われないようであります。が、やはり今申し上げたような趣旨から申しまして、できるだけ減税の方向に行くべきであると考えております。税金の面においてなお足りない問題は、われわれとしては
法人においても場合によ
つたならば高度の累進
所得税というものを考える必要があるんじやないかと思
つております。また
法人と個人
企業とにおける不均衡というものははなはだしいのでありまして、これを直す必要があると思います。ことに個人
企業の場合には、
中小企業者が働いて得られる実際的な勤労の報酬に対しても、
利益として
課税されている現状であります。これが大
企業でありますと、社長の
俸給でも重役の
俸給でも、一応これは
経費の中に入るわけです。ところが個人
企業の場合はそうでないのであ
つて、
生活費に対して
課税されているという状況でありますので、個人、
法人を問わずに、勤労所得と事業所得というものを截然と区別して行くことが当然必要であると考えているわけであります。こういう面で税制を
合理化される必要があるでないかと考えます。
なお今当面
中小企業者の間で非常に大きく問題にな
つておりますのは、繊維消費税の問題であります。消費税という考え方につきましては、根本的にはこれについてはなかなかむづかしい問題であると思いますので、それについては申し上げませんけれ
ども、実際問題といたしまして、
日本で消費税をかけて行くと、これが末端の
中小企業者に転嫁されるという危険性が非常に多いのであります。これが
中小企業者が反対する一つの大きな理由にな
つているのであります。つまり直接に実際に消費する人間が
負担をするということでなしに、その税金が
中小企業者の方の肩にかか
つて来るということであります。この点に危険性があるために、
日本の
経済的な慣習、それから
中小企業の実態、そうい
つた面から見て、実際的にこの面において考えなければならぬ点があるわけであります。しかも本来これは原糸
課税というふうにな
つてお
つたものが、たちまちの間にして小売
課税にかわ
つたとか、こういうことがあ
つたために、これがやはり
中小企業者の大いに憤激の原因に
なつたということは、率直に申し上げておきたいと思うのであります。
それから歳出に関する問題でありますが、これは結論的に申し上げますと、先ほどお話いたしましたように、
日本の
経済の立て方を、この中間層の生活を十分に充実する、さらに
中小企業を含めて全般的に
経済の安定をはかるという建前からして、やはり私は
中小企業に対する振興の施策あるいは
財政投融資の点においても、この面に対して相当の重点を当然に置くべきであると考えるのであります。先ほどはこまかい例で、技能養成に関する施設補助費の問題をあげましたけれ
ども、これなどはもちろんその一面であります。つまり
中小企業の面における生産性を高める、あるいは輸出の面にこれを寄与させるという面で、こうい
つた面はわずか一千万円くらいのものでありますけれ
ども、こうい
つた面は、他の面をさいてこのくらいのものを生み出すことは、決して不可能ではないと考えるわけであります。しかもこの面では欧米を通じて先進国の中で、この
関係の補助費を持
つていないのは、おそらく
日本だけであると言
つてさしつかえないと思います。こういう点について非常に私は
日本は遅れている、
ほんとうに、この生産を高めて行くということの配慮が欠けているのだと思います。
それから根本的な点としては、やはり金融
関係の問題があります。それで今度の
予算を拝見しますと、表向きは開発銀行
関係の融資が二百億くらい減
つております。
中小企業金融公庫を見ますと、町年度百三十億が今度同じように百三十億にな
つております。しかし実際を見ますと、
中小企業金融公庫は昨年十月から貸出しをしております。
従つて半年間で百三十億の金を貸す予定にな
つております。今度は四月から三月まででありますから一年間であります。そういう点を見ますと、単に二十八年度の
予算と二十九年度の
予算を数字の上だけで比較しますと、同じ百三十億のようでありますけれ
ども、実態は半分にな
つておるということになると思います。こういうような点から見て、たとえば
中小企業金融公庫に対する投資というようなものは、非常に少な過ぎるというふうに思うわけであります。それから先ほど
国民金融公庫の櫛田総裁のお話がありましたので、
国民金融公庫に関する問題は省略さしていただきますけれ
ども、
国民金融公庫においても、先ほど櫛田総裁の言われたように、結局
中小企業者の要望のわずか二割を満たすに足りないのではないかということになるわけであります。こういう点から見まして、私らは少くとも全部とまでは行かなくても、半分くらいまではその要求を満たす程度の
資金が必要であると考えます、そうしますと、現在の
予算に盛られています九十億を、少くともやはり三百億くらいにする必要があると思うのであります。そうしますと、本年度貸し出す予定にな
つておる二百九十三億に二百億を加えて五百億でありますから、
資金需要に対して半分くらいはこれによ
つて満たされるというぐあいに考えます。
中小企業金融公庫に対しても、その程度の
金額であれば、これでやはり私は半分くらいの需要が満たされるというふうに考えるわけであります。
中小企業金融公庫の方は、先月の末までに開設以来二百六十億くらいの申込みが窓口に来ておるわけであります。これは申込みの中でも書面による申込みだけでそのくらいにな
つております。これに対して貸し出した金というのが、六十一億くらいであります。それから件数で二二%、
金額で二三%くらいのものがようやく出ておるわけであります。なおこれは最初の間設備
資金を主にしたために、長期運転
資金に対する要望というものは、まだあまり出て来ておりません。そういう
関係で、本年度はさらに多くの需要がここへ殺到すると考えられるのであります。こういう点からもその方面に対する
資金の
手当というものは、当然にもつと必要にな
つて来るのではないかというふうに考える。それからその他金融以外の面における
中小企業の対策費というものは、これは今度の原案から比べますと、かなりひどく削られておるようであります。おそらく前年度に比べますと、多少はふえておりますが、
予算として要求された最初のものは、二十七億一千万円程度のものが要求された。これが徹底的に大なたを振われて、三億七千二百万円というように削られておるわけであります。もちろん各方面の要求も非常に多いわけでありますから、そのうちで
中小企業だけに金をまわすということはもちろんできないことであると思います。また要求したものを全部が全部これを満たすことは、もちろん困難でありますけれ
ども、どうしても必要なものについてはこの際やはり十分な
資金をここに投じて行く必要があると考えられるわけであります。そういう意味において、
中小企業振興対策として通産省あるいはその他の方で原案をつく
つて要求された
金額の中で、もちろん検討すべき余地はあるだろうと思うのでありますけれ
ども、これは二十七億が三億七千万くらいに削られて、わずかに一三%くらいが充てられたわけでありますけれ
ども、こういう点についてはさらによく検討をして、なおどうしても必要と思われるものについては、これを増額していただくことが望ましいと思うわけであります。
それで最初申し上げましたように、私も原則としては
予算の規模というものはあまりふやさない方がいいと考えております。
従つて結局現在の歳出の
予算の中で、できるだけ不要不急と思われるもの、あるいは多少問題があるというようなものについて検討を加えていただいて、そういう面の費用を必要な面にまわしていただくということをわれわれとしては希望するのであります。
第一はやはり
行政費の徹底的な縮減ということが必要であります。なお今度ふえておりますものの中では、軍人
恩給その他があります。これは軍人の遺家族の方の中には生活に非常に困窮しておられる方がもちろんあるわけであります。そういう方に対してはできるだけのことをしなければならぬわけでありますが、今度の
戦争で非常に多くの災害をこうむ
つて、やはり父や夫を失
つたという人は非常に多いわけであります。また軍人の遺族の方であ
つても、現在非常に楽な生活をしておられる方も非常にあります。
従つて今日のような
経済の状況が苦しい場合には、仕事がなくて困
つておる人には仕事を与える、生活に困
つておる方には、生活保護法によ
つてこれを保護する、あるいはまた
社会保障的な
政策によ
つてそういう面を救済して行くというのが建前であ
つて、そういう意味においては、こういう面にも若干考慮の余地があるのじやないかと考えるのであります。
なおもう一つは防衛費の問題であります。今年の
予算で前年度よりもふえておるものは、多いのはやはり防衛
関係の
支出であると思います。再軍備がいいか悪いか悪いかという問題は、なかなかむづかしい問題でありまして、これについてわれわれとしては別に
意見を申し上げませんが、ただ
日本の
経済の
実情からい
つて、一方において非常に大きな犠牲を負わせながら、一方において防衛的な
支出をふやして行くというような
段階にあるかどうかという点については、われわれははなはだ多くの疑問を持つものであります。しかもやはり多くの場合
——多くの場合というよりも大体において不生産的な
支出であり、消費的な
支出であると考えられますので、こういう面についてやはり私は削減の点について十分検討を加えていただく必要があるのではないかと考えます。
時間も大分たちましたので、以上、この
予算の編成の
方針あるいは
予算の
内容についての私
どもの考えの要点だけを申し上げた次第であります。(拍手)