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庄司委員 それでは厚生大臣にスピード・アップの質問をしたいと思います。時間が二十一分までしかないということでございますが、厚生大臣に少々お伺い申し上げたいのは、本
予算委員会においてもあるいはもちろん厚生常任
委員会等々においても、あるいは本
会議等においても、われわれの先輩同僚の諸君より社会保障費がきわめて足らない、社会保障費の七百四十何億円でははなはだ乏しいではないか、けしからぬじやないかというような
意味、あるいは御好意の上から社会保障
経費を漸増せよ、こういうような
意味の御質問が多々ありましたことはあなたの御
承知の
通りであります。近代政治において社会保障
関係の
経費が、国の
財政の許される
範囲において
相当ふえることはもとより望ましいことであります。けつこうなことであります。けれども反面において、厚生大臣によくお聞きを願いたい、あるいは労働大臣にもよく御了解を願つておきたいことは、法は法なきを期す、刑は刑なきを期す、この言葉は御
承知であると思います。社会保障は社会保障費の必要のない社会をつくることが、根本的のアイデアである、これは御
承知の
通りであります。私は第一線において職業紹介所長も町村長も十幾年勤めた人間でありますから、よくこの実際の運用面において
承知しておる人間であります。ただ単に社会保障費が不足である、足らない、これをふやせ。まことにはなやかな御
演説であります。社会保障費を増額せよ、ニュージーランドは何パーセント、西ドイツは何パーセント、英国は何パーセント、こう言つている、たいへんこれは耳ざわりのいい
演説であります。けれどもたとえば七百四十億の
予算でありましても、その
予算を有効適切に効率的に運営するという
意味において、厚生省あるいは労働省のお力が足らない。というのは、不幸にしてたとえば生活保護法によつて生活
補助をちようだいする、生活
補助をちようだいしなければ生死の関頭に立つような気の毒の同胞がある、現に二百何十万現在あるといわれておる。けれどもその人は現在より墓場に至るまで残る生涯鉄筋コンクリートのようにこの金をもらわねばならないというりくつは
一つもないのです。これはどういう
意味であるかといえば、そのためには労働省系統においては職安の出店がある、あるいは町村長、民生
委員等々がございます。この生活保護法によつて救護し、生活の保障を与えるということは、なるほど憲法の第二十五条の精神によつて、
政府として、国家として当然なさなければならないことであることはよくわかつております。けれどもこの法律によつて生活の保護をする、あるいは医僚の
補助をする、あるいはまた葬祭の
補助をする、義務教育の
補助をする、これはけつこうであるが、年々歳々同じ人
——そのうちには死亡する人もありましようが、同じ人をことしも来年も再来年もこの生活保護法によつてお世話して、
補助金を上げなければならない理由は
一つもないのであります。というのは適材適所、その人に適当なるところの職を与え、たとえば封筒張りでもよろしい、あるいはりんごや、なしを包む袋張りでも何でもよろしい、手のきく人には多少なりとも仕事を与えて、お金をとらせるようなことに
努力して行かなければならない。ただ第一線においては、おれの県では要保護者が何万何千人、一箇月に何千万の金が来るというように、数がふえたことがたいへん
成績を上げたがごとき錯覚に自己陶酔している傾向がないでもない。すなわち生活保護でありましようが失業救済でありましようが、その根本はその不幸な、どん底にある同胞を再び立ち上らせる、更生させて自主独立の生活が可能な
状態に手を引いてあげる、抱いてあげる、うしろの方から推輓して御援助することが根本の理念でなければなりません。私は生活保護法の制定の場合における特別
委員長を勤めた
関係より、本
会議報告の場合においてそのことを特に強調した。毎年々々社会保障費をふやして行けば今の英国の
財政のようになるでしよう。なまけものばかり出るでしよう。そういう点は一向見ないで、ただ
予算が足りない、
予算が足りないと言う。
予算のふえることはもとよりけつこうである。けれども、その人に自主独立の人間としての生活を与えるために推輓するというその面に厚生省が迫力を欠いてはなりません。私はそういう
観点から
地方において十数年の間職業紹介所長をやり、自分の町なんかでは最初三十六人も生活保護法の対象者がお
つたけれども、今では半分に減つておる。みんなに職を与えて自活の道を与えておる。そこで私は厚生大臣にお伺いしたい。社会保障
関係の根本的な理念、
信念は、その人をほんとうに精神的に目ざめさせることにあるのはあなたもおわかりでしよう。多分トルストイの「地主の朝」という小説をお読みにな
つたでしよう。それは物だけを与えてはならない、金だけを与えてはならない、立ち上る精神、気魄を与えなければならない、古い言葉でございますが精神作興です。その点において手が足りません。愛の手が足りません。社会保障に関するところのあなたの、厚生大臣としての根本的な御
信念をこの際承つておく必要があると思います。