○戸叶里子君 私は、ただいま
議題となりました
日本国に対する
合衆国艦艇の貸与に関する
協定に対し、日本
社会党を代表して絶対に反対するものであります。(
拍手)
政府は、
昭和二十七年十二月二十二日、日米間における船舶貸与
協定の
批准を求めたのであります。当時の
外務委員会の議論の焦点は、アメリカで軍艦として使
つていたものが日本へ来ると単なる船舶にな
つてしまうのはどういうわけであるかということに対する質問でありました。それに対する答弁は、わけのわからない、のらりくらりの、軍備でないという軍備論でありまして、当時の改進党の松本瀧藏
委員ですら、名称においても、また使用
目的に関しても、戦力問題に対しても、
政府の
説明がきわめて抽象的であると指摘されたのであります。かくのごとく、このときからすでにごまかし軍備を
政府がなしつつあるという憤りを
日本国民は感じておりました。
ところが、先ごろ日米間に相互防衛援助
協定を締結し、アメリカの武器の貸与を受けて
わが国の再軍備への一歩前進を
行つたのであります。そこで、国内においての防衛
関係二
法案も、その
内容も名称もかえて参りました。事ここに至
つては、だれが見ても、軍隊でないとか、戦力なき軍隊とか
説明してみても、納得の行く者はおそらく一人もいないでありましよう。(
拍手)
政府のこの
説明に当つた方々も、この答弁をしながら、なぜこんな言葉を使わなくてはならないのであろうかと、その憲法違反のあり方に良心ある人は冷汗を流さざるを得ないでありましよう。(
拍手)あるいはまた、質問に対する答弁として暗記をし、幾たびか繰返している間に神経が麻痺し、戦力とか戦力なき軍隊とかいう言葉を反射的に答弁してごまかし、しいて自己満足をしているかの、いずれかにな
つて来ていることは、何という悲しむべきことでありましよう。(
拍手)
ところが、今回は、MSA
協定中の、千五百トン以上の艦艇の貸与を受ける場合には別個の
協定を結ぶという条項をもととして、この艦艇貸与
協定の締結とな
つたのであります。
ここで注意すべきは、前の船舶
協定においては、軍艦ですら日本流に言うと船舶であ
つたのが、今回は一応軍艦として認め、はつきりと艦艇という文字を打出して来たことであります。このことは、保安隊を自衛隊に、船舶を艦艇にと、
内容は当然でありますが、その名称もはつきり再軍備への前進を打出し、かくして
国民の眼と耳をならしつつ再軍備への即成事実をつくらんとしている
政府の一貫したなしくずし再軍備政策の現われであります。(
拍手)私は、この際、憲法違反をここまで徹底できる
政府並びに与党の独善的な行為に反省を求むるものであります。(
拍手)
また、私どもが最も危険を感じることは、
政府が貸与を希望した十七隻の艦艇以外の借受けの形式であります。今回の
協定内には、附属書中に、一応決定した駆逐艦二隻、護衛駆逐艦二隻がしるされております。
政府の答弁によると、今回この
協定で貸与を予定したのは十七隻という数字を根拠にしたのであるとのことでありました。そこで、私は、もしそれ以上の艦艇を借りる場合には、新しい
協定を結び、
国会の
批准を経るのが当然であ
つて、よもやこの
協定に基いて附属書にその艦艇の名を連ねるというようなことをしないであろうと質問したのであります。これに対しましては、外務大臣並びに保安庁よりの答弁は、来年のことはわからない、しかし、同じようなものを同じよろな条件で借りるときには、この
協定に基いて附属書に名を連ねるのみで十分であり得るというような、恐るべき考えを持
つていることを暗にほのめかされたのであります。(
拍手)これがもし実行されるとしたならば、
国民の知らない間に、
協定によらずして、無制限に新しい艦艇の名前が書き連ねられることになるでありましよう。このように、憲法の七十三条を無視した
政府のあり方は、違憲であり、
国会無視の独裁政治と非難されるのは当然であります。(
拍手)このことは、単に
政府の失敗というようなことで許さるべきではなく、将来の
国民の運命に重大な影響があり、
国民は何らかの秘密が日米
両国政府間に横たわ
つているのではなかろうかとの疑惑を抱くに至るでありましよう。かくして、
国民をしてますます反米思想に追いやるものは実に今日の
政府である(
拍手)という実証をここに示すことは、まことに遺憾とするものであります。
次に借受の期間でありますが、さきの船舶貸与
協定においては五箇年を越えない範囲であるが、合意の上でさらに五箇年を越えない程度の延期ができたのであります。ところが、今回は、五箇年以内の期間であり、日本からの要請のあつたとき、相互間の合意によ
つて、五箇年を越えない追加の期間、貸与期間を延長することが可能であるかどうか、あらためて協議することにな
つております。またアメリカ
政府は、期間満了前においても、自国の防衛上必要な場合には、艦艇の返還が日本に対して要請できることにな
つております。これに対し、外務大臣は、日本は借りる方だから、先方からそう言われてもしかたがない、少しくらいはがまんせよという意味の答弁でありました。これは、
日本国民の立場から申しますならば、何もそれほど卑屈な従属的立場に立
つて貸与を受けなくてもよいではないかと、
政府の自主性のない軟弱外交に不安を抱く者は私のみではないでありましよう。(
拍手)
また、六条に秘密保護の
規定が設けられております。先ごろ、多くの人々の反対をも押し切
つて、
政府は秘密保護法を通過せしめたのであります。しかるに、今またあらためてここに艦艇に関しての秘密条項を
規定したことに対し、岡崎大臣は、それほど急ぐことでもないし、この
協定が結ばれた後、これに関する秘密保護について来
国会にでも考えればよいと考えて、この
協定中に挿入したとの見解を述べております。それほど急がないものであるならば、秘密保護法全体をもつと十分に
国会において
審議すべきでありまして、その方が、やたらに言論の自由を奪われるという
国民の不安も除かれたでありましようし、(
拍手)また追加の煩わしさもなかつたでありましよう。この点から考えてみても、汚職問題を初め救党運動に疲れ切つた現内閣のすることは、あまりにも
計画性のないその場限りであ
つて、これ以上の政権をゆだねることの危険をさえ感ずるのであります。(
拍手)
次は、艦艇の返還についてであります。これは八条の
規定でありますが、この八条の中には侵略者という字が幾たびも使われているのであ
つて、この条項を読んでいるうちに、一体どこから侵略を受けるような急迫した
状態に追い込まれているのであろうと不安を感ずるものであります。また「いずれかの艦艇が侵略者の兵力の行動により損害を受け又は滅失したときは、
日本国政府は、その損害又は滅失に対する責任を免除されるものとする。」とありますが、この点に関して、具体的な例、たとえば竹島あるいは李ラインにおいて日本漁船を護衛した艦艇があやま
つて撃沈されたような場合の責任を問うたのに対し、特定の例に答えることは誤解を招くからとの
理由で、最も私どもの聞きたい点に触れないのであります。
従つて、その答弁の中には、具体的な個々の事実にぶつかつたときに、解釈上侵略者の定義等でむずかしい点に遭遇するのではないかとの疑念を包含しているものであります。これまた、はつきりさせておかないならば、将来問題を起すでありましよう。
かくのごとく、この重大な
協定の中には、今回の十七隻の艦艇後の貸与についての方式あるいは条文についての了解できない個所が多々あるにかかわらず、十五日と十七日の二日の
委員会のみで
質疑を打切ることは、まことに
政府並びに与党の横暴と言わざるを得ま
せん。(
拍手)会期中に
計画的に
協定の
審議を考えず、会期が終了に近づいたとい
つて、
政府の不手ぎわさの責任の転嫁を私どもにするような議事の運営自体にも十分なる反省を
政府に求めるものであります。(
拍手)
最後に、私が最も心配することは、このような艦艇を借り受けるならば、艦艇それ自身の費用、人員の増加等、当然それに伴
つて国民の
税負担は重くな
つて参ります。さなきだに、東南アジアの賠償の支払いから、その他国内の社会問題の解決のため
予算を必要とするとき、自衛隊を増強し、武器援助を受け、艦艇によ
つて海岸線を防備することは、アジア諸国からも日本の再軍備復活として警戒されるでありましよう。(
拍手)このことは、
日本国の将来にと
つてマイナスになることでありまして、この点からも私はこの
協定に反対するものであります。
政府並びにこの
協定に
賛成の方々は、よろしくこの
内容を検討せられ、日本の歴史に汚点を残さざるよう反省せられんことを希望して、私の反対
討論にかえる次第であります。(
拍手)