○佐々木盛雄君 ただいま議題となりました日米相互防衛援助協定に伴う
秘密保護法案に対しまして、私は自由党を代表いたしまして賛成の討論を行わんとするものであります。(
拍手)
およそ一国の独立を確保し、その平和と安全を全うするためには、その国を外敵の侵略から防衛しなければならないことは申すまでもございません。しかるに、まずこの出発点におきまして、今日この
秘密保護法案に反対する人々とわれわれとの間におきましては、その
国家意識の根底において、その世界観の認識において、あるいはまたその世界情勢の分析におきまして、まつたく見解を異にいたしておるのであります。(
拍手)彼らの祖国をソ連に求めんとする共産党が、
日本の国土を共産陣営の侵略にささげんと企てることはもちろんでありましようが、共産党とは一線を画すると主張する社会党が、ソ連並びにその衛星陣営のなまなましい世界侵略の現実にことさらに目をおおい、いたずらに永世中立の観念論にうき身をやつし、
日本を無防備の
状態に放置せんといたしておりますることは、まことに嘆かわしい限りと言わなければなりません。(
拍手)しかしながら、われわれは、祖国防衛をわれらの至上命令と
考え、このためには、MSA協定の締結によ
つて自衛力の増強をはかる以外に今日の段階におきましては道なしと
考えるのでありまして、幸いにしてMSA協定が衆参両院において圧倒的多数をも
つて可決され、すでに効力発生を見たる今日、MSA協定第三条並びに船舶貸借協定第七条におきまして、アメリカから供与される武器や船舶等についての秘密を
日本が守るべきことを確約しておりまする以上、今回の秘密保護法の成立は、国際信義の上からも
日本に課せられた条約上の責務であると言わなければなりません。(
拍手)
言うまでもなく、民主政治は多数決原理の上に立つものであります。MSA協定に対する両派社会党の反対理由につきましては、
国会審議を通じ詳細承
つたのでありまするが、すでに衆参両院とも、これらの反対論は少数意見として否決され、MSA協定は絶対多数をも
つて承認されたのであります。しかりといたしまするならば、既往の感情や行きがかりを捨てて、MSA協定の義務条項である秘密保護の
措置を講ずることに進んで協力することこそが民主政治の本道であろうと
考えるものであります。(
拍手)いわんや、MSA協定には賛成の一票を投じたその人が、MSA協定の明文によ
つて義務づけられた本法案に反対の一票を投ずるがごときことは、単に国際信義にもとるのみならず、自家撞着もまたはなはだしき態度と言わなければなりません。(
拍手)
一部には、MSA協定第三条は日米両国間で合意する秘密保持の
措置をとるべきことを規定したものであ
つて、必ずしも今回のごとき立法
的措置を必要としないと説く向きもあります。なるほど、アメリカとMSA協定を結んでおりまする諸外国は、いずれも既存の軍機保護法を持
つておりまするから、MSAのために特別の立法を必要としないのであります。しかし、今日
日本におきましては、
国家機密を保護するための
法律は何ものもないのでありまして、国際スパイは白昼堂々と傍若無人に跳梁し、
日本はスパイの楽園とすら呼ばれておる現状であります。これに対しましても、もしもかりに何らの
立法措置をも行わずして、単なる
政府の
行政措置のみをも
つてしてその目的を果し得ないことは、今日までの幾多のスパイ事件の事実に徴してもきわめて明らかなところでございます。(
拍手)しかも、アメリカが自国において軍機保護の厳重なる刑法上の規定を設けて秘密漏洩の防止をはか
つておるのにもかかわらず、
日本側はアメリカから供与を受ける武器の秘密保持について何らの
立法措置を行わぬというがごときことは、まさに理不尽きわまる暴論と言わなければなりません。(
拍手)
次に、本法と憲法との
関係について、われらの見解を簡単に申し述べたいと存じます。ある者は、憲法第九条戦争放棄の規定に違反すると主張いたしております。しかし、およそ独立国が自存自立いたしまする限り、自衛権が
国家固有の権利として認められておりますることは、国際社会の通念であります。従いまして、その自衛力強化のために、アメリカから武器、
資材等の供与を受け、その秘密を保持いたしますることは、それが自衛権の範囲内である限り、
わが国の防衛に有益でこそあれ、何ら憲法に違反するものではないのであります。
また、ある者は、本法は憲法の保障する言論、出版、表現の自由を圧迫するとの反対論を唱えております。すなわち、本法第三条において、不当な方法によ
つて防衛秘密を探知したり漏洩した者は処罰されるのでありまするが、主として新聞等の報道
関係者が取材上必要とする行為をこの罰則規定における不当なる方法とみなされるおそれがあるから、この不当なる方法という字句を削除すべしとの要望もあるのであります。しかしながら、もしもかりにこの不当なる方法によ
つて秘密を盗んだ者を取締り得ないといたしまするならば、この罰則規定はまさにあ
つてなきがごとき死文と化し、防衛秘密の保持はまつたく不可能となるのほかはないのであります。近時、
わが国社会の一部には、憲法に保障する基本的人権の自由のみを一方的に主張し、同じく憲法の命ずる公共の福祉をいささかも顧みない風潮がありますることは、まことに慨嘆にたえないところであります。(
拍手)防衛秘密の漏洩によ
つて国の安全が害されるがごとき場合は、まさに公共の福祉に反する典型的な場合でありまして、かかる場合におきましては、基本的人権の自由にも
最小限度の制約が加えられますることは、近代文明社会におきましては当然のことと申さなければなりません。(
拍手)
そもそも本法にいう防衛秘密の対象となり得るものは、MSA協定並びに船舶協定によ
つて日本に供与される武器、装備品等のみについて、しかも
最小限の範囲に限定されており、さらに当該秘密物件につきましては標記を付し、
関係者には事前に通知する等の
措置をとることにな
つておりまするから、いやしくも言論圧迫や人権蹂躪のおそれはないと
考えるのでありまするが、しかし
政府は、今後本法の運用にあたり、決して条文の拡大解釈をほしいままにするがごときことのないように特に留意し、少くとも本法の
国会審議の過程におきまして
政府の言明せる点につきましては、将来本法解釈の基礎資料となすべきことを、私はここに強く要望いたしておく次第であります。
最後に、改進党の主張に対して、わが自由党の
所信を表明いたしたいと存じます。改進党の主張は、今回の
政府提出にかかる本法案は単にMSA並びに船舶協定によ
つてアメリカから
日本に供与される武器についてのみの秘密保護規定であるが、
政府は何ゆえ
日本独自の一般的防衛
秘密保護法案を
提出しないのかというのであります。なるほど、今日世界のいずれの独立国をながめてみましても、たとえば
日本と同じく軍隊を持たない西ドイツにおきましても、あるいはまた永久中立国たるスイスにおきましてすら、独自の軍機保護法を持
つておるのでありまして、
日本もまた、独立を回復いたしました風上は、
日本独自の一般的軍機保護法を持つべきことはもとより当然でありますから、この限りにおきましては、改進党の提案には原則論的には大いに敬意を表する次第であります。しかしながら、このことと本法案とはまつたく別個の問題でありまして、MSA協定がすでに効力発生の今日、とりあえずMSA協定に伴う本法の制定はまさに焦眉の急務と言わなければなりません。
しかも、並木君は、本法の
内容が不当に人権を圧迫するとの理由をあげておられまするが、本案の
内容は昨年制定されました行政協定に伴う刑事特別法のそれとまつたく同一のものでありまして、刑事特別法に賛成した並木君が本法案に反対するのは、まことに論理の矛盾と言わなければなりません。(
拍手)また、もしも真に建設的見地に立
つて国事を憂えられまするならば、何ゆえ本案にかわるべき修正案を
提出しないのかと反問せざるを得ないのであります。しかるに、今
国会の会期もまさに終らんとする今日、しかも保守勢力の大同団結によりまして国難突破に挺身せんといたしておりまする今日、突如として青天の霹靂のごとくに、一般的かつ広汎なる軍機保護法の
提出を
政府に迫り、さなきだにはげしい反対論の前に
政府を立たしめんとするがごとき客観条件無視の主張は、およそ事の緩急をわきまえざる無法の論議と言わなければなりません。(
拍手)しこうして、もし万一にも本法案の
国会通過が遷延しあるいは否決されることになりますれば、MSAによる武器援助が中止されるのはもちろんのこと、秘密を守らない無責任な
日本に対し防衛生産や域外買付の発注を期待し得ないことは、火を見るよりも明らかでございます。(
拍手)かくては、共産侵略の脅威に直面する
日本の防衛計画が重大なる危局に際会するのみならず、国際信用をまつたく失墜し、ひいて
わが国経済に重大なる悪
影響をもたらす結果となるのでありまして、われわれの断じてとらざるところであります。
われわれは、今や
日本の防衛力の画期的増強がMSAの巨大なるパイプを通じてまさに開始されんとしておりますとき、そのパイプのバルブを開くただ一つのかぎが、すなわちこの秘密保護法であると
考えまするがゆえに、いやしくも祖国の独立と平和と安全をこいねがう者は進んで本法のすみやかなる成立を期すべきであると、かたく信ずるのであります。
私は、ここに自由党を代表いたしまして、本案に満腔の賛意を表する次第であります。(
拍手)