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春日一幸君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、この
中小企業の危局に対し、政府はいかなる対策を講ぜんとするものであるか、この際次の諸点について
緊急質問を行わんとするものであります。
今や、
中小企業の窮迫は日とともに激化し、
破産倒産は
全国各種業態に続出いたしまして、事態はまさに恐るべき段階に至つたと思われるのであります。このときにあたり、政府は、
健全財政、
健全金融を呼号して、いよいよ
デフレ経済を強行せんとしておるのであります。私どもの最も深憂にたえないことは、この画期的な政策の転換期に際し、
吉田内閣は
中小企業の立場を決定的に無視し、加えてその存立をも危うくせんとしておる事柄についてであります。たとえば、過ぐる五月六日、政府は
融資規制方針の通達を
金融機関に発しましたが、この通達の中には、
中小企業への貸出しについては
一言隻句も触れることなきのみならず、逆に、融資は
基幹産業と
重要産業に重点を置けと指令して、暗に
中小企業への資金の導入を阻止せんとしておるのでありますが、これが
金融難を泣訴してやまぬ
中小企業者に対する政府の回答であるのでありましようか。
今や、
中小企業の行き詰まりは、すでに不況の度を越えて、
全面的破綻直前の危機にあると思われるのであります。(拍手)すなわち、
東京手形交換所の
不渡り手形件数は、昨年十月以来次第に激増し、本年度に入り平均一千五百枚を越えておりますが、これはすでに窮乏を唱えた昨年同期の倍の数でありまして、さらにこれは五月六日に
至つて一挙に一日で三千六百七十五件という、まさにそれはなだれのごとき絶望的な最悪の様相を呈するに
至つておるのであります。手形を不渡りすることは、まさに資金の操作が万策尽きた姿でありまして、すなわちこれは正比例して賃金における遅欠配の増大を物語るものであります。
中小企業の
従業員数は一千万人と称せられておりますが、かくて家族を含め数千万にわたる国民の生活が恐るべき危機にさらされておる。このことは政府によつて最も重視されなければ相ならぬと思うのであります。(拍手)現に新聞は借金苦に血塗られた
一家心中の悲報を伝え、夜逃げや
一家離散の哀話は、ちまたの随所に人の涙をそそつているのであります。一方、税金の滞納は、この窮状をそのままに反映して、本年三月末現在において
滞納件数は八百九十三万件、この額は一千百五十八億と、これまた
わが国租税制度始まつて以来の最悪の記録を打立てております。まことに
中小企業の危機はここにきわまれりと称すべく、荏苒今にしてその救済を怠るならば、やがては、その
連鎖的共倒れの波及するところ、これは
中小企業のゼネラル・パニックヘ、さらに
国民経済の
全面的破綻へと突入することは必至の事柄であります。(拍手)すなわち、
わが国の当面するこの
中小企業問題こそは、ただに
中小企業の政策問題たるにとどまらず、
国民思想を左右する防衛問題であり、さらに深く救いなく転落して行く人々に対する人道問題であろうと思うのであります。政府は、すべからくこの事態を直視して、
政治施策を集中し、も
つて中小企業を救済補強することは
緊急焦眉のことと思うが、政府はこの点に関しいかなる方針をとらんとするものであるか、この際副総理より決意のあるところをまずもつて御明示願いたいと思うのであります。
次に、
中小企業金融対策について、
大蔵大臣より次の諸点について御答弁を願いたい。
現在政府は
市中銀行の
集中融資に対して何らの規制を行つていないのであるが、これは銀行と大企業との
やみ結託による
集中融資を助長するものであつて、これは
金融機関の
公共性を聖断し、かつ
預金者を危険にさらすものであるから、これが規制を行うことは最も緊急を要すると思うが、本日まであえてこの規制を行わない理由は何であるか、まずこの点について大臣の御所見をお伺いいたしたいのであります。(拍手)
わが党の調査によれば、富士銀行は、日本毛織に対し、単名
割引融資十六億、これに
商手割引を加えて、その
自己資本の三〇%を越える偏向貸出しを行い、
三井銀行は、
東洋棉花に対し、単名貸出し十三億、その他
商手割引を加え、これまた
自己資本の三〇%を越える集中貸出しを行つている。第一、三菱、三和、住友を初め、
市中銀行は、おおむね、かかる手法によつて、特定の大企業と結託して、ひとしく
偏向融資をしてあえてはばからないのであるが、特に
C銀行のごときは、
日平産業に三億七千万円という実にその銀行の
自己資本の一〇〇%になんなんとする
偏向融資を行つておるのである。現に二十七年度の
銀行局年報によれば、銀行の
自己資本の一〇%を越える
集中融資は全貸出し額の三〇%を占め、さらに銀行の
自己資本の二五%を越える
集中融資は全貸出し額の一七%を占めるということを報告しておる。すなわち、これは、
金融機関の総貸出し額を二兆五千億と見れば、その三〇%、七千五百億は、銀行と結託せる大企業によつて、情実による独占的な
系列融資が横行しておるということを明白に物語るものであつて、かくのごときはまさに金融無
政府状態なりと断ぜざるを得ないのであります。(拍手)およそ
集中融資、
偏向融資を規制する事柄は、
預金者の保護のためにも、金融の
公共性を貫くためにも不可欠の条件であつて、現に、
相互銀行法においても、
信用金庫法においても、法律によ
つて同一企業への
集中融資の
限度率の規制を行つておるのであるが、また
資本主義の
本山合衆国政府においてすら、
市中銀行に対するこの趣旨の規制は決して、怠つてはいないのである。
金融引締めのしわは、今や
中小企業へ圧縮されつつある。かかる情勢下において、なおかつ
市中銀行の貸出しに対し何らの規制を行わず、これを銀行と大企業の欲するがままに野放しに放任するということは、
ひとり中小企業者の立場のみならず、
預金者の安全を守るためにも断じて看過すべき事柄ではないでありましよう。(拍手)しかるに、五月六日
付大蔵省の
金融機関あて融資規制方針の示達によれば、一企業に対する貸出しが
自己資本の五割を越える等の偏向貸出しは改めよなどと示指しておるのであるが、これは五割以下ならばさしつかえないという意味であるのであろうか。世論は三割を越える
偏向融資に憤激し、一割を越える
集中融資にきびしく非難を浴せておるが、
天下刮目の中に発せられたこの通達が五割を越える貸出しを云々するなど、まことにさたの限りである。かくのごときは、
金融機関から閉め出されつつある
中小企業の怨嗟をしり目に、さらに銀行と大企業とを密着せしめるものであつて、かかる通達は銀行が現に行つておる
集中融資の抑制には何ら役立つものでないと思うが、
大蔵大臣はこの
銀行局長通達にはたして目を通しておられるであろうか。政府は、二十九年度予算において、国民金融公庫と
中小企業金融公庫に対し何がしかの
財政投融資を行つたが、この程度のものは、しよせんはすずめの涙であり、焼石への水でしかあり得ない。政府は、
中小企業への
資金導入を促進助長するために、今こそ銀行の手ヰにあるこの二兆数千億の資金を対象として、この際少くとも
偏向融資を是正するため適切な
立法措置もしくは強力なる
行政措置を講ずる意思はないか。
大蔵大臣より責任ある御答弁を願いたい。
次に、
同様趣旨にのつとり、銀行の
中小企業向け融資を促進させるために、中小全業向け貸出しに対し税法上特別の
優遇措置を講ずる意思はないかどうか。すなわち、
中小企業への
貸倒れ準備金の
損金算入限度額をこの際特に引上げるべきであると思うが、
大蔵大臣はこの点に関しいかなる見解をお持ちであろうか。
現行法人税法施行規則第十四条によれば、
貸倒れ準備金として損金への繰入れを認められておる額は一律に貸出額の千分の十であつて、ここに貸出し対象、貸出し金額の多寡について何らの差異を認めていないことはこの際特に考慮を要する点である。由来、
中小企業への貸出しは、一件金額が低く、かつその
信用調査に手数と費用を伴い、
従つて銀行といえども、それが
営利事業である限り、しよせんは採算上不利な
中小企業金融を忌避して、一件金額の巨大な大
企業融資に傾倒することは自然の趣向であつて、これが政策によるてこ入れを必要とするゆえんである。政府は、この際、
中小企業の
金融梗塞激化の窮状にかんがみ、
当該規則を改正して、特に
中小企業向げ融資に対しては
貸倒れ準備金の
損金算入限度率を千分の二十程度に引上げ、もつて
中小企業金融を助長すべきであると思うが、
大蔵大臣はこの点に関しいかなる見解をお持ちであろうか、切に善処を要望して御答弁を求める。(拍手)
次に、政府の
中小企業金融機関あて指定預金に関してお伺いをいたしたい。昨年十月、政府は
健全財政を標倍して、突如として金融引締めに着手したのであるが、爾来政府並びに日銀による金融引締めの成果は、実に次のごとき奇怪なものである。すなわち、昨年十月における
内地金融機関に対する政府の
指定預金預託高は四百二十一億九千九百万円であつたものが、その後逐次回収せられて、本年四月末に
至つて七十一億九千万円を残し、この間実に三百六十億が引揚げられて
しまつたのである。しかるに、一方日銀の
市中銀行あて貸出し残高は、これに逆行して、昨年十月三千四百九十五億であつたものが、本年四月においては三千八百億に膨脹し、この同期間において実に三百億の貸出し増が行われているのである。政府並びに日銀は、金融引締めを呼号してはおるが、それは、この計数が明確に示す通り、
中小企業から
引揚げた資金をそのまま大企業への
増額融資に充当したのであつて、金融引締めの痛棒は、ただ
ひとり中小企業にのみ無慈悲に加えられたにすぎないのである。(拍手)ここに、
中小企業はこの痛打を受けて続々と葬られて行くが、大企業は、そのしかばねの腐肉を
食らつて、いよいよ繁栄しておるのである。かかるへんぱな、かかる不公正な政治が
民主憲法のもとに許されてよいであろうか。
さきに、本院の
大蔵委員会は、この事態を重視して、特に
委員会の決議をもつて
政府指定預金の預託を促し、さらに
金融難打開のための
緊急措置を講ぜよと政府に申し入れたところである。しかるに、本決議が政府に申し入れられて、爾来すでに二箇月を経過した。この決議の中に指摘した
不渡り手形の激増と
中小企業倒産の続出は、はたして激化の一途をたどつておるが、政府は、今もつてこの決議が求めておる
指定預金の
新規預託を行わず、また必要なる臨機の適切なる施策も何ら講じてはいないのである。今や
中小企業金融機関の貸出し
資金源は極度に枯渇し、現に
相互銀行、
信用金庫の
支払い準備金はその
基準率二〇%を割つて十六、七パーセントにまで食い入り、まことに危険な貸出しを行つておるのである。政府は、この時にこそ、
委員会決議にこたえて、
中小企業への
資金供与のため、すみやかに
中小企業金融機関に
新規預託をなすべきであると思うが、
大蔵大臣の御決意はどうであるか、責任ある御答弁をお願いする。
次に、二十九年度の
金融債の各
金融機関あて配分について、この際政府の方針を御明示願いたい。この
金融債の総わくは、昨二十八年度は三百億であつたものが、本年度は一躍百九十億に圧縮せられたのであるが、このわく内に占める
商工中金債への割当高こそは、今や
中小企業者の重大なる関心事である。今や、
商工中金は、ここに
中小企業の
全面的不況が因果相応じて、特に貸出し
資金源に悩んでおる。
国家財政による大幅の救援を要すること、まことに切なるものがある。政府は、すべからく、この百九十億の
わく内操作においても、
中小企業資金充足のため、特に
商工中金に対し最大限の
資金供与の方途を講ずべきであると思うが、本件に関する
大蔵大臣の御所見を承りたい。
次に、
中小企業の
貸倒れ債権並びに
回収不能債権に対しては、税法上この際格別の措置を必要とすると思うが、政府はこれに対しいかなる方針を有するものであるか、次の諸点についてお伺いする。たとえば、
現行税法による
貸倒れ債権の
損失算入は、民法による破産の宣告、その
地会社更生法に基く債権たな上げの
決定等、はなはだしく迂遠の証明を必要とするものであつて、これは手形の不渡りと倒産が続出する現下の
経済情勢、
中小企業の現状にはなはだしく合致しないものである。政府は、この際、税法を改正し、
貸倒れの
認定基準を緩和して、実際の損害と帳簿上の架空の利益との間に介在する税法上の矛盾を是正すべきであると思うが、
大蔵大臣の見解はどうであるか。さらにまた、
貸倒れに至らない
不良債権の
保持者並びに大企業の
支払い遅延により経営困難となつているものに対しては、租税の無利息かつ長期り延納を認める等、
中小企業の当面せる不当かつ不合理な租税の重圧をすみやかに軽減すべきであると思うが、本件に関し、あわせて
大蔵大臣の御所見を承りたい。(拍手)
次に、大企業の
下請企業への
代金支払い促進対策は、国会において累次にわたつて強調されたところであるが、いまだ的確な成果を収め得ざるのみならず、この傾向はさらに
内証悪化の傾向にあることは、まことに遺憾にたえないところである。
中小企業困窮の素因の一部がこの大企業の横暴なる
支払い遅延に基因することを政府は特に重視すべきである。本件に関し、
公正取引委員会は、この
下請代金支払い遅延に関する不
公正取引の
認定基準を規定したとのことであるが、本日いまだその成果のあがらざるは、その
認定基準がなまぬるいためか、もしくは公取がその機能を発動していないかであると思われるが、この際
横田公正取引委員長から、本件に関する
行政管理の状況について権威ある御答弁をお願いする。さらにまた、
通産大臣は本件に関しいかなる
行政指導を行つているか、あわせて御答弁をお願いする。
最後に、
わが国経済の趨勢にかんがみ、この際、
政府会計並びに
政府関係機関の
需品購入は、その一定の歩合を規制して、これを
中小企業へ発注せしめるの
立法措置を講ずべきであると思うが、これに対する政府の見解についてお伺いする。思うに、
一般会計、
特別会計を初め、
公社関係その他の
政府関係機関の
物件費の購入高は優に年間一兆円を越える巨額に上るものと思うが、これらの購入によ
つて中小企業の
有効需要を確保することはきわめて適切な施策なりと確信する。現に、
アメリカ国防省予算においては、同様の趣旨にのつとり、
中小企業への
発注割合を規制しているほどであつて、かかる提唱の行われるのはすでにおそきに失するとさえ思われるのである。ここに
海外輸出の急速なる進展の望み得ない現在、その
有効需要を確保するために、政府並びにその
関係機関の需品は当然国産品を限つて採用し、かつその定割合を
中小企業に発注することは、けだし当然にして不可欠の案件である。政府はこの種の
法的規制を行うの意思はないかどうか。さらにまた、この趣旨にのつとり、
予算決算及び
会計令を改正して、
中小企業の
協同組合に対し、農協の場合と同様に、政府との
売買契約にあたり、
随意契約を結び得るよう適切なる措置を講ずべきであると思うが、この点に関し、緒方副総理より高い
政治的視野に立つた御答弁を承りたい。
以上を
中小企業の
危局救済のために速効ある緊急の政策として、政府の御方針をお伺いした次第である。
なおこの際申し述べておきたいことは、今や
わが国の全域にみなぎるこの
中小企業の危局は実に
吉田内閣六箇年の治績の所産であるが、これに反し、
為替管理による
輸入原料独占の制度は、現に
パルプ原料を独占せしめて
人絹工業六社を太らし、綿花を独占せしめて
紡績工業十社をこやし、羊毛を独占せしめて
紡毛産業五社を繁栄せしめ、塩を独占せしめて
ソーダ工業に巨富を与え、原糖を独占せしめて
精糖工業六社を肥満せしめる等、さらに
MSA援助の小麦の取扱いをめぐつて一部業者の
暗躍跳梁を許さんとしている。まことに
中小企業の困窮をよそに、外貨九億六千万ドルの
基礎物資輸入を通じ、これら一部少数の大企業は時を得顔に驚くべき大繁昌を続けているのである。また、
造船疑獄のごとき悪逆の手法が講ぜられて、
基幹産業への
財政投融資は必要にして十分なる額が供給されておる。さらにまた、
庶民大衆に対しては、昭和二十九年度において、
間接税増徴三百六十四億、
所得税増徴二百三十億、計六百億の大増税が行われておるが、一方、大企業に対しては、
価格変動準備金、
貸倒れ準備金の損失繰入れを初め、十数項目の
租税特別減免措置によつて、実に六百億の大減税がなされておるのである。一体、政府は、かかる従来の方針をさらに堅持し、将来にわたつてもこれを推進するの方針であるのであろうか。救いなき
絶望者たちは、過日本院の傍聴席からビラを放ち、先日は
総理暗殺の目的を持つた一テロリストが総理邸に侵入した。人は天を恐れ、政府は国民を恐れるをもつてとうとしとする。ほうはいとして潮の満ちるがごとく、国民の怒りは全域をおお
つて高まりつつある。政府がその行きがかりの一切を捨てて、祖国と民族のために深く決するの時は今である。
願わくば、深甚なる反省と検討を加えられて、
わが国経済の原動力である
中小企業の危機と、これに携わる数千万国民の安危のために、以上質問せる諸点に対し、政府はいがなる施策をもつて臨まんとするのであるか、誠意ある御答弁を期待して、私の
緊急質問を終ります。(拍手)
〔
国務大臣緒方竹虎君登壇〕