○中村時雄君 私は、ただいま上程されました
硫安工業合理化及び
硫安輸出調整臨時措置法案に対し、
日本社会党を代表して反対の理由を申し述べんとするものであります。(
拍手)
本
法案は、さきに衆議院を通過して目下参議院において審議中の臨時肥料需給安定
法案とともに、一昨年秋、いわゆる硫安の出血輸出として全国農民に特に深刻なる衝撃を与えました国際価格と国内価格のいわゆる二重価格の問題を契機として法制化されたものであります。この二
法案が、不当に高い硫安の国内価格を引下げる手段として、硫安工事の合理だを
促進するとともに、農民のために一定の数量を確保し、最高価格を設定することによ
つて価格の安定をはからんとする
趣旨については、われわれは
原則的に何らの
異議もないのでありますが、しかし、両
法案とも、その内容並びに
実施上予想される
成果について検討してみますと、所期の効果を収めるためにはきわめて不徹底の感を免れないのみならず、多くの疑惑を抱かざるを得ないのであります。臨時肥料需給安定
法案については、幸い同僚農林委員諸兄の努力によ
つて相当の修正が行われた結果、原案におけるある
程度の不安を除去することができましたので、われわれはこれに消極的ながら賛成の意を表した次第であります。しかるに、これに最も関連の深いこの
硫安工業合理化に関する
法案においては、依然としてなお多くの疑問を持つものでありまして、今ここにこの二、三の点を明らかにして、遺憾ながらこれに反対せざるを得ないという理由を表明したいと思う次第であります。(
拍手)
まず、価格の引下げを行わんとすることでありますが、これらの内容においては、このような
合理化の行われるべき計画性も、また当事者たるメーカに対する義務づけも、この
法案では何ら行われていないということであります。すなわち、
政府の説明によれば、五年間に百六十億の
合理化資金を供給することによ
つて、一トン当り五ドルないし六ドルの価格引下げを行うというのでありますが、このように価格を規定する以上、これに基く根拠がなくてはならないと思うのであります。しかるに、先般各メーカーより、秘密文書といたしまして、開発
銀行にこの金の借入れをしたときに
提出しました生産費を見てみますと、先ほど永井委員も申しましたように、この項目すべてに隔たりがあるということは、各会社の
合理化に対する熱意の不定を物語
つており、単に各会社に有利な生産費を計上しておるということであります。このような基礎の薄弱な、かつ不明確な生産費をこのまま見のがして、
政府が無条件に認めるということは、
政府がこれら会社に対して、ただ単にできるだけ
融資をしてやろうというにすぎないと思うのであります。しかも、メーカー自身はこの目標を達成するために何ら積極的な義務を負うことにならないことを
意味するものであります。このことは、現在の自由党
政府の中途半端な経済
政策に原因するものであ
つて、完全な計画経済は行われず、そのため
政府は十分な責任ある保障を与えることもできず、また業者もその
成果について十分の責任を持たないという結果を招来して来るのであります。
従つて、本法の
実施によ
つて、ただいたずらに肥料資本家の思うつぼとなり、単なる資本家の
救済に終るということは、私ははなはだ遺憾と思うのでございます。(
拍手)
さらに、
融資の面を見ますと、その半額以上は開発
銀行を通じて
政府の財政
資金に依存せざるを得ないというのであります。しかるに、
MSA援助受入れ後の日本経済は、兵器
産業が中心となり、食糧増産を含む平和
産業は今後一層縮減されるであろうということは、多くの実例が示すように、火を見るよりも明らかなのでございます。すなわち、この
法案は通過しても、かんじんの裏づけとなるところの
資金は十分にできないこともほぼ確実でありまして、この
意味からいたしましても、本
法案が資本家の
救済となる公算大なりと言おざるを得ないのでございます。(
拍手)
次に、反対の第二の理由は、硫安輸出会社の性格とその経営上の問題であります。硫安輸出会社設立の
趣旨としては、第一に、生産と輸出とを一応切り離すことによ
つて、輸出上の損失がただちに硫安の国内価格に影響することのないようにしたことであり、第二に、輸入国との取引において、
わが国の輸出を一元化することによ
つて業者の地位を強化すること、第三に、肥料の需給計画に基いて輸出の計画的
実施を行うこと等により、無計画性による需給並びに価格上の不安を除表することにあろうと思うのであります。しかしながら、第一の生産と輸出とを経理上切り離すところの
措置はあくまで一時的のものであります。リンク制による輸入を認めることによ
つて輸出による損失をカバーする
措置を考えられぬこともありませんが、かかるリンク輸入制は往々にして不急不要物資の輸入を招くか、あるいは現在問題にな
つておる砂糖問題に起つたことく一般消費者に転嫁さすことになり、個々の業者が行う場合と違
つて、輸出会社が行うには、おのずからそこに一定の限度が生れて来るのでございます。このことはどういうことかといえば、国際価格との差を償うに足る利益をあげることは、この
法案通りではとうてい想像もできないということを
意味するものでございます。そうすれば、一体
政府の言う、五年後において輸出会社の買入れ価格との差から生ずる赤字はいかにして処理されるのでありましようか。会社の自己負担と口で言いながら、結局は、長い期間においては、国内価格に転嫁するか、あるいは
政策上の理由によ
つて国庫が負担するかであり、結局
国民全体がこれを負担せざるを得ないという結果が出て来ると推測できるのでございます。(
拍手)
私は、会社の真の目標は、
合理化によるコストの引下げが着々進行し、国際市場における競争にも優位を占め、輸出も十分伸びて、業者自身の正当なる利益によ
つて後年清算されるということでなければならないと思うのでございます。そのためには、先に申し上げました
通り、将来のコスト引下げに関する何らかの保障もし、またメーカー自身に対してこれを義務づける
政策的考慮を払わなければ、このよろなことは残念ながらとうてい望み得ないのでございます。しかるに、本
法案に最も重要なこの規定が何ら盛られてないということは、私はこの
法案が一時しのぎの糊塗的な
政策であると断ぜぎるを得ないのでございます。(
拍手)
さらに輸出会社に対する第二点として指摘されますことは、輸出業務の一元化並びに計画化によ
つて輸出の合理的発展を行わんとするということであります。これもあくまで肥料生産の
合理化や輸出の順調な発展が行われてのみ初めて期待されるものであります。しかるに、これらの点に対する保障は河一りありません。かえ
つて、順調に行かない場合、輸出会社の実現により硫安資本のカルテル化がこの一角より
促進せられ、たとえば、国際市況が悪化すれば、自由経済のもとに器いて当然国内価格の引下げとな
つて現われ、あるいは逆に国内価格をつくり上げようとする業者の発言権を強化する手段となることは、火を見るよりも明らかでございます。さらに重大なことは、輸出会社がメーカーの出資会社であるということであります。このことは
政府並びに肥料審議会の監督権を非常に弱め、肥料資本家の独善性のもとに農民が隷属的取扱いをされるということは、過去に行われた事実からい
つても、私一人の心配ではなかろうと思うのでございます。
以上申し述べましたように、この
法案は十分なものとは言えないのであります。もし、かりにこの会社が肥料輸出の
促進また輸出価格と国内価格のさや寄せという国策的使命に基いて出発するならば、これが業務の適正を期するために、国家が最大の
関心を払
つて本
法案の目的達成に援助すべきであり、これがためには、いわゆる国策会社もしくは公社に準ずる組織上の考慮を払
つてこそその目的は達成されるのであ
つて、この点、本
法案はきわめて不徹底のそしりを免れないと思うのでございます。(
拍手)
この
法案に対しまして、われわれは、ただ単に反対のための反対ではなく、十分なる検討のもとに修正を行うべきであろうと思うのであります。すなわち、
政府の考えている硫安をつくらないことが硫安の
合理化であるという考え方を是正し、肥料需給安定法の関連からして、この硫安のみにとらわれず、肥料全般の肥料
政策としてこれを取上げ、カリあるいは燐鉱石の輸入肥料も加味いたしまして、輸出入会社としてこれは取上げるべきものであろうと思うのであります。しかるに、この検討を要する時間が十分にないことを私はまことに遺憾と思う次第でございます。
肥料の需給と価格に関して最大の
関心を払いつつある農民にと
つては、もちろん将来性ある
わが国肥料工業の健全なる発展を望む
立場よりしましても、本
法案がきわめて期待はずれの内容を
持ち、依然として肥料資本家の利益に奉仕せんとする精神に貫かれておるということを、私は現在明らかにしたつもりであります。(
拍手)だが、しかし、もしもあくまでかような
法案を多数の無定見の力で押し通さんとするなれば、今般の与党内における汚職、疑獄問題がこの
法案の裏面にも起り得る可能性を十分はらんでいるということを御注意申し上げる。(
拍手)
この
意味において、最後に私は吉田
総理に一言申し上げたいのであります。吉田
総理は権力あるものを最高のものと考えていらつしやるかもしれませんが、ことわざにもあるように、非は理に勝たず、理は法に勝たず、法は権に勝たず、権は天に勝たずと言いますが、今般の汚職、疑獄事件は、指揮権の発動によ
つて法律が権力に屈した実例をわれわれはまざまざと見せつけられたのであります。(
拍手)だが、しかし、この反面、このことは
吉田内閣が全
国民を敵として戦いをいどんで来たと言
つても私は過言でないと思うのでございます。(
拍手)しかも、この罪の結果を恐れた吉田
総理を取巻く一連の人たちは、これを糊塗せんとして新党結成を指示されたことくであります。この新党といろ美名のもとに、方法論として
政策をたてにし、その実は、側近をバツク・ボーンに、
総理の選挙という目標を掲げて、選挙の結果多数をも
つて再び吉田
総理をその上に居すわらさんとする魂胆であります。(
拍手)しかし、現実はどうでありましよう。家の子郎党たる自由党内部においてすら吉田
総理たな上げを叫ぶ者が予想以上に多いため、現在では驚きの余りこれに水をささんとしておるのが真実の姿でありましよう。大衆の声は天の声であります。よく聞いてごらんなさい。すなわち正義の叫びであります。このような欺隔に満ちた権力を打破せんとして、全
国民が津々浦々において今まさに立ち上らんとするあけぼのでございます。
私は一言注意を申し上げ、私の反対討論を終る次第であります。(
拍手)