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中曽根康弘君 私の質問は三点であります。第一は
国防の問題であります。第二は
国際収支の危機に関する問題であります。第三は憲法に関する問題であります。ただいまより質問をいたします。
昭和二十九年の今日は、独立第二回目の新春であります。形式的には独立第二回目の春を迎えたとは言え、この日本に必ずしも完全な
独立国としての資格を持つた
政府が存在するかいなかは、遺憾ながら疑問とするところであります。(拍手)独立後の
政府の施策を見ると、あたかもいまだ
麻酔剤からさめ切らないうちに病院から退院した患者のごとく、もうろうたるうちに政治も経済も漂流し続けている感じを禁じ得ないのであります。しかしながら、近来に
至つて、
国民の中にはこのような
政府の態度にあきたらず、かつては世界の
五大強国の一に列した
優秀民族であつたとの自覚がかすかに記憶の中によみがえりつつあり、
占領政策の再検討の機運がとみに上つて来たことは御同慶の至りであります。しかし、最も重要な
政府の国策については、このような
独立国の
政府としての自覚の欠如から、わが民族の命運に暗澹たる影を投げかけておる憂うべき事態が起つておるのであります。(拍手)この点につきまず御質問いたしたいと存じます。それは
国防と
国際収支の危機に関する
政府の政策であります。
まず、
国防に関する
政府の近来の施策を検討してみますと、
政府の態度は、
MSAに焦点を合せながら政治を移動させているということが言えます。言いかえれば、
MSAの波の間に間に日本の最も重要な
国防及び外交に関する政治がただようているということであります。(拍手)このことは、わが民族の独立と名誉に関し見のがすべからざる問題であるのであります。
政府は当初において国家の
自衛権を否定するがごとき言辞を弄したのであります。しかるに、
平和条約、
安全保障条約の締結に際しては、集団的及び
個別的自衛権を認むるに転じ、次いで
MSA交渉が開始せられるや、ここに三度転換して、
防衛計画の策定から、進んでいわゆる戦力なき軍隊にまで発展いたしました。一体この態度の変化は何に基くのでありましようか。すべて
太平洋のかなたから来ておるのであります。近くはまた
MSAの
放射能の作用であります。
国防に関する政治の
スイツチは米国が常に切つておる。
政府は切られた方向にあなたまかせで移動しておるのみであります。
マツカーサー元帥によりつくられた
警察予備隊から戦力なき軍隊に至るまで、
アメリカの風にただよいつつ、みずからは積極的に何らなすこともなく、この間に国家の重要な機能であるところの防衛が米国のイニシアチーヴにより
政府に与えられつつある現実であります。(拍手)
ここで
吉田総理大臣にお尋ねいたします。一体、
吉田総理大臣は
国防の本質を何と考えておられるのでありますか。
MSAにスポツト・ライトを合せることが
国防であるとお思いになつておるのでありますか。有事の際みずから国の総力を結集して国土を守り、かつ平常からこれに備えるのが
国防であります。しかるに、今日の
政府の態度は、みずからのためにみずからを守るという凛然たる精神が全然ありません。総理は、その
施政方針演説の中で、一昨日、
米国艇財政緊縮方針に基き
駐留軍漸減の希望あるに対し、また
自由諸国の
共同防衛体制の樹立に寄与するために
防衛体制をつくると
言つておる。これでは、今日の
政府の
国防政策は、米国に調子を合せるための
国防であつて、断じて
日本国民の
国防ではありません。(拍手)
ここで一言申し上げたいのは、
国防に関する
ドイツ総理大臣の態度であります。
アデナウアー首相は、
ドイツの
統一促進と防衛のために
EDC条約に入り、
自衛軍建設を行うことを決意しました。しかし、
ドイツの建軍は、
EDC条約において
フランス側から強硬なる制限が加えられております。すなわち、飛行機や大砲のごどき重兵器は
ドイツ国内においては生産し得ず、パウダー・
ラインと称して、
独仏国境から四十マイル以上離れたところには
火薬工場を建設し得ないことになつておる。このような苛烈な条件にもかかわらず、
アデナウアーは勇敢に
国民に訴えた。かような条件のもとで
国民諸君に
自衛軍建設を要請することは、諸君に苦難をしいることはよく知つておる。しかしながら、この苦難を突破しなければ
ドイツの統一と
ドイツの再建はできないのであるから、
国民諸君協力してくれ。この老宰相の熱烈たる愛国の気魄は
国民の胸を打つたのであります。かくて先般の選挙において彼は圧倒的に大勝いたしたのでありまするが、さらに驚くべきことは、前回の総選挙のときより新たに有権者となつた青年の票の行方であります。新しき青年の票六百万票のうち実に五百万票は彼に、銃を持たせんとする
アデナウアーに投票し、わずかに百万票が反対の社会党に投ぜられたにすぎないのであります。これが
ドイツの
総理大臣であります。何
ゆえ吉田首相は
ドイツの
総理大臣のごとき気魄をもつて
国民に訴えないのでありますか。(拍手)このような
日本政府のもとに
保安隊の士気は沮喪し、たとえば、最近各地に頻発する幹部の
汚職事件、隊員の米麦盗み出し事件、あるいは
保安大学の一部学生が
赤色勢力の中枢たる
全学連へ加盟を要請するがごとき
不祥事件の続出となつているのであります。一体
政府は、
国防力をつくらんとしておるのか、また
赤色革命軍を養成しようとしておるのか
国民的名誉も与えられず、郷土の後援も得られず、冷たい世評の中で黙黙として勤務に志した若き
保安隊員の純情は、かく
政府の無定見に蹂躪され、このように歪曲されているではありませんか。問題は予算の多寡でもない。
国防の本質に関する
政府の認識と決意にかかつておるのである。八百億の血のにじむ税金を、このような弛緩した雑軍のごときものに浪費してよいのでありますか。役所の名前を防衛庁とかえても、
駆逐艦を何隻もらつても、
総理大臣の根性が直らないうちは、断じて同一の事態であります。いな、害はさらに大きくなるのである。
総理大臣は
国防の本質を何と考えておるか、ここで御答弁願いたいと思うのであります。
第二に、その自覚に立つて、
政府は
保安庁法の改正をいかに行おうとしておるか、この点については、
自由党とわが党との間に一部妥結、了解したものもあります。ここで明らかに
政府の所信を確認いたしたいのであります。もし
政府の所見が妥結の
ラインをはずれるようなことがあれば、今後の事態の責任は一切
政府にあると私は思うのであります。まず防衛の
基本方針として、第一、文民優位ということはいかなることであるか。
保安政務次官の答弁によると、文民優位とは
保安庁の
局課長が制服でないことが文民優位であると答えられておる。はたしてこの通りであるか。第二に、
政権交代による
国防の
安定性を確保するために、
国防会議の機能や
三軍統合の方策をいかに具体化する。第三番目に、米国の
長期的アジア防衛計画を知悉して日本の
国防計画を策定しているかどうか。しかりとすれば、米国と日本の年次的及び任務上の
分担範囲はいかなることになるか。第四に、最近における世界及び米国の
戦略戦術、兵器の発達を認識した上で計画を樹立しておるか。来るべき日本の
自衛軍は、戦前のごとき人力にたよ
つた竹やり部隊であつてはならないのです。また米国の
廃兵器の捨て場であつても断じてならないのであります。
科学力を中心にした
少数精鋭の
機械化部隊でなければならない。
政府はこの点についていかに思われるか。
次に、法律上の
改正事項として、三派
折衝委員会の従来の
妥結点は、
政府はこれを全面的に了承するかどうか、ここで明確に御答弁願いたい。
さらに、
防衛計画の原則として、まず五箇年計画を採用するかどうか。五箇年間に
米軍兵力と交代し得る兵力の整備を目標としておるかどうか。さらに五箇年
計画整備終了の
最終目標は、陸海空おのおのどれくらいの規模を予想しておるか。次に、初度
装備費は、
MSAの援助に期待して、
国家財政は
経営費を支弁するごとく措置するか。
防衛費の財政上の
年間限度を幾らを適当と考えているか。最後に、わが方
自衛軍の増強に応じて
分担金の逓減はいかなるペースで実現して行くか。
次に、最も重大な点である
米軍撤退の問題に関して
政府の決意を伺いたいと思います。
政府側の表現によれば、米軍の撤退に即応してという表現が常に用意されております。このことはまつたく誤つた
亡国思想の現われであります。
自衛軍はみずから米軍を撤退せしめるためにつくるものであつて、米軍が撤退するからその穴埋めとしてつくらるべきものでは断じてないのであります。
政府の
意思表示によれば、
政府は日本に
外国軍隊が駐屯していることを永久に希望しているがごとくである。このように怠惰な、無気力な、
外国軍隊の駐屯とそれによる保護を
日本民族の恥辱とも悲しみとも考えないこの堕落した態度こそ、今日最も糾弾されなければならないのであります。インドでも、
インドネシアでも、戦前の中華民国でも、その
国民と
政治指導者が血の犠牲をもつて闘つたものは、それは独立の回復と
外国軍隊の撤退であつた。そこに崇高なる
独立国民の精神の根源が存在しているのである。かくのごとき
外国軍隊の駐屯に浩然たる
吉田内閣の態度こそ、日本と
アジアの歴史の名誉のために断じて抹殺されなければならない態度であります。(拍手)
アメリカの
国務長官ダレス氏は、かのサンフランシスコの
平和条約締結に際して、この条約は和解と信頼の条約であると述べた。和解と信頼とはいかなることであるか。それは、お互いが過去を水に流し
合つて、将来親睦、提携することであります。
日本はかの広島、長崎の
原子爆弾の残虐ですら
条約上水に流したではないか。(拍手)しかるに、何ゆえ今日八百人の戦犯がいまだに巣鴨につながれておるのであるか。何
ゆえ沖繩、小笠原諸島の返還を強く堂々と内閣は要求できないのか。これは悲しくも日本が保護されているからであります。かくて、真の独立は、
自衛軍創設による米軍の撤退からスタートする。それはまた、わが失われた国権を回復して、民族の
平和的生存権を世界に要請するスタートでもあるのであります。(拍手)
自衛軍の本質はこのように純粋でなければならない。しかるに、
政府の一部には、
特需ほしさに
外国軍隊の駐屯を永続的に希望するという卑しい根性があるのではないか。主権の回復や血の純潔の保持のごとき第一義の問題と、かかる経済問題と混淆して考える者がもし
政府の中にありとすれば、これこそまさに下劣なる
ユダヤ的思想と言わなければならない。(拍手)この点に関する
政府の考えを伺いたいのであります。
われわれは、戦争に負け、国を破滅に陥れた責任ある現代の
日本国民であります。このわれわれが、現在いかなる苦難にあおうが、いかなる屈辱にさらされようが、もとより忍ばなければならない。しかし、われわれの子や孫の時代に至るまで
外国軍隊が日本に駐屯し、数百の
軍事基地が日本を制圧し、
混血児とパンパンとが横行するごとき日本を彼らに引渡すことは、われわれの忍び得るところでありましようか。あえて
政府の自覚と奮起を促す次第であります。(拍手)
このように、
政府の
国防及び
外交政策は
MSAに焦点を合せながら漂流しておる。
太平洋のかなたから来る
放射能によ
つて政府の行動は初めて起されておるのであります。もし
政府がこの態度を持つてさらに漂流し続けるならば、われわれは
日本国の運命について暗澹たらざるを得ないのであります。それは、隣国における歴史の現実がそれを示している。中国の
国民政府が台湾に逃亡を余儀なくされたのも、かかる態度からでありました。米軍は、
国府軍を強化するために援助を与え、いわゆる
機械化部隊を編制した。
国民政府は、
国民とともに国を守るという決意を捨てて、米国と国を守る決意にかわつた。
政府の顔は大陸に向わずして
太平洋のかなたに
向つた。このような態度のもとにできた
機械化部隊は、米軍の指揮のもとに運用されたがゆえに、一たび
中共軍の重囲に陥るや、友軍はこれを米国のとらの子部隊と称して救援しなかつた。かくて、すべてそれは
中共軍に押収され、たくましき中共の
革命的民族精神に駆使され、遂に
台湾亡命の末路となつたのであります。今日の
吉田内閣の
外交国防政策は、その本質において、かつての
国民政府のそれとどこに違うところがありましようか。(拍手)
保安隊の
上層部に醜聞の疑いがあり、末端には汚職の続出あり、
総理大臣は
国防計画をばかげたものと冷笑しておる。しかも、
国民の血税八百億円は、この冷笑と弛緩の中に浪費されようとしておるではありませんか。(拍手)一体、
国民は何のために働き、何のために税金を納めているのでありましようか。祖国の運命はいかなるところに流れつつあるのでありますか。あえて
政府の深甚なる反省を求め、その所信を伺う次第であります。(拍手)
現下の第二の重大問題は
国際収支の均衡の問題であります。正直に
言つて、われわれも
国民も一昨日の各大臣の演説を聞いて唖然といたしました。ふたをあけてみたら、
日本経済の実情は何と
保全経済会のそれと酷似しておつた。監督すべき
大蔵大臣が監督さるべき
伊藤斗福と同様の措置を
国家経済について
行つていたとは、何と驚くべきことではありませんか。(拍手)
政府は、昨年一月の今日においては、
日本経済は生産も消費も上り、
国民の
鼓腹撃壤はわが
党内閣の功績であると誇示いたしました。しかるに、今日寝耳に水のごとく、あぶないあぶないと叫び出した。しからば、何ゆえ、昨年度、
年度進行中
——国会を二回もやつた昨年度の進行中に、
外貨予算その他について
国民に周知せしむるとともに、強硬なる措置をとつて政策の転換を行わなかつたのであるか。一昨日の大臣の演説は、道義的にも、同一内閣でやり得る演説でありますか。
後継内閣でやるべき演説ではありませんか。あえて私は
吉田総理大臣以下各大臣の責任について伺いたいのであります。(拍手)もつとも、古語に、人のまさに死なんとするやその声やよしという言葉がある。
大蔵大臣や
経審長官の演説の中には、いささか良心のおののきがうかが身る。しかるに、
総理大臣の演説は何事でありますか。この問題に最も関連している
自由党の公約、
外資導入の金看板はいつの間にかはずされておる。さらに、
綱紀粛正の言葉まで削除されてある。しかも、経済両大臣が声を振りしぼつて強調した
国際収支の危機については、一言も
総理大臣は触れておらないのであります。
経済大臣は昭和二十九年の今日の位置にいるけれども、
総理大臣は昨年
——昭和二十八年正月の座席にいまだ眠つている状態ではありませんか。(拍手)一体、
国民はどちらの演説を信用したらいいのでありますか。もつとも、
総理大臣が言い出したら
国民が動揺するから、七十何人目かの大臣に言わせておけば安全だというのでありますか。また、その程度の事態で済んでいるのでありましようか。この内閣の国政の基本に関する不統一の責任をいかにとられるか、重ねて伺いたいのであります。
次に、重大なことは、今回突如
国際収支の危機を公開して、
国民に協力を求められておりますが、その中にすらまだ重大なる欺瞞を意識的にやつている節があるのであります。
それは、昭和二十八年度と二十九年度の
国際収支逆調の額であります。まず、
政府の発表によれば、昭和二十八年度の
国際収支は約一億九千万ドルの逆調であると
言つているが、はたして正しいか。
政府の発表している事項以外に、
逆調要因として、三月までに
国際通貨基金に対して払い込むべき五千万ドルがまずあります。さらに
綿花借款の残額約四千万ドルの
支払いがあります。これが隠されている。これを合すれば、本年度の赤字は実に二億八千万ドルに上る予想であるのであります。
政府の、このようなことを欺瞞した国会対策的な演説には、断じてわれわれは承服し得ないのである。(拍手)これでどうして
国民の協力が求め得られましようか。この点に関する正確なる数字を示されたいのであります。
第二は、昭和二十九年度の逆調の
見通しであります。
政府は二十九年度の逆調をいかなる数字に算定しているか示されたい。
経審長官演説草稿には約一億ドルと書かれてありますが、これが消されている。おそらくこの辺の前後と算定しているのでありましよう。しかし、われわれの調査によれば、
支払いべースにおいて
明年度三月までに約二億ドルの赤字は必至と見られております。
政府は
日英会談成立による
ポンド貿易の
飛躍的伸長を期待しているようでありますが、しからば、いかなる
交易量のわくと実行の
見通しを持つておるか。外電の伝えるところによれば、二億一千一百万
ポンド、すなわち五億二千万ドルのわくが設定されると予測しておる。本年度における
ポンド圏への
輸出見込みは大体三億五千万ドル程度であつて、たとい先般の
ポンドに対する
レート切下げを
行つても、三億ドルが五億ドルににわかに上昇するとは考えられない。そこで、二十九年度における
ドル地域、
ポンド地域、オープン・アカウント、その他各項目の輸出、
輸入予測額を数字をもつて示されたいのであります。
二十九年度の逆調の第二の理由は、特需及び
域外買付の現象であります。たとえば、先般の
アメリカの
ランドール委員会の報告を見ても、この項目についての減少はもう必至の勢いであります。第三は、物価が
政府の期待するごとく五%ないし一〇%下落して
輸出増大に作用すると見られることはきわめて甘い。この希望と現実を混淆しておるのである。この希望と現実を混淆している態度こそ、現在の
政府の政策で最も危険なポイントであるのであります。さらに、
国際通商戦の激化と
海外市場の
物価低落の趨勢は、日本の
価格下落の力を減殺せしむる十分な力を持つておるのであつて、
政府の見方は楽観に過ぎると思うのでありますが、いかに
政府はお考えになりますか。もしかりに、
政府の唱える五%ないし一〇%の下落が確実に見通されるならば、それを成立せしめるに足る経済の諸標を数字をあげて示されたいのである。たとえば、本
年度一般会計予算を見ると、
財政投融資の減は昨年度に比して約五百億円、この
乗数効果をかりに三と見ても、年間の
デフレ・ギヤツプは
一般会計から千五百億円、
国民所得六兆に対しでわずかこの程度、二%の
デフレ・ギヤツプがどの程度の
きき目を発するか、おのずから明らかであります。
特別会計や
地方財政あるいは金融上の係数がどの程度であるかは、
政府は明らかにしていない。そこで、これらを含めた諸要因の係数を私はお伺いいたしておるのであります。
一体、生産や輸入が昨年と同じ程度である、他の係数が大体昨年と同じである、物価は五%ないし一〇%低落するというそのときに、
国民所得のみが六兆という昨年の水準を維持するというのは何事でありますか。これがまずふしぎであります。私の調査したところでは、
政府は物価の低落を五%ないし一〇%と
経済計算をしているようであるが、実際はしていない。おそらく一%ないし二%であります。
国民所得の六兆の予想も実はここから来ておる。またさらに、その関係から、新
年度予算において約七百億円から一千億円の
含み財源を
政府は隠しておるとわれわれは考えるのであります。現に
大蔵大臣は、昨年十二月、一兆億
予算下における昭和二十九年度財源として一兆七百億円の数字を
予算委員会において説明した。今度の態度の急変はいかなる理由によるのでありますか。
国民に対するデフレを強調するための
心理的攻勢を意味する
政治的数字をもつてわれわれに示す以外の何ものでもないではありませんか。民に信なくして政治は成立しない。ここにも今次予算における欺瞞がはしなくも露呈しておる。
政府の明確なる答弁を求むるものであります。
さらに、二十八年度収支における逆調の原因は、おびただしい物資の
輸入激増でありました。昨年一—九月の
輸入数量は、前年同期に比して、綿花が三割、羊毛が五割、麻類が六割、レーヨン・パルプが十一割、砂糖五割、
外国自動車に
至つては七割の激増であります。これが外貨を枯渇せしめている。これらの項目は再輸出に転ずるものではありません。このような
濫費経済を外貨の犠牲において何ゆえ放任して
行つたのか。
年度進行中何
ゆえ緊急措置を行わなかつたのであるか。この乱脈を見れば、なるほど
政治資金の源泉がこの辺にあると巷間うわさされているのも無理ではないと思うのであります。(拍手)
さらに重大なことは、この
放漫乱脈が本
年度予算編成に重大な支障を来しておる。すなわち、昨年末における公務員のべース・アツプである。このために、
一般会計における
給与費の純増は四百八十億であり、
特別会計を合算すれば八百億円の増額である。かくて、本
年度一般会計における
人件費は三千百八十億円、一兆億予算の三分の一が
人件費であります。まさに給与のための予算であります。この事実に恐縮して、
政府はにわかに
行政整理をやろうといつて、ばつを合せておりますが、しからば、本年度何人の
出血整理を敢行して、幾らの経費を実質的に節約するのであるか、ここに数字をもつて示されたいのである。(拍手)
最後の点は、
輸出促進に対する対策であります。昭和二十九年度において
政府がこの一兆億の予算を組んだ趣旨は、この予算によ
つて国民経済を圧縮する、そこに出て来る
余剰能力をいかにして輸出の
チヤネルにつなぐかということにかかつておるのであります。その
具体的方策がなければ、
国民に耐乏をしい、予算を圧縮した意味はなくなるのである。そこで、この収縮した
余剰能力をいかに輸出の
チヤネルに導かんとしておるか、その
具体策を伺いたい。遺憾ながら、このような予算を組んだことに対応する本年度の通産省の施策を見ると、そのような自覚も積極的な配慮も方策も何にもないではありませんか。(拍手)特に最近激化して来た
国際通商戦に備えるためにも、たとえば
輸出振興対策費のごときは、
食糧増産対策費に対応して独立計上すべき性格を持つておるのである。
政府の所見はいかがでありますか、お尋ねいたしたいのであります。
最後に、現在の
国際収支の危機に対する
政府の認識について伺いたい。現在の日本の
ドル貨の保有は幾万でありますか。焦げついて役に立たない分を除いて、実勢力は内閣は一体幾ら持つておるとお考えでありますか。私の調査によれば、
インドネシア、韓国に対する焦げつき債権一億三千万ドルを除けば、手持ちはわずかに七億七千万ドルであります。この中から、さらに昭和二十八年度において
最小見積つても二億五千万ドルの赤がある。二十九年においては二億ドルの赤は必至である。これが流出すると、来年三月には日本のドルの
保有高は三億二千万ドルであります。現在の
貿易量を維持するためにすら約五億ドルを必要としておる。十二億の輸出と二十一億の輸入の
運転資金で五億ドルが必要である、これがわずかに三億二千万ドルに激減した場合には、
信用状は開かれません。日本は必然的に米国にひざを屈して援助を求めざるを得ざるに至るであろう。もし貿易の
運転資金までも米国の援助を仰ぐに至るならば、日本は米国の
金融的植民地に転落せざるを得ないのであります。もし万一このような趨勢に近づけば、
外貨割当統制に始まる統制の波は一波万波を呼んで、戦時中のごとき
動脈硬化となつた経済に再び移行せざるを得ないのであります。今日において
外貨規制をにわかに行い出じたのもこのゆえでしようが、約一年遅れた感がある。
外貨規制のごときは実力九億程度の保有をもつて初めて有効円滑に行い得るのであつて、このように減少し、先細りの今日
外貨規制を強硬に行えば、思惑と投機を誘発し、
国民経済は撹乱される憂いを残すのであつて、現にその徴候が出ておるではありませんか。この
政府の対策の遅れは、かかるがゆえに厳に私は
国民の一人として責任を追究すべきものなのであります。もし昭和二十九年度における経済政策が不幸にして成功しなければ、遂に
政府は
MSAのパイプにすが
つて国民経済を調節せざるを得ないのであります。そのときば、かつてのマツカーサー司令部権力下の統制のごとく、
アメリカ大使館の事実上の支配下の統制に
日本経済は移行せざるを得ないのであります。(拍手)このような民族の独立と国家百年の将来を憂えて、
政府ははたして対策に万全を期しておるか。
政府が現在の安易な施策を続行するにとどまるならば、
国防政策におけるごとく、日本の経済政策また米国に焦点を合せて、経済もまた漂流せざるを得ざるに至るは必至であります。ここに今日の
国防と経済、国政の源泉に存する危機の実相があるのであります。
吉田内閣のもとの国家憂患の本源が存するのであります。
政府は、かかる潜在的危機に対して、特に民族の完全独立保持の見地より、いかなる決意と抜本的対策をもつて対処せんとしておるか、完全独立を熱願する全
国民の名において、私は
政府の明確なる御答弁を伺いたいのであります。
最後に、憲法の全面的改正の問題についてお伺いいたしたいと思います。およそ憲法はその国存立の神聖なる根本的規範であつて、その
国民のために、その
国民の完全なる自由意思によつて創定すべきものであります。しかるに、現行
日本国憲法は、占領下自由意思なきときにつくられ、外国の承認を経て成立したものであつて、すでにその成立の手続においてすら真に憲法と呼ぶにふさわしくないものがあるのであります。およそ憲法が存立するときには、少くとも
国民過半数は死を賭してその憲法を守るという決意が込められたものでなければなりません。しかるに、かくのごとき条件下につくられた現在の憲法を死を賭して守らんとする
日本国民は何人ありますか。自由意思のないところには、道義もなければ勇気も生れて来ないのは当然であります。かかる見地からすれば、現在の憲法はまさに
マツカーサー元帥の
占領政策基本法ともいうべきものであつて、自由意思すなわち道徳性の根拠のない根本的規範は、まことに血の通わざる死体にひとしいのであります。そこで、自由意思を回復した今日においては、当然新たなる憲法を創定して、占領下の憲法を廃止することが最も民主主義的措置であると思うのであります。(拍手)ここに真の日本の民主主義が誕生するのであります。さらに、現憲法は、その後数年にわたる実施の経験にかんがみても、国際的、国内的諸般の情勢に即応せず、将来にわたつてわが
日本民族のあり方を恒久的に規定すべき基本法として必ずしも適当でないのであります。しかるに、今日平和憲法擁護
国民連合なるものが結成され、現憲法を永久に擁護するがごとき実践運動が展開されておるのは、いかにも
独立国民として奇怪しごくに存ずるものであります。(拍手)与えられた憲法の内容の一部を是なりとして、その憲法の全体の合理性、制定手続に関する検討を故意に看過して盲目的に擁護せんとする態度は、被告の行為の一部に善行ありとして、婦女に対する暴行の罪を全面的に看過する態度と同じであります。しかも、かくのごとき運動は、占領軍によつて与えられた現状をそのまま墨守せんとする、まさに保守反動の行為であります。(「憲法を擁護するのが悪いのか」と呼び、その他発言する者多し)
マツカーサー元帥は現在においてすらも憲法の改正には反対であると伝えられております。
占領政策の責任者である元帥の立場としては、さもあることでありましよう。しかしながら、
日本国民にして今日なおいわゆるマツカーサー憲法を盲目的に墨守せんとする諸君は、まさに
マツカーサー元帥の忠良なる臣民であつて、断じて
日本国民ではないのであります。(発言する者多し)かかる観点より、
政府は、憲法の全面的改正と、かかる
国民連合の運動に対して、いかなる見解を有するか、
国民の前に明確にしていただきたいのであります。(拍手)
時代は刻々と動きつつあります。ニクソン副大統領は、昨年アイゼンハウアー大統領の特使として日本に来り、一九四六年米国が日本に憲法を強制し軍を解体したことは誤りであつたと声明したことは、われわれの側から言えば何を意味するか。それは
マツカーサー元帥の
占領政策の根底が完全にくずれたことを意味するものであります。(拍手)
日本国憲法制定の基礎が失われたことを意味するものであります。かくて、われわれ完全に独立自由の立場に立つて、みずからの憲法を制定すべき跳躍台に立つに至つたと言わなければならないのであります。(拍手)今や、駸々として進み脈々として流れる民族の生命力を一人の個人がふさいではならない内外からの情勢がここに来たのであります。かくて、日本は、今やこの偉大なる昭和の民族的体験を経て、敢然として戦前の旧陋を脱却し、戦後の積弊を一掃して、真にわれらのためのわれらの憲法を創定し、新しき国家発展、
国民福祉増進の基を開くべきとき至れりと確信するものであります。
われわれは、現在いわゆるマツカーサー憲法を改正しようとするのでもない。明治憲法を改正しようとするのでもない。これはいずれも過去の所産であります。まつたくの白紙の立場に立つて、わが民族の歴史に照し、わが民族の発展のためのあり方を恒久的に規定すべく、根本的規範を確立し、偉大なる明治憲法の発展になぞろうべく、果敢なる昭和の躍進を用意せんとするものであります。(拍手)もとより、敗戦、被占領の悲運の中にわが
国民が確立した平和主義、民主主義、進歩主義、国際協調主義の諸原理は、人類不変の原理であつて、あくまで堅持せられるべきものと信じます。かくして、かかる諸原理を中心にして、民間在野に新憲法草案の策定が勃然として起ることはきわめて望ましいと感ぜられ、これは民主主義を本質的に打立てるべき基本的条件と思われるのでありまするが、
政府はこれに対していかなる見解を抱くか、お尋ねいたしたいのであります。
さらに、伝えられるところによれば、吉田首相は、
政府の部局に対し、現行憲法の検討をすでに命ぜられておる由でありますが、首相はいかなる意図をもつて、いかなる諸点の検討を命ぜられたか、御答弁願いたいのであります。試みに、私見によれば、全面的改正に際しては、前述の長所を十分存続せしめつつ、一応全文にわたつて、現在の訳文臭を脱して真実の日本語調に書き改むべきものであると考えます。しかして、たとえば天皇の地位については、大赦、特赦、栄典授与等は内閣の助言に基く天皇の行為となすも、政治の実権には干与されることなく、主権在民、
国民主権のもとに元首の地位が維持せらるべきものと信じます。このことは
国民的信念に合するのみならず、
アメリカ大統領もフランス大統領も主権在民下の元首であつて、これらの元首より大公使の信任状を捧呈せられる天皇は、当然国際的規範に従つても元首であるべきであると信ずるのであります。そのほか、内閣制度については、英米法雑居の現状を改め、日本的民主制度を確立する必要があります。
自衛軍創設に伴う文民優位の確立も重要なる点であります。さらに、解散権の明確化、黙秘権、最高裁判所
国民審査に関する条項、公共的慈善、教育、博愛団体に対する
政府支出の禁止条項等は大いに検討を要する部面であると信ずるのであります。しかしながら、たとえば、平和の確保と国際紛争を平和的に解決することに対する確固たる保障、基本的人権の尊重に関する事項、男女の平等、婦人参政権に関する事項、地方自治の尊重に関する事項等は、あくまで堅持存続さるべきものと信ずるのであります。
政府は、かくのごとき私見に対して、いかなる所信を有せられるや、御回答願いたいのであります。
最後に、この憲法の全面的改正の事業は、まさに超党派の
国民的立場をもつて行うべく、一党一派の手によるべきでないと信じます。よつて、これが改正手続は、いずれ適当なときに、
国民の最高の知識と各層の輿論を反映した代表により、全
国民の協力による草案を調査策定するため、憲法改正調査審議会法を制定し、発議権者たる国会の付属機関としてかかる審議会を設置し、草案策定後一定期間
国民の理解と批判にさらし、しかる後所定の改正手続に移行すべきものと信ずるのであります。
政府はこの見解に対しいかなる御所見を有せられるや、お尋ねいたします。
最後に一言申し上げます。
吉田総理大臣は、おそらく、近来、日夜この憲法問題の処理に苦慮されておられるであろうと想像いたします。それは現憲法制定責任者として当然であります。吉田首相の政治生涯において、かの
平和条約の締結とともに、この憲法問題の処理こそ老首相が身命を賭して行わねばならぬ最後の事柄であると信じます。時代は駸々として流れてやまない。老首相最後の国家への卸奉公は、新憲法創定のための偉大なる次の歴史的舞台を用意し、みずからは静かにおりる幕とともに舞台の外へ消え去ることに存すると信ずるものであります。(拍手)そのときこそ、全
日本国民は、歴史的使命を果して消えて行く民族の指導者に対し無限の愛惜を惜しまぬであろうと思うのであります。(拍手)私はここに電ねて
総理大臣の御心境を伺い、以上をもつて私の質問をとずるものであります。(拍手)
〔
国務大臣吉田茂君登壇〕