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1954-08-05 第19回国会 衆議院 法務委員会上訴制度に関する調査小委員会及び違憲訴訟に関する小委員会連合会 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年八月五日(木曜日)     午前十一時五分開議  出席小委員   上訴制度に関する調査小委員会    小委員長 小林かなえ君       佐瀬 昌三君    林  信雄君       高橋 禎一君    井伊 誠一君   違憲訴訟に関する小委員会    小委員長 佐瀬 昌三君       押谷 富三君    小林かなえ君       吉田  安君    猪俣 浩三君  小委員外出席者         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  上訴制度及び違憲訴訟に関する件     ―――――――――――――   〔小林上訴制度に関する調査小委員会委員   長、委員長席に着く〕
  2. 小林錡

    小林委員長 これより上訴制度に関する調査小委員会、及び違憲訴訟に関する小委員会連合会を開会いたします。  先月五日より昨日に至るまで二十一名の参考人より各界それぞれの意見を聴取いたしたのでありますが、これらの意見参考として、これから小委員会意見をまとめて、立案の程度に進むようにしたいと考えております。それに先だちまして、これらの意見を聞いた全体的の問題の重要点等について区分わけをしてまとめたものが作成されましたから、それについて一応の御説明を申し上げたいと思います。専門員からこの点の説明を願うことにいたします。小木専門員
  3. 小木貞一

    小木専門員 それでは説明申し上げます。お手元にあります違憲訴訟上訴制度連合小委員会資料というのがございますから、まずそれについてお話をいたします。この資料は論点を大まかに整理しまして、そういう点についてこれから要綱等をつくる参考資料にという意図のものにこれを整理してみたのであります。第一はいわゆる憲法裁判所設置の可否についての参考諸説となつておりますが、これはいわゆる現在の最高裁判所以外に憲法裁判所というようなものを設けるかどうかという問題についての参考意見になりますと同時に、現在の最高裁判所にいわゆる違憲審査権等広い憲法裁判的な裁判、つまり一般法令審査違憲審査ができるかどうかという点までをも考え参考資料にという意味でこれは整理してあるのであります。  それで書いてありますようにいわゆる憲法裁判現行憲法上可能であるかどうかという問題につきましては、ここの一番上の欄に積極説というのが書いてあります。これは現在ではここに書いてあります通り、敬称を略しますが、佐々木惣一中谷敬寿、この二人の方ができるのだという考えをとつておられるのであります。それからその次に消極説というのがありますが、これはできないのだという考え方でありまして、これもここに書いてあります通りに、これは第一に現在の最高裁判所判例がこの考えに立つておるわけでありまして、学者では兼子一清宮四郎渡辺宗太郎鵜飼信成美濃部達吉宮沢俊義共著法学協会中田淳一沼田稲次郎星野安三郎岡本輔共著、これができないという考え方であります。三番目に可能説と書いてありますが、これはわけ方はどうにもなりますがこれは理論的には憲法裁判もできるのだという考え方でありまして、できるのだがこれは立法措置がいるのだ、裁判所法改正がいるのだという考え方であります。これを一応可能説というようなものにしておいたのでありますが、この考え方はこの三にありますように、宮沢俊義入江俊郎小野清一郎海野晋吉長野国助――昨日のは整理しておりませんが、今までのところそういうことになつております。これで大体いわゆる憲法裁判所なりあるいは憲法裁判機能憲法上現在の最高裁判所に持たせることができるかどうかという問題が、一応これで諸説がわかると思います。  それからその次の欄に方法としてありますが、これはちよつとさき触れましたが、可能説という中で、理論的にできるのだ、その方法はどうすればよいか、裁判所法改正である、こういうことであります。積極説ではもちろん当然できるという考え方かあるいは最高裁判所規則でできるという考え方か、この点はよくわかりません。消極説はもちろん否定しておりますから問題にならぬと思います。  その次の欄に違憲裁判効力という欄がありますが、これもいろいろわかれております。そこの欄にありますように、兼子氏は最高裁判所憲法裁判についての効力は一般的なものである。しかし下級裁判所がやつた場合にはその事件限りの効力しか持たないのだ、下級裁判所憲法違反判断までして、それが確定したというような場合を想定しておるわけでありますが、その場合には一般的効力はない、こういうことを言つておるわけであります。それから可能説のところに、この効力の問題で宮沢さんは一般的効力がある、これは改正して行つた場合だと思います。それから入江さんが、これは個別的な効力しかない、しかし法律改正によつて一般的な効力も持たせることができるとこういうふうに言つておるわけであります。  それから一応ざつと進みまして、第二の問題は、違憲の問題のある事件移送についてどうすればいいかという問題でありますが、これは1から8までありますが、事実関係かあるいは事実の資料下級審でもう十分に出ておつて、その点では問題がない、いわゆるこれは熟しておるという段階になつてから最高裁判所が直接事件を取上げて違憲裁判をする、こういう考え方、これは兼子氏がそこに書いてありますようにこの前の公述で言つているわけです。  それから二番目の考え方入江さんでありますが、高等裁判所の第二審裁判に対する上告は、憲法問題である場合は最高裁移送して、最高裁はその点だけの審理裁判をして宣告する、上告裁判所または東京高裁上告はその他の点について残つた問題の審理裁判の宣告をする、こういう考え方で、事件全体ということではないわけであります。  三番目は海野さんの考え方でありますが、個人の権利関係の変更を生ずる憲法違反法令もしくは処分のあつた場合は、それについて中間判決をして、中間判決に対して飛躍上告を許すということにしたらどうかというわけであります。  四番目は坂野さんの考えでありますが、東京高等裁判所上告部最高裁判所でやるのが適当であるとするものを移送する、それは次のような場合、イロハニまであります。イでは、法律命令規則、または処分憲法に適合するかしないかの判断をしなければならないとき、ロは、憲法その他の法令解釈適用についての意見が前に最高裁がした裁判に反するとき、ハは事件が重要であつて最高裁判所が処理するのが適当と認めたとき、ニは、右のほかに、最高裁は必要と認めたときは、いつでも、高裁その他下級裁判所に係属している事件を送致させることができる。その場合最高裁は七名か九名で裁判すればよろしいというのであります。  その次の小野さんの考え方――五番目でありますが、具体的事件訴訟遅延防止策として、下級裁判所から最高裁事件の送致を求めて、みずから審判する。これは人身保護法第二十二条と同じような方法を主としてやつたらどうかということであります。  六番目は、これは下飯坂さんでありますが、最高裁判所最高裁憲法問題の事件を取上げる、または訴願させる、この場合には判事は――裁判官は七名ないし九名で裁判したらいいではないかというわけであります。  それから七番目に、これは小林一郎さんですが、人身保護法と同じように送致させたらどうかということを簡単に言つております。  一番最後に烏田さんが、最高裁違憲事件を取上げてやることにしたらどうかというのであります。  移送等につきましては一応こういうふうな意見が出ておるわけであります。  それから第三の上告制度についてでありますが、民事上告刑事上告理由調整――現在民事刑事上告理由が幅において広い狭いがありますし、上告理由も違つておりますし、この点も調整という問題があるわけでありますが、これにつきまして今までの公述人等意見を整理してみますと、これは1から5までありますが、最初に兼子氏のでありますが、上告理由現行刑訴の線でよい、要するに憲法違反判例抵触というようなことになるわけでございます。それから次は小野精一郎さんので、上告理由改正民訴の線とした方がよい、こういうわけであります。  これは1と2の説がまさに対照的になつておるわけであります。改正民訴の場合はこの前の国会で審議いたしましたように、上告理由判決に影響を及ぼす明らかな法令違反ということになつて刑事のように憲法違反判例牴触ということとは違うわけであります。三は、民刑訴とも改正民訴の線がいいんだという、これは長野国助島田武夫坂野千里氏の説で、2と結局近い考え方であります。4は斎藤朔郎氏で、刑事について法令違反は、刑事訴訟法の四百六条事件受理申立のような方法で許した方がいい。五番目は、法務省刑事局から出ている意見で、われわれがこういう考え方じやないだろうかと思つて書いたのでありますが、これは要するに現行刑事上訴改革についてはどうも消極的意見改正しない方がいいんじやないかという意見じやないかと思つて書いてみましたが、あるいは間違つているかもしれませんから、あした刑事局の人に来てもらいますから確かめてみていただきたいと思います。  それから第四の問題は、最高裁判所機構改革の問題であります。これも1、2、3と三つあつて、その中がまた幾つにもわかれているわけでありますが、1は増員論であります。これは裁判官増員と同時に調査官増員すべきである。これは海野晋吉氏が言つている意見であります。その次の長野さんと島田さんの意見は、同じく裁判官増員論でありますが、調査官増員は誤りでありますからプリントを御訂正願います。4は小野清一郎氏の考え方であります。三十人くらいに裁判官増員する。そして大法廷は九人でやり、憲法問題だけを扱う。小法廷はおのおの三人として民事刑事とにわける。そして大法廷を構成する裁判官も小法廷裁判官として民事なり刑事なりの裁判をすべきである。五番目に岩田さんは、これは増員論であります。それから二として員数を減らす減員論で、裁判会議は七名ないし九名が適当である、坂野さんのお考え方。小法廷をやめて最高裁憲法問題についてのみ処理するところとする。その他の上告事件のためには東京高裁上告部を設ける。上告はすべて上告都に提出してその中の憲法問題だけを最高裁移送する。次に同じ減員論の中でありますが、九人に減員して違憲審査のみを扱う。一般法令違反高等裁判所に旧大審院のような部を設ける。これは小林一郎さんの考えであります。三番目に裁判の数を減員して憲法問題のみ裁判する。上告は制限した方がいい。もし制限しないとするならば、東京高裁上告部を設けることがよい、これは宮沢俊義氏の考え方であります。四番目に裁判官の数を七人ないし九人に減員して憲法問題だけをやる、東京高裁上告部を設け、上告はそこでやる。下飯坂さんの考え方であります。  機構の第三番目には、その他の問題でありますが、そのうちで、小法廷を三人ずつ五つにしたらどうかということを兼子さんが言つておりました。それからその二番目に入江さんでありますが、機構改革は時期尚早ではないか、一年ぐらい経過を見て、上告事件が増加して最高裁負担が多くなつて来れば、その上で考慮していいではないか。それから考慮する案としては、最高裁憲法問題だけを扱う、一般上告は、上告裁判所を新しくつくるか、あるいは東京高裁上告部を設けることにしたらどうかというのであります。その次の三番目は、斎藤朔郎氏の考え方でありますが、当分情勢を見きわめてから、最高裁負担が多くなるような場合は、増員を考慮するほかはない、しかしその場合に裁判官Aクラス裁判官Bクラス裁判官というように二つの種類にわけて行くことには反対であるという考え方であります。最後の4が垂水さんの意見でありますが、いろいろな案が考えられるが、結局上告裁判所東京に設ける方法しか考えられないのだ、こういうふうな御意見であります。  以上であります。
  4. 小林錡

    小林委員長 次に村専門員の御意見を承りたいと思います。
  5. 村教三

    村専門員 お手元資料二というので、違憲訴訟及び上訴制度に関する参考人意見分類細目というのが行つておりますので、それについて簡単に説明さしていただきます。  この項目のわけ方につきましては、ただいま資料一の方で申し上げましたのと大同小異でありまして、多少表現の違うところはございますが、内容的にはまつたく同一であると信じております。ただいまこの三十ページもあるものを全部読むわけにはもとより参りませんので、その代表の説を一つだけ申し上げまして、そういうところにまるでもつけていただきまして、ただいま小木専門員の申しましたあの整理の理由としてはこれが一番いい理由だというようなところにマルでもつけていただきましたならば効果的だと思います。それからもう一つ人数の上からちよつと私分類してみました結果、昨日まで二十一人おられますので、大体この説は何人おられるかということもあわせて申し上げてみたいと思つております。  それで第一款の最高裁判所の性格は何か、ここは問題を提起しただけで別にお読みくださればもうおわかりのことだと思つております。  それでニページへ参りまして、第一項違憲審査権の範囲、憲法八十一条の解釈のところでありまするが、第一目具体的訴訟審理説、この考え方を積極的にはつきり申しておられる方が五人おられます。その代表的なものといたしましては、その第二に学者側とありまして、一、憲法裁判所具体的事件司法裁判所審理することを保障しておる。最高裁判所に抽象的に法律違憲とする権能なしと見るのが正当であろう。宮沢教授の説でありますが、こういうところが一応具体的訴訟審理説の代表的なものだと思つております。  それから四ベージへ参りまして、抽象的に法令審査説といたしましては、この説を積極的にはつきり述べておりまするのが二人でありまして、その代表的なものは第一の弁護士側、一、最高裁判所には一般的、抽象的に法律命令等違憲審査する権限がある。憲法改正しなくてもある。もつとも裁判所司法裁判所であるから、具体的事件を通すべきであるとの意見は強いが、それでは行政事件の場合はどうか。私が主張する根拠は八十一条の文理解釈にある。この条文には具体的事件を主題として書いてない。終審といつても客観的に最後的処分をするとの意味である。結局審級制度に関する裁判所法第七条その他を改正すれば、現行憲法解釈としても抽象的に法令の無効を裁判することができる。こういうところで察していただきます。  それから六ページへ参りまして、第二項の憲法裁判所的機能の発揮、これは先ほどのところでは、いわゆる憲法裁判所現行法上可能であるか、あの問題に相当するものでありまして、表現の違いだけであります。  第一目可能説は四人おられまして、一、最高裁判所裁判所法等改正により憲法裁判所的機能を持たせることは可能である。法令等につき違憲訴訟審査を抽象的にすることを憲法は禁止していない。ゆえに立法論としては法律改正により憲法裁判所機能を持たせることはできる。宮沢さんも小野さんも同じような説でありまして、七月中にはこの可能説でありましたが、八月に入りましてから不可能説が二人出て来たわけでありまして、金森さんも佐藤さんも現行憲法裁判所法等改正によつて憲法裁判所的機能を発揮することができないという見解をあらためて発表しておられますので、その点ひとつ特に御注意願いたいと思つております。むしろ第二目として不可能説金森佐藤功氏説を出すべきだと思つております。  第二目については、妥当ならざるの説、可能ではあるが妥当ではないという説、この考え方は五人おられましてその一つといたしまして、最高裁判所に対し立法により憲法裁判所的機能を持たせることが妥当かいなかについては慎重に考慮しなくてはならない。その理由としてイ憲法裁判所によつて憲法を守ろうとする考えに賛成しない。国民自身憲法意識を高めて最高裁判所にあまりたよらない方がよい。ロ民主国の英、米、仏等憲法裁判所の先例がなく、かえつて憲法裁判所を設けている西ドイツ、オーストリア等独裁主義国であつた事例もあつて国際的立法例において憲法裁判所設置がよいとの通説がない。これが非妥当説の代表的なものだと思います。  それから八ページの方へ参りまして、違憲判決効力といたしましては一般的効力説がありますが、これは三人ほどおられまして、兼子さんは折衷説でありますが、これはむしろ兼子さんの方も一般的効力説の方に入れるべきだと思つております。一、違憲判決があるとかりに、個別的効力がないと解釈しても、実際問題としてそのままにしておくことは公正を欠く結果を生ずるので、あたかも客観的に効力失つた結果が生ずると思う。一般的効力説の方がはつきりしていて、実際上便利である。ここで違憲法令といつて法令全部と限らず、問題の規定とその他の規定とにわけられた場合はその問題の規定だけは失効するわけである。  第二目の個別的効力説の方は四人ありまして、入江裁判官の説を申しますと、憲法八十一条の解釈については、具体的事件説をとるから、違憲判決当該訴訟関与者のみに効力を有し、国会政府に対して拘束力を及ぼさないと解する。もつとも違憲判決があれば、政府国会もいろいろの方法でその判決を尊重することであろう。  次は第四項の違憲事件移送でありますが、これは今小木専門員の方から申した通りでありまして、賛成者は十人、反対者は一人もございません。特にこの点は申し上げることはございません。代表的な説といたしましては、十ページの四、坂野弁護士の相当詳しく考えられました、次の場合には、東京高等裁判所最高裁判事件移送する、これをお考えくださればおわかりだと思つております。  次に十一ページに参りまして、第五項の憲法解釈につき意見要求勧告的意見の問題でありまして、これにつきましては賛成者はございません。みな反対論ばかりであります。もつとも宮沢さんがやや特定の例外をおいて賛成しておられますが、もちろん代表的な意見といたしましては、十二ページの方へ参りまして、二、政府または国会最高裁に諮問してその意見を求めることは、裁判所をして将来の公の意見を先に発表してしまうわけであるから、司法権の行使から見ておもしろくない。  第二款の方に参りまして、最高裁判所裁判遅延しているか。もとより遅延していないという人は一人もいないわけですが、どの程度にということを一応問題に提起した形で、ここに一、二、三、四というぐあいにして、遅延に対する考え方を述べただけでありまして、これはお読みくださればわかることだと思います。  十四ページへ参りまして、上告制度、その点のわけ方は、実は非常にむずかしくて、私も分類がきわめて正確に行つておるとは思つておりません。と申します意味は、上告制度そのものの性質から参りまして、最高裁判所の方の権限が上の方できまり、中央の第一審の権限がまたきまつて、サンドウイツチのように両方から攻めつけられているようなかつこうになつておりまして、基本的な上告制度からなかなかむずかしく、総体的に実情に応じてきめるというところにいろいろな考え方が出て来るのだと思つております。この点はわけ方も私自信があまりないのでありますが、一応再度の考案というような考え方検事上告というような考え方事前審査という考え方、それから上告を許可するという考え方、これに対する賛否両論を一応わけてみた程度でございまして、このあたりは再検討してやる必要があるのじやないかと私は思つております。もつとも、大きくわけまして、上告制限上告拡大二つの大きな線にわけられます。上告制限の方を主張されました方が八名であります。それから上告拡大を主張されました方が六名であります。一応ここはこの程度にしておきまして十九ページへ参ります。  第二項の最高裁判所機構改革、第一目現状維持説、この考え方はつきり主張されました方が、四人おられます。その代表的なものとして裁判所側の意向を申しますと、一、最高裁判所機構改革は時期が早い。もし将来上告事件が増加するときはそのときに改革すればよい。最高裁判所を昔の大審院のごとくにすることは絶対反対である。その理由イ憲法最高裁判官に対し高度の資格を要求している。憲法八十一条の裁判をする者の大幅増員は適当でない。ロ最高裁判官中に権限を異にする数種の裁判官ができると、国民審査を受けない認証官でない裁判官や、大法廷に参加しない裁判官ができて、これは憲法七十九条、八十一条の趣旨に違反する。ハ一般上告事件に忙殺されると結局違憲審査権の慎重周到を阻害する結果になる。  それから二十ページの増員説の方に参りまして、増員説は八人ございます。名前を特に申し上げますと、八人の方は海野長野小野島田小林岩田、安平、金森-佐藤功氏がちよつと中途はんぱな折衷案のような考えでありますが、一応この人を除きましてただいま申しました増員説の方が八名おられます。この代表的なものは、小野さんの言われたところがそれかと思うのでありますが、二十一ページの三、私は最高裁判官を三十人に増員を主張する。大法廷九人、小法廷三人とし、民事刑事等にわける。裁判所内の事務分配規則で定める。大法廷と小法廷との裁判官を区別しないことにする。少くとも民刑事のできる小法廷裁判官でなければならぬ。  増員説に対する反対論としてイ資格者が多くないというが、各方面に十五人いないことはない。ロ憲法違反事件合歳に参加しなかつたり、大法廷に参加しない裁判官増員するのは憲法違反というけれども、憲法には別に規定がない。  増員説に対する反対事由は、認証官国民審査違憲訴訟不参加の問題にあるようである。認証官のことは裁判所法改正すればよく、国民憲査バツテンをつけるだけで人数が多くなつても問題でない。違憲訴訟事件合議不参加が実質的の反対理由であろう。しかし最高裁判所判決においては小法廷判決がそのまま最高裁判所判決になつているではないか。これは実体法上の裁判所手続法上の裁判所とで異なるだけである。  議論の当否はともかくとして、これが有力なものだと思つております。  それから減員説の方は、二十三ぺ一ジの方へ参りまして、減員説は問題を同時に裏返しをすれば中二階案――つまり高等裁判所上告部設置するという案と裏表をなすわけであります。減員説としての代表的なものは下飯坂さんの考え方であります。むしろ最高裁判官を減員して別に東京高裁上告部を設けるを可とする。最高裁部長裁判官だけの大法廷違憲訴訟を審判することはむずかしいし、かつ忙がし過ぎる。現在最高裁最大欠点は大法廷合議が早くまとまらぬことである。大切な事項の判断には七人か九人の裁判官の方がよい。  それから第四目の最高裁判官任命方法でありますが、これはいずれもみな詮衡委員会を設くべしという意見でありまして、五人の方が賛成し、一人の方が反対に近いものだと思つております。これは特別に申し上げることはございません。  それから二十五ページへ参りまして、第三項の上告裁判所新設か、東京高裁上告部か。ここは五人おられまして、この五人の方の名前を特に申し上げますと、入江さん、垂水さん、下飯坂さん、宮沢さん、坂野さん、この方が積極的に中二階案を主張されたわけであります。この中二階案にはどちらでもいいという意味で、第一目の中二階説、入江さんの説を申し上げますと、結論としてイ上告裁判所設置するか、またはロ東京高裁上告部設置することである。右の場合に四審級になることを避けて下級裁判所より違憲訴訟事件のみを最高裁移送するようにする。一般事件上告上告裁判所または東京高等裁判所にて設けた上告部審理する。このように事項別により審級を別にすることは最高裁規則にも先例がある。これはどつちでもいいという考え方であります。  その裏に参りまして二十六ページ、上告裁判所を新設すべきであるという垂水さんの考え方であります。二十六ページの最初の一、賛成論、結局私は高等裁判所の上級審にして最高裁判所の下に新しく上告裁判所東京一つだけ設ける。上告裁判所の支部は各高等裁判所の所在地などに設けないことにする。憲法違反判例抵触または重要なる法律命令に違反するものはこれを最高裁判所上告し、それ以外の一般の上告事件をすべてこの上告裁判所上告することにする。これは東京高裁の長官である点に特に注目すべき点があるからと思つております。  それから第三番目の東京高裁上告部を設けるという説でありまして、この考え方は三人おられます。代表的なものといたしまして、二十七ページの下飯坂さんの説を申し上げます。二、賛成論、上告事件を制限しないとすれば、最高裁判所事件をさばき切れない。それで上告裁判所でなく、東京高裁上告部を設けて法令違反事件を審議するのがよい。しかるに東京高裁上告部を設けると最高裁が浮き上るとの反対論がある。しかし違憲訴訟事件も少くないし、また重要事件であれば職権による移送を命ずることもできるし、司法行政事務の中心が最高裁にある限り、最高裁は浮き上ることはない。さらにまた四審級にて遅延するとの反対論がある。しかし四審級になつて事件がおそくなるか、早くなるかは、東京高裁上告部設置した後の実績を見てからにすべきであろう。元の大審院時代には十日間で一判決するくらいに早かつた。これなら四審級になつてもおそくはならぬ。こういう考え方であります。  あとは司法行政事務でありますからこれは立法事項としてあまり大事でございませんので、ひとつごらんを願いまして、私の説明はこれで終ります。
  6. 小林錡

    小林委員長 質疑はありませんか。
  7. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 さつき小木君の説明されました第一のいわゆる憲法裁判所現行憲法上可能かという論題には二つ意味があつて憲法裁判所を新たに設けることが可能であるかどうかという議論と、現行の最高裁判所に抽象的な憲法裁判をやらせることは憲法上認められるということと、二つ意味が含まつておるという説明があつたのですが、この積極説というて出ております佐々木、中谷という人は憲法裁判所を別に新たに今の最高裁判所のほかに設けることが現行の憲法上可能であるという、この考え方積極説と言つたのですか、どうですか。
  8. 小木貞一

    小木専門員 お答えしますが、そうじやありません。これは現在の最高裁判所で抽象的な憲法違反違憲審査ができるかという考え方については、これはできるのだ、こういう考え方で、いわゆる憲法裁判所というものについての考え方ではないと思いますね。私が言つたのは説明がまずかつたかもしれませんが、これはこういうことを考えて書いたわけです。少し不明確な点があると思いますが、われわれがかりに一つ違憲の問題について要綱を考える場合に、いわゆる大陸法的な憲法裁判所というものを現在の裁判所以外に設置すべきであるかどうかという問題と、もう一つは、現在の最高裁判所憲法裁判的な裁判、つまり憲法違反の抽象的な法令の無効宣言というような、いわゆる憲法裁判ができる機能を持たせることがいいかどうか、この二つの問題を想定して、こういうふうに整理したものですから、そこのところが少し説明がわかりにくかつたと思いますけれども……。
  9. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それはさつき専門員説明でわかつたのですけれども、私がお尋ねするのは、この積極説というのが憲法裁判所を別に設けるという主張を言うたのであるかどうか、それをお尋ねしたわけです。
  10. 小木貞一

    小木専門員 そうではありません。
  11. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 この委員会において別に憲法裁判所というものを設けるかどうかということが一つの論題になると思うのです。その意味においてお尋ねしておるのです。  それからこれは希望でありますが、委員会において参考書なんかをとりそろえていただきたいことがあるのです。たとえば今憲法裁判所を持つておる国はオーストリアとドイツでありますが、このオーストリアの憲法裁判の手続の詳細が美濃部達吉博士の論文で国家学会雑誌の第四十四巻上というものに書いてあります。これはオーストリアの憲法裁判手続を詳細に書いている唯一の文献ではないかと思うので、古いものでありますが、この雑誌を探して法務委員会に備えつけていただきたいと思うのです。
  12. 小木貞一

    小木専門員 今の猪俣委員のお話のオーストリアの憲法でございますが、これは私が調べたところによりますと、オーストリア憲法は一九二〇年の憲法と一九三四年の憲法がありまして、その一九三四年の憲法の方が非常に詳しくなつておるように思います。これは美濃部先生ではなくて柳瀬良幹氏が同じく国家学会雑誌の四十九巻の二号と四号にこの憲法関係部分の翻訳を載せておるのが、抜萃でありますが、私の手元に入つております。それで調査の上で美濃部博士のと、それから柳瀬氏のも調べて、この委員会なり専門員室に資料を整えることにいたしたいと思います。  それからなおついででありますが、今の積極説のところにありました佐々木惣一博士の公法雑誌の第十一巻の一号でありますが、これはとりそろえまして近日中にお手元に御配付する用意を今整えておりますことを申し添えておきます。
  13. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 もう一点。そうすると佐々木惣一博士が非常な異説を唱えておられる唯一の人のようですが、この佐々木惣一博士の憲法八十一条に関する見解、これは公法雑誌の昭和二十五年一月号に載つておるのですが、これはあなたのおつしやつた十一巻一号というのと同じものですか。
  14. 小木貞一

    小木専門員 同じだそうであります。
  15. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 いま一つお願いは、このオーストリアの憲法裁判なりあるいは西ドイツの憲法裁判なりのただ冷やかな法律の内容だけでなしに、実際の運用がどういうふうにされておるかということを実際知つておる学者なり、あるいはまた外交官でもいいが、その説明を一応聞きたいと思うのです。私も去年西ドイツのボンでちよつと聞いては来たのですが、詳しく聞くひまがなかつた。どうも実際と法律とがあまりマッチしていないように聞いて来たのですが、その実際についてどういう人が詳しいか御研究願つて、その人の意見も聞いてみたいと思うのです。
  16. 小林錡

    小林委員長 それは委員長から――ひとつよく調査しまして、適当な人がありましたら来てもらつて意見を聞くことにいたします。
  17. 小木貞一

    小木専門員 今の点でありますが、実はこれは学界の方で憲法学者が世界各国の憲法の翻訳の仕事に携わつておられるということを聞きまして、早稲田の大西教授のところまで行つて聞いたのでありますが、なかなかその翻訳が進んでいない。それで幸いに学術会議の方で代表として早稲田大学の中村宗雄教授が今般ヨーロッパの方へ行かれましたので、衆議院の法務委員会として中村教授に大陸の方の憲法裁判所の文献の収集と、それから実際に今どういう実績を上げているかという点の運用の実際問題、成績等についての調査を依頼してございます。これは先ほど村専門員から宮沢教授のいわゆる憲法裁判所機能のところで御説明いたしましたように、理論的には大陸的な憲法裁判所というものがいいのだが、その実績はだれも証明していない、また反面にはあまりよくないから民主主義の進んでいる英米仏等では憲法裁判所というものを置いていない、こういうふうなものの見方もあるものですから、今の実績の点等は非常に重要な問題で、これはぜひ調査しなければならぬと私どもも考えておりますので、その準備をしたいと思います。
  18. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 いま一つお願いしておきます。本件に関します各参考人の陳述を一応私ども読みたいと思うのですが、われわれが研究するひまのあるように、特に委員長から速記課にお願いして、迅速にこしらえてもらいたいと思います。
  19. 小林錡

    小林委員長 昨日以外の分はみなできているということで、各自のお手元に届いていると思いますからお調べ願います。  それでは速記をとめて懇談に入ります。     ―――――――――――――    午後零時三分懇談会に入る   〔午後零時五十二分懇談会を終る〕     ―――――――――――――
  20. 小林錡

    小林委員長 それでは懇談はこの程度にとどめます。  明日午前十時より開会することとして、これにて散会いたします。   午後零時五十三分散会     ―――――――――――――