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天野参考人 東京地方検察庁で
公判部長の仕事をしております
天野であります。御通知をいただきました
質問事項は四つございますが、
第一線の
検察庁におります者といたしまして、この一の
刑事に関する
現行上訴制度に対する
改革意見を三の
検事上訴、
附帯上訴についての
所見ということに関連せしめて申し上げるということでとどめたい、かように存じます。もとより大して
意見があるわけではございません。かつこれから申し上げますことは、
東京地検全体の公の
意見ではないのでありまして、まつたく私一個が仲間の
検事いろいろ話し合
つておる
程度の
意見であるということをお含みおき願いたい、かように存じます。
そこでまず第一に、私は
現行の
刑事訴訟法がと
つておる
主義は、第一
審中心主義といいますか、第一
審重点主義である、かように
考えます。これはたとえば
控訴審を
事後審としておる点から見ましても明らかであると存ずるのでありまして、第一審におきましては
当事者主義を徹底させて慎重に
審理を尽す、そうして
当事者は十分に
攻撃防禦を尽すことができるようにできているのでありまして、
控訴審におきましてはこの第一審が軽んぜられることのないようにということで、
事後審的な構造を持
つておるというふうに私ども理解してこれに臨んでおるわけでございます。この第一
審中心主義、第一
審重点主義は、
訴訟経済の上からい
つてきわめて必要であるということは申し上げるまでもございませんし、第一審で
当事者の納得の行く
りつぱな裁判がなされるとすれば、世上憂えられておるような、みだりに
上訴が行われるということはないであろう、かように
考えられるわけであります。従いまして
最高裁判所の現在と
つておられる方針としましても一審の
強化ということがあるようでございますし、
裁判官の人事などにおきましてもその努力がなされておることが見受けられる次第でございます。私は
上級裁判所の
充実強化ということが
考えられるよりも、むしろ第一審の
充実強化が必要であるということをしみじみと
考えておる一人でございますが、しかしまた問題は、このような第一審の
充実強化がどのぐらいその実現を期待できるかという点に問題があろうかと存ずるのであります。実は昨日偶然の機会でありましたが、私がきわめて信じ得る方から伺つたところによりますと全国の第一審の
裁判の中で四五%は
簡易裁判所によ
つてなされておる。それから残る五三%は
地方裁判所の
単独部によ
つて行われておる。従いまして
地方裁判所の
合議部によ
つて行われている第一番
裁判はわずかに二%にすぎないということを教えられました。私は
単独部が必ずしも
合議部より劣るとは決して思
つておりませんし、これはもつ
ぱらその裁判に当られる
裁判官次第であるというふうに
考えておりますが、また他面
被告人の身にな
つてみますと、あるいは
単独の
判事の
裁判がたよりなくて、これに不服で
控訴するというようなことが行われやすいということも
考えられろと思います。しかし私は
単独部と
会談部の場合どつ
ちの方に
控訴が多く行われるかという
統計資料を実は今ここに持
つておりませんので、今後
調査したいと思
つておりますが、少くとも私
ども検事の側といたしましては、今日の
東京の
地方裁判所の
単独部の
裁判が
合議部よりも劣
つているとは決して
考えておりません。そこでいずれにいたしましても、
検事ば
被告人と相対する
当事者の一人といたしまして、第一
審裁判がどういうふうに行われるかということについては重大な関心を持たざるを得ないわけであります。第二審の
裁判か正しくりつぱに行われるということを最も強く希望しているのは、
当事者の一人として当然のことであろうと思います。
検事は決して
上訴、
控訴ということを好むものではないのでございます。当然のことでありまするが、
事件が第一審限りで確定するということであればこんないいことはないということを常に
考えております。従いましてこの
控訴申立ての
理由というよりなものも、
現行の
刑事控訴法が規定している
程度を越えてこれを広げてもらいたいということは私は
考えておりません。従いましてまた私は
検事の側で乱
上訴すなわちむやみな
検事控訴は行
つていないつもりであります。従いまして
控訴の
理由を
現行刑訴以上に広げるということは必要ないと
考えると同時に、またこれをこれ以上しぼる必要もない、かように
考えております。
かような席であるいは申すほどのことではないかも存じませんが、私どもが
検事控訴する場合にどういうような慎重な態度をと
つているかという内輪話でありますが、それを実はごひろう申し上げますると、ここにある
判決の言い渡しがございます。それが無罪だ、あるいは
検事の
考えておつた求刑より非常に差がついた軽い
裁判であるということがあるとします。そうしますとその
公判に立ち会
つておりました
検事は自分の
判断によ
つてそれを
公判部長のところに報告に参ります。そして自分の
意見を加えます。その
検事はこれは無罪でもしかたがない、あるいはこういう軽い
判決でもしかたがない、納得すべきであるという
意見を伝えることもあるし、あるいはこれはどうも自分では
判断がつかぬ、ひ
とつ考えていただきたいということを申し出ます。それで部長の方でこれは
考えるべきであるということになりますと、部長の手元においてその
公判に立ち会つた
検事でないほかの
検事を一人――これを私どもの方で
審査検事と申しておりますが、
審査検事を命じまして、その
事件について
控訴期間内に詳細な
調査をさせます。つまり全然新しい角度からその
事件を見直すということをいたします。そして記録を検討し、
判決を検討し、証拠物を検討するわけでありますが、かようにして
審査検事が資料を整理いたしますと、今度はそれを
公判部全
検事の前にひろういたします。そして私どもはそれをいろいろな角度から議論いたしまして、これはやはり
控訴した方がいい、あるいはそれは
控訴すべきではないということを甲論乙駁いたします。それで一応の
公判部の
結論というものを出しまして、それを
検事正なり次席
検事のところに持
つて行まして、もう一度そこでレビユーいたします。そしてそこでもなおこれは
控訴すべきであるということになりますと、初めてそれを持
つて高等
検察庁に参ります。そして高等
検察庁の
検事の
意見をそこで聞きます。それで最終的にいよいよそれじや
控訴していいということになりますと、初めてそこで
控訴の
申立てをするというふうにいたしております。従いましていろいろの議論を経ますので、立ち会つた
検事が、
控訴すべきであるという
意見を私のところに持
つて来ましたものでも非常にふるいにかけられまして、わずかなものが
控訴ということで立
つて行くということになるのであります。
このように検討に検討を重ねて
検事控訴を行うというその
理由は、申すまでもなく
控訴ということは何と言いましても多くの犠牲を伴い負担がかかる。そこでできるだけ第一審の
裁判を信用したいためにほかならないのであります。その
検事控訴の結果、こういう統計的な結果が出て来るかということを実はここに数字を持
つておりますが、プリントができておりませんのでおき聞流しを願いたいと存じますが、御参考までに申し上げますと、昨二十八年度におきまして
東京地方裁判所で第一審として言い渡しました四千五十五件の
裁判がごいますすが、この四千五十五件の中で
検事が
控訴を申し立てたものはただの五十五件、つまり四千五十五件に対してわずかに一・四%でございます。それから
被告人の方で
控訴を申し立てたものは八百十八件であります。四千五十五件に対しますと二〇・二%ということになります。それから弁護人の方で
控訴を申し立てたものは百八十件で、四千五十五件に対しまして四・四であります。それから
被告人も
控訴するし弁護人も
控訴する、両方で
控訴するというものが八十九件、四千五十五件に対しまして二・二%になります。そうしますと
被告人、弁護人、それから
被告人と弁護人の両方、つまり被告側の方で
控訴したものが合計して千八十七件、全体の二七%の
控訴申立てということになります。
あと残りは
被告人も
控訴するし弁護人も
控訴する、
検事の方も
控訴するということになりますが、それが二十六件で、全体の六%ということになりますが、この数で見ますと大体
被告人と弁護人側の合計が千八十七件に対しまして検察官の方の
控訴は五十五件、比率にしますと二百七十対十四ということになります。
控訴の率はこの通りであるといたしまして、これが
実質的に
控訴審でどういう
裁判を受けることになるか、つまり
控訴審で破棄される率はどのくらいかということを見ますと、これはいろいろ
裁判所の方からも御説明になり資料も御提出があつたことかと思いますが試みに申し上げますと、この二十八年の統計では、ただいまの四千五十五件の
控訴の中で破棄されたものはわずかに百八十二件でございますから一五・六%ということになります。
控訴棄却に
なつたものは全部で五百二十八件ございまして、この中で検察官の方から
控訴した先ほど申した五十五件のうち、
控訴審で
控訴棄却につまり門前払いを食いましたものは十一件であります。
検事の五十五件の
控訴に対して十一件と申しますと、二〇%は
控訴棄却に
なつたということになります。それから
被告人の
控訴八百十八件ということを先ほど申しましたが、八百十八件のうち
控訴棄却になりましたものは三百七十一件であります。これは八百十八件に対しまして四五%ということになります。それから弁護人の
控訴、これが百八十件ということを先ほど申しましたが、このうち
控訴棄却になりましたものが四十四件でありまして、二四%は
控訴棄却にな
つておるということになります。それから
被告人と弁護人と両方のものが、これは八十九件と先ほど申しましたが、そのうち
控訴棄却になりましたものが三十八件でありまして、四三%は
控訴棄却に
なつたということになります。この
被告人あるいは弁護人あるいはその両方の
控訴申立てのうちで、
控訴棄却になりましたものは合計しますと四百五十三件となります。この四百五十三件は先ほどの千八十七件に対しまして四二〃、つまり
被告人、弁護人あるいは
被告人、弁護人の両方の
控訴したもののうち四二%は
控訴審で
控訴棄却になり、検察官の場合には、
控訴棄却に
なつたものは二〇%にとどまる、こういうことになります。そのほか
被告人あるいは弁護人それから検察官の両方の
控訴が二十六件あると申しましたが、そのうちで
控訴棄却になりましたものが十七件で六五%、これは非常に高い率を示しております。
今のは
控訴棄却でありますが、このほかに、
被告人や弁護人の方で一旦
控訴しておきながら、
あとで取下げる場合が
相当ございます。二十八年度は、
被告人の坂下げたものが八十六件、弁護人の取下げたものが四件、
被告人弁護人両方で取下げたものが二件、合計九十二件とな
つております。坂下げと
控訴棄却を加えますと、
被告人の側の方は五百三十四件であります。被告からの千八十七件の約五〇%がこのようにな
つておるということになります。従いまして
控訴で破棄される率というものは非常に低率であるということになるのであります。すなわち
被告人の
控訴のうち破棄されるのは九十九件、弁護人
控訴のうち四十四件、
被告人弁護人両方で十七件、合せますと百六十件であります。この百六十件は、先ほどの
被告人の側の
控訴千八十七件に対しまして一五%にしかなりません。これに対しまして検察官の
控訴にかかるものの比率は二十八年度は三三%でありまして、検察官の場合の方が非常に主張の通ることか多いということになるのであります。以上は検察官が
上訴を慎重にや
つているという
あたりまえのことを実証的に申し上げたわけでございますが、
上訴制度というものがこの
委員会で問題とな
つておるのは何ゆえかということを私ども
考えました結果、これは乱
上訴、つまりみだりな
上訴が現状として行われておるということを前提として、
上訴を制限すべきじやないかどうかというところに問題点があるからであろう、かように
考えました。そこで、どうして乱
上訴が行われるかということにつきまして
考えますと、この点についてはすでに御承知と存じますが、最高裁の田中
長官の論文がございます。これはすでに法務省の
民事局の方からお配り申し上げてある資料の中にあるそうでありますから、その詳細を引用することを差控えますけれども、そこに書いてございますうち大体四つの点をごくかいつまんで申すと、
一つは、日本では大陸法
主義に従
つて上級審における
不利益変更の禁止の
制度がとられているから
上訴審において原
審裁判より刑が軽くなることはあ
つても重くなる心配はないということがあ
つて、だから
控訴が非常に多い。あるいは
上訴して
事件を引延ばしている間に起るその後の事情の
変更により、利益を受ける可能性が期待できる。たとえば損害賠償ができるようになるとか、あるいはきわめてまれなことでありましようが大赦とかあるいは犯罪後の法令による刑の廃止、
変更ということがあることによりまして、あるいは免訴、あるいは刑の軽減の利益を受けることがないとはしないということが
一つ言われておりますし、それから第三番目には、
控訴審においては刑の量定が第一審よりも軽くなる傾向がないとはしないのだ、というのは、犯罪のときから時間的な隔たりもあるし、犯罪のなまなましい印象が次第に薄らいでおるし、それから世間の興奮も静ま
つておる等の
理由がある。そのためにやはり
控訴ということがあり得る。それから第四としましては、
被告人が刑の執行を受ける時期を選択する意図のもとに
上訴をすることがあり得るのだということまで
長官は申しておられますが、そういうようなこの四つのことは、いずれも当
つておるだろうと思います。しかしながら人も言われるように、人情の常といたしまして、法律上
控訴とか
上告とかいうことが権利として認められている限りは、ただいま
安平参考人もおつしやつたように、何とかりくつをつけてこれを
上訴する。そうしてぎりぎりまで争
つて打開の道を開こうとするのは一面無理からぬことであろう、従
つて一概にこれを非難し去ることは私どもできないと
考えます。せれならばこの乱
上訴を防ぐ正当な方法としては何が
考えられるだろうか。それについては最高裁の田中
長官の主張されるように、現在の
刑事訴訟法の四百三条の
不利益変更禁止の規定をとることだ、これができれば最も効果的だろうということは、私すらも
考えます。すなわち
控訴審の
裁判をいやしくも
被告人が信用して、そうして
控訴審が正しい
裁判をするんだということを信用して
控訴を申し立てる限りは、あるいは
被告人は一審よりも重い刑を言い渡されるかもしれない、そういう危険を負担するのは当然だというようなこと、それからそうすることによ
つて理由のない
控訴が制限され、
裁判も
事件が制限されて迅速になると、どんどん
控訴の
裁判がはかどるということになりますから、みだりな
控訴による引延ばし戦術も自然なくなるのではないかといりように存ずるのであります。そこでお手元に本日お配り申しました一枚紙のものがございます、これは昭和二十八年十一月五日から二十九年六月三十日までの第一審――
東京地方裁判所の例でございますが、
裁判の確定に関する
調査でございます。これは先般の国会で
刑事訴訟法の一部
改正によりまして、三百五十九条以降で
上訴を放棄する道が開かれた、この
改正規定の施行の日から本年六月末までをとりまして、その間に
上訴放棄がどのように行われて来たかという状況を参考までにお示ししたものでございます。これについてちよつと御説明申し上げますと、昨年の十一月五日、規定
改正以降本年六月三十月までに
判決の言い渡しがありましたのが、全部で三千二十件、そのうち実刑の言い渡しかあつたものが千四百六件執行猶予のつきますものが千四百五十三件で、全体の四六・五%、その他――とその他と申しますのは、ここに、こまかく書いておりますが、求刑が死刑で
判決が無期、あるいは有期の懲役及び無期を求刑したが有期に
なつた、体刑を求刑して
判決が罰金である、それから求刑も
判決も罰金だというようなものをいいますが、これが百九十四件で、わずかに六・二%であります。この中で一審の実刑が
検事の求刑通りというのか四百三十一件で、一三・八%、求刑の三分の二以上のものが七百二十件で二三・〇%、求刑の半分以上の
量刑のあつたものが二百十九件で七%、それから求刑の二分の一以下の非常に軽い実刑の言い渡しがあつたものが三十六件で、これは非常に少く一・一%であります。執行猶予の方を見ますと、執行猶予のついておるものが、その元の刑の方は求刑通りの刑であるというのが九百五十八件、三〇・七%、それから元の刑を三分の二以上のところで
量刑しておるが執行猶予がついておるというのが三百八十二件、一二・二%、同じく求刑の二分の一以上の刑でも
つて執行猶予をつけたのが九十六件で三%、以下ここにございますような数字になります。こういうような
判決の言い渡しがあつたものを新しい規定によ
つて被告人の方で
上訴権を放棄したものはどのくらいあるか、つまり
控訴期間内に
上訴権を積極的に放棄したものであります。それが四百二十七件であります。この四百二十七件の内訳を見ますと、求刑通りの実刑の言い渡しがあつたものについて百三十二件放棄しております。このうち(三)と書いてありますのは
検事の求刑以上に重い
判決があつたものであります。それについて
被告人の方で
上訴権を放棄しておる。その次、求刑の三ルの二以上の
範囲内で実刑の言い渡しのあつたものについては、百九十五件の
上訴権放棄、以下五十六件、八件とな
つておりまして、求刑より非常に軽いものほど
上訴権放棄が少いということになります。パーセンテージで申しますと、ここに書きましたのは横の百分比でありますから、新しく申し上げますと、実刑の求刑通りの言い渡しのあつた四百三十一に対しまして
上訴権放棄の百三十二は三一%に該当いたします。求刑の三分の二以上の言い渡しは七百二十ございます。これに対して
上訴権放棄百九十五でございますから、二七%は
上訴権放棄と
なつたということでございます。それから二分の一以上の
判決二百十九に対する
上訴権放棄五十六、これは二六%となります。次の八は三十六に対しまして二二%ということになります。これは数字は書いてありませんが、そういう計算であります。それから執行猶予に
なつたものについての
上訴権放棄は非常に少うございまして、求刑通りの二十二というのは、九百五十八に対しましてわずかに二%、以下九も二%、二も二%であります。以下
判決言い渡しのわずか二%が
上訴権放棄執行猶予の場合にな
つております。それから求刑の二分の一のもとの刑で、それにさらに執行猶予がついたという非常に軽い
裁判を受けたにかかわらず、
上訴権放棄はゼロであるということになります。これは積極的に
上訴権放棄の場合であります。
その一番下に自然確定というのがございます。この自然確定とここに書きましたのは、二週間の
控訴期間をそのまま
経過いたしまして、
控訴もしないで
経過いたしました結果、自然に
控訴期間の
経過によ
つて確定するというものでございます。これが求刑通りの
判決のあつたものに対して百四十一、これは三三%でございます。それから百九十六、これが
判決七百二十に対して二七%、次の六十二、これは
判決二百十九に対して一九%、それから次の十一、これは三十六に対しまして三一%というふうになるのでございますが、これをずつと見ておりますと、刑が
検事の求刑と原審の求刑が非常に一致するか、あるいは一致に近いものについての方が案外
控訴が少くて、むしろ軽い場合の方が多いという現象が見られるのであります。
ここで私の申し上げたいのは、第一審で言い渡せる刑が
検事の求刑より軽いからとい
つて、
上訴権を放棄したり自然確定するというわけでは必ずしもない。かえ
つて求刑通りか、あるいは求刑の三分の二以上というような言い渡しのものについて服罪するものが多くて、かえ
つて非常に差のある軽いものはさらに
控訴審による刑の軽減を期待するためか、
控訴が多いのじやないかと思われることでございます。しかしかような
結論をすぐ下すにはこの
程度の資料あるいは
調査ではまだ正確ではございませんで、これ以上申し上げることは差控えますが、
控訴審における
不利益変更禁止が許されるとなりますと、
控訴が減少するということは当然これでも
つても予期できるだろう、かように存じます。諸外国のことを見ましても、
不利益変更の禁止には理論的な根拠がないので、もつぱら政治的な
理由から来ているということは学者の説くところでございますが、英国にもこんな禁止の規定がないということは成文法によ
つても明らかであり、
一般には知られております。それからアメリカでも
上訴乱用防止のために
不利益変更をむしろ認めよというようなことがオーフイルドなどの学者によ
つて唱えられておるということが
わが国にも先般来紹介されております。
わが国でも米国のように
上訴裁判所は
原判決を軽くすることさえ特別の制定法が必要であるというような、
上訴裁判所の権限がきわめて限定されている場合な別でありらますけれども、
控訴事由が
現行の
刑事訴訟法程度に認められているというのであれ
不利益変更をば認めるということは理論的でもあるし、それから合理的でもある。かように第一審の
検事としては
考えるわけであります。そこでその認め方でございますが、この認め方としましては、検察官に
附帯上訴権を認めて、その場合に限
つて不利益の
変更ができるというようなもとの
刑事訴訟法の
制度のような方式が、最も実際的で妥当ではないかというのが私の
結論でございます。しかしまたこの議論に対しましては、逆に大体検察官に
上訴権を認めるということはいかぬ、再審や
上告は別としまして、
一般の
上訴を禁じて、もつぱら
被告人側の利益のみをはかるべきであるという
意見もあろうかと存じます。これは第一審の
裁判が非常に完璧であ
つて、
上訴をまつでもなく、信頼できる場合のことでありまして、現状では先ほどの統計が示しましたようないろいろな多岐の
実情にある点からいたしましても、縦事
上訴はやはり
制度として必要である、かように
考えます。特に全国的に共通した犯罪などになりますと、全国的の刑のバランスということを、最高検をピークといたしまして、
検察庁は
考えます。地域的な均衡ということも
考えます。それからあるいはそういう大げさなことでなくて、同一の
裁判所の中でも部によ
つて見解が異なるというようなものがあ
つては非常に困るのでありまして、これについては検察官としましてはやはり
意見を立てるのは当然でありますし、この場合に
検事上訴という方法で、この
意見を示すことが最も明快であり、公明な
意見表明手段であろうと私は思う次第でございます。結局私は
裁判制度としましては、第一
審裁判をそのまま不服なく確定するということが審級
制度の
原則であると
考えますので、
上訴というものは、きわめて例外のものであるということで
上訴制度の運用をいたしておるつもりでございます。従いまして第一審の充実が最も大切である。できるだけ第一審を信用して、その
裁判に服する方針でやる。しかしながらやはり
検事上訴の
制度は、現状のもとでは必要であるということ、従いますて現在の
控訴審が
事後審であることについては、これは多少第一審の不安からこれを覆審に直すべきだという御
意見のある向きもございますけれども、少くとも
継続審程度まで、つまりこれは現在の
事後審も運用によ
つては、
継続審を同じような結果を来しているということが
考えられますので、運用によ
つて継続審的な役割を果せばいいのであ
つて、立法的な
改正の必要まではないのではないかということを
考えます。それから乱
上訴の防止のためには
附帯控訴のもとの
刑訴のうなものの復活が望まましいということを
考えております。
以上が私が申し上げたいと思つた点でございますが、もつと進んで参りますと、あるいは
裁判では有罪、無罪だけを言い渡せばいいのであ
つて、
量刑はもつ。ばら
刑罰を執行する機関の裁量にゆだねれはいいとか、あるはい
裁判に陪審制を取入れろという問題が起きて来ると存じますけれども、私ども現在等一審におる
検事といたしましては、これらの深いつつ込んだ点について検討もしておりませんので、おおむね平凡なことでございいすが、
現行刑訴制度を是認するという態度でございます。これについて
現行の禁止の規定を解いてもらいたいということ、従
つて附帯控訴制度を新設されたいというようなことを
考えておるわけでまります。私どもいつも実は
考えるのでありますが、そういうような問題が起きますと、たとえば法制審議会というよなところになりますと、
裁判官と検察官の
代表者、それから弁護士と、きまり切
つておるわけであります。それから
訴訟法学者のおもなる先生方が加わた
つて大体この三者、四者で議論をなさる、そして
結論を出されるということになる。これは非常にごもつともだと思いますけれども、私どもとしましてやはりこちらの
委員会のようなところで、く専門家でない
一般国民はどう
考えておるかというようなことも聞かせていただくとたいへん有益であろう。私どもといたしましても物事を見る上に非常に参考になろう、かように存じます。よけいなことまで申し上げまして恐縮でございますが、以上で私の話を終ります。