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三浦政府委員 戦犯受刑者の
釈放について、
政府は平和条約発効以来同条約第十一条所定の手続によつて各
関係国に対し赦免、減刑または仮出所の勧告を行つているのでありますが、これに対する
許可状況は本日、昭和二十九年五月二十一日現在は次の通りであります。
一、米国は、平和条約発効後各
関係国にさきがけて、昭和二十七年十月、二名の仮出所を
許可して参りまして以来、累計百二十五名の仮出所と二十一名の減刑、うち十九名は減刑の上仮出所を
許可しております。
二、英国は、昭和二十八年六月に仮出所中の者八名を含めて十二名と、同年八月に四名をそれぞれ減刑して参りましたので、これによつていずれも満期出所いたしました。さらに昭和二十九年三月にも一名の減刑がありましたが、これはまだ服役中であります。なお英国
関係戦犯者の終身刑は二十一年とされ、同国のレミツシヨン制度の適用によつて、その三分の二を服役することによつて
釈放し得ることになつております。
三、仏国は、昭和二十八年六月、同国
関係戦犯全員三十八名の減刑を行い、これによつてうち三十五名はただちに満期出所し、他の一名はその後満期となり、さらに残りの二名は昭和二十九年四月に赦免を
許可されまして、全員の解決を見たのであります。
四、オランダは、昭和十八年七月に十三名の仮出所を
許可して参りましたので、引続き
許可があることを期待したのでありますが、刑期十年として引継ぎを受け満期
釈放した者が終身刑であつたことが判明したために生じたいわゆる林
事件の発生により、仮出所の
許可が一時停止され、昭和、二十九年四月、林を再収容することによつて、同年四月に十六名の仮出所が
許可され、林も終身刑から二十年に減刑され、最近さらに林を含めた十五名仮出所の
許可通知かあり、出所いたしました。
五、濠州国
関係戦犯は、いまだ一件の仮出所または減刑の
許可もありません。
六、
中国及び比国
関係戦犯者は、すでに全員赦免、
釈放されたことは御承知の通りであります。
七、極東軍事裁判所において処罰されたいわゆるA級戦犯については、条約発効当時巣鴨刑務所に拘禁中の者は十三名でありましたが、その後一名が死亡し、一名が昭和二十九年一月仮出所を
許可され、現在十一名が在所中であります。
かくして巣鴨刑務所に服役中の戦犯者は、現在七百三十八名でありますが、平和条約発効に伴つてわが国に移管された者は九百二十七名であり、その後外地から送還される等によつて巣鴨刑務所に入所した者は二百二十名でありますから、結局四百九名の減少を見たのであります。この四百九名中赦免、減刑、仮出所の処置によつて出所した者は三百五十八名であつて、その他の者は満期出所あるいは死亡した者であります。
政府は戦犯者の一日もすみやかな
釈放を切望し、わが全
国民の感情を背景として、それぞれ相手国
政府に対し、政治的にまたは司法的にその
釈放促進のため努力いたして参つたのでありますが、いまだ米英和濠等の諸国は、国内輿論や議会の反響等を懸念し、戦犯
釈放に対しきわめて慎重であり、今にわかに全面赦免を期待し得ず、当初よりの司法的審理方針を変更しておらないのであり、いまだ早期解決の十分な見通しを得るに至つていないことはまことに遺憾に存じております。
右の各国の司法的審理方針に即応する個別的な勧告手続は、少数の例外者を除き、赦免、減刑あるいは仮出所の勧告を終り、さらに勧告後も在所者並びにその家族の状況等の調査を続け、追加情報を送付する等によつて
関係諸国の審理を容易ならしめ、
釈放許可決定の促進に努めております。
同時にかかる個別的な勧告と並行して、
関係各国の戦犯に対する
国民感情を緩和するため、宗教団体を通じ、人道に訴え、または随時にその他適切な政治的手段をとる等、全戦犯が一日も早く
釈放されるよう、さらに最善の努力を傾ける所存であります。
平和条約第十一条の廃止については、現下の国際情勢及び
関係国の戦犯に対する考え方からして、相当困難が予想されるのであります。従つて
政府といたしましては、条約に認められた
範囲、方法によつて戦犯
釈放を実現するため鋭意努力中であります。
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