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1954-05-27 第19回国会 衆議院 法務委員会 第63号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年五月二十七日(木曜日)    午後零時五分開議  出席委員    委員長 小林かなえ君    理事 鍛冶 良作君 理事 佐瀬 昌三君    理事 田嶋 好文君 理事 林  信雄君    理事 高橋 禎一君 理事 井伊 誠一君       押谷 富三君    花村 四郎君       神近 市子君    木原津與志君       木下  郁君    堤 ツルヨ君  出席政府委員         法務事務官         (人権擁護局         長)      戸田 正直君         労働事務官         (婦人少年局         長)      藤田 たき君  委員外出席者         国家地方警察本         部警視長         (刑事部防犯課         長)      藤本 好雄君         検     事         (刑事局刑事課         長)      長戸 寛美君         検     事 石井 春水君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  売春等処罰法案堤ツルヨ君外十一名提出、衆  法第三四号)     ―――――――――――――
  2. 小林錡

    小林委員長 これより会議を開きます。  売春等処罰法案を議題とし、審議を進めます。発言の通告がありますから、順次これを許します。堤ツルヨ君。
  3. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 人権擁護局長がおいでになつておりますからひとつお尋ねをいたしておきたいと思います。  あなたの方としては、今日私たち売春等処罰法案婦人議員として本委員会に提出して審議されておりますが、ちまたに横行しておりますところの旧態依然たる日本の女性の売春行為については十分御承知のことと存じますけれども女子基本的人権立場から、あなたの方では今日のこの女子売春問題をどういうふうにお考えになつておるか、まずそれを伺いたいと思います。
  4. 戸田正直

    戸田政府委員 人権擁護上、人身売買とか売春とかいうことがよろしくないということはもう言うまでもないのでありますが、人権擁護局といたしましても、売春及びそれにからまる人身売買につきましては、重大な関心をもつて臨んでおる次第であります。
  5. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 非常に重大な関心をお持ちであるということでございますが、実はこの間から警視庁の方や国警の方、皆さんに出ていただいて、いろいろとこの売春の問題について、今までの政府のとつて来た処置だとか、考え方、それからもしこの国会でこの処罰法案が通過いたしましたときに、第一線を担当してやられるところの皆さんに御意見を承つておるのでございますが、売春が今日のように行われておるということを承知しながら、国警警視庁の方でもどうしても行き届かない、十分な捜査だとか、それから犯罪をあげる、そして人身売買の絶滅を期するというような目的をもつて第一線で仕業をやつてみるけれども、効果があがらない、非常にむずかしいということをしばしばおつしやるのでありますが、聞くところによりますれば、人権擁護立場から、今私がお尋ねしたのとは違う意味で、どうもあそこでは売春が行われているらしい、いやあの建物は、いやあの人物は、という見当はついておつても、なかなか現場が押えられないで、たとえば金銭のやりとりをしているようなところを実際につかむことはむずかしくて、やりにくい、かてて加えて強引な踏込み捜査などをいたしますと、逆に人権を蹂躪するというような非難を浴びるので非常にやりにくいというようなお答えをしばしば聞くのでございますが、こういう点について、女子基本的人権を守る立場から捨ててはおけない、しかし強引な第一線の活動をやると、逆に今度は罪なき人々の人権を蹂躪する危険が生れて来る、ここに非常なギヤツプが生れて来る、私たちもむずかしいのはわかりますが、今日国警警視庁などは、それを種にして第一線がしつかりしてくださらないような気がするのでございます。そういうことについて、国警警視庁人権擁護局との間において、ほんとう女子基本的人権を守るために、売春をなくし、人身売買を抑えて行き、今度は逆に真にやつたときに善良なる市民人権を蹂躪しないようにするには、具体的にどういうふうにすればできるだろうかというような話合いを真剣にお考えくだすつたことがあるかどうか。つまり、私が申しますのは、取締られる側と、それから逆に人権擁護立場から、売春をしている婦人人権を守るという二つの場合がありますが、この二つ立場にあられる人権擁護局として、その成果をあげるために何か具体的に御連繋をおとりになつて実際にやつて来られた過去の例があるかどうか、もしあればお教え願いたい、またどういうくふうがなされているか、どういう寄り寄りの相談がなされたか。――おわかりでしようか。これでは捨ててはおけないから、人権擁護局はこういう穴を埋めて、こういうふうにやろうというような御相談があつたり、また実際にやつてくだすつたりしたことがあるかどうかということです。
  6. 戸田正直

    戸田政府委員 たいへん申訳ないのですが、従来取締り当局人権擁護局との間でこの売春等取締りについて特に打合せをした、相談をしたというようなことはございません。売春等人権上よろしくないということは議論の余地はないと思いますが、これを取締るという面においては、捜査取締りの面において非常な技術上の困難があるということは私ども承知しております。そこで私どもの方といたしましても、人権という問題が非常に範囲が広うございまして、今の売春ということが人権擁護の面から問題になると同様に、取締るということもやはり人権擁護上問題になるのであります。これをどう調和するかということは、結局これを捜査し、取締りされる方の運用等にかかるのでございますが、たとえば昔の臨検のようなことがもし行われるとすれば、これまた私は人権擁護上ゆゆしい問題である、かように考えておりまして、結局これは取締られる方の心構え、運用ということによつてしなければならない問題で、実際問題としては取締り等において取締り当局がいろいろ御苦心があり、非常に困難であろうというふうに考えておる次第であります。
  7. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 これは非常にむずかしい問題でございまして、私たち衆参両院婦人議員団が今国会売春等処罰法を何とかつくり上げたいというのでまじめな運動を始めました当初に、警視総監の田中さん、それから国警の方へも参りまして、人権擁護局ともう少しお話合いになつて、ひとつ取締りの方の徹底がもう少しよく行くように、何とか具体的に考えていただきたいということをたびたび申し上げたのでございます。それでその後二、三箇月を経過しておりますので、おそまきではあるけれども、あなたの方へ何か御相談があつたかということを期待して実は質問申し上げたわけでございます。私がなぜこういうことを御質問申し上げるかと申しますと、たとえば吉原のあの検診所と申しますか、性病を持つておる女の人たちを治療する施設、あそこを私なども十日に一ぺんくらい知らぬ顔をしてのぞいておりますが、性病を持つた女がほとんどあそこに収容せられておつたことがございません。それからまた、これはいろいろな例をあげてわかりやすく説明申し上げるのでありますけれども、山谷のドヤ街などへ行つてみますと、あの三本の温泉マーク人身売買がやられておる根拠であつてヒロポン密輸の麻薬の殿堂であつて、しかもあそこで売春が行われておるということは目に見えておるけれども、あそこへは国警が手を入れない、警視庁知らぬ顔をしておるというようなことで、あまりにも目に余るものが非常に多いのであります。それで私たち取締り当局に、なぜあなた方はああいう目に見えすいておるところをおやりにならないか、もちろん国民基本的人権を主張するということは国民権利ではあるけれども、しかし権利と同様に国民としては義務を果さなければならぬ。社会のバチルスになるような人は社会人として義務を果しておらぬのだから、人権擁護の面からも、義務の面からもこれをつつ込んで行つたらいいじやないかということを再三申し上げるのであります。そのときに人権擁護局の方から横やりが入つて、どうしてもいざとなるとそこへ手が入れられないのが実態だということを、第一線の警官の万からも私たちにおつしやいますし、警視庁の方でもそういうことをおつしやるのであります。あなたは今御想像でありましようが、非常に取締りの面がむずかしい、女子基本的人権を守るために、人身売買売春がないように取締らなければならない、しかしその取締りが行き過ぎたときに逆に善良なる市民基本的人権侵害するような結果が現われて来る、そこの調整がむずかしいということをお認めになつておりますけれども、今日のような醜い社会状態を露呈しておりますのも、人権擁護局取締り当局とが積極的に連携をおとりになつて、そこのみぞをふさいで今日のような状態をなくすることに努力してくださらないということ自体が、私は売春を繁昌させておる原因じやないかと思つてこういう質問を申し上げておりますが、いかがでございますか、これは国警の方と両方からお答え願いたいと思います。
  8. 戸田正直

    戸田政府委員 先ほど、従来は取締り当局と特にこの問題について具体的の打合せをいたさなかつた、かように申し上げたのですが、最近の売春対策協議会におきましてはこうした取締り面等につきましても、人権擁護局から私も幹事になつて出ておりまして、委員幹事の間においてもその点について相談協議をいたしておる次第であります。  それから取締り面が非常に国警等においてもあるいは警視庁等においてもむずかしい、それは人権擁護局から横やりが入つておるんだというようなお話でありましたが、決して私の方から特にこの問題について取締り当局横やりと申しますか注文と申しますか、そういうことを申し上げたことはございません。ただ人権尊重人権擁護ということを常に念頭に置いておかれて取締りをされることが必要であるということは、これはもう全般の問題でありまして、今の売春とか人身売買等が横行してよろしいというふうなことは毛頭考えておらないのであります。ただ先ほど申し上げたように、この取締り等が行き過ぎますと、これもまた不測の事故が起きる。例を申し上げますと、一昨年でございましたか、渋谷の警察の管内でありましたが、新宿でもつて進駐軍の自動車そばに女の人が立つてつたところが、これが一齊の取締りにかかつてトラツクに乗せられて吉原に入れられてしまつた。この人は非常に善良な子女であつて、決してそういうパンパン等ではなかつたのでありますが、それがちようど場所新宿のああいうところでありましたために、友だちと待ち合しておつたところを連れて行かれてしまつた。それが新聞に出されまして非常にその人の人権が傷つけられ、その人の名誉というものが嫁入り前でありまして非常に侵害された事実がございますので、それらに対する取締り等に対して警察に勧告申し上げたことがございます。それは取締りも必要でありますが、取締りが行き過ぎますと今度はその人の人権侵害する、婦人人権侵害する重大な結果を生ずる場合もございますので、個々の具体的事件については取締り当局等に勧告もしましたり、御注意を申し上げたことはございます。ただ全般の問題として私の方から勧告等申し上げたということはございません。
  9. 長戸寛美

    長戸説明員 法務省刑事局の現在考えておりますことを申し上げます。  仰せになりましたように、この問題は立証の点でむずかしい問題がございます。難点とするものが二つ、それは一つには、売春婦自体を処罰する場合に売春行為そのもの立証しなければならないわけでございます。それから娼家経営者等を処罰したいというふうに考える場合も、売春婦売春行為立証しなければならない。ところが売春行為そのものにつきましては、これは現行犯でないとなかなか立証がつかない。そこで娼家経営者等を処罰したいと思います場合には、そこに立ち入らなければならぬわけでございます。ところがわれわれといたしましては、昔のいわゆる臨検というようなものの復活は、これは人権擁護上いかぬというふうに考えるわけでございます。現在警察取締つておりますのは、内偵を続けまして娼家であるというふうに考えられますものは、裁判所の令状をもらつて捜索する、そこで現行犯で見つけて逮捕する、こういうようなやり方をとつておるわけであります。ところがそれではいわば十分でないわけでありまして、この娼家立入りについて刑事訴訟法で定める捜索令状以外に特別な令状をもらうというふうなこと、いわゆる立入り令状をもらうような措置考えたらどうかということが一つあるわけでございます。それからもう一つは、売春立証問題としまして立法したとえば売春行為自体は処罰する規定を設けるわけでございましようが、そのほかに路上等でみずからお客をとると言いますか、自己勧誘する場合の規定を設けるとか、あるいは売春するために路上をうろつくとか、そういうふうな形式的な構成要件を持つ規定を置くことによつて、この売春行為自体立証困難性を緩和したらどうかという点も考えるわけであります。さらにこれは非常にむずかしいことだと思うのですが、売春行為立証について何らか推定規定が設けられるかどうかという問題があるんですが、これは刑訴の問題との関連によつてとてもむずかしくてこれはまず困難だと思つております。ですからそうしますと形式的な自己勧誘規定とか、うろつく云々という、ところがうろつくにつきましても、売春目的でということになりますと、目的がとてもとれないのです。そういう困難性のあることをひとつ御了承願いたいと思います。
  10. 藤本好雄

    藤本説明員 取締りの実際上、法規上いろいろ困難がある点につきまして今御説明がありましたが、お話の中に吉原の病院に現在は非常に患者がいないというお話がありましたが、そういう点につきましても、占領下におきましては非常に売春等取締りにつきましても、御承知のように非常に強制的な方法が用いられまして、多くの婦女が入られて強制的に診療を受けるというふうになつておりましたが、現在の法制下におきましては、性病予防法におきまして治療せしめる必要があるような事情が発見されました場合に、都道府県知事強制検診命令書を出すことはできる規定にはなつておりますけれども、それによつてただちにその者をその場から同行をするという権限は付与されておらないのでありまして、命令書を渡されました者が命令書を受取つたままどこかへ行つてしまつてつかまらないというよりな実情にありまして、そういう点からやはり従前のように強くこの面において取締りができないというような実情にあるわけであります。
  11. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 非常にむずかしい問題でございまして、もう一つそれでは話を進めて、いよいよ臨検されて、現場をおつかまえになつても、極端に言えばこの法律に使つてある対象、お金をもらうのじやない、二人合意の上でしかも愛情があるんだと言い逃がれされたらこれはしかたがない。従つて、これは逃げられることは十中の九まで確かだと思う。そういうことでありますから、取締り第一線の方々がいかにむずかしいかということは、私たちも十分御同情申し上げます。事情はよくわかつているのであります。しかし先ほど人権擁護局長がおつしやいましたように、同時に善良なる市民がそのわなにひつかかるということを口実にしてあなたの方の手がゆるめば、取締官の方の手がゆるめば、今度逆にそれが逃げ道になるわけですね。現在ではそれが私はあの人たちを網の目から漏らして、ざるの目から漏らしている一番大きな原因じやないかと考えます。ひとつ今日以後は少し積極的に御研究願つてほんとう処罰法案ができたら、処罰しなければならないんだという気宇を持つて、そして取締り当局人権擁護局とが密接な御連繋をおとりになり、ことに私たち考えまするのには、取締り当局第一線に出てぐあいが悪かつたならば、人権擁護局に予算をこしらえて同行をなさる。そしてあなたの方の出先がこれはよろしいこれはいけないことだとおつしやれば、そのときには臨検をするとかしないとかいうふうにして、取締り当局だけで納得が行かなかつたならば、そこに立ち会われるという手もあるでしようし、私はやろうと思つてもらえばもう少し今日のような白昼公然と売春が行われて、五十万の売春婦が全国を横行闊歩するというこういう情ない風景はなくなると思うのです。これは私は人権擁護局取締り当局との最後の提携いかんということになると実はこういうふうに思つているんです。私の常識で。ですからこれを何とかして改めてもらいたい、研究してもらいたいという気持で御質問申し上げているのです。これは今日の売春婦たちの非常にいい口実になつていると思うのです。口実にされるばかりでなく、積極的にこちらがやろうとしない。これはこの間から法務省警視庁やそれから国警の方の人にもいろいろ出てもらつて答弁を求めたのですが、私たち立場から言えば、ほんとう売春という行為に対してどこまで当局が真剣に今までとつ組んで来たかということは、私たちは重ね重ねも追求したいのです。これを契機に御協力願うにあたつて、やはりポイントは第一線取締り人権擁護局にあるのじやないかと思つてきよう来てもらつたわけですが、何か具体的な、今までの欠陥を補うに足る、今はこういうふうに答えているけれどもこういう方法で行つたらいいだろうというお考えを、両方に何かありましたら参考のためにひとつおつしやつていただきたい。いいお考えをお持ちになつているかどういか。
  12. 戸田正直

    戸田政府委員 取締り人権擁護の調和の問題、それに対してただいまのところそうした具体的な方策というものは考えておらないのでございますが、私の方としては人権擁護売春というものはなくさなくちやならぬと思いますが、ただそれと同時にやはり人権擁護同としては国民人権連繋されることに対しては、これはもうあくまでも神経質にならなくちやなりませんので、売春だけについてはたまたま人権侵害されてもよろしいというわけに参りません。やはり取締りの上におきましてどこまでも人権尊重ということを考えていただかなくちやならぬ。ただ具体的にこの問題をどういうふうにして行くかにつきましてはひとつ取締り当局ともいろいろ相談いたしまして考慮いたしたいと考えます。
  13. 長戸寛美

    長戸説明員 今まで売春取締りが十分でなかつたことについては、われわれも責任を感じているわけでございます。実は売春の問題が目に余るとわれわれも考えておりまして、ことに前大臣も一歩前進しなければならぬということを仰せになつております。われわれとしましては昨年九月関係各庁の会を持ちまして、この問題にとつ組んで、立法問題と取締りの問題と両方に取組んで参つたのであります。そこでまず昨年の風水害のころに非常に人身売買が盛んになるのじやないかという傾向が見えましたので、まずその面からたたこう。というのは、売春婦に転落した者を救済するということは非常にむずかしい問題でございますので、われわれとしましてはそういうふうなところに落ち込む前に何とかする。それには人身売買をする女衒的なボスというものはどんなに重くやつてもいいくらいに考えておつたわけです。その面から参る。それからまた一般のあれにつきましては、警察は要するに風紀保持という関係もありまして目立つものからやつて行く、こういう方針をとられておつたというふうに考えております。今後もさらに連繋してやつて参りたいと思います。ただ問題は、売春婦自体についてみますと、たとえば罰金というふうなもので売春婦自体を処しました場合を考えてみますれば、この罰金を納めるためにさらに続けてやるという場合が考えられる。それからさらにはその罰金を従来それを支配しておつた者が立てかえて支払うごとによつてさらに支配を続けるということが考えられるわけでございます。そういう点から言いますと、どうしてもこれはその保護措置を何とかうまくしなければならぬというふうにも考えております。
  14. 神近市子

    神近委員 関連でございますが、あとにお伺いすることにたいへん関連がございますので、人権擁護局長ちよつとお尋ねいたします。これはあとに伺うことに関連がございますので、たいへんつまらないことを私は伺います。今堤さんが人権義務の両面にわけて御質問になりましたけれども、私は人権擁護局擁護なさろうという人権限界と申しますか、そういうものを一応ちよつと伺つて話を進めたいと思うのでございます。と申しますのは、さつき良民お話自動車そばに立つていた女の人がつかまつたというような人権侵害が行われたという事例がありました。そういう人を御擁護なさることは当然であり、そうしてその手続をおとりになつたこともまことにけつこうだと思います。そこで、その限界でございますけれども良民と不良民というような形で表現してもいいと思うのですが、そこの限界点、権擁される人権というものの限界点ちよつと伺いたいと思うのです。
  15. 戸田正直

    戸田政府委員 人権擁護局人権擁護をいたしまする対象というか範囲は、憲法に保障されておりまする基本的人権であります。具体的に申しますと、憲法第三章に規定されておりまする国民基本的人権擁護するということであります。それで、良民と不良民のわけ方ですが、私どもとしましては、国民である以上は良民も不良民も、それから非国民であろうとなかろうと、さらに男子であろうと女子であろうと、また大人であろうと子供であろうと、これはもう全部平等でございますので、人権擁護するという面におきましては、いかなる人であろうと、かりに死刑囚であろうとも私どもとしては同一に考えまして、同じものとして取扱つている次第でございます。
  16. 神近市子

    神近委員 そこでたいへんむずかしくなるわけですけれども、私が最初お伺いしておきたいことは、人権蹂躙が随所に行われております。たとえば公娼制度の場合のことがよく御想像できると思うのですけれども人身拘束、それから高度の搾取、そういうものが行われておるわけです。そういうことが今復活して、歴然ともうだれでも知つておるような世界にはそれが行われておる。そういうような人権は、あなた方には別に擁護する義務はないのでございますか。今日売春制度の中に歴然と行われているそういう蹂躪は、官憲による蹂躙でなければあなた方は擁護なさる義務はないのでございますか、それを伺つておきたいと思います。
  17. 戸田正直

    戸田政府委員 今の官憲とか公務員による人権侵害でなければ私の方で取扱わないかどうかという御質問でございますが、これは必ずしもそうではございませんで、ただやはり権力者であるもの、権力を持つた公務員等権力を持たない国民に対する人権侵害というものこそ人権擁護局取扱わなければならぬ人権擁護上一番重大な問題であると考えておりますが、ただ私たちとしましては、公務員以外の一般の私人間における人権侵害事件につきましても取扱つておる次第であります。これはおそらく日本くらいかと存じます。アメリカあたりでは公務員人権侵害だけしか取扱つておりませんが、日本では全部取扱つておりまして、刑事も民事も教育、労働、厚生、かなり広い範囲においてでき得る限り人権擁護をいたしたい、かように考えてやつておる次第であります。  それから、今の売春関連しまして起きて来ますのが御承知人身売買、  これが非常に多くなつておりますので、人身売買事件はやはり人権擁護局としても重大な人権侵犯事件であるというふうに考えておりまして、なるべくそういう人身売買を未然に防ぐということか――これはなかなか実際には容易ではありません。それで話は多少それますが、今まで私どもの方で取扱つた事件の大半というものが経済的な理由、いわゆる貧困を原因とする人身売買が私の方の調査ではほとんど大部分であります。従つて事前の予防ということは非常に困難でございますので、私の方ではすでに発生した人身売買事件、これを具体的に取上げておる次第でございます。二十八年度では人権擁護局取扱いました事件は百五十五件でございます。これは数の上から行きますと非常に少いかと存じますが、私の方では申告あるいは情報認知によりまして取扱つた事件が百五十五件という数になつております。
  18. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 ちよつと関連して。これは非常にむずかしくなりますが、また神近さんにかわりたいと思いますが、基本的人権擁護は、善良なる市民であろうと非善良なる市民であろうと、老若男女を問わずみな守らなければならないのだ、そういう場合に、それでは非善良なる者の人権を必要以上に擁護したがために善良なる市民人権を侵したときにはどうなるのですか。そういう結果が生れて来るでしよう。今日のボスの世界だとか、あるいは売春地帯の世界だとか、特飲街の世界というものは、私らに言わせますと大いに善良なる市民人権侵害しておりますよ。そこのところの線をどの辺にお引きになるか。同じように基本的人権を守らなければならぬということで、あまりにも目に見えた非善良なる人たち人権を守らなければならぬというりくつのもとにおやりになると、善良なる市民人権侵害することになるわけです。私はそこに常識的な一線を画してもらわなければ困ると思いますが、先ほどから言つているのも実はそこなんですが、そういう場合にどうなりますか。
  19. 戸田正直

    戸田政府委員 御質問の趣旨が非常にむずかしいのですが、善良なる者の人権とそれから非善良なる者の人権の衝突の場合の御質問かと思うのでありまして、いわゆる善良なる者より非善良なる者の人権が必要以上に擁護されるというような御質問だと思いますが、実は人権に対しては必要以上に擁護されるということはほとんどないのではないかと思つております。そこで御質問の趣旨が具体的な問題ではなしに、非常に抽象的でお答えしにくいのでありますが、先ほど申し上げましたように、国民である以上は善、不善を問わず、やはり基本的人権というものは各人間が持つておりますので、善良とかあるいはよくないとか、いいとかいうような区別なく、きわめて冷静に、公平な立場でものを判断いたします。そこで二つ人権の衝突した場合にどちらをとるかということは、これは具体的な場合によつて公正な判断によつて見るよりほかにしかたがないと思います。
  20. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 それでは私具体的に例を申し上げますよ。ここに非常に悪質な性病を持つた売春業者がある。これは男でも女でも――男娼というのもありますから。それで、この人がどうも売春婦くさい、そしてあの建物の中でやつているらしい、それからそのうしろにはポン引きがついているらしいという見当がついておるけれども取締り当局が、これも人権侵害の見地から、どうしても臨検をしてこれを取押えることができない。まごまごしておりますね。売春をやると、非常に極端な性病を持つておる場合には人にうつしますし、環境衛生上、公衆衛生上悪影響を及ぼすわけです。その場合に、あなたの方では、どうもあの人の人権侵害してはいけないからというので、いろいろな障害があつてこれを押えられない。はつきりわかつておりながら、押えなければいかぬと常識でわれわれが見ておつても、それを、法律上、実際の取締りをやつておいでになる方の立場から、最後のところがつかめないというような状態に捨てておいて、半年も、二年も、三年も捨てておいて、この人が売春をやることによつて性病が蔓延し、善良なる市民に迷惑をかけるというときは、これは私は善良なる市民基本的人権を非善良なる市民が害している一つの例だと思う。売春地区に行くとそういうことが一ぱいころがつている。そこを先ほどから言つておるのです。みぞ、盲点がそこにあるということ。だからもう少しその点を積極的にやつてもらえばこれを解決できるのではないかと思うのです。
  21. 戸田正直

    戸田政府委員 悪質な性病を持つた売春婦がおる、しかし病気を持つた売春婦人権尊重して、どうも取締り当局が踏み込めない、そういう場合には、善良なほかの市民が迷惑するのじやないかというお説であります。これは、今すでに売春が行われておるということになれば、取締り当局としても放擲しておく問題じやない。ただ取締りにはやはり訴訟法上のいろいろの手続もありまして、どうも法律に違反してまで取締るということは、事実上、取締り当局としてもできないのではないか。ですから、取締りはやはり法律に従つてしなければなりませんが、ただ売春婦が現にもう売春しているにかかわらず、怠慢によつて取締りをしないというようなことは、これはよろしくないというふうに考えております。  そこで、全体の人権と個人の人権ということがしばしば問題になるわけです。しかし私のただいまの考えとしましては、憲法規定されております基本的人権ということは、やはり個人の尊厳というものを中心にしているのではないか。全体のためだということで、もし逆にされますと、憲法規定されております基本的人権というものはくずれるのではなかろうかというふうに考えております。ただ全体の人権と個人の人権の調和というものは、非常にむずかしい問題でありまして、私も、ただちに一線を画してこうだというお答えが実はできないのであります。しかし私の考え方としては、個人の人権擁護ということがやはり、私の立場においては、主ではないか、全体の人権を無視してよろしいとは申し上げませんが、個人の人権が保障され擁護されて、初めて全体の人権というものが擁護されて行く、かように私ども考えておりまして、憲法規定されております人権というものは、個人の人権を中心にするものである、かように考えております。もちろんその全体への影響というものに対しては、決して無関心であつたり、等閑に付してよろしいという意味ではございませんが、ただ憲法規定されております人権というものは、あくまで個人の人権を中心としたものである、かように実は解釈いたしている次第であります。
  22. 神近市子

    神近委員 そのことをちよつとお尋ねしようと思つて、私も前提を伏せていたのですけれども、堤委員が少しその一端にお触れになりました。私が伺いたいと思いますことは、今日麻薬を使う人がある期間強制入院させられる制度があるようでございます。そちらで何か頭を振つていらつしやる方があるようですから、それではそういうことがあるかないか、ひとつ伺わしていただきたいと思います。
  23. 長戸寛美

    長戸説明員 麻薬中毒者の強制収容の問題は確かに傾聴すべき問題でありますが、現在のところございません。それが精神障害者の程度に達しますれば、精神衛生法のあれでもつて収容する、あるいは入院させるという問題が出て参りますが、ただ麻薬中毒者であるからということで、ただちにそういうことを行うというところまでは現在の段階では至つておりません。
  24. 神近市子

    神近委員 麻薬の使用と売春というものは、自己破壊というか自己破滅というか、そういう形でよく似ている一つ社会病だと考えるのですけれども、進んだ国では、たとえばニユーヨーク法だとかあるいはサンフランシスコ法だとか、スカンジナヴイアの三国の立法の例を考えましても、そういう場合に、悪質常習者の売春婦は強制収容し、監禁して、これを更生に導く制度があるそうでございます。これはインドネシアでも同じようなことが行われているという報告を受けております。私どもは、売春禁止法がもし幸いに成立いたしました場合の事後措置として、そういうことがたいへん必要ではないかと考えておりますけれど、人権擁護立場からそういう制度は非常にいけないものなのでしようか、それともこれは必要であるとお考えになるでしようか。必要善とお考えになるかどうかお伺いしたい。
  25. 戸田正直

    戸田政府委員 それは立法論の問題でございますが、今の場合、悪質な性病を持つた売春婦等を適当な施設に入れるとか、転落した売春婦を更生施設に入れるとか、あるいは保護処分をするとかいうようなことは、人権擁護上決していかぬことではございません。人権擁護上むしろそういうことが必要ではなかろうかというふうに考えます。
  26. 神近市子

    神近委員 それからもう一つ伺いたいことは、ニユーヨーク法でも、あるいはスカンジナヴイアの諸法でも環境による検挙、たとえば、この間もちよつと申し上げました通り、一軒の家、娼家あるいは個人が、十目の指さすところ、それをやつているということがわかれば、これをそういう範疇に入れまして、個人に対する監視をつけたり、あるいはその家の――今立入り令状という言葉を長戸さんがお使いになりましたけれども、そういうこともだんだんと必要になつてくる。またそうでなければ警察の方で非常に御難儀なさるということを今おつしやつておりましたけれども、そういう制度を考えることも、これは人権擁護立場からいけないことなんでしようか、人権擁護立場からは賛成できないというようなことでしようか、あるいはそれをやつた方がいいというようなお考えでしようか、ちよつと承りたいと思います。
  27. 戸田正直

    戸田政府委員 先ほども申しましたように、取締りについては人権尊重されるということが大原則であります。そこで、かりに立入り令状をどういう制度にいたしますかはちよつと言葉だけではわかりませんが、あそこで売春をしているのじやないか、大体はつきりしたあれもなく見込みをつけて、ただ令状を前もつて出しておつて、それでやるというようなことは、法律上そういう令状が許されるかどうか非常に問題があると思うのです。そういう法律論を抜きにいたしましても、私の方としては、人権擁護という面からはあまり行き過ぎた捜査ということはどうも好まない。決してそれは反面において売春とか何かを助長させるとか、よろしいとかいうことでは決してございません。あくまでも人権擁護局といたしましてはすべての人権、いろいろの面の人権ということを考慮しなければなりませんので、ただこれは売春だけの問題ではございませんから、捜査とか取締りということにおいてはあくまでも人権尊重してもらうということは、これはもうどうも議論の余地がないのじやないかというふうに考えておりますので、いわゆる取締り等に当つて行き過ぎた、たとい売春の問題にいたしましても行き過ぎた捜査とか取締ということは、私の立場においては許されない、かように解釈いたしております。しかし今の取締りとか捜査ということか非常に困難であろう、非常に御苦労であろうということはこれは十分察せられるのでありますが、これはもう仕事の性質上やむを得ませんので、苦労であつてもその苦労を克服して、熱意を持つて取締りに当られれば、おのずから問題は解決するのじやなかろうか、こういうふうに考えておる次第でございます。
  28. 神近市子

    神近委員 そうするとさつき申し上げたようなニユーヨーク法だとかスウエーデン法だとかいうようなものの持つております環境視察による結論というようなものは、御賛成でないという意味ですね――御賛成でない。これは日本の場合、人権蹂躪があまり行われて、歴史が新しいものですから、たいへんその点では御配慮になつているということはよくわかります。それはたいへんけつこうだと思いますけれども、その諸外国ですでに進んだ立法が行われている、そういうものもやらない方がいいというお考えなのですね。それをちよつと伺つておきます。
  29. 戸田正直

    戸田政府委員 ちよつと聞きのがしましてたいへん申訳ございませんが、もう一度今の御質問の外国の例をお願いいたしたいのですが。
  30. 神近市子

    神近委員 さつき申し上げましたように、環境、何といいますか、もつといい言葉がありそうですけれど、環境視察ですか、そういうようなことで、もう大体そういうところがあれば――私のうちのすぐそばにもございますので、もう一丁か二丁界隈はそこがそれだということはちやんと知つているのです。これは何も防犯協会――この間も問題になりましたけれど、防犯協会をお頼みにならないでも、その一丁か二丁の間はあそこにあれがあるということはもうみんなわかる。それから個人もそうでございます。まあこれは一丁ぐらいかもしれませんが、その町内では大体あの人はあれだというふうにわかつているわけなのです。そういう場合日に外囲では進んだ立法でそれをマークしておいて、それを監視するとか、あるいは適当な手を打つというようなことが行われているということを承つております。それはサンフランシスコ法と、ニユーヨーク法と、それからスカンジナヴイア諸国、一番この立法が進んだ形のようでありますけれど、そういうところにそういう立法がある。それをやるということが、売春禁止に随伴してそういう法律ができるということは、人権擁護局立場からはこれはいけない、個人の家をマークする、あるいは個人をマークするということが人権に背反するかということ、それをちよつと伺いたい。
  31. 戸田正直

    戸田政府委員 サンフランシスコ、あるいはニユーヨークのこれに関する法律は、実はつまびらかにいたしておりませんので、その点その法律がいいかどうかということにつきましては、ちよつと申し上げられないのですが、売春が環境上明らかに行われているということが、もう近隣の人もみな知つておるのだというような場合には、これは当然取締り当局において取締りが十分できるのではなかろうかと思います。私の心配いたしますのは、ではなかろうかというような、はつきりしないものを推定によつて取締りをすることは、先ほど申し上げた取締りの面から行き過ぎではなかろうかという考えを持つております。今の環境等から近隣のだれが見ても、あそこで売春が行われているのだということになれば、これはただいまの法律におきましても取締りが十分できる、かように考えております。
  32. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 そうすると、私は立入り令状の前にはたしかサンフランシスコ法だとか、ニユーヨーク法だとか、スカンジナヴイア法だとか、そういうものは取締つてよいというふうにお答えになつた思つて安心したのですが、そこに立入り令状が入つてからまた逆もどりしたのですが、風聞のある家、それから近所の人が確かにそうだということを知つておる、取締り当局も確かだと思つていても、現実に調査しなければ確かなものであるという結論は出ないわけでしよう。そうすると確かなものであるということがはつきりわかつていなくて、それらしいという程度のものは押えられないということになつたら、全部押えられないのじやないですか。
  33. 戸田正直

    戸田政府委員 私の申し上げるのは、先ほど申し上げたように、近隣のだれが見てもあそこで売春が行われているんだということになりますれば、ただいまの法律でもこれは取締ることができる。ただこの範囲を押し広げて、きわめてあいまいなものまでそれによつていろいろ取締りをするということは、今の刑訴法上行き過ぎやしないかということを心配するのです。売春が行われているということになりますれば、その取締りは十分今の法律でできるのだ、ただ今の法律でできない範囲を広げて行くかということに対しては人権擁護上好ましくないのではないか、こういう意見でありまして、今の環境、それから周囲の事情、近隣の人の目に見るところ、まただれが見ても、あそこで行われているのだということになれば、十分取締りができるのです。ただ取締りの法律というものはあまり広げることは、とうも人権擁護上好ましくないという意味でございます。ですから、現にそういう事実があるということになれば、これは取締りができるのであります。ただいまの赤線区域であるとか、青線区域であるとかいうところにおきましても取締る気なら、今の法律でも十分取締れると思います。ですから、今まで十分取締られておらないものを、国民全体に影響するようないろいろ取締り範囲をことさらに広げたりすることに対しては、人権擁護上好ましくない、かような考えであります。
  34. 神近市子

    神近委員 もう一点伺いたいことがございます。環境視察によりまして常習者だというように決定された人の現場をつかまえることはなかなか困難だということは、今るるおつしやつた通りでございます。それで不幸にしてこういう疑いをかけられた人を血液検査するというような程度までは、その人の健康のためにもよろしいし、その人に反省を促すという点でもよろしい。昔は吉原病院に連れて行つて検査をしたということもありますけれど、そういうことは確かに行き過ぎでございますから、性病予防の立場から、もし法律の条目がなければ個人でも血液検査をしてあげる、あるいはすることを義務づけるというようなこと、これも人権立場からいつて行き過ぎでしようか。そこらはそういう疑いを持たれた不幸な個人はしかたがないというふうにお考えになりますか。血液検査をするという程度のことはどうでしよう。
  35. 戸田正直

    戸田政府委員 売春常習者に対して法律をもつて血液検査を義務づけるというようなことはさしつかえないと思いますが、一般人たちに対して強制しても血液検査をするというようなことは行き過ぎじやなかろうかと考えます。
  36. 神近市子

    神近委員 今申し上げているのは一般の人をやるということは、これはもう確かに――たとえば旦那様が道楽者で、あそこの奥さんはどうも性病があるらしいというような場合にも、これをやるということはもちろん行き過ぎだということはわかつております。それで独身であつて、どうもそうらしい、たとえば街娼の人個人、そういう人にやるということで私はお尋ねしたわけでございます。良家の人をやるというのではなくて、そういう疑いを不幸にして持たれた人の血液検査をやつてあげること、これは行き過げでございますかどうかということをお尋ねしているわけであります。
  37. 戸田正直

    戸田政府委員 将来売春禁止法といいますか、売春を禁止する法律ができまして、そうして売春をした婦女子に対して血液検査を法律によつてするというふうなことは、さしつかえないんじやなかろうかと思います。
  38. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 今は売春の疑いある人についての問題でしたが、私はちよつと人権擁護局長にこの際お伺いしておきたいのです。たとえば昔――また心配なく軍隊はできて来ますけれども、しかし軍隊があつたころ、若い男の人なんかは徴兵検査があるまでは――徴兵検査のときに性病があると支障が生ずるから、恥をかくからというので非常に悼んだ。ところがこのごろではそういう一つの区切りかなくて――私は軍国制度復活の意味から言うのではないですよ。そうでなしに健全な、健康な身体を持つた青少年、優秀な民族を保つて行くために、持ちたいということで私発言しておるのですが、どうも何と申しますか、貞操観念が非常に自堕落になつて、若い人たちの間の性に関する観念なども一昔前とは大分かわつて来たように思います。そういうことも確かにお認めになると思います。そういう健康な青少年、健康体の青少年の育成に努めるという意味において、十八歳なら十八歳、また、一十歳なら二十歳、一年に一回というふうに、公衆衛生の見地からも兼ねて青少年の身体検査を、たとえば一地方の長官の考えによつてやるとか、市町村においてやるとかいうことをやつたときにも、これは若い人たち人権侵害になるとあなたの方ではお考えになりますか。
  39. 戸田正直

    戸田政府委員 青少年の健康のことは重要な問題であります。そこで今一定の年齢に達した者を全部血液検査することがいいかどうかということでありますが、これをあるいは市町村において命令をしてやらせるか、あるいは学校等においてやるということは一応はさしつかえないと思うのですが、これも強制して、運れて来てあれするということはどうも私は行き過ぎじやなかろうかと思う。これは非常にむずかしい問題で、私もあとでまたいろいろ研究いたしたいと思つております。任意でいたしますことはさしつかえないのですが、これも強制してやらせるということについては疑いがあるんじやなかろうかと考えております。その辺はひとつ後日よく研究いたしたいと思います。
  40. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 私はやはり基本的人権を守り、その人をほんとうに国家が保護するという意味では、この人が性病を持つておらないか、肺結核になつておらないか、色盲でないかということを国家なり、地方長官なり、自治庁において強制的にやることがむしろ親切であつて、強制的なのがいやな人は――いわゆる前科者なり、何か胸に覚えがあつてやられちや困る人が強制からのがれたいのであつて、私は強制的にやる方がむしろ真の意味の人権を守ることになるのじやないかという解釈をして、強制的な場合を聞いておるのです。
  41. 戸田正直

    戸田政府委員 今申し上げたように、これは非常にむずかしい問題だと思います。たとえば指紋にいたしましても、指紋をとることは、犯罪捜査上非常に便利だと思いますが、これを国民全体に強制することはどうかということになりますと、私はこれは人権擁護上問題だというふうに今まで考えておるのです。それと同じように、それを性病があるかないかというので強制してやることについては、私は実はどうも疑問を持つております。これがもし許されるということになると、やはり指紋等を国民からとることも強制してさしつかえないということの結論をお出しになるのではなかろうか、この点につきましてはひとつ十分いろいろ研究してお答えいたしたいと思います。
  42. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 私がなぜこういうことを申し上げるかと申しますと、青少年の犯罪防止それから青少年のいかがわしい性病、体格全体の問題については、これは親の立場から申しましても、自分の息子が人殺しをしておつても、親は知らないでおめでたい立場にあつたとか、たとえばこの間の鏡子ちやん殺しの問題にいたしましても、もう少し親切にあの人を保護するいろいろな環境が与えられておつたならば、ああいう犯罪に陥らなかつたと私は思うのです。ヒロポンを打ち、売春地帯に行つて女を買い、女をあさり、遂には性的犯罪を犯して、小さな少女を殺すというような犯罪に落ちて行つた。その径路を見ますときに、これは親だけではどうにもならない、個々の家庭だけではどうにもならない青少年の保護、いい意味での保護、これがまた現在の状態では欠けておると私は思うのです。従つて私は、社会的に考えても国家的に考えても、また個人の家庭の立場からいつても、親の立場からいつても子の立場からいつても、やはり一貫した保護、しかもそれが真の意味の人権擁護になるというような意見を自分自身持つておるのです。ですから、人権擁護局は強制的にそういうことをやるのは出過ぎであるというが、たとえば指紋なんかでも、私らは全部おとりになつた方がよいと思う。なぜならば、これは社会秩序を保つために、善良な市民がみな協力するという意味で私は筋が通ると思う。それを人権擁護局の方がそういう調子で何もかも出られて来ると、あまりにも基本的人権侵害という言葉の濫用に過ぎて、それを振りかざし過ぎて、社会秩序をこわしておるのではないかという考えを私は持つておるのですが、これはあなたにも御疑問がありそうですから、参考のために申し上げておきますけれども、世のお母様方、親は真剣に考えておりますから、ひとつよく御研究を願いたいと思います。
  43. 神近市子

    神近委員 これが最後の質問であまり長くお引きとめしないと思いますが、さつきの良民の血液検査をすることが人権侵害になるということはたしかでございますけれども、ついこの間、立川のキヤンプでございますか、性病が出たというわけで、あの従業員を全部検診したことがあるのでございます。これはいろいろ問題になつたことがあつたのですけれども、そういう場合に人権擁護当局はそれに対してアメリカ軍の方に抗議をなさつたか、それに対して声明をなさつたことがあつたのでございますか。
  44. 戸田正直

    戸田政府委員 立川事件につきまして私ちよつと今頭にありませんので確かな問題はお答えできないのですが、青森のキヤンプにおきまして女子従業員を全部身体検査をいたした事件がありまして、ただいまの問題と少し違つておるかもしれませんが、これにつきましては人権擁護局で調査をして抗議を申し込みました。それからどこでしたかやはり強制検診をしたというので事件になつたようなことをちよつと記憶しております。立川であつたちよつと今記憶いたしておりませんが、これに対しても行き過ぎであるという抗議を申し込んでおります。
  45. 神近市子

    神近委員 それでアメリカ軍からはそのことについてまことに遺憾であつたというようなことでも御返事があつたわけでございますか、言いつぱなし、抗議の出しつばなしでございますか。
  46. 戸田正直

    戸田政府委員 これはあとで調査いたしましてお答えいたしますが、多分アメリカ側においても青森の今のキヤンプの事件につきましては、そういうことのないように注意するということがあつたと思います。ほかの点につきましては今ちよつと記憶しておりませんので、後ほどよく調査いたします。
  47. 神近市子

    神近委員 それではそのことにつきましてはこの次に伺いたいと思います。  今度は国警の方にちよつとお尋ねしたい。
  48. 小林錡

    小林委員長 それから労働省の藤田婦人少年局長も来ておられますから質問をしてください。
  49. 神近市子

    神近委員 条例がたくさん、五十ぐらいできているはずでございます。その条例の種類でございますね。大体風紀あるいは売春に関するものがその条例になつているはずでございます。その類別とそれからそれがどこが励行されて、どこがつくつただけで一向活用されていないかというようなことをちよつと伺いたいと思います。
  50. 藤本好雄

    藤本説明員 現在全国の各府県あるいは市町村等でお話のような売春等取締りの条例が制定されておりますが、その数は現在では五十三ございます。条例の内容につきましては直接に売春行為自体取締つておるものもありますし、売春行為自体取締らないで、それに関連するポン引き、場所提供等の行為取締つておるというふうに、いろいろ内容は違つておりますが、どこの条例が一番的確に適用されておるかということにつきましては、調査はあるのでありますが、今ここに持つておりませんので、はつきりしたことを申し上げかねますが、また後ほどお示しいたしたいと思います。
  51. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 私は新しい問題に入られる前に、今まで質疑応答のあつた点についてまだ明確になつていない点二、三についてお尋ねをいたしたい。ところがこの問題は非常にむずかしい問題で、しかも早急に解決ができるとも思えないほどの問題でありますし、   〔委員長退席、木下委員長代理着席〕今日までの政府のやり方を非難したり攻撃したり、その責任を追究しようといつたような意図を持つてお尋ねをするわけではないのです。だからそうかたくならないで、きよう答弁できないところは後日研究をしてお答えを願つてもいいとさえ考えておるわけであります。先ほどから出ました問題のうち、私のはつきりさせておきたいと思いますことは、何と申しましても売春に関する問題は、これは悪いということはみんな認めておる、異論はないと思うのです。ところがさてその取締りに関しての若干の法律制度があるにかかわらず、その運用が私は十分にできておらないと思うのです。これは熱意の問題です。国民一般もそうでありましようし、また関係当局としてもこの問題を解決して行こうという熱意が足りないと思う。問題はこれを解決しようとする熱意が国民全体にあるいはまた政府当局にわくかわかないかということによつて、私は大いにこの問題解決が可能であるか不可能であるかということになると考える。ところがその熱意というのもただ悪い悪いと考えておつただけではこれはほんとうにわいて来ない、そこでお尋ねをいたしたいのは、これは長戸君あたりが一番研究しておられるのじやないか、また責任者として研究されなければならない立場にあるのではないかと思いますが、一体この問題を解決するのに、――ほかの面についてはこの席ではとやかく申しませんが、一つの法律制度を立てて、そうして少くとも若干の取締りをして解決をつけて行こうということになりますと、その法律制度の対象とする、守ろうとする法益が何であるかということをはつきり考えて行かなければならぬと思うのです。そうするとそれはまた売春ということは悪いんだということにも関係をするわけでありますから。個別的に一つお尋ねをしますが、法務当局においては、またその他の政府関係者の方でこの方面について造詣の深い方は、私が特に御指名申し上げなくてもお答え願いたいと思うのでありますが、一体売春が悪いというのは、こういう理由があるから悪いんだ――ただ漠然とあれは悪い悪いと言つてつたのでは解決のしようがない、特に法律をつくつて解決しようというときには、なぜ悪いのかということがはつきりしておらなければならない。それがまた、取締り法規ということになるとやがて法益にも関連を持つわけでありますから、売春が悪いというのはこういうわけで悪いんだということを、この際はつきりとお示しを願いたいと思うわけです。
  52. 長戸寛美

    長戸説明員 一番むずかしい問題でございまして、われわれは売春立法の問題を研究いたします場合に、今高橋さんから仰せにたりました、売春がなぜ悪いのか、悪いとすればその被害法益は何であるかということに最も重点を置いて研究しておるわけであります。もう一つは、娼家経営者並びに売春管理者が悪いというのと、売春婦自体が悪いというのと、二つの問題があるわけであります。そこで、この議員の方から御提出になりました売春等処罰法案に盛られておる目的に、「風紀のびん乱を防ぐとともに、」こうございますが、そのようにやはり風紀の紊乱防止といいますか、社会公共の福祉の保持という点がまず取上げられる、こういううふうに思うわけであります。次は、基本的人権擁護の問題でございますが、これは娼家経営者なり売春管理者につきましては、そのことは当然に言えるのでありますが、売春婦自体を処罰するという場合に、それはいかに考えるかという問題があるわけであります。売春婦基本的人権擁護するために、その売春婦自体を処罰するというのは何ゆえであるかという問題が考えられる。それが風紀の紊乱防止という点を強調いたしますれば、説明は簡単につくのでありますが、基本的人権の問題を考えますと、これは私どもにもまだ若干割切れないものが残るのであります。たとえば昔心中は禁止されておつた。要するに人の生命というものはみずからでもそこなつてはならないものである、それをそこなうことは犯罪である、こういうふうに封建制度下の立法は考えた。従つて、このような婦女の基本的人権と申しますか、貞操をみずから蹂躪するということは自傷行為的に考えるべきである、こういう考え方もあろうかと思います。この問題は私もなおいま少し研究したいと思つておるわけであります。それからもう一つは、これが取締法犯――行政犯、刑事犯であるか、自然犯であるかという点であります。要するに自然犯的に、だれしもこれを犯罪と当然に考えるものであるか、それとも取締り法規があることによつて初めて犯罪となるものであるか、この点についても研究を続けておりますが、刑事犯的な性格が強くあるということは言えますけれども、私どもはこれをもつてまだただちに刑事犯であるというふうに割切ることを得ないのであります。これは高橋さんからいまさら何だというおしかりを受けるかもしれませんが、正直のところ、私どもの研究段階ではその程度であります。
  53. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 ただ単なる感情というようなことでは、この制度を考えるときにはとうてい解決がつかないのでありまして、先ほども申しましたように、なぜ悪いのだということが国民全体に徹底をしなければならぬ、現在の段階で政府としてもいろいろまだ疑問をお持ちになつておるようでありますが、しかし、前の犬養さんは、この問題を解決つけるべく、少くとも新しい制度を立てて一歩前進したいという意図を持つておられたわけであります。その下にあつていろいろ研究もされたはずなんでありますから、相当の研究はできておると思いますが、今のお答えではまだ十分確信のないような点もあるということで、それも無理からぬことだと思うのです。従つて、何といつてもこの問題解決の前提はこの点をはつきりさせなければ、前進も何もできるものでないし、それから、現希存在しておるところのこれらの問題に関連する諸法規の運用に当つても熱意が出るはずはないと思います。先ほどのお答えで一応の考え方の傾向はわかるのですけれども、まだまだ不徹底だと思いますから、それをひとつよく研究されて、政府は、娼家経営者の取締りをしなければならないのはこういう理由だ、また売春婦取締りをしなければならないのは、こういうところに国家的に守らなければならない法益が存在するからだということを明確にされる必要があると考えますから、その点をひとつ近い将来、解決されるように要望いたしておきます。  人権擁護局長が何か会議でお帰りになりたいというお話ですから、局長に関係すると思われる部分をまず二、三お尋ねいたします。先ほどの答弁を伺つておりますと、人権擁護局というものは、名前からして非常に広範囲のお仕事だというふうに感じますが、それだけに、一体どこをどうとらえてよいか、なかなかむずかしい問題があるとお察しするわけです。そこで、先ほどの御答弁にあつたところで、いわゆる娼家を経営する、すなわち売春行為をなすべき場所を設け、もしくはこれを管理しておる人たち行為は、人権擁護の点に深い関係がある、これは私もそう思います。すなわちよく言われる人身売買とかあるいは特に売春を強制するとかいうような問題は、ここに存在しておると思うのであります。そこで、そういうふうに感じておられる人権擁護局においては、たとえば赤線区域――例を吉原新宿等にとりますと、ああいうところには、人権蹂躪の問題がひそんでおるということは、すぐにおわかりになると思うのであります。そういうふうにおわかりになつておるあなた方としては、一体どういう処置をおとりになつておるか、これを伺いたいのです。たとえば、これではたいへんだからというので、捜査当局に連絡をおとりになつておるかどうかというような問題です。ただあそこには人権蹂躙の疑い、そういう問題がひそんでおるのだと思いつつ、ただ漫然とこれを見ておつただけでは、人権擁護の使命は果せない、こう思うのです。もつともいろいろ予算の点もあるし、手不足の点もあるし、いろいろございましようけれども、あそこには婦女子に対する人権蹂躙問題が幾多あるんだということを知りつつ、国会に特に訴えられることもない。また関係当局に対して連絡されることもないというのでは、せつかくりつぱな擁護局があつても、何ら意味をなさぬということになるのですが、それはどういうようにお考えになりますか。今日までどういう御処置をおとりになつておるか、その点を伺いたい。
  54. 戸田正直

    戸田政府委員 たいへんごもつともな御質問だと思いますが、私の方としましては、先ほど申し上げましたように、具体的事件を通じて実は救済をしておるという程度でありまして、たとえば赤線とかいうような地区に対して、全般的にこれをどうするかというようなことについては、たいへん申訳ないのですが、まだ実は処置をしておらないのです。実は人身売買等につきましても十分な実態調査をいたしたい、かように考えまして、従来も予算等を要求いたしておるのでございますが、これは認められませんで、全般に対する処置といいますか、これに対してはまだ実はいたしておらないので、申訳ないと思つておりますが、決してこれが人権擁護上放任しておいてよろしいというのではございませんで、関心は先ほど申し上げたように重大なる関心を持つておるのでありますが、ただ事件として私の方で取上げた具体的な事件を通じて、人権侵害に対する救済をしておるという程度でございます。
  55. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 それでは実際責任は果していらつしやらぬということになる。そこで私がこう申し上げるのは、あなたを責めるのではないが、少ししつかりとこの問題解決の熱意を持たなければならぬということなんです。あなただけではない。これはもう国民全体の問題でもあるのですけれども、やはり責任者はその陣頭に立たなければならぬ。と申しますのは、先ほど申し上げたことは繰返しませんが、ああいう状態なんです。しかも事件を通じて処置する、こうおつしやるのですが、あそこにおるような人は、このように人権を蹂躪されておるということを申し出て、具体的な事件とすることの最も困難な人たちだということをお考えになつておるかどうかということなんです。ただ事件が起つたら、そのときに何とかひとつ処置しようというようなふうに、ただ待機の姿勢をとつておられて、解決のつく問題もあるでしよう。自由人が自分の権利侵害されたというようなときには、それは問題を表面化するのに非常に都合がいいわけです。便利なんです。ところが人身売買によつて、しかも売春を強制されておるというような人、すなわちくるわの中の人が、法務省人権擁護局にこの問題を申し出て、自分の人権擁護のために働いてもらいたいということを申し出でることができるかできぬか。これは常識でお考えになつてもわかりますように非常に困難なんです。あそこにこそほんとうに黙つてつても国家の力、すなわち人権擁護局の手が差延べられなければならぬ、おそらく相当の人が待つておると予想されるのです。それをただ問題が起つたらひとつ何とかしようというような、そういう考えではこれはとうてい解決はつかないと思うのですが、その点についてはどうですか。また今までのことは別として、将来どういうふうなお考えをお持ちになるかという点をお伺いいたしたいと思います。
  56. 戸田正直

    戸田政府委員 人権擁護局におきましても、この売春あるいは人身売春等について放擲しておるとか、全然考えておらないということは決してございませんので、御承知のように人権擁護局といたしましても、大きな仕事として啓蒙活動というものを非常に重視いたしております。この啓蒙活動につきまして自由人権思想というものを広く一般国民に認識してもらうというようなことで、啓蒙活動としてはかなりいたしておるのでございます。  それから今の取締り面等におきましても、もちろん人権関係をいたすのでありますが、これは法律等によつて取締り当局において十分取締り得るのでありまして、そういう面の努力を実は実際にいたしておりまして、私の方でこの取締り等も、いろいろ組織とか予算等において実情としては実は困難になつておりますが、ただ将来の問題としては、これは人権擁護の重要な問題でございますので、十分実態を調査し、また取締り当局等にも、十分これが取締りのできるようにひとつ御努力をお願いしたい、かように考えております。しかしこれは今後なお十分研究を要する問題でありますので、人権擁護局といたしましても十分熱意を持つてこの問題に対処いたしたいと思つております。
  57. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 私は具体的にお話しておきますが、人権擁護局で一番大きな仕事は、あの辺にころがつておるのではないと思うのです。しかしそれは全国的にたいへんな問題なんです。それを解決つけようと思えば、あなた方の立場警察関係の人なりあるいは検察庁側に対して、どうもあそこにはこういういろいろの疑いがあるから――これは疑いでいいのですよ。あそこに行つて疑いが起きないなんというのがおかしいのです。行けば必ず疑いが起るのが普通なんです。すなわち勅令第九号に違反した事件があるように思われる。あるいはまたその他刑法犯にも触れるような問題があるかもしれぬ。あるいは風俗営業取締法に触れる疑いのある事件がもう幾らでもあるのであります。あれをひとつ何とかしてもらわなければ人権擁護の責任は果せない、こうおつしやれば問題解決の糸口はもうつくのですよ。私は新しい法律をつくらなければならぬ段階になつておるとは言うものの、しかし今まである法律を死法でころがしておいて、何ら責任も感じない、やむを得ないことのごとくに放置してあるその姿を見て、そういう当局に、もつとそれよりも強力な新しい法律をつくつてみたところで、これはまつたく意味がないとさえ実は失望しておるのです。だから将来――これはあすからでもいい、きようからでもできるわけです。あそこにも何百件、ここにも何百件、どうもたいへんな犯罪の疑いがある。先ほど申し上げた風俗営業取締法に違反すると思う、あるいはまた勅令九号に違反すると思う、あれをひとつ検挙してもらわなければわれわれの職責は果せぬ、こういうふうに申し出ていただく。これは問題解決に一歩前進だと思うのです。あすからなさいますかどうですか。その点深く研究してというようなそういう問題でないと思う。どうお思いになるか、その点ひとつお伺いしておきたい。
  58. 戸田正直

    戸田政府委員 あすからということは何ですが、さつそくに取締り当局とも懇談いたしまして、十分な取締りをいたすようにしたいと考えております。
  59. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 国警の方はいらつしやいますか。――私は問題を具体的にお尋ねして行きたいと思うのですが、先ほどの質問でおわかりのように、たとえば勅令第九号に違反の疑いのある事件というのは、赤線区域が相当あると思うのです。それがないと言つたら頭がどうかしているぐらいに私は思うのですが、あるというのが常識だと思うのです。また風俗営業取締法の場合を考えましても、その第四条の行政処分のごときは、これは公安委員会のお仕事でありますが、しかし警察職員の方方はやはりこの風俗営業取締法の中の当該吏員に当るわけで、善良の風俗を害するおそれのあるときには公安委員会が行政処分をなし得る立場にあるのだから、従つて職務上、善良の風俗を啓するおそれがあるとお考えになつたときに公安委員会にただちに連絡をとつて、この問題を解決するようになさつておるのであるかどうか。私のお尋ねは二つある。風俗営業取締法の場合において、公安委員会へ連絡していらつしやるかどうか。勅令第九号の場合において、一体捜査をほとんどなさつておらないのは――私は法律だけをあなた方に押しつけようとするのじやないのです。もしも取締りをするのにやりにくい点があれば、形式的なことをおつしやらないで、その熱意がわかない理由はどこにあるか。これは先ほど長戸君にお尋ねしたところにも関連するわけですが、あれだけの事柄が存在してこういう法律があるのに、なおそれを実施する熱意がわかないのは一体どこのところに問題があるか。そこをはつきりさせたいからお尋ねするのですが、この二つについてお答え願つておきたいと思うのです。
  60. 藤本好雄

    藤本説明員 勅令第九号によりまして関係取締りにつきましては、今朝来いろいろお話のありましたように取締りに当ります場合の刑事手続上のむずかしい問題がいろいろありますし、立証上にもいろいろ問題がありまして、取締りには十分熱意を持つてつておるわけでありますけれども、実際としては十分な効果が上つていない現状でございます。なお赤線区域のお話が出ましたが、売春の行われておりますところはそれ以外にも相当広い範囲にわたつておりまして、警察といたしましては風紀維持という観点からまず最も悪質なもの、それから他の風紀に悪影響ある方面というふうに、いろいろ重点的に取締りを実施いたしております。そういう関係がありまして、直接赤線区域から勅令第九号違反というものの検挙の数字が、警察の努力にもかかわらずあまり十分な効果を発揮していないというのが現状であります。なお風俗営業取締法に抵触する関係といたしまして営業の取消し等の処分の問題でありますが、これも公安委員会といたしましては、実際に勅令第九号その他風紀関係法令によりまして悪質なものについての取締りを行いました結果、処罰を受けたようなものにつきましてはこれの取消し処分も行つておるわけでありますが、やはり取締りが困難なようにこれの取消しの前提となる挙証にも相当困難な点がありまして、十分これが徹底しないという点もあるのであります。  なお根本的な問題といたしましては、風俗営業取締法が制定せられました前におきまして庁府県令をもちましてすでにこういう種類の風俗営業は広く許可をせられておりまして、それが風俗営業取締法の実施によりまして、経過規定でそのまま認められておるという実態になつております。広く一般的に営業の取消し処分ということを行いました場合に、それをもつて売春行為そのものをやめさせることができるかどうかというような点にも問題があるように思うのであります。かりに風俗営業の取締り法におきまして営業権を取消しましても、それはやはり今度は無許可の形のものとしてそういうことを行つて行くということも考えられまするので、やはりそういう処置につきましては、同時にそこにおる婦女子の更生の方法等というようなものが十分に講ぜられませんと、営業の許可だけで十分な効果を発揮することができないのではないかというふうにも考えられるのであります。
  61. 神近市子

    神近委員 ちよつと関連ではございませんが、人権擁護局長がお帰りになるというので、その前に一点だけ伺います。  婦人少年局長にはほかの問題もございますが、一つは奄美大島におきまして非常に幼少の女の子供たち売春を強制されている。御存じのように奄美大島が日本に返つて参りましたけれども、それ以前の状態が非常に悪かつた。そしてお隣の地方行政委員会でも今その問題が取上げられて、援助資金とかなんとかいうことが扱われているそうですけれども、そういう状態でございますから、奄美大島でごく幼少の人たちまでがこういう行動をしいられている。十五、六歳といいますとまだ本人に意思も何も生じていない年齢でございます。それに対しては非常に高い罰が諸外国では科せられている状態でございますけれども、こういう事実があるということが伝わつて来ておりますのに、人権擁護局ではそういうことは一切お聞きになつたことはないのでございますかどうか、それをちよつとお伺いいたします。
  62. 戸田正直

    戸田政府委員 奄美大島の住民の生活が非常に困窮しておつて、そういうふうにわれわれの考えておる以上のものがあつたということは聞いておつたのでありますが、そういう年のまだ幼少の者が売春行為をしいられておることにつきましては、実はまだ十分聞いておりませんでした。ただいま具体的に初めてお聞きしたような次第でございます。
  63. 神近市子

    神近委員 それで聞いていただきたいと思つて、実は婦人少年局長においでを願つたのですが、それではごく簡単に実態だけ一緒に聞かせていただきたいと思います。
  64. 藤田たき

    ○藤田政府委員 労働婦人少年局の鹿児島の婦人少年室長が先ごろ奄美大島の方に調査に参つたのでございます。もちろん限られた予算、限られた日数で、正確な調査ということはできませんし、また御承知の通り、たとえば警察、裁判所、監督署、職安などにおいてもまだ正確なデータが把握されておりませんものでございますから、この調査というものは決して科学的なものと申し上げることはできません。それはまたそのはずであると思つております。しかしながら私ども婦人少年室長が、たとえば接客婦懇談会というものをいたしまして、そのときに参りました接客婦四十二名のうち、十四歳ないし、十五歳の者が八名もまじつてつて非常に驚いたということを報告いたしておるのでございます。その他また名瀬市において酒席にはんべつております年少者につきましては、名瀬警察署、名瀬監督署等の協力を得まして十二名は的確におるということが判明しておるというようなわけでございまして、その他人身売買が非常に行われていると推定されるわけでございます。もちろん人身売買対象となりました者が、酒席にはんべる者ばかりではございませんで、たとえば漁夫に売られている者等がございますが、その酒席にはんべつております者の中でも、ただ酒席にはんべるだけでなく、客をとらせられている者が相当あるように考えられるということを申しておるわけでございます。ことに先ほどの四十二名の中にまじつておりました十四、五歳の八名の中には、奄美大島以外においては、こういうような職業につくことから彼女たちを守つてあげるところの人権擁護局だとか、また私どものような役所だとかそういうものがあるということも全然知らないでおつて、それを婦人少年室長がいろいろと話しましたときに、涙を流して喜んでおつたということでございます。それで私どもといたしましては、婦人労働課長がもう一、二週間のうちに奄美大島に参りまして、もつともつと正確な調査をいたして参ることになつておりますけれども、こういうような事情がありましたものですから、せんだつてちよつと婦人議員の方のお耳に入れたわけでございまして、正確な科学的なものとは申し上げることができませんので御了承願いたいと思います。
  65. 神近市子

    神近委員 婦人少年局でもうすでにお手をおつけになつておるようですけれども擁護局の方でも御協力になつて、今高橋委員からいろいろ御勧告があつたようですけれども、こういう十四、五歳の子供ということは、ちよつと内地では想像できないのでございます。ひとつこの方面からでも、擁護局は何かをなさる意思をお持ちになつているという意思表明が今たびたびございましたので、ひとつ御協力になつて、問題をどういう形かで解決していただけないものでしようか、それを私はお願いしたいと思います。
  66. 戸田正直

    戸田政府委員 弱音を申し上げるようですが、人権擁護局の調査の費用が非常に寡少でありまして、はたして奄美大島まで行くだけの旅費があるかどうか、実は調べないとわからないわけであります。そこで婦人少年局でせつかく御調査になつておりますので、御調査願いました資料を私の方へいただきまして、その上でひとつ善処いたしたいと思います。
  67. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 人権擁護局というのは、自由党内閣のもとでは、人員整理のたびごとにその存廃が取上げられますが、そのわけもわかるような気がいたします。要するにいい意味でも悪い意味でも何もしていらつしやらないということがはつきりしたように思うのですが、一体二十七年度、二十八年度、二十九年度はどれだけ予算をおもらいになつたか、ちよつと参考のために聞いておきたいと思います。
  68. 戸田正直

    戸田政府委員 今資料を持つておりませんので、大まかなところでございますが、本年度の人権擁護局の予算は二百十五万ぐらいでございました。それから地方には下部組織として法務局並びに地方法務局、それが各県にございますので、四十九庁ございます。この四十九庁の予算が大体一千万ちよつと欠けるかと存じます。従いまして平均一庁当り年間二十万ぐらいでございます。これで一年間の啓蒙活動、人権侵害事件の調査等、すべての費用をまかなわなければならない。なおこの中には、ただいま全国に四千六百名の委員が委嘱されておりますが、人権擁護委員のすべての予算もこれに含まれております。これが大体大まかな人権擁護局の予算でございます。従つて、これは鹿児島の管轄になつておりますが、鹿児島の地方法務局の調査旅費で、はたして奄美大島まで行けるかどうかということは、くふうなしでは参れないことははつきりいたしております。これが実は予算の実体であります。ついでにこの際、あまり姿の弱いところを申し上げたくないのですが、洗いざらい申し上げますと、人権擁護局の職員は局長を入れまして十四名であります。これで庶務の仕事から人権擁護委員運用、それから審判事件、自由人権思想の啓蒙活動等、すべてをいたしておるのでございます。四十九庁の職員は全部で百六十三名、平均しますと一庁当り三人ちよつとであります。この中には給仕も雇もみな含まれております。これが実は実体であります。そこで、私の方としても、もつと仕事を十分にやらなければいかぬ、またできるであろう――なせしないのかという御批判もあるかと存じますが、私の方としては、職員が少く予算が少いからといつて、これが放擲される問題でないのだ。人権擁護のこの問題は民主主義下の最も重要な仕事でありますので、実はでき得る限りの努力を続けております。ついでに申し上げますが、全国で人権侵害事件として処理して取扱つた事件が、二十三年人権擁護局が設置された当時四十八件でしたが、その後逐年激増いたしまして、昨年度は二万九千百四十四名、それから講演会、討論会、座談会、こうしたおもだつた行事だけでも昨年度で四千百二十四回でしたか四千百回以上の行事、いろいろの啓蒙活動をいたしております。これも予算は一銭も認められておりません。予算なしで四千百回以上の啓蒙活動をして来た、これが実情であります。また人権擁護委員が全国で四千六百名、これが各県に協議会二百九十四、連合会が四十九、それからこれらを統轄した全国連合会が一箇所、これを運営する予算もほとんど認められておりません。法律では協議会、連合会をつくることになつておりますが、また事実つくつておりますが、これを運営する予算というものはほとんど認められておらない、こういう実情であります。しかしこれも予算なしで協議会、連合会を運営して今日までやつてつたのが実情でありまして、奄美大島になぜ行けないのか、熱意がないのかと言われればそれきりなんですが、実は熱意は十分あるのでございます。旅費が今言つたように正常のままではないと思いますので、できれば婦人少年局で調査されましたものをそのまま尊重いたしまして善処いたしたい、かように思つております。
  69. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 まことにお気の毒なことであります。実は婦人少年局というのもまた予算を持つておられない。たしか奄美大島まで行くのに婦人少年室に二百円くらいしか予算がないのじやないかと思うのですが、その中をくふうして婦人少年局は奄美大島に行つておられます。同じようなのが二つつてどのくらい仕事ができますか。私は婦人少年局で予算がないからむしろあなたの方で持たれた方がいいと思つて神近さんもそう思つて申されたと思うのでありますが、国会議員としてもまことに申訳ありません。捜査費用などは事件が起きるごとに国会がいろいろと運動していなさつたようです。だから法務委員会では超党派的に違つた方から――きようあなたがこうした速記録に残した御発言をなさつたことは、人権を蹂躪される弱き人々のために非常にけつこうな発言だつたと思う。ですから法務委員会理事会にはかつていただきまして、ことしは無理かもしれませんけれども、来年からはもう少し人権擁護局らしい局にしてもらつて、人員整理のたびにあなたの方が存廃のうわさに上るので、どれほどの予算かと思つたらこれほどの予算をもさいてなくせというのはまつたく驚き入つたことです。これは政党と政党の見解の違いであるわけでして、社会党が内閣をとつたらめつたにそんなことはないと思います。よその党の人がいらつしやつたら怒るかもしれませんが、まことに驚き入つたことです。あなたの方では奄美大島にお行きになるのは無理だと思いますけれども婦人議員は汽車賃がただでございますから、衆参両院の婦人議員団からだれか派遣して行つてもらわなければならないと思います。これが一番財力が強いかもしれません。汽車賃がただですから……。  御存じの通りに児童福祉法の三十四条第一項第六号に反して、児童に淫行を強要した場合には十年以下の懲役、二千円以上三万円以下の罰金と六十条に罰則を強くうたつております。従つて人権擁護の問題の中でも、特にそうした人権擁護の認識の浅い地方に対しては、あなたの方に積極的に働いてもらわないと、労働省の婦人少年局だけではぐあいが悪い、もう少し取締当局とも横の連繋をとつてもらうように、委員会は別として、私たちも何とか協力いたしたいと存じておりますから、きようのように率直に何もかもおつしやつていただいて、人権を守られておらない人たちのために、ひとつよろしくお願いしておきたいと思います。
  70. 藤田たき

    ○藤田政府委員 私どもの方も予算がございませんでしたのですが、奄美大島が復帰いたしましてから、こういつた非常に困つた状態があるということを聞きましたので、補正予算を要求いたしまして、やつと今度婦人労働課長が行くだけの費用ができたわけでございますので、また来年はもつとたくさんとりたいと思つております。
  71. 木下郁

    ○木下委員長代理 それでは本日はこの程度にとどめまして、明日は午後一時より、本案について参考人より意見を聴取することにいたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後二時六分散会