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1954-05-22 第19回国会 衆議院 法務委員会 第60号 公式Web版

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  1. 会議録情報

    昭和二十九年五月二十二日(土曜日)    午前十一時二十二分開議  出席委員    委員長 小林かなえ君    理事 鍛冶 良作君 理事 佐瀬 昌三君    理事 田嶋 好文君 理事 林  信雄君    理事 高橋 禎一君 理事 井伊 誠一君       牧野 寛索君    山下 春江君       猪俣 浩三君    神近 市子君       萩元たけ子君    古屋 貞雄君       木下  郁君    堤 ツルヨ君  出席国務大臣         法 務 大 臣 加藤鐐五郎君  出席政府委員         国家地方警察本         部警視長         (刑事部長)  中川 董治君         法務政務次官  三浦寅之助君         検     事         (刑事局長)  井本 台吉君  委員外出席者         検     事         (刑事局刑事課         長)      長戸 寛美君         参  考  人         (警視庁防犯部         長)      養老 絢雄君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 五月二十二日  委員三木武夫君、井谷正吉君及び木原津與志君  辞任につき、その補欠として山下春江君、古屋  貞雄君及び萩元たけ子君が議長の指名で委員に  選任された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  売春等処罰法案堤ツルヨ君外十一名提出、衆  法第三四号)     ―――――――――――――
  2. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 これより会議を開きます。  売春等処罰法案を議題といたします。本案に関して山下神近、堤、高橋等の各委員より、政府に対して発言通告があります。順次これを許すことといたします。  なお本案につきまして警視庁防犯部長養老絢雄君に参考人として発言してもらうことといたしたいと存じますが、御異議はありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたします。――山下春江君。
  4. 山下(春)委員(山下春江)

    山下(春)委員 ただいままだ大臣の御出席がございませんので、政府のこの問題に対する所信態度というものに対しましての質問あとにまわしまして、とりあえず今この方面を担当しておられます事務当局から、現在われわれが非常に苦慮いたさなければならない社会現象としてのこの売春の問題に対しまして、現在どのような取締りをしておられるか、その点をちよつと御説明願います。
  5. 長戸説明員(長戸寛美)

    長戸説明員 現在までの取締り状況を御説明申し上げます。  御存じのように、売春に関しましては刑法淫行勧誘罪であるとか、略取または営利誘拐罪であるとか、そういう刑法犯規定がございますが、そのほかに児童福祉法職業安定法労働基準法及び勅令九号、さらには都道府県市町村に、現在までたしか五十三の条例がございます。そういう各種の法令を使いまして検挙いたしておるわけでございますが、全国検察庁で受理いたしましたこの種の事犯の総数は、昭和二十七年度におきまして二万二千人ばかりでありまして、そのうち七千三百人ばかり、要するに三分の一くらいを起訴しておるわけでございます。二十八年度におきましては、全国検察庁で受理いたしましたものが二万六千人ほどでございまして、そのうちの九千七百人くらいを起訴いたしておるような状況でございます。
  6. 山下(春)委員(山下春江)

    山下(春)委員 ただいま数字をお示しになつたその起訴の対象は、たとえば婦女子を売買したというような案件でございますか、それとも直接に売春関係のある案件でございますか。
  7. 長戸説明員(長戸寛美)

    長戸説明員 その細別の統計をとつておりませんが、われわれといたしましては、売春婦を管理すると申しますか、その支配下に置くというようなボス的な存在重点を置いておりますので、いわば人身売買的なものの検挙人員がその多数を占め、個々の売春婦自体はそれより数が少いかと見ております。
  8. 山下(春)委員(山下春江)

    山下(春)委員 ただいまの御答弁は、私にはちよつとふに落ちない点がございます。と申しますのは、今の御説明によりますれば、大体そういうものを、非常に悪質に営業しておるボス的存在対象の主たるものであるように思うということでございますが、常日ごろわれわれが新聞その他を通じて散見いたしますものは、取締り対象なつたものはそういうものでなく、むしろ悪質ではありますが――むろんこれは処罰対象になりますけれども、そこらのブローカーのやや悪質と認められるようなもの及び小さなブローカーで、ほんとうの元凶である悪質のものはほとんど摘発の対象になつておらないと思いますけれども、その点はただいまの御説明通りでございますか。
  9. 長戸説明員(長戸寛美)

    長戸説明員 確かに今おつしやいましたように、いわゆる赤線区域取締りについては、若干欠けるものがあるということは認めざるを得ないと思います。ただ私の表現がまずうございましたが、われわれといたしましては、現在までの取締りはむしろ風紀保持という方に重点を置くのと、婦女子がそういうところに転落して行く前にいわゆる女衒その他に売られるものを事前でもつて押える必要があるというところから、人身売買の点に重点を置いた、こういうふうに申し上げます。
  10. 山下(春)委員(山下春江)

    山下(春)委員 三浦政務次官お尋ねをいたします。私は政府としてお尋ねするのでありますが、犬養法務大臣はこの問題に対しましては相当強力な、しかもわれわれが確信を持つことのできるような言質を公的な機関でお与えになつております。その後法務大臣がかわられましたが、当時より政務次官をしておられます三浦政務次官におかれましては、犬養さんからどのようなお引継ぎを受けておいでになりますか、それをお伺いいたしたいと思います。
  11. 三浦政府委員(三浦寅之助)

    三浦政府委員 御承知の通り、この問題につきましては政府審議会を設けまして、この審議会におきまして目下十分に検討中でありまして、この審議会結論をまつて政府方針をきめるというようにいたしておるわけであります。以上御報告申し上げます。
  12. 山下(春)委員(山下春江)

    山下(春)委員 審議会を御設置なされましたことも承知いたしておりますが、遺憾ながらこの審議会は非公開でありまして、いかなることを御審議になりましたか、われわれは知る由もないのであります。漏れ聞くところによりますれば、相当多数の方が非常に強力な反対意見を陳述しておられるということであります。そこでこの審議会結論を出されまして、その結論をまつて善処したいということでございますと、今回上程されております法案に対する政府態度がおのずと別になると思います。私どもはその審議会の御意見というものを政府が御参考になさることは、一向さしつかえございませんけれども審議会結論というものと法案とを区別して考えていただきませんと、従来からの法務省のとつて来ました態度と、非常に大きな食い違いが来ると思いますが、その審議会結論を待たなければ、この法案の進め方に支障を来すとお思いでございましようか。
  13. 三浦政府委員(三浦寅之助)

    三浦政府委員 このたびの法案は申し上げるまでもなく議員提案でありまして、これはまた議員の独自の立場から委員会において御審議なさることでございまして、法案審議には別に支障はなかろうと思うのであります。
  14. 山下(春)委員(山下春江)

    山下(春)委員 まだたくさん発言者がございますので、私は後ほど大臣政府所信をお伺いすればよろしいのでございますが、総括いたしまして政務次官にもう一度お伺いをいたします。そもそもこの問題は非常に古くから取上げられておりましたが、大体終戦以来目に余るものがあるために、十五国会におきましても同様の法案が提案されたにもかかわらず、これが審議未了のうき目をたどつております。日本は戦争前旧民法中におきましては、婦人の地位は非常に低いものでありまして、妻というものは無能力規定の中に置かれたような、非常に諸外国にその例を見ないような低い立場に置かれました。社会情勢から言いましても、教育機会均等という意味から言つても、非常に低地位に置かれました婦人立場が、終戦後の政府教育方針が必ずしもわれわれの満足するような方向でなかつたために、とうとうとして流れました敗戦一つの姿として、はき違えられた民主主義、その他のはき違えられた解放主義によりまして、非常にぬぐいがたい社会情勢をつくつて参つたのであります。そういうことに対しましてわれわれから法案出すまでもなく、政府みずから率先してこういう問題に対しては非常な熱意努力を傾けられまして、何らかの方途を講ぜられるべきであります。今回議員がやむにやまれずこの法案を提案いたしましたところで、これにはむろん予算を伴うことのできない、時間的に予算編成後のことでございますために、多くの議論がございましよう。こういう法律をつくつたところで、その保護施策に対して一銭の予算もない法案などというものは、まことに意味がないじやないかというようなこと、あるいはその他法案の具体的な問題に対しまして、いろいろな御議論あるいは反論が生れて来るであろうと思いますが、こういうことに至らない前に政府がこういう問題に対して非常な熱意努力を傾けられて、予算措置を伴うりつぱな法律ができることが、せめてもがな、敗戦国日本の非常に大きな屈辱を少からしめるゆえんであつたと思いますが、こういう問題に対しまして政府といたしましては従来どのようなお考えをお持ちであつたであろうか、あるいは今後こういう問題に対してわれわれの心から要求するものに対して、どの程度お答えを得られる状態にありましようかということをお伺いいたしまして、私の最後質問といたします。
  15. 三浦政府委員(三浦寅之助)

    三浦政府委員 ただいまの御質問に対しましては大臣からお答えする方が妥当だと思うのでありますが、ただこの問題につきましては、申し上げるまでもなく、実際理想論と現実の問題とにおきまして、非常に困難な問題があらゆる面からあるように考えられます。そのために政府におきましても審議会を設け、同時に審議会におきましても非常に熱心に討議されておるのでありまして、そういう意味合いにおきまして、この熱心な審議会の御研究を基礎として、適当な措置を講ずるということが最も妥当な処置だと考えるのであります。同時にまたこの委員の顔ぶれから見ましても、これは一法務省だけの関係ではないのでありまして、いろいろ各省とも関係があるのでありますので、各省のそれぞれの事務次官等委員になつておりまして、いろいろ各省関係等においてこの問題は結論を出すべきだと考えまするし、同時にまたこの問題につきましては従来各省間においていろいろ協議研究されつつある次第でありますが、今あまりにもこの問題が各方面関係がありますもので、その結論に到達しなかつたことはまことに遺憾に思うのでありますが、そういうような各方面意見を調整して、この問題を検討し、結論を出すべきであろうと考えております。
  16. 小林委員長(小林錡)

  17. 神近委員(神近市子)

    神近委員 私もいろいろ大臣局長にお伺いしたいことがあるのですが、今審議会のことが話題に上つておりますから、審議会について少し伺いたいと思います。大体私どもが伺つているのは、九回審議が行われたということでございますが、この問題には長い間、民間でもまた学界でも研究なさつた方がいろいろありまして、私どもが承つている点でも、基本的なものが数点あるはずでございます。審議会ではそういう基本的な問題についてどの程度のことが審議が行われ、そうして結論に達しましたか、ちよつとそれを伺わせていただきたいと思います。
  18. 長戸説明員(長戸寛美)

    長戸説明員 お答えをいたします。売春問題対策協議会は、ただいまもお話のように、二月六日以来九回の総会を重ねまして、それで一応の大きな方向づけができつつあるわけであります。昨日今度は小委員会に移しまして、その今までの方向づけのできましたことを具体化するという段階になつております。その中で問題になりました諸点を簡単に申し上げますと、これはまだ最後の仕上げの際に結論が出されるわけでございまして、全面的に決定なつたというふうには参らないのでございますが、売春婦自体扱いをどうするか、売春自体が犯罪であるのか、自然犯的なものであるのかどうかというふうな事柄からいろいろ掘り下げまして、結局売春婦自体に対してはむしろ刑罰よりも保安処分の方がより妥当ではないか、しかし悪質または常習の者に対して刑罰も考慮するというふうな考え方が強く出ておるわけでございます。それからまた刑罰に対しましても、はたして定期刑でいいのか、あるいは少年と同じように不定期刑をもつてその人たちを矯正教育するということが妥当ではなかろうかというふうな論議が出ておるのであります。さらにはまた、これを刑罰に処せられたとしましても、その婦女に対してはたしてこれを前科扱いにして行くことがいいであろうか。この人たちが就職する場合にはたしてそれに対して前科扱いをして参りますことによつて、その人が更生することを妨げはせぬか、というふうなことがいろいろと問題になりました。この小委員会に今後移されまして、この保安処分の内容と、保安処分決定機関保安処分の、たとえば強制収容をいたすとしますれば、そういうふうな施設はどこであるか、さらには保安処分決定機関に送り込む機関はどこであるかというようなこまかい点が今後論議されて参るであろうと思うのであります。さらには売春婦管理者娼家経営者等に対しまして処罰をもつて臨むというような方向づけがなされておるわけであります。さらにはポン引きの問題とか相手方の問題とか出されております。そういうような今まで論議になりました点が小委員会で具体的に固まつて参りました上で、さらに婦女事前防止と申しますか、転落の防止策を検討して、それが立法化できるものでありますれば、それをその中に組み入れるというような段階に持つて行こう、こういうふうに思うわけであります。
  19. 神近委員(神近市子)

    神近委員 大体わかりました。そして私ども有志が集まりましていろいろ研究相談した結果もほぼ今おつしやつた線と食い違いはないのでございますが、今私はあなたの説明を聞いておりまして、もう一つ赤線区域に対する次官通達を取消す行政措置をするという結論が出たということを伺つているのですけれども、それはまだ御決定にはなつていないのでございますか。もし御決定になつているとすれば、最終的な御報告が出てからそれが行われるのでしようか、それとも立法措置が行われるときにそれがなされるのでしようか、それを私はちよつと先にお伺いいたします。
  20. 長戸説明員(長戸寛美)

    長戸説明員 いわゆる次官通達の問題でございますが、それはもちろん論議に出たわけでございます。ただ御存じのようにあの次官通達の後に勅令九号というものが出ておりまして、本来いえばあの次官通達なるものが生きておるかどうか、これは疑問である、むしろ勅令九号で死んでおるはずのものである。ところが実際上におきましてはその幽霊のようなものがある効果を伴つておるという変な状態にある、こういうふうに思うのであります。あの通達を廃止するということを言明した方がいいじやないかという議論ももちろん出ておるわけでありますが、私どもは要するに娼家経営者あるいは売春婦管理者というものの処罰はつきり結論づけられますならば、当然にそれは消滅するというふうに考えます。特にその次官通達を消す必要があるかどうかはその際にまた考えていいことではないか、こういうふうに思います。
  21. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 ちよつと関連。ただいまの当局者としての御答弁に疑問を持つのでございますが、昭和二十一年の次官会議御存じ通り売春は必要やむを得ざる悪であるということがあのときの結論に出ておるわけです。そうして行政通達としてあれが全国一つ権威を持つておるわけです。今日売春がかくのごとく盛んになつた原因は、政府のあの通達があるから業者が大きい顔をしておるのです。よろしゆうございますか。私たちが吉原へ行きましても、鳩の町へ行きましても、あの人たちは言う。警視庁法務省国警も、どうぞよろしく頼むと言つて頼まれたのだ、御存じ通りちやんとその次官通達さえ出ておるのだということを公言するのです。従つてもし勅令九号によつてあれがあなたの言うように、幽霊のようなものでなくて権威を持たないものになるならば、勅令九号が出たからあの次官通達は死文化したのであつてもう効力はないのだということをはつきりさせなければならない。もしあなた方が徹頭徹尾売春を絶滅しなければならない、憲法の線に沿つて女子基本的人権を守ろうということに真剣にお立ち上りになるならば、幽霊のようなものが今まで災いして来たのですが、それをなぜはつきりなさらなかつたか、私は非常に大きな疑問を持つのです。うやむやの存在を置いておいて、そうして業者を黙認するかの形においてこれをひらひらさしておきながら、善良なる市民を圧迫して来たのです。非常にいいかげんなものだとおつしやるのですが、それならなぜこれをはつきりさせないのですか、非常にふしぎに思うのですが、はつきりしてください。
  22. 長戸説明員(長戸寛美)

    長戸説明員 ごもつともでございますが、私は現在の赤線区域の問題は、あの通達が生きているからただちにそうなつているというふうには考えておらないのでございます。各省事務当局がこの協議会ができます前から相寄りまして、あの問題をとらえたのでありますが、ただ単にそれを消極的に消すというよりも、より積極的な総合的な考え方を打立てることによつて、あの次官通達考え方を押しつぶす、こういうふうな行き方で行くのが妥当であるというふうにわれわれは考えて参つたのであります。それで総合対策として今やつておりまして、これがちやんとできますれば、これは当然になくなる、こういうふうに考えております。
  23. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 私はそこに、非常に大きな政府売春対策に対する盲点がずつと今日まで残されて来たと思うのです。このことについて私は私の質問の番がまわつて来たときにまたいたしたいと思いますが、このことについてはたびたび警視庁国警の方へ私たち婦人議員団も参りまして、あのような通達でもつて業者を守つているのではないということをはつきりしなさいと御忠告申し上げておる。それを今までお入れになつておらないのです。ですからわれわれは多分にそれをひらひらさせながらやつている業者を黙認の形で来られたあなた方に対する疑いが晴れないのでございまして、これはあなた方に非常に責任があると思う。これは関連質問ですから、私はあとであらためて申し上げることにして、神近さんに返します。
  24. 神近委員(神近市子)

    神近委員 私はこの問題についていろいろ特に石井検事にも伺わなければならない点を持つておりますけれども大臣がお見えになりましたし、局長もお見えになりましたから、法務大臣質問される方にお譲りした方がいいと思いますから、どうか通告順に改進党の方から……。
  25. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 あなたが通告順になつておりますからどうぞ。
  26. 神近委員(神近市子)

    神近委員 それでは私が伺います。  大臣が御就任になつたときに、今次官にも山下委員からお尋ねがございましたけれども、本問題につきましてどういうような事務引継ぎ、あるいは意思でございますか、希望でございますか、そういうものの引継ぎはどういうふうに行われましたか、大臣の所見を伺いたいと思います。
  27. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 売春取締り法案のことにつきましては、こういうものを研究いたしているという引継ぎを受けたわけでございます。
  28. 神近委員(神近市子)

    神近委員 売春問題協議会をつくつて研究していると犬養さんがおつしやつたということでありますが、ちよつとお声が小さいものですから、よく聞えませんでしたけれども、自分というのはどちらでございますか、犬養さんでございますか、加藤大臣でいらつしやいますか。
  29. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 私がただいまお答えいたしましたのは、犬養前法相から、こういう売春対策協議会を開いて、この問題を研究いたしておりますと、こういう引継ぎを受けたのでございます。
  30. 神近委員(神近市子)

    神近委員 それでその引継ぎの様子はわかりました。それで今度は大臣自身はどういうふうなお考えでしようか。犬養さんは前に、もうこの売春状態は今日の情勢を見ると放置しておけない限度に来ておるので、一日も早く対策を立てなければならないと思う。それで実は協議会をつくつたという最初の意図も、問題は相当長く一般に審議されて、そうしてたとえば婦人少年局労働大臣諮問に対する答申、そういうものも全部各省に出してあるはずでございまして、それに伴つて陳情も行われております。それでもうやるかやらぬかというような審議でなく、のつけから不完全ではあつても、法案という形で突き出して、そうして皆さんの御批判を受けて、それを逐次よいものにするというようなお考えであつたのでございます。大臣はこの犬養さんのお考え方に御賛成であるか、そうでないか、今度は御自身のお考え方を伺つておきたいと思います。
  31. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 私の考えを申し述べてみたいと思います。この売春の問題というものは、古い問題でありますし、また新しい問題であるのでありまして、一面平凡な問題のようでありますが、しからずしてまた複雑な問題であります。これは売春の問題というものは、人類生存以来あることでありまして、一種の社会悪と申しますることでありまするが、私の信ずるところによれば、これを根絶さすということはなかなか困難な問題であると、こう思います。しかしながら根絶さすことができないがゆえに、これを放任しておくということは、これは断じてすべきことでないと思います。まあ私考えますには、風紀の問題の上より、また婦人基本的人権の問題の上より、また性病の蔓延の点よりいたしまして、いろいろの点からしてできるだけの対策を講じなければならぬと、かように考えておるのでありまして、今回議員から御提出になりましたこの法案も拝見いたしまして、まことにけつこうなものであるが、ただ刑罰だけでは行かない問題ではなかろうかと、こう思つておるのでございます。その他あらゆる啓蒙の活動もせなければならず、また更生の点もいろいろ考慮せなければならぬのでございます。それでこれを絶滅さすということにはなかなか参るまいと思うのでありますが、いろいろ総合的の対策を立てて、できるだけそういう方向努力いたしたいと思つておるのでございます。そこでただいま法務省売春対策協議会ができまして、各界の有識者が集まりまして、あらゆる総合的対策を研究しておりまして、すでに相当の回数も経ておるのでございまして、これで相当な対策ができましたならば、その上その対策を見まして、できるだけ適当な機会においてこれを提出いたしまして、皆様の御協賛を仰ぎたい、かように考えておる次第でございます。
  32. 神近委員(神近市子)

    神近委員 大体あなたのお考えはわかりました。これが古い問題であり、新しい問題であるというお考え方にも私は承服できません。古い問題であり、新しい問題であるということは、古くからあるものであつて、今日以後もこれは存続するものかというような、社会悪というお言葉をお使いになりましたけれども、大体そういう考え方の伝統というものは、これによつて利得している人たちがつくつたいわば伝説でございまして、ここで私どもはあらゆる面から考えましてどうしてもこの切りかえが必要である。これはもう新しい問題は、これを絶滅させることの一本でよろしいと私ども考えるものでございます。そして同時にあらゆる面からの施策というようなこと、これは私ども協議会でお考えになつていることとちつとも違わない。たとえばこれを実施規則におきまして逐次やつていただきたい。今まで私ども何年にもわたつてこの問題の対策について答申しましたり、あるいは請願しましたり、要請を申し上げたりしても、それが一つとして行われていなかつた。どこにその険路があるかということを考えますと、いくら法律条例があつても目的が達せられなかつたということ。そしてたとえばアメリカの現行法の場合を考えましても、あれは一九四一年のメイ・アクトが初まりでありまして、そしてそれが出たことによつて、宗の施設善後措置に関するいろいろな法律ができ、あるいは今まであつたたとえば性病予防法だとか、あるいは児童福祉法だとか、そういうようなものが全部急に生き返つて、そして強力な運動ができたというような事実を考えましても、今日あと施策、たとえば収容所をつくるとか、あるいは啓蒙宣伝を行うとか、そういうふうなことはこれに伴つて興す方が興しやすいという事実、なお私ども研究会におきまして、いろいろ官庁のこれに対する施策というようなものが、売春処罰法ができた場合の方が物事は推進しやすいか、あるいはしにくいか、どちらかということを確かめてみれば、この法律ができた方が、それに関連する予算もとりやすいし、あるいは運動の推進もしやすいというようなことを言われているのでございます。それで私は大臣に、今の道具立てをしなければこの法律を推進することには疑いがあるというようなことは、これは考え方をかえていただかなくてはならない。この問題は風紀の問題でもございますし、婦人の人権の問題でもございますし、子供たち教育の問題でもあり、それから民族の衰亡にかかわる問題だと私は思うのです。というのは、性病の蔓延の状態考えますと、ここで二十年か二十五年の後にはわれわれの子孫がずいぶん劣弱な知能と健康のものになるんじやないかと思われるような悪質の性病が蔓延していることを考えると、決してゆつくり考えていいという問題ではないと思うのです。どうしても私どもは、ここで大臣に、今までの古い考え方を二郷して、各国がそろつてつているような禁止法を打立てていただいて、この絶滅運動の先頭に立つていただくだけの決心をつけていただきたいと思うのです。その点について加藤法務大臣は、ぜひともこの全国的な要望にこたえて、これを推進していただくというような決心をつけていただけるかどうか、その点を私はもう一ぺん伺いたいと思います。
  33. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 いろいろ御意見がありましたが、ただいまの御意見を承りますと、私がいかにもこの問題に冷淡であるかのごとき御口吻があつたように思いますし、また古い考えを持つておるというような御意見もありましたが、古いも新しいもないのでございまして、私は決して冷淡な態度をとつておるわけではないのであります。教育の問題のことをお話になりましたが、子供を教育するにしましても、母親としてはただしかり、ただ罰するだけではいけないと私は思うのでありまして、あらゆる施設がこれに加わつて参らねばならぬのであります。ただ婦人基本的人権のみを尊重しておくということになりますれば、病毒というものはただいまお話のありましたごとく、永遠に民族の優生と申しますか、種族がだんだん悪くなつて来る点なども考えなければならぬのでありまして、先刻私が申しましたごとく、できるならばあらゆる総合対策のもとに、絶滅を期するということは困難なことで、不可能とは申しませんが、人類の生存する以上、困難なことであると思います。さればといつて、放任しておくわけではなく、できるだけ努力をして、ポンプをもつてなるべく火を消すように努力いたしたいと思つておるのでありまして、決して冷淡に放任しておくという意味ではないということを御了承願いたいと存じます。
  34. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 それでは大臣への質問だけを先に一通り終るということでございますから、また法務大臣は新任早々でございまして、今の神近さんの御質問に対して少しはずれたところがありましたからお尋ねいたします。前の国会、それから今国会におきまして、加藤シヅエさんの質問、藤原道子さんの質問、それから今国会の予算委員会における私の質問、また他の婦人議員等に対して、犬養さんはこのままでは放任しておけない、売春対策については、今国会に法案をもつて皆さんに相まみえるということを幾たびか約束して来た。こういう質疑応答があつたことを御存じでございましようか。
  35. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 承りました。
  36. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 私は、吉田内閣というのはたびたび大臣がおかわりになりまして、百何十人かお出ましになつたのですから、御無理もないとは御同情申し上げますけれども、しかし内閣はかわつておらないのであります。いくら犬養さんがおつまづきになつておやめになつても、政府の一貫した、ことに法務省施策というものについては、大臣の顔がかわつても、名前がかわつても、これは引続いておやりになるべき責任があると思うのでございます。そのときに、先ほど前の法務大臣から売春問題について、どういう仕事のお引継ぎをなさつたかという神近さんの質問に対して、対策協議会を置いて研究しておるのだ、引継ぎをしたんだとおつしやるのでありますが、それに加えて、今国会までに結論を出して、法案を作成して出さなければならないという義務があることをお聞きになつておるのをお落しになつておるんじやないでしようか。わざとそういうふうにお答えになつておるんじやないかと思うのですが、この点いかがですか。
  37. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 ただいま私は神近君にお答えした通りであります。
  38. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 まつたく驚くべき内閣でございまして、単に売春対策ばかりではない。あまりにも無責任なこの吉田内閣の閣僚のあり方に、私はまた別の批判を持つわけでありますが、これ以上問答してもしかたがありません。先ほどから問題になつております売春対策協議会――先ほど審議会と間違えておられましたけれども協議会ですこの協議会は、犬養さんに、協議会をつくるときに私たち意見を聞いたところでは、もはや売春の善悪是非について議論するところの会ではない、結論を出すべきときに来ておるのであるから、提出するところの法案の技術的な内容の討論から始めて、そうして今国会に間に合せるべく、もちろん協議会は発足するのだとおつしやつた従つてこれを対策協議会に初めからタツチしておられないあなた様に承るのは、まことにお気の毒でありますけれども婦人議員がしびれを切らして議員提案しなければならないまでになつておるのであるから、当然の責任において政府はお認めにならなければならぬ。そういう公約があるのです。そういうことについて、いくら方面違いの大臣がおすわりになつたとしても、そんなに涼しい顔をしておすわりにならないで、責任を明らかにされたらどうかと思いますが、いかがでありましようか、しかも売春の問題は古い問題であり、新しい問題で、今後永久に続くのだ、人間の男と女がある限りは売春は絶えないのだから、絶望的だというようなニユアンスをもつてお答えになつておるていたらくで、私は先ほどから憤慨しておるのであります。初めからけんかしてもしかたがありませんが、しかしできるだけ協力していただきたいと思い、そういう意味質問させていただきたいと思つておりますけれども、あまりにも政府は不熱心であります。もしあなたがどこまでもそんな涼しい顔をなさるなら、おやめになつた元の法務大臣犬養さんに出てもらわなければならない。法務省というのは、大臣の顔がかわるたびに、二月か三月で、国会や国民への約束をほごのごとくお捨てになられるものかどうか。一ぺん、前大臣といえども、責任上出てもらわなければならないと思いますが、あなたは責任をお持ちにならないでしようか、どうでしようか。犬養さんを呼び出して来ましようか。
  39. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 私は犬養君のことを批判いたしたくはありません。おそらく犬養君が急がれても、ただいま私が申しました売春対策協議会、この協議会結論を得ぬ先に、私は出されることはあるまいと想像いたします。犬養君に伺つたわけではありませんが、私は想像いたします。いやしくもこの売春対策協議会というものに相当の権威者を集めておる限り、研究半ばにして未熟のものを出されることはなかろう、こう思うのであります。私がただいま申しました言葉が古いとか、新しいとか――私は理想は皆さんと同様に持つております。人類のある限りこういうものが絶えないということ、これは現実の問題を申すのでありまして、私はかような売春行為はなくして行きたいと思つておりますが、政治は現実でありますがゆえに、現実を離れて、ただ理想論のみでは参らぬのでありまして、そこで私は現実論を唱えております。今度たとい立法いたしましても、近く結論を得ていたしましても、ただ空論――空論と申しますとおしかりをこうむりますが、理想論だけでは参りませんので、現実に即して絶滅の方向に一歩々々進めたい。かように考えておるのであります。
  40. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 私はいたずらに新しい法務大臣を責め立ててけんかをしようとは思いません。それできようの売春問題法案審議の初めに臨み、国会において質疑応答が政府に向つてなされるというときにあたつて法務大臣であられるところのあなたは、売春問題に対するところの最近の委員会や本会議における速記録くらいはお読みになつて出席になつておるものだと私は思つておりました。そうしたら今そういう問答があつたことを御存じでございますかと申し上げましたう、聞いておりますとおつしやる。従つて売春に対するところの婦人議員を中心とするところの最近の速記録をお読みになつておらないようでございますので、私は先ほどからの大臣答弁に反駁すべく一つ質問いたしますが、今国会の予算委員会の一般質問において、私は実は犬養さんに食つてかかつたのです。あなたは売春処罰法というものを今国会に提出することをたびたび答えておられるが、しかし今度の一兆円予算の内容を見ると――処罰するだけではいけない、女性の福祉を中心とした、転落防止、保護更生、職業補導、あつせん、未亡人への貸付問題、人身売買を防ぐところの農村への長期低利の融資、こうした問題も含めての福祉予算を伴うところの福祉立法がこの処罰法案の裏づけになつて出て来なければならない、処罰するだけでは片手落ちだ、だからあなたが出すと言われるからには、政府である以上予算の都合ができるのだから、あなたはこの予算の中に、当然売春処罰法案の裏づけになるべきところの福祉法をここに出して来られるのがあたりまえだと思うが、予算を拝見したところ、ないじやないか、こう私が申し上げた。そうしたら犬養さんは、逆に私に食つてかかられて、堤さんは事情をよく御存じでありながら私をお責めになる、一兆円予算じやありませんか、どうしてもこの予算を組みたいが組めないのだ、しかし政府に金がないからといつて、福祉施策ができないからといつて、このまま売春を今日のように手放しで黙認のような形に置いておくことはできない状態になつて来たと政府考える、従つて福祉の裏づけの予算はないけれども、これができたら補正予算を来るべき臨時国会にかける、従つてまず処罰から手をつけ、手のつけられるところからやるのだという意味で、私がこのような良心を持つておるのだからひとつそうお責めにならないでくださいということを、答弁になつておるのであります。こうした前の法務大臣売春対策への御所論というものは当然新しい大臣が引継いでいただき、速記録を読んでいただき、大臣御存じでなかつたならば、側近の局長や部長がこれを御教育申し上げてくださつて、何とか責任を持つてもらわなければ――今のように加藤法務大臣は、前の犬養さんの言つたことだから私は知らないのであつて、総合施策ができなければ処罰には大体賛成できないのだということを、公私ともあらゆる機会におつしやつておる。それからまた男性議員の方々におきましても、福祉予算を伴わないところの法案婦人議員が出して来たのはマスターベーシヨンであつて、スタンド・プレイをやつておるのだ、年取つた婦人議員のヒステリーだとおつしやつているのが耳に入つております。私はこういうことを聞きますときに、思うに与党あたりの批判的な方々のお声と思いますが、こういう声を聞きますときに、こんな重要な憲法問題をひつさげて、女子の基本的人権を守り、社会秩序を守るために婦人議員が全生命をあげてこれと闘つておりますのに、こうしたふまじめな態度でおられる原因は、その政府態度にあるのじやないかと私は思つておるのでございます。ここで犬養さんと打合せをし直してもらつて、もう一度売春問題に対して政府は勉強し直して出て来てもらえないでございましようか。私はそういうのれんに角押しのような政府を相手にして、全女性四千万の要望であるところの売春処罰法案をものにしようだつてできないと思う。いかがでございますか。加藤さん、私が申し上げたので大体今までのあれはわかつてくださると思います。
  41. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 私は、先刻来この問題をまじめな問題だと心得ております。私自身、これはまじめに考えておる問題であります。そこであなた方の御熱心に対しましては深く敬意は表しておりますが、未熟なものを急いで出してはどうかと思いまして、すでにこの対策協議会も十回に及んでおるのでありまして、私就任以来急いで結論を出すようにお願いをいたしておる次第でございます。あなたのお税を聞くと、いかにもふまじめ、放任の態度をとつておるようでありますが、私はこの問題はまじめに考えております。
  42. 古屋(貞)委員(古屋貞雄)

    古屋(貞)委員 関連して。大臣に承りたいのでありますが、ただいまの神近委員からの御質問に対しては、非常に熱意を持つて売春取締り努力されるというお話がございました。ところが先日猪俣委員から、この問題について相当強く法務大臣に御質問をいたしましたが、非常なあいまいなお答えをした。ところが最後にこの委員会におきまして、鍛冶委員から、今婦人議員から出しておるところの売春取締りに対する法案には、賛成ですか反対ですかということを御質問したところが、そのときには反対ですということを言つておる。どうも与党の議員質問すればこれに明確な答えをしておるが、提案者から申しますればはつきりした御答弁をしていない。きようの御答弁を拝聴するとまるで曖昧模糊の御答弁をしておる。これは二枚舌を使つておることになる。こういう無責任なことでなくて、ただいま婦人議員から申されたように、緊急非常の重大な問題ですから、日本の将来を考え日本風紀考え、人道を考えて、ことに将来の青少年の面から言いますならば重大な問題です。かような緊急の問題に対しては、はつきり責任を持つてもらいたいと思います。まつたくあなたは二枚舌ですよ。売春対策協議会を数回開いたけれども結論が出ていないからまだ出せない、そして今出ておるものは取締りのものだから反対なんだ、こういう無責任なことで一体大臣としての職が勤まるかどうか。明確にひとつこういう問題は緊急に必要であるということを言つてください。
  43. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 私の意思は、鍛冶君にお答えしたのと何も今違つておらないつもりであります。どういう表現をいたしたか知りませんが、思うにこの罰則だけではにわかに賛成できないということをお答えしたのだろうと思います。もし速記録により、絶対反対であるなどと申しましたというなら、それは私取消しますが、そういう意思ではございません。これは今神辺君及び堤君にお答えした通りでありまして、対策協議会結論を得てからやるのがほんとうの処置であると私は思つておるのであります。ただ罰則だけで行くことはどうかと思うという意思を表明したわけで、今でもそう思つておりましてかわり彫りません。二枚舌などを使うという気持は毛頭ございませんので、さよう御了承願います。
  44. 古屋(貞)委員(古屋貞雄)

    古屋(貞)委員 ただいま御答弁がございましたが、しからばこれが不完全だとおつしやつて御批評なさるならば、今堤委員より御質問がございましたように、前の犬養大臣の、今国会に間に合うように出す、従つて対策協議会はやつておるのだ、こういうお約束があるはずで、道義的にも大事な問題です。それを大臣は、ただいま提案されておる問題はこれは罰則だから反対だと言うが、ただ反対だと言うだけでいいのかどうか、反対ならば、こういう案ならばよいのだというはつきりした政府の案を出すべきだと思います。そういう義務が国民に対してあるのであります。そういう態度こそはほんとうに大臣のとるべき態度だと思います。言いかえますならば、今提案しておる御審議中の議案が罰則だけであつて不十分だというならば、こういうぐあいにしようというはつきりした案をお持ちになつてから御批判を願うならけつこうだと思います。拙速であると申しますけれども、これはきようやきのうの問題ではないのでありまして、とにかく八年間も日本国民の苦しんで来た問題で、この八年間の弊害は全国津々浦々にほうはいとしておる。これは婦人ばかりではありません。国民の輿論なんです。あのアメリカさんの日本の女に対する関係、傍若無人の態度に対して、わが民族は非常な憤激をしておる。のみならず憤激だけではない、感情だけではないと私は思います。こういうことなくして、そうして戦争には負けたといえども、りつぱな人道と基本人権を中心とした文化的な国家を建設しようという国民の努力の面においては、非常に大事な、緊急に解決すべき案件だと思う。従いまして御批判なさる前に法務省はつきりとこれに対する対案なり、しからざれば原案をお出しになつてやるべきだと思う。しかるに、もうしびれを切らして御婦人関係から提案されておるという姿であります。かような矛盾したことはないと思う。大臣はもう少し責任のある御答弁を願いたいと思う。これにかわるべきもつといいものをすみやかに出すか。しからざればこれを修正されて、はつきりとりつぱなものにして今国会で通す意思があるかないか、この点を伺いたい。イエス、ノーだけでけつこうであります。
  45. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 ただいま承りますれば、犬養君は出すべく努力すると申されたということであるのであります。それから私は、総合的な対策考えられていないので、このままでは賛成できないと、今回御提出になりました問題について、私の意思をかように申し述べたということであります。私はこの意味であるのであります。速記録にそういうことがあるかどうか、私は反対などと言つた覚えはないのであります。それでこれは御意見でございまするが、対策協議会結論が出てから、私どもはこの問題に対して修正なり何なりいたしたいと思いますが、まだ出ておりませんから……。何年かかかつた問題であると仰せになりますが、こういう問題は皆様は六年か八年か知りませんが、私はもつと以前からこれを考えておりまして――私より以前から考えておる天下の有識者も多々あると思うのでありまして、せつかくできますならば、できるだけ完璧に近きものを作成いたしたいという念願でありまして、皆様の御趣旨と何ら相相違するところはないと思います。これは必ずしも熱意がないというわけではないということを御了承願いたいと存じます。
  46. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 法務大臣の御所見はよくわかりました。それでは総合施策がなくても処罰をまず先にやるのだという前からの法務省の御意見と、総合施策が先だと言つているあなたの意見とに少し食い違いがあるというところに問題があると思うのですが、それで前の大臣の言つた施策あとからの大臣意見とを、法務省自体がどういうふうに調節なさるのか。犬養さんの前の意見というものは、総合施策がないからといつて売春をそのまま手放しにしておけないから、処罰を先行せしめて、予算のついた案をあとに従わしめるのだ、こうおつしやつておるのですから、そこの御意見の調整をどうなさるのか、これが第一点。  それから先ほどからしきりと対策協議会ということをおつしやる。対策協議会は実は法務省の逃げ場なのです。ここを国会の治外法権にしたいところなのです。対策協議会結論を出さないから待つているのだということでは、三年も五年も待たなければならない今の調子なのです。しかも対策協議会のメンバーにはずいぶん信頼の置ける方もありますけれども、私たちがいろいろと調査したところによりますと、秘密会であるべき対策協議会の議事なりその会の内容は、裏から業者に通じておりまして、秘密会議にしなければ婦人議員がうるさい、またひもつき議員が来るとうるさい、業者がうるさいというので、一応オフ・リミツトになさいましたけれども、この対策協議会とツーツーなのが業者なのです。こういうことがあるから政府売春絶滅を期する線を持つているのだということを掲げながら、世間をごまかさんがために煙幕を張つていらつしやるのが対策協議会だと私たちは見ておつた。それだからこそ婦人議員が提案した。こういうことについて法務大臣は責任を持たなければならないという立場から協議会に出て、あなたの積極的な意見をお吐きになり、また協議会の方々と意見をかわされたことがあるかどうか、はつきりと申し上げておきますれば、対策協議会というものは政府の逃げ場所でございます。これは軍事基地問題に対する日米合同委員会と同じ性格のものです。どうですか、加藤さんみずからお出ましになつて、そうして早く政府の方策としてやらなければならぬというので、中に入り込んで行つてみずから発言をし、その空気をごらんになつておやりになつたことがあるか、これだけひとつ答えてください。
  47. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 堤君御承知のごとく、私就任いたしましてから各方面委員会へ毎日中途丸々でお招きをこうむりまして、少しもそういう対策協議会などに出て行くひまがないのでありまして、まことに済まぬと心得ております。それが煙幕である場合もあつたかもしれませんが、私はさように考えておらないのでありまして、相当の専門家、相当の識者がまじめに考えて――このごろ中間の報告を聞いたくらいであります。神近君を初め堤君らの御熱誠に動かされて、せわしい中にその意見を中途に聞いたことはあるのでございますが、先般からもお話のごとく、こういう法案提出をぐずぐずしておるのはどうも法務省の者に汚職か何かあるのではなかろうか、その対策協議会委員は籠絡されているのではないかとの御質問ですが、私はさようなことは断じてないと確信いたします。もし万一か万万一かありましたといたしましても、私は法務大臣の責任において必ずしもこれを全部用いるわけではないのであります。有力なる参考といたしますから、さような点はどうぞ御心配なく、ひとつある程度の結の出るまでお待ちを願いたいと存じます。  犬養君がいろいろお説をお述べにりましたので、私は今後機会あるごとに犬養君にお目にかかつてお教えを受けたいと存じます。しかし犬養君の意見との調整をどの辺で妥協しなければならぬかということは、これは――犬養君はこの問題について御研究に相なつておりますがゆえに、私は会う機会につつしんで教えを承りたいと思つておりますが、どこで妥協するかというようなことは私はここで申し上げる必要はないと存じます。全部犬養君の教え通りに行くこともありましようし、また私の考え通りに行くこともありはしないかと、こう思うのでございまして、その調整をここでどうするかというお答えは少しく躊躇いたす次第でございます。
  48. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 堤さん、ちよつと待つてください。神近さんは本質問をまだ終つておられないようですから、神近さんにどうぞ。
  49. 神近委員(神近市子)

    神近委員 今協議会のことが問題になりましたのですが、これには私も大分文句がございます。これは大臣よりも井本さんにお伺いした方がよいと思いますので、これはあとまわしにいたしまして、さつきから私に対する御返事を聞いておりますと、未熟な法案、未熟な法案という言葉が何度も繰返されるのでございます。そうなると協議会がつくるのが最上の案であつて、私どもがつくつたのは未熟のまた未熟のその未熟ということになるように私は聞えるのでございます。私どももずいぶん長い間勉強いたしまして――加藤大臣は何十年御研究になつているかしりませんが、大体さつきからの古い伝統を固持している考え方から、これは五十年御研究になつても六十年御研究になつても、新しい時代にマツチするものであるかないかということがわかれ目でございまして、私たちはいくら長くやつたからといつて考え方に同調できなければこれは反対でございます。必ずしも古くやつているものがよしとも考えません。ただ気になりますのは、協議会に出ている人たちの案が最上の案であつて、私どもの広く長く研究した方々の御意見も聞いてまとめましたものが非常に未熟なものであるかということ。これは大体さつきからのお話を承つていると、これについての対策あるいは事後処置というようなものに御不満があるんでしようけれど、これは私は実施規則その他で大体協機会の方々の御意見も相当伺つて、そして私ども考えているわけでございます。それでその協議会案というものが絶対にいいということをお考えになるならば、私ども法案のどこが御不満であるかということを出して御批判をいただきたいと思うのです。これはさつきも申し上げました通り、保護観察制度ということも私どもは入れたかつたのですけれど、技術的に一本にならないという法制局の御意見でございましたから、これは実施規則その他に附則をつける、そういうようなことを考えております。それでこれでもたいへん未熟なものであるかどうかということが一点。  それからもう一つどうしても性病の点と、永久的な国民の生活には関係のございますのは、勤労意欲というものが非常に失われて、安易なことで金さえもうければ、これがどういう金であつてもいいというような考え方が非常に世間に横溢しているわけです。たとえば私ども先日もそういうところに働いている婦人たちに会つてみまして、これでなければ生活が立つていけないと言われる基準を聞いて見ますと、もう勤労をやつて生活を立てようというような考え方はほとんど地を払つてない。そこが金がもうかり、生活が楽であるということ。そういうことでどんどんと職業を持つたことのある婦人でもそこへ入つてしまう。こういうことをお考えなつたことがあるかどうか。人権の問題、性病の問題あるいは教育の問題、まあそこらまではお考えなつたことかもしれないけれど、勤労の精神が国民一帯に失われて、正直ななりわいで生活しようという基本的な大事なものが失われているということ、これをお考えなつたことがあるかどうか。そして私どもは一日も早くここに終止符を打たなければならないという考えに御同感願えるかどうか。この二点をちよつと伺いたいと思います。
  50. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 ただいま神近君の御質問の点について、未熟な法案だというような言葉を出したというお話でありますが、さような私は失礼な言葉は申し上げませんし、さような考えは少しも持つておらないのであります。これは言葉じりの話でありますが、さような考えは少しも持つておりません。皆様がこの法案をお出しになりましたことについてのいろいろのお気持は深く敬意を表すると私は申している。これも口先ばかりじやなくそう思つておりますから御了承おきを願いたいと思います。ことに私が何十年ということを申したのは、これもどなたかが自分たちは六年も七年も真剣にやつていると仰せになりまして、年限のお話が出ましたので、私も年限のことを申し上げたのでありまして、決してそういう未熟な法案であるとか何とかいうような考えは持つておりませんが、ただこれではどうかとこう思うてにわかに賛成はできないということを先般来繰返しているだけでございますから、この点もあしからずお含みおきを願いたいと存じます。ことに婦人がそういうなまけた気持になつて安易な、何の商売でもいいからただ生活を楽にしたいというようなことを思つているという御意見がございましたが、私もそういうことを思つているのでありまして、それにはどうするかという一つのほかの施策もなければならぬというのがそれが総合施策であるのでございます。そういう意味でございまして、婦人が金さえもうかれば楽になまけて、今では左うちわとは申しませんが、楽に暮していたいという気分になつて、まことに悲しむべきことでありまして、あなた方が女性のために真剣に涙をふるいになつてこういう問題にお立ちになつたという御気分に対しましては、心より敬意を表する次第でございます。
  51. 神近委員(神近市子)

    神近委員 今の最初の質問に対してははつきりいたしませんでした。私ども法案のどこが大臣のお気に召さない点があるかということを伺いました。それからもう一つ、さつきも申し上げました通りに基本的な法律ができてそれから施策が行われる。これはどこにも前例があります。たとえばデンマークの場合でも、私さつきアメリカの場合を申し上げましたけれど、そうしていろいろの文献を見ましても、ともかくも売春というものが国法でいけないという基本が立たなければほかの施策は進まないということ、それを繰返し申し上げ、そうして犬養大臣予算の裏づけは次にまわすとおつしやつた点も、私どもはそう信じて理解していたのでございます。私ども法案でどこが一番いけないかという点を御指摘願えればありがたいと思います。これからの委員会審議にもいろいろ考えなければならないことですから。
  52. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 いろいろのこまかい点はまた適当の機会もあると思いますが、私はただ罰則のみに過ぎているのではあるまいかということが主でございます。罰則のみではどうかと思う、こういうことでございます。
  53. 神近委員(神近市子)

    神近委員 私どももその罰則を抜きにして保護措置だけで行けるなら一番いいと考えております。私どもは女はかわいいのでございまして、決して憎らしいのではないのでして、保護観察の制度一本で行けるならいいのですけれど、それならば勅令九号で十分なはずでございます。売春そのものが罰しられないとなればこういう種類の法案は成立しない。それで保護観察制度は、国としてこれを悪質の常習者だけ罰するという点が加えられているのでございまして、それは大臣が十分私ども考え方を御理解いただけないでいるからだと思うのです。私どもは決して罰則だけでいいとは考えておりません。実施規則その他において十分保護制度が考えられ、そうして私ども婦人団体はもしどうしてもそういうものができないならば、ある人は一人が一人を引受けるということも考えていいのではないかというようなことさえ、御婦人の方の間には出ているのでございます。でも、それでも私ども政府をあまり信頼しないということになりますので、これはどうしても国家の施設の中で保護をしていただきたい。そしてそれと同時に一般には盛んに啓蒙教育運動、人身売買その他につきましてまだ地方の人たちが人権の思想を十分に受取つていない、そういう啓蒙運動を並行的にしなければならぬということはしているのでございまして、決してこの罰則だけでやつて行くというつもりではないのでございます。これがこの法案に出なかつたということは残念でございますけれど、技術上やむを得なかつたということを御了承願いたいと思います。私はこれをもつて私の大臣に対する御質問を打切りまして、あと事務当局の方々にお願いいたします。
  54. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 堤君。
  55. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 私は先ほどの質問ちよつともどうしていただきますが、大臣は私らの父くらいの年輩でございますから、言葉の先だけで非常に上手にお逃げになりますけれども、私は犬養法務大臣がお考えになつてつた所信というものを、公的立場にあるところの次の法務大臣が少しも引継がないでいいというわけがないと思う、ですから、私は先ほどどういうように調整をするとか、犬養君の意見に妥協するとか、犬養君の意見を捨ててしまつてはどうするかということは答える必要がないとおつしやいますけれども、私は天下をおとりになつておる政府立場としては、これは公的な場所で答えていただかなくては困る。これはやはりはつきりと答えて、この委員会はつきりしてもらわなければ私は困ると思う。そんなにごまかさないでひとつはつきりしていただきたいと思うのです。  もう一ぺん繰返しますが、婦人が転落することを防止する金がないから、あるいは落ちてしまつた人を保護更生する施設ができないから、従つてそれらを実現する法律処罰法案の裏づけとなつて出すことができないからといつて、このまま売春を放任しておけないから、従つて処罰を先行せしめるのだとこうお答えなつた。私たち提案議員の気持といたしましては、おそらく政府提案として出て来ても、今国会はかくのごときものであつたろう、そしてあとで福祉総合施策、事業対策というものが法律になつて現われて来たであろう――犬養さんでさえもこう答えているのだから、議員提案とする場合には、この予算を伴うところの立法は御遠慮申し上げなければならぬから遠慮申し上げたのであつて、私たち処罰だけを先に出した。ですからあなたもここで妥協できないかということを私は言つておるのです。どうです。
  56. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 ただいま聞くところによりますと、前犬養法相は罰則だけ先に出すということは言つていないということでございます。私は先刻来申し上げましたごとく、犬養君の教えを仰ぎたいと思いますが、政府がどこで妥協するかということは、全部妥協するかもしれませんが、教えを受けて考えてみたいと思います。ことにただいま堤君は、何か私がいいかげんなことを言つているようにおつしやいましたが、私は堤君のごとき弁舌の雑なる方に対して、私がこれをかれこれするなどということは及びもつかないことであります。さような不心得は考えておりません。
  57. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 しやべり方がどうのこうの私は言つておらないのでありまして、内容の問題を言つておるのであります。それで私は、国会の方へ議員が提案して、どうしてもこれをまず手のつけられるところから手をつけたいという気持でおるのに、大体今までの政府考えというものを私たちがいろいろな角度から打診したところによると、今日の政府考えでは、実はこの法案ができたあとが非常に危ぶまれる。それでほんとうに売春というものは絶滅しなければならぬのだ、女子の基本的人権を守り、社会悪として私たちは道徳の柱を打立てなければならないという見地から、法務省大臣を中心にして真剣にこれをお考えくださるならば、言いたいことは一ぱいあるけれども、まず手をつけようじやないかという同調ぶりがこの委員会に示されることが、私は国民の輿論にこたえるゆえんだと思う。だからこういうことをしつこく申し上げるのです。私はそれが法案が通過するかしないか、実を結ぶか結ばないか、売春問題に対して第一のくさびを打込むか打込まぬかということの一つの試金石だと思いますから、しつこく申し上げておるのです。どうも先ほどから聞いておりますと、私は大臣がふまじめだとか何とか申しませんけれども、どうものれんに腕押しをしておるような感じでございます。それで私たちが大体全国的に五十万と称せられるところの赤線、青線、準赤線、準青線、散娼、それからいろいろな形においてやられるところの売春、軍事基地、こうしたものに突き当つてみるところ、また勅令九号、それから百三十七号のあの法律、ああいうものをほんとうに法務省が中心になつて、もう少し第一線を取締る気持があるならば、今日のごとき手放しの売春状態は、おそらく業者もそこまでは行かなかつたのであろうということを痛感する場合がしばしばあるのであります。この際、法務省警視庁国警長官も大臣も、名誉を挽回する意味において、この議員提案が出たのを機会として、ひとつ新規まき直しに、第一線の警官を再教育して、人員配置が独身者でぐあいが悪ければ、妻帯者にやらせて、人員をふやし何とか出直しをするのだという気概を示さなければ、国会はああいうことを言つておるけれども政府ではこんなものはなくならぬですよとにたにた笑つておるといつたような態度では、これは絶対に許されない態度だと思うから、きようの質疑応答の初めにあたつて政府も同調する、手のつけられるところから手をつける気持になるということをはつきりしていただきたいというのが、私の質問の要旨なんですが、今までの政府自体からお聞きしておる印象では、総合施策ができなければ、そんな権威のない、そして懲罰一方のものには同調できないのだ。依然として今までのような態度でおいでになつて、何か法務省の思惑の中には、協議会という逃げ場をこしらえておいて、何かそこに背景があるのではないか。極端に言えば汚職疑獄、売春汚職、疑獄でもあるんじやないかという感を持たせるような答弁をなさつておることは、国民はこの目で見ておるのでありますから、私はそれは慎んでもらいたいと思つて、きよう同調なさるような御答弁がいただきたいと思つて、先ほどからしつこく申し上げておるのであります。
  58. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 私は堤君に、このまじめな問題を審議しておるときに法務省に何かあるなどと言うことはお慎みを願いたいと思う。まじめに研究をいたしております。私は表現が下手でございますがゆえに、いろいろあなた方に御満足の行く答弁をいたしておらないかもしれません。私は男性としても、そういう問題に対しましてまじめに世渡りをいたしたいと思つております。それであるから、どうぞまじめに本問題に組んでいただきたいと思うのであります。こういう場合余談はひとつお許しを願いたいと思います。
  59. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 法務大臣は今非常に御立腹になりましたけれども、こういう社会悪に対して、行政の府として責任をとらなければならない。支障はどこにあるかといつたら、法務省にあると思います。私ははつきり申し上げましたが、今日赤線の状態でも、法務省がもつとしつかりなさればなくなるはずです。あんなだらしのない状態ではないはずです。そういうことを水かけ論をしておつても始まらないから法案の形に出して来たのであつて売春の問題に対して政府がだらしがない。ことに法務省が中心になつて真剣におやりにならなかつたということは、大臣が事あらためて私にいたけだかになつて怒られるほど、皆さん方が過去において努力をなさり、また権威ある御処置をおとりになつて来たかということは疑問でございます。あとに残しておきましよう。私は個人的な名前だとか具体的な例をあげておりませんが、私どもの方も自信を持つて申し上げておるのでありますから、大臣の御立腹が新しく法務省に入られた方なるがゆえの御立腹であると見て、私はこの際この間豚にまじめに取組む意味から、ここで一応打切つておきますが、具体的に例をあげろ、いやこういう状態じやないかということを言えと申されるならば、幾らでもあるのでありまして、こういう問題は法務省の方々が真剣になつてつてもらわなければ、いかなるりつぱな法律ができても問題になりませんから私はこれを申し上げておるのです。
  60. 鍛冶委員(鍛冶良作)

    ○鍛冶委員 私は堤さんの取消しを求めます。あなたは法務省に疑獄の疑いが持たれる、こう言われた。それを大臣が言われた。しかるに私は確信がある、確証があると言われる。あつたらあげてごらんなさい。ないなら取消したまえ。汚職があるなんて、そんなことを言つてはいかぬ。あるなら出したらいい。(「後日に譲ると言つてるじやないか。」「あるなら今ここで言え。」「君は政府委員じやあるまい。」「委員委員にそんな質問をしてはやかぬ。」「委員長に言つたらいいじやないか。」その他発言する者多し)委員長からそれを注意してください。
  61. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 ちよつと堤君に聞きますが、堤君が言われたのは、鍛冶君が言つたように法務省の中に涜職の疑いがあるということを言つたのか、そうでないのか、そこをはつきりしなさい。もし涜職があるというなら、あなた責任を持たなければならぬ。
  62. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 私はいろいろな今までの売春政府の問題を検討してみるときに、実に政府の中心であるところの法務省はだらしがなくて、いろいろな問題を指摘すれば幾らでも例がある、こういうことを申し上げて、個人の名前をあげろとか、具体的な例を申せとおつしやるな、それはそのときではないから、今はこれでとどめておくが、売春の問題に対しては実に吉田内閣はだらしがなかつたということを言つている。その言葉の中に疑獄、汚職にもひとしいような問題があるということも私たちは知つているということを申し上げている。だからいろいろな言葉を重ねて私が言うたのであつて、その中から端的に一部の言葉をひつぱり出してどうこう言うのでなく、よく全体の私の言うことを聞いていただきたい。
  63. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 委員会委員発言するには、責任を持たなければいかぬ。行政上の取締りでだらしがないと言うならいいが、涜職があつたということをあなたが言うなら……。
  64. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 あつたとは言わぬでしよう。ひとしいものがあるといわれていると言つたのです。
  65. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 そこをはつきりしなさい。どういう意味で言われたか、はつきりしなさい。
  66. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 実にだらしがないということを言葉を重ねたのです。
  67. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 涜職があるという意味じやないのですか。
  68. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 そうです。
  69. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 そんならいい。よくひとつ、言葉の勢いで言い過ぎることがあると誤解されますから…。
  70. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 一部だけひつぱり出したらそうなる。だから私は、この法案が国会を通過して出たあかつきに、少くとも法務省が今日の状態でないような形において、たとえば昭和二十一年のあの行政通達売春は必要やむを得ざる悪である。だからできるだけ女を搾取しないように、そうして前借をこしらえないように、できるだけ社会の秩序を守る形においてやれというような通達が出ているのです。そうすると、そういうものがありますと、もうこれは一つ権威になつてしまつて、あたかも守られておるかのごとき感じを与えながら今日まで来たのです。これ一つにいたしましても、勅令第九号が死文化されているのか生きているのかわからないと養老さんは先ほど答えておられる。こういうだらしのない今までのあり方では困るから、これを契機に、この法案が通過いたしましたときは、法務省は心機一転やり直しをするというところを見たいのだがどうだと、こう私は尋ねているのです。
  71. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 答弁ありませんか。――政府には答弁がありません。今の答弁で十分だという意味でありましよう。次の質問者に御指名いたします。
  72. 堤(ツ)委員(堤ツルヨ)

    ○堤(ツ)委員 ちよつと待つてください。答弁がないのですね。――そうすると今までの方針をかえられないというのが法務省のお考えでございますか。
  73. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 私が今まで御答弁したことで尽きておると思います。
  74. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 高橋禎一君。
  75. 高橋(禎)委員(高橋禎一)

    高橋(禎)委員 この問題は、私は委員会で目にかどを立てて論議するような問題でないと思うのです。女性と男性と協力をし、政党政派を超越して委員会全体が、しかも政府と協力をして解決しなければならないほど重大な問題であると考えております。そして、この問題に関する限り、私は加藤法務大臣を責めようなどという気持はいささかも持つておりません。加藤法務大臣は就任早々ではありますけれども、かつて厚生委員会にも長く所属されて、私ども加藤法務大臣のいろいろの考えを伺う機会もあつたわけでありまして、むしろこの問題を解決するには、まあ閣僚の中では実は加藤法務大臣に期待するところが非常に大きいわけであります。私はこういうふうな考え方から二、三質問をいたしたいと考えるのでありますが、先ほど堤委員のおつしやつたことでえらく委員会の空気がかたくなつたようですけれども、私は女性の議員の方々があそこまで熱心にこの問題を者えておられるんだということの現われであると思うのです。ただ言葉じりをとらえて云々するような態度はあまり好ましい態度でないと考えます。ひとり婦人議員の方々だけでなく、全国婦人団体の方々は、何とかしてこの売春問題を解決しようとして、身銭を切つて署名運動までして、そして全国的に熱心にこの問題解決の運動をしておられるわけです。日本の全人口の半数を越える女性が、ともかくこれを何とかすみやかに解決しようというこの熱意は、これは国会においても政府においても無視することのできない、これは尊重しなければならない問題であると思うのであります。もしもこの人口半数を越える婦人の方々が政治に対して疑問を持ち、あるいはこれに失望をし、さじを投げてしまうというようなことは、これまた国家のためにまことに憂うべきことでありますが、私は今提案されている売春等取締法案をうのみにするのが正しいことだというふうには、実は考えていないのです。まだまだ研究をして、これには修正を加えるべき点もあるでしよう。実は疑問も若干持つているわけでありますけれども、この法案がだめだから全部をつぶしてしまうなんというような行き方では、これは国民が納得しないのです。おたがいに協力し合つて悪いところはこれを修正して何とかこの際この問題を解決するために一歩でも前進しなければならない、こう考えるわけです。加藤法務大臣も今の売春関係をめぐつての現在の日本状態をこのまま放置していいんだとは、これは先ほど来の答弁にも現われましたが、よもやお考えにはなつていないわけです。そうかといつて全面的に、持つている理想を一時に解決しようとしても、これはまたなかなかむずかしい問題であると考えるのであります。そこで私は現在の法律制度のもとにおいてもやればやれるのか、これは先ほど他の委員の方々からも若干出たところでありますが、私は勅令第九号に関連してお尋ねしたいのです。勅令第九号によつて、あの法律をそのまま活用すれば、現在のような状態ではあり得ないと思うのです。そこでまず法務大臣も、まだ十分数字なんかは御研究になつておらないかもしれませんから、事務当局の人から伺いたいのですが、この売春関係施設を経営したり、あるいは管理したりして、少くとも売春をさせることを内容とする契約の当事者あるいはその他の関係者になつておるであろうと思えるような人たちが、一体全国に幾らくらいあるか。もう一度簡単に申しますと、売春施設経営または管理をし、その中に売春をさせることを内容とする契約をやつておるんじやないかという疑いのあるものが一体幾らあるか。これは正直に言つていただきたいのです。たとえば赤線区域等はこれに含まれると思うのですが、そういうものが一体全体でどのくらいあるか。これは法務大臣を煩わす必要がないのです。はつきりおわかりの事務当局でけつこうです。局長からでも、あるいは長戸君からでもけつこうですが、まず一応それを明らかにしていただきたいと思います。
  76. 井本政府委員(井本台吉)

    ○井本政府委員 私ども調査いたしました概数を申し上げます。少し統計が古くなりますが、昨年の十月現在におきまして、全国売春業者の数は二万九千三百六十五でございます。業者の数でございますから、大体この数に該当する娼家があると私は考えております。
  77. 高橋(禎)委員(高橋禎一)

    高橋(禎)委員 そこで先ほど長戸君から説明のありました検挙及び起訴に関する数字ですが、この二万九千三百六十五件を一応数字にふんでおられる。その法務省で、勅令第九月の違反事件というのは、一体一箇年にどのくらい検挙され、処罰されておるわけですか。
  78. 井本政府委員(井本台吉)

    ○井本政府委員 本年の統計ができておりませんが、昭和二十八年度の勅令第九号の二条の方の関係の受理件数が一千五百九十五、このうちで六百八十八件が起訴になつております。二十七年も申し上げましようか。
  79. 高橋(禎)委員(高橋禎一)

    高橋(禎)委員 それでけつこうです。そこで加藤法務大臣に今度はお尋ねするわけですが、約三万のいわゆる売春業者といわれるような人があるわけです。そのうち一箇年に起訴されておるものが七百件に満たない。こういうのです。あとは一体どういう事情でこれが検挙されないのか、処分されないのか。法律がちやんとあつて、しかも目の前に約三万件のものがころがつてつて、しかもそのうち六百八十八件程度のものしか起訴できない。それは一体どういう事情か。そこのところをひとつ法務大臣なり、法務大臣が御答弁がむずかしければ、井本局長あたりからでもいいですから、はつきりと説明していただきたい。
  80. 井本政府委員(井本台吉)

    ○井本政府委員 ちよつと私先ほど数字を一段読み違えました。総受理件数が一千四百八件で、起訴になつたのが六百二十八件でございます。受理になりましたうちで、この統計を見ますと、不起訴処分が二百七十五件、それから中止、移送が三百三十一件となつております。おそらく娼家の数といいますか、売春業者の数に比較いたしまして、検挙いたされました数が減つており、また起訴の件数も少くなつておるというのは、私の推定でございますが、検挙に当ります手の関係と、証拠が集まらなかつたということが、かような数字になつたということに私は考えております。
  81. 高橋(禎)委員(高橋禎一)

    高橋(禎)委員 証拠が集まらなかつたといつても、犯罪捜査に着手すれば、着手した事件というのは、これは検察庁へ送付されることになつておるのでありますから、もし着手されたのに、証拠が集まらなかつたとしても、この件数の中には入つておるべきものなので、捜査に着手したものが一箇年に千四百八件ということでありますから、これは争えないことだと思います。もしも捜査に着手して、捜査しておるにもかかわらず、検察庁にこれを送付しないでいいかげんにもみ消しておるということであるならば、これは検察当局にとつて大きな責任であると思います。よもやそういうことはないであろうと思います。そうすると人手が足らないから、捜査ができないのだ、こういうことの疑いが一つあるわけであります。一体法律があつて、目の前に多数の犯罪の疑いのある者がころがつてつて、ただ警察官の手が足らない、検察官の手が足らないといつて、こういうふうに三万件近く――これは私は疑いは濃厚だと思います。それをころがしておくというようなことじや、これは法律を執行する責任のある当局の態度としては、私はとうてい見のがすことのできない問題であると思う。むしろそれよりもほかに、証拠がないからとか、手が足らないとかいうことではなくして、何かそこに一般の輿論だとか、また捜査当局で考えておる常識だとかいつたようなことで、とうていあれは検挙すべきものではないので、放任してくおよりしかたがないのだというような事情でもあるのじやないかと、こう思えるわけであります。いま少し正直に、と申しますのは、勅令第九号ですらほとんど守られていないというような状態から、解決つけて行かなければ、とてもこれから加藤法務大臣が抱いておるような大理想を、法律規定によつて解決して行くということは、夢みておるような話であつて、現に今法律がある、それもほとんど死法と同じようになつておる。それをただ放任しておいて、しかし自分はこういう理想を持つておる、これを解決するための熱意を持つておる、解決いたすといつても、それでは受取れませんから、そこの問題は、どういう事情で検挙しないのか、検挙しないでほうつておくことがいいと思つておられるのか、やむを得ないと思つておられるのか。そこからまず出発する。それすらはつきり政府当局が御説明がないというなら、この法案審議には一歩も前進できないし、また政府は何らこれの解決に協力をする誠意があるとも思えないということになるのであります。それをひとつお伺いいたします。
  82. 井本政府委員(井本台吉)

    ○井本政府委員 売春行為それ自身は、白昼公然とやつておる犯罪ではございませんし、家の中でひそかにやるというのが売春の特質でございますから、これに対する証拠収集というのが非常に困難でございます。その嫌疑がありましても、証拠の収集ができなければ、事件にならないのでありまして、手をつけるまでに相当の内偵をいたしたり、あるいはいろいろの証拠の収集の手段を講ずるわけであります。その結果検挙されて事件になりましたのが千四百八件ということになるのでありまして、この現われました事案については、私ども今これを放任しておるとか、放擲しておるとかいうわけではございません。要するに事件として証拠が十分集まらなかつたということに帰着すると考える次第でございます。
  83. 高橋(禎)委員(高橋禎一)

    高橋(禎)委員 井本君の答弁は、どうも井本君らしくもない。政府委員の責任として、一応こういう説明でもしなければ、もうほかにやりようがないから、形式的に言うのだというふうにしか実は思えないのです。もつと率直に――これはもうどこの家も区別はないのです。犯罪の嫌疑がないなどと言つたら、世間の物笑いになる。そんな検察当局、そんな警察当局であつたら、世間は信用しない。無力扱いにする。これは私は警察当局あるいは検察庁権威のために、そんなことはありつこないと思うのです。だからもつと深い事情があるわけなんです。それをひとつ正直に言つてもらつて、そこから解決して行く。それから先は政治問題です。それから先が加藤法務大臣の仕事だと思うのです。それをあなた方がいいかげんなことでごまかして行くと、加藤法務大臣は仕事をやるにしてもやりようがないから、井本君は正直にひとつ、警察はこう考えておる、検察庁はこう考えておる、これはしかたがないのだ、こういう事情なんだ、これをぶちまけなければ、とてもこんなやかましい法律をつくつたつて、おそらく実行されないでしよう。法律だけつくつて、しかも下手に運用されたら、この法律を施行して処罰を受ける人の数は、女性の方が多くなると思うのです。というのは、売春、春を売るという職業的なものは出るけれども、まさか買う方の買春の業というのは、出て来ないのです。どうしてもこの法律を施行すれば、女性の方が多く処分されるような立場になるのです。また実際は法律を運用するところにむずかしい面が起るのであつて、これはどうも不公平で、枚挙もできないということになつては、せつかく法律をつくつても、死んでしまつて実行されない。実行されない法律をつくるということは、私はいろいろな方面へ悪い影響を及ぼすと思いますから、ほんとうに政府はこの問題を解決する熱意があるならば、今存在しておる法律はつきり生かして実施する熱意があるかどうか。それは井本君の苦しい立場はわかるのですけれども、いいかげんな形式的な言いのがれを言つてつたのでは、信頼を失うことになるのですから、どうでしよう、その事情を正直におつしやい。かつ加藤法務大臣は一体これについてどういうふうにお考えになるか。これはほんとうにみんな協力して解決をつけなければならぬ問題なんです。一足飛びに絶滅だとか激減させるということは、私はなかなかむずかしいと思うのです。そのくらいのことはわかつておるのですけれども、この問題を解決するための糸口をつくり、そして一歩ずつ前進をして行くという態勢をとらなければならないと思いますから、そこはひとつ率直に事務当局及び加藤法務大臣の所見を伺いたいと思うわけです。
  84. 井本政府委員(井本台吉)

    ○井本政府委員 高橋さんは私の先輩でありまするし、検挙の実情というようなことはよく御承知なので、私からお聞きにならなくてもおわかりのことだと私は考えるのでございますが、この売春処罰関係は、勅令九号のみならず、全国でもいろいろな条例が出ております。これをある程度厳格にやれば、売春禁止の目的を相当程度達し得られるのでございます。私はそう考えております。ただ先ほど申し上げましたように、取締りをする警察官の手の関係、あるいは検察官の手の関係もありますし、また事柄自体がそう簡単に検挙できないようなことが、実際としては多いのでございます。従つておのずから重点を置きまする場所が、非常に人の目につく場所でやつておるとか、あるいは学校の周辺でそういうことが行われたとか、とにかくさしあたりどうにもほつておけないというようなものから、手をつけてやつておるというようなことで、かような少い数字が出ておるのでございまするが、もつと手が十分になり、この方面に専念いたしますれば、検挙数ははるかにふえる、かように考えておるのでございます。さようなことで、別に手心を助えて、どこをどうするというようなことは考えておるのではなくて、証拠の収集の関係、これを検挙しますところの関係、さような点でかような数字が出るということを御了承願いたいと考えるのでございます。
  85. 高橋(禎)委員(高橋禎一)

    高橋(禎)委員 私は検察庁が手心を加えてなどということは考えてはいないのです。とにかくさじを投げたかつこうだと私は見ておるのです。そこで加藤法務大臣お尋ねするのですが、今申し上げたような実情なんです。これは赤線区域なんかに行つてみれば、勅令九号の事件として検挙しようと思えば、証拠の収集がむずかしいとかなんとかいう問題じやない。やはり手が足りないとか、あるいはその他の事情でしよう。ともかく検挙できない状態なんです。それを一体加藤法務大臣は、手が足りなければ手をふやし、あるいはまたそれが検挙できない他の事情があるならば、その問題を解決するとか、あるいはまた検挙することによつて業者が生活に困るとか、転業しなければならぬとかいうような大きな問題があるときには、これもまたその裏づけとしてどういうふうに対策を講じて解決をつけようかとか、そういう問題をまじめに解決して行くという方法について、今どういうお考えがあるかどうか。しかも今一応御意見を伺つて、そうしてこれは重大問題ですから、熱意があるなら、さつそくまた次の委員会までにでもよく研究して、この問題をこういうふうに解決をつけようと思いますということをこの委員会はつきりされれば、それだけでも多少でも希望が持てるようになる。また政府熱意も認められるようになる。それが私はひとり婦人の方々のみならず、全国民に対してこたえるゆえんだ、こう考えておるわけです。こういう現在ある法律すら死んでしまつておる状態、これについて加藤法務大臣はどういうお考えをお持ちになるか、お伺いをいたす次第であります。
  86. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 これがこういう勅令第九号があるにかかわらず、起訴したものが、わずか事案が起きたものが千四百何件ということであるのでありまして、ただいまの高橋委員のお説のごとく、この勅令はほとんど死文同様になつておると言つてさしつかえないような状態であります。私は今度売春対策協議会をつくつて、あらゆる方面から総合対策をしなければならぬ。というのは、ただいまの勅令が死文になつておるようなことになりまして、またこういう売春法律をつくりましても、これが死文になるようなことでは相済まぬと思います。たとえばただいま未成年者飲酒禁止法、未成年者喫煙禁止法の法律が現に存在しておるにかかわらず、そういうものがあるという名ぐらいは知つておりますけれども、これが励行されておりません。まことに法の権威の上から悲しむべきことでありますがゆえに、ただ着手を早くするということだけで、死文になりましてはどうか、こういうことを考えておりますがゆえに、いわゆる総合的対策ということはここにあるのでございまして、また一層勉強をいたしまして、できるだけ時代に適合し、その法律が実行されて、かような勅令九号のようにならないようにいたしたい。それには全体の総合対策を立てなければならぬ、かような意味で先般来申しておるのでございます。
  87. 高橋(禎)委員(高橋禎一)

    高橋(禎)委員 今法務大臣もおつしやつたように、勅令第九月はもう死文同様なものになつておる、こうおつしやる、それはその通りなんです。そこで私は今の法務大臣答弁は他を言われたようなふうに受取るわけですが、この勅令第九号が死文になつておる、しかし勅令第九号を生かして、これを法律の精神に従つて運用をして行くことについては、これは加藤法務大臣に責任がある、あなたが最高責任者なんです。そこで最高責任者である加藤法務大臣は、その死文になつておる勅令第九号を生かして行かなければならぬ責任があるのですから、どういうふうにして生かして行きますか。どうせこれは法律として価値がないのだから、勅令九号はとても実施できないから廃止してしまうというお考えなのか、あるいはこういうふうにしてこの勅令第九号を生かして行こう――せつかくある規則が廃文にもひとしい状態になつておる、それをそのまま放置しておいて、しかも売春問題については高い理想を掲げて、そうしてこの理想を現実に即して実現して行く熱意があるのだ、こうおつしやつても、これは人はほんとうにしないわけですから、勅令第九号を生かして行かれるのについて、今どういうお考えでおありになるのか、それについてお尋ねをいたします。
  88. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 これを生かして行くことなどが、やはり対策協議会の趣意でありまして、すべてそういうものを包括して行きたいと思う。先刻来何でもそこにほうり込むかというお話でありますが、すべての問題を総合的にそこでやつてもらうつもりで、こういうこともまた私はさらに注意いたすつもりであります。
  89. 高橋(禎)委員(高橋禎一)

    高橋(禎)委員 私は加藤法務大臣はつきりした答弁をなさるのは実に苦しいと思うのですよ。苦しいけれども、苦しいことをおつしやらなければ問題解決の方に向つて第一歩を進めることができないのです。やかましい大きな立法をやらなければならぬという状態にあるときに、現にある法律すら死んでしまつている。これを死なしてはならないのが輿論であるはずなんですが、死んでおるものをかかえておつて、それを活用する責任者が、これをどうしていいかさつぱりわからないというのでは、どうもわれわれとしては悲観せざるを得ないわけです。どんなに加藤法務大臣に好意を持つても、どうもこれではたよりにならぬ、こういうことになりますから、言いにくいところも大胆におつしやつて、これからひとつ研究して解決をつけて行こうじやないですか。私はこういう気持でお尋ねをしておるわけですから、きようおつしやることができなければ、この次の委員会でもいいのです。私はまじめな実質的に解決して行く方法をひとつ自信を持つて、責任のある態度でもつてお答えが願いたい、こう思うのです。
  90. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 ただいま高橋君の実情に即した御質問でございますが、今の勅令九号も、目に余るものはどんどんと励行して行きたいと私は思います。私が先刻来申し上げることは、元来上すべりの法律ではだめだ、いくら理想がりつぱでありましても、実情に即さない、上すべりの法律をつくりましても、未成年者のタバコ禁止の法律、未成年者の酒禁止の法律のようになりましては、これはただつくつた方はこれで満足されるかもしれませんが、これが励行されなければ何もなりません。すなわち時代に即せぬ、上すべりしているということでございます。それで今後は、私が先刻来申しますることは、できるだけ上すべりのせぬ、実情に即した法律で行きたい。それでただいまの御質問に対しましては、勅令九号は、目に余るものは今後これを励行いたして行きたい、こう思つております。
  91. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 ちよつと私井本刑事局長に伺いたいのですが、今の勅令九号違反事件は、二十八年度には何件ありますか。検挙して、処罰した件数です。
  92. 井本政府委員(井本台吉)

    ○井本政府委員 先ほど申し上げました通り勅令九号の二条違反は千四百九十八件、そのうち起訴になりましたのが六百二十八件であります。九号三条のほかのは別に統計が出ております。
  93. 小林委員長(小林錡)

  94. 山下委員(山下春江)

    山下委員 先ほど大臣がおみえになりませんので、大臣に対する御質問を次にまわしておきましたので、ちよつと簡単にお願いをいたそうと思うのであります。  いろいろ同僚婦人議員の非常な御熱誠及び高橋委員等から非常に貴重な御質問がございましたので、私言葉を添える必要はございませんが、先ほど大臣がおみえになりませんから、三浦政務次官に、対策協議会の議がまとまらないでも、この法律法律としてお扱いを願えましようか、どうでしようかとお尋ねいたしましたら、――これは政府に対する質問でございますと申し上げたのですが、これは議員提出だから、対策協議会の議がまとまる、まとまらないは別として、進めらるべきであろうと考えるというような御答弁のように承つたのであります。ただいま大臣から伺いますれば、対策協議会の議が相当練られなければ、これを一方的に進めるということが困難のように承つたのでありますが、そこで私は政府にお願いをいたしたいのであります。  今日、敗戦国は日本だけではございません。昨年私はちようどドイツをまわりまして、わずかな時間でございましたが、私はこの点に非常に留意してドイツの各地を見たわけであります。ドイツは御承知のようにまだ占領下にございます。われわれは敗戦国が当然のごとく受けなければならない社会悪と申しますか、必要悪を長い時間認めて参つたのでございますけれども、ドイツへ行つて見て非常に驚きましたことは、朝、夜が明けてから人間が寝てしまう十一時過ぎころまで、いろいろな都市で私は気をつけて見ましたけれども日本における状態のごときものを発見いたしませんでした。それはドイツ政府の行つておりますいわゆるこういう問題が起らないような総合施策が確かに日本より進んでおります。けれどもそればかりでございません。日本におきましては勅令九号が二十二年に出ておりますのに死文同様ということでございますが、法律は何年前に出ましてもそれは守らるべきでございます。本法律にもおしまいに附則として、本法律が成立すれば勅令九号は廃止すると書いてございますが、私は今日の日本情勢は、この法律が成立したならばこういうことが絶滅するとか、あるいは急激にこれが少くなるということを、われわれといえどもただちに考えておりませんし、予算を伴いませんこの法律は、非常に一方的な処罰だけであることもよく了承いたしておりますけれども、少くとも今日、日本も平和国家、文化国家といたしまして、このように売春が目に余る状況にあるにもかかわらず、しかもこのことに属される若き女性あるいは青年男子に対する法律さえない日本状態におきまして、放逸に流れるというようなことをわれわれが黙視しているということは忍びないのでございますので、いろいろな欠陥もございましようから、本委員会におきましてこの法律案が完全になるよう修正し、よりよきものにいたすべきでございますけれども、とにもかくにも日本でもそういうことはしてはならない、悪いのだということの法律を一本持つということは、いろいろな議論に優先したよいことであつて、決して悪いことではない、マイナスではないのでありますから、欠陥もございましよう、不完全な点もございましようと思いますけれども、せつかくの日本女性の悲願であり、われわれ議員も黙しがたく、ここに打立てんとするものでございますので、委員会の時間の許す限り、よりよきものにして、この法律だけはぜひ日本の現在の状態に一本こういうものを打立てておくことが、どの角度から考えてみても必要だと思いますので、そういうふうにお運びを願いたい。協議会結論は、私ども想像いたしましてもなかなか急速には出ないと思います。のみならず、ことしの一兆円予算決定後におきまして、補正予算ということもそう安易に考えられない今日におきまして、理想的なものを打立てるということの非常に困難な情勢考えましても、とにもかくにもこれを推進して一本法律を打立てるということに御相談御決定を願つてぜひ進めていただく、それに対してのお心構えをお漏らし願い、御協力を賜われればたいへんけつこうだと存じております。
  95. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 私は、先刻来申し上げますように、政府としての提出はなお熟しておりませんがゆえに、とこう申しておりまするが、議員自体が議員の権能において御提出になりますことは当然なことでございますから、これをあえて阻止するか何とかいう考えは持つておらないので、これはひとつお含み置き願いたいと思います。私はこういう売春法案に関しては、女子の方のみならず、男性みずからが自粛することが一番大事な問題だと思うのでありますが、これがややともすれば、女性の方が真剣になつて提出になるのに、一般世の中の人は、冷笑とは申しませんが、やや言葉を露骨に申せば、冷やかな軽蔑な目をもつておあいきように見ておるということは私はなはだ遺憾だと思つておりまして、この機会に皆さんも世の男性に向つて強き刺激、強き警告を発せられんことを希望する次第でございます。
  96. 高橋(禎)委員(高橋禎一)

    高橋(禎)委員 先ほどの問題の続きなんですが、加藤法務大臣はこういうふうにお考えになつておるのじやないかという疑問を持つたのです。先ほど来の答弁で。というのは、未成年者に対する禁酒、禁煙、取締りに関する法律とかあるいはまた勅令第九号は上すべりの法律である、これは現実に即さない法律だから実行ができないのだ、それは死文になつておるようなものであるからこの際どうにもならないのだ、こう思つておられるのではないかと思うので、その点はどうですかとお尋ねするわけです。またそういうふうな考えの起るのも確かに一つの理由があると思つております。そこで、もしもそんな上すべりのものであり現実に即さないものであるというふうにお考えになるなら、それではそれをどう現実に即するように改めて行こう、新しい立法をしようかというお考えがなければならぬわけです。それについて第二に御所見を承りたい、こう考えます。  立つたついでですからもう一つお尋ねをして、これが前進しなければ解決がつかない問題ですから、本日は質問を打切りたいと思いますが、現実に即して、しかも実行できる問題として、私はこういうことを考えておるのです。これは売春対策協議会等へも問題を提供されて、ひとつよく研究してみていただきたい。そうして立案に当られる長戸君あたりも大いに参考にしてもらいたいと思うのです。というのはこれは若き男性の立場ちようどみんなが男の子を持つているというような考えでこの問題を考えますときに、私どもああいうことに経験を持たせたくない。すなわち、年の若い者に売春というようなことに関係しての経験を持たせたくない。しかもこれは、法律的にそうやかましく考えなくても私はできると思うのです。それならば男性も女性も異論はない、冷笑的ではないと思うのです。自分の子供にああいうことを経験させたくない。そうして、こういう対策を立てるのだといえば、もう非常な熱意を持たれて、この法律が生きて行くと思うのです。未経験者を入れない。これは相当長くかかるでしようけれども、五年なり十年なりを経過いたしますと、この問題は漸次解決がついて行くと思う。未経験者をどう取扱うか、あるいはまた業者の勧誘なり同僚の勧誘なりをどう取扱うかというようなことにやれば、これは案外実際は即した、しかも相当効果をあげ得る、こう思つておるのです。ところがそういうことも考えないで、ただ漠然とし一ぺんにぱつとなくしようとかいうふうに考えると、案外むずかしい問題になる、こう思うのです。問題を提供しておきますから、協議会等でよく研究をされて、この法案にもそういう精神を織り込み得るように法務省側から資料を提供していただきたいと思うのです。もつとも、私はそれだけで事足りるとは思いません。その他の問題もまた委員会で十分慎重に研究し、法務当局の協力も得て解決をつけなければならぬ。かくのごとく一つ一つ実行のできる効果的な問題について御検討を願いたい、こう思うのです。協議会に対して、法務省はこう考えるがこれはどうでしようかというようにやつていただいて、ただ漠然と寄り集まつてああだこうだと理想論だけとりやりしておつてはいつまでたつても解決つかぬと思いますから、具体的にこの問題の解決がつくように、しかもそれは実際に即したように、そうしてみんながそれを実行することが正しいのだと考え熱意が沸くようにひとつ努力願いたい、こう考えるわけでありますが、これに対して加藤法務大臣は一体どういうふうにお考えなんでございましようか。
  97. 加藤国務大臣(加藤鐐五郎)

    加藤国務大臣 勅令第九号が実際効果をあげないということは、高橋君御承知のごとく、証拠を集めることがなかなか困難だからであります。それで法律は実際的にしてまた効果をあげなければならぬということ、私が考えておるところもその通りでありまして、高橋君のお説の通りであります。そういうことをまた協議会に申し出まして、諸君の熱意のあるところを一層お伝えいたしまして、その効果のあがるような答申を得るように期待いたしておる次第でございます。
  98. 高橋(禎)委員(高橋禎一)

    高橋(禎)委員 法務大臣が今おつしやつた証拠の問題ですが、これははたに井本君や長戸君のような専門家がおるから、この際一応筋の通つた答弁をするにはそうでも言わなければならぬと思つて言つておるだろうと思いますが、それを加藤大臣らのみにしておつたらたいへんなことなんです。証拠なんか簡単なんです。証拠なんて何でもなくてとれるのです。それを加藤法務大臣は真に受けて、証拠の問題はそうかなと思つて感心しておられるかもしれませんが、それじや解決がついて行かぬということ、もつと加藤法務大臣自身考え答弁していただかないと、やはり事務当局事務当局で筋を通さないと運びませんから、そういう点はひとつお含みの上この問題解決のために、熱意を示されんことを要望して、本日の私の質問を終ります。
  99. 小林委員長(小林錡)

    小林委員長 高橋君から今要望がありましたように、資料をできるだけ整えていただきたい。ことに売春対策協議会に出された資料なんかもひとつできるだけ出していただきたいと思います。  本日はこれからまた本会議もありますからこの程度にとどめまして、明後二十四日午後一時から開会いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後一時四十一分散会