○林(信)
委員 過般
犬養法務大臣のとられた
指揮権の発動
行為の問題について、本日も同僚諸君よりいろいろ質疑が行われ、その
関係について、私も惹起せられました当初からはつきりしておかなければならない重要なものを含んでおるとこう
考えてお
つた一人であります。
従つていつやら猪俣氏の言われたような
与党の
議員なるがゆえにというような
立場にとらわれた問題でなく、言うべくんば司法の威信、法の解釈の問題よりいたして明瞭にしておかなければならないと
考えてお
つたのであります。従いまして、やや構想をまとめておるつもりでありまするが、ここに申し上げずに、一応私は
説明を加えて、結論的な点を伺いたいと思うのであります。
先般の
犬養法務大臣のとられた
捜査関係の指揮発動のことが異例であ
つたということは、
政府もこれをお認めにな
つておる。しかしながらこれは決して違法ではないというそのよ
つて来るところは、
検察庁法第十四条に明記せられるからであります。この点は私も異論がなく、おそらく何人も異論がない、かように見ておる。問題の焦点は、その行政的な
措置の
内容が妥当であ
つたかいなやの問題であると存じております。この点について、さきになされました
法務大臣の指揮が、個々の
事件に関し、しかもそれが政治問題に関したことであ
つただけに一般に少しく誤解されているのではないか、私はこう見ておるのです。先刻来の木下、古屋君らの
委員の言われたこともこれに牽連していると思います。それは、一般に
法務大臣の個々の
事件の取調べまたは処分は、政治問題であ
つて、かつ重大な政治問題に関する場合のみに限局されておるやの印象を一般に受けておると思う。確かにそれはあると思う。私はこの点を遺憾として来た。正直に言いまして、加藤
法務大臣も、本日もしばしば口に出されましたように、過去におきましても、その
措置の
基本をなしたものは、
国家的大所高所よりそうなされなければならなか
つたというような表現で御答弁になりました。もつともそれは必ずしも政治問題
関係に限
つてやり得ることをや
つたのだという
説明的なものではないのですけれ
ども、少くとも世間では、政治的
行為としてなし得るものをなしたというような印象を受けておると思うので、その点を明瞭にするため
お尋ねしたいと思うのであります。
一体その
基本にな
つておりまする
検察庁法第十四条それ自体には何もそんな区別はないということ、これははつきり言い得ると思うのです。他面
内容は別にいたしまして、人の面から
考えましても、その対象となりまする個々の人物が
総理大臣であろうと、各省
大臣であろうと、最高裁判所長官であろうと、
検事総長でありましようとも、大学総長でありましようと、
国会議員であろうと、財界人であろうと、また文筆人でありましようとも、市井の一般庶民でありましようとも、政党の
総裁であろうと、
幹事長であろうと、区別さるべきものではないと私は
考えておる。
従つてその個人の属する環境がいかなる階層であるやを論ずるものではないのであります。その重要なものは、及ぼす
影響が事政界に関するにとどまらず、学会でありましようとも、宗教界でありましようとも、また言論界でありましようとも、財界あるいは国際
関係等でありましようとも、いろいろな場合があるが、そのいろいろな場合を
考えまして、もし検察官が取調べまたは処分をなさんとすることが、これらの
関係において、
法務大臣の言われる
国家的大所高所より観察してきわめて重大なる事柄であるときた、それが
国家のために有害なる事柄であると確信するならば、
法務大臣は、
法務省の長といたしまして、自己の責任において、その信念と異なるところの検察官の取調べまたは処分を規制するということ、そうしなければならない場合があるということ、これは先刻から木下君の言
つておりましたように、人に差等をつけるのではなく、人とその環境、事柄とマツチいたしまするところに結論が出て来るのであ
つて、単なる人の問題と
考えたくないのであります。
元来
検察庁法第十四条のよ
つて来りまするものは、
法務省設置法の第一条、第二条にあると
考える。
検察庁法第十四条はあげてその
行為をいい、あるいはその中の事務云々の文言をあげて申しまするが、その
検察庁法のよ
つて来るものは何であるかと言えば、
法務省設置法にあると私は
考えておる。
ここにおいて
法務省設置法の第一条第二項に明記しておるところを見なければならぬと存じます。すなわち
法務省設置法第一条第二項には「
法務省の長は、
法務大臣とする。」と明確に掲げております。さらに第二条第一項には
法務省の
任務が掲げられておりまして、一より十一まであるのでありまするが、その第一に「検察に関する事項」をあげております。その検察に関する事務
法務大臣は
法務省の長としてこれに当らなければなりません。従いましてその
任務の遂行はもちろん責任をも
つて、時と場合によりましては畢生の勇を起して挺身も
つてこれに当る場合も思わなければならぬのであります。従いましてここに特に注意を喚起しなければならないと感じますることは、およそ責任のあるところ、無為にして責任を負担せしむるということは世の条理が許さないと思う。責任あるところには、その責任あるだけの権限は自然に与えられることが世の条理であろうと思うのであります。すなわちそのことが
検察庁法第十四条の
行為を知る上において重要なことであると思う。
法務大臣は
法務省の長といたしまして、そのための権限を有するとともに、そのための義務を負う。その義務遂行、言いかえまするならば、責任遂行の上においてその権利もあわせて勘案しなければならぬと思うのであります。
かような
関係よりいたしまして、
質問の要点は、
法務大臣は自己の持つその責任において良心的でありまする以上、今後
国会の
審議その他いわゆる政治問題というものに限られることなく、むしろ従来よりも、
重要案件については、場合によ
つては、個々の取調べの中止、
逮捕のとりやめ、起訴中止の問題が取上げられてもよろしいと私は信じている一人であるのであります。
要は、
検察庁法第十四条を取上げて、その十四条の
性格というものをここに明らかにしておく必要を痛感しておるものであります。
法務大臣の
指揮権の
性格は、政治的
措置ではなく、言うべくんば行政
措置であり、その行政
措置はあくまで
法務行政遂行上適切妥当なものであることはもちろんであるが、特に検察行政は正しい刑事政策の真髄に徹した
措置であらねばならぬ、かように確信するものであります。個々の
事件の
捜査に当る検察官、これを指揮監督いたしまする
検事総長、それぞれその
任務において、その職務の遂行は刑事政策の真髄に徹したものであらねばならぬということが、誤りないといたしまするならば、
法務大臣の職務範囲もこれを含み、ことに
捜査の
指揮権発動に際しては、ひとしく刑事政策の真髄に徹した
措置をも
つて当らなければならぬと思うのです。かような見地に立ちまするならば、先刻来論議されておりまする単なる政治的
行動として、
法務大臣を離れた一政治家としての
行動が、今回のとられた
措置ではなくて、
法務大臣それ自体の責任においてなされた
行為が今回の
措置であ
つたということ、それは現に
法律に根拠を置き、またその解釈において決して違法でないことは当然であり、私の述べまする見地に立
つてなされたものであるといたしまするならば、先刻来の疑問はないと私は
考えておるのであります。この点いかようなものであろうかと思うのです。あらためて申し上げるまでもなく、これは法の解釈の点において、今回の問題の
性格を定める上において重要だと存じますので、あえて
政府の御所見を承
つておきたいと思うのであります。