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庄司委員 時間も時間でございますので、簡単に三、四分間
法務大臣にお伺いというよりは、むしろ私は御懇談を申し上げて、御善処を願いたいという問題であります。その問題は、きのうのある大
新聞を見ますと、新日本海運株式会社取締役会長、古川何がしの
逮捕か送検かの問題についての
報道がございましたが、その表題は、「古川会長の前科暴露す」という題であります。古川という人が故意に自分の前科を隠蔽しておつたものがばれたというような
意味であるかどうかはわかりませんが、私のお伺い申し上げたい信念は、刑法第三十四条ノ二の改正の精神をあまねく全国民の間に普及徹底されたいということであります。刑法第三十四条ノ二は、あらためて申し上げるまでもなく刑の消滅であります。俗な
言葉で言うならば前科抹消法であります。この三十四条ノ二は、御
承知の通り、刑の軽かつた者は五箇年後に、重刑の者は十箇年後に、その期間において再犯、累犯等のない場合は、原裁判所における判決による刑は消滅してその
人間のいわゆる前科を一生涯許して行く、そうしてその
人間を善良なる国民として更生させる、司法保護の立場から善良なる
人間に立ち返らせて、職の上においても、あるいは子供の結婚の上においても、学校の入学の点においても、前科者という悲哀、社会の差別的待遇を除去してやる、そのあたたかい愛情のこも
つておる改正法であり、愛の条項であると私は考えておるのであります。私は昭和十九年より約十箇年間、この改正をすみやかならしめんがために
国会において努力して参りました。また地方においては約三十年いわゆる司法保護、釈放者の保護更生のために微力を注いで参りました。しかるにきのうあの
新聞を見まして、まことに義憤を禁じ得ません。古川鉄男という人は、もとより私は一面識もなければ何らの交際もございません。私はこの古川という人のためにこのことを弁ずるものではございませんので、どうか
誤解のないように願います。またこの
委員会の委責各位は、ことごとく超党派的に御理解と御同情をちようだいすることができ得る方々であることを深く信じますが、この際
法務大臣にお伺い申し上げ、結果においては御善処願いたいのは、せつかく刑法を改正して、元の古きずを許してやるその
法律ができており、全国には約六万人のいわゆる司法保護
委員を任命して、これまた
相当の国費を使
つておる。六万人の
委員というものは、まつたく献身的に働いて再びあやまちなからしめんがために努力をされておることは、
大臣よく御
承知の通りであります。もちろん強盗とか窃盗とか、すりの常習犯であるとか、そういう者であるならば、警察においても
検察庁においても、これは前科何犯であるというようなことを
新聞関係の社会部記者諸君に教えることも、あるいは社会の警戒のためによいかもしれません。けれ
ども、何十年前の古きずといいましようか、前科といいましようか、そういうあやまちのあつた
人間が、その後更生してまじめに働いて、いやしくも何十億という資本の会社の取締役となり会長に選ばれたということは、少くとも最近においては、非常に更生された正しい生活をや
つて来た人であると私は考えるのであります。今回の被疑
事件の
内容はもとより知りません。あるいは
検事が
起訴するかどうかということも
承知しておりませんが、この立法の精神、改正刑法の精神が普及徹底しないで、いまだにきわめて簡単に――しかもきのうの某
新聞のごときは、「古川会長の前科暴露す」というような、彼の過去の前科というものが何か恐ろしい社会的の警戒を要するかのごとき印象を与える
新聞の表題である。私は
新聞の諸君がプレス・コードを尊重され、
新聞にもまた倫理、モラルというものがあると考えます。ただ人の過去の弱点を爬羅剔抉して、しこうしてその人の子供の入学、結婚あるいは就職その他に大きな影響を与えるであろうところのそういうことを、簡単に取上げる
新聞の編集者の方々にも御考慮願いたいことは言うまでもありませんが、何らかの方法でこの刑法第三十四条ノ二の改正の趣旨を、たとえば
検事長の
会議であるとか、
検事正の会合であるとか、あるいは司法警察官の
会議であるとか、そうした御懇談の場合に、前科者を社会的にほんとうに保護してやるところの方途について、
法務大臣に直接
指揮監督権があるかどうか
承知しておりませんけれ
ども私は最近まで司法保護更生審議会の
委員をや
つておりましたので、特に
法務大臣の御配慮によ
つて前科者が保護されて行くように、三十四条ノ二の立法の精神があまねく普及徹底して、一たび誤
つて罪を犯しても、その後二十年、三十年た
つてりつぱに改過遷善、よい人に
なつたものはあくまでも保護してやる。今日は、五年、十年後、あるいは平和回復、大赦、恩赦等によ
つて多くの人が許されております。昭和十四年当時わが国の前科者は四百六十万人ございました。その八割のものは三十四条ノ二によ
つて許され、また爾余の大部分のものは恩赦、大赦によ
つてその刑が消滅し、抹消されたのであります。しかるにかかわらず軽々に、司法警察官や理解のない検察
事務官等が、
新聞記者などにその人の過去の古きずを平気の平左エ門で教えるというような誤つたことが万々一あるとするならば、司法保護の努力はまつたく無にされて行くのであります。私のお伺いといいましようか、私の信念から出発したるところのこの御
相談に、どうか
法務大臣乗
つていただきたい。これについてもし御感想なり御善処の方途があるならばお示しを願いたいと思うのであります。本日私は臨時に法務
委員をお願い申し上げて、あえてこの問題をとらえてあなたに御懇談を願うゆえんのものは――この法の精神があまねく普及し、社会問題化さないように、ヒユーマニズムの上より、釈放者といえ
ども、前科者といえ
どもこれを保護して行く建前のもとに、あくまでも
法務省は陰に陽に、ひとつ御善処を願いたい、この信念の上からお伺い申し上げた次第であります。私の
質問はこの一点で終ります。