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1954-03-12 第19回国会 衆議院 法務委員会 第18号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年三月十二日(金曜日)     午後二時二分開議  出席委員    委員長 小林かなえ君    理事 鍛冶 良作君 理事 佐瀬 昌三君    理事 田嶋 好文君 理事 古屋 貞雄君    理事 井伊 誠一君       押谷 富三君    林  信雄君       牧野 寛索君    三木 武夫君       神近 市子君    木原津與志君       木下  郁君  出席政府委員         法務政務次官  三浦寅之助君  委員外出席者         検     事         (刑事局参事         官)      下牧  武君         判     事         (最高裁判所事         務総局経理局         長)      岸上 康夫君         判     事         (最高裁判所事         務総局刑事局         長)      江里口清雄君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 三月十二日  委員吉田安君及び河野一郎君辞任につき、その  補欠として金子與重郎君及び中村梅吉君が議長  の指名で委員に選任された。 同日  理事吉田安君の補欠として高橋禎一君が理事に  当選した。     ――――――――――――― 三月十一日  裁判所職員定員法等の一部を改正する法律案(  内閣提出第九三号) の審査を本委員会に付託された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  理事の互選  交通事件即決裁判手続法案内閣提出第二七  号)(予)     ―――――――――――――
  2. 小林錡

    小林委員長 それより会議を開きます。  この際お諮りいたします。本日、理事吉田安君が委員を辞任されましたので、理事補欠選任を行わねばなりません。理事補欠選任につきましては、先例により委日興長において御指名いたすに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 小林錡

    小林委員長 御異議はないと認め、委員長においては高橋禎一君を理事に御指名いたします。     ―――――――――――――
  4. 小林錡

    小林委員長 交通事件即決裁判手続法案を議題となし、質疑を行います。質疑の通告がありますからこれを許します。林信雄君。
  5. 林信雄

    ○林(信)委員 この法案のねらいであります点、あるいは各条の点についていろいろ質疑もいたして、なお残つておることはあらかじめ申し上げてありますが、本日はちよつと方面がかわつておるのですが、いわばこの法律が成立するものと仮定いたしまして、その経費考えられなければならぬと思うのです。すなわちその予算関係がどう手当されておりますか。これを一応御説一明を願いたいと思います。
  6. 下牧武

    下牧説明員 検察庁関係におきましては、この法案実施のために特に予算はいらないと考えております。裁判所関係におきましては、裁判所当局の方からお答え願うことにいたしたいと思います。
  7. 岸上康夫

    岸上最高裁判所説明員 それではただいまお尋ねがありました交通事件即決裁判手続法実施に伴つて必要な裁判所としての経費の点につきまして概要を申し上げておきたいと思います。この裁判手続法実施されると仮定いたしまして裁判所側におきましては従来の略式手続でやつてつた場合と比べまして、今度の裁判手続法になりますと、裁判官法廷で調べるということになります関係から、裁判官の人手と、それに必要な法廷等設備が必要だ、こういうふうに考えまして、ただいま裁判所側におきましてその経費の見積りを一応いたしております。その概略を申し上げますと、まず裁判官増員十七名と、法廷が三十箇所必要となります。これは交通事件東京大阪京都神戸福岡という大都会に多く起りますので、そこでただいま申しました東京京都大阪神戸福岡の市にあります簡易裁判所で扱います事件昭和二十九年度の事件を推定いたしましてその事件を、この新しい即決手続法によつてやると仮定いたしまして、どれだけの裁判官増員法廷増設が必要か、こういうことで一応見積つた数字でございます。それによりますと、ただいま申しましたように裁判官十七名の増員法廷三十箇所の増設を必要とする。  そこでその費用の額でございますが、裁判官増員に伴う人件費の方は、俸給が千三百九十四万二千円、それから共通経費と申しまして退官退職手当とか、公務災害補償費、それから共済組合負担金等がありますが、そういうものを合せまして五十一万二千円という数字になります。なおそのほかに繰入費が八万五千円ということになりまして、結局以上を合計いたしますと人件費として千四百五十三万九千円ということに相なります。もつともこれらは一年間の経費計上してあります。  次に、物的経費でありますが、これは法廷を三十箇所と、それからそれに伴う設備として廊下その他の設備、それからさらに裁判官増員に伴う判事室十五室を増設する、そういうものの施設費、これが合計で一億一千五百二十二万九千円という数字に相なります。それから物件費の第二といたしましては、これらの新設された法廷に備えつける備品豊肥でありますが、これが三十室で合計千百一万円であります。それからなお裁判官人員増加に伴いまする一般の庁費といたしまして、百三十万二千円という数字になります。以上全部を合計いたしますと、総計一億四千二百八万円という数字に相なります。これだけの費用が、先ほど申し上げました大都会において新しい即決手続事件処理するのに必要な経費ということに相なるわけでございます。この経費につきましては、目下のところ二十九年度の本予算計上に相なつておりません。と申しますのは、事務的に本予算計上の際に、なおこういう法案内容が固まつていなかつた関係から、本予算折衝の際に間に合いませんでしたので、目下のところは計上されておらないわけでありまするが、その後裁判所といたしましては、大蔵省当局経費の点につきまして要求書を出しまして事務的折衝をいたしたわけであります。現にいたしておるわけであります。それに対しましてただいまの段階では、結局大蔵省当局裁判所の方におきましてある程度了解を得ました段階になつておるのでありますが、大蔵省の方といたしましては、現在ただちにこのための経費の支出を決定することは技術的にも困難な面がある。そこで将来さらに裁判所大蔵省当局とで折衝をいたしまして、この法案実施にさしつかえを生じないように最善の努力をいたすということに、両者間の了解がついておるわけであります。そういうことでございますので、その点をお含みいただきまして御審議を賜わりたいと存ずるのでございます。
  8. 林信雄

    ○林(信)委員 今の御説明の中の人的経費については異議は、ございませんが、第二の物的経費のうち予定せられますものは、東京簡裁関係京都簡裁関係大阪神戸福岡、これだけでありましようか。名古屋は予定せられておらないのでございましようか。
  9. 岸上康夫

    岸上最高裁判所説明員 この点は、私どもの力で二十九年度の事件を推定いたしましてその事件数と現在の簡裁法廷数とを勘案いたしまして、名古屋におきましては、このために特に増設する必要はない、なくても何とかやれるということに相なつております。ほかにもそういう類似のところはございますが、そういうところは全部除きましてどうしても法廷増設が必要だというところだけをあげましたのが、先ほど申し上げました法廷三十室ということに相なつております。
  10. 林信雄

    ○林(信)委員 物的設備についてですが、これは敷地は従来の簡裁敷地の適当な場所で大体行くのでございますか。それとも新たにこれから位置を予定しなければならないところもあるのでございますか。並びにいつも説明の中にありまする流れ作業的にということでありますると、たいへん部屋が近接していることの方が言葉にはぴつたりするわけなんですが、それほど近接しなくても、構内であればその目的、趣旨は達せられるわけですが、建物というものはいわば隣接的な設備をなさる御計画なんですか。どの程度の流れ作業的な事務考慮されて設備されるのですか、それをお聞きしたい。
  11. 岸上康夫

    岸上最高裁判所説明員 ただいまの法廷増設場所でありますが、現在の大蔵省に出しております三十箇所につきましては、それぞれ従来の簡易裁判所敷地内にできるだけのくふうをしてやりたいと思つておりますが、まず大体やれる見通しでございます。具体的な位置等につきましては、将来具体的な実施段階になりました際に、裁判所検察庁方面とももちろんよく打合せまして、最も事務的に便利な位置を選んで、そういうことを十分考慮の上建築実施をいたしたい、こういうふうに考えております。
  12. 林信雄

    ○林(信)委員 便利なように研究されてやられるということは、それでわかるようでありますけれども、便利だ便利だというので、あまり検察庁裁判所の限界のないような建物も実はどうかと思う。これは誤解する方が無理かもしれませんが、裁判所検察庁が同じ屋根の下だということで、とかくその間の関係に疑惑を持つた者もないことはなかつた。そればかりであつたとは思いませんが、現在では庁舎関係は截然たる区別を原則にして参つたのでありますから、その辺のこともやはり考慮に入れて設備せらるべきではないかということを思つたわけなんです。とにかく適当なる施設が望ましいわけであります。それとこの法廷関係ですが、これは下牧さんよりも何かの機会に説明があつたと思います。現在の法廷のような様式のいわば格式ばつたものでなくて、もつと気楽な気分で発言できるような、いわば円単式法廷をつくられるような予定のお話でした。それもけつこうじやないかと思うのですが、その構想でもきまつているならばひとつお示しを願いたい。といいましても、いわゆるひな壇式に一段高いところがないにしましても、出頭室等は別にいたしまして、検察官の席もあらかじめ設けなければならぬのじやないか、あるいは弁護人席も設けなければならぬ。そうすると、そういう席があつて空席の場合を一つ考えてみる。あるいは空席の形がおもしろくないということで純円卓式にしてしまう。何かそういう構想がすでにまとまつておりまするならば、これも参考までにお聞きしたいと思います。
  13. 江里口清雄

    江里口最高裁判所説明員 法廷でございますが、今のところ円卓式にするかという点についてはまだ確定いたしておりません。しかし従来のようないかめしい法廷ということでなくて、もう少しやわらかな法廷にいたしたいと考えております。
  14. 林信雄

    ○林(信)委員 先刻御説明大蔵省との予算折衝関係でありますが、お話のように、法案の準備が、明年度予算編成、少くとも文書作成に至るまでにおいて整わなかつたという関係から、事後において折衝せられる段階になることは、それは場合によつてあり得ると思うのであります。それがあまりにも大きな予算関係であつて見込みのない場合には、それは当然御計画にもならないのでございましようが、何とかなる場合は一応相談をして、その様子で御提案になる、これはそういう場合があつてよろしいと思うのであります。それにいたしましても、法案を出されますまでには、今言つた程度の内諾といいますか、大体の了承をさしたのだというくらいまではあつてしかるべきだと思うのですが、本案の場合は実はそこまでも行つていなくて法案の方が、参議院が正式提案であり、衆議院は事前審査程度かしりませんけれども、いずれにしても国会に御提案なつた。これは前例的にも、そういうことが法務省関係あるいは裁判所関係においてはあるのでございますか。それとも、異例だけれども、何大体いいのだという見通しでおやりになつたものなんでありますか。これは将来の関係もあると存じますので、この間の経緯をあらためて伺つておきたいと思います。  もう一点は、何でもその予算関係は、目で、これは裁判所でなくて法務省関係大蔵省と御折衝なつたものだと存じますが、この法案の実際から参りまして、検察庁はほとんど予算の増額を要しないという関係から、裁判所関係も同様に考えられて、裁判所に稟議あるいは内議等のことがなかつた。ところが実際は裁判所関係においては、ただいま御説明のような一億四千何百万円の経費が予定される。この間の取扱いですか、御連絡がたいへんまずかつたように思うのですが、事実がそうでないと言われるならば別ですが、そういうふうに漏れ承つておる。これではたいへんまずいと思うのであります。だから今ごろになつてあたふたしなくちやならぬのだと思うのですが、その辺の事情はどういうことであつたのでございましようか。  それから第三点としまして、御説明によつて大体大蔵省も了承したのだ、こう言われますが、それはいわばあなた方にまかしておつて十分だというのですか。それとも、この委員会においてもつとつつ込んで、もつと責任のある言質でも得る必要があるとお考えになりましようか、いやその点は引受けた、こういうことでお考えになつておられますか。以上三点について御説明を伺つておきたいと思います。
  15. 下牧武

    下牧説明員 予算関係でお手数を煩わしましたことはまことに申訳ないと存じます。それで、こまかいいきさつはいろいろございますけれども、この法案を作成するにあたりましては、裁判所とも、それから警察関係とも、検察の方面とも、十分最初から協議いたしております。ただその間事務的に齟齬がございまして――それはどちらに齟齬があつたかということは申し上げません、その辺で、ごかんべん願いたいと存じますが、事務的に齟齬がございまして、法案国会に提出されその前後にわたつてこの予算問題というものが起きて来たのでございます。そこで私どもといたしましては、どうしてもこういう予算を伴わなければ実施できないような法案をお願いしたということになりましてもまことに申訳ないことになりますので、その間裁判所当局とも連絡いたしまして、また、裁判所の方でも非常に努力をされて大蔵省とも御折衝をなさつた結果、大蔵省において、大体この法案実施にさしつかえのないように協力して考えてみようという程度に至つたわけでございまするそれで、裁判所都合を全然考えずに、検察庁だけの都合考えてこの法案をつくつたというわけではございませんが、この間の連絡齟齬のあつたことだけは重々おわびいたしたいと存じます。
  16. 岸上康夫

    岸上最高裁判所説明員 ただいま御質問の第三点でございますが、大蔵省との了解内容、これは先ほど申しました通りの結論になつておりますが、それまでには大蔵省の、主として主計局の正示次長といろいろとお話をいたしたところ、結局、額の点を幾らということは技術上の点その他の点があつて明言はできないが、しかしとにかく何とか実施にさしつかえないように努力したい、こういうふうに申しておるわけでございます。裁判所といたしましては、この大蔵省言葉を信頼して今後十分な折衝を続けて行きたいと存じております。ただ、その時期、額等については、これからの折衝に残されている問題でございますので、この点につきましては、法務省その他各方面の御援助をぜひお願いしたいと存じております。
  17. 林信雄

    ○林(信)委員 お答えは何となくすつきりしない気分がいたします。なかんずく、裁判所等予算関係の御折衝等について事務的な齟齬があつたというようなことも言われたが、しかしそれは、聞くなさとれといつたようなお話でありましてどうかと思いますけれども、いずれにいたしましても、すでに大体の措置がなされたというお話であります。ことに、これが基本的な人権の問題であるとも、あるいは法案実体に直接触れる問題であるとも考えませんので、この点はしいて重ねて質問することを差控えますが、もうすでにお感づきになつておられます通り、これらのことは、将来一種のまごつきをするようなことのないような、いわばふいにならないような十分な措置があらかじめなされるべきであつて、もちろん齟齬等があつてよろしいものではないと思いますから、将来の御注意は切にお願い申し上げておきたいと存じます。私の質問は一応これで終ります。
  18. 井伊誠一

    井伊委員 本手続を完全に実施するとすれば、経費説明書によると、一億四千万円くらい必要とする、これに対して大蔵省がある程度予算を与えるということに了解がついたというような御説明で、その内容はまだはつきりしない、額もはつきりしないというふうにお聞きしておるのですが、そういたしますと、人件費の方を減らすということはないでしようから営繕費であるとか、備品費であるとか、庁費であるとか、もしこのことが満足できないとすればそちらの方を減らして行くというお扱いでありますか。人も減らすことができるというお考えなんですか。
  19. 岸上康夫

    岸上最高裁判所説明員 ただいまのお話の点は、裁判所といたしましては今後できるだけ折衝いたしまして予算的に裏づけができました範囲から実施をして行きたい、と申しますのはこの法案実施されましても、従前の略式命令手続というものはそのままあり、二本建のようになつておりますので、人的、物的の設備がなくてどうしても実際上やれないという場所におきましては、法務省の方とよく連絡いたしまして、それができるまでは従来の略式手続方法でしばらくやつていただく、そして設備が完備し次第、全部についてこの新即決手続法実施して行く、そういうふうな方法で、実際問題としては予算関係とにらみ合せまして、場合によつては漸進的な方法でやつて行くほかはないのではないかというふうに考えております。
  20. 井伊誠一

    井伊委員 まず予算がなければ、何とか事実において縮少して、この実施は逐次やつて行くというお考えのようでございます。そうするとこれは実際は、それほど今年どうしてもやらなければならぬというようなものでなく、がまんすればがまんできるというようなことにも考えられるのでありますが、やはりまたこの法案の出る前に予算裏づけがないというようなことも、他の委員が指摘されたように、どうもこれはおかしい、こう私は思うのです。説明によれば、これはもう交通事故というものは激増して、これを処置するのにその煩にたえないというところから、結局は警察の手と検察庁の手というものでは持ちこたえられないので、それを裁判所の方へ移して行くという制度だと私は思うのです。裁判所のところへ行けば、これはどうしても丁重な公正な裁判ということが必要になつて来る。迅速ということを目的にすれば、どうしてもある範囲内でやれということであるならば、それはごくおそまつなことにならざるを得ない。迅速にしてかつ適正な裁判というものを望むならば、それは当然にその施設を拡大して行くということでなければ、処理方法はないはずです。ところが今のようにふえて行くことは刻々に増加して行く、一方予算は圧縮の傾向である、こういうことならばこれは行き詰まりになつてしまうのではないか、こういうことを私ども考える。この問題は理想通りの金さえあれば方法は立つと思うのですけれども、おそらくそれは許さないと思う。かりに金が許したところで、今の即決裁判制度というものには、それ単独でもなお考えるべき余地のある制度であると思う。これを新たにつくるということになるときには、どうしても裁判というものは非常に簡略になるということが起きて来るのではないかと私は考えるのですが、このものはどうしても急いでやらなければならぬという状態でありましようか。それをひとつお聞きしたいと思うのです。
  21. 下牧武

    下牧説明員 ただいまのお尋ねごもつともの点があるかと存じます。理想的に申しますならば、十分な予算をとりまして、そうしてこれで十分だというところでこの手続に移るということも考えられますが、やはり一挙にこの手続を実現いたしますためには、相当の予算がいります。国家財政の緊縮の折から、どうも無理をかけてまでというところまで注文をつけられないということでないかと存じます。そこで私どもといたしましては、この範囲で適宜にやる、そういう態勢を整えておいて、逐次国家財政の許す範囲において、人的にも物的にも施設を拡充いたしまして、そうしてそれに向けて行くという形をとつて行きたい、いわゆる漸進主義というふうに考えてお願いしたわけでございます。そこでその一切の設備、人の足らないところは、これはその範囲限度においてはこの手続は動いて参りませんけれども、ほかにたくさんこの手続で動くところがあるのでございます。それからまたそういうきゆうくつなところで十分とまで参りませんでも、半分だけでもこれが実現するといたしますれば、その限度において非常に裁判スピード化されるということになつて参りますので、やはりこれを一挙に予算とにらみ合せてやるということになりますと、むしろこのせつかく制度が無意味と申しますか、困難になる関係がございます。一日でも早く、徐々にそういうふうに持つて行くという態勢をつくつて、そうして発足いたしたい、かように考えたわけでございます。それから裁判スピード化について裁判が非常に簡易になるという点でございますが、これは一面通常の公判手続と比較いたしますと、非常に簡易化される今度の手続でございますが、これを逆に、現在行われております略式命令略式手続と比較いたしますれば、いろいろの範囲で慎重を期した――書類とか、あるいはその書類の送達とか、あるいは形式的な面においては、ごく簡略化いたしておりますが、事件実体を調査するという実体面におきましては、これは被告人裁判官が自己の面前において事実関係を確かめるという措置をとつただけ、これはむしろ非常な丁重化をいたしておるというふうに私ども考えております。そこで前々申し上げております通り、この手続はあくまで公判手続簡易化するという考え方でできておるものではなくて、あくまで公判前の手続として考えておる、言いかえれば、現在の略式手続実体的に丁重化して、形式的に簡易化しておるというふうに御了解願いたいと存じます。
  22. 井伊誠一

    井伊委員 急激に増加して行きます交通事故、これを一応増加しないで、現在のままにストップしたものと仮定いたしまして、これの処理に当る警察検察庁裁判所、この全体の仕事の量というものが、今度の制度によつてどういうふうにかわつて行くのであろうか。裁判所の方には、結局今この資料としていただいておるところのその経費に現われておると思う。これだけの施設は必要だとする、これがあれば当分処理ができるものだ。この処理は結局今までの趨勢から見ればこれだけのものがやはりあつたのだ。あつたものをこの仕事分量裁判所の方に結局移して行く形だと私は思うのです。そうしたならば、どこの方が減つて来るのであるか、その分量を減らすということは何のために減らすのであるかということであります。ふやすのはそれは裁判という形でもつて丁重にするために、略式よりはもう少し丁重にするんだ、こういうふうに考えれば、裁判の方はこの事件を丁重にするためであるということならば、これはわかるのであります。けれどもあまりふえて来て、警察官あるいは検察庁の方の仕事というものが渋滞してしかたがないというので、それを裁判の方の制度のところに移して行くのではないかというようなふうにも考えられるのです。そうするとはたしてこれは裁判の丁重ということがどうであるか――裁判というものは本来丁重にすべきはずのものなんであります。で、行政的な事務の方がふえて来る、それを裁判丁重の方に移す、それはいいけれども、当然その費用が増大して行かざるを得ないのです。そこで私お聞きしたいのは、その分量はどういうふうにかわつて行くのかということであります。
  23. 下牧武

    下牧説明員 お尋ねの点は、こまかく数学的に申し上げる資料をちよつと持ち合せませんが、概略の点を申し上げますると、警察の面におきましては、今まで何回も呼び出しております呼出しの手数が省けます。その場合に外勤警察官使つて呼出しをいたしますれば、その外勤警察官がそれに使うところの労力が省略いたされますし、それから書面で呼出しをいたしますれば、その書面の手数とその費用というものが省けて参ります。それから検察庁におきましても、あらためて事件の送致を受けてまた呼出しをするというその手数と、それからその後何回も重ねて呼出しをするという手数及び費用が省かれます。それからただ事件を取調べる実体につきましては、やはりこういう手続をいたします以上、検察官の取調べというものは慎重でなければならないと考えまして、従来通り慎重にやるべきものと考えております。それから裁判所へ参りましてからの問題は、御存じのように現在の略式手続では裁判官被告人に面接することがございません。それで略式命令を出しております。今回は被告人に面接した上で、事実関係を確かめて、即決裁判をいたすという点において、裁判官の労力は増加いたすと考えます。但し現在略式命令をいたす場合には、書記官あるいは裁判所の雇という裁判所裁判官以外の職員が、これは略式命令でよろしいという裁判官の指示がございますと、その検察官の請求した事実をそのままタイプに打つなり、ガリに切るなりいたしまして、そうして略式命令という裁判書きをつくつておるわけでございます。その労力とその費用というものがやはり省けて参ります。現在東京実施いたしておりますが、これは検察庁裁判所と十分連絡してやつております在庁略式という制度をとつておりまして、そうしてそれに仮納付をつけて交通事件処理スピード化するという措置をとつておりますが、そのときの現在のやり方を聞いておりますと、一人の裁判官裁判所の書記官が二ついております。そこへ検察事務官を二人補助につけまして、一人の裁判官処理する事件について四名の書記官あるいは事務官がそれに従事して、略式命令というものをつくつておるというような状況でございます。そういうふうな点の労力と費用というものは今度なくて済むことに相なります。それから今度その略式命令をいたしますと、ただいまの在庁略式のような場合は本人に渡しますからそれでよろしゆうございますが、通常の場合におきましては、その略式命令というものを被告人に送達いたします。これはやはり執行吏を使いまして送達いたします。その費用というものが相当かかつて参ります。それが今度所在が転々としておつてなかなか見つからないということになりますと、その所在を追究して、また何回も呼出しをかけて送達をするということで、この送達の費用というものがやはり相当かかつております。それが省けて参ります。それから今度執行の面でございますが、そういうふうにいたしまして略式命令の送達ができた。そこで不服がないということで十四日そのまま過ぎますれば、今度はその裁判が確定いたしまして、執行という段階になります。その執行のときにはやはり検察官の命令によつて執行いたします。納付命令というものを発行してやります。それを本人に届ける費用及び手数がございます。またそのときた本人の所在がわからなければ、そのあとを追究しているく探した上で執行して行くということでございまして、その全体の過程を通じて考えますると、裁判官の労力はお尋ね通り現実に増して来ると存じますけれども、そのほかの労力及び費用という点は相当節約されるのじやないか、それが一件の事件処理いたします場合に、平均どれくらい費用がかかるかという問題でございますが、この点ちよつと調査がなかなか困難で、はつきりしたことは申し上げられませんが、大体のところを聞いておりますのに、三百円から四百円くらいの程度はかかるように聞いております。それで罰金五百円とれば、収支相償うと雷つてはいけませんが、どうもそういうかつこうで、相当の費用がかかつております。その点は、見方によれば、なるほど裁判官の犠牲においてほかが楽をするということにはなろうかと存じますが、とにかく最初事件が発生してから執行が終るまで三箇月余かかつて非常な労力をかけておるその事件が、一週間足らずくらいの間に片づく、しかも費用も少くなるということになりますれば、その負担が裁判富にかかるということは、これは全体的に見てはむしろそれでもがまんしていただかなければならないのじやないか、かように考えるわけでございます。
  24. 井伊誠一

    井伊委員 総体的に見て、個々のものを総合してみなければ正確にはわかりますまいが、総体的に見てとにかく新たに裁判所設備を設けなければならぬのでありますから、裁判所の方の仕事だけ増加をしても事件は増加しない。現在のままだとしての話なんです。それだからそれだけで行くならば、やはり中間の方が仕事がどうしても少くなつて、そして裁判所の方で新たにそれを引受けるという形だと思う。そうしますと、私のおそれるのは、経費の方はそれはあるいは節約になる、時間の方の節約にもなるということになると思いますが、裁判所設備が今度できて行くということによつて、下部の警察の捜査面あるいは検察庁の方の捜査の段階が今までよりも少し手が抜ける、簡易になるという勢いで、ことに下の方からはそれが裁判所の方へ流れ込むという傾向を生じやしないかということであります。この設備が今まではなかなか行きがたいところがあるものであるから、下の方で何かやはり適当な処置をしているというので今の状態が続いているのではないか。それでも増加しておつて何とか処理しなければならないというのがこの法案の出るわけだと思うのです。そういうことが設備ができて来ると、下の方からぐんくと成績、点数というようなことで事件がどんどん上つて行くということになりはせぬか。そういうことが考えられるのであります。  もう一つお伺いしたいのは、こういうふうにして一時こういう制度を設けまして、まあ遅々としながらもこれを完成して行くことでありますが、おそらくはそういうことではこの交通事故の頻発増加というものを防ぐことはできないと思います。この根本的な処理はどういうふうにお考えになつているのか。今のはこれはほんの暫定的なものであるという。それはもちろん道路を整備するというようなこともお考えではありましようけれども、これは別の所管でありますけれども、これをこのままにしておいたならば、この終戦後の、ことに自動車の増加というものが一番多いと思います。そういうものが非常な勢いで増加して行くのに、ただここに苦しいところの予算でもつて裁判所を新たに設けて、そして人員を備えてみたところで、おそらくこれはもう数年ならずしてまた増加して行かなければならない。そうするとこれで方法がないということになると、交通事故のために、ことに簡易裁判所というものがしきりに増加して行かなければならないということだけであつて、行政の事件裁判所の方にだんだん結果を持つて来る。それで処理して行くというようなことになりそうに思うのであります。今はとにかく一応あまり状態がひどいので、こういうようなことが考えられたのですけれども、しかしこれではほんの暫定的なものになりはせぬか。これは将来は一体どういうふうになされるのか。このままであるということになると、これでは際限のないことだと思いますが、その点についてのお考えはどうですか。
  25. 下牧武

    下牧説明員 まず第一点のこの手続がもしできるということになると、警察の検挙が軽率になつて何でもかんでもこの手続で送り込むという弊害が出はしないか、こういうお尋ねだと存じます。これは私どもも非常におそれている点でございまして、かようなことに相なつてはまことに困ると考えているわけでございます。それでその点につきましては、警察の担当がきようは参つておりませんけれども警察の方といたしましても、交通事件に関する検挙主義というものは、これは現在でもそういう頭でやつていると思いますが、検挙主義というよりもむしろ予防主義というところに重点を置いているようでございます。それでこまかいことは所管でございませんからわかりませんが、私の聞いているところによりますと、やはり予防ということに重点を置いてそして警察官を動かしますとその実績が上つて参りまして、その事故が少くなるとかいうことが現に現われるというような傾向もありまして、将来の方向としてはいわゆる点かせぎのために検挙するということは絶対にやめなければならぬことであり、やはり予防主義ということに重点を置き、予防指導という面に努力をすべきものだと思います。それから第二点の行政措置と司法措置との問題でございますが、お説の通り行政措置の方に欠陥がございましてそこでどんどん違反の原因をつくつておりますれば、いかに取締りをいたしましてもその実効が上らないということはごもつともだと存じます。私どももなるほど行政措置と司法措置というものは両方相並行し、いわばたての両面として考えるべきものだとは存じておりますが、本来の性質といたしましては、行政措置においてまず十分の対策を講じて、そうしてそのこぼれを司法措置でもつてつて裏づけをして行くというのが本来の行き方かと考えております。その意味におきしまして行政措置の面まで私どもが品を出すのは、これはもう越権でございますけれども、聞いているところによりますと、やはり警察法におきまして取締当局として、道路の整備その他駐車場の設備にいたしましても交叉点における地下道の建設とか、そういつた面において関係方面と十分協議して、そうして交通警察の面からしていろいろの注文をつけているようでございます。それで本格的にその面を取上げられて実施されている面もあるやに聞いているのでございます。そういう意味におきまして行政措置というものを推進して行くということはもちろん大切かと存じますし、また警察当局でそういう方面で現実に動いているということも事実のように私は存じております。ただそれだからと申しまして行政措置が直るまで取締りの面を全然ほうつておいていいかというとそういうことには参りません。やはりこの両者というものは車の両輪のごとく相並行して行くべきものであろうと存じます。ただ検察庁におきましては、そういう行政措置の欠陥から生れ出る違反というものに対しましては処罰するかいなかという点、また処罰するにいたしましてもその程度というものにつきましては十分考慮しているという実情でございます。
  26. 木原津與志

    ○木原委員 この裁判手続法を自動車の運転手について意見を聞いたのですが、非常にこの法律をこわがつているわけです。なぜこわがるかというと、従来スピード違反だとかあるいはちよつとした事犯を起しても大概軽微なものだと一回や二回は警察が見のがして容赦してやつたというのです。ところがこれができればそのままひつぱつて行かれて裁判所でぴしやりとやられるというようなことで、免状も取上げられて、これから容赦なしにやられる。今までのように一回、二回大目に見てもらう、見のがしを受けておつたという状態がなくなつて来るというので、非常に恐怖しておる。運転手側に言わせれば、こういつた事故は、ただ単に自分たちの不心得だとかあるいは過失だとかいうような面にあるのではなくして、多分にいろいろな、今あなたのおつしやつたような道路の設備だとか、あるいは駐車場の設備だとか、対面交通の状態だとか、その他国家的に当然施設をやつておかなければならぬのをやつておらないがために、たまたまそういうような事態が起るのだ。それを片つぱしからこれでやられておつたのでは、運転手は浮ばれぬと言うのです。それで何とかこれが通らぬようにしてくれぬかというのが、運転手諸君の偽らざる気持だと思う。そういうことに対して一体どういうふうなお考えを持つておられますか。
  27. 下牧武

    下牧説明員 その点は、この法案の性質について誤解があるのじやないかと存じます。と申しますのは即決裁判――これは言葉が悪いかもしれませんが、即決裁判手続、こういいますと、それがあたかもその日違反を起したらすぐ裁判所へ持つて行かれてぽかんとやられる、こういう誤解を招いておるのではないかと思います。しかし私ども考えておる即決裁判手続というのは、そういうものではありません。自動車の違反を発見いたします。そうすると巡査がそこへ行きまして、こういう違反をしたが、大体いつごろ出て来れるか――大体非番の日が一日置きくらいに自動車の運転手としてもございます。そういう都合のいい日を聞いて、そうして二日後あるいは三日後にここへ出て来るようにというのでその日を指定して、そのかわり免許証を預かつて保管証を渡す。出て来るまではその保管証で運転もできれば、営業してもさしつかえない。そうして出頭いたしますれば、そこで今度は警察で訓戒にするものは訓戒にし、それから検察官に送るものは送致して行く。そうしてそれを受けて、今度検察官の方で調べて裁判所の方にまわして行くという形になるわけでございます。そういう形で裁判所へ行きまして、その日のうちにとにかくすべてが片づいてしまうということになりますので、検察庁裁判所に行つてから後がスピード化されるという形になつておるわけでございます。で、ございますから何でもかんでも今までのやつをかえて、こまかいものまで全部送つて行くというのではありません。  それからもう一つどの程度事件検察庁に送らせるかということは、これは検察庁の方できめるべき事項でございます。それでこの法案手続実施されるということになりますれば、この送致の基準を定める場合におきましても、検察官がある程度具体的な指示をいたしまして、警察の方に対してもあまりつまらない事件を送らせないように措置することになるかと存じます。そういうような面においてもある程度警察の動きをチエツクすることができることになります。  それからもう一点御了解つておきたいことは、交通警察の重点は、警察当局におきましても、先ほど申し上げました通り、検挙主義というものよりも、やはり予防指導という方面努力を払う、これが重点であるということで、各職員を指導しておるのでございます。この面においても、今度の手続実施されたからといつてすぐさま従来のやり方がかわつて、今まで二回、三回の注意で治まつていたものがすぐ送られて処罰されるというようなことは万々なかろうかと存じます。その点に何か誤解があるように感ずる。と申し上げますのは、先般参議院でやはり公述人の意見をお聞きたなりましたが、そのときに組合の代表として出て来た公述人の意見によりますと、その公述人は組合の全体を代表して申し上げるということでの意見でございますが、その際の言葉に、なるほどこの法案は――逐条解説を見られたのだと思いますが、何だか運転手の方に、お前の方のためにもなるからというようなことで、おためごかしのような形でこの法案をつくられたということについては、これはどうも腹にすえかねる、しかしながらこの手続の運営というものが高飛車に取調べをするとかいうような威圧的な運営をせずに、思うことを運転手が言えるような状況においてその運営がなされるのであれば、これに反対するものではない、こういうふうに私どもは聞いております。その点も十分衆議院におかれましても御審議願えれば幸いかと存じます。
  28. 木原津與志

    ○木原委員 今の点は、それで終りまして、いま一点だけお尋ねいたします。私どもが――これは私一人の気持かどうか知りませんが、この即決裁判手続法を見まして直感的に感じましたことは、一応この法律は現在の刑事訴訟法の特例というような形になつております。そうすると、交通事件が現在のところ一つのモデル・ケースというような形で、こういつた即決手続を一応やつてみて、もしこれがモデル・ケースとしてうまく行くようだつたら、ほかのいろいろな行政犯罪――交通事件に限らぬほかの特別法犯、こういつたようなものに対しても現在の刑事訴訟手続によらないで、こういうような裁判即決の方法を今後順次拡大して行くという当局の意思があるのじやないか。もしそうだとすれば、これはちようど戦時中刑事訴訟法の特例みたいな形でずいぶん即決的な、略した証拠調べその他について、あるいは判決書きとかその他に特例を設けましたね。そういつたようにこれがもし及ぼされると、この手続法の実施要領のいかんによつてはそういうふうになつて行くのじやないか。もしそうなつて行くということであれば、われわれはこれはどうしても現在の刑事訴訟法が国家機関の専断を押えるという意味において人権担保を目的とした重大な手続法でございますから、これをむやみやたらに略式簡易即決というような形に直されたのでは、これはたまつたものではない。そういうような意図が、私は邪推かもしれませんがどうもあるように感じますので、その点についてはつきりした当局の御意見をお尋ねしておきたいと思うのであります。
  29. 下牧武

    下牧説明員 ただいまの点でございますが、初めちよつとお断りしておきたいと思いますのは、この手続は、もう何回も申し上げておることでございますが、従来の公判手続簡易化するというのでは決してございません。従来、本人も調べずに、検察官が請求したらその請求したままで処罰を命じておつた略式命令手続、これを今度、その書類をつくるとか、そういうことを非常に簡易化するかわりに、実体面においては裁判官が一応被告人を前にして事実関係を確かめた上でやろう、こういうねらいでできている法律なのでございまして、私どもはあくまで現在の略式手続よりも丁重に取扱う、むしろ人権尊重の面を考えた、実体的には人権尊重の面に相なる法律だ、こう確信いたしておるわけでございます。その意味におきまして、もしこの手続実施されてその結果、これが非常にスムーズに行き、しかも人権の保障の面においてもさしつかえがない、また裁判所あるいは検察庁その他の機関においてもこれがスムーズに行くということでありますれば、その際にその実情とにらみ合せて、あるいはこの手続をほかに及ぼすということは考えられないことはないじやないかというふうに考えております。但しその範囲はあくまで現在の公判手続に乗せるべきものをこの手続に落してそうして処罰するというふうにして、現在以上に人権の保障が薄くなるというふうな方向においてはこの手続に乗せたくない、また乗せるべきものじやない、かように考えております。
  30. 木原津與志

    ○木原委員 さつきから何回も承つたのですが、略式命令によつたのを特に略式命令を丁寧にしたのであつて公判手続を簡略にしたのじやないというお話でありましたが、それは見ようによりまして、これも形は一応見ようによつて公判手続であるし、口頭弁論の体をなした一つの裁判だということが私は言えると思う。そうすれば私どもに言わせれば略式命令を重要化したのでなくて、公判簡易手続でやつておるのだ、それは比較的軽微な事件であるから、こういうふうにみなさざるを得ない。そこのところは根本的に考え方が違うのでありますけれども、一応これが形の上におきましても、公判手続を踏んでおるということによつて、これはあくまでも裁判簡易化と見なければならぬ問題じやないかと思う。またそう見なければ今、ごろ何のために、こんな二十五万からの略式命令事件があるのに、その略式命令事件をとり一層丁寧に取扱うためにこういう手続をするのだというのか、おつしやることは少し筋道が違うと思う。
  31. 下牧武

    下牧説明員 これが公判手続簡易化したというふうに、ごらんになつているようでございますが、この法律の第三条は、「簡易裁判所は、交通に関する刑事事件について、検察官の請求により、公判前、即決裁判で、五万円以下の罰金又は科料を科することができる。」こういたしてございます。これはまつた略式命令ができる範囲と同一でございまして、それ以上には出ておりません。そこで現在の略式命令というのは、ただ検察官の請求があれば裁判所被告人にも当ることをせずに、そのまま罰金または科料を科しておるわけであります。略式命令と申しますのがへ言葉はそういう言葉を申しておりますが、これはやはり一つの裁判でございます。ここにいう即決裁判というのも、これは即決裁判という言葉を使つておりまするが、やはり性質は公判前における略式命令と同じ性質の裁判である、かように法律上は相なると思つておるわけでございます。その意味におきましてこの手続が現在の略式手続を出すのにやみで出しているかわりに、本人を確かめてやるというだけは、この面においては実体的には人権尊重になることは明らかかと存じます。それからもう一点、そういたしまするとこの手続を丁重にするとは何事だというお尋ねでございますが、その点は先ほど来申し上げました通り、現在の略式手続によつて参りますと、事件処理が、最初事件が起きてから執行ができるまでに一件について平均百九日、三箇月余もかかるという状態になつてしからばなぜそんなに長くかかるのだろうというので、どこに欠陥があるかとのぞいてみますると、なかなか違反者が出て来ないという点と、それから複雑な書類をつくり、しかもその書類の送達に非常な手数を要する、また執行の面においてもその間に本人の所在が転々しておる等の事情によりまして、なかなか手数がかかつてそれが片づかないというようなことで、そうい延びのびの状況が出て参ります。それでこの際本人に迷惑のかからないようにしてこの出頭を確保し、しかも流れ作業式なやり方で、来た日のうちに一日でそれを片づけるような方向で考える、それで書類の作成というもの及び送達の手数というものを省くという点において、これは非常に大きなスピード化になるわけです。その反面書類が非常に簡素になつたりいたしますと、裁判所がその裁判を言い渡すについても支障を生じますので、その場合には一応本人を目の前に置いた上で事実関係を確かめて、しかも事実関係を確かめる場合におきましても、本人の自由一本やりではいけないのでございまして、あくまで何らかの傍証によつて自白を裏づける、そこで心証をとつた場合に初めてこの裁判を言い渡す、こういうことに相なるわけでございます。先ほど来申し上げています通り、形式はあくまで簡素化いたしまするかわりに、実体面を間違いのないように丁重化した、こういうふうに総合的におくみとりいただきたいと存じます。
  32. 木原津與志

    ○木原委員 だからそういう一応公判というような形で証拠調べだとかすべての弁論をやるのですから、それで片づけられる範囲をこれ以上拡大されるということになると、問題が根本的に人権の保障という問題とからみ合つて来ると思うのです。戦時中の立法でも今あなたがおつしやつたようなことをよくわれわれも言いもし聞きもしたのです。それが結果において人権の保障ということについて非常に遺憾な点が多かつたのです。それでわれわれは終戦後あくまでも人権尊重という立場に立つて、そうしてどうすれば被告人の基本的な人権を十分に擁護することができるかという立場に立つて、こういつた新しい刑事訴訟法を持つたわけなのです。その持つた刑事訴訟法を、今度片一方から公判前の手続という名前において一つ一つ剥脱されて行く、これも結果がよかつたから、あれも結果がよかつたからというので、公判手続の簡略というのでなくてこれは公判前の手続だという名前において広くこの制度を広げられるということになれば、刑事訴訟法でかち得た被告人の権利とか利益とかいうようなものも、最後には非常に狭められる、圧縮されて行くというようなことになるのを私どもはおそれる。だからあなた方がこれをモデル・ケースとして公判前の手続としてやつてみたが非常に結果がよかつた、またほかにもやるのだというようなお考えならば、私どもはこの手続法に反対せざるを得ないのです。片つぱしからそんなことをやつてしまつたら、刑事訴訟法は一つのモデルになつた刑法犯だけに限られてしまつて、そうして特別法犯は片つぽしから公判前のこういつた即決手続でやられてしまうということになるならば、私ども遺憾ながらこの制度に反対せざるを得ない。
  33. 下牧武

    下牧説明員 現在の公判手続で行つております事件をこの手続で行うということに相なりますれば、お説の通り人権の尊重を狭めて来ることになるかと存じます。しかし現在の略式でやられている事件――と申しますのは、何回も申し上げます通り本人にも裁判官が当らずに、検察官の請求だけによつて書面審理によつてつておる事件であります。その手続範囲をあくまでも出ずして、本人を一応目の前に置いて裁判官が確かめるというふうに持つて参りますことは、決して人権の侵害になることではございませんで、むしろ人権尊重の面の幅を広げることになるかと存ずるのであります。でありまするから、現存の公判手続で行われている部面をこの即決裁判手続に落すというようなことは絶対にいたしません。それから略式命令手続で行われている場合でも、この手続に乗せることが人権の侵害になるような方向においては乗せません。と申しますのは、一例をあげて申しますれば、現在の業務上過失傷害というのに罰金刑がございます。そういう場合にはやはり現在の略式手続でできるのでございます。しかし業務上過失傷害の事件、たとえば自動車の事故を起して人をひいたというような場合でございますが、そういう事件は非常に複雑なむずかしい事件でございまして、そういう場合はみつちり捜査しまして証拠をかためてやらなければなりませんが、そういう事件をこの手続に乗せようといたしまするとどうも無理がかかるのであります。やはり裁判官の面前において即決でやられることに異議がないという事件だけで、ほんとうに簡単な事件をスムーズに通すというのがこの法案のねらいでございますから、そういう事件は、かりにそれが略式手続で行われている事件でありましても、将来この手続に乗せるのは不適当でございます。そういう意味で、この手続に乗せることによつて人権の侵害になるというような仕方においては、この手続に乗せることはいたしません。  しかしながら一面また、ここに載せてございませんが、たとえば道路運送法あるいは道路運送車両法というようなやはり交通に関する類似の刑事事件で、ことさら落しているものがございます。しかもそれは形式的な犯罪、定型化されている犯罪で、そして事件内容も比較的簡単であるというようなものでございますれば、将来この手続に乗せることは、むしろ私としては人権の侵害ということじやなくして、プラスになるであろうと思う。またそういう場合に、それを乗せることが適当である場合には乗せてもさしつかえないのじやないかというふうに考えております。お説の通り戦時中におけるがごときああいう方向において、この法を濫用して行くということは絶対に慎まなければならぬことと存じますが、その面において、被告人の方においてもあるいは国の機関の面においても、全体がこれで便利になる、それでさしつかえないということになりますれば、その町で考える余地もあろうかと考えております。
  34. 木原津與志

    ○木原委員 具体的に申し上げますと、大体こういうような場合を私ども考えるのです。というのは、もう当事者が略式なら略式でやられても文句はないというものは、これはそのままいいのです。ところがそうでなくてこつち側に文句があるのだ、言い分があるのだというのを略式によらないでこの手続でやられる場合、よし裁判官の面前で弁解もしようというような事件が起る場合には、この被告人にとつては、これは法律公判前の手続だと言われるかもしれませんが、もうすでにそれが公判なのです。そういうような場合に簡単に簡易手続でさつとやつてしまわれると、そこに被告の防禦というような立場あるいは利益擁護というような立場に不完全なものがあるということを私は申し上げたいのです。それならば初めから略式命令を受けてそういう簡易裁判を受けぬように、正規の公判手続にしたらいいじやないかということになるかもしれません。りくつはまさにそうなのであります。しかし私ども刑事事件もやつても来たし、また弁護もやつて参りましたが、今の日本の地方の人たちは、東京あたりとは違つてまだ裁判そのものになじんでおらないのです。裁判を受けること国体が、その人たちにとつては問題なのです。手続の救済の方法があろうとかなかろうとかいうようなことは一切抜きにして、ただ早く済めばいい、なるべく軽くあればいいというようなことで、せつかく法によつて救済の方法が与えられておるのにもかかわらず、それをやろうとしないというのが現在の裁判の実情だと私は考えるのであります。あなた方もそういうような御経験があるだろうと思います。それで特に手続の上においては慎重にも慎重を期さないと、人権擁護というような立場において欠くるところがあるのではないかということをわれわれは心配するわけです。
  35. 下牧武

    下牧説明員 その点は、ごもつともだと存じます。私どももこの手続実施いたします上において、一番心配しているのはその点でございます。何と申しましても、今の日本の実情におきまして被告になりますと弱いものでありまして、裁判所へ出ただけでやはり圧迫を感ずるというようなことがあるわけであります。ただそれをどうして防ぐかというので苦心いたしたわけでございますが、まず第一にはやはりこういう手続説明するということが必要ではないかというので、第四条の第二項におきまして検察官がその旨をよく説明する。しかもこの即決裁判手続のほかに通常の公判手続で審判を受ける場合もあるし、略式手続もある。第四条第二項の「刑事訴訟法の定める手続に従い裁判を受けることができる旨」と申しますのは、通常の公判手続もあれば略式手続もあるということを告げた上で、さあそれで即決手続で行つていいかどうかということを確かめるという措置をとつておる。そういう手続をとつたということは、書類の上で簡単な方法によりたいと思いますが、何らかの形において裁判官にも反映させるという方法考えてみたいと考えております。  それからもう一つは第三条第二項でございますが、「即決裁判は、即決裁判手続によることについて、被告人異議があるときは、することができない。」と書きました趣旨は、これは取調べのいかなる段階を問わず本人が異議を述べたらもうこの手続ではやれないぞ、こういうことに相なりまするので、裁判所といたしますればせつかくこの事件をお調べにかかつたが、途中で文句を言われるということになればこの手続の最初にやつたものがむだになります。自然の動きといたしまして、裁判官が本人を調べる場合にはまずこの手続によることに異議がないかどうかということを当然確かめることに事実上相なつて参りますし、そこで本人が違反をしたについてはこういう事情があるのだということが出て参りまして、これではすぐ裁判を言い渡すには行かない、証拠調べもしなければいけないというような事情が出て参りますと、これはもうこの手続に乗せることが相当でない場合に該当いたしまして、またそういう場合でなくて、なおさらに一歩進んで、本人の方でこの手続でやつてもらつては困りますということになれば、これは法律上できませんし、また裁判官の判断においてこの審理が相当複雑になつて来るということになりますれば、相当ならずということになつて、これが正式手続に移るという仕組みにいたしてございます。  それからこの即決裁判の宣告をいたします場合にも、十四日以内に正式裁判の請求ができるということをあわせて告げるようにいたしてございまして、できるだけ本人の言いたいことをそのまま言わせるように運営したいという点で、運営上はもちろん、法律の上で相当考えたつもりでございます。それで先ほどもちよつと議論になつておりました通り法廷の形式をどうするかということにつきましては、いろいろ問題のあるところでございますが、私ども裁判所当局にお願いしている点は、なるべく本人の気づまりにならないような方法で、言いたいことが言えるような状況のもとにこの取調べをするように、法廷設備等もお考え願いたい、こういうふうに要望いたしておるわけでございます。その点は法律だけでは参りませんので、運用の上においても十分気をつけなければならぬ点かと存じます。
  36. 木原津與志

    ○木原委員 それではよくわかりました。  最後に私はちよつと数字を聞いておきたいのですが、この前本件の説明のときに、交通事件略式請求の数が二十五万と承つてつたのですが、二十五万の略式の中で正式裁判の申立てをしたのは何件くらいございますか。ちよつと数字がわかれば……。
  37. 下牧武

    下牧説明員 お手元に差出してございます資料の統計諸表というのがございます。その十六ぺ-ジをごらんいただきたいと思います。「交通違反事件についての検察庁別」そのイという欄に「通常手続調」といたしまして、昭和二十七年度の統計でございますが、二つ欄を設けまして、正式裁判の請求をした被告人数と、それから被告人からは正式裁判の請求はございませんが、裁判所が職権で略式手続相当ならずで正式裁判にまわした被告人の数というのをこの両欄にわけて書いてございますが、これが両方合計で二百六十九と四十、すなわち三百九という数字に相なります。しからば略式請求事件というのが交通事件についてどれだけあるかと申しますと、同じ統計諸表の十三ページ、二の口「交通違反事件検察庁受理処理累年比較表」この道路交通取締法違反の方の起訴の中に、略式請求という欄がございまして、この昭和二十七年度分二十一万一千九百四十六件、それから道路交通取締令違反で昭和二十七年度一万二千六百九十件、これを合計いたしますと二十二万四千六百三十六人という数字になる。これと、最初の通常手続調の三百九という数字とで比率を出しますと、概略〇・一%くらいの見当になるというふうに考えておるわけであります。
  38. 小林錡

    小林委員長 本日はこの程度にとどめておきます。明日は午前十時より委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後三時三十七分散会