○西脇
参考人 私も中泉先生と同じころですか、あるいは同じ日だ
つたかと思いますが、一番最初大阪におそらく原爆船から来たと思われるまぐろが入
つたから、
放射線が出ておるかどうか見てもらいたいという御依頼を受けまして、大阪の魚市場へ行
つたのであります。ところがそれより以前に私の先生方あるいは私の同僚とい
つた人々がすでに長崎及び広島における原爆後における灰の
放射能の測定に
行つておられまして、その結果として原子爆弾の爆発後二週間もたてばほとんど大した
ものではないということを一応聞いておりましたので、三月一日に爆発しまして二週間以上もた
つておる、しかもそれから運ばれて来たところのまぐろとい
つたものにまでおそらく
放射能は残
つておらないであろうと
思つて、半心半疑であ
つたのであります。ところが一応
行つてみようということに
なつたのでありますが、そのときにおそらくこれが原子爆弾あるいは水素爆弾の爆発による
ものであるとすれば、普通の非常に透過性のいいX線とかあるいは
ガンマー線と
かいつたような測定のしやすい
放射線以外に、測定にかかりにくい、
吸収されやすい、透過性の少いエネルギーの低いべーター線とい
つたものもおそらく多量に出ておるであろう、従
つて普通のX線、
ガンマー線用の計器をも
つてすれば測定を見のがすおそれがあるというので、応急にわれわれの方で特に低エネルギーのべーター線用計群、非常に透過性の少い
放射線を測定する計器を携持して行
つたのであります。そうしますと、
ちようど大阪の方のX線の先生で
放射線科のお医者さんの方が測定に
行つておられまして、ほとんど
放射線が出ておるか出ておらないかくらいである。まあ大丈夫であるという
お話で帰られるところであ
つたのであります。その
お話によりますと、大体あるとしましても、自然計数の一分間に二十カウント
程度である、そういうことを聞きましたときに、私自身といたしましても、初めからおそらく
放射線は出しておらないであろうと
思つておりましたから、ああそうですか、やはり
放射線は出しておらべいのですわと言
つたものの、
ちよつと気になることは計器の問題であります。一体どういう計器を使われましたかとい
つて計器を見せてもらいますと、普通の
エツクス線、
ガンマー線あるいはベーター線、――ベーター線はせいぜい非常に透過性のいい、エネルギーの高いベーター線しか測定できない計器であります。そこで私もおそらく出ておらないとは思いますけれども、せつかくこういう器械を持
つて来たのですから、念のために測定しで入ましようということで、再び市場の中へ行きまして測定をしたわけであります。そうしますと、一分間に二千カウントどころか二千カウントもひつかがで出て来たわけであります。これはたいへんである、私たちが
微量の
放射性物質を、
実験室内において非常に注意して取扱う場合においても、非常にむずかしい規則がありまして、一応実検室はタイル張りかあるいはスチール張りでできてお
つて、万一の場合洗うようにできておらなければならない、それから万一ガスとか塵埃とか
放射性の
物質が究気中に散
つた場合に、ただちにこれを室外に除外できるように通風装置が完備しておらなければならない、またこうした
物質を取扱う場合においては、必ず過去において
放射性物質を取扱
つたことのある経験者がついておらなければならない、それから万一
放射線の傷害を生じた場介に対処するために、こうい
つた方面の専門のお医者さんが判をついて保証をしておらなければならない、こうい
つた非常にむずかしい規定のもとに
放射性物質の配給を受けるわけであります。こういう配給を受けましてから
あとも、
アメリカあたりにおきてましては、非常に厳重な取扱い規則という
ものができておりまして、いやしくもこうい
つた放射性物質を取扱う室内には、食糧とかタバコとか化粧道具とかあるいはハンドバツクとい
つたような
ものを持ち込んではならない、いわんや
放射性物質で汚染されておるということのわか
つておるような
ものは、食
つてはならないということは一応常識に
なつておるわけであります。こういうことを一応知
つておる
ものでありますから、これはたいへんだ、とにかくこの
程度放射線が出ておれば、おそらくこのまぐろ一匹についておる
放射性物質の量という
ものは、われわれが注意して
実験室内で取扱う
放射性物質の量に比較いたしまして、まさるとも劣らない
程度であるだろう、こういう
ものが全然過去において
放射性物質という
ものを取扱
つた経験のない魚屋さん、しかも
放射線という
ものはどういう
ものであるかというようなことも全然知らない魚屋さんが、か
つてに取扱うということは非常に危険であるというので、その旨を大阪市の衛生局の方に申し上げまして、一応引揚げたわけでありますが、とにかく大阪で運ばれて来て、おるまぐろにでも、これだけ
放射性物質がついておるのだから、おそらく現地ではたいへんたことだろうと
思つて、一応現地へ行
つたわけであります。
焼津の駅から港の船着場まで五分ぐらいでありますが、その行く途中におきましても、われわれはこういうように精密な計器を、応急に携帯用として電池に切りかえて行くのだけれども、船についておる
放射性物質の量は、これから推定をしておそらく実に英大な
ものであろう、そうだとすればせつかく行くのだけれども、船に入ることはもちろん、船に近寄ることもできないのじやないかと思いながら行
つたのでありましたし、またそうあることを希望してお
つたのであります。ところがいざ現地へ着いてみますと、何ら響戒がされておらない。船はほうりつぱなしであります。夜の間にたといどろぼうあたりが入りまして、船員の衣服とかそういう
ものを持ち出して売り飛ばしてしま
つても、
放射線というのは全然見えないわけでありますからわからない、
物質が散らば
つてしまうおそれがある。それで初めは非常にふしぎに思いまして、おそらくこんなことをしてほう
つておくはずがない、従
つてはたしてこれが原爆船かどうか非常に疑
つたのでありますが、いくら人に聞いてみましても、第五福龍丸はどれですかとい
つて聞きますと、確かにあれだと言われるので、じやああれに違いないだろうと
思つて、一応計器を働かせながら船に近寄
つて行
つたわけであります。そうしますと大阪においてまぐろから出ておりましたのは、血として透過性の非常に少いベーター線が主体と
なつておるというぐあいに思われてお
つたのでありますけれども、現地に行きますと非常に透過性の強い
ガンマー線も感じられるのであります。船から約三十五メートルぐらい隔た
つたところにおいてもわれわれの計器で明瞭に
放射線の出ておることがわかります。船に近寄るとともにどの
程度放射線が増大しておるかということを調べるために、計器を働かしたまま一応要所、要所で記録をとりながら近づいて行
つたのでありますが、船から一メーター近くまで参りますと、われわれの持
つて行きましたところの鋭敏な計器はすでに振り切れてしまいまして、これ以上船の中へ入
つても、どこが、
放射線が強いか弱いかわからない。従
つてこれではいけない、この
程度放射線が強い場合においては素手で入るのは危険である。しかもこうい
つた携帯用の計器を持
つて来たところの
一つの理由といたしましては、船の中へ入りまして、どの
部分が、
放射線が最も強いか、またどの
部分が弱いかということを調べまして、最も
放射線の喰い
部分を持
つて帰
つて来ようという目的で行
つたのでありますが、このように強ければ、もうどこが強くて、どこが弱いかということが、どこもかしこも強いのでわからない、それで一旦引揚げまして、船から来ておるところの
放射線の
影響が比較的少い、遠く離れた地点に計器だけを置きまして、応急で薬屋へ走りましてガーゼのマスクと外科の手術用のゴムの手袋とを買いまして、再び船に引返して来たわけであります。そうして船の中でいろいろの資料を――たとえば船員の口から入
つておるおそれはないかというので、船員の残飯とかごまめ類、たくあんの残り、こうい
つたものを採取しますとか、そこに一匹生きたくもがぶら下
つておりましたので、これは貴重な資料だと
思つて採取しましたり、死んだあぶら虫、船員の手袋、キヤンバスとい
つたものを採取して帰
つて来たわけであります。それから灰が降
つたといいますけれども、われわれが行
つたときには一向灰らしい
ものが見当らない。それで一応船内のすみに残
つておりましたところのほこりを集めて持
つて帰
つたわけであります。その途中におきまして――私たちは歩いてまわ
つたわけでありますが、一町も歩かないうちに十数人の人たちが心配そうにかけ寄
つて来るのであります。そうしてわれわれが測定器を持
つておる姿を見まして、先生、実はこれだけまぐろを立
つてこれだけ残
つておりますが、
放射線が出ておるかどうか調べてください、と言
つておるかと思いますと、魚屋さんらしい人がリヤカーにさめのひれを満載して走
つて来たのであります。先生、このさめのひれは原爆船から来ておるのですが、
放射線が出ておるかどうか調べてください、と言う。ところがいざ私たちの持
つておりますところの非常に窓の薄い計器を近づけて行きますと、それから二センチないし三センチ隔たつところで私たちの計器が振り切れてしまいました。こういうように計器が振り切れてしま
つたのを見ると、魚屋さんらしい人はびつくりしてどこかへ消えてしま
つたのです、これは、ほんとうは
放射性物質の取扱い規定から言いますと、
あとをつけて
行つてどういうぐあいにするか、埋めるなり、何なりそういうふうなことを言
つてやらなければならないのですが、そういうひまもないぐらいであります。そうかと
思つていますと、実はうちの子供が原爆灰をいたずらにいら
つたのですけれども、手はよく洗
つたのですが、
放射能が出ておるかどうか調べてください、とい
つて母親らしい人が小学校の五、六年
程度の子供を連れて心配そうにや
つて来られた。これはいけない、これだけ
放射性物質が散在しておれば、これをほ
つておいてはたいへんなことになるというので、一応――焼津市に水爆対策本部という看板が上
つておりましたので、私自身そこへ参りましたけれども、係の方はどなたですかと聞いても一向わからない、みな出てしま
つておらない。それでこれはたいへんだと思いましたので、だれか責任の方はおられましようかと聞きますと、一応助役の人がおられるというので、その力にお全いしまして、ここはいやしくもわれわれの食料である魚が入
つて来る港である、こういうところにこれだけ
放射性の強い
物質が広が
つておるということは、これはたいへんなことになる。しかもその船を警戒なしにほ
つておくということは、これは実に恐るべきことだ。こうい
つた目に見えない
放射線を出して来るところの危険な
物質でありますので、こうい
つたものがどの
程度広が
つておるかということをつきとめまして、一刻も早く対策々講じて、できるだけ
放射性物質がこれ以上広がらないように食いとめるべきであ
つて、このためには一台や二台のガイガー計数器でも
つては足らないから、一応厚生省にでもお願いに
なつて、こうい
つた機械と測定人員を持
つておるところを応急に動員して対策を立ててもらうように述べられたらどうか、ということを言
つて一応引揚げて来たわけであります。
その間いろいろなことがありますけれども、一応大阪大学へ引返して来まして、一体どの
部分が最も
放射線が強いかということを調べますと、ほこりが一番強い。しかもそのほこりのうちにおきましても、直径約十分の一ミリメートルあるいは〇・一ミリメートル以下と思われるような非常に小さい灰白色の微粒子が相当強い
放射線を出しております。これは粒ごとによ
つても大分違いますけれども、一番強いのがこの粒子であります。これは直径十分の一ミリメートル以下といいましても、
ちよつと皆様にはぴんと来ないと思われますが、一応黒板の上でぱんぱんと二、三回たたいてもらいますと、非常に白い小さい粉が空気中に舞い上ります。この粉の大体一粒
程度と
思つてもらえば間違いはないと思います。従
つてこういう微粒子でありますから、風が吹くと容易に空気中に舞い上ります。従
つてわれわれも測定の場合に、資料採取に船に向いましたときにガーゼのマスクをかけて行
つたのでありますが、ほこりなどを採取したために、ほこりが立
つたせいかもしれませんけれども、われわれのマスクからも相当強い
放射能が、帰
つて来てから見出されたのであります。従
つてこうい
つたところに一週間もおられるという方におきましては、相半最空気を通して入
つているだろうということは容易に想像されることなのであります。
それで一応ここにも
写真を持
つて来ましたけれども、船から採取して来ましたところの手袋を
エツクス線の乾板の上に数時間載せておいただけで、点々と感光しております。これは
あとで皆様にお目にかけますが、こうい
つたぐあいに非常に小さい微粒子、これは手袋の横においても非常に小さい点点とした微粒子が出ておりますが、これは実際感光さした場合には、こんなに散らば
つておるということは感じなか
つたほど小さい微粒子であります。ここに大きく出ておりますけれども、こんな大きな粒子は見当らなか
つたのでありまして、粒子は非常に小さいですけれども、
自分で出しておるところの、自身の
放射線でも
つて感光しておる
ものでありますから、この
放射線の粒が大きいために強く感光して、見かけ以上大きく出ておるのであります。
その後いろいろ化学的及び
物理学的に出て来るところの
放射線を、磁場をかけますと、ベーター線と言
つて、
放射性物質から出て参りますところの
放射線はマイナスの
電気を帯びてりおます。この
電気を帯びております
ものは、一般に磁場をかけますと、ぐるりと回転をさせられる。ところがこのまわり方という
ものは、透過性の弱い
ものと強い
ものとでは異なるのでありまして、この差を
利用して、ベーター線のエネルギー、すなわち通りやすいベーター線であるかあるいは非常に通りにくいベーター線であるかということを調べる。これがベーター線スペクトルというのでありますが、このベーター線スペクトルにかけますと、こういうぐあいに、これは原子量の全体のまざ
つたものから出ておる
放射線に磁場をかけた
ものであります。そうしますと上の方の軸が強さでありますから、従
つてエネルギーはそちらからごらんになりますと座標軸の左側にずつと低い、透過性の強い
放射線でありますが、低い
放射線が圧倒的に強いということが明瞭に現われておるのであります。
これを一応荒く
化学分析にかけました資料につきまして精密に
分析しますと、ここにわれわれの方で検出した
元素が二十一ありますが、このうら十七
元素は東大においても検出せられております。でこうい
つた科学的な方法で検出のできない
ものは、これに磁場をかけましてベーター線スペクトルという
ものをとりまして、エネルギーを推定しますと厳密に出て来るのでありまして、これをやることによりまして、ここにありますセリウムの一四一、一四三、一四四、プラセオチウムの一四一、これだけがきれいにセリウム分面のベーター線スペクトルから検出を成功しておるわけであります。
こういうぐあいにいろいろの
元素かありますが、一般にこうい
つた元素の種類が違いますと、
元素の種類によ
つてはたといわれわれの体内に入りましても急速に抜けて行く
元素がありますし、また一旦体内に入りますと特定の組織に沈着を起して、なかなか抜け去らない
ものもあります。また同じ
元素によりましても、その
元素がどういう化合物の中に入
つておるかという、その化合物の形によりましても非常に抜けやすい場合と抜けにくい場合がある。そうい
つた関係かありますから、このうちの体内に入りましても非常に抜けやすい
元素の場合におきましては、これはかなり強い
放射線を出しておるところの
元素が入りましても、急速に抜けて行く場合には比較的傷害は軽い。ところが一旦沈着する
ものにありましては、沈着してなかなか抜けない
元素におきましては、なかなかやつ
かいな
ものであるわけであります。ところがそのうちにおきましても、こうい
つた放射線を出しておるところの
放射性物質という
ものは、
放射線を出しながらだんだんと強さが減少して来ます。これを、もとの強さの半分の強さになるまでの時間を
半減期とい
つて、
半減期で現わしておりますが、この
半減期というのでよく間違われることは、たとえばこの
半減期が一日たつともとの強さの半分になるわけでありますが、そう言うとしろうとの方はでは四日たつとなくなるだろうと考えられるわけでありますけれども、決してこれは四日た
つてもなくなるわけではなくて、二日たつともとの強さの半分になり、もう二日たつとその半分の強さの半分になる。でありますから、四日たちましても四分の一量はまだ残
つておるわけであります。ですから大体
半減期の七倍
程度を経過しないと一%以下に落ちないということに
なつておるわけであります。従
つてこの
半減期にいたしましても、こうい
つたぐあいに漸進的に減少しては来ますが、これが非常に量の
程度であるというような
ものになりますと、たとい沈着を起す
元素におきましても、急速に減少して、
放射線の強さがなく
なつて行きますから問題はないということになるわけであります。従
つてこうい
つた元素の種類という
ものがわからないと何とも言えない、こういうことが当然予想されるわけであります。
今回の場合さらにやつ
かいなことは、いまだ
元素が崩壊を続けておる最中でありまして、ここに示してありますように、一番初めクセノンの一四〇という質量を持つ
ものが出ておりますが、これの
半減期が十ないし十六で、セシウムの一四〇になる。それがベーター線を出してバリウムの一四〇になり、この
半減期が十二・八日で、これがベーター線、
ガンマー線を出しましてランタンの一四〇になり、これがさらにベーター線と
ガンマー線を出して、
半減期四十時間でも
つて安定したセリウムの一四〇という
元素になります。それでこれに似たような系列はまだ他にもあり、いまだ崩壊を続けている最中の
ものもあるわけであります。つまりこの中では比較的
半減期の長い
もののみが今なお崩壊を続けておりますので、ここに赤い丸じるしをつけたところの
元素は私たちの方で安全に検出されている
ものであります。こういうぐあいに
元素がいまだ崩壊を続けておる最中である。
一つの
元素から次の
元素さらにまたその次の
元素へとかわりながら
放射線を出しておる場合におきましては、たとえばきようバリウムを分離しておいたといたしましても、これが
放射線を出しながら数日のうちにはその中の
一定量がランタンという別な
元素になりまして、さらに
放射線を出して別な
元素に崩壊して行く。そうなりますと
元素の種類によ
つてからだの中に沈着するところの組織が違
つて参ります。きようは
一つの組織に沈着してお
つてそこで
放射線を出しながら傷害を与えますと、その次は別の種類の
元素に
なつて、これが新しい
元素の沈潜する別の組織に行きまして、そこでまた
放射線を出しながら傷害を与えて抜けて行くということになるわけであります。
それから、これは特に普通の
放射線をや
つておられるお医者さんで混同されやすい
ものでありますが、こうい
つた放射線を出す
物質のわれわれのからだに対する
影響を考えます場合には、次の二つの場合を明確に区別しておくことが必要なのであります。
それは
一つは
放射線を出す
物質がわれわれのからだの外にある場合と、それからこれが一旦内部に入
つた場合――このことにつきましては、
先ほどから中泉先生並びに美甘先生が述べておられますが、この場合におきましていかなる場合に危険であるかということを考えますと、こういう
放射線を出す
物質かからだの外にある限りに関しましては、鈍感な計単でもかかるところの非常に透過しやすい、遠くまでなかなか減衰せずに通
つて行くところの透過性の強い
エツクス線とかあるいは
ガンマー線とい
つたものが非常に強く出ておりますと、これは人間のからだから相当離れておりましても、からだまで
放射線が到達するわけでありますから、この量が多ければ非常に危険であるということになるわけであります。ところが一旦こうい
つた物質がからだの内部に入
つた場合を考えますと、透過性か非常にいいわけでありますから、からだの外までつき抜けてどんどん
放射線が出て行く。従
つてからだの外から、普通の非常に鈍感な計器をもちまして測定をしても、からだの内部から
放射線が出ておるということが一見して容易に検出することができる。これはからだの外からはか
つても
放射線がどんどん出て来おるということがわかるわけでありますから、一見非常に危険なようでありますが、実際はからだの外までつき抜けて来る
放射線という
ものは、からだの組織細胞に作用せずに出て来た割合でありますから、その割合か多ければ多いほど相対的にからだの組織細胞に対する障害は低いのであります。極端に申しまして一〇〇%透過して
放射線が出て来るという
ものであれは、組織に対しては何ら
影響を与えないということになるわけでありますが、実際上はそういうことはありませんから、こういう場合でも多少は障害がありますし、非常に量が多い場合には障害が起るのは当然であります。
それからもう
一つの場合は、透過性の非常に小さい、空気中の数センチあるいは数十センチメートルという距離におきましても
放射線が
吸収をせられまして遠くまで届かない、そうして測定する計器もよほど精密な測定計器を持
つて参りませんと――測定計器には必ず窓か壁がありまして、そこを
放射線が通り抜けて中へ入らないと測定計測器にかからないように
なつております。そうするとこの壁がよほど薄くないと、壁を通ることもできないのでその壁の中で弱
つてしま
つて吸収されてしまうとい
つたような
放射線かあります。これは測定が非常にやつ
かいでありますが、こうい
つた吸収されやすい
放射線を出す
物質におきましては、これがからだの外にあります限り、数センチあるいは数十センチ隔た
つておりますと、ほとんど弱
つてしま
つてからだまで到達しないわけでありますから、
放射線か幾ら出ておりましても、数センチ離れておる以上は絶対に安全である、大した
ものてはないということになるわけであります。ところがこういう
物質が一旦からだの内部に入
つて沈着を起しますと、非常に
吸収されやすい
放射線でありますから、空気中で数センチあるいは数十センチの距離でありますと、密度の割合から考えましてこれはおそらく空気に比べて組織の密度が千倍
程度でありますから、従
つて数ミリ以下数ミクロンとい
つたような非常に短い距離におきましても
放射線は完全に
吸収をされてしまいますから、からだの外までは絶対に出て来ない。従
つてからだの外からいかに精密な測出計器を持
つて来て測定を行おうと思いましても、これは
放射線が完全に
吸収されておるので、りますから外ではわからない。いかに精密に外からはか
つても
放射線が出ておるということがわからないわけでありますから、これは一見非常に安全なように見えるわけでありますが、実際はその
物質から出ておるところの
放射線の全エネルギーが組織細胞に
吸収をせられて破壊に使われておるわけであります。それからもう
一つ重要なことは透過性が強い――
放射線が非常に透過性が強いということは、
物質の中を通り抜けます場合に
物質と作用する制令が非常に低いということであります。作用する割合が低いということは、
物質と
放射線が衝突しますと必ず電離という
ものか生じまして、この電離の粒が非常に有力に働くわけでありしますけれども、
物質と作用する割合が少いということは、電離が
一つ起りましても、次にまた電離が生ずる十でには
一定の間隔が生ずる、電離がばらばらに生ずる、これを私たちの方では電離の密度が粗である、電離と電離の間隔が荒いと言
つておりますけれども、これを厳密な物理的な説明を抜きにいたしましてわかりやすく毒素にたとえて申しますならば、この粒が毒になるわけでありますから、この電離の粒がばらばらに広が
つておるということは、毒素の濃度が非常に低い場合に相当するのであります。これは対しまして非常に測定しにくい――精密な計器でないと測定にかからない、少し離れてお
つても空気中に
吸収されて計器まで放射統が届かないとい
つたような非常に
吸収されやすい
放射線の場合におきましては、一旦これが組織に沈着を越しますと、数ミリメートル以下とい
つたような非常に短い距離において
放射線が完全に
吸収されてしまいます。こういうぐあいに
吸収されやすいということは、
放射線が
物質中を突き抜ける場合に頻繁に
物質と作用する、そうして物置と作用するごとによ
つて電離ができるわけであります。この電離の間隔が非常に密に
なつて――これを電離密度が大であると言
つておりますが、非常に密に電離が局所的に生じます。この場合におきましても、非常に厳密な言い方を抜きにいたしまして毒素にたとえますと、非常に濃度の高いところの毒素を局所的に打込んだことになるのであります。従
つて、皆さんもエツキス線の
写真をと
つておもらいに
なつてよく存じだと思いますが、この場合におきましても非常に透過性の弱いところのエクツス線の
部分というのは、これはからだに有害でありますから、普通はアルミニウムだとか銅だと
かいつた薄い膜を通しまして、こうい
つた部分を除外して透耐性のいい
部分だけを使
つておるのであります。従
つてエツクス線を使いますとからだがつつ抜けに通して見えるということは、
放射線の大
部分がからだを抜けてしまう、抜けてしまうということはそれだけの
部分か作用しておらないわけでありますが、実際上は一部影ができますから多少の障害はあるわけでありますけれども、比較的透過性の強い
放射線の場合は、
先ほど申しましたように、毒素の濃度の低い場合にたとえられますから、比較的障害は少い。それからまた物理だけを専攻しておられます方は、宇宙線という
ものを天然においても相当受けておる。これを一生の間に受ける量は莫大なカウント数量になる、だから相当数受けても大丈夫じやないかと言われるのでありますけれども、宇宙線は透過性のいい
放射線の代表的な
ものでありまして、これは一〇〇%透過した場合においては全然傷害はないのであります。ところが事実上は少しは
吸収されますけれども、
先ほど申しましたように、透過性のいい
放射線の場合には、毒素の非常に薄い場合のように、電離密度が粗でありますから、私たちは宇宙線の中においても大過なく生きて行くことができておるのでありまして、今回のベーター線スペクトルにおいて現われておりますように、非常に透過性の少い、検出のやつ
かいな
放射線か主体をなしておる場合においては、よほど注意をしなければいけないということは一見して明らかなのであります。
次いでわれわれの生活に直接非常に密接なまぐろの場合に想到いたしますが、大阪においても一部まぐろを食
つた人がありますけれども、この食
つた人に対しましては、われわれとしては、それが危険であるか、あるいは安全であるかというようなことにつきましては、言う資格が全然ないのであります。というのは、すでに胃袋の中に入
つた部分につきましては、われわれが測定しなか
つた部分でありますからこれは何とも言えない。しかしながらおわれわれの方で測定をしておりますと、かなりカウント数の少い
部分におきましても、よく洗いまして
放射線の出ておる最が少いと思われる
ものにおきましても、これをよく乾燥しまして
エツクス線の乾板の上に重ねて何日間ほ
つておきますと、あつちに三点、こつちに数点とい
つたぐあいに、ばらばらになりまして非常に強い
放射線を出しておる粒子が、あつちに点々、こつちに点々と現われることがあるのであります。全体として
放射線の量が非常に少いのでありますから、これは一応うろこの下とかそうい
つたところに、
先ほど申しましたような直径十分の一ミリメートル以下と思われるような粒子が、おそらく食い込んでおるのではないかと考えられるのでありまして、実際にまぐろを切身に切
つてみますと、たいていの切身は、放射腺が非常に低い場合でありましても、中に一きれとか二きれとかかなり
放射線の強い
ものを出しておる
ものも含まれておるのであります。これはおそらく切るときにおきまして一部そうい
つた非常に
放射線の強い微粒子が切れ目についている確率がないとは言えないのではないかと思われるのであります。しかしながら実際に現地で測定しましても、相当
放射線の強さに相違がありまして、同じまぐろにおきましても、表側と裏側とでかなりの相違があります。従いまして食
つた方に対しましては、必ずしも食
つた部分が
放射線の非常に強い
部分ばかりであ
つたということは言えないと思います。あるいは全然
放射線の出ておらなか
つたものであるかもしれないし、あるいはもつと強い
ものであ
つたかもしれないということになるわけであります。従
つてこういう方々に対しましては、二百何名あると聞いておりますけれども、特に大阪府の衛生局の方が非常に熱心に対策を立てられまして、綿密に白血球数などを調べております。従
つてその間定期的に
一定期間測定して、異状が出て来ない場合には安心をしてもらうということに一応しておるのでありますけれども、実際これは私の方でや
つた実験でありますが、まぐろを切りまして、切れ目に面しておる側をかわかして
エツクス線の乾板の上に置きますと、非常に小さい微粒子が非常に強力な
放射線を出しておるということがわかるのであります。そうして厚生省の大阪府及び大阪市に対する通牒によりますと、乾燥して十センチ表面から離れた距離において測定して、百カウント以下ならば出してもよろしいということに
なつておるのでありますが、この規定に従
つて私たちの方でやりますと、今乾燥しておりますところの資料は、十センチメートル離れまして一分間に五十三カウントしかない
ものであります。そうして一応これに水をかけて洗
つて減少したと
思つておりましても、これが乾燥しますと元通り
放射線が返
つておる場合があるのであります。これは水をかけて洗う場合における水の層によ
つて、非常に
吸収されやすい
放射線が
吸収せられたために見かけ上減
つたためでありまして、今のように水をかけて測定しますと、一分間に二十カウントであります。ところがこれを一センチの距離ではかりますと、一分間に五百五十カウントという数字が出て来るのであります。それで大阪府市合同の御免対策
委員会におきまして、厚生省からは十センチメートル離れて百カウントであると出してもよいということに
なつて来ておりますが、先生どうしましようかという依頼があ
つたのでありますけれども、われわれ専門家の計算の結果から見まして、そういうことではいけない、大阪市に関する限りは、一応少しでも
放射線が認められる、怪しいという
ものは、絶対に市場に出さないということにしてもらいたいということを強硬に主張いたしまして、大阪市の中央市場を油して出ておる
ものに対しては、少しでも
放射線の怪しいと思われる
ものは出しておらないはずであります。
その
一つの理由として、体外に
放射線を出す
物質がある場合、たとえば
エツクス線におきましては、これが
エツクス線の来る方向に向
つて、一分間に百カウントなら百カウントという場合、これはからだに当る場合も同じ百カウントの
放射線を出します。ところがこれがからだの中に入
つた場合を考えますと、一測定方向に来る
放射線だけではなく、全立体角に対して
放射線が来る。また空気中において弱
つておる
部分もありますし、うろこなどでおおわれておる場合はさらに実際上よりうんと減
つておりますが、一応そういうことがないと仮定いたしまして、標準計数器の大きさを考慮に入れまして、その方向に来る
部分が一分間に百カウントとしますと、これを立体角全体に関して寄せ集めてみますと、一分間に四万カウント来ておることになるのであります。さらにこれを一箇所に集中して、実際に切れ目をつけて、ぴかつと光
つているような場合についてや
つたのでありますが、これが大体平均して一様に表面に分希している場合を考えますと、この測定計器の範囲内にかかる
放射線に対して、一分間十センチメートル離したところで百カウント
程度でありますと、この
部分に含まれておる総
放射能は、全立体角について申しますと、実に七十二万カウントということになるわけであります。ここにまぐろの資料につきまして、われわれの方では、その上にうろこがあ
つたり、洗
つて水の層ができたりした場合、どの
程度見かけ上の
放射線が増すかということを調べるために
吸収曲線をと
つたのであります。水は一立方センチメートル当り百ミリグラムでありますが、ここで線を引くと、大体十分の一に見かけ上の
放射線の強さは減少するのであります。従
つて百カウント認められておりましても、実際には四万カウントの十倍の四十万カウントであります。これに対して同じ百カウントといいましても、原子爆弾が爆発してから何日目の灰について百カウントかというようなことについて非常に問題になるのでありまして、爆発画後の灰について百カウントといいますのは、一週間か二週間たつと半分以下、三分の一
程度に減
つてしまうが、爆発後一箇月、二箇月経た
ものについて百カウントといいますと、だんだん早く減
つてしまうのが抜けて、いつまでた
つても減らないという
半減期の長い
元素だけ残
つておるから、このごろにおける百カウントは、いつまでた
つてもかわらない百カウントでありまして、これを計算すると、相当数の危険限度以上の
放射線物質がからだの中に入る危険が大いにあるということが主張できるわけであります。これは
アメリカにおいて出されておる資料でありますが、一番こわいのがストロンチウム九〇とイツトリウム九〇の混合物でありますが、いずれもこれは骨に沈着いたします。これが水一CCの中に許容されている最大の
ものが一千万分の八マイクロキユーリーであります。これが万一空気中にあります場合には、さらに許されておるところの限度が低くなります。これが食糧から入る場合でありますと、人間が食事をするのはせいぜい一日に三回、多くて五回くらいでありますが、呼吸は二十四時間眠
つていても続くのでありまして、一分間に大体平均十八回ないし二十回呼吸するとして、一回に呼吸するところの空気の量が百CCとしても、二十時間呼吸するところの空気の総量は実に二百万リツトルを越えるのであります。従
つて概算でありますが、空気中における量は、おそらくストロンチウムあたりでありますと、一分間に一カウントという
程度からしても、
アメリカで一九五三年、去年に出しております資料に従いますと、許容水準を越えておるということになるのであります。従
つてこうい
つたものを実際上測定するということは非常にやつ
かいなことでありまして、許容水準と比較するとしましても、これはどうにもならない
程度の非常にやつ
かいな
放射線量なのであります。しかしながら、これはやはり
アメリカで出されておりますが、
アメリカにおきましても原子爆弾の製造とか、あるいは原子エネルギーの発展の初期の段階におきましては、いろいろと予期せざる人間の身体に対する障害が出て来ましたので、その後新しい分野といたしまして、ヘルス・フイジクス、保健
物理学とでも訳しますか、そうい
つた新しい部面が
物理学と
生物学との境界領域として発展をして来ておるのであります。これはもちろん人体とか、そうい
つたものに対する危険性というようなことに対しては、
医学及び
生物学の知識が必要でありますし、同時に複雑な原子核から出るところの原子核
放射線の綿密な測定ということになりますと、これは高度の
物理学的な知識と
物理学的な
技術が必要なのでありまして、このために一応
物理学を専攻した
ものが
医学あるいは
生物学の畑へ入りまして訓練を受けた
もの。これをヘルス・フイジシスト、こうい
つた人たちが非常に
放射線によ
つて特に
放射線を出すところの
物質、
放射性元素とい
つたような
ものによ
つて、人類が受けるところの危害から免れる
働きをしておるわけであります、このヘルス・フイジクスという
アメリカの本におきましても、一応こうい
つた放射線を出すところの
物質による
影響というところに詳細に書いておるわけでありますけれども、たといこの許容線量という
ものがいかなる値であ
つても、進んでこの許容線量だけ受けて安全であると保証されるところの線量ではないのであ
つて、
放射線の人体に対する障害の少くとも一
部分という
ものはこれだけという限界の存在しないところの統計的過程である。従
つてただ
放射線の線量が増大するとともに、こうい
つた障害が現われるところの確率が一応増大をするだけであるというふうに書いてあるわけであります。従
つてたとい許容線量がありましても、できるだけこうい
つた線量までも受けないように、実行可能な限りにおいては受けないように、そして実行が可能でない場合においては、できる限りの範囲において、不必要な
放射線にさらされることのないようにということが書いてある注意書ができておるのでありまして、そうしてもちろん自然にも一部
放射線を出す物資があるじやないかといわれる方もありますが、自然にでもあるのだから、それよりもよけいに受ける必要はないということを非常に強調されておるわけであります。それから同時に、特にあちらこちらに大急ぎでいろいろな、まぐろとい
つたような
もの埋められておりますが、こうい
つた放射性物資で汚染された
ものを処理する場合におきましても、いろいろ厳重な注意が必要なのでありまして、たとえばへたに埋めますと、そのうち、長い間にせつかく埋めたと
思つておりましても、
放射線を出すところの
物質が漸次地下水とともに沈下しまして、そうして特に
半減期の長い、なかなか減らない
ものだけが飲料水に混合するおそれがある。それから埋め方が浅い場合においては、その上に
植物を栽培した場合においては、せつかく埋めたと
思つておりましても、
半減期の長い
元素を
植物が吸い上げまして、
植物の葉に行く。
植物の葉に行きますと、人間の身体の組織という
ものは、デイフアレンシヤル・アブソープシヨン、選択
吸収という現象がありまして、そのうちの、たとえば骨なら骨に沈着しやすい
元素だけが、たとい一枚の葉に含まれておる分量がわずかでありましても、
植物に危険でない
程度の量でありましても、これを一枚食べますと、その
元素だけが沈着します。人間は一枚食べて
あとは絶対食わないというわけではなくて、次の日は次の葉を食う。毎日食
つて行きますと、そのうちの危険なる、
半減期の長い
物質だけが沈着をして行くということになるので、よほど気をつけなければいけないということが書いてあるのでありまして、このためには、ここならば安全であるという
場所を指定して処理すべきである。そしてもう
一つはたとい人体に害のない
程度の
放射性物質の量でありましても、これは現に第二次大戦の
あとにおいて
アメリカで弱
つたらしいのですが、やたらにこうい
つた半減期が長い
ものを含んでおるおそれがあるところの
放射性物質を散乱しますと、これがスクラツプ・メタル、金属のかすあたりに一緒にまぎれ込みますと、これを鋳物にしていろいろな機械をつくるところの材料に使
つた場合に、
あとで精密な
放射線を測定しなければならないという機械をつく
つたときに、そこへ向
つてごく
微量でありますが、
放射線を出す
半減期の長い
物質が存在して来たときには、測定を非常にあいまいな
ものにしてしまうおそれがある。これは現に第三次大戦後において
アメリカにおいて困
つたことがあ
つたから、こういうことは用心しなければならないということを書きまして、一番最後のところに、今まで述べて来た注意という
ものは非常に悲観的に思われるけれども、これは一九五〇年に出された本でありますが、それより以前において行われたところの
ビキニ及びエニウエトクにおけるところの
実験結果に徴しても、以上のような注意を守らなければならないということを保証してあまりあるということが記してあるわけでありまして、特にこうい
つた物質による人体の
影響という
ものは、これは確率過程である以上、確率が小さいと言いましても、国民全体というような
ものを対象とする場合におきましては、だれかに現われるというその確率は非常に大きく
なつて来る
ものでありまして、これは
ちようど富くじの場合と同じでありまして、一人の人が引いてお
つてもなかなか当らないが、
日本国民全体としますとだれかに当るという確率が非常に高いのであります。