○坂田(道)
委員 この際
大臣に承
つておきたいことは、日本山岳会が、昨年に第一次のマナスルの登山に次いで、ネパールのヒマラヤの標高八千一百二十五メートルのマナスル登頂をめざしまして、十四名の隊員をも
つて本年もまた三月初旬から約四箇月、六月下旬まで第二次マナスル登頂計画を表明いたしまして、すでに先遣隊四名は二月初旬に神戸を出発いたしまして、残りの堀田隊長以下十名も近く飛行機で出発せんとしておることは御承知の
通りであると思います。昨年は主といたしまして酸素の不足と天候の不良のために、頂上を指呼の間にして標高七千七百五十メートル、すなわち頂上まで
あと三百七十五メートルを残しまして、引返して涙を呑んだわけでございます。思い起しますと、昨年ハント隊長以下の叡知と勇気を持つた英国登山隊員がエヴエレストの登頂に成功して、世界の人々を驚かし、ことに戴冠式のエリザベス女王を喜ばぜましたことは、私たちの脳裏にまだ新たなところでございます。しかしながら英国登山隊のエヴエレスト登頂成功のごときも、英国の王室地学協会と英国の山岳会が共同で企画をいたしまして、一九二一年から着手して以来三十二年、アタツクを繰返すこと九回、しかもその円多大な犠牲を払いまして、昨一九五三年成功いたしたのでございます。特に私たちがうらやましく思うのでございますが、エヴエレスト登頂に対して、英国におきましては、エリザベス女王を初め
国民の一人々々がこの成功を願い、毎日々々の登攀の報告を聞いては一喜一憂しておる、まことにうるわしい民主主義の姿であると私は思うのであります。女王も、そして労働者も、青年も子供も、
一つの国家的な壮挙に対して、同じ気持を持ち、またその成功を心から祈
つておる英国の民主主義の
教育のうるわしい実例だと私は思うのであります。たとえば愛国心というようなものも、こういうところから出発するのではなかろうかと私は考えるものでございます。そうして、こういうマナスル登頂のごとき世界的的な登山におきましては、単に冒険あるいは勇気だけで成功するのでない。まだ人類がなし得なかつた英国登山隊のエヴエレスト登頂成功の
一つの原因が、優秀なる装備を提供いたしました英国の科学産業界の貢献にあつたという点であります。いま
一つは、勇気とともに非常な理性、あるいは叡知、さらに自然に対する謙虚さ、そういつたものが要請されるという点でございます。昨年の登山隊がマナスルの頂上を三百七十五メートルに望みながら、登頂の成功にはやる気持を押え、心を押えて、引返す時間を守
つて、山の鉄則を守
つて引返すことを決意いたしました三田隊長以下のその理性、その意思力の強さにはおのずと頭が下る思いがするのでございます。ここにも自然に対する人間の限界と申しますか、あるいは人間の自然に対する謙虚さを示しておるという点において、私はきわめて
教育的な
意味が存するものであると思うわけでございます。零下何十度の極寒のもとに、気圧のきわめて低い、酸素の乏しい呼吸困難な状態において、重い荷を運びながら進んで行く。こういうような状態におきましては、頭が自然とぼけて来る、理性も失われて来る。こういう人間の極限と闘
つておるこの状態で、なお理性を失わずに、その人間の精神の極限の状態において、人間のつくりました科学の枠を集めた装備を持
つて、自然界のいまだ開拓せられざるところの世界を解明して行く。自然科学と人文科学の実地調査という科学的な、あるいは学問技術の見地からも、これほど偉大な
仕事はない、またこれほど
教育的な企てはないと私は思うのであります。しかも各国の登山隊が、同じ山を競いながらも功を誇らぬその
態度と謙虚さ、英国のハント隊長は、今日のわれわれの成功は決してわれわれのみによ
つて達成されたものではないのだ、先輩の積み上げた努力、これは各国の登山隊、特にスイス隊の経験と教訓がたまたまわれわれを成功に導いたものであるという、実にうるわしい言葉で言
つております。未知の世界が、各国の国境を越えた登山隊によ
つて、いわゆる人類全体によ
つて征服されんとして行くということは、この激烈な国際間のいろいろの問題があればあるだけに、私は国際親善の壮挙であろうと思うのでございます。今日ヒマラヤに対する登山は、世界各国のきわめて熱烈な注視の中にありますし、本年は数日前、米軍用飛行機によりましてわが国に立ち寄りました米国山岳会のマカル峰登山隊を初め、ニユージーランド、イギリス、フランス、イタリー、ソ連と、各国の競
つて計画するところでございますが、各国の計画は、いずれも各国
政府の絶大な支援によ
つて行われておる現状でございます。英国は王室によ
つて、米国は国務省によ
つて、フランスは国会により、ソビエトも国において、昨年のイギリス隊に対する英国
政府の援助は、空軍用機による装備の輸送など、きわめて絶大なものであつたと聞いておるのでございます。一九五一年のフランス隊のアンナプルナ登峰は、全面的な国家援助によるものでございました。その計画は、フランス国議会における議決により行われ、隊員には外交官をつけ、ネパール国入国についても万全の
措置をしたということが、その報告書に書いてあるわけでございます。先に申しましたように、本年のマカル峰登山のアメリカ隊は、隊員の輸送は米軍の軍用機によ
つてなされ、全米科学協会の支援に基いておるのであります。ひるがえ
つてわが国のマナスル登山に対しましては、従来二回の計画におきまして、学術的探査に対し、文部、農林両省の若干の支援がなされておると思うのでございますが、その援助はきわめて僅少であり、登山計画を積極的に支援するには至
つておらないのでございます。文部省におきまして、さきの国際オリンピツクアジア大会、あるいはデイヴイスカツプ・テニス等におきましては、従来より相当な国家的援助をいたしておりますことは御承知の
通りでございまして、先般の札幌における国際スケート競技に対しましても、相当額の国家の援助がなされたようでございます。私はこのような国際的なヒマラヤ登山計画につきましては、
国民の愛国心の涵養という点から申しましても、あるいはその
教育的見地から申しましても、国が相当の国家的援助をなすべきものであると信ずるのでありますが、
大臣のお考えはどうであるか、今後の見通しにつきましてお話を伺いたいと思う次第でございます。