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安藤(覺)
委員 微熱の出ておるところまことに恐縮でございますが、しばらく時間をお貸し願いたいと思います。
先ほど来米価問題を中心としての同僚
委員に対する大蔵大臣のお答えを承り、かつまた前十九国会における農林
予算に対する態度、昨年以来発生いたしておりますもろもろの災害
対策予算等に対する態度等を拝見いたしておりますと、まことに残念ながら、率直に申し上げれば、大蔵当局の態度は、財政的見地のみに多く偏向しておられるのではないかという憂いが生ずるわけであります。しこうして私は、ここで大臣に思いを二十数年前に返していただきたい、かように
考えます。あなたのまことに若くてはなやかなりし、あの眉目秀麗なる青年代議士時代、
ちようどきようは奇しくもあなたの右に腰かけておられる羽田
農林政務次官がこれを証明する。あなたが
昭和二、三年ごろに政友会内におけるところの農政会に立てこもられて、木暮武太夫、北勝太郎、高橋熊次郎、あるいはきようはここにお見えにな
つておられませんが、松岡俊三等の同志諸君とともに、
日本の農村政策と言わんよりは、
日本の食糧政策についてはなばなしい闘いを続けられ、当時の第一次若槻内閣、浜口内閣あるいは第二次若槻内閣等に向けられたあなたの闘志というものは、まことに鋭いものがあ
つたのであります。しかもあなたのひつさげて立たれたところの
日本の食糧問題に対しては、まことに高邁なる見識と見通しを持
つておられた。あの当時における世界の平和なる姿は、どこに戦争が起きようかというようなありさまでありました。それにもかかわらずあなた方は熱心に、一朝事ある場合における
日本の食糧問題について御心配をなさり、時の内閣を鞭撻しておられたのである。しこうして今日
日本の置かれておりまする姿というものは、私が申し上げるまでもなく、その絶対量において非常なる食糧
不足を来しておるわけであります。しかも世界の情勢はと申しますれば、一触即発というような言葉をも
つてしても決して過ぎてはいないと思われる
状況であります。このときにおいて、あなたのあの当時論じられましたる言葉をも
つてするならば、着るものはがまんするであろう、住むところはがまんするであろう、しかし食わせないでおいて何人ががまんするか。百姓はむしろ旗を立て、食糧の
不足している市民は暴動を起すだろう。現に大正八年にもこういうことがあつたではないかという御演説をなさ
つておられたのです。この演説を私はからずも先ほど来ここに回想いたしました。もちろんその当時から財政通としてあなたが優秀なる人材であられたこともよく存じております。その財政通としての立場からなおかつこの食糧問題を論ぜられるや、まことに切々たるものがあ
つたのであります。しこうして今日のこの国情を
考えますときに、財政的立場ということも大事でございますが、しかし
日本の置かれた食糧問題について、いま少しくあなたの若かりしころに思いをいたされ、この農林
予算あるいは食糧
対策予算、米価問題等に対処せられるということは、ぜひともあなたにしてなくてはならないことじやないか。この意味においてわれわれは——あなたから国情が違うとか、諸般の客観情勢が違うとかいうお言葉をいただくかもしれませんけれ
ども、しかしもし根本において違うとすれば、窮迫
状態、緊迫
状態が、あの当時よりはるかに数倍しているのだ。一朝事あつた場合において、あるいはアメリカの援助によ
つて外米を入れ外麦を入れる、だから心配がないというお言葉があるかもしれませんけれ
ども、無数の太平洋上に跳梁するところの潜水艦、あるいは原爆一発持
つて来たらそれきりになるじやありませんか。このときにまず起るものは食糧暴動である。これを
考えますときに、いま少しくこの
日本の食糧政策というものに財政当局の比重を多くかけられていただくわけには参らぬのか。単に
農民を救済するとか、
農民の生活水準を上げるとかいうような問題でなくして、あなたのお
考えをここにお持ちくださることが必要じやないか、かように
考える。二十数年前から御成長なさ
つておられるあなたのお姿を見ている私は、今日のお話を聞いて、たいへん悪い言葉になるかもしれませんけれ
ども、少し衰えられたのじやないか。同時にあの当時の広大な気宇というものがかすめられて、残念ながら属僚化されたのじやないかというような感じがいたすのであります。この辺の格段なる御覚悟と、ことにあなたの久しきにわたる抱負と、また後輩であるところの羽田政務次官が晴着を着てそこにすわ
つている。これを助ける意味においても、この際思い切
つて踏み切
つていただきたい。かようにお願いして、微熱もあられることだそうですから、もう多くを申し上げません。