○大後
説明員 本日私突然お話を伺いましたものでございますから、資料その他用意ができませんので、十分なお話はできませんが、大体私の考えをお話申し上げたいと思います。
先ほど今までの天候の経過は予
報部長の方からあり、また今後の予報については伊藤さんからありましたが、私の専門としては、それをさらに農作物と
関係づけてのそうい
つた問題について現在考えていることを簡単にお話しようと思います。
これは東北
地方から北の方の農作物の作柄とか、収穫高とい
つたものは、特に温度と非常に密接な
関係があるので、温度の低いということは、どうしても作柄がよくならない
一つの大きな原因になるのであります。それで私も、いろいろ前から農作物と気象の
関係を調べてみましたけれ
ども、それをよく調べて行きますと、時期によ
つて作柄に与える影響が非常に違
つているのであ
つて、こまかく見ると、農作物の成育の時期といいましても、たとえば分蘖期であるか、開花期であるかという作物自体の成育期によ
つて違うのでありますが、大きく見て月別くらいに調べてみても、非常にはつきり出ております。大体八月の気温が低いようなときには収穫高が少い。七月も六月も
関係するのですが、一番大きな
関係を持
つているのは何とい
つても八月です。それからその次が七月、六月というような順で、八月に非常に温度が低いときにはどうしても豊作は望めない。凶作にな
つてしまう。そういう
関係を調べて行きますと、八月の気温とは非常に密接な
関係が出て来るのです。これはどうしてかというと、もう少し意味合いを考えてみますと、大体六月から七月にかけての低温の農作物に対する影響というものは、成育を遅らせるという影響を与える。これに対して八月の温度が低いということは、大体八月に入りますと、稲ですと生殖、成長の時期、実をつけようという時期に入
つて来るので、このごろに温度が低いと、その実がつくということに直接影響して来るものですから、致命的な障害を受けるということになるわけです。六月、七月ごろの温度の低いのは、ただ成長が遅延するのですから、あとで温度が回復すると取返すことができるわけです。ところが八月の温度が低いときには、あとでたとい温度が上
つても、もう取返すことはできない。ですから八月の温度と非常に密接な
関係が出て来るというのはそういう
関係なんです。七月の温度が低くても八月の温度が高くなれば、ある
程度取返せるものですから、七月の温度の場合にはそれが絶対的の要素にな
つて来ない。それは実際実例を見てもおわかりになると思いまするが、昨年は七月が非常に温度が低か
つたのですが、一昨年それからその前の年も七月は温度が非常に低か
つた。七月の二十日ごろまでは非常に温度が低くて、私も
岩手県から山形県の方に見に行きましたけれ
ども、草たけが非常に短かくて、この調子では冷害を受けるのじやないかと危ぶまれたのですが、その後七月の下旬から八月に入
つて相当温度が高くなりました。そのために相当回復した。そういうふうな
関係で六月、七月ころの温度が低いということは、八月の温度の低いことから見ると回復の
余地がある、七月よりもさらに六月の方が回復の
余地があるということにな
つて来るのであります。
ところが言うまでもなく、ことしは六月が非常に温度が低か
つた。ことに六月の九日、十日が非常に低温で、それ以来ずつと温度が低いのです。そして日照も少いし雨も割合に多いという状態で、現在稲の状態が非常にぐあいがよくないわけですが、これから七月に入
つて天候がぐつと回復すれば、まあある
程度は回復できる。その回復できる
程度は七月が悪くて回復する
程度よりもまだよい。言いかえれば、去年は、去年の六月の状態というのは大体ならせば平年並
程度なのです。ところが七月に入
つてから温度が低くて非常に悪か
つたものですから、稲のできが悪くなりましたけれ
ども、この場合に六月が低くて七月がよく
なつたとすれば、去年と比較すれば去年よりはよいのではないかという感じもするのです。それで結局結論としては、要するに今後の天候が物を言うので、今後の天候が悪ければ、この六月が近年にない非常に悪い天候なんですから、今後の天候が悪ければ、また去年よりもひどい凶作になる可能性もあるし、今後の天候がよければまあある
程度回復できる、まあ品種といいますか、種類でいえば、向うの情報を聞きますと、わせなんかは大分影響を受けているので、回復の
余地が少くなる、悪い影響があとまで残るかもしれませんけれ
ども、あとのものは相当回復するのではないかという感じがするのです。
それで今後の天候が問題になるのですが、今後の天候に対しては、ただいま伊藤予報課長さんの方からの御
説明がありましたように、大体七月は、このつゆは、まだきようは今お天気がよいのですが、またくずれて、くずれた後に上る。そこで大体つゆがいつもの年よりまあ早目に上
つて来るだろう。というのは、実例を申し上げますと、去年は二十五、六日にな
つてつゆが明けたのです。非常におそか
つた。それからおととしも、その前の年も、大体七月の二十日前後につゆは明けて行きます。それが今年は十日ごろに明けるとすれば、去年おととしなどよりは今年の方がよい。しかしこの予想によりますと、七月の下旬から八月の上旬にかけて少し低温がありそうだというのです。この低温というのは、今まで過去三年間はこの時期には温度が非常に高か
つた。昨年などは八月の初めには記録破りの高温が見られたくらいで、非常に高か
つた。ところが今年はそういうことが予想されているのですが、結局もしもその時期に低温となると、これは稲の成育について、時期の
関係から見ると、去年よりもあまりよくない。よくないのですが、その起る低温の
程度、下る温度の
程度と、それから低温の続く日数、これが非常に物を言うので、それによ
つてその
被害は違
つて来ることになるので、これも一に予報がうまく行くか行かないか、今後の天候にかか
つて来るので、はつきりしないのですが、現在の状態で、たといつゆが割に早く明けたとしても
——明けると、今成育が非常に、大体十日以上も遅れていますけれ
ども、それがある
程度回復して来る。して来たところで、七月の末に相当な低温が来れば、これは非常にぐあいの悪いことになるし、その低温の
程度が大したことがなければ、まあどうにか行くのではないか、というふうに見られます。
それから八月は、予想によると、大体のところはよさそうなのですが、ただここで心配になるのは、八月下旬から九月にかけて温度が下るというふうに予想されているのですが、これは
ちようど稲の成熟の時期に入
つて来るので、このごろの温度が下るということは非常によくないことなので、昨年も七月は温度が低か
つたのですが、八月が温度が高くな
つてある
程度取返したのですが、ああいうような大きな冷害にな
つたのは、
一つにこの八月下旬の気温が非常にひどく低温に
なつた、これが大きな影響を持
つているのだと思います。それでこれもやはり八月下旬以後の低温の
程度がどの
程度に来るかということによ
つてきま
つて来るのではないかと思います。
それからもう
一つ、現在稲がどうも東北の方では非常に悪いようなんですが、今後もまた七月の下旬から八月の上旬にかけて低温が起るとか、そういうような冷害的な天候になるかもわからないのですが、どうもことしは去年あたりから見ますと、非常に変動が大きなものですから、あるいはそういうふうなかなりの低温が来るかもわからないと思われるのですが、そういうときに、それではどうすればいいかという、それを防ぐ
方法、対策の問題、それについて
ちよつと私の感じていることをお話ししようと思うのですが、大体その技術的な対策は
農林省の所管であ
つて、私の申し上げるところではないので、ただ気象の面から感じていることだけを申したいと思うのです。大体大きくわけますと二つの問題があると思います。その
一つは
——対策とい
つてもいろいろの対策がありますが、時期が
関係する問題が非常にある。これから温度が下ると、たとえば追肥のような問題、あるいはいもちなんかが出て来る。いもちに対する薬剤散布の問題、そうい
つた問題をいつやるかという時期が、今後の天候の推移と非常に
関係があるのではないかと思われる。その時期を天候の動きとにらみ合せて、うまいところをつかまえて作業をやるということが非常に大事じやないかと思う。そういう点で気象の方と
農業の方と非常に密接な連絡をと
つてやることが必要である。
それからもう
一つの防ぐ
方法としては、ほんとうに完全に防ぐ
方法はないわけですが、気象の方からの問題としては、いわゆる何とかして気象をかえようということなんですが、非常に大げさな気象のかえ方ということはできないので、結局栽培技術的なもので気象をかえるよりほかはないわけです。気象をかえるとい
つても、大体冷害の年には温度が低いのですから、温度を高くしてやればいいわけですが、温度を高くするというときに、空気の温度を高くする場合と水の温度を高くする場合と土の温度を高くする場合とがあるのですが、空気の温度を高くする
方法は、冷害に対しては
ちよつとうまい
方法はないわけです。そういう温度を上げる
方法として現在いろいろ考えられているのは、水の温度を上げるのと土の温度を上げる
方法以外にはないのではないかと思います。大体これは御存じだと思いますが、去年の冷害のときにも温水ため池のようなところで水温の高いところに植えつけたところは、私たちが
ちよつと調べてみたところで、そういうところの水温は三、四度高くな
つていますが、そういうところで一割から二割くらい増収にな
つているようなところがかなり見られました。ですから水温が非常に
関係するということは確かだと思うのですが、こういうふうないろいろな処置、たとえば迂回水路のようなものがいろいろ考えられていますが、
地方では水温を上げる大きな熱源となるものは、大体日射なんです。今までの冷害を見ますと、これははつきりはわけられないのですが、割に乾燥性の冷害と湿潤型の冷害とがある。割に乾燥している冷害というのは、オホーツク海の高気圧がいつもの年よりも非常によく発達して、向うからつめたい空気を流して、空気そのものの温度が低い。ですから、雨は降りますけれ
ども、ときどき晴れる日がある、こういうような冷害ですが、それに対して、非常に天気が悪くて雨がよく降るような冷害型の年があります。こういうような年には日射も非常に少くなりますから、日射を利用して温度を上げるという
方法がうまく使えなくな
つて来ます。こういうときにはいもち病のような病気が非常に発生する型なので、そうい
つたその年の冷害の型に応じて対策の選択をうまくするというような点も非常に大事なんじやないかということも考えております。非常に簡単ですが、以上であります。