○川俣
委員 私は
日本社会党を代表いたしまして、本
法案に対して討論を行いたいと存じます。
この
法案が十六
国会に
提出されまして以来、内需優先を原則といたしまして、格安な
肥料を農村に導入することによ
つて国内の食糧増産に何ほど寄与し得られるかという観点から、慎重
審議をいたして参つたのであります。本
法案に盛られておりますもの並びに
金子委員より
修正案が出ました点を勘案いたしてみまするに、これらの所期の目的を貫徹する上に決して十分な
法案とはみなしがたい点が多々ありますけれ
ども、今日の
情勢下における諸般の事情を集約いたしまして賛成せざるを得ないのでありますが、なぜ賛成し、どういう点について疑問を持
つておるかという点を、この際明らかにいたしたいと思うのであります。
御承知のように昭和十年に
肥料事業統制法が出ました際、国内の
硫安価格を安定せしめたいという念願から当時
法案が出たのであります。従いましてその
法案は国営に移行するであろうという大きな
期待のうちに出たのでありますけれ
ども、今日はたして国営が妥当であるかどうか、今急速に国営に移すことができるであろうかどうかということについて、まだ研究が十分に至
つておりませんところが多々ありますので、私
どもは一歩引下らざるを得ない点もございます。その点は今日の
硫安工業が単味
生産でなく、将来だんだんと多角的な
生産に向いて来るときに、また
合理化の可能性が十分存するときに、はたしてこのまま移
つていいかどうかという点について私
どもはいまだ疑問がありますので、これらの問題を解決しなければ、国営への移管が不十分であるという観点なのでございます。
次に私
どもが最も検討いたしました
硫安価格の問題でございます。第一に、昭和十年に
肥料事業統制法に基いて
価格統制をいたしたのでありますが、このたびまた
価格統制をいたそうとするのであります。その場合に、一体
価格統制というものが、厳密な意味においてはたして
硫安工業あるいは他の
肥料工業においてできる可能性があるかどうかという点について、幾多の疑問が存するのでございます。それは
一つに
価格統制がいたされました場合、
会社の収益をいかにして上げるかということになりますと、これは原価を低下させるか、または
生産量を増加させるという方法よりないのでありますが、この場合における原価の低下は単に単味
硫安の原価低下ということは望み得ない状態でありますので、将来多角経営に移
つて行く、あるいは
合理化して他の副業が本業にな
つて行くというような形における
合理化より方法がないのではないか、こう
考えて参りますると、このコストの基本となりまする理論原価または理想原価が、はたしてこの
硫安工業の場合に基礎として取入れられるかどうか。他の普通の工業の場合には、一応原価計算をする場合のものさしとして、理論原価あるいは理想原価というものを基準に置いて、この基準からコストを判断して参ることが一番はかりやすい原価計算のもとになるのでありますけれ
ども、このような複数的な計算をする場合の理論原価というものがなかなか出しにくいというところから、原価計算はなかなか判断しにくいものであると思うのであります。しかしながら
硫安の原価は、客観的にわからないものでは決してありません。
会社当局は常に発表を避けておりますし、また通産省もことさらこの発表を控えさしておるような状態がございます。これらのことは利潤が相当ある、これを隠蔽する手段からだと見ることもできるのであります。また同じ
会社でありましても、工場ごとに相当原価を異にいたしておりますことも明らかであります。昭和十二年ごろの
生産費を見ますと、A
会社は七十三円九十銭、Bは七十四円、Cは八十一円四十銭、Dは八十四円七十銭、Eは八十五円六十銭、この直接
生産費は、Aは六十四円六十五銭、Bは六十四円、Cは七十円四十銭、Dは七十五円八十五銭、Eは七十八円とな
つております。これらの
生産は単味
生産でありましたがために、比較的把握しやすかつた点もありますけれ
ども、そのように一応把握できたことも今日把握しがたいという点においては、今日私
どもは
価格を引下げて行く場合において大きな障害となるであろうと思うのであります。はたしてこの
法律が出た
あとにおきまして、これらのものが把握できるかどうかということについては賛同の存する点であります。ところが一面
合理化資金というものを出しまして、これによ
つて将来の
合理化をはか
つて行こうというのでありますから、
会社の最も痛手でありまする、最も
希望でありまする
合理化資金を貸し出す場合において、最も正確に原価計算を把握できるというのが、この裏づけとなるのであります。この
法律からしてなかなか原価計算をつかみ得ないのではなかろうかと思うのでありますけれ
ども、この裏づけとなります
合理化資金、これを最も熱望いたしております、弱点である融資の面から
会社の経営内容を把握して参ることが可能となると思うのであります。従いましてこの
合理化資金の融資に対しましては、特にこの原価計算を精密に把握する義務が、この
法律のうらはらであります他の
法律から出て来ると思いますので、これらの点を十分把握して参らなければならないと思うのであります。
もう
一つは、この
政府が出しました
法律について
金子委員から
修正案が出ておりますが、これは
硫安を
肥料にかえた点であります。従いましてこのうらはらの
法律も、当然
肥料の統制にな
つて参ると思うのでありますが、こういうふうに見て参りました場合に、他の
法律は単に
硫安の
合理化だけしか
考えておられないという点であります。
肥料全体という点にな
つて参りますと、これは
硫安ばかりでなくて、他の硫酸工業またはソーダ工業と密接なる
関係を持つのでありますが、ソーダ工業のあり方、または硫酸工業のあり方についていまだ触れておらないのでありまして、本来から言いますならば、これらの
法律を
修正すると同時に、
硫安工業のあり方と同様に、硫酸工業のあり方、またはソーダ工業のあり方、または弗素工業の将来の
見通し等も十分検討して参らなければならないと思うのであります。今日ほんとうは弗素工業の将来についてどのような見解を持
つておるかということを
お尋ねいたしたかつたのでありますけれ
ども、時間の制約上省略いたします。これらと関連のある化学工業等の
合理化をどのように進めて行くかということが、この原価計算に非常な影響をもたらすものであることは説明を要しない点であります。
法案の説明と同時にそれらの問題を検討して参らなければならぬのでありますけれ
ども、十六
国会から十分
審議をいたし議論をいたして、小
委員長が非常に苦心の結果、
金子委員をして
修正せしめたという経過にかんがみまして、私はやむを得ざる事情を十分のみ込んで本案に賛成はいたしておりますものの、これらの多くの欠陥があることを今日反省せざるを得ないであろうと思うのであります。こういう立場から、
日本の
硫安工業のおい立ちを
考えて参りますと、輸入
硫安をいかにして国内から駆逐するかということが目的であつたのであります。同時に
日本の
硫安工業は、大体百三十万トンが内需であ
つて、それ以上は輸出しなければならないということが予想せられておつたのでありますけれ
ども、国内の農民の購買力が増大いたしまして、今では窒素
肥料といたしまして百七十万トンから百八十万トンあるいは二百万トンに近い消費を持つようにな
つて参りましたのは、国内の食糧増産にいかに必要な
肥料であるかということを半面物語
つておるものと思うのであります。現在の
硫安工業は、国の手厚い庇護、すなわち戦後物資の不足なときにおける鉄材その他の特配、融資、それらと相関連して農民の購買力の増大という援護のもとに発展して来たのであります。将来の
見通しとしては、おそらくこの
硫安を減産して、他の尿素とか硫燐安という方面に力が入
つて行くものと想像されますが、
期待をいたしております
硫安がそういうことによ
つて減産して参ることになりますと、
硫安の
価格が高騰するようなことが起きて来ると思うのであります。大体
肥料事業法ができた場合におきましても、昭和十二年七月渡しの
硫安建値は、組合の
希望に反しまして三円四十銭と
決定したのであります。この
決定も、
政府は公定
価格発表後市中の相場が上まわるようなことがあ
つてはならないと懸念して慎重に
決定したものでありましたけれ
ども、その後実際を見ますと、三円四十銭が三円八十銭という高騰を来しております。当時まつたく公定
価格が失敗をいたした歴史を持
つております。これは
会社がいわゆる操短をいたすということになりますと、いかに公定
価格をきめたりあるいは最高
価格をきめましても、それを上まわるような値段が市場に出て参るのであります。また先般から議論にな
つております石灰窒素にいたしましても同様であります。当時
農林省も通産省も、石灰窒素の保有は十二万トンあるから、六万トンくらい朝鮮に輸出しても何ら不安がないと発表いたし、それに応じておつた。特に六万トンでも危険ではないかという
農林省の説に対して、通産省は、六万トンどころではない、八万トン、十万トンの輸出能力があるとさえ
主張されておつたのが、わずか十二万トンの保有に対して六万トン輸出しただけで、
価格に大きな変動を与えております。これらのものはほんとうに在庫があつたかどうか疑問であります。もう
一つは、こういう値下りを防止するために相当の減産をいたしております。化学工業は御承知のように、自由に減産をすることが可能であります。もちろん製造能力の限度から申しまして、ある
程度より減産もできないことも明らかでありますけれ
ども、また常に機械工業のように不動でなくても経営のできるものであります。また御承知のように大体春肥は値上りであ
つて、七、八月からできます秋肥にかけましては、国内の需要から見まして過剰を来す、現在の能力から見ましてそういう判断ができます。これらの場合における輸出というようなことも問題になり得る点はありますけれ
ども、常に春肥を目ざして、国際的な一番需要度の高い春肥を、国内春肥と国際上の春肥とを競争させるというような輸出については、厳に戒めて参らなければならないと思うのであります。特に
日本の気候状態から見まして、春肥の
生産であります十二月から一月、二月にかけましては、電力事情あるいは石炭の
生産の最も減ずるときであります。こういう条件の悪いときに、なお春肥の必要のある
生産をしなければならないというのが今日の
肥料工業に負わされた任務であることを十分知悉しなければならないと思うのであります。これらのときにおいてあえて輸出を迫るということは、国内
価格を上げる大きな原因にな
つておるのであります。また現在の
生産能力からいいまして、七、八月ごろにできます
硫安をどうして処分するかということも、もちろん考慮に入れなければ、
日本の
肥料工業は成り立たぬことも明瞭でありまして、こういう点から見まして、これらの保管団体が一体いつごろ
硫安を買い入れるかということが、市場にも非常に大きな影響を来すと思うのであります。もしも春肥を競争して保管
肥料を持つということになりますならば、さらに公定
価格を上まわるような結果をみずから招くところの失敗もあえて出現させるのではないかと思われる。これらの点を十分勘案して参らなければなりません。ただ硫酸工業あるいはソーダ工業との関連も、今度いわゆる
硫安の
需給安定でなくて、
肥料の
需給安定ということになると、さらに硫酸工業あるいはソーダ工業との
関係が密接にな
つて参ります。これらのものを十分勘案して参らなければ、所期の目的は達成できないと
考えますので、今まで
審議において現われましたこれらの
意見を十分尊重せられなければならないと思うのであります。
さらにまた
肥料審議会の問題につきまして、
足鹿委員から執拗果敢に
主張された点であります。もちろんこれらの
肥料審議会が
国会議員を排斥するというような
考え方は、他の
委員会の場合と違いまして、特に大きなメーカーであります。また
日本の化学工業の将来に大きな影響を持
つておりますこれらの
肥料審議会については、やはり
国会の
意見をも直接反映させるの道を十分講じ、消費団体である農民の組織ばかりでなく、あるいは
生産団体である
硫安協会のためばかりでなく、
日本の総合的な観点から
国会議員を関与せしめ、方向を
決定することが最も妥当なものと私
どもは
考えるのであります。これらの点について
金子委員が苦心をせられて
修正されましたので、その点は了といたしますけれ
ども、十分勘案せられなければならないと思います。
なお
肥料というふうに
法案は直しましたけれ
ども、これらに附帯する
条項の整理が十分行われておりません。けれ
ども前のよりも一歩前進しておることを私
どもは認めまして、これらの観点から
考えまして一歩前進である。将来さらにこれに対する肉づけ及び装飾が必要にな
つて来るということをつけ加えまして、不十分ではありますけれ
ども、今日まで小
委員長並びに
金子委員が苦心されましたその点を十分了といたしまして、私
どもこの案に賛成し並びに
修正案に賛成する
ゆえんでございます。(拍手)