○新澤説明員 私の方からは、動物の栄養としての尿素の問題につきましてお答えを申し上げます。御
承知のように、日本では飼料が相当不足をいたております。特に蛋白質の不足が大きいのであります。従いまして何かその蛋白の代用になるものをということで、私ども長年研究いたしてお
つたのでございますが、いわゆる無機的な化合物でありますところの尿素は、反芻動物に使いますと、飼料として時に本豆かすの蛋白質の代用として効果があるということがわかりましたので、損在尿素を飼料として相当量使用いたしております。これは諸外国の例を申し上げますとおかしいのですが、簡単に申し上げますと、ドイツでは第一次世界大戦に蛋白が不足いたしましたときに、尿素を飼料といたしまして代用いたしております。それからアメリカでは第二次世界大戦から相当蛋白飼料が——特に綿の不作のときがございまして、綿実油かすが不足いたしましたときに、この尿素を綿実油かすの蛋白質の代用としまして使用をいたしております。日本でも今御説明いたしましたような実情にございますので、尿素が飼料化されまして、年々その使用量が増加しておるのであります。ところが過去におきまして、二、三、たとえば福岡県みたようなところで、尿素を
家畜に与えました際に、
家畜が中毒して死に至
つたという例があるのであります。それで私どもも特にこの毒性につきまして注意をいたしまして、どうしてこの毒性があるのであるかということを、応用試験研究補助金を——東京大学教授佐々木林次郎博士が会長でございますが、尿素飼料研究会に現在まで約三年間、尿素の毒性及び飼料としての効率促進に関する研究という応用試験研究補助金、これはまことに少い金額ではございますが交付いたしまして、現在毒性の究明について試験研究中でございます。現在までわかりましたところを申し上げますと、この毒性の
原因にはいろいろございまして、外国におきます文献を見ますと、外国でもこういう例が出ておるとみえまして、アンモニアによる害である。と申しますのは、中毒を起しましたもの、あるいは中毒を起して死に至りましたもの、この症状と申しますものが相当強い症状があるのです。あたかも青酸カリを与えたような症状がくるのでございます。非常に急激に参りまして、命が助かれば大体予後はよろしいということに
なつておりますが、往々にして死に至る場合が多いのであります。またどういう場合に中毒を起したかということを調べてみますと、一ぺんに尿素をたくさん与え過ぎた場合、私どもの方は現在、与えますところの濃厚飼料の三%以上与えてはいけないというような指導をいたしております。これは五%くらい与えても全然中毒をしない場合もございますけれども、四%でも中毒をしたこともありますので、三%以上与えてはいけないという注意を与えることと、それからどぶ飼いをしました場合に、よくこの症状が起るのであります。どぶ飼いをすると申しますと、日本の乳牛の飼育の慣行でございますけれども、えさを与えますときに水をまぜまして、半流動状にして与えるわけであります。そういうふうにして与えましたときに、往々にして中毒が起るのであります。
それでまず
考えられますのは、尿素がなぜ反芻動物だけに限
つて飼料に使われるかということを簡単に御説明しなければ御納得行かないと思いますので簡単に御説明申し上げますが、尿素は牛とか羊とかやぎとかいうような胃を四つ持
つた動物にしか現在の学問では利用できないといわれております。そのわけは、尿素が含んでおりますところの窒素は、いわゆるアミン体の窒素、これは尿素体の窒素とも言われておりますけれども、それでございまして、まだアミノ酸体のものではないのであります。従いまして有機的な化合物と申しましても、動物がそのまま利用てきるところの蛋白質ではないのであります。それで鶏そのほかのものに与えましても全然利用できない、と申しますわけは、反鶴動物のような四つの胃を持ちました
家畜がこの尿素を食べますと、第一胃にまずえさが入ります。そうしますとその第一胃には非常にたくさん滴虫類とか——滴虫類というのは厚生動物でありますが、滴虫類とかその他のバクテリアなど、微生物類がたくさ生殖いたしております。粗飼料の消化を促進するわけなんでありますが、そういうようなバクテリア類が尿素を食べましてどんどん増殖するわけであります。これが反芻いたしますから、口に持
つて帰りまして、さらに第二胃、第三胃を
通ります間にはそのバクテリアがおびただしい数に増殖する。これが尿素を与えた場合は尿素の窒素がバクテリアの細蛋白にかわる。そのバクテリアが第四胃に行きますと初めて消化液が出ましてバクテリアが死にまして、バクテリア自体のからだが動物の蛋白源としてアミノ酸にまで消化液で分解されて吸収されるという形になるわけであります。そういうような径路を経ましたものにつきましては、ほとんど中毒はないのであります。ところが第一胃、第二胃、第三胃を素
通りいたしまして、第四胃に直接落ち込んだ場合に毒性が出て来るということが実験上証明されております。と申しますのは、どぶ飼いにいたしますと半流動体でありますから、反舞されないで第四胃に行く率が非常に多いのであります。第四胃に直接落ちた場合は、いわゆる尿素が直接
家畜の消化液を受けて分解した場合は、毒性が出て来るというようなことがほぼ明らかにな
つたのであります。その場合どういう変化が起るかと申しますと、話は前にもどりますが、まず外国の学者の例では、アンモニアのためであるという説が強いのであります。と申しますのは、第四胃に直接尿素が入りますと、尿素が分解されましてアンモニアを発生いたします。いわゆる微生物のからだに尿素体の窒素がかわる前に、かわる時間がなくてアンモニアが発生するということになるわけであります。そのアンモニアが消化液を吸収いたしまして血行の中に入りますと、血球に被膜状をつく
つて全身をまわる。そうすると肺に行きまして酸素を吸収するところの力が血球になくなる。従いましてそれが中枢の脳の細胞の方へ参りました場合に、何と申しますか、酸素の補給ができないので機能が停止いたしまして、急激な症状が起
つて死んで行くという説を唱えておるようでございます。ところが日本で私どもの方の応用試験研究補助金を交付いたしました結果、ほぼ明らかになりましたことは、どうも腸の中の、いわゆる先に申し上げましたアンモニアの分解するところの過程が酸度によりまして相当かわ
つて来る。これはP・Hと申しておりますが、酸度によりまして相当かわ
つて来る。P・Hが低くて酸度の強い場合と弱い場合とでは、生成されるところの中間生成物が違
つたものができて来るわけです。それである条件のもとにおいてつくりましたアンモニウム・カーバメイトと申します、いわゆるアンモニアにまで分解する中間のものとして生成される
一つの化合物に、アンモニウム・カーバメイトというものがございます。これは
ちようど青酸と同じような組成を持
つておりまして、そしてこれを
家畜に与えますと、
家畜は青酸カリを飲んだと同じような症状でも
つて死んで行くということがわか
つた。それで本年度はアンモニウム・カーバメイトをほかの方法でも
つてつくり出しまして、そしてこれを直接反舞動物であるところの羊に与えまして、そしてどういう症状が起るか、はたしてアンモニウム・カーバメイトをや
つたときと同じ症状であるかということの試験をさらにやることに
なつております。先のビユーレツトの問題でございます。この問題につき告ては、いろいろと私どもも研究いにしたいと思いますが、現在のところぐは、大体尿素の毒性と申しますものは、
家畜に対するところの
原因はまだわか
つておりません。ただ日本の研究り結果では、アンモニウム・カーバメイトではないかというようなことがぼ明らかにな
つたという程度でございます。私どもはそれが明らかになりましたら、万一の場合に備えて、いわゆる解毒剤的なものも
考えたい。それからアンモニユーム・カーバメイトが絶対できないような方法でも
つて家畜に給与する方法を講じたいというふうに
考えまして、試験を進めております。具体的に申し上げますと、ただいまのところでは、全国の農家の
方々から私どもの方へ照会が参るのでございますが、それに対するところの私どもの回答は、濃厚肥料給与量の三%以上を与えてはいけない。具体的に申しますと、牛の体重によりまして異なると思いますけれども、成牛にありましては大体五十匁から八十匁が一日一頭当りの量であります。それから小牛にありましては、大体三十匁から四十五匁、それくらいを限度として与えていただければ無害である。なおどぶ飼いはできるだけというよりも、絶対避けてもらいたい。水を流して半流動状にして与えるという飼い方は避けていただきたい。そういうような御注意を申し上げており、尿素の普及をはか
つておるような次第でございます。