○
木暮参考人 ただいま
委員長からのお諮りによ
つて皆さん方の御同意を得たことについて、概略私から
税制調査会の
答申の内容につきまして御
報告をいたしたいと思います。
御
承知の
通り、
税制調査会が八月の初めに
閣議決定で設けられましてから、十一月まで二十数回にわたりまして
会議を重ねまして、今回
答申の提出をいたしたわけでございますが、ただいま問題にな
つておりますることを
説明申し上げる前に、少し筋道として、どういう大筋にな
つておるかということだけ簡単に申し上げます。
今回の
税制調査会で
税制を改正いたしまする場合におきまして、いかにも
所得税、
法人税並びに地方の
商工業者に対する
事業税というものが苛酷であるので、これらを
減税いたしたい、こういうふうに考えまして、ただいま申し上げました
所得税と
法人税と
事業税等の
減税によりまして千二百三十七億円の
減税をいたすことを
目途といたしたのでございます。そこでその
財減といたしましては、
経済審議庁の推測によりまする
国民所得の
増加を勘案いたしますると、
昭和二十九年度には少くも千三百億円の
自然増収がある。災害の復旧、あるいは防衛の問題であるとか、賠償の問題であるとか、なかなか
国家多事のときでございますので、
自然増収というものを全部
減税に振り向けることは、かたきを
政府にしいるものであるようにも
調査会としては考えました。しかしながら、
自然増収千三百億円というものは、要するに
インフレ経済の
はね返りでございますので、これをもしほんとうの
意味の
自然増収千三百億ありとして、これを歳入の
財源として
財政の
膨脹をいたすようなことに
昭和二十九年度の
財政の
規模を決定いたしますると、
昭和二十九年度を
出発点として、今後
自然増収を
財源とする
財政の
膨脹がとどまるところを知らざるような
雪だるま式になりまして、
日本の
インフレ経済に拍車をかけまして、恐るべき
状態に立ち至るということをわれわれはは考えましたので、少くもこの
自然増収の、ある
部分を
減税に振り向けることが、いわゆる
インフレ経済の
はね返りであり、
インフレ経済の所産である
自然増収の使途として適当であると考えた次第でございます。そこでこれをある
部分減税の
財源にいたしまするが、しかしまだ千二百三十七億には不足をいたしまするので、
間接税におきまして五百二十七億円の
増徴をいたそうということに相
なつたわけであります。
間接税を
増徴することについては、
調査会におきましても、これが
大衆に及ぼします影響を勘案して幾多の非難がございました。
間接税は
大衆課税になることをも
つて、なるべくはこれを避けなくちやならぬという
議論も少からず強か
つたのでございまするが、
減税いたそうとするところの
所得税そのものが、今日は
大衆課税の性質を帯びておるのでありまして、御
承知のように
終戦後におきましては、二千万人に近い
所得税の
納税者が一時はございました。
国会の適当なる措置によ
つてたびたび
減税が行われました結果として、ようやく
昭和二十八年度におきましては千七十五万人くらいの
納税者の数に減りましたけれども、
所得税が
戦争前においては百万人に足らざる九十五万人くらいの
納税者を持
つておりましたことを考えてみますると、
所得税が千万人を越す
納税者を持
つてお
つて、非常な
大衆課税にな
つておる。従いましてこれがために
徴税吏との間の摩擦も非常に多いし、しかも
戦前に比べますると、非常に
税務官吏の数なども多くな
つて参りまして、滞納も五百億に達せんとするような
状態にな
つておることを考えてみますると、直接税を中心といたしまする
シヤウプ税制のもとにおきましての直接税が
大衆課税の様相をすでに帯びておりまする今日は、これを
減税するために、一方
大衆課税であるとは申しながら、
間接税の方は
消費者において選択の自由を持
つているだけに、幾分か
所得税よりもいいのではないかという
意味で、
減税の
財源として
間接税を取上げることに相
なつたわけでございます。従来の
間接税、たとえば
物品税の中で、ただいまの
消費経済がきわめて旺盛であることを、何とかして
インフレ経済を阻止するために抑制するとか、あるいは奢侈に対しましても、規制、抑制の
方針をとるというような
意味で、高級の
物品に対しましては
増徴をこの際いたしたい、あるいは
揮発油税ももう少し上げてみたい、
砂糖消費税も上げてみたい、しばらく問題にな
つておりませんでした
印紙税、
登録税等についても、この際適正なる改正を
行つて増徴をやりたい、
骨牌税をもう少し上げてみたい等々の、現行の
間接税を
増徴するということをや
つてみましたけれども、それだけをも
つていたしましては、
増徴の
税収額が思うように参りませんので、勢い
間接税において新しい税を設けなければならぬということに相
なつたわけであります。そこで問題になりましたのは、新しい税は一体何にするかということになりますると、まず
売上税、いわゆる
取引高税というものが問題にな
つたのでございまするが、これは相当の金額が
税収として見込まれることは、
皆さん御
承知の
通りでございまするが、つい最近これを廃止をいたしましたばかりの税でありまするのと、それからこれをかける場合に、
小売段階または
製造段階等にかけますその技術上に、なかなか困難な場合がございまして、大いに
検討を要する問題であるものですから、この
売上税による相当の
新税税収の
増徴をはからんとする考えがずいぶん多か
つたのでございまするが、これは捨てたのでございます。
そこでただいま問題にな
つておりまする
繊維品に対する新しい税の問題が起
つて参
つたのでございます。
織物消費税と申しまして
繊維品の
製品に、
製造者の
段階においてかけまする問題につきましては、これもなかなか非常にむずかしい問題がたくさんあり、
委員の中でも非常に反対が強か
つたのでございます。綿
織物とか
スフ織物とか、
人絹の
織物あるいは
合成繊維の
織物等を除きまして、ただその他の
織物工場だけを調べてみましても、
工場の数が四万を越しておるのでございます。これはみなとは申しませんけれども、大体零細な
中小企業が多いのでございまして、今日
中小企業の
育成強化というような
国家の大本をなす国策の点から考えてみましても、こういう
業者に直接
織物消費税をかけることは、非常にむずかしいじやないかというところの
議論が非常に強か
つたのでございます。ことに西陣のようなところでは、ある
日本人でない外国の人が
織物をや
つておる。そうでありまして、もし
織物消費税をかけるようなことになりますと、これらの人が脱税をして、正直な
日本の
業者というものは
消費者に転嫁することができずに、みずから
負担することによ
つて経営が成り立たないような零細なものがたくさん出るのではないかというようないろいろの事実の
調査がございましたので、
織物消費税というものもなかなかむずかしい。そこで次は
製品である
織物の中の六〇%、七〇%を占めておりまするところの糸に
課税してはどうかという
意見が一方では出たのであります。これも非常にむずかしい問題でございまして、これにつきましては、一部では綿から
スフあるいはその他一切の糸にかけてもよいではないかという
意見もございましたけれども、
国民大衆の
負担ということを考えてみますると、むしろそれよりは毛とか
絹糸とか、あるいは麻糸のみにかけるべきだという
意見もあ
つて、これを問題として
検討を加えたのでございますが、しかしながらいわゆる
間接税、
消費税というものは、
最終の
段階で
消費者にそれが転嫁されることに
意味があるのでありまして、
原糸から
消費者の手に渡るまでの間というものは、
織物消費税に比べますと、いかにも遠過ぎる。そこでその間において弱いものがこの税を吸収
負担するというような結果にな
つて、
負担の不適正を生ずるおそれがすこぶる多い。これは非常にむずかしい問題でありことに
生糸のごときものに相なりますと、
生糸に対する
課税というものは、ただちに繭の値段を低下させるということに相なりまして、戦後農林省の努力によりましてせつかく
養蚕業が立ち直りかけてお
つたものに対して、
一大鉄槌を加えるようなことに相なるのであるからして、こういうことはなかなかむずかしい。また
輸出する
生糸に対しましては、当然もどし税をやるわけでありますけれども、これが技術的にすこぶるむずかしいという
議論も盛んであ
つたのでございます。ただいま申し上げましたように、
製品たる
織物に
課税すべきものであるか、あるいは
織物の六、七割を占めておるところの
原糸に
課税すべきものであるかということにつきましては、
検討の結果
両方とも非常にその長短がたくさんありまして、
原糸の場合にはただ
織物の四万
工場に比較いたしますと大体
スフ、
人絹、
合成繊維等を除きますると、四千くらいの
工場で座繰
業者のごとき小さな
工場もその中に少からずありますけれども、また大きな
規模の
工場もあるから、
徴税の上から見れば便利ではないかという
意見がありましたけれども、これは
徴税の上からのみ判断を下すということはなかなかむずかしい問題である。そういうような
意味で
原糸に
課税すべきか、
原糸を含んだ
織物に
課税すべきかという問題につきましては、
両方とも非常な
議論が闘わされましたけれども、結論に到達するに至らないのでございます。そこでこういう問題は
税制調査会としては非常に重大な問題で、事一国の
産業、
国民の生活に影響する問題でございますので、
二つの
意見が強く主張されたなかなかむずかしい問題であるということを付して
答申をいたしまして、
政府当局の慎重なる
検討と、民意を代表する
国会の慎重なる御審議にまつべきことが適当であろう。こう考えまして
税制調査会においては、あえて無理をして一つにまとめるということをいたしませんで、この
二つの
議論があるのだということの
答申をいたしたような次第でございます。この段御
報告御
説明申し上げまして、何か御質問がありましたらお答えをいたさせていただきます。